説明

磁気記録媒体用ポリエステルフィルム

【課題】垂直磁化記録方式に使用される強磁性金属薄膜型の磁気記録媒体に好適なベースフィルムを提供すること。
【解決手段】実質的に不活性粒子を含有しないポリエステル層の少なくとも磁性面を形成する側の表面Iに皮膜層を設けた磁気記録媒体用ポリエステルフィルムであって、表面Iに設けられた皮膜層は、セルロース誘導体および水溶性ポリエステル共重合体を含有する水溶性高分子または水分散性高分子を構成成分としてなり、さらに平均粒径が3〜30nmの有機粒子が含有され、この粒子に起因する突起の個数密度が1,000万〜8,000万個/mmであり、該突起の凝集率が5%未満であり、かつ、表面Iの表面粗さRaが0.5〜4nmである垂直磁化記録方式に使用される強磁性金属薄膜型の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は垂直磁化記録方式に使用される強磁性金属薄膜型の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートフイルムに代表されるポリエステルフィルムは、その優れた物理的、化学的特性の故に広い用途に、特に磁気記録媒体のベースフィルムとして用いられている。2軸配向ポリエステルフィルムは、デジタルビデオ用テープや、コンピュータのバックアップ用テープ(以後、データテープという)などに用いられている。
【0003】
また、近年、磁気記録媒体の高密度化の進歩はめざましく、高密度磁気記録のための記録媒体として、磁気記録媒体の記録層の厚さ方向の磁化により記録を行う垂直磁化記録方式を使用した垂直磁気記録媒体が提案されている。この垂直磁化記録方式によれば記録密度が高密度になるにしたがい減磁界が小さくなることから、特に高密度記録、短波長記録において面内方向磁化による記録よりも有利であることが知られている。この垂直磁化記録方式に使用される磁気記録媒体に必要な特性としては、磁気記録層面に対し垂直な方向に磁気異方性を有することが挙げられる。垂直方向に磁化容易軸を出させるために、Co−Ni合金等の強磁性金属材料を真空薄膜形成技術(真空蒸着法やスパッタリング法、イオンブレーティング法等)によってポリエステルフィルムやポリイミドフィルム等の非磁性支持体上に直接被着した、いわゆる強磁性金属薄膜型の磁気記録媒体が提案され、注目されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
真空薄膜形成技術により形成される強磁性金属薄膜は厚みが0.2μm以下と非常に薄くなっている。このため、上記の高密度磁気記録媒体においては、非磁性支持体(以下ベースフィルムとする)の表面状態が磁性層の表面性に大きな影響を及ぼし、ベースフィルムの表面状態がそのまま磁性層(磁気記録層)の表面の凹凸として発現し、それが記録・再生信号のノイズの原因となる。従って、電磁変換特性の観点からも非磁性支持体の表面はできるだけ平滑であることが望ましい。しかし、実際に使用される時の重大な問題点として、金属薄膜面の走行性の問題がある。金属薄膜型磁気記録媒体の表面が平滑すぎると、使用する際、磁気ヘッドとの摩擦が増加し走行耐久性が低下する。
【0005】
この表面性に関する相反する特性を両立させるために、ベースフィルムの設計から、フィルムの磁性面が形成される側の表面粗さを制御することが必要となる。その手法としては、フィルム原料に用いる高分子中に滑剤粒子として不活性粒子を添加する手法(例えば特許文献2参照)が提案されている。この手法によれば、磁性面側のベースフィルムの平滑性はある程度は実現できるものの、さらなる走行耐久性向上のために、磁性面が形成される側のポリエステル層中に添加した滑剤粒子が電磁変換特性を悪化させるばかりか、滑剤粒子の分散性が悪いために特大の突起が多く、これがドロップアウトの原因となったり、磁気ヘッドの偏磨耗を引き起こして出力を低下させたりするなどの問題があり、特に垂直磁気記録方式を採用する磁気記録媒体用のベースフィルムでは、このような問題が顕著に現れることが判ってきた。また、第2の手法として、実質的に不活性粒子を含有しないポリエステル層の磁性面側表面に滑剤粒子を含む塗膜を塗布することより微細突起を形成させる手法(例えば、特許文献3参照)では、フィルムの走行耐久性の向上を計るために滑剤粒子をより多く含有させた場合、滑剤粒子同士の凝集が多く発生し、これを垂直磁化記録方式に使用される強磁性金属薄膜型の磁気記録媒体用ベースフィルムとして使用した場合、特に、滑剤粒子同士の凝集からなる粗大突起により、磁気ヘッドとのスペーシングロスのために電磁変換特性が大幅に低下すること、テープ走行時に磁気テープの磁性層表面が削れすぎて磁気テープのドロップアウトが増加するなどの問題が生じる。このことから垂直磁化記録方式で製造される磁気テープでは、磁気テープ走行耐久性を維持するために、ベースフィルム表面の滑剤粒子の凝集率を低くすることが極めて重要であり、滑材粒子の凝集率を改善した突起形成方法が必要となっている。
【0006】
また、高密度に磁気記録を行うデータテープにおいては、トラックが非常に小型化したことによって、テープ走行・保存時のわずかな熱的・力学的寸法変化や、データを記録する際と読み取る際の温湿度環境の違いが、データの再生不良を引き起こす問題が生じてきた。従って、高密度記録に対応する磁気記録媒体支持体には、温湿度環境変化や熱およびテープ張力などの応力に対して高い寸法安定性が要求される。この寸法安定性の要求に応え得るベースフィルムとして、ポリエステルフィルムに金属、半金属のなどの金属材料からなる強化膜を設けた磁気記録媒体用支持体が知られている(特許文献4、5)。
【特許文献1】特開昭52−134706号公報
【特許文献2】特開平10−157039号公報
【特許文献3】特開2004−234825号公報
【特許文献4】特開2002−329312号公報
【特許文献5】特開2006−216194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記した垂直磁化記録媒体用ポリエステルフィルムとして使用する際に、特に問題となる滑材粒子同士の凝集からなる粗大突起による問題を解決することにある。垂直磁化記録方式に使用される強磁性金属薄膜型の磁気記録媒体では、ポリエステルフィルムの表面に存在する、滑材粒子同士の凝集からなる粗大突起が、磁性層表面の突起として顕著に現れることが分かっており、これがスペーシングロスとなり電磁変換特性が低下する問題やテープ走行時に磁気ヘッドとの摩擦によりテープ表面が削れることでドロップアウトの原因となる。従来からの斜方蒸着による磁化記録方式に使用される磁気記録媒体では電磁変換特性の点で問題とならなかった粒子同士の凝集の程度であっても、垂直磁気記録方式を採用する磁気記録媒体では上述の不都合が生じるため、この問題を解決することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するための本発明は以下の特徴を有する。
【0009】
(1)実質的に不活性粒子を含有しないポリエステル層の少なくとも磁性面を形成する側の表面Iに皮膜層を設けた磁気記録媒体用ポリエステルフィルムであって、表面Iに設けられた皮膜層は、セルロース誘導体および水溶性ポリエステル共重合体を含有する水溶性高分子または水分散性高分子を構成成分としてなり、さらに平均粒径が3〜30nmの有機粒子が含有され、この粒子に起因する突起の個数密度が1,000万〜8,000万個/mmであり、該突起の凝集率が5%未満であり、かつ、表面Iの表面粗さRaが0.5〜4nmである垂直磁化記録方式に使用される強磁性金属薄膜型の磁気記録媒体用ポリエステルフィルム。
【0010】
(2)有機粒子がスチレン、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルおよびジビニルベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体または共重合体を構成成分とする粒子である、上記(1)に記載の磁気記録媒体用ポリエステルフィルム。
【0011】
(3)総厚みが2〜10μmである、上記(1)または(2)に記載の磁気記録媒体用ポリエステルフィルム。
【0012】
(4)ポリエステル層が、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートを構成成分として含んでいる、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体用ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムを用いると、垂直磁化記録方式に使用される強磁性金属薄膜型の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムとして電磁変換特性に非常に優れ、ドロップアウトが少なく、且つ磁気ヘッドとの走行耐久性が良好な超高密度磁気記録テープの製造が可能となる。特に、高密度記録が可能なリニア記録テープを製造することができ、DLTテープ、LTOテープなどの、データバックアップ用途のベースフィルムとして使用すると優れた結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においてポリエステルフィルム(ポリエステル層)を構成するポリマー(構成成分)は、分子配向により高強度フィルムを形成するポリエステルであればよい。中でもポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(ポリエチレン−2,6−ナフタレート)が好ましい。このポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、それぞれ、全構成成分の80モル%以上がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート以外の共重合成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸(ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの場合)、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸(ポリエチレンテレフタレートの場合)、2,7−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3官能以上の多価カルボン酸成分、p−オキシエトキシ安息香酸などが挙げられる。上記ポリエステルは、また、ポリエステルとは非反応性のスルホン酸のアルカリ金属塩誘導体、該ポリエステルに実質的に不溶なポリアルキレングリコールなどの少なくとも一つを5質量%を超えない範囲で混合してもよい。
【0015】
本発明におけるポリエステル層の磁性面を形成する側の表面(以下、表面Iとする)とは、磁気テープを製造する際に磁性層を設け、磁気記録をする側の面である。
【0016】
本発明における磁気記録媒体用ポリエステルフィルムは単層構造のフィルムであっても、共押出法等による二層以上の構造を有する積層フィルムであってもよい。単層構造のフィルムの場合は、ポリエステルは実質的に不活性粒子を含有しないことが好ましい。ここで実質的に不活性粒子を含有しないとは、フィルム表面に突起を形成するような外部添加粒子や内部析出粒子を含有しないことを意味する。例えば、ポリエステルの重合に必要な触媒によって生じることのある、滑剤作用を実質的に奏さない少量の粒子は含有しても差支えがないことを意味する。例えば表面突起を形成するような粒子は除き、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等の添加を必要に応じて含有することができる。積層構造を有するフィルムの場合は、磁性層形成面(表面I)側ポリエステル層(以下、当該層を構成するポリエステルをポリエステルPとする)とその反対側の面(走行面、表面II)側のポリエステル層(以下、当該層を構成するポリエステルをポリエステルQとする)において、ポリエステルPは実質的に不活性粒子を含有しないことが好ましい。ポリエステルQはフィルムの巻取り性の観点から不活性粒子を含有することが好ましい。なお、ポリエステルP、Qは同じ種類でも異なる種類であってもよい。
【0017】
ポリエステルQに含有させる好ましい不活性粒子としては、例えば、(1)耐熱性ポリマー粒子(例えば、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、架橋ポリエステルなどからなる粒子)、(2)金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなど)、(3)金属の炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなど)、(4)金属の硫酸塩(例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなど)、(5)炭素(例えば、カーボンブラック、グラファイト、ダイヤモンドなど)、および(6)粘土鉱物(例えば、カオリン、クレー、ベントナイトなど)などのような無機化合物からなる粒子が挙げられる。これらのうち、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂粒子、ポリアミドイミド樹脂粒子、その他酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、合成炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ダイヤモンド、またはカオリンからなる粒子が好ましい。さらに好ましくは、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、その他酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化チタン、二酸化ケイ素、または炭酸カルシウムからなる微粒子である。これらの不活性粒子は1種または2種以上併用してもよい。また界面活性化剤、帯電防止剤、各種エステル成分等、異なる成分を添加させてもよい。
【0018】
本発明においては、上記したポリエステルフィルムの表面Iに、以下に詳述する皮膜層が形成されている。
【0019】
上記した皮膜層は、水溶性高分子または水分散性高分子を構成成分としている。
【0020】
水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエステルエーテル共重合体、水溶性ポリエステル共重合体等が好ましく挙げられ、なかでも、セルロース誘導体と水溶性ポリエステル共重合体の高分子ブレンド体が特に好ましい。水溶性ポリエステル共重合体としては、ジカルボン酸成分とグリコール成分が重縮合したポリエステルであって、例えばスルホン酸基を有するジカルボン酸成分のような機能性酸成分を全カルボン酸成分の5モル%以上共重合せしめること、及び/又は、グリコール成分としてポリアルキレンエーテルグリコール成分を2〜70質量%共重合せしめることによって水溶性を付与したものが好ましいが、これらに限定されるものではない。スルホン酸基を有するジカルボン酸としては、好ましくは5−スルホイソフタル酸、2−スルホテレフタル酸などや、それらの金属塩、ホスホニウム塩などが使用でき、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が特に好ましい。5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合せしめる際の他のジカルボン酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが好ましく、グリコール成分としてはエチレングリコール、ジエチレングリコールなどが好ましい。セルロース誘導体は特にフィルム表面の微細凹凸構造の形成に寄与し、水溶性ポリエステル共重合体はセルロース誘導体とポリエステルフィルム表面との接着性向上に寄与する。この微細凹凸構造を有する皮膜(不連続皮膜)は磁気テープとした際、磁気ヘッドとの摩擦を低減させるため磁気テープの耐久性の観点と、フィルム−フィルム相互の滑り性が向上し、加工工程でのフィルムの巻取り、巻き出し等のハンドリング性が良くなるため特に好ましいといえる。一方、セルロース誘導体などを使用しない皮膜(連続皮膜)は微細凹凸構造を有しないため、磁気ヘッドとの摩擦が高くなり磁気テープの耐久性が低下し、また、加工工程でのハンドリング性が低下する。
【0021】
水分散性高分子としては、ポリメタクリル酸メチルエマルジョン、ポリアクリル酸エステルエマルジョン等が使用できる。
【0022】
本発明においては、上記した皮膜層中に、有機粒子を含んでいる。
【0023】
有機粒子の材質としては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、およびジビニルベンゼンから選ばれた、各単量体の重合体、あるいは共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ベンゾグアナミン、シリコーン等の有機質のいずれを用いてもよい。中でも、粒子の材質は、走行耐久性の面から、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルが好ましく、より好ましくは、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。また、有機粒子としては、内外部のそれぞれの性質の異なる物質で構成される2層以上の多層構造の粒子(以下、コア−シェル粒子と呼ぶ)と、内外部それぞれの性質が同じであるコア−シェル構造を有しない有機粒子があり、どちらとも用いることができる。コア−シェル粒子とは内部より外部の方が軟質な粒子であり、粒子内部(コア部)と外部(シェル部)それぞれの機能の観点から、コア部には機械的摩擦等によって変形せず、シェル部もしくはフィルム基材に対し相対的に大なる硬度を有することが求められる。シェル部にはフィルム基材との親和性に優れ、かつ製膜熱処理温度で適切な物理的、化学的、熱的特性を備えることが要求される。本発明においては、特に有機粒子の凝集率の観点から、このようなコア−シェル構造を有しない有機粒子の方が、セルロース誘導体と水溶性ポリエステルを含有する塗液中では特に高濃度での分散安定性が優れているため、有機粒子の凝集率を低くでき、より好ましいといえる。また、二酸化ケイ素(シリカ)、炭酸カルシウム等の無機粒子は、高濃度での分散安定性が上記有機物からなる粒子に比べてさらに劣る。これは、無機粒子は有機粒子に比べて比重が高いため粒子が沈降しやすいことに起因する。結果として、フィルム上には粒子の凝集からなる粗大突起が現れ、磁気ヘッドとのスペーシングロスのために電磁変換特性が大幅に低下すること、テープ走行時に磁気テープの磁性層表面が削れすぎて磁気テープのドロップアウトが増加するなどの問題が生じやすい。また、無機粒子に比べて、有機粒子のほうが粒子の粒径が揃ったものを入手しやすいことからも有機粒子が好ましいといえる。
【0024】
また、有機粒子の平均粒径は3〜30nmであり、より好ましくは8〜20nmである。
【0025】
さらに、この有機粒子に起因する突起の個数密度は1,000万〜8,000万個/mmである。
【0026】
平均粒径が30nmを超え、有機粒子に起因する突起の個数密度が8,000万個/mmを超えると磁気ヘッドとのスペーシングロスのため電磁変換特性が低下する傾向ある。また、平均粒径が3nm未満で、有機粒子に起因する突起の個数密度が1,000万個/mm未満であると、磁気テープとして使用する際、電磁変換特性は極めて向上するものの、テープを繰り返し使用した際に磁気ヘッドとの摩擦により磁気テープの強磁性金属薄膜が磨耗してしまい、走行耐久性が維持されない傾向にある。
【0027】
皮膜層中の有機粒子の粒度分布は、粒子の粒径の標準偏差σ(Dn)が10nm未満であることが好ましい。標準偏差σ(Dn)が10nm以上であると、粒径の小さい粒子と粒径の大きい粒子が凝集する傾向にあり、凝集した粒子同士が起因となる粗大突起により、磁気記録媒体としたときに磁気ヘッドとのスペーシングが大きくなり、電磁変換特性が低下しやすい。また、磁気テープ走行時には磁性層表面が削れて磁気テープのドロップアウトの原因となる。また、皮膜層中の有機粒子に起因する突起の凝集率は5%未満であり、より好ましくは2%未満である。該突起の凝集率が5%以上であると、上述のような、磁気ヘッドとのスペーシング、磁性層表面の削れる問題が起こりやすい。特に、本発明のように、垂直磁気記録方式を採用する磁気記録媒体用のベースフィルムでは、表面の突起形状がそのまま磁気テープ表面の突起形状となりやすいため、粒子同士の凝集による粗大突起の出現は、磁性層で特に顕著な表面突起をもたらし、磁気ヘッドとのスペーシングロスとなり、電磁変換特性が著しく低下する。
【0028】
本発明において、表面Iの皮膜上の表面粗さRa値は0.5〜4nmであることが好ましく、より好ましくは1.5nm以上3.0nm未満である。Ra値が4nmを超えると、磁気テープの磁気ヘッドとの走行耐久性は向上するが、電磁変換特性が上がらない傾向にある。また、Ra値が0.5未満であると、磁気ヘッドとの摩擦が増え走行耐久性が低下しやすい。
【0029】
本発明において、表面IIには、シリコーン等の潤滑剤が含まれた、表面Iより粗い被覆層が設けられるか、不活性粒子を含有させたポリエステルQにより構成されたポリエステル層が積層されて二層構造とする、あるいは更にその上に粗い被覆層が設けられたものが特に好ましく用いられる。表面IIに被膜層を設けると、フィルム−フィルム相互の滑り性が向上し、加工工程でのフィルムの巻取り、巻き出し等のハンドリング性が良くなる。
【0030】
表面IIに設ける被膜層としては、易滑性であって削られにくく、かつ、ポリエステルフィルムからの分解物を通さない機能を有するものであれば好ましく、主として、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子から構成され、好ましくは、水溶性高分子及び/又は水分散性高分子にシリコーン及びシランカップリング剤とが加わった組成物から形成されることが好ましい。表面IIの被膜層に用いられる水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリエステルエーテル共重合体、水溶性ポリエステル共重合体等が使用できる。また、水分散性高分子のエマルジョンとしては、ポリメタクリル酸メチルエマルジョン、ポリアクリル酸エステルエマルジョン等が使用できる。
【0031】
シリコーンとしては、ポリジメチルシロキサン等のシロキサン結合を分子骨格にもつ有機ケイ素化合物が共有結合で多数つながった重合体が使用できる。シリコーンにより被膜層の易滑性が向上し、表面II側のフィルムの走行性、耐削れ性が確保される。またポリエステルフィルムを巻いたときのフィルム間のブロッキングが防止される。なおフッ素化合物を易滑剤として用いてもよい。
【0032】
シランカップリング剤としては、その分子中に2個以上の異なった反応基をもつ有機ケイ素単量体が挙げられ、その反応基の一つはメトキシ基、エトキシ基、シラノール基などであり、もう一つの反応基はビニル基、エポキシ基、メタアクリル基、アミノ基、メルカプト基などである。反応基としては水溶性高分子の側鎖、末端基およびポリエステルと結合するものが選ばれるが、シランカップリング剤としてビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が適用できる。シランカップリング剤はシリコーンの易滑剤層からの遊離防止に寄与し、さらに、被膜層とポリエステルとの接着性向上にも寄与する。
【0033】
本発明においては、フィルムの幅方向のヤング率は、5,500MPa以上、より好ましくは7,000MPa以上である。幅方向のヤング率を7,000MPa以上にするためには、ポリエステル層の表面II側、2層構造の場合は不活性粒子を含有させたポリエステルQにより構成されたポリエステル層の上、あるいは更にその上に粗い被覆層を設ける場合はその被覆層の上に、金属、半金属及び合金並びにこれらの酸化物及び複合物から選ばれた少なくとも1種の金属材料からなる強化膜を形成することが好ましい。具体的には、Al、Cu、Zn、Sn、Ni、Ag、Co、Fe、Mnなどの金属、Si、Ge、As、Sc、Sbなどの半金属が挙げられる。これらの金属及び半金属の合金、それら複合物としては、Fe−Co、Fe−Ni、Co−Ni、Fe−Co−Ni、Fe−Cu、Co−Cu、Co−Au、Co−Y、Co−La、Co−Pr、Co−Gd、Co−Sm、Co−Pt、Ni−Cu、Mn−Bi、Mn−Sb、Mn−Al、Fe−Cr、Co−Cr、Ni−Cr、Fe−Co−Cr、Ni−Co−Cr、Fe−Si−O、Si−C、Si−N、Cu−Al−O、Si−N−O、Si−C−Oなどが挙げられる。酸化物としては酸化アルミニウム、アルミナ、酸化ケイ素、二酸化ケイ素等が挙げられる。
【0034】
上記した金属材料による強化膜を形成する方法は特に限定しないが、真空蒸着法が一般的である。
【0035】
本発明におけるポリエステルフィルムは、総厚みが2〜10μmであることが好ましく、さらには4〜6μmであることが好ましい。
【0036】
本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムは種々の方法により製造することが可能である。例えば、二層構造の積層ポリエステルフィルムを得るには、共押出し法により製造するのが好ましく、表面Iおよび表面IIの皮膜層や被覆層の形成は塗布法により行うのが好ましい。
【0037】
以下、本発明におけるポリエステルフィルムを例により説明する。
【0038】
ここでは二層構造からなるポリエステルフィルムを例により説明する。押出機にて実質的に不活性粒子を含有しないポリエステルPを溶融状態にしてさらにそのままフィルターにて高精度濾過し、また、別の押出機にて不活性粒子を含有させたポリエステルQを溶融状態にしてさらに別のフィルターにて高精度濾過したのち、フィードブロックにそれぞれ導き、溶融状態にて複合積層せしめる。ポリエステルPとポリエステルQとの積層厚みの比は、各層の押出機の押出量を調整することにより、所望の積層厚み比にすることができる。このようにして溶融、好ましくは積層せしめた後、融点(Tm)〜(Tm+70)℃の温度で口金より押出もしくは共押出ししたのち、10〜50℃のキャスティングドラム上で急冷固化して未延伸積層フィルムシートを得る。その後、上記未延伸積層フィルムを常法に従い、一軸方向(縦方向または横方向)に(Tg)〜(Tg+80)℃の温度(ただし、Tgはポリエステルのガラス転移温度)で2〜8倍の倍率で、好ましくは3〜7.5倍で延伸する。さらに表面I、必要に応じて表面IIに皮膜層や被覆層を形成するための塗液をフィルム表面に塗布して乾燥し、その後上記延伸方向とは直角方向に(一軸延伸方向とは直交する方向に)延伸配向させ、熱固定する製造方法により、本発明のフィルムを製造することができる。
【0039】
表面Iに皮膜層を形成するために塗布する塗液の固形分濃度としては0.01〜1質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜0.6質量%である。そして水性塗液には本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分、例えば他の界面活性剤、安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤、帯電防止剤などを添加することができる。皮膜層中に含まれる有機粒子に起因する突起の凝集率を5%未満とするためには、使用する有機粒子として、粒度分布σ(Dn)が10nm未満、より好ましくは7nm未満のものを選ぶことが好ましい。粒度分布σ(Dn)が10nm以上のものを使用すると、粒径の大きい粒子と粒径の小さい粒子が凝集しやすい傾向にある。また、表面Iに塗布する塗液のpHは8〜11に調整することが好ましい。より好ましくはpH9〜10.5である。pHが8未満であると、有機粒子が凝集しやすい傾向にあるため、pHを管理することが重要である。塗液のpHを調整するには塩酸、水酸化ナトリウム水溶液などの酸・塩基成分を適量使用して調整することができる。また、フィルムに塗布する直前の塗液温度は12℃〜28℃、より好ましくは19℃から25℃に調整して塗布することが好ましい。塗液温度が28℃以上でフィルムに塗布すると、上記皮膜成分の水溶性高分子、水分散性高分子、シランカップリング剤などの固形分が発生することがある。また、塗液温度が12℃未満であると、有機粒子の凝集が発生しやすい傾向にある。
【0040】
表面IIに被覆層を形成するために塗布する塗液の固形分濃度としては0.01〜1質量%が好ましく、より好ましくは0.2〜0.8質量%である。そして水性塗液には本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分、例えば他の界面活性剤、安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤、帯電防止剤などを添加することができる。
【0041】
二軸延伸は例えば逐次二軸延伸法又は同時二軸延伸法で行うことができるが、所望するならば熱固定前にさらに縦方向あるいは横方向、またはその両方(縦と横方向)に再度延伸させ機械的強度を高めた、いわゆる強力化タイプとすることもできる。
【0042】
表面Iに皮膜層を形成するためには、前述した通り、1軸方向への延伸を終えた段階で所定組成・濃度の塗液を基層フィルム上に塗布する方法をとればよい。その塗布方法としては、ドクターブレード方式、グラビア方式、リバースロール方式、メイヤーバー方式のいずれであってもよい。表面IのRa値は皮膜層中の粒子の量を調整することにより制御することができる。表面IIの被膜層の形成に関しても同様の方法を用いればよく、被膜層の厚みは、塗布液の固形分濃度、塗布液厚みの調整により所望値に制御することができる。
【0043】
本発明のポリエステルフィルムを垂直磁化記録方式に使用される強磁性金属薄膜型の磁気記録媒体用に使用すると、電磁変換特性に非常に優れ、ドロップアウトが少なく、且つ磁気ヘッドとの走行耐久性が良好な超高密度磁気記録テープの製造が可能となる。これらの特性から高密度記録が可能なリニア記録テープを製造することができ、DLTテープ、LTOテープなどの、データバックアップ用途のベースフィルムとして極めて有用である。
【実施例】
【0044】
本実施例で用いた測定法を以下に示す。
【0045】
(1)表面Iの粒子の測定
(1−1)表面Iの有機粒子の平均粒径および粒度分布(皮膜層中の粒子)
表面Iに設けられた皮膜層上に金属スパッター装置により金薄膜蒸着層を20〜30nm(この時のスパッターの蒸着膜厚をxnmとする)で設け、電子顕微鏡(好ましくは走査型電子顕微鏡)により倍率10万倍で観測し、少なくとも100個の粒子について面積円相当径を求め、この数平均値より2xnmを減じた値をもって平均粒径(Dn)とする。また、粒度分布については、上述の手法にて面積円相当径を求め、標準偏差を算出したものを粒度分布σ(Dn)とした。
【0046】
(1−2)表面Iの有機粒子に起因する突起の個数密度
表面Iに設けられた皮膜層上の、有機粒子に起因する突起の個数密度は、皮膜層上に、金スパッター装置により金薄膜蒸着層を20〜30nmで設け、電子顕微鏡(好ましくは走査型電子顕微鏡)により5万倍の拡大倍率で観察し、10枚写真撮影を行うことにより測定する(写真1枚あたりの面積は3.6×10−6mmである)。撮影された10枚の写真から、写真に観察される突起状に見えるものを突起としてその個数をカウントし、1mmあたりの個数に換算した。
【0047】
(1−3)表面Iの有機粒子に起因する突起の凝集率
(1−2)の突起の観測の際に、ある突起がその周辺(突起の長径程度の距離以内)に他の突起が存在するか否かを確認し、存在する場合はその突起を凝集状態で存在する突起とみなす。この凝集状態で存在する突起の個数を、同じ視野内の突起の全個数で割り、凝集率(%)を求める。
【0048】
(2)フィルムの表面粗さRa値、Rz値
フィルムの表面の表面粗さRa値、Rz値は、原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)を用いて測定した。具体的には、セイコーインスツルメント(株)製の卓上小型プローブ顕微鏡(“Nanopics” 1000)を用い、ダンピングモードで、フィルムの表面を40μm角の範囲で原子間力顕微鏡計測走査を行い、得られる表面のプロファイル曲線よりJIS・B0601・1996・Raに相当する算術平均粗さよりRaを、十点平均粗さよりRz値を求めた。なお、測定条件の詳細は以下のとおりである。
【0049】
測定面 表面I 表面II
測定モード ダンピングモード ダンピングモード
測定方向 幅方向 幅方向
測定領域 40×40μm 40×40μm
スキャンスピード 380s/FRAME 380s/FRAME
スキャン回数 512本 512本
振幅モード LL(20%) HH(100%)
(3)フィルム全体の総厚み
フィルム全体の総厚みはマイクロメーターにてランダムに10点測定し、その平均値を用いた。
【0050】
(4)フィルム長手方向のヤング率
引張試験測定により得られる応力−ひずみ曲線におけるスタート点の立ち上がり勾配からASTM D882−02に準じてヤング率を求め、MPaで表す。サンプル幅、実効長さは、それぞれ10mm、100mmとした。引張速度は100mm/minとした。
【0051】
(5)磁気テープの特性
(5−1)垂直磁気記録媒体の再生出力
実施例および比較例にて作製したポリエステルフィルムをスリットしてベースフィルムとし、該ベースフィルムの片面又は両面に、GO−Cr合金よりなる垂直磁化膜をスパッタリング法により0.1μmの厚みに積層して垂直磁気記録媒体とし、さらに8mm幅にスリットしてビデオテープを作製した。
【0052】
幅8mm、長さ100mの垂直磁気記録媒体としてのテープを8mmVTRカセットに組み込み、VideoHi8VTR(SONY製CCD−V900)を用いてシバソク製のテレビ試験波形発生器(TG7/U706)により100%クロマ信号を記録し、その再生信号からシバソク製カラービデオノイズ測定器(925D/1 )でクロマS/Nを測定した。
【0053】
同様にして測定したSONY製Hi8MEテープ(E6−60)と比較して以下のように判定した。
【0054】
+3dB以上 ◎、
+2dB〜+3dB ○、
+1dB〜+2dB △、
+1dB未満 ×
(5−2)ドロップアウト(D/O)測定方法
上記5−1で作製した垂直磁気記録媒体としてのビデオテープをVTRにセットし、TV試験信号発生機(シバソク製TG−7/1型)からの信号を録画させた後、25℃、50%RHで100パス(120分×100パス)走行させた。このテープを使用して、ドロップアウトカウンターを用いてドロップアウトの幅が5μ秒以上で、再生された信号の減衰がマイナス 16db以上のものをピックアウトしてドロップアウトとした。測定は10巻について行ない、1分間に換算したドロップアウト個数により以下のように判定した。
【0055】
0個/分 : ◎
1個〜2個/分: ○
3個〜5個/分: △
6個以上/分 : ×
以下、実施例に基づき、本発明を説明する。
【0056】
[実施例1]
(ポリエステルPの製造方法)
テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール70質量部、酢酸カルシウム0.09質量部を反応器に入れて180〜210℃にてエステル交換反応を施し、メタノールを留出させた。エステル交換反応が終了した時点でリン酸0.02質量部および三酸化アンチモン0.03質量部を添加し、引き続いて系内を徐々に減圧し、60分で1mmHg以下とした。それと同時に徐々に昇温し290℃とした。重縮合反応を2時間実施し、実質的に不活性粒子を含有しないポリエチレンテレフタレート(PET)を得た。
【0057】
(ポリエステルQの製造方法)
テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール70質量部、酢酸カルシウム0.09質量部を反応器に入れて180〜210℃にてエステル交換反応を施し、メタノールを留出させた。エステル交換反応が終了した時点でリン酸0.02質量部および三酸化アンチモン0.03質量部を添加し、引き続いて系内を徐々に減圧し、60分で1mmHg以下とした。それと同時に徐々に昇温し290℃とした。重縮合反応を2時間実施し、その後吐出ノズルより水中に押出しカッターによって系約5mm長さ約7mmの円柱状のチップとした。こうして得られたポリマーに数平均粒径300nmのポリスチレン球を0.50wt%含有させポリエステルQを得た。
【0058】
得られたポリエステルP、ポリエステルQを、それぞれ170℃で3時間乾燥後、2台の押出し機に、厚みの比が6:1となるように調整して共押出しにより供給し、溶融温度280〜300℃にて溶融し、平均目開き1μmの鋼線フィルターで高精度ろ過したのち、マルチマニホールド型共押出しダイを用いて、ポリエステルPの片面にポリエステルQを積層させ、温度25℃のキャスティングドラム上にて急冷して未延伸フィルムを得た。次にこのようにして得られた未延伸フィルムを予熱し、ロール延伸法にて110℃で3倍に縦延伸した。
【0059】
縦延伸後の工程にて、ポリエステルPを構成成分とするポリエステル層の片側表面Iに下記組成・濃度の水溶液を固形分塗布量が25mg/mとなるようメイヤーバー方式にて塗布した。
【0060】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.544質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径20nmのスチレン-ジビニルベンゼン共重合体の球状高分子粒子 2.7×10−2質量%
また、表面II側に被覆層を設けるため、ポリエステルQを構成成分とするポリエステル層の外側に下記組成・濃度の水溶液を固形分塗布量が45mg/mとなるようエアナイフ方式にて塗布した。
【0061】
表面IIへの塗布水溶液の組成
水 99.4489質量%
メチルセルロース 0.26質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.29質量%
アミノエチルシランカップリング剤 1.1×10−3質量%
その後、ステンターにて横方向に110℃で4倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを220℃の熱風で4秒間熱固定し、二軸配向ポリエステルフィルムを得た。これをスリッターで小幅にスリットし、円筒コアーにロール状に巻取り、厚さ5.4μmのポリエステルフィルムを作製した。
【0062】
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0063】
[実施例2]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0064】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.501質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径25nmのスチレン-ジビニルベンゼン共重合体の球状高分子粒子 7.0×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0065】
[実施例3]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0066】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.563質量%
メチルセルロース 0.10質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径10nmのスチレン-ジビニルベンゼン共重合体の球状高分子粒子 7.0×10−3質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0067】
[実施例4]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0068】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.504質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径20nmのスチレン-ジビニルベンゼン共重合体の球状高分子粒子 6.7×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0069】
[実施例5]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0070】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.517質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径20nmのスチレン-ジビニルベンゼン共重合体の球状高分子粒子 5.4×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0071】
[実施例6]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0072】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.518質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径25nmのスチレン重合体の球状高分子粒子 5.3×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0073】
[実施例7]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0074】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.569質量%
メチルセルロース 0.10質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径5nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 1.0×10−3質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0075】
[実施例8]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0076】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.497質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径28nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 7.4×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0077】
[実施例9]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0078】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.544質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径20nmのメタクリル酸メチル重合体の球状高分子粒子 2.7×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0079】
[実施例10]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0080】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.561質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径20nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 1.0×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0081】
[実施例11]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0082】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.569質量%
メチルセルロース 0.10質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径10nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 1.0×10−3質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0083】
[実施例12]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0084】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.363質量%
メチルセルロース 0.97質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.32質量%
滑剤粒子 平均粒径30nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 2.2×10−1質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0085】
[比較例1]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0086】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.499質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径40nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 7.2×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0087】
[比較例2]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0088】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.5699質量%
メチルセルロース 0.10質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径2nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 1.0×10−4質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0089】
[比較例3]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0090】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.544質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径15nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 2.7×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0091】
[比較例4]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0092】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.481質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径20nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 9.0×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0093】
[比較例5]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0094】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.564質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径20nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 7.0×10−3質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0095】
[比較例6]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0096】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.526質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径20nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 4.5×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0097】
[比較例7]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0098】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.412質量%
メチルセルロース 0.098質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径25nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 1.6×10−1質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0099】
[比較例8]
実施例1の表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0100】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.532質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径18nmの球状シリカ粒子 3.9×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0101】
[比較例9]
実施例1のベースフィルムの製造において、実質的に不活性粒子を含有しないポリエステルPに平均粒径60nmのシリカを5.0×10−3重量%含有させ、表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0102】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.57質量%
メチルセルロース 0.10質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 なし
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0103】
[比較例10]
実施例1のベースフィルムの製造において、実質的に不活性粒子を含有しないポリエステルPに平均粒径80nmのシリカを4.7×10−3重量%含有させ、表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0104】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.553質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径20nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 1.8×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0105】
[比較例11]
実施例1のベースフィルムの製造において、実質的に不活性粒子を含有しないポリエステルPに平均粒径40nmのシリカを5.9×10−4重量%含有させ、表面I側の塗布水溶液を以下のように変える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0106】
表面Iへの塗布水溶液の組成
水 99.553質量%
メチルセルロース 0.099質量%
水溶性ポリエステル(テレフタル酸70モル%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30モル%の酸成分とエチレングリコールとの1:1の共重合体) 0.33質量%
滑剤粒子 平均粒径20nmのスチレン-ジビニルベンゼン重合体の球状高分子粒子 1.8×10−2質量%
得られたポリエステルフィルムの特性を表1および2に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
表1および2から明らかなように、本発明によるポリエステルフィルムをベースフィルムに用いて垂直磁気記録方式で製造された強磁性金属薄膜型の磁気記録テープは、電磁変換特性に非常に優れ、繰り返し走行させてもドロップアウト(D/O)の発生が少なく、走行耐久性の良好な磁気記録テープであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に不活性粒子を含有しないポリエステル層の少なくとも磁性面を形成する側の表面Iに皮膜層を設けた磁気記録媒体用ポリエステルフィルムであって、表面Iに設けられた皮膜層は、セルロース誘導体および水溶性ポリエステル共重合体を含有する水溶性高分子または水分散性高分子を構成成分としてなり、さらに平均粒径が3〜30nmの有機粒子が含有され、この粒子に起因する突起の個数密度が1,000万〜8,000万個/mmであり、該突起の凝集率が5%未満であり、かつ、表面Iの表面粗さRaが0.5〜4nmである垂直磁化記録方式に使用される強磁性金属薄膜型の磁気記録媒体用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
有機粒子がスチレン、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルおよびジビニルベンゼンからなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体の重合体または共重合体を構成成分とする粒子である、請求項1に記載の磁気記録媒体用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
総厚みが2〜10μmである、請求項1または2に記載の磁気記録媒体用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
ポリエステル層が、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレートを構成成分として含んでいる、請求項1〜3のいずれかに記載の磁気記録媒体用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2010−79995(P2010−79995A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247563(P2008−247563)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】