説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】磁気記録媒体の平面方向で内側の領域の保磁力が高い場合、又は、内側の領域でパターン密度が高くなっている場合であっても、磁気転写が不完全になることなく効率的且つ高精度で行うことができ、高記録密度の磁気記録媒体を効率良く低コストで製造することが可能な、磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】非磁性基板1の上に少なくとも垂直磁性層4が形成された磁気記録媒体Wと、情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体Mとを重ね合わせた後、マスター情報担体M側から磁界生成手段Gによって外部磁界を印加しながら、マスター情報担体Mから磁気記録媒体Wへと情報信号を磁気転写する工程を含む方法であり、磁気転写を行う際、平面方向で最内周側の磁気転写領域Uにおける磁性層101の膜厚t1が、最外周側の磁気転写領域Sの膜厚t2よりも厚く形成されたマスター情報担体Mを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置(HDD)等の磁気記録再生装置に用いられる磁気記録媒体の製造方法に関するものであり、より詳しくは、マスター情報担体によって磁気記録媒体へと情報信号を磁気転写する、磁気記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置の一種であるハードディスク装置(ハードディスクドライブ)は、現在その記録密度が年1.5倍以上で増えており、今後もその傾向は続くと言われている。また、それに伴って、高記録密度化に適した磁気ヘッド及び磁気記録媒体の開発が進められている。そして、最新の磁気記録装置においては、トラック密度が320kTPIにも達している。
【0003】
このため、高いトラック密度を有する磁気記録媒体では、磁気ヘッドをトラック上で正確に走査するために、磁気ヘッドのトラッキングサーボ技術が重要な役割を果たしている。具体的に、現在のハードディスクドライブでは、ディスクの1周中、一定の角度間隔でトラッキング用のサーボ信号や、アドレス情報信号、再生クロック信号などの情報信号(以下、サーボ信号等と称する)が記録されている。そして、磁気ヘッドから一定間隔の時間で再生されるこれらの信号によって、磁気ヘッドの位置を検出しながら、磁気ヘッドが正確にトラック上を走査するように磁気ヘッドの位置を修正する制御が行われている。
【0004】
従って、上述したサーボ信号等は、磁気ヘッドが正確にトラック上を走査するための基準信号となることから、これらの信号の書き込みには高い位置決め精度が求められる。このため、従来のハードディスクドライブの製造現場では、高精度の位置検出装置を組み込んだ専用のサーボ信号記録装置(以下、サーボライタと称する)を用いて、磁気記録媒体に対するサーボ信号等の書き込みが行われている。また、サーボライタは、その生産性を高めるために、一つのスピンドルに多数枚の磁気記録媒体をチャッキングし、これらの磁気記録媒体に対して同時にサーボ信号等を書き込む構造となっている。
【0005】
しかしながら、上述したようなサーボライタによるサーボ信号等の書き込み方法を採用した場合には、以下の課題が存在する。
即ち、上記方法により、磁気ヘッドを高精度に位置決めしながら多数のトラックに亘って信号を書き込むためには、長い工程時間を必要とし、さらに、生産性を向上させるためには、多くのサーボライタを同時に稼働させる必要がある。しかしながら、工程に導入するサーボライタの数を増やした場合には、その維持管理に多額のコストが生じるという問題がある。また、スピンドルを長くして同時にチャッキングできる磁気記録媒体の枚数を増やした場合には、回転中にブレが生じ易くなり、磁気記録媒体に対する書き込み精度の低下を招く虞がある。このため、1つのスピンドルにチャッキングできる磁気記録媒体の枚数には自ずと限界がある。そして、これらの課題は、磁気記録媒体のトラック密度が向上し、トラック数が多くなるほど深刻なものとなっている。
【0006】
上記問題を解決するため、磁気記録媒体へのサーボ信号等の書き込みを行う工程において、上記構成のサーボライタではなく、全てのサーボ信号等に対応する磁気転写パターンが書き込まれたマスター情報担体を用い、このマスター情報担体に書き込まれた信号を磁気記録媒体に一括して磁気転写する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の方法によれば、具体的には、マスター情報担体と磁気記録媒体とを密着させた状態で、外部から転写用のエネルギーとして磁界を加えながら、マスター情報担体に書き込まれた信号を磁気記録媒体に磁気転写する。これにより、磁気記録媒体に対するサーボ信号等の書き込み作業を短時間で行うことが可能となり、また、上記構成のマスター情報担体は、繰り返し使用可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−40544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者等が鋭意研究したところ、特許文献1に記載の方法で磁気記録媒体への磁気転写を行った場合であっても、以下のような問題が存在することが明らかとなった。
【0009】
一般に、磁気記録媒体の磁性層は、マグネトロンスパッタ法によって非磁性基板上に成膜されるが、その成膜装置の構造に起因して、磁気記録媒体の平面方向で内側の領域の方が、外側の領域に比べて保磁力が高くなるという特性がある。このため、従来の方法によって磁気記録媒体に磁気転写を行った場合には、内側の領域における磁気転写が困難になるという問題がある。
【0010】
上述のように、磁気記録媒体の内側の領域において保磁力が高まる理由としては、
(1) 非磁性基板の中央部に開口孔があるため、成膜時に、基板の内側領域の方での温度が上がりやすく、磁性粒子の配向性が高まる、
(2) マグネトロンスパッタ装置のチャンバ内において、ターゲットの中央付近でプラズマ密度が高くなり、これに対応する位置でのスパッタ量が多くなることから、基板上の平面方向で内側の領域で磁性層の膜厚が厚くなる、
(3) 基板を搬送するキャリアは、基板の外周部をホールドするため、その箇所から基板の熱が逃げ、基板の外周部分の温度が下がる、即ち、上記(1)の現象がさらに顕著となる、
ということが挙げられる。
【0011】
また、従来の方法で磁気記録媒体を製造する場合、上記(1)〜(3)に示す理由に加え、さらに、サーボパターンはメディア(磁気記録媒体)の半径方向で放射状に形成され、内側の方でパターン密度が高くなる。このため、やはり、外側の領域に比べて内側の領域の磁気転写が困難になるという問題があった。
このため、磁気記録媒体の平面方向において内側の領域の保磁力が高くなった場合、又は、内側の領域でパターン密度が高くなっている場合であっても、磁気転写を効率的且つ高精度で行う方法が切に望まれていた。
【0012】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、磁気記録媒体の平面方向で内側の領域の保磁力が高い場合、又は、内側の領域でパターン密度が高くなっている場合であっても、磁気転写が不完全になることなく効率的且つ高精度で行うことができ、高記録密度の磁気記録媒体を効率良く低コストで製造することが可能な、磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記問題を解決するために鋭意研究を行い、磁気記録媒体の平面方向において内側の領域の保磁力が高くなった場合、又は、内側の領域でパターン密度が高くなっている場合に、磁気転写を行う際、当該位置における磁力を高めることで効率的な磁気転写が可能となることを知見した。そして、磁気転写に用いるマスター情報担体に備えられる磁性層について、当該磁気記録媒体の内側の領域に対応する部分の膜厚を、磁気記録媒体の外側の領域に対応する部分の膜厚よりも厚く構成することにより、この位置における磁力が効果的に高められ、効率的且つ高精度の磁気転写が可能となることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下に示す構成を採用するものである。
【0014】
[1] 非磁性基板の上に少なくとも磁性層が形成された磁気記録媒体と、情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体とを重ね合わせた後、前記マスター情報担体側から外部磁界を印加しながら、前記マスター情報担体から前記磁気記録媒体へと情報信号を磁気転写する工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、前記磁気転写を行う際、平面方向で最内周側の領域における磁性層の膜厚が、最外周側の領域の膜厚よりも厚く形成されたマスター情報担体を用いることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
[2] 前記マスター情報担体は、平面方向で最内周側の磁気転写領域における前記磁性層の膜厚が、最外周側の磁気転写領域における膜厚に対して、105〜140%の範囲で厚く形成され、その間の領域において膜厚が略直線状に変化していることを特徴とする上記[1]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[3] 前記マスター情報担体は、凹凸パターンが形成された基材上に、少なくとも、前記磁性層が積層されていることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0015】
[4] 非磁性基板の上に、少なくとも磁性層を形成して磁気記録媒体を得る工程と、この磁気記録媒体と、情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体とを重ね合わせた後、前記マスター情報担体側から外部磁界を印加しながら、前記マスター情報担体から前記磁気記録媒体へと情報信号を磁気転写する工程とを含む磁気記録媒体の製造方法であって、前記磁気記録媒体を得る工程は、略円板状とされ、略中央付近に開口孔が設けられた非磁性基板の上に、マグネトロンスパッタ法によって前記磁性層を成膜し、前記情報信号を磁気転写する工程は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のマスター情報担体を用いて、前記磁気記録媒体に磁気転写することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、上記構成の如く、磁気記録媒体への磁気転写を行うにあたり、平面方向で最内周側の領域における磁性層の膜厚が、最外周側の領域の膜厚よりも厚く形成されたマスター情報担体を用いる方法を採用したので、マスター情報担体と磁気記録媒体とを重ね合せて磁気転写を行なう際、特に、磁気記録媒体の平面方向で最内周側の領域に対して、高い磁力を付与しながら磁気転写を行うことができる。従って、磁気記録媒体の平面方向において内側の領域の保磁力が高くなっている場合、又は、内側の領域でパターン密度が高くなっている場合であっても、効率的且つ高精度で磁気転写を行うことができ、高記録密度の磁気記録媒体を効率良く低コストで製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を模式的に説明する図であり、(a)はマスター情報担体を用いた磁気転写工程を示す断面図、(b)はマスター情報担体に備えられる磁性層の膜厚を示す断面図、(c)はマスター情報担体の平面方向における最内周側の磁気転写領域及び最外周側の磁気転写領域を示す平面図である。
【図2】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法の一例を模式的に説明する図であり、(a)は本発明の製造方法によって得られる磁気記録媒体を示す断面図、(b)は(a)の磁気記録媒体に備えられる磁性層の膜厚を示す断面図、(c)は磁気記録媒体の平面方向における最内周側の磁性層領域及び最外周側の磁性層領域を示す平面図である。
【図3】本発明に係る磁気記録媒体が用いられてなる磁気記録再生装置の一例を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法について、図1〜図3を適宜参照しながら説明する。なお、以下の説明において参照する図面は、磁気記録媒体の製造方法を説明するための図面であって、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の磁気記録媒体等の寸法関係とは異なっている。
【0019】
[磁気記録媒体の製造方法]
本発明を適用した磁気記録媒体10(図2(a)〜(c))の製造方法は、図1(a)〜(c)に示すように、非磁性基板1の上に少なくとも垂直磁性層(磁性層)4が形成された磁気記録媒体Wと、情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体Mとを重ね合わせた後、マスター情報担体M側から磁界生成手段Gによって外部磁界を印加しながら、マスター情報担体Mから磁気記録媒体Wへと情報信号を磁気転写する工程(以下、磁気転写工程と称することがある)を含む方法であり、磁気転写を行う際、平面方向で最内周側の磁気転写領域Uにおける磁性層101の膜厚t1が、最外周側の磁気転写領域Sの膜厚t2よりも厚く形成されたマスター情報担体Mを用いる方法である。また、図2(b)に示すように、本実施形態で用いるマスター情報担体Mは、平面方向で最内周側の磁気転写領域Uと、最外周側の磁気転写領域Sとの間の領域全体において、膜厚が略直線状に変化した構成とされている。
【0020】
また、本実施形態の磁気記録媒体10の製造方法は、より具体的には、非磁性基板1の上に、少なくとも垂直磁性層(磁性層)4を形成して磁気記録媒体Wを得る工程(以下、積層工程と称することがある)と、この積層工程で得られる磁気記録媒体Wと、情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体Mとを重ね合わせた後、マスター情報担体M側から磁界生成手段Gによって外部磁界を印加しながら、マスター情報担体Mから磁気記録媒体Wへと情報信号を磁気転写する磁気転写工程とを含む方法とすることができる。そして、磁気記録媒体Wを得る積層工程は、略円板状とされ、略中央付近に開口孔が設けられた非磁性基板1の上に、マグネトロンスパッタ法によって垂直磁性層4を成膜し、また、磁気転写工程は、上述したように、磁気転写領域Uにおける磁性層101の膜厚t1が、磁気転写領域Sの膜厚t2よりも厚く形成されたマスター情報担体Mをいて、磁気記録媒体Wに磁気転写することにより、磁気記録媒体10を製造する方法とすることができる。また、本実施形態の製造方法で得られる磁気記録媒体10は、図2(b)、(c)に示すように、平面方向で最内周側の磁性層領域Aにおける磁性層4の膜厚T1が、最外周側の磁性層領域Bの膜厚T2よりも厚く形成された構成とされる。
【0021】
ここで、本発明において説明する、磁気記録媒体10あるいは磁気記録媒体Wの最内周側の磁性層領域A及び最外周側の磁性層領域B、並びに、マスター情報担体Mの最内周側の磁気転写領域U及び最外周側の磁気転写領域Sとは、磁性層領域Aと磁気転写領域Uとが相互に対応し、また、磁性層領域Bと磁気転写領域Sとが相互に対応し、磁気記録媒体の磁性層において磁気記録再生装置(図3を参照)のデータ領域として使用する箇所の内、最内周の領域(磁性層領域A、磁気転写領域U)、および、最外周の領域(磁性層領域B、磁気転写領域S)を指す。
【0022】
本発明の製造方法を適用して得られる磁気記録媒体10は、図2(a)〜(c)に示す例のように、非磁性基板1上に、磁性層等を形成したものであり、平面視略ドーナツ型の板状とされている。また、図2(a)に例示するように、磁気記録媒体10は、非磁性基板1上に、少なくとも、垂直磁性層4、保護層5が順次積層されることで概略構成される。また、図示例においては、磁気記録媒体10は、非磁性基板1上に、スペーサ層2bにより反強磁性結合させた2層の軟磁性層2aを含む軟磁性下地層2と、配向制御層3と、垂直磁性層4と、保護層5と、潤滑剤膜6とを順次積層した構造を有している。また、図示例では、垂直磁性層4は、下層の磁性層4aと、中層の磁性層4bと、上層の磁性層4cとの3層を含み、磁性層4aと磁性層4bの間で非磁性層7aを、磁性層4bと磁性層4cの間で非磁性層7bを挟み込むことで、これら磁性層4a〜4cと非磁性層7a、7bとが交互に積層された構造を有している。
本発明では、これらの各層の内、非磁性基板1、垂直磁性層4並びに保護層5以外の層については、適宜選択して設けることができる。
【0023】
以下に、図1(a)〜(c)及び図2(a)〜(c)を適宜参照しながら、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法における各工程について詳しく説明する。
【0024】
「積層工程(磁気記録媒体を得る工程)」
本発明に係る磁気記録媒体10の製造方法では、非磁性基板1上に、軟磁性下地層2、配向制御層3、垂直磁性層4、保護層5及び潤滑剤膜6を形成する方法として、従来公知の方法を何ら制限無く用いることができる。従って、本実施形態では、上記各層を形成する工程について、一部、その詳しい説明を省略する。
【0025】
まず、図2(a)に示すように、非磁性基板1上に軟磁性下地層2を形成する。
具体的には、非磁性基板1上に、例えばスパッタ法を用いて軟磁性材料を堆積させることにより、スペーサ層2bによって反強磁性結合させた2層の軟磁性層2aを含む軟磁性下地層2を形成する。この際、軟磁性下地層2を構成する各層の材料としては、Coを主成分とする合金等、従来公知の材料を何ら制限無く用いることができる。
また、一般に、軟磁性下地層2を形成する方法としてはスパッタ法を用いるが、その他の公知の方法も含め、適宜採用することが可能である。
【0026】
次に、図2(a)に示すように、非磁性基板1上に形成された軟磁性下地層2の上に、さらに、配向制御層3を積層する。この際、配向制御層3に用いる材料としては、従来公知の材料を用いることができ、また、その形成方法としても、従来公知の方法を何ら制限無く採用することができる。
【0027】
次に、図2(a)に示すように、配向制御層3の上に、さらに、垂直磁性層4を積層する。この際、図2(a)に示す例のように、垂直磁性層4を、下層の磁性層4a、中層の磁性層4b、及び上層の磁性層4cの3層を含む構成で形成することができる。また、図示例のように、さらに、磁性層4aと磁性層4bの間に非磁性層7aを、磁性層4bと磁性層4cの間に非磁性層7bを形成することで、磁性層4a〜4cと非磁性層7a、7bとを交互に積層しても良い。
また、垂直磁性層4に用いる材料としても、従来公知の材料を採用することができ、その形成方法としても、一般的なマグネトロンスパッタ法等、従来公知の方法を何ら制限無く採用することができる。
【0028】
次に、図2(a)に示すように、上記工程で形成された垂直磁性層4を覆うように、保護層5を形成する。この際、例えば、P−CVD法等の方法を用いて、垂直磁性層4上に保護層材料を薄膜として堆積させることにより、保護層5を形成する。また、保護層5の形成方法としては、上記のP−CVD法に限定されるものではなく、従来公知の方法、例えば、イオンビーム法等を適宜採用することも可能である。
【0029】
保護層5の材料としては、一般的に当該分野で用いられるDiamond Like Carbon等の硬質炭素膜の他、通常用いられる保護層材料を含むものを使用することができる。
また、保護層5として硬質炭素膜を形成する場合には、例えば、形成装置として、炭素を含む原料気体を高周波プラズマによって励起分解し、これによって生じた炭素イオンを用いて、磁気記録媒体Wとなる非磁性基板1上の両表面に炭素膜を形成する成膜装置を用いることができる。
【0030】
このような成膜装置並びに成膜方法で形成された硬質炭素膜からなる保護層5は、密着性が非常に高く、高硬度で緻密な膜となる。このため、このような硬質炭素膜を磁気記録媒体Wの保護層5に用いた場合には、保護層5を薄く構成することが可能となる。これにより、磁気記録媒体Wに磁気転写することで得られる磁気記録媒体10と磁気ヘッド(図3中の符号57を参照)との距離を狭く設定することが可能となるので、磁気記録媒体10の記録密度が高められるとともに、磁気記録媒体10の耐コロージョン性を高めることが可能となる。
【0031】
次に、図2(a)に示すように、上記工程で形成された保護層5の上に、さらに、保護層5の形成に用いた方法と同様の方法で、潤滑剤材料からなる潤滑剤層6を形成する。この際、潤滑剤層6に用いる材料としては、例えば、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤材料を何ら制限無く採用することができる。
【0032】
上述したように、一般的なマグネトロンスパッタ法によって薄膜を成膜した場合、その成膜装置の構造に起因して、磁気記録媒体Wの平面方向で最内周側の磁性層領域Aの膜厚T1が、最外周側の磁性層領域Bの膜厚T2よりも厚くなるという特性がある。また、非磁性基板1の中央部には、磁気記録媒体10を用いて磁気記録再生装置(図3の符号50を参照)を構成した場合に、回転軸として用いられる開口孔があるため、成膜時、開口孔付近の最内周側の磁性層領域Aで温度が上がりやすく、磁性粒子の配向性が高まるという特性がある。またさらに、垂直磁性層4に転写されるサーボパターンは、磁気記録媒体Wの半径方向で放射状に形成され、最内周側の磁性層領域でパターン密度が高くなるという特性がある。これらの理由により、通常、磁気記録媒体W(磁気記録媒体10)は、磁気転写を行う際、磁気記録媒体Wの最内周側の磁性層領域Aに対して磁気転写を行うのが困難となり、磁気転写ができなかったり、磁気転写精度の低下を招いたりするおそれがあった。本発明においては、図1(a)〜(c)に示すように、詳細を後述する磁気転写工程において、平面方向で最内周側の磁気転写領域Uにおける磁性層101の膜厚t1が、最外周側の磁気転写領域Sの膜厚t2よりも厚く形成されたマスター情報担体Mを用いる方法を採用している。これにより、特に、図2(b)、(c)に示す磁気記録媒体Wの最内周側の領域Aに対して、高い磁力を付与しながら磁気転写を行うことができる。これにより、本発明の製造方法においては、磁気記録媒体Wの最内周側の磁性層領域Aの保磁力が高くなっている場合、又は、内側の領域でパターン密度が高くなっている場合であっても、効率的且つ高精度で磁気転写を行うことができ、高記録密度の磁気記録媒体10を効率良く低コストで製造することが可能となる。
【0033】
(磁気記録媒体の洗浄処理)
次に、本発明においては、上記工程で磁気記録媒体Wを製造した後、後述の工程において磁気転写を施す前に、磁気記録媒体Wの表面を、従来公知のワイピング処理やバーニッシュ処理によって処理することが、後述の磁気転写をさらに高精度で行う観点からより好ましい。
【0034】
ワイピング処理は、例えば、特開平10−106229号公報等に記載されているように、布製のワイピングテープ等を用いて行われる。具体的には、ワイピング処理は、詳細な図示を省略するが、ワイピングテープを磁気記録媒体Wの表面に対して相対走行させつつ、ゴム製のコンタクトロール又はパッドによってワイピングテープの表面を磁気記録媒体Wの表面に押し当てることにより、媒体表面を軽く拭く処理である。このような処理を行うことにより、磁気記録媒体Wの表面に付着したスパッタダスト等が除去され、媒体表面が清浄化される。
【0035】
また、ワイピング処理に用いられるワイピングテープとしては、超極細繊維よりなる布帛を帯状にスリットしたワイピングテープや、超極細繊維マルチフィラメント糸の織編物などが挙げられる。
【0036】
また、ワイピングテープは、図示略の供給リールと巻取リールとの間に掛け渡され、供給リールから順次供給されて、巻取リールに順次巻き取られる。そして、この供給リール側から巻取リール側に走行する途中で、ワイピングテープの拭き面と反対側の面(裏面)がゴム等のバッキングロール又はフェルト等により押圧され、ワイピングテープの拭き面が磁気記録媒体Wの表面に押し当てられる。
【0037】
バーニッシュ処理は、磁気記録媒体Wの表面にある突起物を除去するため、研磨テープを用いてその表面を研磨する処理である。これにより、後述の磁気転写工程において、磁気記録媒体Wとマスター情報担体Mとの間に隙間が生じることで転写パターンが不鮮明となったり、マスター情報担体Mが損傷を受けたりすることを防止することが可能となる。また、磁気記録媒体Wに磁気転写を施して製造した磁気記録媒体10を用い、ハードディスクドライブ(図3に示す磁気記録再生装置50を参照)を構成した場合に、磁気ヘッドの浮上量をより小さくすることが可能となる。
【0038】
このようなバーニッシュ処理は、例えば、特開平11−277339号公報等に記載されているように、アルミナ砥粒を塗布した研磨テープ等を用いて行われる。即ち、バーニッシュ処理は、詳細な図示を省略するが、ゴム製のコンタクトロールを用いて研磨テープを磁気記録媒体Wの表面に押し当てることにより、媒体表面を軽く研磨する処理である。より具体的には、磁気記録媒体Wを回転させつつ、この磁気記録媒体Wの表面に、研磨テープの砥粒面を押し当てることによって行う。これにより、磁気記録媒体Wの表面にある突起が研磨除去され、その媒体表面が平滑化される。ここで、研磨テープは、供給リールと巻取リールとの間に掛け渡され、供給リールから順次供給されて、巻取リールに順次巻き取られる。そして、この供給リール側から巻取リール側に走行する途中で、研磨テープの砥粒面と反対側の面(裏面)が、ゴム等のバッキングロール又はフェルト等により押圧され、研磨テープの研磨面が磁気記録媒体Wの表面に押し当てられる。
【0039】
バーニッシュ処理に用いられる研磨テープ(バーニッシュテープ)としては、通常、ポリエステル製のベースフィルム上に研磨材層が形成されてなるテープを使用する。そして、この研磨材層が磁気記録媒体Wの表面と接触して摺動することにより、媒体表面に付着した微小な塵埃が除去されるとともに、その媒体表面に存在する異常突起等が研磨・除去されて媒体表面が平滑化される。
【0040】
研磨材としては、例えば、平均粒子径が0.05μm〜50μm程度の、酸化クロム、α−アルミナ、炭化珪素、非磁性酸化鉄、ダイヤモンド、γ−アルミナ、α,γ−アルミナ、熔融アルミナ、コランダム、人造ダイヤモンド等が用いられる。
【0041】
なお、上述のようなワイピング処理やバーニッシュ処理は、一般に、潤滑剤層6までを形成した後に行なわれるが、本発明においては、これらの処理と併せ、さらに、洗浄剤を用いて磁気記録媒体Wの洗浄処理を行うことがより好ましい。即ち、ワイピング工程やバーニッシュ工程では除去できない磁気記録媒体Wの表面の汚染物質を、洗浄剤によって除去することがより好ましい。
【0042】
ここで、上述のような汚染物質は、潤滑剤層6を形成する工程や、ワイピング処理、バーニッシュ処理の後では、洗浄除去することが困難となる場合がある。その理由としては、推測ではあるが、汚染物質が潤滑剤膜6に覆われると、その撥水性によって除去が困難となることや、ワイピング処理やバーニッシュ処理の後では、汚染物質が磁気記録媒体の表面に塗り込められ、除去しにくくなることが考えられる。このため、磁気記録媒体を洗浄剤によって洗浄する工程を採用する場合には、潤滑剤層6を形成する前に行うことが好ましい。
【0043】
具体的には、保護層5までを形成した磁気記録媒体の表面を、例えば、フッ素化合物を用いた非水系洗浄剤等を用い、磁気記録媒体Wを洗浄槽内の洗浄液に浸漬する方法を採用できる。この際、洗浄槽内の洗浄液に超音波振動を印加することが、洗浄力をより高めることが可能となる点からさらに好ましい。また、上記洗浄液を用いて磁気記録媒体の洗浄を行った後、さらに、純水を用いたスピン洗浄、又はドライエアを用いた引き上げ乾燥等の極短時間の浸漬洗浄を行う多段工程を採用することもできる。
【0044】
上述のように、磁気転写を施す前に、上記各方法で磁気記録媒体Wの表面を洗浄することにより、この表面に付着した塵埃や異物、汚染物質等を効率良く除去することができる。これにより、後述の磁気転写工程において、マスター情報担体Mと磁気記録媒体Wとの間に異物等が噛み込まれるのを防止でき、高精度な磁気転写を行うことが可能となる。
【0045】
「磁気転写工程」
本発明の製造方法に備えられる磁気転写工程においては、上記積層工程において製造され、必要に応じて、上記条件の洗浄工程における清浄化が施された磁気記録媒体Wに対し、サーボ信号等の書き込み処理を磁気転写によって行う。
【0046】
磁気転写工程においては、具体的には、まず、磁気記録媒体Wの信号記録面を初期磁化する。この初期磁化は、面内磁気記録媒体の場合には、トラック方向の一方向に初期直流磁界を印加することによって行い、垂直磁気記録媒体の場合は、媒体表面に対して垂直な方向の一方向に初期直流磁界を印加することによって行う。この初期直流磁界は、永久磁石や電磁石を用いて印加することが可能である。また、永久磁石としては、より安定で磁力の強いNdFeB系の焼結磁石を用いることが好ましい。また、初期直流磁界の印加は、磁気記録媒体Wと非接触の状態で行うことが、磁気記録媒体Wの表面の清浄性を維持する上で好ましい。
【0047】
次に、図1(a)に示すように、初期直流磁界の印加を行った後の磁気記録媒体Wの信号記録面と、サーボ信号等に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体Mの転写面とを接触させた状態で、互いを所定の押圧力で密着させる。そして、この状態で、マスター情報担体Mの転写面とは反対側から、磁界生成手段Gを用いて、この磁界生成手段Gを、相対的にトラック方向Xに移動させながら転写用の外部磁界を印加する。この転写用の外部磁界は、上述した初期直流磁界とは逆方向となる磁界である。これにより、磁気記録媒体Wでは、マスター情報担体Mの転写パターンと対向する箇所で磁化反転が生じ、サーボ信号等に対応した磁化パターンが磁気転写によって書き込まれることになる。
【0048】
なお、図1(a)においては、説明の都合上、磁気記録媒体Wを、非磁性基板1と垂直磁性層4のみで示し、また、マスター情報担体Mとして、磁性層101の上に積層される保護層(図1(b)の符号102を参照)を省略したものを示している。
【0049】
本発明の製造方法で用いるマスター情報担体Mは、以下のような方法で製造することができる。
具体的には、まず、シリコンウェハの表面に電子線レジストをスピンコート法により塗布する。次いで、このレジストに対して、電子線露光装置を用いてサーボ信号等に対応させて変調した電子ビームを照射し、レジストの露光・現像を行った後、未露光部分を除去することによって、シリコンウェハ上に、転写パターンに対応したレジストパターンを形成する。
【0050】
次に、このレジストパターンをマスクとして、シリコンウェハに対して反応性エッチング処理を行い、レジストでマスクされていない箇所を掘り下げる。このエッチング処理の後、シリコンウェハ上に残存するレジストを溶剤で洗浄除去する。その後、シリコンウェハを乾燥させて、マスター情報担体を作製するための原盤を得る。
【0051】
次に、この原盤上に、スパッタリング法により、Niからなる導電層を10nm程度の厚みで形成する。次いで、この導電層を形成した原盤を母型として用い、電鋳法により、この原盤上に数ミクロン厚のNi層を形成する。その後、Ni層を原盤から外し、このNi層の洗浄等を行い、図1(a)中に示すような、表面に凸部100a及び凹部100bが形成されたNi基材100を得る。なお、図2(b)、(c)においては、磁性層101に設けられる凸部100a及び凹部100bを省略して示している。
【0052】
次に、Ni基材100の表面に、垂直磁性膜からなる磁性層101を形成する。この磁性層101については、上述した磁気記録媒体Wに用いられる垂直磁性層4と同じ材料を使用することができる。
【0053】
本発明では、マスター情報担体Mに備えられる磁性層101について、平面方向で最内周側の磁気転写領域Uにおける膜厚t1を、最外周側の磁気転写領域Sの膜厚t2よりも厚く形成した構成とする。このように、Ni基材100上において、磁性層101を、最内周側の磁気転写領域Uと最外周側の磁気転写領域Sとで異なる厚さで形成する方法としては、特に限定されない。例えば、DCスパッタリング装置のチャンバ内において、ターゲットとNi基材100との位置関係を調整するか、あるいは、Ni基材100の温度を適宜調整する方法を採用することで、最内周側の磁気転写領域Uと最外周側の磁気転写領域Sの各領域における磁性層101の膜厚を制御することが可能である。
【0054】
なお、本発明においては、マスター情報担体Mの最内周側の磁気転写領域Uにおける垂直磁性層4の膜厚t1が、最外周側の磁気転写領域Sにおける膜厚t2に対して、105〜140%の範囲、より好ましくは110〜125%の範囲内で厚く形成されていることがより好ましい。この範囲は、現在、主に市販されている外径3.5インチおよび2.5インチの磁気記録媒体における、最内周領域、および最外周領域間での保磁力差の最大値、一般的なサーボパターンにおける最内周領域、および最外周領域間でのパターン密度差、得られた磁気記録媒体の電磁変換特性における最内周領域、および最外周領域間での許容差から実験的に算出している。
そして、本発明においては、垂直磁性層4の膜厚について、最内周側の磁気転写領域Uにおける垂直磁性層4の膜厚t1と、最外周側の磁気転写領域Sにおける膜厚t2との関係を上記範囲とすることにより、最内周側の磁気転写領域Uにおける磁力が効果的に高められる。これにより、後述の方法で、磁気記録媒体Wとマスター情報担体Mとを重ね合せて磁気転写を行う際、磁気記録媒体Wにおいて保磁力が高く、またはサーボパターン密度の高い箇所である最内周側の磁性層領域Aに対し、高い磁力を効果的に付与することができる。従って、効率的且つ高精度で磁気転写を行うことができ、高記録密度の磁気記録媒体10を効率良く製造することが可能となる。
【0055】
なお、Ni基材100の表面に形成された磁性層101のうち、磁気記録媒体Wへの磁気転写に用いられるのは、凸部100aが形成された部分の磁性層101であり、凹部100bが形成された部分の磁性層101は、磁気記録媒体Wと接触しないため、磁気転写には用いられない。
【0056】
さらに、このNi基材100上には、図1(b)に示すように、上述した磁気記録媒体Wに用いられる保護層4と同じ材料からなる保護層102を形成する。この保護層102は、マスター情報担体Mの耐摩耗性を高めるためのものであり、例えば、従来公知の方法によって、硬質炭素膜材料等から数nm程度の厚さの炭素膜として形成される。
【0057】
上述のような方法により、サーボ信号等に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体Mを得ることができる。このようにして得られるマスター情報担体Mは、磁気転写を行う際に繰り返し使用可能なものとなる。
【0058】
磁界生成手段Gは、電磁石や永久磁石によって構成されるものであり、面内磁気記録媒体の場合は、トラック方向の他方向に転写用の外部磁界を発生させ、垂直磁気記録媒体の場合は、媒体表面に対して垂直な方向の他方向に転写用の外部磁界を発生させる。そして、この磁界生成手段Gは、磁気記録媒体Wの半径方向において同一方向の外部磁界を発生させながら、磁気記録媒体Wの中心にトラック方向Xに回転移動させることが可能となっている。
【0059】
ここで、ハードディスクドライブに内蔵される磁気記録媒体10は、一般的に非磁性基板1の両面に磁性層が形成されており、また、1台のハードディスクドライブには、複数枚の磁気記録媒体10が内蔵される場合が多い。このため、ハードディスクドライブでは、複数の磁気ヘッドがスタック構造により一体で移動操作されるが、磁気記録媒体10のトッラク幅は益々狭くなっており、1つの磁気記録媒体10の信号記録面に書き込まれたサーボ信号等を用いて、他の信号記録面における磁気ヘッドの位置決めを行うことは、ヘッドのスタック構造の精度からは困難となっている。このため、本発明の磁気転写工程では、磁気記録媒体Wの両面に、磁気転写によってサーボ信号等を書き込むことが好ましい。具体的には、磁気記録媒体Wの両面を一対のマスター情報担体Mで挟み込んだ状態とし、この状態で、これらマスター情報担体Mの転写面とは反対側から、磁界生成手段Gを用いて転写用の外部磁界を印加する。これにより、磁気記録媒体Wの両面にサーボ信号等を書き込むことができる。
【0060】
本発明の製造方法に備えられる磁気転写工程は、上記構成の磁性層101が備えられたマスター情報担体Mを用い、磁気記録媒体Wに磁気転写を行う方法を採用したものである。これにより、磁気記録媒体Wの平面方向で最内周側の磁性層領域Aに対して、高い磁力を付与しながら磁気転写を行うことができるので、磁気記録媒体Wの平面方向において最内周側の磁性層領域Aの保磁力が高くなっている場合であっても、効率的且つ高精度で磁気転写を行うことが可能となる。
【0061】
なお、垂直磁性層4の保磁力Hcは、通常は320kA/m(約4000Oe)以上である。従って、磁気転写工程においては、この垂直磁性層4を初期直流磁化した後、磁気記録媒体Wの両面をマスター情報担体Mで挟み込み、磁気転写できる強度の磁界を、マスター情報担体Mを介して印加することで磁気転写を行うことが好ましい。
【0062】
上記磁気転写工程の後、得られた磁気記録媒体10に対するグライド検査を行なう。このグライド検査とは、磁気記録媒体10の表面に突起物が無いかどうかを検査する工程である。即ち、磁気ヘッドを用いて磁気記録媒体10に対して記録再生を行う際に、磁気記録媒体10の表面に浮上量(媒体と磁気ヘッドとの間隔)以上の高さの突起があると、磁気ヘッドが突起に衝突して磁気ヘッドが損傷したり、磁気記録媒体10に欠陥が発生したりする原因となる。グライド検査では、そのような高い突起の有無を検査する。
【0063】
そして、グライド検査をパスした磁気記録媒体10には、通常、サーティファイ検査が実施される。このサーティファイ検査とは、通常のハードディスクドライブの記録再生と同様に、磁気記録媒体10に対して磁気ヘッドで所定の信号を記録した後、その信号を再生し、得られた再生信号によって磁気記録媒体10の記録不能の有無を検出し、磁気記録媒体10の電気特性や欠陥の有無等、媒体の品質を確認するものである。
【0064】
本発明を適用して製造された磁気記録媒体10は、サーボ信号等が既に書き込まれているため、従来の方法によるサーティファイ検査とは異なる。即ち、本発明を適用して製造された磁気記録媒体10では、この磁気記録媒体10に磁気転写されたサーボ信号等を用いて、磁気ヘッドを特定箇所に位置づけして読み書きを行う形式の検査を行う。
【0065】
なお、本発明では、前記した各種洗浄方法によって表面を高度に清浄化した状態の磁気記録媒体Wに対して磁気転写を行うことで、マスター情報担体Mと磁気記録媒体Wとの間に異物が噛み込まれるのを抑制することが可能となり、より高精度の磁気転写を行うことが可能となる。
【0066】
(担体の洗浄)
本発明においては、上述のような磁気転写工程において所定回数使用されたマスター情報担体Mに対し、洗浄処理を施すことがより好ましい。
具体的には、詳細な図示を省略するが、例えば、洗浄液が層流の状態で流れる洗浄槽内にマスター情報担体Mを浸漬しながら、このマスター情報担体Mの湿式洗浄を行う。これにより、磁気記録媒体Wの表面に僅かに残留し、バーニッシュ処理や、ワイピング、スピン洗浄、従来の湿式洗浄等では除去不可能なレベルの量の汚染物質、特に金属腐食物に代表されるイオン性の不純物等が磁気記録媒体Wからマスター情報担体Mに転写された場合に、これらをマスター情報担体Mの表面から効率よく除去することが可能である。
【0067】
また、本発明においては、マスター情報担体Mの洗浄を定期的に行うことがさらに好ましい。即ち、上述した磁気記録媒体Wの表面に僅かに残留する金属腐食物等は、マスター情報担体Mに少しずつ転写されて蓄積する。そして、この蓄積物は、徐々にマスター情報担体Mの転写面を浸食し、このマスター情報担体Mによる転写精度を低下させることがある。従って、本発明では、繰り返し使用されるマスター情報担体Mが磁気転写を行う中で、マスター情報担体Mによる転写精度が低下する前に、洗浄処理を定期的に行うことが好ましい。具体的には、マスター情報担体Mの洗浄工程は、例えば、マスター情報担体Mを5000〜50000回使用する毎に行うことが好ましい。
【0068】
本発明においては、上記方法でマスター情報担体Mの洗浄処理を行うことにより、磁気記録媒体Wの表面に僅かに残留し、バーニッシュ処理や、ワイピング、スピン洗浄、従来の方法では除去不可能なレベルの量の汚染物質、特に、金属腐食物に代表されるイオン性の不純物等がマスター情報担体Mに転写された場合であっても、これらをマスター情報担体Mの表面から効率よく除去することができる。これにより、マスター情報担体Mの表面を常に清浄な状態で維持することができ、高精度の磁気転写を行うことができるとともに、マスター情報担体Mの繰返し使用可能な回数を増大させることができる。
【0069】
[磁気記録媒体]
次に、本発明を適用して製造される磁気記録媒体10の一例を図2(a)〜(c)に示す。図2(a)に示す例の磁気記録媒体10は、非磁性基板1上に、スペーサ層2bにより反強磁性結合させた2層の軟磁性層2aを含む軟磁性下地層2と、配向制御層3と、垂直磁性層4と、保護層5と、潤滑剤膜6とを順次積層した構造を有している。
【0070】
また、垂直磁性層4は、下層の磁性層4aと、中層の磁性層4bと、上層の磁性層4cとの3層を含み、磁性層4aと磁性層4bの間で非磁性層7aを、磁性層4bと磁性層4cの間で非磁性層7bを挟み込むことで、これら磁性層4a〜4cと非磁性層7a、7bとが交互に積層された構造を有している。
【0071】
本発明の製造方法を適用して得られる磁気記録媒体10は、非磁性基板1の垂直方向に磁化が付与される垂直磁性層4を備えることで、読み出しヘッド及び書き込みヘッドを備えた磁気ヘッド57(図3の磁気記録再生装置50を参照)により、情報信号の書き込み及び読み出しが行われる。
【0072】
非磁性基板1としては、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属材料からなる金属基板を用いてもよく、また、ガラスや、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。また、これら金属基板や非金属基板の表面に、例えばメッキ法やスパッタ法などを用いて、NiP層又はNiP合金層が形成されたものを用いることもできる。
【0073】
非磁性基板1に用いられるガラス基板としては、例えば、アモルファスガラスや結晶化ガラスなどを用いることができ、アモルファスガラスとしては、例えば、汎用のソーダライムガラスや、アルミノシリケートガラスなどを用いることができる。また、結晶化ガラスとしては、例えば、リチウム系結晶化ガラスなどを用いることができる。セラミック基板としては、例えば、汎用の酸化アルミニウムや、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体、又はこれらの繊維強化物などを用いることができる。
【0074】
非磁性基板1は、その平均表面粗さ(Ra)が1nm(10Å)以下、より好ましくは0.5nm以下であるとことが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、表面の微小うねり(Wa)が0.3nm以下(より好ましくは0.25nm以下)であることが、上述のように磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録により適している点から、さらに好ましい。また、端面のチャンファー部の面取り部と、側面部との少なくとも一方の表面平均粗さ(Ra)が10nm以下、より好ましくは9.5nm以下のものを用いることが、磁気ヘッドの飛行安定性の点から好ましい。
なお、微少うねり(Wa)は、例えば、表面荒粗さ測定装置P−12(KLM−Tencor社製)を用い、測定範囲80μmでの表面平均粗さとして測定することができる。
【0075】
また、非磁性基板1は、Co又はFeが主成分となる軟磁性下地層2と接することで、表面の吸着ガスや、水分の影響、基板成分の拡散等によって腐食が進行する可能性がある。このような場合には、非磁性基板1と軟磁性下地層2の間に図示略の密着層を設けることが好ましく、これにより、上述した腐食進行を抑制することが可能となる。なお、密着層の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金等の中から適宜選択することが可能である。また、密着層の厚みは2nm(20Å)以上であることが好ましい。
【0076】
軟磁性層2a、2cとしては、Fe:Coを40:60〜70:30(原子比)の範囲で含む材料を用いることが好ましい。また、その透磁率や耐食性を高めるために、Ta、Nb、Zr、Crの中から選ばれる何れか1種を1〜8原子%の範囲で含有させることがより好ましい。また、スペーサ層2bとしては、Ru、Re、Cu等を用いることができるが、この中で特にRuを用いることが好ましい。
【0077】
配向制御層3は、垂直磁性層4の結晶粒を微細化して、記録再生特性を改善するためのものである。この配向制御層3の材料としては、特に限定されるものではないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有するものを用いることが好ましく、特に、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金を用いることが好ましい。また、これらの合金を多層化しても良く、例えば、基板側からNi系合金とRu系合金との多層構造、Co系合金とRu系合金との多層構造、Pt系合金とRu系合金との多層構造を採用することが好ましい。
【0078】
ここで、配向制御層3直上の垂直磁性層4の初期部には、結晶成長の乱れが生じ易いため、これがノイズの原因となる。このような場合には、配向制御層3と垂直磁性層4の間に非磁性下地層8を設けることが好ましい。これにより、垂直磁性層4の初期部における乱れた部分を、非磁性下地層8で置き換えることができ、ノイズの発生を抑制することが可能となる。
【0079】
非磁性下地層8としては、Coを主成分とし、更に酸化物を含んだ材料からなるものを用いることが好ましい。また、非磁性下地層8におけるCoの含有量は、25原子%以上、50原子%以下とすることが好ましい。酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Co等の酸化物を用いることが好ましく、その中でも、特に、TiO、Cr、SiO等を好適に用いることができる。酸化物の含有量としては、磁性粒子を構成する、例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上、18mol%以下とすることが好ましい。
【0080】
垂直磁性層4を構成する磁性層4a、4b、4cとしては、Coを主成分とし、更に酸化物を含んだ材料を用いることが好ましく、この酸化物としては、例えば、Cr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Co等の酸化物を用いることが好ましい。これらの中でも、特に、TiO、Cr、SiO等を好適に用いることができる。また、下層の磁性層4aは、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも特に、Cr−SiO、Cr−TiO、Cr−SiO−TiO等を好適に用いることができる。
【0081】
磁性層4a、4b、4cに適した材料としては、例えば、90(Co14Cr18Pt)−10(SiO){Cr含有量14原子%、Pt含有量18原子%、残部Coからなる磁性粒子を1つの化合物として算出したモル濃度が90mol%、SiOからなる酸化物組成が10mol%}、92(Co10Cr16Pt)−8(SiO)、94(Co8Cr14Pt4Nb)−6(Cr)の他、(CoCrPt)−(Ta)、(CoCrPt)−(Cr)−(TiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)−(TiO)、(CoCrPtMo)−(TiO)、(CoCrPtW)−(TiO2)、(CoCrPtB)−(Al)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y)、(CoCrPtRu)−(SiO)等の組成物を挙げることができる。
【0082】
また、本発明では、上記組成の垂直磁性層4を、4層以上の磁性層で構成することも可能である。例えば、上記磁性層4a、4bに加えて、グラニュラー構造の磁性層を3層で構成し、その上に、酸化物を含まない磁性層4cを設けた構成とし、また、酸化物を含まない磁性層4cを2層構造として、磁性層4a、4bの上に設けた構成とすることができる。
【0083】
また、本発明では、図2(a)に示すように、垂直磁性層4を構成する3層以上の磁性層の各々の間に、さらに、非磁性層7a、7bを設けることがより好ましい。このように、垂直磁性層4の各層の間に非磁性層7を適度な厚みで設けることで、個々の膜の磁化反転が容易になり、磁性粒子全体の磁化反転の分散を小さくすることができる。その結果、磁気記録媒体のS/N比をより向上させることが可能となる。
【0084】
上述した通り、図2(b)に示す例のように、垂直磁性層4をマグネトロンスパッタ法等によって成膜した場合には、磁気記録媒体Wの最内周側の磁性層領域Aの膜厚T1が、最外周側の磁性層領域Bの膜厚T2よりも厚く形成される。また、非磁性基板1の中央部には回転軸として用いられる開口孔があるため、成膜の際に最内周側の磁性層領域Aで温度が上がりやすく、磁性粒子の配向性が高められるという特性がある。またさらに、垂直磁性層4に転写されるサーボパターンは、磁気記録媒体Wの半径方向で放射状に形成されるので、最内周側の領域でパターン密度が高くなるという特性がある。磁気記録媒体W(磁気記録媒体10)は、上記各理由により、通常、最内周側の磁性層領域Aの保磁力が最外周側の磁性層領域Bに比べて高くなるので、磁気記録媒体Wの最内周側の磁性層領域Aに対して磁気転写を行うのが困難になるという問題があった。本発明においては、上述したように、磁気転写工程において、平面方向で最内周側の磁気転写領域Uにおける磁性層101の膜厚t1が、最外周側の磁気転写領域Sの膜厚t2よりも厚く形成されたマスター情報担体Mを用いて磁気転写を行う方法を採用している。これにより、垂直磁性層4の内、特に、保磁力が高められた最内周側の磁性層領域Aの位置に対して高い磁力を付与できるので、高記録密度の磁気記録媒体10が得られる。
【0085】
保護層5は、垂直磁性層4の腐食を防止するとともに、磁気ヘッド(図3中の符号57を参照)が磁気記録媒体に接触した際に、媒体表面の損傷を防止するために設けられるものである。このような保護層5としては、従来公知の材料を用いることができ、例えば、硬質炭素膜(C)から構成することが可能である。また、保護層5の材料としては、その他、SiO、ZrO等、通常用いられる保護層材料を含むものを用いることが可能である。
【0086】
また、保護層5の厚みは、1〜10nmの範囲とすることが、磁気ヘッドと磁気記録媒体の距離を小さくできるので、高記録密度の点から好ましい。保護層の膜厚が上記範囲を超えると、磁気ヘッドと垂直磁性層との間の距離が大きくなり、十分な強さの出入力信号が得られなくなる虞がある。また、保護層5が、2層以上の層から構成されていてもよい。
【0087】
潤滑剤膜6としては、例えば、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤を保護層5上に塗布することによって形成される。また、潤滑材膜6の膜厚としては、通常1〜4nm程度の厚さで形成される。
【0088】
磁気記録媒体10は、上記各構成により、垂直磁性層4によって形成される図示略の磁気記録パターンに、磁気ヘッド(図3に示す磁気記録再生装置50の磁気ヘッド57を参照)によって磁気記録あるいは再生を行なうことが可能な構成とされる。また、本実施形態の磁気記録媒体10は、本発明に係る製造方法によって得られるものなので、優れた記録再生特性が確保され、高記録密度に対応可能なものとなる。
【0089】
[磁気記録再生装置]
次に、本発明を適用して製造された磁気記録媒体10を備える磁気記録再生装置(ハードディスクドライブ)の構成を図3に示す。
図3に示す磁気記録再生装置50は、図2(a)〜(c)に示すような本発明を適用して製造された磁気記録媒体10と、この磁気記録媒体10を記録方向に駆動する媒体駆動部51と、記録部と再生部からなり磁気記録媒体10に情報を記録再生する磁気ヘッド57と、この磁気ヘッド57を磁気記録媒体10に対して相対運動させるヘッド駆動部58と、磁気ヘッド57への信号入力と磁気ヘッド57からの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせた記録再生信号系59とを具備して構成される。これらを組み合わせることにより、記録密度の高い磁気記録再生装置50を構成することが可能となる。
【0090】
また、記録再生信号系59は、外部から入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド57に送り、この磁気ヘッド57からの再生信号を処理してデータを外部に送ることが可能となっている。また、この磁気記録再生装置が備える磁気ヘッド57には、再生素子として巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用したGMR素子などを有した、より高記録密度に適した磁気ヘッドを用いることができる。
【0091】
上記構成の磁気記録再生装置50によれば、磁気記録媒体として、本発明を適用して製造された高記録密度、高速書き込み、並びに、優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体10を採用することで、優れたハードディスクドライブを実現することが可能である。
【0092】
以上説明したような、本発明に係る磁気記録媒体10の製造方法によれば、上記構成の如く、磁気記録媒体Wへの磁気転写を行うにあたり、平面方向で最内周側の磁気転写領域Uにおける磁性層101の膜厚t1が、最外周側の磁気転写領域Sの膜厚t2よりも厚く形成されたマスター情報担体Mを用いる方法を採用したので、マスター情報担体Mと磁気記録媒体Wとを重ね合せて磁気転写を行なう際、特に、磁気記録媒体Wの平面方向で最内周側の磁性層領域Aに対して、高い磁力を付与しながら磁気転写を行うことができる。従って、磁気記録媒体Wの平面方向において最内周側の磁性層領域Aの保磁力が高くなっている場合であっても、効率的且つ高精度で磁気転写を行うことができ、高記録密度の磁気記録媒体10を効率良く低コストで製造することが可能となる。
【実施例】
【0093】
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法について、実施例及び比較例を示してより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0094】
[実施例]
(磁気記録媒体の製造)
実施例では、まず、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、このガラス基板の上に、60Cr−40Tiターゲットを用いて層厚10nmの密着層を成膜した。また、この密着層の上に、46Fe−46Co−5Zr−3B{Fe含有量46原子%、Co含有量46原子%、Zr含有量5原子%、B含有量3原子%}のターゲットを用いて、100℃以下の基板温度で、層厚34nmの軟磁性層を成膜し、この上にRu層を層厚0.76nmで成膜した後、さらに、46Fe−46Co−5Zr−3Bの軟磁性層を層厚34nm成膜して、これを軟磁性下地層とした。
【0095】
次に、上記軟磁性下地層の上に、Ni−6W{W含有量6原子%、残部Ni}ターゲット、Ruターゲットを用いて、それぞれ5nm、20nmの層厚で順に成膜し、これを配向制御層とした。
【0096】
次に、配向制御層の上に、多層構造の磁性層として、84(Co12Cr16Pt)−16TiO(平均膜厚3nm)、91(Co5Cr22Pt)−4SiO−3Cr−2TiO(平均膜厚3nm)、Ru47.5Co(平均膜厚0.5nm)、Co15Cr16Pt6B(平均膜厚3nm)の各層を順次積層した。そして、各層の成膜後、断面TEM観察によってデータ領域の最外周と最内周のスパッタ膜厚を測定したところ、最内周の膜厚が、最外周の膜厚に比べ約11%厚く、その領域間の膜厚は、ほぼ直線的に変化していた。また、データ領域の最外周と最内周の保磁力について、カー効果測定装置を用いて測定したところ、最内周の保磁力が、最外周の保磁力に比べて約13%高いことが確認された。
【0097】
次に、上記磁性層の上に、CVD法により、層厚2.5nmの炭素保護層を成膜した。
【0098】
次に、保護層までを形成した磁気記録媒体の表面を洗浄した。具体的には、フッ素化合物を用いた非水系洗浄剤等を用い、保護層までを形成した磁気記録媒体を洗浄槽内の洗浄液に浸漬することで、保護層表面を洗浄した。
【0099】
そして、洗浄後の保護層の表面に、ディッピング法により、パーフルオロポリエーテルからなる潤滑剤層を、厚さ15オングストロームで形成することにより、実施例の磁気記録媒体を得た。
【0100】
次に、潤滑剤層までを形成した後に洗浄処理を行った磁気記録媒体に対し、ワイピング処理を施した。この際、ワイピングテープとしては、ナイロン樹脂とポリエステル樹脂による線径2μmの剥離型複合繊維からなるものを用いた。また、ワイピング処理は、磁気記録媒体の回転数を300rpm、ワイピングテープの送り速度を10mm/秒、ワイピングテープを磁気記録媒体に押し当てる際の押圧力を98mN、処理時間を5秒間として行った。なお、このようなワイピング処理に際し、ワイピングテープに対してパーフルオロポリエーテルを噴霧することで、テープ表面に約0.01μmの潤滑剤膜を形成した。
【0101】
次に、ワイピング処理を施した磁気記録媒体に対して、バーニッシュ処理を施した。この際、バーニッシュテープとしては、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム上に、平均粒径0.5μmの結晶成長タイプのアルミナ粒子をエポキシ樹脂で固着したものを用いた。また、バーニッシュ処理は、磁気記録媒体の回転数を300rpm、研磨テープの送り速度を10mm/秒、研磨テープを磁気ディスクに押し当てる際の押圧力を98mN、処理時間を5秒間として行った。
【0102】
次に、バーニッシュ加工を施した磁気記録媒体に対して初期磁化を施した。具体的には、磁気記録媒体の両データ面に対し、磁気記録媒体を貫通する10kOeの磁界を、NdFeB系焼結磁石を用いて印加した。
【0103】
(マスター情報担体の製造)
マスター情報担体としては、271kトラック/インチのサーボ信号等の転写パターンが形成されたものを製造した。この際、マスター情報担体を、そのトラックを幅120nm、トラック間隔を60nm、転写パターンの段差を45nmとして製造した。また、このマスター情報担体は、凸部及び凹部を有するNi基材の上に、DCスパッタリング法を用いて、層厚10nmのRu膜、磁性層として70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金膜を、データ領域の最内周の膜厚を22nm、最外周の膜厚を18nm、その領域間の膜厚を略直線状に変化させて積層し、さらにその上に、70Co−5Cr−15Pt合金膜を、データ領域の最内周の膜厚を17nm、最外周の膜厚を14nm、その領域間の膜厚を略直線状に変化させて積層し、さらにその上に、保護層として層厚20nmの炭素膜を形成して製造した。
【0104】
(磁気転写工程)
次に、バーニッシュ加工を施した磁気記録媒体に対して、上記マスター情報担体を用いた磁気転写により、サーボ信号等を書き込んだ。具体的には、初期磁化を施した磁気記録媒体の両面に、マスター情報担体を98mNの圧力で密着させ、このマスター情報担体の裏面から記録磁界を印加した。この記録磁界の強度は4kOeとし、転写時間は10秒間とした。
このような条件で磁気記録媒体に磁気転写を施すことにより、磁気記録媒体を製造した。
【0105】
(磁気転写後の磁気記録媒体の評価)
本実施例では、上記方法で製造した磁気記録媒体について、以下のような評価を行った。具体的には、サーボ信号の再生特性を、リードライトアナライザ(型番:RWA1632;米国GUZIK社製)、及び、スピンスタンド(型番:S1701MP)を用いて測定した。この装置は、磁気記録媒体に記録されたサーボ信号等を読み込み、この信号を用いて磁気ヘッドの位置決めができるものである。また、この際、評価用の磁気ヘッドとして、TuMRを用いた磁気ヘッドを使用してサーボ信号の読み込み時のS/N比を評価した。その結果、磁気記録媒体の最外周側のトラックにおけるS/N比は16.8dBであり、最内周側のトラックにおけるS/N比も16.8dBで、差が見られなかった。
【0106】
[比較例]
比較例においては、上記実施例と同様に磁気記録媒体を製造して評価を行ったが、磁気転写工程において用いるマスター情報担体として、Ni基材上に磁性層がフラット、即ち、データ領域の全面において、膜厚20nmの70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金膜と、厚さ15nmの70Co−5Cr−15Pt合金膜をフラットに順次積層したものを用いた。
その結果、磁気記録媒体の最外周のトッラックにおけるS/N比は16.8dBであったが、最内周のトッラックにおけるS/N比は16.4dBと、最外周に比べて低かった。
【0107】
以上、本実施例の結果により、本発明に係る方法によって磁気記録媒体を製造することにより、磁気記録媒体の平面方向において最内周側の領域の保磁力が高くなっている場合であっても、効率的且つ高精度で磁気転写を行うことができ、高記録密度の磁気記録媒体を効率良く低コストで製造することが可能であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、磁気記録再生装置、所謂ハードディスクドライブに用いられる磁気記録媒体の製造工程に適用することで、電磁変換特性に優れた磁気記録媒体を高い生産性で製造することが可能となり、産業上の利用可能性は計り知れない。
【符号の説明】
【0109】
10…磁気記録媒体、
W…磁気記録媒体、
1…非磁性基板、
2…軟磁性下地層、
2b…スペーサ層、
2a…軟磁性層、
3…配向制御層、
4…垂直磁性層(磁性層)、
4a、4b、4c…磁性層、
5…保護層、
6…潤滑剤膜、
7、7a、7b…非磁性層、
A…最内周側の領域(磁気記録媒体)、
B…最外周側の領域(磁気記録媒体)、
50…磁気記録再生装置、
51…媒体駆動部、
57…磁気ヘッド、
58…ヘッド駆動部、
59…記録再生信号系、
M…マスター情報担体、
100…Ni基材、
100a…凸部、
100b…凹部、
101…磁性層(垂直磁性膜)、
102…保護層、
U…最内周側の領域(マスター情報担体)、
S…最外周側の領域(マスター情報担体)、
t1…厚さ(最内周側の領域:マスター情報担体)、
t2…厚さ(最外周側の領域:マスター情報担体)、
G…磁界生成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板の上に少なくとも磁性層が形成された磁気記録媒体と、情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体とを重ね合わせた後、前記マスター情報担体側から外部磁界を印加しながら、前記マスター情報担体から前記磁気記録媒体へと情報信号を磁気転写する工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、
前記磁気転写を行う際、平面方向で最内周側の領域における磁性層の膜厚が、最外周側の領域の膜厚よりも厚く形成されたマスター情報担体を用いることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記マスター情報担体は、平面方向で最内周側の磁気転写領域における前記磁性層の膜厚が、最外周側の磁気転写領域における膜厚に対して、105〜140%の範囲で厚く形成され、その間の領域において膜厚が略直線状に変化していることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記マスター情報担体は、凹凸パターンが形成された基材上に、少なくとも、前記磁性層が積層されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
非磁性基板の上に、少なくとも磁性層を形成して磁気記録媒体を得る工程と、この磁気記録媒体と、情報信号に対応する転写パターンが形成されたマスター情報担体とを重ね合わせた後、前記マスター情報担体側から外部磁界を印加しながら、前記マスター情報担体から前記磁気記録媒体へと情報信号を磁気転写する工程とを含む磁気記録媒体の製造方法であって、
前記磁気記録媒体を得る工程は、略円板状とされ、略中央付近に開口孔が設けられた非磁性基板の上に、マグネトロンスパッタ法によって前記磁性層を成膜し、
前記情報信号を磁気転写する工程は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のマスター情報担体を用いて、前記磁気記録媒体に磁気転写することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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