説明

磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体の製造装置

【課題】高性能で高信頼性を有し、且つ、安価な高容量磁気記録媒体が得られる製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体の製造装置50の第1真空室56aには、加熱ロール66の上流に巻き出しロール60から繰り出された支持体12を非接触で除電できる除電手段68が設けられている。除電手段68は、支持体12の両面を除電できるように2つ設けられている。除電手段68としては、イオンを放出する機構を有するイオンガン又は真空紫外線ランプを用いることが好ましい。そして、支持体12に磁性層を形成する前に、除電手段68を用いて支持体12を非接触で除電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可とう性高分子支持体の少なくとも一方の面に少なくとも磁性層を真空成膜法により形成する磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの普及により、パーソナル・コンピュータを用いて大容量の動画情報や音声情報の処理を行う等、コンピュータの利用形態が変化してきている。これに伴い、ハードディスク等の磁気記録媒体に要求される記憶容量も増大している。
【0003】
ハードディスク装置においては、磁気ディスクの回転に伴い、磁気ヘッドが磁気ディスクの表面からわずかに浮上し、非接触で磁気記録を行っている。このため、磁気ヘッドと磁気ディスクとの接触によって磁気ディスクが破損するのを防止している。高密度化に伴って磁気ヘッドの浮上高さは次第に低減されており、鏡面研磨された超平滑なガラス基板上に磁性層等を形成した磁気ディスクを用いることにより、現在では10nm〜20nmの浮上高さが実現されている。このようなヘッドの低浮上量化に加え、ヘッド構造の改良、磁性層の改良等の技術革新によってハードディスクドライブの面記録密度と記録容量はここ数年で飛躍的に増大してきた。
【0004】
取り扱うことができるデジタルデータ量が増大することによって、動画データの様な大容量のデータを可換型媒体に記録して、移動させるというニーズが生まれてきた。しかしながら、ハードディスクは基板が硬質であって、しかも上述のようにヘッドとディスクの間隔が極わずかであるため、フレキシブルディスクや書き換え型光ディスクの様に可換媒体として使用しようとすると、動作中の衝撃や塵埃の巻き込みによって故障を発生する懸念が高く、使用条件が制限される。
【0005】
一方、フレキシブルディスクや磁気テープは基板がフレキシブルな高分子フィルムであり、接触記録可能な媒体であるため可換性に優れており、安価に生産できる。しかし、現在市販されているフレキシブルディスクと磁気テープは、磁性体を高分子バインダーや研磨剤とともに高分子フィルム上に塗布して形成した塗布型磁気記録媒体や、あるいはコバルト系合金を真空中で蒸着によって高分子フィルム上に成膜した蒸着型磁気記録媒体が用いられており、スパッタ法で磁性層を形成しているハードディスクと比較すると、磁性層の高密度記録特性が悪く、ハードディスクの1/10以下の記録密度しか達成できていない。
【0006】
そこで磁性層をハードディスクと同様のスパッタ法で形成する強磁性金属薄膜型のフレキシブルディスクも提案されている。支持体がフレキシブルな高分子フィルムのため、ロール状の支持体を搬送させながらスパッタ法による磁性層成膜が可能となる。すなわち、長尺の支持体を用いて磁気記録媒体を安価に生産することが可能となる。このような製造方法及び製造装置としては、特許文献1〜7に提案されている。
【0007】
しかし、長尺の支持体を用いて磁気記録媒体を作製する際に、真空室内に真空成膜によるフレークが堆積し、搬送される原反が帯電している場合、これら堆積しているフレークを吸着し、磁気記録媒体上に欠陥として付着する問題がある。また、原反の帯電はフレーク付着だけでなく、巻き取りシワ等の問題も引き起こす。これらのため、特許文献8及び9に記載されているように、原反を導電性ロールに接触させる手法が提案されている。しかし、巻き出しロールから巻き出され、複数のパスロールを通過する際には必ず剥離帯電が生じ、導電性ロールの使用のみでは、充分な帯電除去が達成されない。また、帯電量が多い状態でアース電位の導電性ロールに接触すると、微小放電が起こり磁気記録媒体上に放電痕が見られる場合がある。前記のことから、平滑で絶縁性高分子支持体の真空中搬送における除電に関しては未だ充分な手法が確立されていない。
【0008】
DVD−R/RWに代表される追記型及び書き換え型光ディスクは磁気ディスクのようにヘッドとディスクが近接していないため、可換性に優れており、広く普及している。しかしながら光ディスクは、光ピックアップの厚みとコストの問題から、高容量化に有利な磁気ディスクのように両面を記録面としたディスク構造を用いることが困難であるといった問題がある。さらに、磁気ディスクと比較すると面記録密度が低く、データ転送速度も低いため、書き換え型の大容量記録媒体としの使用を考えると、未だ十分な性能とはいえない。
【0009】
【特許文献1】特開昭59−173266号公報
【特許文献2】特開平5−274659号公報
【特許文献3】特開平7−235035号公報
【特許文献4】特開平10−3663号公報
【特許文献5】特開平10−11734号公報
【特許文献6】特開2002−367149号公報
【特許文献7】特開2003−99918号公報
【特許文献8】特開平5−342571号公報
【特許文献9】特開平7−73462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の通り、大容量の書き換え可能な可換型記録媒体は、その要求が高いものの、性能、信頼性、コストを満足するものが存在しない。
【0011】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、欠陥の発生が大幅に低減された磁気記録媒体を製造することができる磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、磁性層を形成する前に可とう性高分子支持体に対して非接触で除電を行うことを特徴としている。これにより、真空槽内で可とう性高分子支持体への帯電を低減させることができ、真空槽内に存在する微粒子等の汚れ(コンタミ)の可とう性高分子支持体への付着を抑制することができる。
【0013】
また、本発明により得られる磁気記録媒体の好ましい形態によれば、磁性層として強磁性金属薄膜磁性層を備えているので、ハードディスクのような高記録密度記録が可能となり、高容量化が可能となる。さらに、微小欠陥の発生が低減されるので、高密度記録媒体に適している。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0015】
1. 可とう性高分子支持体の少なくとも一方の面に少なくとも磁性層を真空成膜法により形成する工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、前記磁性層形成工程の前に、前記可とう性高分子支持体の除電を非接触で行う除電工程を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0016】
2. 前記真空成膜法がスパッタ法であることを特徴とする上記1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0017】
3. 可とう性高分子支持体の少なくとも一方の面に少なくとも磁性層を有する磁気記録媒体の製造装置であって、真空槽と、前記真空槽内に設置されるとともに可とう性高分子支持体に対し非接触で除電可能な除電手段とを備えたことを特徴とする磁気記録媒体の製造装置。
【0018】
4. 前記除電手段が、イオンを放出する機構を有するイオンガンであることを特徴とする上記3に記載の磁気記録媒体の製造装置。
【0019】
5. 前記除電手段が、真空紫外線ランプであることを特徴とする上記3に記載の磁気記録媒体の製造装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、磁性層を形成する前に可とう性高分子支持体に対して非接触で除電を行うことにより、可とう性高分子支持体への微粒子等の付着を抑制することができ、磁気記録媒体への欠陥の発生を大幅に低減させることができるので、高性能で高信頼性を有し、且つ、安価な高容量磁気記録媒体を提供することが可能となる。このため、接触記録に耐性のある、平坦な磁気テープやフレキシブルディスクを安価に提供することが可能となる。また、本発明に係る製造方法によれば、磁気記録媒体への欠陥の発生が大幅に低減されるので、生産適性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体の製造装置をウェブ搬送スパッタ装置に適用した実施の形態例について詳細に説明する。
【0022】
本実施の形態に係る製造方法及び製造装置50(図2参照)を用いて製造される磁気記録媒体10(図1参照)は、フレキシブルディスクでも磁気テープでもよい。
【0023】
フレキシブルディスクは、中心部にセンターホールが形成された構造であり、プラスチック等で形成されたカートリッジ内に格納されている。なお、カートリッジには、通常、金属性のシャッタで覆われたアクセス窓を備えており、このアクセス窓を介して磁気ヘッドが導入されることにより、フレキシブルディスクへの信号記録や再生が行われる。
【0024】
図1は、カートリッジを取り除いたフレキシブルディスクの好適な層構成を示す断面図である。フレキシブルディスクは、フィルム状の可とう性高分子支持体12(以下、単に支持体12と記す)の両面に、表面突起を有する下塗り層14、第1下地層16、第2下地層18、磁性層20、保護層22及び潤滑層24が順次形成されている。垂直媒体として用いる場合、支持体12と磁性層20との間に軟磁性層(図示せず)が形成されていることが望ましい。フレキシブルディスクの中心部には、通常、フレキシブルディスクドライブに装着するための係合手段(図示せず)が装着されている。
【0025】
磁気テープの場合は、長尺形状にスリットされた磁気テープが開放リール、あるいはリールカートリッジに組み込まれた構造であり、プラスチック等で形成されたカートリッジ内に格納されている。リールカートリッジから巻き出された磁気テープが磁気ヘッド部分を通過する際に、信号記録や再生が行われる。
【0026】
磁気テープは可とう性高分子フィルムからなるテープ状支持体の片面に、少なくとも磁性層を有するものであるが、上記と同様に、下塗り層14、第1下地層16、第2下地層18、磁性層20、保護層22、潤滑層24がこの順に形成されている。他面側は、磁気テープがリールカートリッジから巻き出され搬送される際に通過するガイドロールに接触する側であり、ガイドロールとの潤滑搬送の目的で、カーボン等のバックコート層が形成されていることが好ましい。
【0027】
次に、本実施の形態に係る製造方法に好適に用いられる製造装置50の一例を、図1に示す。
【0028】
図1に示す製造装置50は、真空槽52と、該真空槽52に対して回転自在に支持され、長尺の支持体12を表面に沿わせて回転しながら搬送する円筒状の成膜ロール54と、該成膜ロール54の周囲に配置された例えば5つの真空室(第1真空室56a、第2真空室56b、第3真空室56c、第4真空室56d、第5真空室56e)とを有する。これら第1真空室56a〜第5真空室56eは、第1真空室56a〜第5真空室56e間にそれぞれ設置された仕切板58にて区画されている。
【0029】
第1真空室56aには長尺の支持体12が巻回された巻き出しロール60が設置され、第5真空室56eには巻き取りロール62が設置されている。巻き出しロール60に巻回された支持体12には、図1に示すように、予め下塗り層14が塗布されている。
【0030】
巻き出しロール60からロール状に巻かれたフィルム状の支持体12を巻き出して、成膜ロール54に沿わせた状態で第1真空室56aにおいて第1下地層16を形成し、成膜ロール54を回転させながら、第2真空室56bで第2下地層18、第3真空室56cで磁性層20、第5真空室56eで保護層22を順次形成して、巻き取りロール62で巻き取り、長尺の磁性層20等が形成されたフィルム(磁気記録材料64)を形成する。
【0031】
第1真空室56aには、巻き出しロール60から繰り出された支持体12を加熱するための加熱ロール66が設けられている。支持体12を加熱することにより、支持体12に含まれるガスを放出させることができる。加熱ロール66の代わりに巻き出しロール60と成膜ロール54との間にヒータを設けてもよい。また、加熱ロール66を設けずに成膜ロール54で代用しても構わない。
【0032】
また、第1真空室56aには、加熱ロール66の上流に巻き出しロール60から繰り出された支持体12を非接触で除電できる除電手段68が設けられている。除電手段68は、支持体12の両面を除電できるように2つ設けられている。
【0033】
除電手段68としては、図3A及び図3Bに示すように、イオン70を放出する機構を有するイオンガン72、又は、図4A及び図4Bに示すように、真空紫外線ランプを用いることが好ましい。
【0034】
図3A及び図3Bに示すイオンガン72は、イオン70が放出される面76(イオン放射面76)と支持体12の表面12aとが対向するようにして設置される。このイオンガン72は、電場と磁場を印加することで雰囲気ガスを分解し電荷的に中性なプラズマとし、このプラズマを支持体12に曝すことで支持体12を除電するものや、さらに強い正電位磁場を印加して分解したガスの正電荷のみを支持体12に照射することで剥離帯電によって負に帯電した該支持体12を中和するもの等を用いることができる。イオンガン72を用いる場合、100ガウス〜10000ガウス(0.01T〜1T)の磁場、100Vから3000Vの電場を与えることが好ましい。
【0035】
図4A及び図4Bに示す真空紫外線ランプ74は、紫外線が放射される面78(紫外線放射面78)の光軸80と支持体12の表面12aとがほぼ平行となるように設置される。図4Bの例では、紫外線放射面78の光軸80と支持体12の表面12aとがほぼ一致するように設置した場合を示す。この真空紫外線ランプ74は、そのエネルギーの高い光によって雰囲気ガスを効率的にイオン化させ、該支持体12の表面電荷を中性化する機構を有するものを用いることができる。該真空紫外線ランプ74は、微量のArガスを流した状態で、1×10-6Paから1×103Paの真空雰囲気内で用いることが好ましく、1×10-2Paから1Paの真空雰囲気内で用いることがより好ましい。1×103Paより低真空では、イオンの平均自由行程が短くなり、支持体12の全体に対し、十分な除電効果が得られない場合がある。
【0036】
また、該真空紫外線ランプ74は、支持体12に対して、50mmから500mmの距離範囲で照射することが好ましく、50mmから400mmの距離範囲で照射することがより好ましい。この距離範囲は、例えば図4Bに示すように、真空紫外線ランプ74の紫外線放射面78から支持体12までの最短距離Ldを指す。この距離範囲が50mmより近いと支持体12に対し熱エネルギーが供給され、支持体12に変形等の悪影響を及ぼす場合がある。逆に、500mm以上離れると、支持体12の全体が除電されるのに時間がかかり、支持体12の通過時間内に十分な除電性能を実現できないおそれがある。さらに、該真空紫外線ランプ74の照射強度としては、5Wから500Wの範囲が好ましく、10Wから300Wの範囲がより好ましく、20Wから50Wの範囲がさらに好ましい。500Wより高強度では支持体12が熱で変形し、逆に5W以下では十分な除電効果が得られない場合がある。
【0037】
図2に示すように、第1真空室56a、第2真空室56b及び第3真空室56c内には、それぞれ第1スパッタ装置82a、第2スパッタ装置82b及び第3スパッタ装置82cが成膜ロール54に対向した箇所に設置されている。第1スパッタ装置82a〜第3スパッタ装置82cにはそれぞれ放電手段であるスパッタカソードと所望の膜を形成するためのターゲットとが設置されている。
【0038】
第4真空室(グロー処理室56d)には、アルゴンイオンガン84が設けられている。アルゴンイオンガン84により磁性層20の表面にアルゴンプラズマを照射してグロー処理を施し、保護層22と磁性層20の密着性を向上させることができる。
【0039】
第5真空室56eには、保護層成膜用ガン86が設けられている。保護層成膜用ガン86としては、反応管に炭化水素ガスを導入し、コイル磁場を与え、高密度プラズマを生成し、さらに支持体12側にバイアス電圧を印加することで、分解された正の炭素イオンにより硬質な炭素膜を形成可能なプラズマCVDガンや、イオンソースに炭化水素ガスを導入し、磁場と電場を印加して高密度プラズマを生成し、強力な正電場により分解された正の炭素イオンを押し出すことで硬質な炭素膜を形成可能なイオンビームガン、高密度プラズマ生成可能なECRスパッタ源、アーク放電から高純度カーボンイオンを抽出可能なフィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)ガン等を用いることができる。中でも膜硬度と摺動特性を兼ね備えた水素添加硬質炭素膜いわゆるDLC保護層を形成可能なプラズマCVDガン、イオンビームガンが好ましい。保護層成膜用ガン86は複数台設けられていても構わない。
【0040】
さらに、第1真空室56a〜第5真空室56eには、それぞれ独立した真空排気系(真空ポンプ)88a、88b、88c、88d、88eが設けられており、これにより第1真空室56a〜第5真空室56eの真空排気を可能としている。また、第1真空室56a〜第5真空室56eには、それぞれガスノズル(図示せず)及びガス圧モニタ(図示せず)が設置されている。このように第1真空室56a〜第5真空室56eにそれぞれ独立した真空排気系を設けることで、第1真空室56a〜第5真空室56eのガス種やガス圧を個別に制御できるため、各層の所望の特性を引き出すために最適な成膜条件が達成できる。真空室内の不純物ガスを極端に嫌う層を形成する際には、隣接する真空室間に差圧室を設ける等、より高純度ガス雰囲気中での膜形成を行うことが好ましい。
【0041】
また、第5真空室56eにおいては、保護層22をプラズマCVD法、イオンビームデポジション法等、炭化水素を含むガスを導入して、水素添加硬質炭素膜いわゆるDLC保護層を形成する場合、磁性層成膜室(第3真空室56c)に用いられているようなクライオポンプでは水素排気量が充分でないため、ターボ分子ポンプを主ポンプとした排気系を用いることが好ましい。
【0042】
真空槽52に設けられる各種搬送ロールは、支持体12をシワやキズなく搬送する目的で適宜表面加工を施すことができる。例えば、金属製の搬送ロールであれば、該ロールの表面を硬質クロームめっきした後、鏡面研磨仕上げすることで、表面性をRz:0.8μm以下に仕上げることが好ましく、0.4μm以下に仕上げることがさらに好ましい。Rz:0.8μm以下の表面仕上げにすることで、平滑な支持体12を密着搬送させる場合においても、ロールの表面粗さが転写することなく、表面平滑性を有する磁気記録媒体の作製が可能となる。ここで本実施の形態でいう最大表面粗さ(Rz)とは、JIS B 0601−2001に準拠して求められる値である。
【0043】
成膜ロール54の表面性はRz:0.4μm以下であることが好ましい。成膜ロール54の表面を非常に平滑にすることで、支持体12に対して、成膜ロール54の表面粗さが悪影響を及ぼすことがない。また、支持体12への密着性も向上するため、支持体12の搬送ずれも防止でき、磁気記録媒体10への欠陥発生防止も可能となる。成膜ロール54の表面仕上げは、例えば、金属製のロールを使用する場合は、該ロールの表面を硬質クロームめっきした後、鏡面研磨仕上げすることで、表面性をRz:0.4μm以下に仕上げることが好ましく、0.1μm以下に仕上げることがさらに好ましい。
【0044】
また、成膜ロール54は、支持体12を密着させて搬送ずれを防止するためにも、第1スパッタ装置82a〜第3スパッタ装置82cに対し支持体12がほぼ対向するためにも、ある程度以上大きい方が好ましい。成膜ロール54の直径は、少なくとも250mm以上、さらに好ましくは400mm以上であることが望ましい。
【0045】
なお、本実施の形態に係る製造装置50は、図2に示すものに限られるものでない。例えば、図2に示す製造装置50では、加熱ロール66の上流に除電手段68が設けられた形態を示したが、磁性層20を形成するための第3スパッタ装置82cの上流であればいずれの位置に設けてもよい。また、図2に示した位置に加えて、成膜ロール54の下流や、巻き取りロール62の上流等に複数箇所設けることも可能である。また、除電手段68の他に接触式の除電設備(例えば、導電性ロール等)と併用してもよい。導電性ロールと併用する際には、成膜工程前に、除電手段68、導電性ロールの順で設置することが望ましい。
【0046】
さらに、本実施の形態に係る製造装置50は、成膜ロール54を2つ備え、支持体12の両面に少なくとも磁性層20を形成可能な形態としてもよい。
【0047】
次に、図1に示す製造装置50を用いて、磁気記録媒体10を製造する方法を説明する。
【0048】
まず、予め下塗り層14が塗布された支持体12を巻き出しロール60にセットし、支持体12を繰り出す。支持体12の搬送速度は、1cm/分〜10m/分の範囲が好ましく、10cm/分〜8m/分の範囲がさらに好ましい。1cm/分未満の場合、生産性が悪く、10m/分を超える場合、支持体12の搬送ずれの影響が無視できなくなるおそれがある。
【0049】
繰り出した支持体12を除電手段68により除電する。このように支持体12の片面あるいは両面の帯電を除去することにより、第1真空室56a内に存在する微粒子等の汚れ(コンタミ)の支持体12の表面(片面あるいは両面)への付着が抑制される。また、非接触で除電するので、放電痕等が残ることがない。
【0050】
次に、加熱ロール66により支持体12を加熱し、支持体12に含まれるガスを放出させる。支持体12を成膜ロール54に密着させるようにし、成膜ロール54を回転させて支持体12を第1真空室56a〜第5真空室56eに順次搬送する。
【0051】
第1真空室56a、第2真空室56bにおいて、成膜ロール54に密着させた状態で、第1スパッタ装置82a、第2スパッタ装置82bにより、第1下地層16及び第2下地層18を形成する。第1下地層16、第2下地層18を形成する際に用いるスパッタ法としては、公知のDCスパッタ法、RFスパッタ法等が使用可能である。このように第1下地層16、第2下地層18の形成にスパッタ法を用いることにより、磁気特性及び高密度記録特性に優れた磁気記録媒体10を得ることができる。
【0052】
第1下地層16及び第2下地層18を形成する際のスパッタ時のスパッタガスとしては一般的なアルゴンガスが使用できるが、その他の希ガスを使用してもよい。また、結晶性の調整や表面酸化の目的で微量の酸素ガスを導入してもかまわない。
【0053】
第1下地層16及び第2下地層18を形成する際に、支持体12の温度を0℃から500℃の範囲で自由に制御することができる。支持体12を加熱する場合は、支持体12をヒータ加熱もしくは成膜ロール54を加熱する等して温度制御することができる。しかし、支持体12の熱変形の懸念から成膜ロール54を加熱して成膜することが好ましい。室温あるいは低温条件で第1下地層16及び第2下地層18を形成する際には、成膜ロール54を冷却する等して支持体12の温度を制御することができる。
【0054】
続いて、支持体12を第3真空室56cに搬送して、第3スパッタ装置82cを用いて第2下地層18上に真空成膜法により磁性層20を形成する。
【0055】
磁性層20を形成する際に用いるスパッタ法としては、公知のDCスパッタ法、RFスパッタ法等が使用可能である。これらの方法を用いることにより、良質な超薄膜が容易に成膜可能である。スパッタ時のスパッタガスとしては一般的なアルゴンガスが使用できるが、その他の希ガスを使用してもよい。また磁性層20の酸素含有率の調整や表面酸化の目的で微量の酸素ガスを導入してもかまわない。
【0056】
スパッタ法で磁性層20を形成する際のArのガス圧としては、0.1Pa以上、10Pa以下が好ましく、0.4Pa以上、7Pa以下が特に好ましい。成膜時のArのガス圧を0.1Pa以上とすることで、磁性粒子の分離も可能で、且つ、膜応力が緩和されるため、支持体12に変形や膜のひび割れが生じにくい。また、成膜時のArのガス圧が10Pa以下とすることで、結晶性及び膜強度を確保できる。
【0057】
スパッタ法で磁性層20を形成する際の投入電力としては、0.1W/cm2以上、100W/cm2以下が好ましく、1W/cm2以上、50W/cm2以下が特に好ましい。0.1W/cm2以上の投入電力を用いることで、結晶性及び膜の密着性を確保するために必要なスパッタ粒子エネルギーが与えられる。一方、100W/cm2以下の投入電力とすることで、支持体12に与える衝撃が過大とならず、支持体12に変形やスパッタ膜にクラックが発生する問題も回避できる。
【0058】
磁性層20を形成する際、支持体12の温度を0℃から500℃の範囲で自由に制御することができる。支持体12の加熱・冷却方法は第1下地層16及び第2下地層18の場合と同様の方法で行うことができる。
【0059】
磁性層20を形成した後、第4真空室56dにおいてアルゴンイオンガン84を用いて磁性層20をグロー処理する。そして、第5真空室56eにおいて保護層22を形成して、巻き取りロール62で巻き取る。保護層22の形成方法としては、公知のプラズマCVD法、イオンビームデポジション法、フィルタードカソーディックバキュームアーク法等が好ましい。
【0060】
磁気記録媒体10がフレキシブルディスクの場合、通常、上記のようにして支持体12の片面に所望の膜を形成した後、支持体12の表裏を反対にして他面側に第1下地層16、第2下地層18、磁性層20及び保護層22を形成する。
【0061】
以上のようにして、第1下地層16、第2下地層18、磁性層20、及び保護層22が形成された磁気記録材料64に必要に応じて保護層22の表面に潤滑層24(図1参照)等を設け、適当な大きさにカットしてカートリッジに収容して、磁気記録媒体10を完成させる。
【0062】
なお、潤滑層24を設ける場合は、潤滑剤を有機溶剤に溶解した溶液を、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、ディップコート法等で保護層22の表面に塗布するか、真空蒸着法により保護層22の表面に付着させればよい。潤滑剤の塗布量としては、1〜30mg/m2が好ましく、2〜20mg/m2が特に好ましい。
【0063】
以下、本実施形態に係る磁気記録媒体10に用いられる支持体12及び各層について説明する。
【0064】
支持体は、磁気ヘッドと磁気ディスクあるいは磁気テープとが接触した時の衝撃を回避するために可とう性を備えた樹脂フィルムで構成されている。このような樹脂フィルムとしては、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセテートセルロース、フッ素樹脂等からなる樹脂フィルムが挙げられる。
【0065】
支持体として樹脂フィルムを複数枚ラミネートしたものを用いてもよい。ラミネートフィルムを用いることにより、支持体12自身に起因する反りやうねりを軽減することができ、磁気記録媒体10の耐傷性を著しく改善することがきる。
【0066】
ラミネート手法としては、熱ローラによるロールラミネート、平板熱プレスによるラミネート、接着面に接着剤を塗布してラミネートするドライラミネート、予めシート状に成形された接着シートを用いるラミネート等が挙げられる。接着剤の種類は、特に限定されず、一般的なホットメルト接着剤、熱硬化性接着剤、UV硬化型接着剤、EB硬化型接着剤、粘着シート、嫌気性接着剤等を使用することがきる。
【0067】
支持体12の厚みは、フレキシブルディスクの場合、10μm〜200μm、好ましくは20μm〜150μm、さらに好ましくは30μm〜100μmである。支持体12の厚みが10μmより薄いと、高速回転時の安定性が低下し、面ぶれが増加する。一方、支持体12の厚みが200μmより厚いと、回転時の剛性が高くなり、接触時の衝撃を回避することが困難になり、磁気ヘッドの跳躍を招く。また、磁気テープの場合、1μm〜20μm、好ましくは3μm〜12μmである。3μmより薄いと、強度が不足し、切断やエッジ折れが発生しやすくなる。一方、20μmより厚いと、磁気テープ1巻当りに巻き取れる磁気テープ長が少なくなり、体積記録密度が低下してしまう。また剛性が高くなるため、磁気ヘッドへの当り、すなわち追従性が悪化する。
【0068】
下記(1)式で表される支持体12の腰の強さは、フレキシブルディスクの場合、b=10mmでの値が0.5kgf/mm2〜2.0kgf/mm2(4.9〜19.6MPa)の範囲にあることが好ましく、0.7kgf/mm2〜1.5kgf/mm2(6.86〜14.7MPa)がより好ましい。
支持体の腰の強さ=Ebd3/12 (1)
【0069】
なお、この(1)式において、Eはヤング率、bはフィルム幅、dはフィルム厚さを各々表す。
【0070】
支持体12の表面は、磁気ヘッドによる記録を行うために、可能な限り平滑であることが好ましい。支持体12の表面の凹凸は、信号の記録再生特性を著しく低下させる。具体的には、後述する下塗り層14を使用する場合では、光学式の表面粗さ計で測定した表面粗さが平均中心線粗さRaで5nm以内、好ましくは2nm以内、触針式粗さ計で測定した突起高さが1μm以内、好ましくは0.1μm以内である。また、下塗り層14を用いない場合では、光学式の表面粗さ計で測定した表面粗さが平均中心線粗さRaで3nm以内、好ましくは1nm以内、触針式粗さ計で測定した突起高さが0.1μm以内、好ましくは0.06μm以内である。
【0071】
下塗り層14は、支持体12の表面の平面性の改善とガスバリア性を目的として設けられる層である。本実施の形態では磁性層20をスパッタリング等の真空成膜で形成するため、下塗り層14は耐熱性に優れることが好ましく、下塗り層14の材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコン樹脂、フッ素系樹脂等を使用することができる。熱硬化型ポリイミド樹脂、熱硬化型シリコン樹脂は、平滑化効果が高く、特に好ましい。下塗り層14の厚みは、0.1μm〜3.0μmが好ましい。支持体12に他の樹脂フィルムをラミネートする場合には、ラミネート加工前に下塗り層14を形成してもよく、ラミネート加工後に下塗り層14を形成してもよい。
【0072】
熱硬化型ポリイミド樹脂としては、例えば、丸善石油化学社製のビスアリルナジイミド「BANI」のように、分子内に末端不飽和基を2つ以上有するイミドモノマーを、熱重合して得られるポリイミド樹脂が好適に用いられる。このイミドモノマーは、モノマーの状態で支持体12の表面に塗布した後に、比較的低温で熱重合させることができるので、原料となるモノマーを支持体12上に直接塗布して硬化させることができる。また、このイミドモノマーは汎用溶剤に溶解させて使用することができ、生産性、作業性に優れると共に、分子量が小さく、その溶液粘度が低いために、塗布時に凹凸に対する回り込みが良く、平滑化効果が高い。
【0073】
熱硬化型シリコン樹脂としては、有機基が導入されたケイ素化合物を原料としてゾルゲル法で重合したシリコン樹脂が好適に用いられる。このシリコン樹脂は、二酸化ケイ素の結合の一部を有機基で置換した構造からなりシリコンゴムよりも大幅に耐熱性に優れると共に、二酸化ケイ素膜よりも柔軟性に優れるため、可とう性高分子からなる支持体12上に樹脂膜を形成しても、クラックや剥離が生じ難い。また、原料となるモノマーを支持体12上に直接塗布して硬化させることができるため、汎用溶剤を使用することができ、凹凸に対する回り込みもよく、平滑化効果が高い。更に、縮重合反応は、酸やキレート剤等の触媒の添加により比較的低温から進行するため、短時間で硬化させることができ、汎用の塗布装置を用いて樹脂膜を形成することができる。また、熱硬化型シリコン樹脂はガスバリア性に優れており、磁性層20の形成時に支持体12から発生する磁性層20又は下地層(第1下地層16及び第2下地層18)の結晶性、配向性を阻害するガスを遮蔽するガスバリア性が高く、特に好適である。
【0074】
磁気記録媒体10の表面には、磁気ヘッドと磁気ディスクとの真実接触面積を低減し、摺動特性を改善することを目的として、図1に示すように、微小突起(テクスチャ)28を設けることが好ましい。また、微小突起28を設けることにより、支持体12のハンドリング性も良好になる。微小突起28を形成する方法としては、下塗り層14上に球状シリカ粒子30を塗布する方法、エマルジョンを塗布して有機物の突起を形成する方法等が使用できるが、下塗り層14の耐熱性を確保するため、球状シリカ粒子30を塗布して微小突起28を形成するのが好ましい。
【0075】
微小突起28の高さhは5nm〜60nmが好ましく、10nm〜30nmがより好ましい。微小突起28の高さhが高すぎると記録再生ヘッドと磁気記録媒体10のスペーシングロスによって信号の記録再生特性が劣化し、微小突起28が低すぎると摺動特性の改善効果が少なくなる。微小突起28の密度は0.1〜100個/μm2が好ましく、1〜10個/μm2がより好ましい。微小突起28の密度が少なすぎる場合は摺動特性の改善効果が少なくなり、多過ぎると凝集粒子の増加によって高い突起が増加して記録再生特性が劣化する。
【0076】
また、バインダーを用いて微小突起28を支持体12の表面に固定することもできる。バインダーには、十分な耐熱性を備えた樹脂を使用することが好ましく、耐熱性を備えた樹脂としては、溶剤可溶型ポリイミド樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、熱硬化型シリコン樹脂を使用することが特に好ましい。
【0077】
第1下地層16及び第2下地層18は、密着性・ガスバリア性、磁性層20の結晶配向性を制御するために設けられる層である。第1下地層16及び第2下地層18を構成する材料としては、Si、Ti、Ni、B、NiP及びそれらの酸化物又は窒化物、カーボン、NiAl合金、Ru、RuAl合金、Re、Cr、Cr合金等を挙げることができる。第1下地層16及び第2下地層18の厚みは5〜50nmが好ましく、10〜40nmがより好ましい。なお、第1下地層16及び第2下地層18は必ずしも2層構成に限定されるものではない。
【0078】
磁性層20はハードディスクで一般的に用いられているCoPtCr系磁性層や室温成膜可能なグラニュラ構造を有する磁性層、人工格子型積層磁性層等を用いることができる。この様な金属薄膜型磁性層を用いることで、高い保持力を達成でき、低ノイズ媒体を達成することができる。
【0079】
具体的にはCoPtCr、CoPtCrB、CoCr、CoPtCrTa、CoPt、CoPtCr−SiO2、CoPtCr−TiO2、CoPtCr−Cr23、CoPtCrB−SiO2、CoRuCr、CoRuCr−SiO2、Co/Pt多層膜、Co/Pd多層膜、等が挙げられるが、その他の磁性層を用いることもできる。
【0080】
磁性層20の厚みとしては好ましくは5nm〜60nm、さらに好ましくは5nm〜30nmの範囲である。これよりも厚みが厚くなると粒成長により磁性粒子の柱間での相互作用が増大し、ノイズの著しい増加を引き起こすとともに、ヘッド−メディア接触時にかかる応力に対する耐性が低いため、走行耐久性の低下を引き起こしてしまう。逆に厚みが薄くなると、出力が著しく減少してしまう。
【0081】
磁性層20は、磁化容易軸が支持体12に対して水平方向に配向している面内磁気記録膜でも、支持体12に対して垂直方向に配向している垂直磁気記録膜でもかまわない。この磁化容易軸の方向は第1下地層16及び第2下地層18の材料や結晶構造及び磁性層の組成と成膜条件によって制御することができる。
【0082】
保護層22は、磁性層20に含まれる金属材料の腐蝕を防止し、磁気ヘッドと磁気ディスクとの擬似接触又は接触摺動による摩耗を防止して、走行耐久性、耐食性を改善するために設けられる層である。
【0083】
保護層22には、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化コバルト、酸化ニッケル等の酸化物、窒化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化ホウ素等の炭化物、グラファイト、無定型カーボン等の炭素等の材料を使用することができる。
【0084】
保護層22としては、磁気ヘッド材質と同等又はそれ以上の硬度を有する硬質膜であり、摺動中に焼き付きを生じ難くその効果が安定して持続するものが、摺動耐久性に優れており好ましい。また、同時にピンホールが少ないものが、耐食性に優れておりより好ましい。このような材料としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)と呼ばれる硬質炭素膜が挙げられる。
【0085】
保護層22は、性質の異なる2種類以上の薄膜を積層した構成とすることができる。例えば、表面側に摺動特性、耐食性を改善するための硬質炭素窒素保護膜を設け、磁気記録層側に膜硬度を改善するための硬質炭素保護膜を設けることで、耐食性と耐久性とを高い次元で両立することが可能となる。
【0086】
潤滑層24は、走行耐久性及び耐食性を改善するために設けられる層である。潤滑層24には、公知の炭化水素系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、極圧添加剤等の潤滑剤を使用することができる。
【0087】
炭化水素系潤滑剤としては、ステアリン酸、オレイン酸等のカルボン酸類、ステアリン酸ブチル等のエステル類、オクタデシルスルホン酸等のスルホン酸類、リン酸モノオクタデシル等のリン酸エステル類、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール類、ステアリン酸アミド等のカルボン酸アミド類、ステアリルアミン等のアミン類等が挙げられる。
【0088】
フッ素系潤滑剤としては、前記炭化水素系潤滑剤のアルキル基の一部又は全部をフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基で置換した潤滑剤が挙げられる。パーフルオロポリエーテル基としては、パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ−n−プロピレンオキシド重合体(CF2CF2CF2O)n、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体(CF(CF3)CF2O)n、又はこれらの共重合体等である。具体的には、分子量末端に水酸基を有するパーフルオロメチレン−パーフルオロエチレン共重合体(アウジモント社製、商品名「FOMBLIN Z−DOL」)等が挙げられる。
【0089】
上記の潤滑剤は単独もしくは複数を併用して使用することができる。
【0090】
極圧添加剤としては、リン酸トリラウリル等のリン酸エステル類、亜リン酸トリラウリル等の亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸トリラウリル等のチオ亜リン酸エステルやチオリン酸エステル類、二硫化ジベンジル等の硫黄系極圧剤等が挙げられる。
【0091】
以上の潤滑剤は単独もしくは複数を併用して使用することができる。
【0092】
また、耐食性をさらに高めるために、防錆剤を併用することが好ましい。防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、プリン、ピリミジン等の窒素含有複素環類及びこれらの母核にアルキル側鎖等を導入した誘導体、ベンゾチアゾール、2−メルカプトンベンゾチアゾール、テトラザインデン環化合物、チオウラシル化合物等の窒素及び硫黄含有複素環類及びこの誘導体等が挙げられる。これら防錆剤は、潤滑剤に混合して保護層22上に塗布してもよく、潤滑剤を塗布する前に保護層22上に塗布し、その上に潤滑剤を塗布してもよい。防錆剤の塗布量としては、0.1〜10mg/m2が好ましく、0.5〜5mg/m2が特に好ましい。
【0093】
磁気テープにおけるバックコート層には、潤滑層24を用いる潤滑剤や防錆剤を添加することができる。潤滑剤や防錆剤を添加することによって、バックコート層側から磁性層20側へ潤滑剤や防錆剤が供給されるので、磁性層20の耐食性を長期間保持することが可能となる。また、バックコート層自体のpHを調整することで磁性層20の耐食性をさらに高めることもできる。バックコート層はカーボンブラック、炭酸カルシウム、アルミナ等の非磁性粉体とポリ塩化ビニルやポリウレタン等の樹脂結合剤、さらに潤滑剤や硬化剤を有機溶剤に分散した溶液をグラビア法やワイヤーバー法等で塗布し、乾燥することで作製できる。バックコート層に防錆剤や潤滑剤を付与する方法としては、前記の溶液中に溶解してもよいし、作製したバックコート層に塗布してもよい。
【0094】
このように、本実施の形態に係る磁気記録媒体10の製造方法及び製造装置50においては、支持体12に磁性層20を形成する前に、支持体12に対して非接触で除電を行うことを特徴としている。これにより、真空槽52内で支持体12への帯電を低減させることができ、真空槽52内に存在する微粒子等の汚れ(コンタミ)の支持体12への付着を抑制することができる。
【0095】
また、本実施の形態に係る製造方法及び製造装置50により得られる磁気記録媒体10の好ましい形態によれば、磁性層20として強磁性金属薄膜磁性層を備えているので、ハードディスクのような高記録密度記録が可能となり、高容量化が可能となる。さらに、微小欠陥の発生が低減されるので、高密度記録媒体に適している。
【実施例1】
【0096】
ここで、実施例1〜4と比較例1及び2について、欠陥評価及び走行耐久性評価を行った実験例について説明する。
【0097】
まず、実施例1〜4、比較例1及び2の内容は以下のとおりである。
【0098】
(実施例1)
厚み63μm、表面粗さRa=1.4nm、長さ300mのポリエチレンナフタレートフィルム上に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、塩酸、アルミニウムアセチルアセトネート、エタノールからなる下塗り液をグラビアコート法で塗布した後、100℃で乾燥と硬化を行い、厚み1.0μmのシリコン樹脂からなる下塗り層14を作成した。この下塗り層14上に粒子径25nmのシリカゾルと前記下塗り液を混合した塗布液をグラビアコート法で塗布して、下塗り層14上に高さ15nmの突起を10個/μm2の密度で形成した。この下塗り層14は支持体12の両面に形成した。
【0099】
図1に示す製造装置50の巻き出しロール60にこの原反を支持体12として設置し、第1真空室56aにArガスを導入した。除電手段68として、500ガウス(0.05T)の磁場と1500Vの電場を印加したイオンガン72(図3A及び図3B参照)により、支持体12の両面の帯電を除去した。除電後、加熱ロール66により支持体12を加熱した。そして、水冷したRz:0.05μmの表面性を有する成膜ロール54上に支持体12を密着させた状態で搬送し、第1スパッタ装置82aを用いて、DCマグネトロンスパッタ法により下塗り層14上にC(炭素)からなる第1下地層16を形成した。なお、第1下地層16の形成は、Arのガス圧が0.1Paの雰囲気中で行い、第1下地層16の厚みは20nmとした。
【0100】
次に、第2真空室56bにおいて、第2スパッタ装置82bを用いて、第1下地層16上にRuからなる第2下地層18をAr圧:4Paの条件下、20nmの厚みで形成し、第3真空室56cにおいて、第3スパッタ装置82cを用いて、(Co70−Pt20−Cr1088−(SiO212からなる磁性層20をAr圧:3Paの条件下、20nmの厚みで形成した。さらに、第4真空室56dにおいて磁性層20をグロー処理した後、第5真空室56eにおいてエチレンガス、窒素ガス、アルゴンガスをC:H:N=62:29:7mol比となる混合ガスを導入し、ガス圧:0.06Paの条件下、イオンビームデポジション法により、窒素添加DLC保護膜を5nmの厚みで形成し、巻き取りロール62にて巻き取った。
【0101】
巻き取った磁気記録材料64(サンプル)を表裏反対にして、反対面に第1下地層16、第2下地層18、磁性層20、保護層22を形成できるように巻き出しロール60にセットし、反対面に上記と同様にして第1下地層16、第2下地層18、磁性層20、保護層22を形成した後、巻き取りロール60にて巻き取った。
【0102】
保護層22の表面に分子末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑剤(モンテフルオス社製FOMBLIN Z−DOL)をフッ素系潤滑剤(住友スリーエム社製HFE−7200)に溶解した溶液をグラビアコート法で塗布し、厚み1nmの潤滑層を形成した。この潤滑層24も磁気記録材料64(フィルム)の両面に形成した。次に、この原反から3.5inchサイズのディスクを打ち抜き、これをテープバーニッシュした後、樹脂製カートリッジ(富士写真フイルム社製Zip100用)に組み込んで、図1に示す層構成を有するフレキシブルディスクを作製した。
【0103】
(実施例2)
実施例1において、除電手段68として真空紫外線ランプ74(図4A及び図4B参照)を用いた以外は実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。真空紫外線ランプ74の照射条件は、Ar圧:0.3Paの条件下、支持体12の通過時間は2秒間とした。また、支持体12までの距離(最短距離Ld:図4B参照)は100mmとし、照射強度は30Wとした。
【0104】
(実施例3)
支持体12として厚み9μm、表面粗さRa=1.0nmのポリアミドフィルムを用い、一方の面には、実施例1と同様に第1下地層16、第2下地層18、磁性層20、保護層22及び潤滑層24を設け、他方の面には、第1下地層16、第2下地層18、磁性層20及び保護層22を設けずに、カーボンブラックからなるバックコート層を形成し、スリッティングし、8mm幅の磁気テープを作製した。
【0105】
(実施例4)
図1に示す製造装置50において除電手段68の下流に導電性ロールを設けたものを用いて、支持体12を除電手段68により除電した後、導電性ロール(ロール直径:90mm、材質:アルミニウム(Al))を支持体12に接触させて除電したこと以外は実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0106】
(比較例1)
実施例1において、除電手段68を設けない製造装置を用いたこと以外は実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0107】
(比較例2)
実施例1において、除電手段68の代わりに接触式の導電性ロール(ロール直径:90mm、材質:Al)を用いたこと以外は実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0108】
そして、欠陥評価は、3.5inchサイズの媒体表面で大きさ1μm以上の欠陥数を表面検査装置によって評価した。磁気テープは8mm×1mサイズ当たりの欠陥数を表面検査装置によって評価した。
【0109】
また、走行耐久性評価は、再生トラック幅0.25μm、再生ギャップ0.09μmのGMRヘッドを用いて、線記録密度400kFCIの記録再生を繰り返し行いながら走行させ、出力が初期値−3dBとなった時点で走行を中止し、耐久時間とした。なお、環境は23℃50%RHとし、試験は最大300時間とした。
【0110】
実験結果を図5に示す。
【0111】
図5の実験結果からわかるように、本実施の形態に従って製造したフレキシブルディスクや磁気テープ(実施例1〜4)は、欠陥数が低いレベルで安定している。また、これらの効果により、走行耐久性も高いレベルで安定しており、製品の生産性が高いことがわかる。
【0112】
一方、除電手段68を設けない装置を用いて製造した比較例1、非接触ではなく接触式の導電性ロールのみの除電手段を用いた比較例2は、欠陥数が増加しており、走行耐久性においても、信頼性の高い媒体とはいえないことがわかる。
【0113】
なお、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体の製造装置は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本実施の形態に係る製造方法及び製造装置にて製造される磁気記録媒体を一部省略して示す断面図である。
【図2】本実施の形態に係る製造装置を示す概略構成図である。
【図3】図3Aはイオンガンの設置状態を示す斜視図であり、図3Bはイオンガンの設置状態を示す側面図である。
【図4】図4Aは真空紫外線ランプの設置状態を示す斜視図であり、図4Bは真空紫外線ランプの設置状態を支持体を一部破断して示す側面図である。
【図5】実施例1〜4、比較例1及び2の欠陥評価及び走行耐久性評価を示す表図である。
【符号の説明】
【0115】
10…磁気記録媒体 12…支持体
14…下塗り層 16…第1下地層
18…第2下地層 20…磁性層
22…保護層 50…製造装置
52…真空槽 68…除電手段
72…イオンガン 74…真空紫外線ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可とう性高分子支持体の少なくとも一方の面に少なくとも磁性層を真空成膜法により形成する磁性層形成工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、
前記磁性層形成工程の前に、前記可とう性高分子支持体の除電を非接触で行う除電工程を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法において、
前記真空成膜法がスパッタ法であることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
可とう性高分子支持体の少なくとも一方の面に少なくとも磁性層を有する磁気記録媒体の製造装置であって、
真空槽と、
前記真空槽内に設置されると共に、前記可とう性高分子支持体に対し非接触で除電可能な除電手段とを備えたことを特徴とする磁気記録媒体の製造装置。
【請求項4】
請求項3記載の磁気記録媒体の製造装置において、
前記除電手段が、イオンを放出する機構を有するイオンガンであることを特徴とする磁気記録媒体の製造装置。
【請求項5】
請求項3記載の磁気記録媒体の製造装置において、
前記除電手段が、真空紫外線ランプであることを特徴とする磁気記録媒体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−209937(P2006−209937A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288423(P2005−288423)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】