説明

磁気記録媒体

【課題】 耐腐食性及び熱的安定性に優れた磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】 非磁性支持体上に粒子直径5〜50nmの希土類−Co−半金属の磁性粒子及び結合剤を含有する磁性層を有することを特徴とする磁気記録媒体である。前記磁性粒子がさらにNiを含み、CoとNiの含有比率をCo(100-x)Nixと表したとき、x=20〜35at%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性層に希土類元素を含む磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性粒子の粒子サイズを小さくすることは磁気記録密度を高くする上で必要である。例えば、ビデオテープ、コンピューターテープ、ディスク等として広く用いられている磁気記録媒体では,強磁性体の重量が同じ場合,粒子サイズを小さくしていった方がノイズは下がる。
【0003】
磁性粒子の粒子サイズを小さくしていくと熱揺らぎのため、超常磁性となってしまい、磁気記録媒体に用いることはできない。そこで、FePt等の結晶磁気異方性が高い材料の研究が行われている。しかし、これらの磁性体は原料にPtを含有しており、高価なものである。
【0004】
FePtに匹敵する結晶磁気異方性を有する磁性材料としてSmCo、NdFeB、SmFeN等が存在する。これらの磁性材料を得るには、一般に500℃以上の熱処理を必要とする。高温で熱処理を行うために、融着し多結晶になったり、粗大粒子になったりするため、磁気記録媒体に用いるのは適していなかった。
【0005】
NdFeBからなる磁性粒子は、溶融金属急冷法により、5〜50nmのNdFeB結晶を含んでなる急冷薄帯を作製し、該急冷薄帯を機械的に砕いて製造される。このような磁性粒子は、ボンド磁石等に用いられている。当該機械粉砕された磁性粒子のサイズはミクロンオーダーと大きく、磁気記録媒体に用いるには適していなかった。また、これらは5〜50nmのNdFeB結晶の結晶粒界にNd−Fe相が偏析したものであり、腐食されやすいという欠点も有していた。
【0006】
また、NdFeBは永久磁石として開発されたものであり、保磁力が796kA/m(10000Oe)程度と高く、磁気記録媒体においてヘッドで信号を書き込むには高すぎるものであった。
さらに、NdFeBはキュリー点が310℃程度と低く、高温に晒されると磁気特性が変化する等の問題を有し磁気記録媒体に使うことは不向きな素材であった。
【0007】
磁気記録媒体に希土類−遷移金属−半金属を用いることは開示されているが(例えば、特許文献1及び2参照。)、これらは腐食されやすいという問題及びキュリー点が低いという問題が解決されておらず、磁気記録媒体として用いるには不適当であった。
【特許文献1】特開2001−181754号公報
【特許文献2】特開2003−56518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、
本発明の目的は、耐腐食性及び熱的安定性に優れた磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決する手段は以下の通りである。即ち、
<1> 非磁性支持体上に粒子直径5〜50nmの希土類−Co−半金属の磁性粒子及び結合剤を含有する磁性層を有することを特徴とする磁気記録媒体である。
【0010】
<2> 前記磁性粒子がさらにNiを含み、CoとNiの含有比率をCo(100-x)Nixと表したとき、x=20〜35at%であることを特徴とする前記<1>に記載の磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐腐食性及び熱的安定性に優れた磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に粒子直径5〜50nmの希土類−Co−半金属の磁性粒子及び結合剤を含有する磁性層を有することを特徴としている。
【0013】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に、磁性粒子、結合剤、及び必要に応じて、極性溶媒、非極性溶媒を含有する磁性層が形成されていれば、その構成は特に限定されるものではない。例えば、非磁性支持体上に、非磁性層、磁性層を順次形成した構成とし、適宜、バック層や下塗層等を形成した構成とすることができる。また、磁性層等には、上記4つの成分の他に、種々の添加剤を含有させることができる。
以下、非磁性支持体および磁性層を始めとした各層について説明する。
【0014】
<磁性層>
本発明に磁気記録媒体においては、磁性層に、粒子直径5〜50nmの希土類−Co−半金属の磁性粒子及び結合剤を含有する。さらに、必要に応じて種々の添加剤等を含有する。先ず、希土類−Co−半金属の磁性粒子について説明する。
【0015】
(希土類−Co−半金属の磁性粒子)
希土類としては、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu等が用いられる。中でも、一軸磁気異方性を示すY、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Hoが好ましく用いられ、結晶磁気異方性が高いPr、Nd、Tb、Dyが特に好ましく用いられる。この中では資源量が最も豊富なNdが工業的には好ましく用いることができる。また、異方性磁場を改善する目的でNdの一部をDy、Tbに置き換えることも好ましい。
【0016】
遷移金属としては、Fe、Ni、Coが強磁性体を形成し、Feを用いたNdFeBは、飽和磁化が最も大きく永久磁石で用いられている。しかし、Feを単独で用いた場合にはキュリー点が310℃程度と低く、磁気特性の熱安定性が悪くなり、腐食しやすい欠点を有する。これに対し、Coを用いたNdCoBは飽和磁化がNdFeBに対し低いもののキュリー点が高く、耐腐食性に優れている。従って、本発明の磁気記録媒体においては、遷移金属にCoを用いることにより、キュリー点が高く、耐腐食性に優れた特性を有する。
【0017】
一方、さらに、Niを添加するとさらに耐腐食性が向上することから、Coに加え、さらにNiを添加することが好ましい。この場合、Co(100-x)Nixと表したとき、xは好ましくは20〜35at%であり、より好ましくは25〜35at%である。
【0018】
半金属としては、ホウ素、炭素、リン、シリコン、アルミニウムが挙げられる。この中でホウ素、アルミニウムが好ましく用いられ、ホウ素が最も好ましい。
【0019】
本発明において、磁性粒子中の希土類、Co、及び半金属の組成比は、希土類は10〜15at%とし、Co(他に、Niを含む場合は全遷移金属)は70〜85at%とし、半金属は5〜15at%とすることが好ましい。
【0020】
また、本発明においては、磁性粒子の粒径(粒子直径)は、5〜50nmであるが、5〜25nmとなっていることが好ましく、5〜15nmとなっていることがより好ましい。5nm未満では、超常磁性となってしまい、50nmを超えると、SNRが低下してしまう。磁性粒子の粒径は、透過電子顕微鏡(TEM)により測定することができる。
【0021】
以上の磁性粒子の作製方法について説明する。
希土類−Co−半金属の強磁性体を得る方法としては原料金属を高周波溶融炉等で溶解した後、鋳造する方法があるが、当該方法では初晶として遷移金属(Co)が多く含まれるものであり、その遷移金属を除去するために融点直下での溶体化処理を必要とする。溶体化処理で粒子サイズが大きくなることから、当該方法では、本発明に必要な5〜50nmの粒子を得ることは困難である。
【0022】
溶融金属を回転ロール上に注ぐ急冷法(溶融合金急冷法)においては、初晶であるFeが発生しないばかりか5〜50nmの粒子サイズの希土類−Co−半金属からなるナノ結晶が急冷薄帯中に得られ、本発明に好ましく用いられる。また、溶融金属を回転ロール上に注ぐ急冷法によりアモルファス合金を作製した後、400〜1000℃の熱処理でナノ結晶を析出させる方法においても5〜50nmの粒子サイズの希土類−Co−半金属からなる磁性粒子を得ることができる。
【0023】
溶融金属急冷法を用いる場合は、酸化を防止するため、不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。具体的には、He、Ar、H2等を好ましく用いることができる。
【0024】
溶融金属急冷法においては、冷却速度はロールの回転速度と急冷薄帯の厚みによって決定される。本発明において、急冷直後に急冷薄帯中に希土類−Co−半金属のナノ結晶を形成する際のロール回転速度は10〜25m/sとすることが好ましい。また、急冷により一旦、アモルファス合金を得る場合には25〜50m/sとすることが好ましい。
【0025】
急冷薄帯の厚みは10〜100μmが好ましく用いられる。当該厚みを得ることができるように溶融金属を注ぐ量はオリフィス等でコントロールすることが好ましい。
【0026】
NaCl水溶液、Na2SO4水溶液に急冷薄帯を浸漬することで、不要な希土類−Co相を溶解除去することができ、希土類−Co−半金属の単結晶を取り出すことができる。水溶液を作製する際の水は蒸留水を脱酸素したものが好ましく用いられる。これにより予期せぬ酸化を防ぐことができる。脱酸素はAr、N2等の不活性ガスをバブリングにより行う方法、蒸留水を凍結した後、溶解する方法によっても作製することができる。
【0027】
NaClやNa2SO4等の濃度は0.01〜1kmol/m3が好ましく、0.05〜0.5kmol/m3がより好ましい。
【0028】
液相中で合成するには特開2001−181754号公報、特開2002−56518号公報に記載の方法に従い作製することができる。
【0029】
(不動態皮膜の形成)
本発明に係る磁性粒子は、空気中で加熱することで、表面に不動態皮膜である酸化皮膜を形成することが好ましい。加熱温度としては、低すぎると処理時間が長くなり、工業的に不適当であり、高すぎると内部まで酸化し、磁性を損なうことから、好ましくは40℃〜80℃であり、より好ましくは50℃〜70℃である。処理時間は5時間〜10時間とすることが好ましい。不動態化皮膜の厚みは1〜7nmが好ましく、さらに好ましくは1〜5nmであり、さらに好ましくは1〜2.5nmである。
【0030】
(結合剤)
磁性層や後述する非磁性層中に含有される結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物が使用される。熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1,000〜200,000、好ましくは10,000〜100,000、重合度が約50〜1000程度のものである。
【0031】
このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。
【0032】
また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネ−トプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等があげられる。これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を各層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。
【0033】
以上の樹脂は単独または組合せて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコ−ル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体、から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネ−トを組み合わせたものが挙げられる。
【0034】
ポリウレタン樹脂の構造は、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものを使用することができる。
【0035】
ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2(以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属塩基)、−OH、−NR2、−N+3(Rは炭化水素基)、エポキシ基、−SH、−CN、などから選ばれる少なくともひとつ以上の極性基を共重合または付加反応で導入したものを用いることが好ましい。このような極性基の量は10-1〜10-8モル/gであり、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
【0036】
これらの結合剤の具体的な例(商品名)としては、ユニオンカーバイト製のVAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC、VMCC、XYHL、XYSG、PKHH、PKHJ、PKHC、PKFE;日信化学工業製のMPR−TA、MPR−TA5、MPR−TAL、MPR−TSN、MPR−TMF、MPR−TS、MPR−TM、MPR−TAO;電気化学製の1000W、DX80、DX81、DX82、DX83、100FD;日本ゼオン製のMR−104、MR−105、MR110、MR100、MR555、400X−110A;日本ポリウレタン製のニッポランN2301、N2302、N2304;大日本インキ製のパンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バーノックD−400、D−210−80、クリスボン6109、7209;東洋紡製のバイロンUR8200、UR8300、UR−8700、RV530、RV280;大日精化製のダイフェラミン4020、5020、5100、5300、9020、9022、7020;三菱化学製のMX5004;三洋化成製のサンプレンSP−150;旭化成製のサランF310、F210;などが挙げられる。
【0037】
本発明において、磁性層、及び後述する非磁性層に用いられる結合剤は、磁性層にあっては非磁性粒子および強磁性金属粉末の合計に対し、非磁性層にあっては非磁性粉末の合計に対し、5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で用いられる。
【0038】
塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜30質量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネートは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましいが、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合は、ポリウレタンのみ、または、ポリウレタンとポリイソシアネートのみを使用することも可能である。
【0039】
ポリウレタンを用いる場合は、ガラス転移温度が−50〜150℃、好ましくは0〜100℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.05〜10Kg/mm2、降伏点は0.05〜10kg/mm2が好ましい。本発明の磁気記録媒体は、本発明の要件を満足する範囲で磁性層を複層化してもよく、同様に非磁性層も複層化し得る。更に、必要により種々の機能を持たせた任意の層を設けることも可能である。従って、結合剤量、結合剤中に占める塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネ−ト、あるいはそれ以外の樹脂の量、各樹脂の分子量、極性基量、あるいは先に述べた樹脂の物理特性などを必要に応じ下層、磁性層等の各層で変えることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきであり、多層磁性層に関する公知技術等を適用することができる。
【0040】
例えば、各層で結合剤量を変更する場合、ヘッドに対するヘッドタッチを良好にするためには、非磁性層の結合剤量を多くして柔軟性を持たせること等が例示される。
【0041】
本発明に用いることができるポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用することができる。
【0042】
これらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン製のコロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMR、ミリオネートMTL;武田薬品製のタケネートD−102、タケネートD−110N、タケネートD−200、タケネートD−202;住友バイエル製のデスモジュールL、デスモジュールIL、デスモジュールN、デスモジュールHL;等があり、これらを単独または硬化反応性の差を利用して2つ又はそれ以上の組合せで各層とも用いることができる。
【0043】
(カーボンブラック、研磨剤)
磁性層には、カーボンブラックを含有させることが好ましい。当該カーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
カーボンブラックのSBETは5〜500m2/gであることが好ましく、DBP吸油
量は10〜400ml/100gであることが好ましい。平均粒子径は5〜300nmであることが好ましく、10〜250nmであることがより好ましく、20〜200nmであるであることがさらに好ましい。pHは2〜10であることが好ましく、含水率は0.1〜10%であることが好ましく、タップ密度は0.1〜1g/mlであることが好ましい。
【0044】
上記カーボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS
2000、1300、1000、900、905、800、700、VULCAN XC−72;旭カーボン社製#80、#60、#55、#50、#35;三菱化成工業社製#2400B、#2300、#900、#1000、#30、#40、#10B;コロンビアンカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN150、50、40、15、RAVEN−MT−P;日本EC社製ケッチェンブラックEC;等が挙げられる。
【0045】
カーボンブラックは、分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用してもよい。また、その表面の一部をグラファイト化したものを使用してもよい。さらに、カーボンブラックを磁性塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。
これらのカーボンブラックは単独、または組合せて使用することができる。カーボンブラックを使用する場合は磁性体(磁性粒子)に対する全質量の0.1〜30%の範囲で使用することが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。従って、本発明に使用されるこれらのカーボンブラックは上層の磁性層、下層の非磁性層でその種類、量、組合せを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性をもとに目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきものである。本発明に係る磁性層で使用できるカーボンブラックは、例えば、「カーボンブラック便覧」(カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。
【0046】
また、磁性層には研磨剤を含有させることが好ましい。研磨剤としては、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化ケイ素、炭化ケイ素チタンカーバイド、酸化チタン、二酸化ケイ素、窒化ホウ素、等主としてモース硬度6以上の公知の材料が単独または組合せで使用される。また、これらの研磨剤同士の複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。これらの研磨剤には主成分以外の化合物または元素が含まれる場合もあるが主成分が90質量%以上であれば効果にかわりはない。
【0047】
これら研磨剤の粒子サイズは0.01〜2μmであることが好ましく、0.05〜1.0μmであることがより好ましく、0.05〜0.5μmであることがさらに好ましい。
特に電磁変換特性を高めるためには、その粒度分布が狭い方が好ましい。また耐久性を向上させるには必要に応じて粒子サイズの異なる研磨剤を組み合わせたり、単独の研磨剤でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることも可能である。研磨剤のタップ密度は0.3〜2g/mlであることが好ましく、含水率は0.1〜5%であることが好ましく、pHは2〜11であることが好ましく、SBETは1〜30m2/gであることが好ま
しい。研磨剤の形状は針状、球状、サイコロ状、のいずれでもよいが、形状の一部に角を有するものが研磨性が高く好ましい。
【0048】
具体的には、住友化学社製AKP−12、AKP−15、AKP−20、AKP−30、AKP−50、HIT20、HIT−30、HIT−55、HIT60A、HIT70、HIT80、HIT100;レイノルズ社製ERC−DBM、HP−DBM、HPS−DBM;不二見研磨剤社製WA10000;上村工業社製UB20;日本化学工業社製G−5、クロメックスU2、クロメックスU1;戸田工業社製TF100、TF140;イビデン社製ベータランダムウルトラファイン;昭和鉱業社製B−3;等が挙げられる。これらの研磨剤は必要に応じ非磁性層に添加することもできる。非磁性層に添加することで表面形状を制御したり、研磨剤の突出状態を制御したりすることができる。これら磁性層、非磁性層の添加する研磨剤の粒径、量はむろん最適値に設定すべきものである。
【0049】
(添加剤)
磁性層および後述する非磁性層には、種々の添加剤を含有させることが好ましい。使用される添加剤としては、潤滑効果、帯電防止効果、分散効果、可塑効果等の少なくとも1つの効果を有するものが適宜使用される。
【0050】
例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステングラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、シリコーンオイル、極性基をもつシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、アルキル燐酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、ポリフェニルエーテル、フェニルホスホン酸、αナフチル燐酸、フェニル燐酸、ジフェニル燐酸、p−エチルベンゼンホスホン酸、フェニルホスフィン酸、アミノキノン類、各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、フッ素含有アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また、分岐していてもよい)、および、これらの金属塩(Li、Na、K、Cuなど)または、炭素数12〜22の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコール(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもよい)、炭素数12〜22のアルコキシアルコール、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもよい)と炭素数2〜12の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコールのいずれか一つ(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもよい)とからなるモノ脂肪酸エステルまたはジ脂肪酸エステルまたはトリ脂肪酸エステル、アルキレンオキシド重合物のモノアルキルエーテルの脂肪酸エステル、炭素数8〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミン、等が使用できる。
【0051】
より具体的には、脂肪酸では、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、などが挙げられる。エステル類ではブチルステアレート、オクチルステアレート、アミルステアレート、イソオクチルステアレート、ブチルミリステート、オクチルミリステート、ブトキシエチルステアレート、ブトキシジエチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−オクチルドデシルパルミテート、2−ヘキシルドデシルパルミテート、イソヘキサデシルステアレート、オレイルオレエート、ドデシルステアレート、トリデシルステアレート、エルカ酸オレイル、ネオペンチルグリコールジデカノエート、エチレングリコールジオレイル;アルコール類ではオレイルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、等が挙げられる。
【0052】
また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリンドール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加体、等のノニオン界面活性剤;環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウムまたはスルホニウム類、等のカチオン系界面活性剤;カルボン酸、スルフォン酸、燐酸、硫酸エステル基、燐酸エステル基、などの酸性基を含むアニオン界面活性剤;アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸または燐酸エステル類、アルキルベダイン型、等の両性界面活性剤;等も使用できる。
これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。これらの潤滑剤、帯電防止剤等は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純物が含まれてもかまわない。これらの不純物は30質量%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。
【0053】
これらの潤滑剤および界面活性剤は個々に異なる物理的作用を有するものであり、その種類、量、および相乗的効果を生み出す潤滑剤または界面活性剤の併用比率は目的に応じ最適に定められるべきものである。当該目的としては、(1)非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い表面へのにじみ出しを制御する、(2)沸点、融点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、(3)界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、(4)潤滑剤の添加量を中間層で多くして潤滑効果を向上させる、等考えられ、無論ここに示した例のみに限られるものではない。一般には、潤滑剤の総量としては、磁性体(磁性粒子)または非磁性粉末に対し、0.1〜50質量%とすることが好ましく、2〜25質量%とすることがより好ましい。
【0054】
また、本発明で用いられる添加剤のすべて、または、その一部は、磁性塗料製造および非磁性塗料製造のどの工程で添加してもかまわない。例えば、混練工程前に磁性体と混合する場合、磁性体と結合剤と溶剤とによる混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0055】
また、目的に応じて磁性層を形成した後、同時または逐次塗布で、添加剤の一部または全部を塗布することにより目的が達成される場合がある。さらに、目的によってはカレンダー処理を施した後、またはスリット終了後、磁性層表面に潤滑剤を塗布することもできる。
【0056】
本発明の磁気記録媒体は、既述の磁性層を支持体の片面だけに設けてもよく、両面に設けてもよい。また、潤滑剤の供給源とする観点および支持体の突起を被覆する観点から、支持体と磁性層との間に非磁性層を設けてもよい。
支持体上に非磁性層を形成する場合、当該磁性層(上層または上層磁性層ともいう)は、非磁性層を塗布により形成した後、非磁性層が湿潤状態のうち(W/W)に設けてもよく、または、非磁性層が乾燥した後(W/D)に設けてもよい。生産得率の点から同時、または逐次湿潤塗布が好ましいが、ディスクの場合は乾燥後塗布でも十分に使用することができる。
重層構成(非磁性層+磁性層)で、両層を同時に、または、逐次湿潤塗布(W/W)では非磁性層+磁性層が同時に形成できるため、カレンダー工程などの表面処理工程を有効に活用でき、超薄層でも上層の磁性層の表面粗さを良化できる。
【0057】
磁性層の厚みは、0.005μm〜0.20μmであることが好ましく、0.05〜0.15μmであることがよりに好ましい。0.005μm〜0.20μmとすることで、再生出力の低下、オーバーライト特性および分解能の劣化を防ぐことができる。
【0058】
<非磁性層>
次に、非磁性層に関する詳細な内容について説明する。非磁性層は実質的に非磁性であればその構成は制限されるべきものではないが、通常、少なくとも樹脂からなり、好ましくは、粉体、例えば、無機粉末もしくは有機粉末が樹脂中に分散されたものが挙げられる。無機粉末は、好ましくは非磁性粉末であるが、非磁性層が実質的に非磁性である範囲で磁性粉末も使用することができる。
【0059】
これら非磁性粉末の粒子サイズ(粒径)は、0.005〜2μmの範囲が好ましいが、必要に応じて粒子サイズの異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の粒子サイズは、0.01μm〜0.2μmの範囲である。特に、非磁性粉末が粒状金属酸化物である場合は、平均粒子径は0.08μm以下が好ましい。針状金属酸化物である場合は、長軸長が0.3μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがさらに好ましい。タップ密度は0.05〜2g/mlであることが好ましく、0.2〜1.5g/mlであることがより好ましい。非磁性粉末の含水率は0.1〜5質量%であることが好ましく、0.2〜3質量%であることがより好ましく、0.3〜1.5質量%であることがさらに好ましい。非磁性粉末のpHは2〜11であることが好ましく、pHは5.5〜10であることが特に好ましい。
【0060】
非磁性粉末のSBET(比表面積)は1〜100m2/gであることが好ましく、5〜
80m2/gであることがより好ましく、10〜70m2/gであることがさらに好ましい。非磁性粉末の結晶子サイズ(結晶子径)は0.004μm〜1μmが好ましく、0.04μm〜0.1μmが更に好ましい。DBP(ジブチルフタレート)を用いた吸油量は5〜100ml/100gであることが好ましく、10〜80ml/100gであることがより好ましく、20〜60ml/100gであることがさらに好ましい。非磁性粉末の比重は1〜12であることが好ましく、3〜6であることがより好ましい。形状は針状、球状、多面体状、板状のいずれでも良い。モース硬度は4以上10以下のものが好ましい。非磁性粉末のSA(ステアリン酸)吸着量は1〜20μmol/m2であることが好まし
く、2〜15μmol/m2であることがより好ましく、3〜8μmol/m2であることがさらに好ましい。pHは3〜6の間が好ましい。
【0061】
非磁性粉末としては、例えば、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の無機化合物から選択することができる。
無機化合物としては、例えば、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、ヘマタイト、ゲータイト、コランダム、窒化ケイ素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデンなどを単独または組合せて使用される。特に好ましいのは、粒度分布の小ささ、機能付与の手段が多いこと等から、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウムであり、最も好ましいのは、二酸化チタン、α−酸化鉄である。
【0062】
非磁性粉末の具体的な例(製品名)としては、昭和電工製ナノタイト;住友化学製HIT−100、ZA−G1;戸田工業社製αへマタイトDPN−250、DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPN−500BX、DBN−SA1、DBN−SA3;石原産業製酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、αへマタイトE270、E271、E300、E303;チタン工業製酸化チタンSTT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C、αへマタイトα−40;テイカ製MT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、MT−600B、MT−100F、MT−500HD;堺化学製FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M;同和鉱業製DEFIC−Y、DEFIC−R;日本アエロジル製AS2BM、TiO2P25;宇部興産製100A、500A;が挙げられる。特に好ましい非磁性粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
【0063】
これらの非磁性粉末の表面には、表面処理を施すことによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnO、Y23のいずれか1以上を存在させることが好ましい。分散性を考慮すると、Al23、SiO2、TiO2、ZrO2であることが好ましいが、更に好ましいのはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用しても良いし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナを存在させた後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0064】
非磁性層中にカーボンブラックを混合させて表面電気抵抗Rsを下げること、光透過率を小さくすることができるとともに、所望のマイクロビッカース硬度を得る事ができる。また、非磁性層にカーボンブラックを含ませることで潤滑剤貯蔵の効果をもたらすことも可能である。カーボンブラックの種類はゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。非磁性層のカーボンブラックは所望する効果によって、以下のような特性を最適化すべきであり、併用することでより効果が得られることがある。
【0065】
非磁性層のカーボンブラックのSBETは100〜500m2/gであることが好ましく、150〜400m2/gであることがより好ましい。DBP吸油量は20〜400ml/100gであることが好ましく、30〜400ml/100gであることがより好ましい。カーボンブラックの粒子径は5nm〜80nmであることが好ましく、10〜50nmであることがより好ましく、10〜40nmであることがさらに好ましい。カーボンブラックのpHは2〜10であることが好ましく、含水率は0.1〜10%であることが好ましく、タップ密度は0.1〜1g/mlであることが好ましい。
【0066】
本発明に用いられるカーボンブラックの具体的な例(製品名)としては、キャボット社製BLACKPEARLS2000、1300、1000、900、800、880、700、VULCAN XC−72;三菱化成工業社製#3050B、#3150B、#3250B、#3750B、#3950B、#950、#650B、#970B、#850B、MA−600、MA−230、#4000、#4010;コロンビアンカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN 8800、8000、7000、5750、5250、3500、2100、2000、1800、1500、1255、1250;アクゾー社製ケッチェンブラックEC;等が挙げられる。
【0067】
カーボンブラックは、分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用してもよく、またその表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。さらに、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもよい。これらのカーボンブラックは上記無機粉末に対して50質量%を越えない範囲で、かつ、非磁性層の総質量の40%を越えない範囲で使用できる。これらのカーボンブラックは単独、または組合せて使用することができる。本発明で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」(カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。
【0068】
また、非磁性層には有機質粉末を目的に応じて、添加することもできる。例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記載されているような方法を採用することができる。
【0069】
非磁性層の厚みは、0.2μm〜5.0μmとすることが好ましく、0.3μm〜3.0μmとすることがより好ましく、1.0μm〜2.5μmとすることがさらに好ましい。
なお、非磁性層は実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば、不純物として、または意図的に少量の磁性体(磁性材料)を含んでいてもよい。「実質的に非磁性」とは残留磁束密度が0.01T以下または保磁力が7.96kA/m(100Oe以下)であることを示し、好ましくは残留磁束密度と保磁力をもたないことを示す。
【0070】
非磁性層の結合剤樹脂、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤樹脂量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術を適用することができる。
【0071】
非磁性支持体と非磁性層または磁性層との間には密着性向上のための下塗層を設けてもかまわない。下塗層の厚みは0.01〜0.5μmが好ましく、0.02〜0.5μmであることがより好ましい。本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体両面に非磁性層と磁性層とを設けてなるディスク状媒体であっても、片面のみに設けたテープ状媒体またはディスク状媒体でもよい。この場合、帯電防止やカール補正等の効果を出すために非磁性層、磁性層側と反対側にバック層を設けてもかまわない。バック層の厚みは、0.1〜4μmであることが好ましく、0.3〜2.0μmであることがより好ましい。これらの下塗層、後述するバック層には公知の材料が使用できる。
【0072】
<非磁性支持体>
本発明に用いられる非磁性支持体(以下、単に、「支持体」ということがある)は、特に制限されるべきものではないが、実質的に非磁性で可撓性のものが好ましい。
可撓性支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、ポリベンゾオキサプールなどの公知のフィルムが使用できる。ポリエチレンナフタレート、ポリアミドなどの高強度支持体を用いることが好ましい。
【0073】
また、必要に応じて、支持体の磁性層とバック層を塗布する面の表面粗さを変えるため特開平3−224127号公報に記載されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理等を施しておいてもよい。また、本発明における支持体としてアルミニウムまたはガラス基板を適用することも可能である。
【0074】
支持体としてWYKO社製TOPO−3Dで測定した中心面平均表面粗さ(Ra)は、通常、8.0nm以下であることが好ましく、4.0nm以下であることがより好ましく、2.0nm以下であることさらにが好ましい。これらの支持体は単に中心面平均表面粗さが小さいだけではなく、0.5μm以上の粗大突起がないことが好ましい。
【0075】
また、表面の粗さ形状は必要に応じて支持体に添加されるフィラーの大きさと量により自由にコントロールされるものである。これらのフィラーの一例としては、Ca、Si、Tiなどの酸化物や炭酸塩の無機微粒子、アクリル系などの有機微粉末が挙げられる。支持体上に存在する突起の最大高さRmaxは1μm以下であることが好ましく、十点平均粗さRzは0.5μm以下であることが好ましく、中心面山高さRpは0.5μm以下であることが好ましく、中心面谷深さRvは0.5μm以下であることが好ましく、中心面面積率Srは10%〜90%であることが好ましく、平均波長λaは5μm〜300μmが好ましい。所望の電磁変換特性と耐久性を得るため、これら支持体の表面突起分布をフィラーにより任意にコントロールできるものであり、0.01μmから1μmの大きさのもの各々を0.1mm2あたり0個から2000個の範囲で制御することができる。
【0076】
また、支持体のF−5(5%伸びにおける応力)値は、好ましくは5〜50kg/mm2(49〜490MPa)である。さらに、支持体の100℃30分での熱収縮率は好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下、80℃30分での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。破断強度は5〜100kg/mm2(49〜980MPa)であることが好ましく、弾性率は100〜2000kg/mm2(0.98〜19.6GPa)が好ましい。温度膨張係数は10-4〜10-8℃であることが好ましく、10-5〜10-6/℃であることがより好ましい。湿度膨張係数は10-4/RH%以下であることが好ましく、10-5/RH%以下であることがより好ましい。これらの熱特性、寸法特性、機械強度特性は支持体の面内各方向に対し10%以内の差でほぼ等しいことが好ましい。
【0077】
非磁性支持体の厚みは、2〜100μmであることが好ましく、2〜80μmであることがより好ましい。コンピューターテープの場合の支持体は、3.0〜6.5μmであることが好ましく、3.0〜6.0μmであることがより好ましく、4.0〜5.5μmであることがさらに好ましい。
【0078】
<バック層>
一般に、コンピュータデータ記録用の磁気テープは、ビデオテープ、オーディオテープに比較して、繰り返し走行性が強く要求される。このような高い走行耐久性を維持させるために、バック層には、カーボンブラックと無機粉末とが含有されていることが好ましい。
【0079】
カーボンブラックは、平均粒子径の異なる二種類のものを組み合わせて使用することが好ましい。この場合、平均粒子径が10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと平均粒子径が230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックを組み合わせて使用することが好ましい。
【0080】
一般に、上記のような微粒子状のカーボンブラックの添加により、バック層の表面電気抵抗を低く設定でき、また光透過率も低く設定できる。磁気記録装置によっては、テープの光透過率を利用し、動作の信号に使用しているものが多くあるため、このような場合には特に微粒子状のカーボンブラックの添加は有効になる。また微粒子状カーボンブラックは一般に液体潤滑剤の保持力に優れ、潤滑剤併用時、摩擦係数の低減化に寄与する。
【0081】
一方、体積平均粒子径が230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックは、固体潤滑剤としての機能を有しており、また、バック層の表面に微小突起を形成し、接触面積を低減化して、摩擦係数の低減化に寄与する。しかし、粗粒子状カーボンブラックを単独で用いると、過酷な走行系では、テープ摺動により、バック層からの脱落が生じ易くなり、エラー比率の増大につながる欠点を有している。
【0082】
微粒子状カーボンブラックの具体的な製品名としては、以下のものを挙げることができる。カッコ内は体積平均粒子径を示す。すなわち、RAVEN2000B(18nm)、RAVEN1500B(17nm)(以上、コロンビアカーボン社製);BP800(17nm)(キャボット社製);PRINNTEX90(14nm)、PRINTEX95(15nm)、PRINTEX85(16nm)、PRINTEX75(17nm)(以上、デグサ社製);#3950(16nm)(三菱化成工業(株)製);等である。
また、粗粒子カーボンブラックの具体的な製品名としては、サーマルブラック(270nm)(カーンカルブ社製);RAVEN MTP(275nm)(コロンビアカーボン社製);を挙げることができる。
【0083】
バック層において、平均粒子径の異なる二種類のものを使用する場合、体積平均粒径が10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックの含有比率(質量比)は、前者:後者=98:2〜75:25の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、95:5〜85:15の範囲である。
【0084】
バック層中のカーボンブラック(2種類のものを使用する場合には、その全量)の含有量は、結合剤100質量部に対して、通常30〜80質量部の範囲であり、好ましくは、45〜65質量部の範囲である。
【0085】
無機粉末は、硬さの異なる2種類のものを併用することが好ましい。具体的には、モース硬度3〜4.5の軟質無機粉末とモース硬度5〜9の硬質無機粉末とを使用することが好ましい。モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末を添加することで、繰り返し走行による摩擦係数の安定化を図ることができる。しかもこの範囲の硬さでは、摺動ガイドポールが削られることもない。またこの無機粉末の平均粒子径は、30〜50nmの範囲にあることが好ましい。
【0086】
モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末としては、例えば、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、及び酸化亜鉛を挙げることができる。これらは、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0087】
バック層内の軟質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100質量部に対して10〜140質量部の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、35〜100質量部である。
【0088】
モース硬度が5〜9の硬質無機粉末を添加することにより、バック層の強度が強化され、走行耐久性が向上する。これらの無機粉末をカーボンブラックや前記軟質無機粉末と共に使用すると、繰り返し摺動に対しても劣化が少なく、強いバック層となる。また、この無機粉末の添加により、適度の研磨力が付与され、テープガイドポール等への削り屑の付着が低減する。特に軟質無機粉末と併用すると、表面の粗いガイドポールに対しての摺動特性が向上し、バック層の摩擦係数の安定化も図ることができる。
【0089】
硬質無機粉末は、その平均粒子サイズが80〜250nm(更に好ましくは、100〜210nm)の範囲にあることが好ましい。
【0090】
モース硬度が5〜9の硬質無機質粉未としては、例えば、α−酸化鉄、α−アルミナ、及び酸化クロム(Cr23)を挙げることができる。これらの粉末は、それぞれ単独で用いても良いし、あるいは併用しても良い。これらの内では、α−酸化鉄又はα−アルミナが好ましい。硬質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100質量部に対して通常3〜30質量部であり、好ましくは、3〜20質量部である。
【0091】
バック層に前記軟質無機粉末と硬質無機粉末とを併用する場合、軟質無機粉末と硬質無機粉末との硬さの差が、2以上(更に好ましくは、2.5以上、特に、3以上)であるように軟質無機粉末と硬質無機粉末とを選択して使用することが好ましい。
【0092】
バック層には、前記それぞれ特定の平均粒子サイズを有するモース硬度の異なる二種類の無機粉末と、前記平均粒子サイズの異なる2種類のカーボンブラックとが含有されていることが好ましい。
【0093】
バック層には、潤滑剤を含有させることができる。潤滑剤は、前述した非磁性層、あるいは磁性層に使用できる潤滑剤として挙げた潤滑剤の中から適宜選択して使用できる。バック層において、潤滑剤は、結合剤100質量部に対して通常1〜5質量部の範囲で添加される。
【0094】
(保護膜等)
また、磁性層上に非常に薄い保護膜を形成することで、耐磨耗性を改善し、さらにその保護膜上に潤滑剤を塗布して滑り性を高めることによって、十分な信頼性を有する磁気記録媒体とすることができる。
【0095】
保護膜の材質としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化コバルト、酸化ニッケルなどの酸化物;窒化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物;炭化ケイ素、炭化クロム、炭化ホウ素等の炭化物;グラファイト、無定型カーボンなどの炭素(カーボン);等があげられるが、特に好ましくは、一般に、ダイヤモンドライクカーボンと呼ばれる硬質の非晶質のカーボンである。
【0096】
カーボンからなるカーボン保護膜は、非常に薄い膜厚で十分な耐磨耗性を有し、摺動部材に焼き付きを生じ難いため、保護膜の材料としては好適である。
カーボン保護膜の形成方法として、ハードディスクにおいては、スパッタリング法が一般的であるが、ビデオテープ等の連続成膜を行う必要のある製品ではより成膜速度の高いプラズマCVDを用いる方法が多数提案されている。従って、これらの方法を適用することが好ましい。
中でもプラズマインジェクションCVD(PI−CVD)法は成膜速度が非常に高く、得られるカーボン保護膜も硬質かつピンホールが少ない良質な保護膜が得られると報告されている(例えば、特開昭61−130487号公報、特開昭63−279426号公報、特開平3−113824号公報等)。
【0097】
このカーボン保護膜は、ビッカース硬度で1000kg/mm2以上であることが好ま
しく、2000kg/mm2以上であることがより好ましい。また、その結晶構造はアモ
ルファス構造であり、かつ非導電性であることが好ましい。
そして、カーボン保護膜として、ダイヤモンド状炭素(ダイヤモンドライクカーボン)膜を使用した場合、この構造はラマン光分光分析によって確認することができる。すなわち、ダイヤモンド状炭素膜を測定した場合には、1520〜1560cm-1にピークが検出されることによって確認することができる。炭素膜の構造がダイヤモンド状構造からずれてくるとラマン光分光分析により検出されるピークが上記範囲からずれるとともに、保護膜としての硬度も低下する。
【0098】
このカーボン保護膜を形成するための炭素原料としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン等のアルカン;エチレン、プロピレン等のアルケン;アセチレン等のアルキン;をはじめとした炭素含有化合物を用いることが好ましい。また、必要に応じてアルゴンなどのキャリアガスや膜質改善のための水素や窒素などの添加ガスを加えることができる。
【0099】
カーボン保護膜の膜厚が厚いと、電磁変換特性の悪化や磁性層に対する密着性の低下が生じ、膜厚が薄いと耐磨耗性が不足する。従って、膜厚は、2.5〜20nmとすることが好ましく、5〜10nmとすることがより好ましい。
また、この保護膜と基板となる磁性層の密着性を改善するために、あらかじめ磁性層表面を不活性ガスでエッチングしたり、酸素等の反応性ガスプラズマに曝して表面改質することが好ましい。
【0100】
走行耐久性および耐食性を改善するため、上記磁性層もしくは保護膜上に潤滑剤や防錆剤を付与することが好ましい。添加する潤滑剤としては公知の炭化水素系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、極圧添加剤などが使用できる。
【0101】
炭化水素系潤滑剤としては、ステアリン酸、オレイン酸等のカルボン酸類;ステアリン酸ブチル等のエステル類;オクタデシルスルホン酸等のスルホン酸類;リン酸モノオクタデシル等のリン酸エステル類;ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール類;ステアリン酸アミド等のカルボン酸アミド類;ステアリルアミン等のアミン類;などが挙げられる。
【0102】
フッ素系潤滑剤としては、上記炭化水素系潤滑剤のアルキル基の一部または全部をフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基で置換した潤滑剤が挙げられる。
パーフルオロポリエーテル基としては、パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ−n−プロピレンオキシド重合体(CF2
CF2CF2O)n、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体(CF(CF3)CF2O)nまたはこれらの共重合体等である。
【0103】
また、炭化水素系潤滑剤のアルキル基の末端や分子内に水酸基、エステル基、カルボキシル基などの極性官能基を有する化合物が、摩擦力を低減する効果が高く好適である。
さらに、この分子量は、500〜5000、好ましくは1000〜3000である。500〜5000とすることで、揮発を抑え、また潤滑性の低下を抑えることができる。また、粘度が高くなるのを防ぎ、スライダーとディスクが吸着しやすなって走行停止やヘッドクラッシュなどを発生するのを防ぐことができる。
このパーフルオロポリエーテルは、具体例的には、アウジモンド社製のFOMBLIN、デュポン社製のKRYTOXなどの商品名で市販されている。
【0104】
極圧添加剤としては、リン酸トリラウリル等のリン酸エステル類;亜リン酸トリラウリル等の亜リン酸エステル類;トリチオ亜リン酸トリラウリル等のチオ亜リン酸エステルやチオリン酸エステル類;二硫化ジベンジル等の硫黄系極圧剤;などが挙げられる。
【0105】
前記潤滑剤は単独もしくは複数を併用して使用される。これらの潤滑剤を磁性層もしくは保護膜上に付与する方法としては、潤滑剤を有機溶剤に溶解し、ワイヤーバー法、グラビア法、スピンコート法、ディップコート法等で塗布するか、真空蒸着法によって付着させればよい。
【0106】
防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、ピリミジン等の窒素含有複素環類およびこれらの母核にアルキル側鎖等を導入した誘導体;ベンゾチアゾール、2−メルカプトンベンゾチアゾール、テトラザインデン環化合物、チオウラシル化合物等の窒素および硫黄含有複素環類およびこの誘導体;等が挙げられる。
【0107】
(物理特性)
本発明の磁気記録媒体は、以下に説明するような物理特性を有することが好ましい。
本発明になる磁気記録媒体の磁性層の飽和磁束密度は、好ましくは0.1〜0.3Tである。磁性層の保磁力Hcは159kA/m(2000Oe)〜796kA/m(10000Oe)が好ましく、159〜239kA/m(2000〜3000Oe)がより好ましい。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFDは0.6以下が好ましい。
【0108】
磁気ディスクの場合、角型比は2次元ランダムの場合は0.55以上0.67以下で、好ましくは0.58以上、0.64以下、3次元ランダムの場合は0.45以上、0.55以下が好ましく、垂直配向の場合は垂直方向に0.6以上好ましくは0.7以上、反磁界補正を行った場合は0.7以上、好ましくは0.8以上である。2次元ランダム、3次元ランダムとも配向度比は0.8以上が好ましい。2次元ランダムの場合、垂直方向の角形比、Br、Hcは面内方向の0.1〜0.5倍以内とすることが好ましい。
【0109】
磁気テープの場合、角型比は通常、0.55以上であり、好ましくは0.7以上である。本発明の磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は温度−10℃から40℃、湿度0%から95%の範囲において0.5以下、好ましくは0.3以下、表面固有抵抗は好ましくは磁性層表面104〜1012オーム/sq、帯電位は−500Vから+500V以内が好
ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は面内各方向で好ましくは100〜2000kg/mm2(0.98〜19.6GPa)、破断強度は好ましくは10〜70kg/mm2(98〜686MPa)、磁気記録媒体の弾性率は面内各方向で好ましくは100〜1500kg/mm2(0.98〜14.7GPa)、残留のびは好ましくは0.5%以下、
100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。磁性層のガラス転移温度(110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は50℃以上120℃以下が好ましく、下層非磁性層のそれは0℃〜100℃が好ましい。
【0110】
損失弾性率は1×109〜8×1010μN/cm2の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向で10%以内でほぼ等しいことが好ましい。磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは3
0容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方がよい場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0111】
磁性層の中心面平均表面粗さRaはWYKO社製TOPO−3Dを用いて、250μm×250μmの面積での測定で4.0nm以下、好ましくは3.8nm以下、さらに好ましくは3.5nm以下である。磁性層の最大高さRmaxは0.5μm以下、十点平均粗さRzは0.3μm以下、中心面山高さRpは0.3μm以下、中心面谷深さRvは0.3μm以下、中心面面積率Srは20%以上80%以下、平均波長λaは5μm以上、300μm以下が好ましい。磁性層の表面突起は前述の通りに設定することにより電磁変換特性、摩擦係数を最適化することが好ましい。これらは支持体のフィラーによる表面性のコントロールや前述したように磁性層に添加する粉体の粒径と量、カレンダー処理のロール表面形状などで容易にコントロールすることができる。カールは±3mm以内とすることが好ましい。
【0112】
支持体上に非磁性層を形成する場合、当該磁性層(上層または上層磁性層ともいう)は、非磁性層を塗布により形成した後、非磁性層が湿潤状態のうち(W/W)に設けてもよく、または、非磁性層が乾燥した後(W/D)に設けてもよい。生産得率の点から同時、または逐次湿潤塗布が好ましいが、ディスクの場合は乾燥後塗布でも十分に使用できる。なお、非磁性層については後述する。
【0113】
重層構成(非磁性層と磁性層との構成)で、両層を同時に、または、逐次湿潤塗布(W/W)では非磁性層と磁性層とが同時に形成できるため、カレンダー工程などの表面処理工程を有効に活用でき、超薄層でも上層の磁性層の表面粗さを良化できる。以下、磁性層および非磁性層の形成方法について、詳細に説明する。
【0114】
まず、磁性層用の塗布液(磁性層用磁性液)や非磁性層用の塗布液(非磁性層用非磁性液)を作製する際には、分散剤を溶解させるために、オープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等を使用した混練処理を施してもよい。また、磁性粒子や非磁性粉体を分散させるため、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズ等の分散メディアを使用してもよい。
【0115】
そして、磁性層用磁性液を公知の方法により支持体上に塗布することで、磁性層を形成することができる。ここで、非磁性層と磁性層とを形成する重層構成の磁気記録媒体とする場合、以下のような方式を用いることが好ましい。
【0116】
第一の方式は、一般的に用いられるグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布装置等により、まず非磁性層用非磁性液を塗布し、非磁性層がウェット状態のうちに特公平1−46186号公報や特開昭60−238179号公報、特開平2−265672号公報に開示されている支持体加圧型エクストルージョン塗布装置により磁性層用磁性液を塗布して磁性層を形成する方式である。
【0117】
第二の方式は、特開昭63−88080号公報、特開平2−17971号公報、特開平2−265672号公報に開示されているような塗布液通液スリットを2つ内蔵する一つの塗布ヘッドにより非磁性層用非磁性液および磁性層用磁性液をほぼ同時に塗布する方式である。
【0118】
第三の方式は、特開平−174965に開示されているバックアップロール付きエクストルージョン塗布装置により非磁性層用非磁性液および磁性層用磁性液をほぼ同時に塗布する方式である。
【0119】
なお、磁性粒子の凝集による磁気記録媒体の電磁変換特性等の低下を防止するため、特開昭62−95174号公報や特開平1−236968号公報に開示されているような方法により塗布ヘッド内部の塗布液にせん断を付与することが望ましい。さらに、磁性層および非磁性層の塗布液の粘度については、特開平3−8471号公報に開示されている数値範囲を満足することが好ましい。重層構成を実現するには非磁性層を塗布し乾燥させたのち、その上に磁性層を設ける逐次重層塗布を行ってもよい。但し、塗布欠陥を少なくし、ドロップアウトなどの品質を向上させるためには、前述の同時重層塗布を用いることが好ましい。
【0120】
特に、ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。等方的な配向とは強磁性金属粉末の場合、特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用い円周配向をしてもよい。
【0121】
また、磁気テープの場合は、コバルト磁石やソレノイドを用いて長手方向に配向する。乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい。また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0122】
上記塗布、乾燥後、必要であれば、磁気記録媒体にカレンダー処理を施してもかまわない。カレンダ―処理ロールとしてエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等の耐熱性のあるプラスチックロールまたは金属ロールで処理するが、特に両面磁性層とする場合は金属ロール同士で処理することが好ましい。処理温度は、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。
線圧力は好ましくは200kg/cm(196kN/m)以上、さらに好ましくは300kg/cm(294kN/m)以上である。
【実施例】
【0123】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の記載において、「部」とは、質量部をいうものとする。
【0124】
[磁性粒子1〜3の作製]
(急冷薄帯の作製)
Ar雰囲気中で以下の作業を行った。それぞれ表1の組成となるように秤量した原料をアーク炉にて溶融した後、その溶融合金を冷却し、石英管に入れた。次いで、高周波で合金を溶解し、Arガスで圧力をかけ石英管から石英製のオリフィスを通して溶融金属を回転する銅ロール上に吹きつけた。ロールの回転数は20m/sであった。
【0125】
以上により急冷薄帯(厚み:10μm)を得ることができた。これを500℃で粒子直径が25nmになるまで加熱した。その結果、表1記載の希土類−遷移金属−半金属の単結晶からなるナノ結晶と、その結晶粒界に希土類−遷移金属相が得られた。
【0126】
(急冷薄帯から希土類−遷移金属−半金属の単結晶の取り出し)
2ガスのバブリングにより脱酸素した蒸留水を用いて作製した0.1kmol/m3のNaCl水溶液中に急冷薄帯を浸漬することで希土類−遷移金属相を溶解除去した。その後、脱酸素した蒸留水で洗浄することでNaClを除去した。その後、透過電子顕微鏡(TEM)で粒径を評価して、それぞれ表1に示す粒径の磁性粒子1〜3を得た。
【0127】
(不動態皮膜の形成)
得られた磁性粒子1〜10を空気中60℃で8時間加熱することで、表面に不動態皮膜である酸化皮膜を形成した。厚みは透過電子顕微鏡にて確認し5nmであった。
【0128】
[磁性粒子A〜Bの作製]
それぞれ、特開2001−181754号公報の「実施例1、11」に従い、希土類−遷移金属−半金属からなる以下に示す構成の磁性粒子A〜Bを作製した。
「磁性粒子A」:ネオジウム−鉄−ホウ素系磁性粉末
蛍光X線による測定で、それぞれ、鉄に対して、Nd:2.3at%、B:9at%
「磁性粒子B」:ネオジウム−鉄−コバルト−ホウ素系磁性粉末
蛍光X線による測定で、それぞれ、鉄に対して、Nd:1.5at%、Co:10.8at%、B:6.1at%
【0129】
得られた磁性粒子1〜3、A〜Bの組成、キュリー点、及び粒径を、それぞれ、以下に示す測定方法により測定した。測定結果を表1に示す。
(1)キュリー点の測定
電気炉を振動試料型磁力計(VSM)に設置し、5℃毎に昇温するとともに、磁化を測定し、磁化が零になった温度をキュリー点とした。
(2)粒径の測定
透過電子顕微鏡((株)日立製作所製、H9000)を用いて行った。
【0130】
【表1】

【0131】
<磁気記録媒体の作製>
[実施例1〜2、比較例1〜3]
前述のようにして得られた磁性粒子1〜3、A〜Bを用い、以下のようにして磁性層用磁性液を調製し、次いで非磁性層用磁性液を調製し、実施例1〜2、及び比較例1〜3の磁気記録媒体を作製した。なお、磁性粒子1〜2は、それぞれ、実施例1〜2において使用し、磁性粒子3、A〜Bは、比較例1〜3において使用した。
【0132】
[磁性層用磁性液の調製]
各実施例及び比較例毎に、対応する磁性粒子を使用して、下記材料を混合し、磁性層用磁性液を調製した。
「磁性粒子(1〜3、A〜B)」 100部
「化合物」 7.5部
塩化ビニル/酢酸ビニル/グリシジルメタクリレート/2−ヒドロキシプロピルアリルエーテル=86/5/5/4の共重合体にヒドロキシエチルスルフォネートナトリウム塩を付加した化合物(SO3Na=6×10-5eq/g、エポキシ=10-3eq/g、重量平均分子量(Mw)=30,000)
「ポリウレタン樹脂」 5部
(SO3Na=7×10-5eq/g、末端OH基含有、Mw=40,000、Tg90℃のポリエステルポリウレタン)
「シクロヘキサノン」 60部
「粒径0.1μmのアルミナ研磨剤」 1.5部
「カーボンブラック(粒子サイズ:40nm)」 2部
「メチルエチルケトン」 51部
「トルエン」 1200部
「ポリイソシアネート(日本ポリウレタン製コロネート3041)」 5部(固形分)
「ブチルステアレート」 5部
「イソヘキサデシルステアレート」 5部
「ステアリン酸」 1部
「オレイン酸」 1部
【0133】
[非磁性層用非磁性液の調製]
下記材料を混合して、非磁性層用非磁性液を調製した。
「酸化チタン」 85部
(平均粒径0.035μm、結晶型ルチル、TiO2含有量90%以上、表面処理層;アルミナ、SBET 35〜42m2/g、真比重4.1、pH6.5〜8.0)
「化合物」 11部
塩化ビニル/酢酸ビニル/グリシジルメタクリレート=86/9/5の共重合体にヒドロキシエチルスルフォネートナトリウム塩を付加した化合物(SO3Na=6×10-5eq/g、エポキシ=10-3eq/g、Mw=30,000)
「スルホン酸含有ポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR8700)」 10部(固形分)
「シクロヘキサノン」 4260部
「メチルエチルケトン」 56部
「ブチルステアレート」 5部
「イソヘキサデシルステアレート」 5部
「ポリイソシアネート(日本ポリウレタン製コロネート3041)」 5部(固形分)
「ステアリン酸」 1部
「オレイン酸」 1部
【0134】
各実施例及び比較例毎に、得られた非磁性層用非磁性液を1.5μmに、さらにその直後に磁性層用磁性液を乾燥後の厚さが0.2μmになるように、厚さ62μmのポリエチレンテレフタレート支持体(非磁性支持体)の表面に同時重層塗布した。両層が未乾燥の状態で周波数50Hz、250ガウス、また周波数50Hz、120ガウスの2つの磁場強度の交流磁場発生装置の中を通過させランダム配向処理を行ない、さらに乾燥後、金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロールの組み合せによるカレンダー処理を(速度100m/min、線圧300kg/cm、温度90℃)で行なった。そして、3.7インチのディスクに打ち抜き、表面研磨処理を施した後、ライナーが内側に設置された、米Iomega社製Zip−Diskカートリッジに入れ所定の機構部品を付加して実施例1〜5及び比較例1〜8のフレキシブルディスクサンプル(磁気記録媒体)を得た。
【0135】
実施例1〜2及び比較例1〜3のフレキシブルディスクサンプルの腐食性を以下のようにして評価した。結果を表2に示す。
[耐腐食性の評価]
1cm角の磁気記録媒体を、60℃90%にて3日間保存し、錆びた表面の割合で示した。数値が0に近い方が耐腐食性に優れる。
【0136】
【表2】

【0137】
表1、表2の結果から、実施例1〜2の磁気記録媒体は、耐腐食性、及び熱的安定性(キュリー点が高い)の双方ともに満足できる結果が得られたのに対し、比較例1〜3の磁気記録媒体は、耐腐食性及び熱的安定性の両方とも満足できる結果が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に粒子直径5〜50nmの希土類−Co−半金属の磁性粒子及び結合剤を含有する磁性層を有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁性粒子がさらにNiを含み、CoとNiの含有比率をCo(100-x)Nixと表したとき、x=20〜35at%であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。