説明

磁気記録媒体をUV処理する方法および装置

【課題】磁気記録媒体の潤滑層の膜厚のバラつきを抑制し、均一な潤滑層の膜厚の磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性基体上に、磁性膜、保護膜、および潤滑膜を含む磁気記録媒体をUV処理する方法であって、磁気記録媒体を収納するためのカセットと、磁気記録媒体をUV処理するためのUVランプと、UVランプを収納するためのUVランプハウスと、磁気記録媒体をUVランプハウスから出し入れする際にUVランプハウスの内部を外気から遮蔽するためのカーテンと、を準備する工程と、磁気記録媒体をUVランプで照射する照射工程とを含み、照射工程が、カセットおよびカーテン間の距離が6mm以上13mm以下である条件下で行われる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記録媒体をUV処理する方法および装置に関し、例えばコンピュータの外部記憶装置等に用いられる磁気記録媒体をUV処理する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の保護膜と磁気ヘッドとの間に生ずる摩擦力を減少させ、耐久性および信頼性を向上させる目的のため、これまで磁気記録媒体、特に磁気ディスクに用いられる潤滑剤が開発されてきた。
【0003】
例えば、磁気ディスクの表面層の潤滑特性を改良するために、従来、表面層にダイヤモンド状カーボン(DLC)保護膜を形成し、その保護膜上に水酸基などの有極性末端基または環状トリホスファゼン末端基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑膜を形成することが行われてきた。
【0004】
保護膜上の潤滑膜は、2種の層に分けられる。一方の層は保護膜と結合した層(以下、ボンド潤滑層という)であり、他方の層は保護膜と結合していない層(以下、自由潤滑層という)である。特性の向上の観点から、潤滑膜として自由潤滑層が薄くボンド潤滑層が厚いものが適しているとされている。
【0005】
しかしながら、近年の磁気ディスクの高密度化傾向に伴い、潤滑膜特性に対する厳しい要求に応えるには、今後、ボンド潤滑層の膜厚の上限をさらに引き上げることが必要とされる。
【0006】
加えて、近年のハードディスクドライブの用途は、これまでの屋内で使用されるパソコン用途から、屋外で使用される携帯機器またはカーナビゲーションシステムなどの用途に拡大している。特に、高温高湿環境において、高湿度空気に含まれる水分の凝着現象により、ハードディスクドライブの磁気ヘッドスライダが浮上しにくくなる現象が存在する。そのため、磁気ディスク表面へ、より緻密に潤滑膜を形成することが大きな課題となっている。
【0007】
この課題を解決する1つの手法として、ボンド潤滑層の膜厚を増加することが提案されており、ボンド潤滑層の膜厚を増加するためには、ボンド潤滑層の形成工程でUV処理を行うことが効果的とされている。このUV処理においては、処理効率の改善と前後工程との関係から、磁気ディスク1枚ずつの処理ではなく磁気ディスクを収納するカセットごと(例えば25枚の磁気ディスクごと)の処理が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2007/020723
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、カセットごとの処理を行う場合、装置でUV処理を行うためのUVランプハウス下で待機する時間が各磁気ディスクによって異なるため、カセット内でのボンド潤滑層の膜厚のバラつきが出てしまうことが問題となっていた。特に、カセットごとのUV処理方法は、UVランプハウス下で待機中に磁気ディスク出入り口から漏れている間接UV光の制御ができず、直接UV光照射以外でボンド潤滑層の形成ができてしまうことがある。この場合、通常のプロセスでは直接UV光の照射時間しか制御できないため間接UV光で形成してしまうボンド潤滑層膜厚分を制御することができず、カセット内でのボンド潤滑層膜厚バラつきを制御することができなかった。
【0010】
そこで、磁気記録媒体のUV処理においてボンド潤滑層膜厚が一定となるような処理方法が必要とされている。
【0011】
本発明は上述の問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、磁気記録媒体の潤滑層の膜厚のバラつきを抑制し、均一な潤滑層の膜厚の磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の磁気記録媒体をUV処理する方法は、非磁性基体上に、磁性膜、保護膜、および潤滑膜を含む磁気記録媒体をUV処理する方法であって、磁気記録媒体を収納するためのカセットと、磁気記録媒体をUV処理するためのUVランプと、UVランプを収納するためのUVランプハウスと、磁気記録媒体をUVランプハウスから出し入れする際にUVランプハウスの内部を外気から遮蔽するためのカーテンと、を準備する工程と、磁気記録媒体をUVランプで照射する照射工程とを含み、照射工程が、カセットおよびカーテン間の距離が6mm以上13mm以下である条件下で行われることを特徴とする。
【0013】
或いは、本発明の磁気記録媒体をUV処理する装置は、非磁性基体上に、磁性膜、保護膜、および潤滑膜を含む磁気記録媒体をUV処理する装置であって、磁気記録媒体を収納するためのカセットと、磁気記録媒体をUV処理するためのUVランプとUVランプを収納するためのUVランプハウスと、磁気記録媒体をUVランプハウスから出し入れする際にUVランプハウスの内部を外気から遮蔽するためのカーテンとを含み、カセットおよびカーテン間の距離を6mm以上13mm以下としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁気記録媒体の潤滑層の膜厚のバラつきが抑制され、均一な潤滑層の膜厚の磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に好適に使用される装置の一例を示す概略図である。
【図2】磁気記録媒体として直径95mmの磁気ディスクを用いた場合のカセット内のボンド率のバラつき測定結果を示す。
【図3】磁気記録媒体として直径65mmの磁気ディスクを用いた場合のカセット内のボンド率のバラつき測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の磁気記録媒体をUV処理する方法は、非磁性基体上に、磁性膜、保護膜、および潤滑膜を含む磁気記録媒体をUV処理する方法である。非磁性基体、磁性膜、および保護膜は、通常用いられている非磁性基体、磁性膜、および保護膜を用いることができる。
【0017】
本発明の方法は、磁気記録媒体を収納するためのカセットと、磁気記録媒体をUV処理するためのUVランプと、UVランプを収納するためのUVランプハウスと、磁気記録媒体をUVランプハウスから出し入れする際にUVランプハウスの内部を外気から遮蔽するためのカーテンと、を準備する工程と、磁気記録媒体をUVランプで照射する照射工程を含み、照射工程が、カセットおよびカーテン間の距離が6mm以上13mm以下である条件下で行われる。カセットおよびカーテン間の距離が6mm以上であるとカセットとカーテンが接触しないという効果が得られ、13mm以下であるとUV照射に所有する時間の中に含まれる、磁気ディスクの入れ替えの時間が全体のタクトに影響しないという効果が得られる。
【0018】
好ましい潤滑剤としては、潤滑剤の主鎖部分に化学式1と化学式2のようにパーフルオロポリエーテルを含み、末端部分R1、R2、R3の少なくとも1つが複数の官能基を有しており、分子量が500〜10,000の間で規定されるものである。
【0019】
【化1】

【0020】
(ただし式中pおよびqはそれぞれ正の整数である。)
【0021】
【化2】

【0022】
(ただし式中rは正の整数である。)
【0023】
上記記載の末端構造において、官能基が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルデヒド基、1級および2級アミン基、ニトロ基、ニトリル基、イソニトリル基、イソシアナート基、チオール基、スルホ基、複素環のうちいずれか1つまたは複数から選択されることが好ましい。なお、潤滑剤に添加剤を加える場合もあるが、その場合でも本願発明の効果は得られることになる。
【0024】
図1は、本発明に好適に使用される装置の一例を示す概略図である。図1において、装置10は、磁気ディスク12(磁気記録媒体の典型例)、カセット14、カーテン16、UVランプハウス18を有する。磁気ディスク12は、UV処理させる対象である。カセット14は、磁気ディスク12を収納するものであり、カセット14ごと装置に搬入されるものである。カーテン16は、カセット14に収納した磁気ディスク12がUVランプハウス18内に入るところである。UVランプハウス18は、カセット14に近い側に磁気ディスク12を出し入れするカーテン14を取り付けている。
【0025】
ここで、本発明におけるカセットとカーテンとの間の距離dは、図1におけるカセット14の上端部分とUVランプハウス18のカーテン16の下端との間の距離としてある。また、直接光は磁気ディスク12がカセット14から出てUVランプハウス18内に入っているときに磁気ディスク12にあたる光であり、間接光は磁気ディスク12がカセット14に入ったままでUVランプハウス18内に入っていないときに磁気ディスク12にあたる光である。UVランプハウス18の中にUVランプ(図示せず)が設置されているため、UVランプハウス18の中に磁気ディスク12が入ると直接光によりUV照射されることになる。
【0026】
こうして、間接UV光によるボンド潤滑層形成の制御方法として、カセット14とUVランプハウス18のカーテン16間の距離を近づけることで磁気ディスク12に照射される間接UV光を制御し、直接UV光のプロセス制御だけで、カセット14内の磁気ディスク12のボンド潤滑層膜厚のバラつきを制御する。
【0027】
本発明は、典型的には保護膜上に潤滑剤を塗布した後、磁気記録媒体をカセット内でUV処理する際に使用され、これにより磁気記録媒体におけるボンド潤滑層の膜厚のバラつきが低減される。
【実施例】
【0028】
以下本発明の実施例を説明する。なお、実施例は本発明の代表例に過ぎず、本発明は実施例の記載に限定されるものではない。
【0029】
潤滑剤として末端基に−OHを持つZ−Tetraol(ソルベイ・ソレクシス社製)を用いた。カセットとUVランプハウスのカーテンとの間の距離を変えてUV処理を実施し、カセット内でのボンド潤滑層の膜厚のバラつきを調査した。
【0030】
[磁気記録媒体への塗布および特性評価]
1、サンプル作製‐潤滑剤塗布
プラズマCVD法で作成した膜厚2.0nmの非晶質カーボン保護膜で覆われた直径65mm、95mmの磁気ディスク基板に対し、上記の潤滑剤混合体をDip法により塗布した。具体的には、溶媒としてVertrel XF(三井デュポンフロロケミカル社製)を用いた潤滑剤混合体に磁気ディスク基板を72秒間浸漬させ、1.5mm/secの速度で引上げ、その後乾燥させて磁気ディスクを作成した。測定するポジションにディスクを入れ、その他の場所にはダミーディスクを入れ常に25枚でUV処理ができるような状態にした。塗布後の磁気ディスクのサンプルに対し、185nm/254nmの波長を持つ200WのUVランプを用いて8秒間UV処理を行った。
【0031】
上記手法により作製したサンプルについて、潤滑層の膜厚をフーリエ変換式赤外分光光度計(FT−IR)により測定した。潤滑層の標準膜厚については、トータル膜厚が8.00Å、ボンド潤滑層の膜厚が6.00Å、ボンド率が75.0%になるように、磁気ディスクを作製した。
【0032】
ここで、前述に示した「トータル膜厚」、「ボンド潤滑層の膜厚」、「ボンド率」について説明する。
【0033】
一般に、カーボン表面に存在する官能基と潤滑剤との結合割合は、フッ素系溶媒による洗浄前の潤滑層の膜厚に対するフッ素系溶媒による洗浄後の潤滑層の膜厚の割合として表され、その百分率値が「ボンド率」と呼ばれる。
【0034】
【数1】

【0035】
ここで、洗浄前の潤滑層の膜厚が「トータル膜厚」であり、洗浄後の潤滑層の膜厚が「ボンド潤滑層の膜厚」である。「ボンド潤滑層の膜厚」は、実際にカーボン表面と結合している潤滑層の膜厚(量)を表している。
【0036】
フッ素系溶媒としては、Vertrel XF(三井デュポンフロロケミカル社製)を用いることが一般的であるため、本評価においてもこの溶媒を用いている。
【0037】
2、ボンド潤滑層の膜厚評価
前記プロセスにより作製したサンプルに対し、カセットとUVランプハウスのカーテンと間の距離を変えてUV処理を行い、ボンド率(カセット内でのボンド潤滑層の膜厚のバラつき)を測定した。カセットと磁気ディスクとの間の距離は5mm程度であり、カーテンとUVランプとの間の距離は、試作機1、試作機2ともに1.5cmである。
【0038】
本試験では、各サンプルに対し、図1に示す装置を用いてカセットの高さを変えることで評価を行った。第1表にカセット上端からカーテン下端までの距離を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
図2は直径65mm(2.5”)の磁気ディスクにおけるボンド率を示すグラフであり、図3は直径95mm(3.5”)の磁気ディスクにおけるボンド率を示すグラフである。図2および図3のデータを第2表〜第5表に示す
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
カセットとUVランプハウスのカーテンと間の距離は、距離1>距離2、および距離3>距離4であり、距離1と距離3がよりUVランプハウスに近くなっている。
【0046】
実際の距離は、距離1が34mm、距離2が6mm、距離3が42mm、距離4が6mmで評価を行っている。なお、第2〜5表において、2.5”のデータは、改善前を試作機1で改善後も試作機1で距離が6mmになるように調整してデータ取得しており、3.5”では改善前のデータとして試作機1、改善後は試作機2のデータを用いている。
【0047】
図2のデータでは、距離1でカセット内のボンド率のバラつきが2.4%、距離2では4.6%となっており、距離を近づけることがバラつきの低減に効果があることが言える。また図3でも同様な改善の結果が見られており、距離3ではバラつきが1.7%、距離4では7.1%となっている。これらの結果から、磁気ディスクのサイズに関わらずカセットとUVランプハウスのカーテンとの間の距離が近いほど、カセット内のボンド率のバラつき低減に有効である。
【0048】
例えば、通常使用されている装置の場合、カセット内に収納されている磁気ディスクを1枚ずつ突き上げてUVランプハウスに移動して照射が行われている。本発明においては、カセットとUVランプハウスのカーテン間の距離を縮めることでUVランプハウスにある磁気ディスクの出入り口(カーテン)から漏れている間接UV光の量を減らし、UVランプハウス下で待機中や処理後の磁気ディスクへ間接UV光が照射されるのを抑える効果があることが見出された。間接UV光の照射によるボンド層膜厚の形成は、装置のプロセスからは制御が困難であるため、物理的な抑制が必要であり今回検討したカセットとUVランプハウスのカーテン間の距離を近づける方法は、カセットに入っている磁気ディスク全体に均一に同じ光量の間接UV光を照射することになり、非常に有効な手段と言える。
【0049】
本発明によって従来技術に比較し、間接UV光の制御が可能となりカセット内での磁気記録媒体のボンド潤滑層の膜厚のバラつきが低減でき均一な磁気記録媒体の製造が可能となる。
【符号の説明】
【0050】
10 装置
12 磁気ディスク
14 カセット
16 カーテン
18 UVランプハウス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基体上に、磁性膜、保護膜、および潤滑膜を含む磁気記録媒体をUV処理する方法であって、
磁気記録媒体を収納するためのカセットと、
磁気記録媒体をUV処理するためのUVランプと、
UVランプを収納するためのUVランプハウスと、
磁気記録媒体をUVランプハウスから出し入れする際にUVランプハウスの内部を外気から遮蔽するためのカーテンと、を準備する工程と、
磁気記録媒体をUVランプで照射する照射工程とを含み、
照射工程が、カセットおよびカーテン間の距離が6mm以上13mm以下である条件下で行われる方法。
【請求項2】
非磁性基体上に、磁性膜、保護膜、および潤滑膜を含む磁気記録媒体をUV処理する装置であって、
磁気記録媒体を収納するためのカセットと、
磁気記録媒体をUV処理するためのUVランプと、
UVランプを収納するためのUVランプハウスと、
磁気記録媒体をUVランプハウスから出し入れする際にUVランプハウスの内部を外気から遮蔽するためのカーテンとを含み、
カセットおよびカーテン間の距離を6mm以上13mm以下としたことを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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