説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】耐食性の高い磁気記録媒体を簡便に得ることができる磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】凹凸パターンが形成された磁性層を有する磁気記録媒体の凹凸パターンの上に凹凸形状に添って保護層を形成する保護層形成工程、形成された保護層の凹部に樹脂を充填する樹脂充填工程を少なくとも有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法に関する。特に、磁性層に凹凸パターンが形成された磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の記録容量は、それに要される磁性体の開発、垂直磁化方式の採用、磁気記録装置の書き込み・読み出し時における磁気ヘッドの低浮上化による磁気ヘッドと磁気記録媒体表面との狭小化等により、著しく増加してきている。
【0003】
このような磁気記録媒体は、通常、非磁性基板上に、下地層を介して磁性層および保護層が順次積層された構造を有している。
【0004】
保護層は、本質的に金属成分からなる磁性層を外部雰囲気から遮断し、その腐食を防止することを目的とする。
【0005】
従来の磁気記録媒体は、平坦な基板上に軟磁性層、磁性層等を積層し、その上に保護層を成膜している。
【0006】
これに対し、面記録密度を向上させるために、隣り合うトラック間の磁性層を切り離し、磁性層に凹凸パターンを形成したディスクリートトラックメディアが開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
ディスクリートトラックメディアも磁性層を保護するための保護層が必要である。
【0008】
この保護膜はディスクリートトラックメディアの凹凸パターンに沿って形成されることになる。
【0009】
ディスクリートトラックメディアの凹凸パターンに沿って保護膜を形成する他に、凹部に非磁性材料を埋め込み表面を平坦化する構造も考えられる。この場合、非磁性材料をスパッタ成膜した後、エッチング又はCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)等の加工方法により表面を平坦化する方法が取られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−12216号公報
【特許文献2】特開2006−92632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
磁性層に凹凸パターンを形成したディスクリートトラックメディアに保護層を成膜した場合、磁性層凸部トップ、側壁、凹部底辺(ボトム)で保護層の付き方が異なる。凹凸形状の場合、保護層は凸部側壁や凹部底辺、凸部の角部に膜がつきにくく、その部分の保護層膜厚が薄くなり、ピンホールが発生しやすくなる。保護層のカバレッジ性の低下により、磁性層からの金属溶出、耐腐食性低下がおこる。
【0012】
また、上述の凹部を埋め込んで表面を平坦化する方法は、スパッタ成膜と平坦化加工を繰り返し行う必要があり、製造に時間がかかるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、凹凸パターンが形成された磁性層を有する磁気記録媒体の凹凸パターンの上に凹凸形状に添って保護層を形成する保護層形成工程、
形成された保護層の凹部に樹脂を充填する樹脂充填工程
を少なくとも有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、耐食性の高い磁気記録媒体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の製造方法で製造される磁気記録媒体の基本構造の一例を示す図である。
【図2】本発明の製造方法の製造工程の一例を示す図である。
【図3】実施例1の金属溶出試験結果を示す図である。
【図4】実施例2の金属溶出試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の磁気記録媒体の製造方法を、図1と図2を用いて説明する。
【0017】
図1は本発明の製造方法で製造される磁気記録媒体の基本構造の一例を示す図であり、図1に示す磁気記録媒体は、基体1、該基体1上に形成された下地層2、該下地層2上に配置された磁性層3、該磁性層3の上に形成された保護層4、からなる。前記磁性層2はトラック状および/またはドット状を有するナノオーダーの凹凸パターンとして形成されている。前記保護層4はその上に磁性層3からなる凹凸パターンが形成された下地層3を覆うように形成されている。
【0018】
本発明において、基体1としては、通常の磁気記録媒体に使用されている各種の基体、たとえばガラス基板;セラミック基板;プラスチックフィルムなどのプラスチック基板;アルミニウムなどの非磁性金属基板などの各種基板や、非磁性金属ドラムなどを用いることができる。
【0019】
下地層2としては、非磁性ないし軟磁性材料、たとえば、Co、CoNi系合金などの垂直磁気異方性を有する材料やパーマロイなどの軟磁性材料などを用いることができる。この下地層2は、平坦な表面を有するか、または磁性層3に対応したナノオーダーの凹凸パターンを表面に有することが好ましい。
【0020】
磁性層3は、Co、Cr、Ni、Ptおよびそれらを含む合金などの磁性金属を含む層からなる。この磁性層3は、情報記録領域を画定するトラック状および/またはドット状の凹凸パターンに対応した凸部パターンおよび凹部パターンの幅がそれぞれ100nm以下、好ましくは10nm〜60nm、深さが50nm以下、好ましくは10nm〜40nmのナノオーダーの凹凸パターンを有する。磁性層3は、凹凸パターンの少なくとも凸部パターンに配置される。磁性層3は、凹凸パターンの凸部のみを形成していてもよく、凹凸パターンの凸部と凹部の底部の双方に配置されていてもよい。
【0021】
保護層4は、本質的に金属成分からなる磁性層を外部雰囲気から遮断し、その腐食を防止することを目的として設けられるものであり、無機薄膜、非磁性金属膜などが使用されてきたが、磁気ヘッドの低浮上化に伴いさらなる薄膜化が要求され、磁気ヘッドとの接触に対する耐破損性、耐摩耗性、保護層上に塗布される潤滑剤の吸着性などに優れることが要求されている。このため、保護層4としては、膜厚が5nm以下、好ましくは1〜3.5nmの、比較的に低硬度で被覆性に優れたSiO2などの金属酸化物膜、金属窒化物膜等の無機膜、炭素質膜などが好ましく用いられる。これらの膜の中では、耐破損性、耐摩耗性、潤滑剤の吸着性などの観点から種々の形態の炭素質膜がより好ましく用いられる。
【0022】
炭素質膜としては、グラファイトをターゲットに用いたマグネトロン・スパッタリング法により形成されるグラファイト膜、炭化水素、たとえば、メタン、エタン、プロパン、ブタンなどのアルカン類、エチレン、プロピレンなどのアルケン類、アセチレンなどのアルキン類などを原料に用いたプラズマCVD法により形成したダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜などがある。
【0023】
スパッタリング法、CVD法で形成したDLC膜を比べた場合、CVD法で形成したDLC膜の方がsp3性の高い構造を持ち、緻密で硬い。また、スパッタリング法に比べてトレンチ構造への成膜性はよいとされている。このため、保護層4としては、プラズマCVD法により形成される膜厚が1〜3nmのDLC膜からなる膜が特に好ましい。
【0024】
埋め込み層5を形成する材料としては、被覆の容易さ、凹部への充填性、エッチングによる除去の容易さなどから有機樹脂材料が好ましく用いられる。この樹脂材料としてはエチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル共重合体またはポリビニルブチラールなどを例示できる。
【0025】
この埋め込み層5は、表面が保護層4で被覆された凹凸パターンの凹部を完全に埋め込み、埋め込み層5の上部表面は平坦になっていることが好ましい。また、この埋め込み層5は、表面が保護層4で被覆された凹凸パターンの凹部のみを完全に埋め込み、凹凸パターンの凸部は保護層4が露出しており、凹部を完全に埋め込んだ埋め込み層5の上部表面と凸部の保護層4の表面で平坦な面を形成していることが好ましい。
【0026】
図2は本発明の磁気記録媒体の製造方法の製造工程の一例を示す図である。図2(a)は下地層2が形成された基体1上に磁性層3からなる凹凸パターンが形成された状態を示す。基体1上への下地層2の形成は、通常、磁気記録媒体の製造において採用されている方法を用いればよい。
【0027】
ナノオーダーの凹凸パターンを有する下地層2は、基体1上に形成した下地層2上に、光硬化性エッチングレジストを塗布し、該レジスト塗膜に所望の凹凸パターンが形成された石英モールドを押圧し、該石英モールドを介して紫外線を照射してレジスト塗膜を硬化させてエッチングパターンを形成し、該エッチングパターンに沿って下地層2を所望の深さにエッチングするナノインプリント法により製造することができる。
【0028】
磁性層3にナノオーダーの凹凸パターンを形成する場合は、下地層2の上に磁性層3を形成した後、もしくはさらに形成した磁性層3上にマスク層を形成した後、磁性層3もしくはマスク層上に、光硬化性エッチングレジストを塗布し、該レジスト塗膜に所望の凹凸パターンが形成された石英モールドを押圧し、該石英モールドを介して紫外線を照射してレジスト塗膜を硬化させてエッチングパターンを形成し、該エッチングパターンに沿って磁性層3または磁性層3とマスク層を所望の深さにエッチングする等のナノインプリント法により製造することができる。
【0029】
下地層2がナノオーダーの凹凸パターンを有する場合も、下地層2の上に磁性層3を形成した後、もしくはさらに形成した磁性層3上にマスク層を形成した後、磁性層3もしくはマスク層上に、光硬化性エッチングレジストを塗布し、該レジスト塗膜に下地層2の凹凸パターンと同じ凹凸パターンが形成された石英モールドを押圧し、該石英モールドを介して紫外線を照射してレジスト塗膜を硬化させてエッチングパターンを形成し、該エッチングパターンに沿って磁性層3または磁性層3とマスク層を所望の深さにエッチングすることで磁性層3の凹凸パターンを形成する。
【0030】
磁性層3上にマスク層を形成する場合、マスク層形成材料としては、カーボンなどの炭素系、金属、SiO2などの金属酸化物、金属窒化物などを用いることができ、マスク層の形成はスパッタ法やCVD法などを採用することができる。
【0031】
磁性層3にナノオーダーの凹凸パターンを形成した後、凸部に残るマスク層は、磁性層との加工レートの違いを利用してエッチングにより除去する。
【0032】
次に、下地層2が形成された基体1上に磁性層3からなる凹凸パターンが形成された磁気記録媒体の上表面に、図2(b)に示すように保護層4を成膜する。
【0033】
保護層4として炭素質の膜を形成する場合は、グラファイトをターゲットに用いたマグネトロン・スパッタリング法によりグラファイト膜を形成してもよく、たとえば、メタン、エタン、プロパン、ブタンなどのアルカン類、エチレン、プロピレンなどのアルケン類、アセチレンなどのアルキン類などを原料に用いたプラズマCVD法によりダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を形成してもよい。
【0034】
次に、上表面に保護層4が成膜された磁気記録媒体の凹部を埋めるように、樹脂を埋め込む(図2(c)参照。)。樹脂の埋め込みは樹脂溶液を塗布したのち、溶媒を蒸発させて被膜を形成させてもよいが、樹脂シートを圧着、好ましくは例えば真空ラミネーターを用いて真空圧着させることにより、被膜を形成させる方がピンホールの発生を防止できるので好ましい。
【0035】
次に、樹脂を埋め込んだ磁気記録媒体の表面をエッチングして保護層4の凸部表面を露出させるとともに磁気記録媒体の表面を平坦化させる。これにより凹凸パターンの奥部が樹脂により充填され、表面が平坦化された磁気記録媒体を得ることができ、ピンホールの発生の可能性や保護層のカバレッジの低下の可能性の低い磁気記録媒体が得られる。
【実施例】
【0036】
<実施例1、比較例1>
図1に示す磁性層に凹凸形状のある磁気記録媒体試料を製作した。試料は表面が平滑な化学強化ガラス基板からなる1.8インチディスク片面に下地層としてCoFeNiからなる層を形成した後、磁気記録層としてライン幅(凸部幅)を80nm、溝幅(凹部開口部)80nm、深さ10nmとしたCo77Cr9Pt10SiO2からなる凹凸パターンを形成し、その上にダイヤモンドライクカーボン膜からなる保護層をプラズマCVD装置で4.0nm成膜した。更に、保護層上に厚さ500nmのエチレン−ビニルアセテートのシートを160℃、10分圧着し凹部を埋め込んだ。その後、表面をArガスでエッチングし、凸部保護層を露出させた。(実施例1)
【0037】
また、比較のため、凹部に樹脂を埋め込む工程以降を行わない以外は実施例1と同様にして、磁性層に凹凸形状を有し、その上にダイヤモンドライクカーボン膜からなる保護層をプラズマCVD装置で4.0nmの厚みで形成した磁気記録媒体試料を製作した。(比較例1)
【0038】
保護層のカバレッジ性を評価するため、金属溶出試験を行った。保護層面以外からの金属溶出を防ぐため、周囲を樹脂で封止した試料を80℃の純水中に1時間放置した後、純水中に溶出した金属量をICP−MSで分析した。その結果を図3に示す。図3では、実施例1で得た試料の金属溶出量を1とし、比較例1で得た試料の比率を示した。
【0039】
埋め込み有りの試料の金属溶出量を1とすると、埋め込み無しの試料からの金属溶出量は約2倍であった。凹部を埋め込むことにより、耐食性が向上することを示している。
【0040】
<実施例2>
ライン幅(凸部幅)を100nm、溝幅(凹部開口部)を100nmとし、溝深さが3、5、10、15、および20nm、保護層の厚みを3.0nmの5試料とした以外は実施例1と同様にして凹部に樹脂を埋め込み、凸部保護層を露出させ、かつ表面を平坦化した5試料を得た。
【0041】
保護層のカバレッジ性を評価するため、80℃、85%RHの高温高湿条件下に500時間放置後、0.05wt%硝酸を滴下し1時間放置した後、その液を回収しICP−MSで溶出した金属量を測定した。その結果を図4に示す。図4では、溝深さが10nmの試料の金属溶出量を1とし、他の試料は溝深さが10nmの試料の金属溶出量に対する比率を示した。
【0042】
図4に示す結果から、溝深さを変更しても、金属溶出量は殆ど変化せず、本発明の製造方法により、耐食性の高い磁気記録媒体が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0043】
1:基体
2:下地層
3:磁性層
4:保護層
5:埋め込み層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸パターンが形成された磁性層を有する磁気記録媒体の凹凸パターンの上に凹凸形状に添って保護層を形成する保護層形成工程、
形成された保護層の凹部に樹脂を充填する樹脂充填工程
を少なくとも有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂充填工程が樹脂シートの真空圧着によるものであることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
保護層の凹部に樹脂を充填した磁気記録媒体の凹凸パターンの凸部を被覆する樹脂層をエッチング加工により除去し、保護層を露出させ、かつ、凹部樹脂層と平坦化された表面を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate