説明

磁気記録媒体およびその製造方法

【目的】耐久性があり電特低下のない蒸着型磁気記録媒体を提供する。
【構成】非磁性基体上に磁性層、保護層及び潤滑層が順次設層された磁気記録媒体において、該磁性層が蒸着法にて形成され、その最上層がCo層からなる多層薄膜であり、該保護層が酸素プラズマ前処理及び、さらに水素プラズマ前処理された後に形成された屈折率1.9以上、接触角80度未満の膜厚5〜10nmの水素含有プラズマ重合膜であり、潤滑層が、パーフロロ系化合物からなるものであることを特徴とする磁気記録媒体。
【効果】耐久性及び電磁変換特性のすぐれた磁気記録媒体である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、磁気記録媒体、及びその製造方法に関し、特に蒸着型ビデオテープの保護膜に特徴を有する磁気記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】蒸着型ビデオテープは、塗布型とは異なり、磁性材料の充填密度が高いために高密度記録に適し、電磁変換特性上非常に有利であるために、現在では実用化されており、それに関し種々の提案がされている。例えば、被処理材の表面をアルゴンプラズマスパッタリング又はアルゴンイオンポンパードメントした後、フルオロカーボン系のプラズマ重合膜を表面に形成し、ついでフルオロカーボン系モノマー又はフッ素による撥水性プラズマ処理を行ない、さらにフルオロカーボン系又はフッ素による撥水性表面安定化処理を行なうことを特徴とする固体表面の撥水性処理方法(特開昭60−13065号公報)、基体上に、水素を含む無機ガスで表面をプラズマ処理した連続薄膜型の磁性層を有し、この磁性層上にCとFとを含有するプラズマ重合膜を有することを特徴とする磁気記録媒体(特開昭62−42317号公報)、非磁性基体の表面に強磁性金属膜を形成した磁気記録媒体において、前記強磁性金属膜の表面に水素ガスによるプラズマ処理を施し、その上にダイヤモンド状保護膜を形成したことを特徴とする、磁気記録媒体(特開平6−139560号公報)、高分子フィルム上に部分酸化された強磁性金属薄膜を配した処理体を回転支持体に沿って移動しながら、表面酸化層をドライエッチング直後、ダイアモンド状硬質炭素薄膜を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法(特開昭63−34728号公報)、及び金属薄膜磁気記録媒体において、表面に、窒素と酸素を含むガスによるプラズマ処理により窒素と酸素を含有する層が設けられたことを特徴とする磁気記録媒体(特開昭59−68820号公報)などが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、蒸着型磁気記録媒体は磁性金属を直接基体の上に成膜するため耐久性等に難点がある等の問題がある。即ち前記の特開昭60−13065号公報のようなフッ素系プラズマ重合膜では、いかに表面フッ素量を増加しても機械的強度が弱いために耐久性に問題が残り、前記特開昭62−42317号公報や特開平6−139560号公報のものでは水素プラズマ処理後にフッ素系プラズマ重合膜や炭素膜の形成をするものであるが、水素プラズマ処理のみでは金属と、次の工程でのプラズマ重合膜との接着性は向上するが本来処理能力が低いので再現性に乏しく、サンプル作成ごとに結果が異なる不具合が発生する。又、前記特開昭63−34728号公報ではドライエッチング後にダイアモンド状硬質炭素薄膜を形成するものであり、該公報に記載されているように酸化層を全てエッチングしてしまうと耐候性に欠点を生じる。そして、更に前記特開昭59−68820号公報のような酸素と窒素ガスによるプラズマ処理のみでは、酸化窒化によりNiを含有する磁性層では多少効果は見られるが、Co単独層においては全く効果がない、等の問題がある。したがって、耐久性があり、電特劣化の少ない蒸着型の磁性層を有する磁気記録媒体が要望されるところである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者は前記の課題を解決すべく、鋭意研究の結果、磁性層の最上層をコバルト層で形成し、磁性層の形成後、酸素プラズマ前処理、及び水素プラズマ前処理を行ない、特定の屈折率、接触角及び厚みなどを有する水素含有プラズマ重合膜からなる保護層及びパーフロロ系の化合物からなる潤滑層を設けることにより上記の課題が解決することを見出し、本発明に到達したものである。即ち、本発明は(1)非磁性基体上に磁性層、保護層及び潤滑層が順次設層された磁気記録媒体において、該磁性層が蒸着法にて形成され、その最上層がCo層からなる多層薄膜であり、該保護層が酸素プラズマ前処理及び、さらに水素プラズマ前処理された後に形成された屈折率1.9以上、接触角80度未満の膜厚5〜10nmの水素含有プラズマ重合膜であり、潤滑層がパーフロロ系化合物からなるものであることを特徴とする磁気記録媒体、(2)磁性層がコバルトの2層以上の蒸着膜からなるものである前記(1)記載の磁気記録媒体、(3)非磁性基体上に磁性層、保護層及び潤滑層が順次設層された磁気記録媒体の製造方法において、該基体上に磁性金属を蒸着法にて蒸着して多層薄膜からなる磁性層を形成し、その際最上層にCo層を形成し、該磁性層形成後に、酸素プラズマ前処理、さらに水素プラズマ前処理を施こし、炭化水素と水素を原料としてプラズマ重合して、屈折率1.9以上、接触角80度未満、膜厚5〜10nmの水素含有プラズマ重合膜からなる保護層を形成し、ついでパーフロロ系化合物で処理して潤滑層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法、および(4)保護層の形成において、前処理としては、10kHzから200kHzの周波数にて酸素、ついで水素にてプラズマ処理し、炭化水素と水素を原料とし、周波数50kHz〜450kHzにてプラズマ重合処理し、屈折率1.9以上、接触角80度未満、及び膜厚5〜10nmの水素含有プラズマ重合膜からなる保護層を設けることを特徴とする前記(3)記載の磁気記録媒体の製造方法に関する。
【0005】本発明は、磁性層上に水素含有プラズマ重合膜を形成する際に、予め酸素プラズマ前処理及びさらに水素プラズマ前処理を施こし、遅滞なく炭化水素と水素を原料としプラズマ重合膜を形成することを特徴とするものである。酸素プラズマ前処理により、磁性層表面の油分や油脂分などの有機物系コンタミネーションを除去し、クリーンになった面をさらに水素プラズマ前処理により活性化させるのである。そしてその後水素含有プラズマ重合膜を形成するのである。酸素プラズマ前処理のみでは、クリーンにはなるが当然磁性層の表面酸化層の厚みを増加させることになるので電特の劣化が明白となる。また、水素プラズマ前処理のみでは磁性層をクリーン化する効果が低いので、水素含有プラズマ重合膜を形成しても接着性が低く、耐久性が得られない。したがって、この前処理として酸素プラズマ前処理及び水素プラズマ前処理を施こすことが重要である。本発明の磁性層は純金属からなる多層薄膜であり、その最上層がCo層からなるものである。この本発明の製造方法により最上層が純Co(Co:99.5at%以上)を用いた磁性層を実用に供することが可能となった。高密度記録に関しては、保磁力と磁束密度ともに大きいことが必要となる。そのためには最表面層にはCoを用いることが重要となる。またCoを用いて多層構造にすることにより、1層当たりの膜厚が薄くできるのでC/N的にも有利に働く。このことにより、最上層がCoで多層構造であるのが望ましいのである。つまり本来は、磁性層上に非磁性の水素含有プラズマ重合膜を形成するのでそれがスペーシングロスとなり、かならず電特が低下した。しかし本発明により純Coを最上層に使用できること、水素プラズマ前処理により酸化層が還元されて磁化層が厚くなったことにより水素含有プラズマ重合膜を形成してもスペーシングロスにつながらないのである。換言すれば、通常は磁性層の酸化層厚みに水素含有プラズマ重合膜厚分がスペーシングロス成分として作用していたが、本発明により磁性層の酸化層の厚みが軽減され、スペーシングロスが減ることにより、耐久性が向上し、電特低下が少なく限りなく水素含有プラズマ重合膜なしの状態に近付けることが可能となったのである。
【0006】次に本発明を更に具体的に説明する。
基体非磁性基体は、蒸着工程に耐えられるものであれば何でもよく、特に限定はない。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル類、ポリオレフィン類、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホンセルローストリアセテート、ポリカーボネート等の公知のフィルムを使用することができ、好ましくは、PET、PEN、芳香族ポリアミドであり、さらに好ましくは、PETないしPENの2種ないし3種による多層共押出しによる複合化フィルムまたは芳香族ポリアミドであり、これらのフィルムを使用すると電磁変換特性、耐久性、摩擦特性、フィルム強度、生産性のバランスが得やすい。また、これらの非磁性基体には、フィラーとしてAl、Ca、Si、Ti等の酸化物や炭酸塩等の無機化合物、アクリル樹脂系微粉末等の有機化合物等を添加することが好ましく、これらの量と大きさにより表面性を自由にコントロールすることが可能となり、電磁変換特性、耐久性、摩擦特性等をコントロールすることが可能である。さらに、これら非磁性基体には、あらかじめコロナ放電処理、プラズマ放電および/または重合処理、易接着剤塗布処理、除塵処理、熱および/または調湿による緩和処理等を行なってもよい。これら非磁性基体の中心線表面粗さが0.03μm以下、好ましくは0.02μm以下、さらに好ましくは0.01μm以下のものを使用する必要があり、これらの非磁性基体は単に中心線平均表面粗さが小さいだけではなく、0.5μm以上の粗大突起がないことが好ましい。厚みは、テープとしての録画時間に合わせて適宜選択される。通常は、5〜40μmより選ばれる。
磁性層磁性材料は、Co金属が望ましい。最上層はCoである必要がある。Niは磁束密度が小さいので最上層にNiを含むことは好ましくない。通常は、非磁性基体上にCoを2層以上蒸着して磁性層を形成する。磁性層の蒸着は、蒸着用チャンバー内を10-4Paにまで排気した後、電子銃にて溶解を行い、金属全体が溶解した時点で蒸着を始める。磁気特性を制御するために、酸素、オゾン、亜酸化窒素から選ばれる酸化性ガスを蒸着雰囲気に導入する。
前処理磁性層を成膜した原反をチャンバー内にセットして、10-3Paまで真空排気した後、酸素ガスを導入して所定の圧力に到達したなら電極に電磁波を投入してプラズマ放電を発生させ、原反テープを走行させながら前処理する。通常、処理圧力は10〜10-1Pa、電磁波周波数は10kHz〜200kHzの範囲にて選択される。処理圧力は10Paより高いと処理効果が得られず、また10-1Paより低い圧力では放電が安定しにくい。周波数は10kHzより低いと磁性層に面荒れを発生し、200kHzより高いと効果が安定ではなくなるのと、効果そのものが低い。処理時間は0.05〜1秒範囲内が好ましく、その範囲内で装置に合わせて実験的に選択される。処理時間が0.05秒より短いと効果が無く、1秒より長いと磁性層にダメージを与えてしまうので好ましくない。放電パワー密度は、0.05〜2(W/cm2)の範囲で選択されるのが好ましい。放電パワー密度は0.05(W/cm2)より低いと効果がなく、また、2(W/cm2)より大きいと磁性層にクラックが発生してしまうので、好ましくない。その後水素ガスを導入して放電させる前処理条件についても前記酸素ガス前処理条件と同様である。ただし現象面での相違点は電磁波周波数が10kHzより低いと磁性層と水素含有プラズマ重合膜との接着強度が低下することである。
保護層保護膜は、原反(磁性金属を蒸着した基体)を搬送させるチャンバー内を10-3Pa以上排気したのち、炭化水素ガスと水素を所定量導入する。通常は反応圧力として、100〜1Paになるように所定量選択する。所定量は、チャンバーの大きさに依存する。炭化水素ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクテン、ノナン、エチレン、プロピレン、アセチレン、メチルアセチレン、トルエンより選択され、1種または2種以上を混合して用いる。水素ガス流量は、炭化水素流量に対し、水素/炭化水素0.01〜2程度とする。特に0.05〜1.2が良い。炭化水素流量に対し、水素流量が多すぎると成膜速度が低下し、少なすぎると膜は緻密にならない。屈折率として1.9以上でさらに2.0から2.25程度になるように水素流量を制御することが望ましい。接触角として、80度以上では膜が緻密にならない。
【0007】放電電源は、50kHz〜450kHzの周波数が望ましく、特に50kHzから200kHzが望ましい。50kHzより周波数が小さいと長時間の運転が困難になる。また、450kHzより大きいと膜が緻密にならない。また、膜厚は5〜10nmが望ましい。5nmより薄いと膜が十分成膜されず、電特が全く測定できない。また、10nmより厚いとスペーシングロスが大きいので、出力が低下し高密度記録には不向きである。
潤滑層潤滑層はフッ素系潤滑剤が良く、パーフロロポリエーテル及びその変性品、パーフロロカルボン酸系及びその変性品またはそのエステルが効果的である。パーフロロポリエーテルは例えばクライトックス143AZ、143AA、143AY、143AB、143AX等(以上、E.I.デュポン社製)、AM2001、フォンブリンZ DIAC、フォンブリンZ DOL、フォンブリンZ DEAL、フォンブリンZ DOL TX等(以上、モンテカチーニ社製)、パーフロロカルボン酸はC817COOH、C1021COOH等である。これらのフッ素系潤滑剤をグラビア法、リバース法、ダイノズル法等で塗布して潤滑層を形成する。また磁性層と反対側にバックコート層を設けても良い。
【0008】
【作用】Coの蒸着膜からなる複数層の磁性層を有する磁気記録媒体において、磁性層の最上層をCo金属膜で構成し、水素含有プラズマ重合膜を形成する前処理として、酸素プラズマ処理、ついで水素プラズマ処理をすることにより、耐候性及び電磁変換特性のすぐれた磁気記録媒体が得られる。
【0009】
【実施例】以下に実施例にて本発明を具体的に説明する。なお、磁気記録媒体の特性は以下の方法で測定した。
(1)屈折率エリプソメーター(溝尻光学工業社製)を用いて測定した。
(2)接触角接触角計(協和界面科学社製)を用い液滴として水(イオン交換水)を用いて測定した。
(3)摩擦20℃、60%RHの環境でピン摩擦試験機を用いて、抱き角度90゜荷重10gの条件で1pass目の摩擦係数(μ)を測定した。
(4)スチル特性20℃、60%RHの環境で、ソニー社製S−1500デッキを用いて、7MHzの信号を記録してそのスチルモードの出力が−5dBになるまでの時間(分)を測定した。
(5)再現性耐久摩擦(1)と同じ測定方法で300passまで摩擦係数を測定し、1passと300passの摩擦係数の変化率が10%未満を合格とした。10ヶ所測定しその合格率を%表示した。
(6)耐候性50℃、95%RH環境で、1週間保存して、飽和磁束密度の低下率を測定した。
(7)RF−outソニー製S−1500デッキを用いて、比較例1のものの7MHzの出力を0dBとした時の各サンプル値を測定した。
【0010】実施例1〜18、比較例1〜156μmPETフィルム上にCo又はNiに酸素を導入しながら複数層成膜して磁性層を形成した。該磁性層を下記表1及び2に示すように周波数(kHz)及び圧力(Pa)で最初酸素で、ついで水素でプラズマ前処理した後、炭化水素(メタン)と水素(1/1)を導入して圧力5Paの条件下で水素含有プラズマ重合膜を成膜し、8mm幅にスリットしてサンプルとした。磁性層は各層100nmとした。水素含有プラズマ重合膜は、同一条件にてSiウエハ上に成膜してエリプソメーター(溝尻光学工業社製)を用いて屈折率と膜厚を測定した。表中の潤滑剤は以下の通りである。
クライトックス143AZ(E.I.デュポン社製、パーフロロポリエーテル) AM2001(モンテカチーニ社製、パーフロロポリエーテル)
フォンブリンZ DIAC(モンテカチーニ社製、パーフロロポリエーテル)
フォンブリンZ DOL(モンテカチーニ社製、パーフロロポリエーテル)
結果を表1及び表2に示す。
【0011】
【表1】


【0012】
【表2】


【0013】
【発明の効果】Co金属薄膜を最上層とした複数層の磁性層からなり、水素含有プラズマ重合膜の保護層を形成するに当り、酸素プラズマ前処理ついで水素プラズマ前処理を施した本発明の磁気記録媒体は耐久性が優れ且つ電特低下のないすぐれた磁気記録媒体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】非磁性基体上に磁性層、保護層及び潤滑層が順次設層された磁気記録媒体において、該磁性層が蒸着法にて形成され、その最上層がCo層からなる多層薄膜であり、該保護層が酸素プラズマ前処理及び、さらに水素プラズマ前処理された後に形成された屈折率1.9以上、接触角80度未満の膜厚5〜10nmの水素含有プラズマ重合膜であり、潤滑層がパーフロロ系化合物からなるものであることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】磁性層がコバルト(Co)の2層以上の蒸着膜からなるものである請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】非磁性基体上に磁性層、保護層及び潤滑層が順次設層された磁気記録媒体の製造方法において、該基体上に磁性金属を蒸着法にて蒸着して、多層薄膜からなる磁性層を形成し、その際最上層にCo層を形成し、該磁性層形成後に、酸素プラズマ前処理、さらに水素プラズマ前処理を施こし、炭化水素と水素を原料としてプラズマ重合して、屈折率1.9以上、接触角80度未満、膜厚5〜10nmの水素含有プラズマ重合膜からなる保護層を形成し、ついでパーフロロ系化合物で処理して潤滑層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】保護層の形成において、前処理としては、10kHzから200kHzの周波数にて酸素、ついで水素にてプラズマ処理し、炭化水素と水素を原料とし、周波数50kHz〜450kHzにてプラズマ重合処理し、屈折率1.9以上、接触角80度未満、及び膜厚5〜10nmの水素含有プラズマ重合膜からなる保護層を形成することを特徴とする請求項3記載の磁気記録媒体の製造方法。