説明

磁気記録媒体の製造方法

【目的】磁気記録媒体の磁性層の保護層として、硬質で耐久性・低摩擦性の膜であって、膜厚分布がよく、低圧力から高圧力まで対応できる膜を有する磁気記録媒体を提供する。
【構成】非磁性基体上に磁性層と保護層と潤滑層が設けられている磁気記録媒体の製造において、絶縁された回転ドラムおよびガイドロールを配し、対極に正電位を印加した電極を設け、回転ドラムに高周波として、50k〜450kHzをパルス波にて印加して、磁性層上に保護層として水素含有プラズマ重合膜を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【効果】保護層として硬質で耐久性・低摩擦性の膜が形成され、膜厚分布もよく、これにより、低圧力から高圧力まで対応できる膜を有する磁気記録媒体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は磁気記録媒体の製造方法に関し、特に磁気記録媒体の保護膜として、硬質で耐久性・低摩擦な膜であって、膜厚分布がよく低圧力から高圧力まで対応できる磁気記録媒体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】強磁性金属薄膜を磁性層とする磁気記録媒体は飽和磁束密度が大きく、保磁力が高く、電磁変換特性にすぐれている等すぐれた特性を有する。従来から、強磁性金属薄膜を磁性層とする磁気記録媒体の電磁変換特性、走行性、耐久性、耐摩耗性等を改善するにあたり、種々の磁気記録媒体及びその製造方法が提案されている。例えば、強磁性金属薄膜を磁性層とする磁気記録媒体において、強磁性金属薄膜を有する高分子支持体の金属薄膜上に、厚さ20〜270Åのプラズマ重合層を付与し、更に末端に炭素炭素不飽和基を有する炭素数8以上の化合物の群から成る一種以上の化合物による滑性層をプラズマ重合層の上に設けたことからなる磁気記録媒体及びその製造方法(特開昭59−154643号公報)、非磁性支持体上に強磁性金属薄膜を設けてなる磁気記録媒体の前記強磁性金属薄膜表面にプラズマ重合により保護膜を形成するにあたり、モノマーガスとしてシラザン系化合物を用いてプラズマ重合を行ない、該プラズマ重合の際のキャリヤーガスとしてアルゴンガスまたは酸素ガスを用い、モノマーガスとキャリヤーガスの混合比を体積比で60:40〜85:15とすることからなる磁気記録媒体の製法(特公平5−50049号公報)、真空チャンバー内に配置された一対の平行電極板の間に、大気圧以下の炭化水素ガスを主成分とする原料ガスを供給し、前記電極板の一方をアースし、他方に基板を乗せ、該基板を乗せた電極板に整合回路を介して周波数150〜460kHzの交流電源を接続することにより、前記電極板間にグロー放電を生じさせ、以て前記基板上に硬質炭素被膜を製造する方法において、下記式(I)の値(α)を100〜2200にすることを特徴とするカミソリの刃で傷の付かない硬質炭素被膜を製造する方法
【0003】
【数1】


【0004】但し、Fは交流電源の出力〔単位:ワット〕、Vは放流空間の容積〔単位:リットル〕、Pはチャンバー内の圧力〔単位:torr.〕、Sは炭化水素ガスの流量〔単位:sccm〕(特公平5−26867号公報)及び非磁性基板上に強磁性金属薄膜を形成し、この磁性層上にプラズマ重号膜、ダイヤモンド状炭素膜さらに潤滑剤層をこの順に設けた磁気記録媒体の製造方法において、前記ダイヤモンド状炭素膜を、80Hzから200kHzの周波数、プラス500ボルト以上のピーク電圧で、炭素数3以上の炭化水素を原料としたプラズマCVD法により連続的に成膜することからなる磁気記録媒体の製造方法(特開平3−224132号公報)等が知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記従来の磁気記録媒体の製造方法に用いられる、特開昭59−15463号公報や特開平5−50049号公報に示されている装置では、基体がプラズマ空間を通過するために、成膜される膜が高硬度にならず、また、接着性も悪い。また、特公平5−26867号公報に示されている装置では、高周波を印加する電極側にサンプルを設置するが、膜厚分布が悪く、特に中心付近では薄くなる傾向がある。さらに、特開平3−224132号公報に示されている装置は通常WEB状の基体は処理する時使用されるが、この方法では低圧力(10-3〜10-1Torr)では問題ないが、高圧力(10-1〜10Torr)領域では膜質が良くならない欠点を有する。したがって、硬質で耐久性・低摩擦な膜であって、膜厚分布がよく低圧力から高圧力まで対応できる保護層を有する磁気記録媒体の製造方法が要望されている。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記の課題を解決すべく、鋭意研究の結果、非磁性基体上に磁性層と保護層と潤滑層が設けられた磁気記録媒体の製造方法において、絶縁された回転ドラムの対極に正電位を印加した電極を設け、該回転ドラムに特定の高周波を印加して、磁性上に保護層として水素含有プラズマ重合膜を形成することにより前記の課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明は■非磁性基体上に磁性層と保護層と潤滑層が設けられている磁気記録媒体の製造において、保護層として絶縁された回転ドラムおよびガイドロールを配し、対極に正電位を印加した電極を設け、回転ドラムに高周波として、50k〜450kHzをパルス波にて印加して、磁性層上に水素含有プラズマ重合膜を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法、■炭化水素と無機ガズとからなる原料ガスよりプラズマ重合膜を形成する請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法、■正電位がアース電位に対しての電圧として、その電圧をVとし、電極と回転ドラムの距離をTとしたとき、V/T=100〜300V/cm未満である請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法、及び■磁性層が強磁性金属薄膜層である請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法、に関する。本発明においては、絶縁された回転ドラムおよびガイドロールを配し、対極に正電位を印加した電極を設け、回転ドラムに高周波として、50k〜450kHzをパルス波にて印加して、磁性層上に保護層として水素含有プラズマ重合膜を形成するものである。
【0007】例えば図1に示すDLC膜装置にて保護層を形成する。該DLC膜装置において、非磁性基体上に磁性層を形成したテープ(フィルム)である繰り出し側テープサンプル3を回転ドラム電極6を介して、巻き取り側テープサンプル4として巻き取られるようになっている。チャンバー9内を10-6Torr程度まで真空排気した後、水素含有プラズマ重合膜の原料ガスを定められ量マスクローコントローラにて導入する。所定の圧力に達したら、電極1にて対極に正電位を印加した後、高周波電源2によって、回転ドラムに高周波を印加してプラズマ放電を発生させ回転ドラム電極上でフィルムの磁性層上に水素含有プラズマ重合膜を形成する。なお、チャンバー構造は、図1に示すように仕切板7の下部の成膜室と上部の巻き取り室に分けられる。その際成膜室の真空は1〜10-3Torrの範囲とし、巻き取り室は10-4Torr台に保たれることが望ましい。このようにすることにより、巻き取り室には放電は発生せず、成膜室のみ放電が発生する。なお、図1中、10は直流(DC)バイアス用電源である。保護層として形成される水素含有プラズマ重合膜の原料としては、炭化水素および無機ガスを含有する種々のものを用いることができる。炭化水素としては常温で気体のメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、エチレン、プロビレン、ブテン、ブタジエン、アセチレン、メチルアセチレン、などの脂肪族炭化水素、その他の飽和ないし不飽和の炭化水素の1種以上をベンゼン、トルエンなどの芳香族として用いる。又、無機ガスとしては水素、アルゴン、He、O2、N2O、NO2 等であり、これら無機ガスは例えば水素は炭化水素に対して0.5〜2の範囲で同時に流入させることができる。プラズマ重合する際、回転ドラムに周波数が50kHz〜450kHzを印加するが、この範囲外になると、即ち50kHz未満の周波数では性質がDC(直流)に近づくので、長時間の稼働により膜が周囲に積層してくると、放電が不安定になるために膜質に異常をきたす。又、、イオンによるダメージが大きくテープの性質を損なってくる。また、450kHzを超える周波数とすると、イオンの動きが緩慢になり、膜質がソフトとなり、耐久性に耐えられない膜となる。又、パルスの印加はデューティー比(ON/OFF比)を0.2〜2.5が良く、特に0.5〜2が良い。周波数は1〜1kHzがよく、好ましくは10〜500Hzである。ON時間は、500μ〜0.1SEC、OFF時間は、500μ〜0.1SECが望ましい。デューティー比が0.2以下とすると、放電が安定せず、また、2.5以上では連続とあまり変わらない。周波数は、1Hzより長いと効果がでず、また1kHz以上短いと連続と変わらない。
【0008】非磁性基体は、通常はポリエチレンテレフタレートなどのプラスチックフィルムを用いる。その他、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルフォン、ポリイミド、アラミドなどのエンジニアプラスチックフィルムであれば、特に問題はない。磁性層は、CoまたはCo合金が望ましい。Co合金としては、Co−Ni、Co−Cr、Co−Fe、Co−Ni−Cr、Co−Cu、Co−Pt−Crなどを用いることができる。その他、特に結晶異方性を有する磁性材料であれば、問題ない。製法は特に限定はないが、量産を考慮した場合、蒸着法が望ましい。勿論スパッタ法、イオンプレーティング法、イオン化蒸着法など用途に応じて使用すれば良い。蒸着法の場合は、斜め蒸着法により成膜される。角度的には、基盤より20度〜60度程度の範囲にあれば良い。特に磁化容易軸が30度±10度程度がさらに良い。また、表面硬化と磁気特性制御として、蒸着中に酸化性ガス(酸素、オゾン、N2Oなど)を導入する。構造は単層、多層いずれでもよく、特に制限はない。多層の場合、同方向、逆方向いずれでもよく特に制限は無く、用途に合わせて適宜選択すれば良い。潤滑層は、パーフロロポリエーテル、パ−フロロカルボン酸、フォスファゼン、パーフロロアクリレートなどが使用でき、特に、パーフロロポリエーテル系が望ましい。潤滑層は、潤滑剤を溶剤に0.1〜1wt%程度の濃度にて溶解し塗布する。塗布法は、グラビア法、リバース法、ダイノズル法、ディップ法、スピンコートなど特に限定されるものではない。用途に合わせて選択する。膜厚としては、20〜50A程度とする。膜厚測定は、ESCAにて行なう。本発明では、前記の通りの図1の装置による製造方法であって、特に、高周波を印加した側にサンプルをセットし、対極に正電位を印加したことを特徴とするものである。プラズマ空間を通過させるタイプ(図2参照)では、明確な理論は不明だが金属磁性層が、電気的にフローティング状態になり、プラズマ中のイオンが到達した時点で帯電し、次のイオンが成膜できず、結局、電位に関係ないラジカルのみが成膜に関与すると考えられる。そのために、高硬度な膜にならず効果が生じない。また、高周波を印加する側にサンプルを設置した場合(図3参照)、対極をアースにするとサンプルに覆われていない部分のみにて放電が発生するために、サンプルの周囲では放電が強く、中心部では弱いことになる。そのために、膜厚分布が悪い結果となる。またテープ側に印加する高周波がテープ基板であるプラスチックフィルムが絶縁物であるために直接印加してもテープ上に電位が達しないためである。それに対し、パルス波にて印加すると絶縁物を介しても電位が印加される。本発明では、回転ドラムに高周波を印加する点では前記特公平5−26867号公報記載の発明と同じであるが、対極に正電位を印加することに特徴がある。正電位を対極に印加することにより、プラズマがサンプル中心まで引き寄せられ均一化する。また、サンプル側に高周波を印加するために、セルフバイアス効果により強くイオンが引き寄せられる効果により、より硬度の高い膜が成膜する。そして、サンプルが回転ドラムに接触しているために、導電性のプラズマにより、サンプル上に電位が印加される。電極1と回転ドラム6の距離Tと電圧Vの関係V/Tは100〜300V/cm未満が好ましい。さらには150〜250V/cm程度が好ましい。この値を越えると、媒体に異常放電等によりダメージが発生し、あまり低いと効果がでない。大きな電位を印加する際は、必要に応じて電極1と回転ドラム6の距離を調整することにより、目的が達せられる。
【0009】
【作用】絶縁された回転ドラムを配置し、その対極に正電位を印加した電極を設け、該回転ドラムに高周波として、50k〜450kHzをパルス波にて印加して、保護層として水素含有プラズマ重合膜を形成することにより、硬質で耐久性・低摩擦な膜であって、膜厚分布のよい、低圧力から高圧力まで対応できるものができる。
【0010】
【実施例】以下に実施例を説明する。なお磁気記録テープの特性測定は以下の方法によった。
1)膜厚分布蒸着したテープ原反の幅方向に5個Siウエファを張り付け、通過させながら成膜し、その膜厚を測定しCV値(統計的分布表示)を算出して〜5%を○、6〜10%△、11%以上を×とした。
2)初期摩擦180度ピン摩擦試験機にて測定した1PASS目の摩擦係数3)耐久摩擦180度ピン摩擦試験機にて測定した350PASS目の摩擦係数4)保存後スチル40℃80%RH環境下、ソニー社製S900デッキにてRF出力が−5dBになるまでのスチル時間を測定した。
5)電磁変換特性20℃、60%RH環境下、ソニー社製S900デッキ(Hi−8用)にて7MHz信号を5分間記録再生を5回繰り返したのちのRF出力を測定した。基準は1回目のRF出力とし、dB表示した。
実施例1〜23、比較例1〜11厚さ10μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基体上に、Co80at%−Ni20at%の合金を酸素雰囲気下で蒸着法にて成膜した蒸着角度は、磁化容易軸が30度となるようにし、磁性層は逆方向2層構造とした(各膜厚1000Å)その上に図1に示すDLC膜装置にて、炭化水素及び無機ガスを使用してプラズマ重合し保護層とした。即ちチャンバー9内の下部の成膜室内を10-5Torrに排気し、上部巻き取り室内を10-5Torrに排気した後、原則として炭化水素と無機ガスを所定量導入してW/FMをコントロールして、圧力を0.1Torrに調整し、図1の電極構造とし、放電周波数に印加し、プラズマ放電を発生させて、プラズマ重合した(膜厚100Å)。又参考のため図2及び図3の電極構造のものを用いてプラズマ重合を行なった。次いで形成された保護層上に潤滑剤として、0.5wt%に希釈したクライトックス(143AZ、デュポン社製)をグラビア塗布法にて塗布して塗膜を形成し(膜厚30Å)。結果を表1に示す。
【0011】
【表1】


【0012】
【発明の効果】本発明により、保護膜として硬質で耐久性・低摩擦な膜が形成され、膜厚分布もよく、これにより、低圧力から高圧力まで対応できる電磁変換特性のすぐれた磁気記録媒体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明におけるDLC膜製造装置の模式図である。
【図2】従来法のDLC膜製造装置の模式図である。
【図3】従来法のDLC膜製造装置の模式図である。
【符号の説明】
1 電極
2 高周波電源
3 繰り出し側テープサンプル
4 巻き取り側テープサンプル
5 サンプルピース
6 回転ドラム電極
7 仕切板
8 ガイドロール
9 チャンバー
10 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】非磁性基体上に磁性層と保護層と潤滑層が設けられている磁気記録媒体の製造において、絶縁された回転ドラムおよびガイドロールを配し、対極に正電位を印加した電極を設け、回転ドラムに高周波として、50k〜450kHzをパルス波にて印加して、磁性層上に保護層として水素含有プラズマ重合膜を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】炭化水素と無機ガスとからなる原料ガスよりプラズマ重合膜を形成する請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】正電位がアース電位に対しての電圧として、その電圧をVとし、電極と回転ドラムの距離をTとしたとき、V/T=100〜300V/cm未満である請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】磁性層が強磁性金属薄膜層である請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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