説明

磁気記録媒体

【課題】再生ヘッドとしてMRヘッドを使用する高密度磁気記録再生システムにおいて、優れた電磁変換特性と耐久性を発揮し得る磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】磁気信号を記録し、該信号を磁気抵抗型ヘッドを用いて再生するために使用される磁気記録媒体。前記磁気記録媒体は、非磁性支持体上に強磁性粉末、研磨剤および結合剤を含む磁性層を有し、前記研磨剤のヌープ硬度は、2500〜7000kgf/mm2(24.5〜68.6GPa)の範囲であり、前記研磨剤の平均粒径は、前記磁性層の厚さの±20%以内であり、前記磁性層の押し込み硬度は、50kg/mm2(0.49GPa)より大きく、100kg/mm2(0.98GPa)以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度記録、特に高密度デジタル記録に適した磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体は業務用、民生用分野での情報記録用や、データストレージのバックアップ用など広い用途で使われている。近年、ブロードバンドネットワークやデジタル放送の普及によって扱うデータ量は急速に増加している。そのためデータを保存するストレージ装置の大容量化に対する要求は強く、高密度記録化はますます必須になっている。
【0003】
近年、高密度化に適した再生ヘッドとして、MR(磁気抵抗)を動作原理とする再生ヘッドが提案され、ハードデイスク等で使用され始めている。例えば、特許文献1おおよび2には、再生ヘッドとしてMRヘッドを用いる高密度記録再生システムに使用するための磁気記録媒体が開示されている。MRヘッドは、従来使用されていた誘導型磁気ヘッドに比較して数倍の再生出力が得られ、かつ誘導コイルを用いないため、インピーダンスノイズ等の機器ノイズが大幅に低下し、磁気記録媒体のノイズを下げることで大きなSN比を得ることができ、高密度記録特性を飛躍的に向上させることができる。
【0004】
MRヘッドは高密度記録には必須のヘッドであるが、ヘッド基板にアルティック等の硬い材料を使用しているため、ヘッド基板間のMR素子やシールド層、絶縁層部のみが選択的に摩耗する段差摩耗が発生し、高密度記録領域で出力低下を起こしやすい。また、MR素子は薄膜のため、ヘッド全体の摩耗が多いとMR素子そのものを摩滅させてしまう。他方、ヘッド磨耗を防ぐため、磁性層中の研磨剤を極度に減量したり、過度に軟らかい研磨剤を使用すると、ヘッド汚れが除去されず、電磁変換特性の低下やエラーレート増加の原因となる。そのため、ヘッドの一部の段差摩耗および全体のヘッド摩耗を引き起こさないがヘッド汚れは除去できる磁気記録媒体が求められていた。
【特許文献1】特開2003−22515号公報
【特許文献2】特開2003−272124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、再生ヘッドとしてMRヘッドを使用する高密度磁気記録再生システムにおいて、優れた電磁変換特性と耐久性を発揮し得る磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成する手段は、以下の通りである。
[1]磁気信号を記録し、該信号を磁気抵抗型ヘッド(以下、「MRヘッド」という)を用いて再生するために使用される磁気記録媒体であって、
前記磁気記録媒体は、非磁性支持体上に強磁性粉末、研磨剤および結合剤を含む磁性層を有し、
前記研磨剤のヌープ硬度は、2500〜7000kgf/mm2(24.5〜68.6GPa)の範囲であり、
前記研磨剤の平均粒径は、前記磁性層の厚さの±20%以内であり、
前記磁性層の押し込み硬度は、50kg/mm2(0.49GPa)より大きく、100kg/mm2(0.98GPa)以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
[2]前記非磁性支持体と磁性層との間に、放射線硬化型樹脂およびカーボンブラックを含む下塗り層を有する[1]に記載の磁気記録媒体。
[3]前記MRヘッドのシールド間距離は100〜250nmの範囲である[1]または[2]に記載の磁気記録媒体。
[4]前記強磁性粉末は、六方晶フェライト粉末である[1]〜[3]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[5]前記磁性層の厚さは、0.03〜0.15μmの範囲である[1]〜[4]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高記録密度領域での電磁変換特性と耐久性を両立した磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明について更に詳細に説明する。

本発明の磁気記録媒体は、磁気信号を記録し、該信号を磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)を用いて再生するために使用される磁気記録媒体である。本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に強磁性粉末、研磨剤および結合剤を含む磁性層を有し、前記研磨剤のヌープ硬度は、2500〜7000kgf/mm2(24.5〜68.6GPa)の範囲であり、前記研磨剤の平均粒径は、前記磁性層の厚さの±20%以内であり、前記磁性層の押し込み硬度は、50kg/mm2(0.49GPa)より大きく、100kg/mm2(0.98GPa)以下であることを特徴とする。
【0009】
一般に、MRヘッドは、非磁性材料から構成される基板上に、絶縁性材料から構成される絶縁層、磁性材料から構成される下部シールド層、非磁性材料から構成される下部ギャップ層、磁気抵抗効果型素子、非磁性材料から構成される上部ギャップ層、磁性材料から構成される上部シールド層および絶縁性材料から構成される保護層が順次積層されて形成されている。ここで、下部シールド層と上部シールド層とで挟まれた部分が、読取用の磁気ギャップとなる。基板の材質としては、非磁性材料であるアルミナチタンカーバイド(アルチック:Al23・TiC)がよく用いられている。また、絶縁層には、絶縁性材料であるアルミナ(Al23)やシリカ(SiO2)等が用いられている。基板を構成するアルチックは、絶縁層を構成するアルミナ等よりも硬い材料である。そのため、再生時にMRヘッドと磁性層表面とが接触すると、ヘッド基板間のMR素子やシールド層、絶縁層部のみが選択的に摩耗する段差摩耗が発生し、高密度記録領域で出力低下を起こしやすい。また、MR素子は薄膜のため、ヘッド全体の摩耗が多いとMR素子そのものを摩滅させてしまう。他方、ヘッドがまったく研磨されないとヘッド汚れが除去されず、電磁変換特性の低下やエラーレートの増加を引き起こす。
それに対し、本発明では、2500〜7000kgf/mm2(24.5〜68.6GPa)の範囲のヌープ硬度を有し、かつ、磁性層の厚さの±20%以内の平均粒径を有する研磨剤を、50kg/mm2(0.49GPa)より大きく、100kg/mm2(0.98GPa)以下の押し込み硬度を有する磁性層に使用する。このように、磁性層にヘッド基板間の絶縁層部より硬くヘッド基板の硬度近くの硬度を有する研磨剤を添加し、磁性層と支持体との間で適度なクッション性を保つことにより、ヘッドの段差摩耗、全体摩耗を引き起こさずに、ヘッド汚れを除去することができ、高記録密度領域において、優れた電磁変換特性と耐久性を両立することができる。
【0010】
本発明の磁気記録媒体において、磁性層に含まれる研磨剤のヌープ硬度は、2500〜7000kgf/mm2(24.5〜68.6GPa)であり、好ましくは2500〜6500kgf/mm2(24.5〜63.7GPa)、より好ましくは2500〜4500kgf/mm2(24.5〜44.1GPa)であり、特に好ましくは3000〜3500kgf/mm2(29.4〜34.3GPa)である。磁性層に含まれる研磨剤のヌープ硬度が2500kgf/mm2(24.5GPa)未満ではヘッド汚れを除去することが困難となり、前記研磨時のヌープ硬度が7000kgf/mm2(68.6GPa)を超えると、ヘッドの全体摩耗量が顕著に増加し、耐久性が劣化する。上記範囲内のヌープ硬度を有する研磨剤としては、例えば、ダイヤモンド、炭化珪素、ボロンカーバイド(B4C)、α−アルミナ、SiO2、TiCを挙げることができる。
【0011】
本発明では、磁性層に、磁性層の厚さの±20%以内の平均粒径を有する研磨剤を使用する。本発明では、後述するように支持体と磁性層との間で適度なクッション性を保ちつつ、磁性層に、磁性層厚の±20%以内の平均粒径を有する研磨剤を使用することにより、磁性層とヘッドが接触した際に、磁性層表面からわずかに突出した研磨剤を磁性層側に適度に凹ませることができる。これにより、ヘッドの段差摩耗や全体摩耗を引き起こさずに、ヘッド汚れを除去することが可能となる。磁性層に使用する研磨剤の平均粒径が、磁性層厚さ+20%を超えると、磁性層表面に研磨剤が過度に突出し、ヘッド摩耗を引き起こすおそれがあり、研磨剤の平均粒径が、磁性層厚さ−20%未満では、研磨剤の突出が少ないためにヘッド汚れを除去することが困難となる。前記研磨剤の平均粒径は、磁性層の厚さの−10〜10%であることが好ましく、−5〜5%であることがより好ましい。また、研磨剤の平均粒径は、30〜150nmであることが好ましく、40〜100nmであることがより好ましく、50〜80nmであることが特に好ましい。
【0012】
ヌープ硬度は、四角錐の圧子を押し込み、(圧痕表面積)/(試験荷重)として算出することができる。また、研磨剤の平均粒径は、レーザー散乱による粒度分布測定器によって得られる平均値として求めることができる。
【0013】
磁性層への研磨剤の添加量は、強磁性粉末100質量部に対して1〜10質量部とすることができ、1〜5質量部とすることが好ましく、1〜3質量部とすることが更に好ましい。
【0014】
本発明の磁気記録媒体において、磁性層の押し込み硬度は、50kg/mm2(0.49GPa)より大きく、100kg/mm2(0.98GPa)以下である。磁性層の押し込み硬度が50kg/mm2(0.49GPa)以下では、磁性層が過度に柔軟なため、磁性層表面とヘッドが接触した際に、磁性層内に研磨剤が凹んで埋没し、ヘッド汚れを除去することが困難となり、100kg/mm2(0.98GPa)を超えると、支持体と磁性層との間のクッション性が不十分でヘッド摩耗が引き起こされる。前記押し込み硬度は、60〜80kg/mm2(0.59〜0.78GPa)であることが好ましく、60〜70kg/mm2(0.59〜0.69GPa)であることがより好ましい。本発明における磁性層の押し込み硬度は、エリオニクス社製微小押し込み試験機ENT−1100aによって、荷重6mgfで測定された値である。
【0015】
本発明では、非磁性支持体と磁性層との間に、放射線硬化型化合物およびカーボンブラックを含む下塗り層を設けることにより、媒体に適度なクッション性を付与し、上記範囲内の磁性層押し込み硬度を有する磁気記録媒体を得ることができる。本発明では、前記下塗り層の厚みを厚くすること、および、下塗り層におけるカーボンブラック添加量を増量すること、下塗り層に軟らかいカーボンブラックを使用することにより、磁性層押し込み硬度を低下させる方向に制御することができる。下塗り層におけるカーボンブラック量は、放射線硬化型樹脂100質量部に対して2〜50質量部とすることが好ましく、5〜30質量部とすることがより好ましい。また、下塗り層に使用するカーボンブラックの平均粒径は、10〜30nmであることが好ましい。具体的には、後述する磁性層および非磁性層に使用し得るカーボンブラックを用いることができる。下塗り層の厚さは、0.1〜0.7μmとすることが好ましく、0.2〜0.6μmとすることがより好ましい。
【0016】
下塗り層に使用される放射線硬化型樹脂の粘度は、媒体に適度なクッション性を付与する観点から、40000mPa・sec以下であることが好ましく、10000mPa・sec以下であることがより好ましく、1000〜6000mPa・secの範囲であることが更に好ましい。ここで、放射線硬化型樹脂の粘度とは、放射線硬化前の樹脂成分(溶媒を含まない)の25℃で測定される粘度をいう。上記放射線硬化型樹脂の質量平均分子量は、200〜1000であることが好ましく、200〜500であることが更に好ましい。
【0017】
放射線硬化型樹脂としては、アクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリル酸エステル類、メタクリル酸アミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類等を挙げることができる。中でもアクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類が好ましく、特に放射線硬化官能基を2個以上有するアクリル酸エステル類が好ましい。放射線硬化官能基としては、アクリロイル基およびメタクリロイル基を挙げることができ、中でも、放射線硬化官能基がアクリロイル基であることが好ましい。
【0018】
前記放射線硬化型樹脂は、脂環式環状構造を有するものであることが好ましい。脂環式環状構造とは、シクロ骨格、ビシクロ骨格、トリシクロ骨格、スピロ骨格、ジスピロ骨格等の骨格を有するものである。中でも、脂環式環状構造は、原子を共有している複数の環からなる構造であるもの、例えば、ビシクロ骨格、トリシクロ骨格、スピロ骨格、ジスピロ骨格等の骨格を有するものであることが好ましい。これら骨格としては、エステル類、アミド類等の放射線硬化型樹脂を形成するためのポリオール、ポリアミン等の残基となるものが挙げられる。放射線硬化型樹脂はその残基に放射線硬化官能基を各々結合してなるものであることができる。
【0019】
脂環式環状構造を有する放射線硬化型樹脂は、脂肪族系に比べてガラス転移温度が高いので、下塗り層塗布後の工程での粘着故障を低減することができる。また、シクロヘキサン環やビシクロ、トリシクロ、スピロなどの脂環式系の骨格を有することで、硬化による塗膜収縮が低減され、非磁性支持体との密着力を向上させることもできる。
【0020】
放射線硬化型樹脂の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。シクロプロパンジアクリレート、シクロペンタンジアクリレート、シクロヘキサンジアクリレート、シクロブタンジアクリレート、ジメチロールシクロプロパンジアクリレート、ジメチロールシクロペンタンジアクリレート、ジメチロールシクロヘキサンジアクリレート、ジメチロールシクロブタンジアクリレート、シクロプロパンジメタクリレート、シクロペンタンジメタクリレート、シクロヘキサンジメタクリレート、シクロブタンジメタクリレート、ジメチロールシクロプロパンジメタクリレート、ジメチロールシクロペンタンジメタクリレート、ジメチロールシクロヘキサンジメタクリレート、ジメチロールシクロブタンジメタクリレート、ビシクロブタンジアクリレート、ビシクロオクタンジアクリレート、ビシクロノナンジアクリレート、ビシクロウンデカンジアクリレート、ジメチロールビシクロブタンジアクリレート、ジメチロールビシクロオクタンジアクリレート、ジメチロールビシクロノナンジアクリレート、ジメチロールビシクロウンデカンジアクリレート、ビシクロブタンジメタクリレート、ビシクロオクタンジメタクリレート、ビシクロノナンジメタクリレート、ビシクロウンデカンジメタクリレート、ジメチロールビシクロブタンジメタクリレート、ジメチロールビシクロオクタンジメタクリレート、ジメチロールビシクロノナンジメタクリレート、ジメチロールビシクロウンデカンジメタクリレート、トリシクロヘプタンジアクリレート、トリシクロデカンジアクリレート、トリシクロドデカンジアクリレート、トリシクロウンデカンジアクリレート、トリシクロテトラデカンジアクリレート、トリシクロデカントリデカンジアクリレート、ジメチロールトリシクロヘプタンジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、ジメチロールトリシクロドデカンジアクリレート、ジメチロールトリシクロウンデカンジアクリレート、ジメチロールトリシクロテトラデカンジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカントリデカンジアクリレート、トリシクロヘプタンジジメタクリレート、トリシクロデカンジメタクリレート、トリシクロドデカンジメタクリレート、トリシクロウンデカンジメタクリレート、トリシクロテトラデカンジメタクリレート、トリシクロデカントリデカンジメタクリレート、ジメチロールトリシクロヘプタンジメタクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジメタクリレート、ジメチロールトリシクロドデカンジメタクリレート、ジメチロールトリシクロウンデカンジメタクリレート、ジメチロールトリシクロテトラデカンジメタクリレート、ジメチロールトリシクロデカントリデカンジメタクリレート、スピロオクタンジアクリレート、スピロヘプタンジアクリレート、スピロデカンジアクリレート、シクロペンタンスピロシクロブタンジアクリレート、シクロヘキサンスピロシクロペンタンジアクリレート、スピロビシクロヘキサンジアクリレート、ジスピロヘプタデカンジアクリレート、ジメチロールスピロオクタンジアクリレート、ジメチロールスピロヘプタンジアクリレート、ジメチロールスピロデカンジアクリレート、ジメチロールシクロペンタンスピロシクロブタンジアクリレート、ジメチロールシクロヘキサンスピロシクロペンタンジアクリレート、ジメチロールスピロビシクロヘキサンジアクリレート、ジメチロールジスピロヘプタデカンジアクリレート、スピロオクタンジメタクリレート、スピロヘプタンジメタクリレート、スピロデカンジメタクリレート、シクロペンタンスピロシクロブタンジメタクリレート、シクロヘキサンスピロシクロペンタンジメタクリレート、スピロビシクロヘキサンジメタクリレート、ジスピロヘプタデカンジメタクリレート、ジメチロールスピロオクタンジメタクリレート、ジメチロールスピロヘプタンジメタクリレート、ジメチロールスピロデカンジメタクリレート、ジメチロールシクロペンタンスピロシクロブタンジメタクリレート、ジメチロールシクロヘキサンスピロシクロペンタンジメタクリレート、ジメチロールスピロビシクロヘキサンジメタクリレート、ジメチロールジスピロヘプタデカンジメタクリレート。なかでも好ましいものはジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、ジメチロールビシクロオクタンジアクリレート、ジメチロールスピロオクタンジアクリレートである。特に好ましくはジメチロールトリシクロデカンジアクリレートであり、市販されている具体的化合物としては日本化薬製KAYARAD R−684、共栄社化学製ライトアクリレートDCP−A、大日本インキ製LUMICURE DCA−200などがある。
更に、本発明では、例えば特開2002−117520号公報に記載の放射線硬化型樹脂を使用することもできる。
【0021】
下塗り層塗布液は、放射線硬化型樹脂およびカーボンブラックを適当な溶媒に溶解して形成することができる。溶媒としては、メチルエチルケトン(MEK)、メタノール、エタノール、トルエン等を用いることが好ましい。溶媒の使用量は、質量基準で、放射線硬化型樹脂を1として、2〜50とすることができる。
【0022】
下塗り層塗布液は、非磁性支持体上に塗布・乾燥後に放射線を照射することにより硬化させることができる。硬化後のガラス転移温度Tgは、80〜150℃であることが好ましく、より好ましくは100〜130℃である。Tgが80℃以上であれば、塗布工程で粘着故障を起こすことがなく、Tgが150℃以下であれば、高強度の塗膜を得ることができる。
【0023】
本発明において使用される放射線としては、電子線や紫外線を挙げることができる。紫外線を使用する場合には、下塗り層塗布液に光重合開始剤を添加することが必要となる。電子線硬化の場合は重合開始剤が不要であり、透過深さも深いので、放射線としては電子線を用いることが好ましい。電子線加速器としてはスキャニング方式、ダブルスキャニング方式またはカーテンビーム方式を採用できる。好ましいものは、比較的安価で大出力が得られるカーテンビーム方式である。電子線特性としては、加速電圧が通常、30〜1000kV、好ましくは50〜300kVであり、吸収線量として通常、0.5〜10Mrad、好ましくは2〜5Mradである。加速電圧が30kV以上であれば、十分なエネルギー透過量が得られ、1000kV以下であれば、重合に使われるエネルギーの効率が高く経済的である。電子線を照射する雰囲気は、窒素パージにより酸素濃度を200ppm以下にすることが好ましい。酸素濃度が高いと表面近傍の架橋、硬化反応が阻害される。
【0024】
紫外線光源としては、水銀灯を用いることができる。水銀灯としては、例えば20〜240W/cmのランプを用いることができ、速度0.3m/分〜20m/分で使用することができる。基体と水銀灯との距離は一般に1〜30cmであることが好ましい。紫外線硬化に用いる光重合開始剤として、光ラジカル重合開始剤を用いることができる。光重合開始剤の詳細は、例えば「新高分子実験学第2巻 第6章 光・放射線重合」(共立出版1995発行、高分子学会編)に記載されている。具体例としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルメチルケタール、ベンジルエチルケタール、ベンゾインイソブチルケトン、ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−2ジエトキシアセトフェノン、などがある。光重合開始剤の混合比率は、放射線硬化型樹脂100質量部に対し、通常、0.5〜20質量部、好ましくは2〜15質量部、さらに好ましくは3〜10質量部である。放射線硬化装置、条件などは、「UV・EB硬化技術」((株)総合技術センタ−発行)や「低エネルギー電子線照射の応用技術」(2000、(株)シーエムシー発行)などに記載されている公知のものを用いることができる。
【0025】
本発明では、更に、磁性層の押し込み硬度の調整方法として、種々の方法をとり得る。例えば、磁性層の結合剤樹脂の3成分比(塩ビ−ウレタン−硬化剤)を変動させる、P/B比(磁性体等の無機粉体と結合剤樹脂の比率)を変動させる、結合剤として極性官能基を導入した樹脂を用いて強磁性粉末の分散性を高める、結合剤樹脂の弾性率やガラス転移点(Tg)を高める、等の方法を用いることができる。また、潤滑剤を多くすることでバインダーを可塑化させ、カレンダー成形性を向上させて微小押し込みをコントロールすることも可能である。また磁性層塗布液を調製するときの混練溶剤の種類および/または量を変えて混練の度合いを変化させて微小押し込み硬度を調整することもできる。さらに、カレンダー条件(温度、圧力、カレンダーロールの硬度等)を変化させる方法、金属製カレンダーロールを導入する方法等によって、カレンダーを比較的強力に行うことにより、磁性層の微小押し込み硬度を調整することができる。
【0026】
[磁性層]
本発明において、磁性層に使用する強磁性粉末としては、六方晶フェライト粉末および強磁性金属粉末を挙げることができ、六方晶フェライト粉末を用いることが好ましい。六方晶フェライト粉末は、六角状のマグネトプランバイト構造を有し、きわめて大きな一軸結晶磁気異方性をもつとともに、非常に高い抗磁力(Hc)を有する。このため、六方晶フェライト粉末を用いることにより、化学安定性、耐蝕性および耐摩擦性に優れ、かつ高密度化された磁気記録媒体の製造が可能になる。
【0027】
本発明に用いられる六方晶フェライトとしては、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライトの各置換体、Co置換体等が挙げられる。具体的にはマグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、更に一部スピネル相を含有したマグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト等が挙げられ、その他所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo,Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般にはCo−Zn、Co−Ti,Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn,Ni−Ti−Zn,Nb−Zn−Co、Sb−Zn−Co、Nb−Zn等の元素を添加したものを使用することができる。原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもある。
【0028】
粒子サイズは六角板径で10〜100nmであることが好ましく、より好ましくは10〜60nmであり、特に好ましくは10〜50nmである。特にトラック密度を上げるためMRヘッドで再生する場合、低ノイズにする必要があるため、板径は40nm以下であることが好ましい。10nmより小さいと熱揺らぎのため安定な磁化が望めない。100nmを越えるとノイズが高く、いずれも高密度磁気記録には向かない。板状比(板径/板厚)は1〜15であることが好ましい。より好ましくは1〜7である。板状比が小さいと磁性層中の充填性は高くなり好ましいが、十分な配向性を得ることが困難となる。15より大きいと粒子間のスタッキングによりノイズが大きくなる。この粒子サイズ範囲のBET法による比表面積は10〜100m2/gを示す。比表面積は概ね粒子板径と板厚からの算術計算値と符号する。粒子板径・板厚の分布は通常狭いほど好ましい。数値化は困難であるが粒子TEM写真より500粒子を無作為に測定する事で比較できる。分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すとσ/平均サイズ=0.1〜2.0である。粒子サイズ分布をシャープにするには粒子生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粒子に分布改良処理を施すことも行われている。例えば、酸溶液中で超微細粒子を選別的に溶解する方法等も知られている。
【0029】
一般に、抗磁力Hcが500〜5000エルステッド(40〜398kA/m)程度の六方晶フェライト粉末は作製可能である。Hcは高い方が高密度記録に有利であるが、記録ヘッドの能力で制限される。本発明で使用される六方晶フェライトのHcは2000〜4000Oe(160〜320kA/m)程度であることが好ましく、より好ましくは2200〜3500Oe(176〜280kA/m)である。ヘッドの飽和磁化が1.4テスラを越える場合は、2200Oe(176kA/m)以上にすることが好ましい。Hcは粒子サイズ(板径・板厚)、含有元素の種類と量、元素の置換サイト、粒子生成反応条件等により制御できる。飽和磁化σsは40〜80A・m2/kgであることが好ましい。σsは高い方が好ましいが微粒子になるほど小さくなる傾向がある。σs改良のためマグネトプランバイトフェライトにスピネルフェライトを複合すること、含有元素の種類と添加量の選択等が良く知られている。またW型六方晶フェライトを用いることも可能である。六方晶フェライトを分散する際に六方晶フェライト粉末表面を分散媒、ポリマーに合った物質で処理することも行われている。表面処理剤としては、無機化合物、有機化合物を使用することができる。主な化合物としてはSi、Al、P、等の酸化物または水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。量は六方晶フェライト粉末に対して0.1〜10質量%とすることができる。六方晶フェライト粉末のpHも分散に重要である。通常4〜12程度で分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保存性から6〜11程度が選択される。六方晶フェライト粉末に含まれる水分も分散に影響する。分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.01〜2.0質量%が選ばれる。六方晶フェライトの製法としては、(1)酸化バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス結晶化法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後100℃以上で液相加熱した後洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明は製法を選ばない。
【0030】
本発明において、磁性層に使用する強磁性金属粉末は、特に制限されるべきものではないが、α−Feを主成分とする強磁性金属粉末を用いることが好ましい。これらの強磁性金属粉末には、所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、Bなどの原子を含んでもかまわない。特に、Al、Si、Ca、Y、Ba、La、Nd、Co、Ni、Bの少なくとも1つをα−Fe以外に含むことが好ましく、Co、Y、Alの少なくとも一つを含むことがさらに好ましい。Coの含有量はFeに対して0原子%以上40原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは15原子%以上35原子%以下、より好ましくは20原子%以上35原子%以下である。Yの含有量は1.5原子%以上12原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3原子%以上10原子%以下、特に好ましくは4原子%以上9原子%以下である。Alは1.5原子%以上12原子%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3原子%以上10原子%以下、より好ましくは4原子%以上9原子%以下である。
【0031】
これらの強磁性金属粉末には、あとで述べる分散剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤などで分散前にあらかじめ処理を行ってもかまわない。具体的には、特公昭44−14090号公報、特公昭45−18372号公報、特公昭47−22062号公報、特公昭47−22513号公報、特公昭46−28466号公報、特公昭46−38755号公報、特公昭47−4286号公報、特公昭47−12422号公報、特公昭47−17284号公報、特公昭47−18509号公報、特公昭47−18573号公報、特公昭39−10307号公報、特公昭46−39639号公報、米国特許第3026215号、同3031341号、同3100194号、同3242005号、同3389014号などに記載されている。
【0032】
強磁性金属粉末には少量の水酸化物、または酸化物が含まれてもよい。強磁性金属粉末は公知の製造方法により得られたものを用いることができ、下記の方法を挙げることができる。複合有機酸塩(主としてシュウ酸塩)と水素などの還元性気体で還元する方法、酸化鉄を水素などの還元性気体で還元してFeまたはFe−Co粒子などを得る方法、金属カルボニル化合物を熱分解する方法、強磁性金属の水溶液に水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸塩あるいはヒドラジンなどの還元剤を添加して還元する方法、金属を低圧の不活性気体中で蒸発させて微粉末を得る方法などである。このようにして得られた強磁性金属粉末には、公知の徐酸化処理、すなわち有機溶剤に浸漬したのち乾燥させる方法、有機溶剤に浸漬したのち酸素含有ガスを送り込んで表面に酸化膜を形成したのち乾燥させる方法、有機溶剤を用いず酸素ガスと不活性ガスの分圧を調整して表面に酸化皮膜を形成する方法のいずれを施すこともできる。
【0033】
磁性層に使用される強磁性金属粉末のBET法による比表面積は、45〜80m2/gであることが好ましく、より好ましくは50〜70m2/gである。45m2/g以上であれば低ノイズであり、80m2/g以下であれば良好な表面性を得ることができる。強磁性金属粉末の結晶子サイズは80〜180Åであることが好ましく、より好ましくは100〜180Å、更に好ましくは110〜175Åである。強磁性金属粉末の長軸長は0.01μm以上0.15μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.03μm以上0.15μm以下であり、さらに好ましくは0.03μm以上0.12μm以下である。強磁性金属粉末の針状比は3以上15以下であることが好ましく、さらには5以上12以下であることが好ましい。強磁性金属粉末のσsは100〜180A・m2/kgであることが好ましく、より好ましくは110〜170A・m2/kg、更に好ましくは125〜160A・m2/kgである。強磁性金属粉末の抗磁力は2000〜3500Oe(160〜280kA/m)であることが好ましく、更に好ましくは2200〜3000Oe(176〜240kA/m)である。
【0034】
強磁性金属粉末の含水率は0.01〜2%とすることが好ましい。結合剤の種類によって強磁性金属粉末の含水率は最適化することが好ましい。強磁性金属粉末のpHは、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましい。その範囲は4〜12とすることができ、好ましくは6〜10である。強磁性金属粉末は必要に応じ、Al、Si、Pまたはこれらの酸化物などで表面処理を施してもかまわない。その量は強磁性金属粉末に対し0.1〜10%とすることができ、表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着量が100mg/m2以下になり好ましい。強磁性金属粉末は可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特性に影響を与えることは少ない。また、本発明に用いられる強磁性金属粉末は空孔が少ないほうが好ましく、その値は20容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下である。また形状については先に示した粒子サイズについての特性を満足すれば針状、米粒状、紡錘状のいずれでもかまわない。強磁性金属粉末自体のSFDは小さい方が好ましく、0.8以下であることが好ましい。強磁性金属粉末のHcの分布を小さくすることが好ましい。尚、SFDが0.8以下であると、電磁変換特性が良好で、出力が高く、また、磁化反転がシャープでピークシフトも少なくなり、高密度デジタル磁気記録に好適である。Hcの分布を小さくするためには、強磁性金属粉末においてはゲータイトの粒度分布を良くする、焼結を防止するなどの方法がある。
【0035】
[非磁性層]
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末と結合剤とを含む非磁性層を有することができる。非磁性層を有する場合、前述の下塗り層は、支持体と非磁性層との間に設けることができ、非磁性層と磁性層との間に設けることもできる。
【0036】
以下に、非磁性層の詳細について説明する。
非磁性層は、実質的に非磁性であれば、特に制限されるものではなく、実質的に非磁性である範囲で磁性粉末を含むこともできる。「実質的に非磁性である」とは、磁性層の電磁変換特性を実質的に低下させない範囲で非磁性層が磁性を有することを許容するということであり、例えば残留磁束密度が0.01T以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe以下)であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力をもたないことを示す。
【0037】
非磁性層に用いられる非磁性粉末は、例えば、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の無機化合物から選択することができる。無機化合物としては、例えばα化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、ヘマタイト、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデンなどを単独または組合せで使用することができる。特に好ましいものは、粒度分布の小ささ、機能付与の手段が多いこと等から、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウムであり、更に好ましいものは二酸化チタン、α−酸化鉄である。これら非磁性粉末の粒子サイズは0.005〜2μmであることが好ましいが、必要に応じて粒子サイズの異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることもできる。非磁性粉末の粒子サイズは0.01μm〜0.2μmであることが特に好ましい。特に、非磁性粉末が粒状金属酸化物である場合は、平均粒子径0.08μm以下であることが好ましく、針状金属酸化物である場合は、長軸長が0.3μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがさらに好ましい。タップ密度は0.05〜2g/mlであることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.5g/mlである。非磁性粉末の含水率は0.1〜5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3質量%、更に好ましくは0.3〜1.5質量%である。非磁性粉末のpHは2〜11であることができ、5.5〜10の間が特に好ましい。
【0038】
非磁性粉末の比表面積は1〜100m2/gであることが好ましく、より好ましくは5〜80m2/g、更に好ましくは10〜70m2/gである。非磁性粉末の結晶子サイズは0.004μm〜1μmであることが好ましく、0.04μm〜0.1μmであることが更に好ましい。DBP(ジブチルフタレート)を用いた吸油量は5〜100ml/100gであることが好ましく、より好ましくは10〜80ml/100g、更に好ましくは20〜60ml/100gである。比重は1〜12であることが好ましく、より好ましくは3〜6である。形状は針状、球状、多面体状、板状のいずれでも良い。モース硬度は4以上10以下のものが好ましい。非磁性粉末のSA(ステアリン酸)吸着量は1〜20μmol/m2であることが好ましく、より好ましくは2〜15μmol/m2、更に好ましくは3〜8μmol/m2である。pHは3〜6の間が好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理を施すことによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnO、Y23を存在させることが好ましい。特に分散性に好ましいものはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であり、更に好ましいのはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用しても良いし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いても良いし、先ずアルミナを存在させた後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0039】
非磁性粉末の具体的な例としては、昭和電工製ナノタイト、住友化学製HIT−100、ZA−G1、戸田工業社製αヘマタイトDPN−250、DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPN−500BX、DBN−SA1、DBN−SA3、石原産業製酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、αヘマタイトE270、E271、E300、E303、チタン工業製酸化チタンSTT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C、αヘマタイトα−40、テイカ製MT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、MT−600B、MT−100F、MT−500HD、堺化学製FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M、同和鉱業製DEFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル製AS2BM、TiO2 P25、宇部興産製100A、500A、およびそれを焼成したものが挙げられる。特に好ましい非磁性粉末は二酸化チタンとα−酸化鉄である。
【0040】
非磁性層にカーボンブラックを混合させて公知の効果である表面電気抵抗Rsを下げること、光透過率を小さくすることができるとともに、所望のマイクロビッカース硬度を得る事ができる。また、非磁性層にカーボンブラックを含ませることで潤滑剤貯蔵の効果をもたらすことも可能である。カーボンブラックの種類はゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック、等を用いることができる。非磁性層に使用するカーボンブラックは所望する効果によって、以下のような特性を最適化すべきであり、併用することでより効果が得られることがある。
【0041】
非磁性層に使用されるカーボンブラックの比表面積は100〜500m2/gであることが好ましく、より好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は20〜400ml/100gであることが好ましく、より好ましくは30〜400ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、例えば5〜80nm、好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlであることがそれぞれ好ましい。本発明に用いられるカーボンブラックの具体的な例としてはキャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、800、880、700、VULCAN XC−72、三菱化成工業社製#3050B、#3150B、#3250B、#3750B、#3950B、#950、#650B、#970B、#850B、MA−600、MA−230、#4000、#4010、コロンビアンカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN 8800、8000、7000、5750、5250、3500、2100、2000、1800、1500、1255、1250、アクゾー社製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは上記無機質粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40%を越えない範囲で使用できる。これらのカーボンブラックは単独、または組合せで使用することができる。本発明で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」(カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。
【0042】
また、非磁性層には有機質粉末を目的に応じて、添加することもできる。例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記載されているようなものが使用できる。
【0043】
非磁性層に使用する結合剤樹脂、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は以下に記載する磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤樹脂量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0044】
[結合剤]
本発明において、磁性層および非磁性層に使用される結合剤としては、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物が挙げられる。熱可塑系樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1,000〜200,000、好ましくは10,000〜100,000、重合度が約50〜1000程度のものを用いることができる。
【0045】
このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等が挙げられる。これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を各層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用することができる。好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコール共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体、から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネートを組み合わせたものが挙げられる。
【0046】
ポリウレタン樹脂としては、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものが使用できる。ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2、(以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属塩基)、OH、NR2、N+3(Rは炭化水素基)、エポキシ基、SH、CN、などから選ばれる少なくともひとつ以上の極性基を共重合または付加反応で導入したものを用いることが好ましい。このような極性基の量は10-1〜10-8モル/gとすることができ、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
【0047】
本発明に用いられるこれらの結合剤の具体的な例としてはユニオンカーバイト社製VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC、VMCC、XYHL、XYSG、PKHH、PKHJ、PKHC、PKFE、日信化学工業社製MPR−TA、MPR−TA5、MPR−TAL、MPR−TSN、MPR−TMF、MPR−TS、MPR−TM、MPR−TAO、電気化学社製1000W、DX80、DX81、DX82、DX83、100FD、日本ゼオン社製MR−104、MR−105、MR110、MR100、MR555、400X−110A、日本ポリウレタン社製ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ社製パンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バーノックD−400、D−210−80、クリスボン6109、7209、東洋紡社製バイロンUR8200、UR8300、UR−8700、RV530、RV280、大日精化社製ダイフェラミン4020、5020、5100、5300、9020、9022、7020、三菱化成社製MX5004、三洋化成社製サンプレンSP−150、旭化成社製サランF310、F210などが挙げられる。
【0048】
非磁性層、磁性層に用いられる結合剤は非磁性粉末または強磁性粉末に対し、5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で用いることができる。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜30質量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネートは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましいが、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合は、ポリウレタンのみまたはポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。本発明において、ポリウレタンを用いる場合はガラス転移温度が−50〜150℃、好ましくは0℃〜100℃、更に好ましくは30℃〜90℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.05〜10kg/mm2(0.49〜98MPa)、降伏点は0.05〜10kg/mm2(0.49〜98MPa)のものを用いることが好ましい。
【0049】
本発明の磁気記録媒体は二層以上から構成され得る。従って、結合剤量、結合剤中に占める塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート、またはそれ以外の樹脂の量、磁性層を形成する各樹脂の分子量、極性基量、または先に述べた樹脂の物理特性などを必要に応じ各層で変えることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきであり、多層磁性層に関する公知技術を適用できる。例えば、各層で結合剤量を変更する場合、磁性層表面の擦傷を減らすためには磁性層の結合剤量を増量することが有効であり、ヘッドに対するヘッドタッチを良好にするためには、非磁性層の結合剤量を多くして柔軟性を持たせることができる。
【0050】
本発明に用いるポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を挙げることができる。これらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン社製コロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMR、ミリオネートMTL、武田薬品社製タケネートD−102、タケネートD−110N、タケネートD−200、タケネートD−202、住友バイエル社製デスモジュールL、デスモジュールIL、デスモジュールN、デスモジュールHL、等がありこれらを単独または硬化反応性の差を利用して二つまたはそれ以上の組合せで各層とも用いることができる。
【0051】
[カーボンブラック]
本発明において、磁性層に使用されるカーボンブラックはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、平均粒子径は5〜300nm、好ましくは10〜250nm、更に好ましくは20〜200nmであることがそれぞれ好ましい。pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/ccであることがそれぞれ好ましい。本発明に用いられるカーボンブラックの具体的な例としてはキャボット社製BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、905、800、700、VULCAN XC−72、旭カーボン社製#80、#60、#55、#50、#35、三菱化成工業社製#2400B、#2300、#900、#1000#30、#40、#10B、コロンビアンカーボン社製CONDUCTEX SC、RAVEN 150、50、40、15、RAVEN−MT−P、日本EC社製ケッチェンブラックEC等が挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを磁性層塗布液に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは単独、または組合せで使用することができる。カーボンブラックを使用する場合は強磁性粉末に対する量の0.1〜30%で用いることが好ましい。カーボンブラックは磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。従って本発明に使用されるこれらのカーボンブラックは上層磁性層、下層非磁性層でその種類、量、組合せを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性をもとに目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきものである。本発明において、磁性層に使用できるカーボンブラックは、例えば、「カーボンブラック便覧」(カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。
【0052】
本発明では、非磁性層に研磨剤を添加することもでき、これにより、表面形状を制御したり、研磨剤の突出状態を制御したりすることができる。非磁性層には、公知の研磨剤を使用することができ、先に記載した磁性層に使用し得る研磨剤を使用することもできる。
【0053】
[添加剤]
本発明において磁性層および非磁性層には、潤滑効果、帯電防止効果、分散効果、可塑効果、などをもつ添加剤を使用することができる。具体的には、二硫化モリブデン、二硫化タングステングラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、シリコーンオイル、極性基をもつシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、アルキル燐酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、ポリフェニルエーテル、フェニルホスホン酸、αナフチル燐酸、フェニル燐酸、ジフェニル燐酸、p−エチルベンゼンホスホン酸、フェニルホスフィン酸、アミノキノン類、各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、フッ素含有アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、および、これらの金属塩(Li、Na、K、Cuなど)または、炭素数12〜22の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコール、(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、炭素数12〜22のアルコキシアルコール、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)と炭素数2〜12の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコールのいずれか一つ(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)とからなるモノ脂肪酸エステルまたはジ脂肪酸エステルまたはトリ脂肪酸エステル、アルキレンオキシド重合物のモノアルキルエーテルの脂肪酸エステル、炭素数8〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミン、などが使用できる。
【0054】
これらの具体例としては、脂肪酸では、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、などが挙げられる。エステル類ではブチルステアレート、オクチルステアレート、アミルステアレート、イソオクチルステアレート、ブチルミリステート、オクチルミリステート、ブトキシエチルステアレート、ブトキシジエチルステアレート、2ーエチルヘキシルステアレート、2ーオクチルドデシルパルミテート、2ーヘキシルドデシルパルミテート、イソヘキサデシルステアレート、オレイルオレエート、ドデシルステアレート、トリデシルステアレート、エルカ酸オレイル、ネオペンチルグリコールジデカノエート、エチレングリコールジオレイル、アルコール類ではオレイルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、などが挙げられる。また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加体、等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウムまたはスルホニウム類、等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルフォン酸、燐酸、硫酸エステル基、燐酸エステル基、などの酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸または燐酸エステル類、アルキルベダイン型、等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。これらの潤滑剤、帯電防止剤等は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0055】
本発明で使用されるこれらの潤滑剤、界面活性剤は個々に異なる物理的作用を有するものであり、その種類、量、および相乗的効果を生み出す潤滑剤の併用比率は目的に応じ最適に定められるべきものである。非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い表面へのにじみ出しを制御する、沸点、融点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を中間層で多くして潤滑効果を向上させるなど考えられ、無論ここに示した例のみに限られるものではない。一般には潤滑剤の総量は、強磁性粉末または非磁性粉末に対し、0.1〜50質量%、好ましくは2〜25質量%の範囲とすることができる。
【0056】
また、本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層塗布液および非磁性層塗布液製造のどの工程で添加してもかまわない、例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。また、目的に応じて磁性層を塗布した後、同時または逐次塗布で、添加剤の一部または全部を塗布することにより目的が達成される場合がある。また、目的によってはカレンダーした後、またはスリット終了後、磁性層表面に潤滑剤を塗布することもできる。本発明は、公知の有機溶剤を使用することができ、例えば特開昭6−68453に号公報記載の溶剤を用いることができる。
【0057】
[層構成]
本発明の磁気記録媒体において、非磁性支持体の厚さは、例えば2〜100μm、好ましくは2〜80μmである。コンピューターテープの場合、非磁性支持体としては、3.0〜6.5μm(好ましくは、3.0〜6.0μm、更に好ましくは、4.0〜5.5μm)の範囲の厚さのものを使用することができる。
【0058】
本発明の磁気記録媒体は、支持体両面に非磁性層と磁性層を設けてなるディスク状媒体であっても、片面のみに設けたテープ状媒体またはディスク状媒体でもよい。この場合、帯電防止やカール補正などの効果を出すために非磁性層、磁性層側と反対側にバックコート層を設けてもかまわない。この厚みは、例えば0.1〜4μm、好ましくは0.3〜2.0μmである。これらの下塗層、バックコート層は公知のものが使用できる。
【0059】
本発明の磁気記録媒体において、磁性層の厚みは用いるヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであり、好ましくは0.03〜0.15μm、より好ましくは0.03〜0.07μmである。磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0060】
非磁性層の厚みは通常、0.2〜5.0μm、好ましくは0.3〜3.0μm、さらに好ましくは1.0〜2.5μmである。なお、非磁性層は実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、または意図的に少量の磁性体を含んでも、本発明の効果を示すものであり、本発明と実質的に同一の構成と見なすことができることは言うまでもない。
【0061】
[バックコート層]
一般に、コンピュータデータ記録用の磁気テープは、ビデオテープ、オーディオテープに比較して、繰り返し走行性が強く要求される。このような高い走行耐久性を維持させるために、バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。
【0062】
カーボンブラックは、平均粒子径の異なる二種類のものを組み合わせて使用することが好ましい。この場合、平均粒子径が10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと平均粒子径が50〜300nmの粗粒子状カーボンブラックを組み合わせて使用することが好ましい。一般に、上記のような微粒子状のカーボンブラックの添加により、バックコート層の表面電気抵抗を低く設定でき、また光透過率も低く設定できる。磁気記録装置によっては、テープの光透過率を利用し、動作の信号に使用しているものが多くあるため、このような場合には特に微粒子状のカーボンブラックの添加は有効になる。また微粒子状カーボンブラックは一般に液体潤滑剤の保持力に優れ、潤滑剤併用時、摩擦係数の低減化に寄与する。一方、平均粒子径が50〜300nmの粗粒子状カーボンブラックは、固体潤滑剤としての機能を有しており、またバック層の表面に微小突起を形成し、接触面積を低減化して、摩擦係数の低減化に寄与する。しかし粗粒子状カーボンブラックを単独で用いると、過酷な走行系では、テープ摺動により、バックコート層からの脱落が生じ易くなり、エラー比率の増大につながる場合がある。本発明では、以上の点を考慮して、バックコート層に使用するカーボンブラックを選択することが好ましい。
【0063】
微粒子状カーボンブラックの具体的な商品としては、以下のものを挙げることができる。カッコ内に平均粒子径を示す。RAVEN2000B(18nm)、RAVEN1500B(17nm)(以上、コロンビアカーボン社製)、BP800(17nm)(キャボット社製)、PRINNTEX90(14nm)、PRINTEX95(15nm)、PRINTEX85(16nm)、PRINTEX75(17nm)(以上、デグサ社製)、#3950(16nm)(三菱化成工業(株)製)。
【0064】
また粗粒子カーボンブラックの具体的な商品の例としては、サーマルブラック(270nm)(カーンカルブ社製)、RAVEN MTP(275nm)(コロンビアカーボン社製)を挙げることができる。
【0065】
バックコート層において、平均粒子径の異なる二種類のものを使用する場合、10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと50〜300nmの粗粒子状カーボンブラックの含有比率(質量比)は、前者:後者=98:2〜75:25の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、95:5〜85:15の範囲である。
【0066】
バックコート層中のカーボンブラック(二種類のものを使用する場合には、その全量)の含有量は、結合剤100質量部に対して、通常30〜80質量部の範囲であり、好ましくは、45〜65質量部の範囲である。
【0067】
無機粉末は、硬さの異なる二種類のものを併用することが好ましい。具体的には、モース硬度3〜4.5の軟質無機粉末とモース硬度5〜9の硬質無機粉末とを使用することが好ましい。モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末を添加することで、繰り返し走行による摩擦係数の安定化を図ることができる。しかもこの範囲の硬さでは、摺動ガイドポールが削られることもない。またこの無機粉末の平均粒子径は、30〜50nmの範囲にあることが好ましい。
【0068】
モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末としては、例えば、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、および酸化亜鉛を挙げることができる。これらは、単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0069】
バックコート層内の軟質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100質量部に対して10〜140質量部の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、35〜100質量部である。
【0070】
モース硬度が5〜9の硬質無機粉末を添加することにより、バックコート層の強度が強化され、走行耐久性が向上する。これらの無機粉末をカーボンブラックや前記軟質無機粉末と共に使用すると、繰り返し摺動に対しても劣化が少なく、強いバックコート層となる。またこの無機粉末の添加により、適度の研磨力が付与され、テープガイドポール等への削り屑の付着が低減する。特に軟質無機粉末と併用すると、表面の粗いガイドポールに対しての摺動特性が向上し、バックコート層の摩擦係数の安定化も図ることができる。硬質無機粉末の平均粒子サイズは80〜250nm(更に好ましくは、100〜210nm)の範囲にあることが好ましい。
【0071】
モース硬度が5〜9の硬質無機質粉末としては、例えば、α−酸化鉄、α−アルミナ、および酸化クロム(Cr23)を挙げることができる。これらの粉末は、それぞれ単独で用いても良いし、または併用しても良い。これらの内では、α−酸化鉄またはα−アルミナが好ましい。硬質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100質量部に対して通常3〜30質量部であり、好ましくは、3〜20質量部である。
【0072】
バックコート層に前記軟質無機粉末と硬質無機粉末とを併用する場合、軟質無機粉末と硬質無機粉末との硬さの差が、2以上(更に好ましくは、2.5以上、特に好ましくは3以上)であるように軟質無機粉末と硬質無機粉末とを選択して使用することが好ましい。バックコート層には、前記それぞれ特定の平均粒子サイズを有するモース硬度の異なる二種類の無機粉末と、前記平均粒子サイズの異なる二種類のカーボンブラックとが含有されていることが好ましい。
【0073】
バックコート層には、潤滑剤を含有させることができる。潤滑剤は、前述した非磁性層、または磁性層に使用できる潤滑剤として挙げた潤滑剤の中から適宜選択して使用できる。バックコート層において、潤滑剤は、結合剤100質量部に対して通常1〜5質量部の範囲で添加される。
【0074】
[非磁性支持体]
本発明において、非磁性支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、芳香族ポリアミド、ポリベンゾオキサゾールなどの公知のフィルムが使用できる。ガラス転移温度が100℃以上の支持体を用いることが好ましく、ポリエチレンナフタレート、アラミドなどの高強度支持体を用いることが特に好ましい。また必要に応じ、磁性面とベース面の表面粗さを変えるため、特開平3−224127号公報に示されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理、などを行ってもよい。
【0075】
非磁性支持体としては、WYKO社製光干渉式表面粗さ計HD−2000で測定した中心面平均表面粗さRaが8.0nm以下、好ましくは4.0nm以下、さらに好ましくは2.0nm以下のものを使用することが好ましい。これらの支持体は単に中心面平均表面粗さが小さいだけではなく、0.5μm以上の粗大突起がないことが好ましい。また表面の粗さ形状は必要に応じて支持体に添加されるフィラーの大きさと量により自由にコントロールされるものである。これらのフィラーとしては一例としてはCa、Si、Tiなどの酸化物や炭酸塩の他、アクリル系などの有機微粉末が挙げられる。支持体の最大高さRmaxは1μm以下、十点平均粗さRzは0.5μm以下、中心面山高さはRpは0.5μm以下、中心面谷深さRvは0.5μm以下、中心面面積率Srは10%以上、90%以下、平均波長λaは5μm以上、300μm以下であることがそれぞれ好ましい。所望の電磁変換特性と耐久性を得るため、これら支持体の表面突起分布をフィラーにより任意にコントロールすることができ、0.01μmから1μmの大きさのもの各々を0.1mm2あたり0個から2000個の範囲でコントロールすることができる。
【0076】
本発明に用いられる支持体のF−5値は好ましくは5〜50kg/mm2(49〜490MPa)である。また、支持体の100℃30分での熱収縮率は好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下、80℃30分での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。破断強度は5〜100kg/mm2(49〜980MPa)、弾性率は100〜2000kg/mm2(0.98〜19.6GPa)であることがそれぞれ好ましい。温度膨張係数は10-4〜10-8/℃であることが好ましく、より好ましくは10-5〜10-6/℃である。湿度膨張係数は10-4/RH%以下であることが好ましく、より好ましくは10-5/RH%以下である。これらの熱特性、寸法特性、機械強度特性は支持体の面内各方向に対し10%以内の差でほぼ等しいことが好ましい。
【0077】
[製法]
本発明の磁気記録媒体の磁性層塗布液、更には非磁性層塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上にわかれていてもかまわない。本発明に使用する強磁性粉末、非磁性粉体、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。ニーダを用いる場合は強磁性粉末または非磁性粉体と結合剤のすべてまたはその一部(ただし全結合剤の30質量%以上が好ましい)および強磁性粉末100部に対し15〜500部の範囲で混練処理することができる。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液および非磁性層塗布液を分散させるためにはガラスビーズを用いることができ、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズを用いることが好ましい。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0078】
本発明で重層構成の磁気記録媒体を塗布する場合には、非磁性層形成用塗布液を塗布、乾燥させた後、その上に磁性層形成用塗布液を塗布、乾燥させる方法(dry on wet)を用いることが好ましい。
また、非磁性層塗布液が湿潤状態にあるうちに、その上に磁性層形成用塗布液を塗布、乾燥させる方法(Wet on wet)を用いる場合には、以下のような方式を用いることが好ましい。第一に磁性塗料の塗布で一般的に用いられるグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布装置等により、まず非磁性層を塗布し、非磁性層がウェット状態のうちに特公平1−46186号公報や特開昭60−238179号公報、特開平2−265672号公報に開示されている支持体加圧型エクストルージョン塗布装置により磁性層を塗布する方法;第二に特開昭63−88080号公報、特開平2−17971号公報、特開平2−265672号公報に開示されているような塗布液通液スリットを二つ内蔵する一つの塗布ヘッドにより上下層をほぼ同時に塗布する方法;第三に特開平2−174965号公報に開示されているバックアップロール付きエクストルージョン塗布装置により上下層をほぼ同時に塗布する方法である。なお、磁性粒子の凝集による磁気記録媒体の電磁変換特性等の低下を防止するため、特開昭62−95174号公報や特開平1−236968号公報に開示されているような方法により塗布ヘッド内部の塗布液にせん断を付与することが望ましい。さらに、塗布液の粘度については、特開平3−8471号公報に開示されている数値範囲を満足することが好ましい。
【0079】
上記塗布、乾燥後、通常、磁気記録媒体にカレンダー処理を施す。カレンダー処理ロールとしては、エポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等の耐熱性のあるプラスチックロ−ルまたは金属ロ−ルを用いることができる。特に両面磁性層とする場合は金属ロ−ル同士で処理することが好ましい。処理温度は、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。線圧力は好ましくは200kg/cm(196kN/m)以上、さらに好ましくは300kg/cm(294kN/m)以上である。
【0080】
ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。等方的な配向とは強磁性金属粉末の場合、一般的には面内2次元ランダムが好ましいが、垂直成分をもたせて3次元ランダムとすることもできる。六方晶フェライトの場合は一般的に面内および垂直方向の3次元ランダムになりやすいが、面内2次元ランダムとすることも可能である。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用い円周配向をしてもよい。
【0081】
磁気テープの場合はコバルト磁石やソレノイドを用いて長手方向に配向することができる。乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できる様にすることが好ましく、塗布速度は20m/分〜1000m/分、乾燥風の温度は60℃以上とすることが好ましい、また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0082】
上記塗布、乾燥後、通常、磁気記録媒体にカレンダー処理を施す。カレンダー処理ロールとしては、エポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等の耐熱性のあるプラスチックロールまたは金属ロールを用いることができる。特に両面磁性層とする場合は金属ロ−ル同士で処理することが好ましい。処理温度は、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。線圧力は好ましくは200kg/cm(196kN/m)以上、さらに好ましくは300kg/cm(294kN/m)以上である。
【0083】
[物理特性]
本発明の磁気記録媒体において、磁性層の飽和磁束密度は、強磁性金属粉末を用いた場合、好ましくは0.2〜0.5T、六方晶フェライト粉末を用いた場合、好ましくは0.1〜0.3Tである。磁性層の抗磁力Hcは159kA/m(2000Oe)以上であることが好ましく、159kA/m(2000Oe)〜398kA/m(5000Oe)であることがより好ましく、159〜239kA/m(2000〜3000Oe)であることが更に好ましい。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFDは0.6以下が好ましい。角形比は2次元ランダムの場合は0.55以上0.67以下であることが好ましく、より好ましくは0.58以上0.64以下、3次元ランダムの場合は0.45以上0.55以下であることが好ましく、垂直配向の場合は垂直方向に0.6以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、反磁界補正を行った場合は0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることが更に好ましい。2次元ランダム、3次元ランダムとも配向度比は0.8以上であることが好ましい。2次元ランダムの場合、垂直方向の角形比、Br、Hcは面内方向の0.1〜0.5倍以内とすることが好ましい。
【0084】
磁気テープの場合、角型比は0.7以上であることが好ましく、より好ましくは0.8以上である。本発明の磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は温度−10℃から40℃、湿度0%から95%の範囲において0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.3以下、表面固有抵抗は好ましくは磁性面104 〜1012オーム/sq、帯電位は−500Vから+500V以内であることがそれぞれ好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は面内各方向で好ましくは100〜2000kg/mm2(0.98〜19.6GPa)、破断強度は好ましくは10〜70kg/mm2(98〜686MPa)、磁気記録媒体の弾性率は面内各方向で好ましくは100〜1500kg/mm2(0.98〜14.7GPa)、残留のびは好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、もっとも好ましくは0.1%以下である。磁性層のガラス転移温度(110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は50℃以上120℃以下であることが好ましく、非磁性層のそれは0℃〜100℃であることが好ましい。損失弾性率は1×109〜8×1010μN/cm2の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向で10%以内でほぼ等しいことが好ましい。磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0085】
磁性層の中心面平均表面粗さRaはWYKO社製光干渉式表面粗さ計HD−2000による約250μm×250μmの面積での測定で4.0nm以下であることが好ましく、より好ましくは3.8nm以下、さらに好ましくは3.5nm以下である。磁性層の最大高さRmaxは0.5μm以下、十点平均粗さRzは0.3μm以下、中心面山高さRpは0.3μm以下、中心面谷深さRvは0.3μm以下、中心面面積率Srは20%以上、80%以下、平均波長λaは5μm以上、300μm以下であることがそれぞれ好ましい。磁性層の表面突起は0.01μm〜1μmの大きさのものを0〜2000個の範囲で任意に設定することが可能であり、これにより電磁変換特性、摩擦係数を最適化することが好ましい。これらは支持体のフィラーによる表面性のコントロールや磁性層に添加する粉体の粒径と量、カレンダ処理のロール表面形状などで容易にコントロールすることができる。カールは±3mm以内とすることが好ましい。
【0086】
本発明の磁気記録媒体が非磁性層と磁性層を有する場合、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができるのは容易に推定されることである。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当りを良くするなどである。
【0087】
本発明の磁気記録媒体は、MRヘッドを用いて再生するために使用される。再生に使用するMRヘッドのシールド間距離は、100〜250nmであることが好ましく、100〜200nmであることがより好ましい。再生に使用するMRヘッドのシールド間距離が上記範囲内であれば、高記録密度(例えば線記録密度300kfci以上)においてギャップ損失の影響を受けにくく、かつヘッド汚れによる出力低下の影響を小さくすることができる。
【0088】
本発明の磁気記録媒体に信号を記録するためには、インダクティブヘッドを用いることができる。高記録密度(例えば線記録密度300kfci以上)において使用するためには、記録に使用するインダクティブヘッドのギャップ長は0.3μm以下であることが好ましい。また、高抗磁力を有する磁気記録媒体に信号を記録するためには、例えば1.6T以上の高飽和磁束密度(Bs)を有するインダクティブヘッドを使用することが好ましい。
本発明の磁気記録媒体は、例えば線記録密度300kfci以上の高記録密度領域において、優れた電磁変換特性と耐久性を発揮することができる。
【実施例】
【0089】
以下に、本発明の具体的実施例および比較例を挙げるが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。尚、実施例中の「部」の表示は、特に断らない限り、「質量部」を示す。
【0090】
[実施例1]
磁性層塗布液、非磁性層塗布得液、バックコート層塗布液のそれぞれについて、下記に記載された各成分をオープンニーダーで混練した後、サンドミルで分散処理を施した。得られた分散液を1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、各層形成用塗布液を調製した。
【0091】
磁性層塗布液
バリウムフェライト磁性粉 100部
(Hc:199kA/m(2500Oe)、平均板径:0.03μm)
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂 15部
カーボンブラック(平均粒子径:20nm) 0.5部
ダイヤモンド粉末 2部
(ヌープ硬度:6500kgf/mm2(63.7GPa)、平均粒径:100nm)
シクロヘキサノン 150部
メチルエチルケトン 150部
ブチルステアレート 0.5部
ステアリン酸 1部
【0092】
非磁性層塗布液
非磁性粉体 α酸化鉄 100部
平均一次粒子径:0.09μm
BET法による比表面積:50m2/g
pH:7
DBP吸油量:27〜38g/100g、
表面処理剤:Al23(8質量%)
カーボンブラック 20部
コンダクテックスSC−U(コロンビアンカーボン社製)
塩化ビニル共重合体 13部
MR104(日本ゼオン社製)
ポリウレタン樹脂 5部
UR8200(東洋紡社製)
フェニルホスホン酸 3.5部
ブチルステアレート 1部
ステアリン酸 2部
メチルエチルケトン 205部
シクロヘキサノン 135部
【0093】
バックコート層塗布液
非磁性無機質粉末:α−酸化鉄 80部
平均長軸長:0.15μm、平均針状比:7、BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック(平均粒子径:20nm) 20部
カーボンブラック(平均粒子径:100nm) 3部
塩化ビニル共重合体 13部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂 6部
フェニルホスホン酸 3部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ステアリン酸 3部
【0094】
また、下塗り層塗布液は以下のように調製した。
放射線硬化型樹脂 トリプロピレングリコールアクリレート 100部
MEK/トルエン 400部
カーボンブラック(平均粒径20nm) 10部
コンダクテックスSC−U(コロンビアンカーボン社製)
【0095】
厚さ5.8μmのポリエチレンフタレートベース上に下塗り層を乾燥後の厚さが0.2μmになるようにコイルバーを用いて塗布した後に乾燥させ、表面に加速電圧150kVの電子線を吸収線量が3Mradになるように照射し硬化させた。その上に乾燥後の厚さが1.5μmになるように非磁性層塗布液を塗布乾燥させた後、その上に磁性層の厚さが0.1μmになるように磁性層塗布液を塗布し、磁性層がまだ湿潤状態にあるうちに0.3Tの磁力を持つ磁石で配向、乾燥させた。その後金属ロールのみから構成されるカレンダーで速度100m/min、線圧300kg/cm(294kN/m)、温度90℃で表面平滑化処理を行った後、硬化させた。その後、厚み0.5μmのバックコート層を塗布した後、1/2インチ幅にスリットし、スリット品の送り出し、巻き取り装置を持った装置に不織布とカミソリブレードが磁性面に押し当たるように取り付けたテープクリーニング装置で磁性層の表面のクリーニングを行いテープ試料を得た。
【0096】
[実施例2〜4、6〜8、比較例1〜3]
磁性層塗布液へ添加する研磨剤を、ダイヤモンド粉末からSiC粉末、Al23粉末に、また平均粒径を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてそれぞれテープ試料を作製した。
【0097】
[比較例4]
厚さ6.0μmのポリエチレンフタレートベース上に下塗り層を設けずに非磁性層を形成した以外は、実施例1と同様にしてテープ試料を作製した。
【0098】
[実施例5]
厚さ5.5μmのポリエチレンフタレートベース上に、カーボンブラックをケッチェンブラック(平均粒径20nm)に変更した下塗り層塗布液を乾燥後の厚さが0.5μmになるように塗布した以外は実施例1と同様にしてテープ試料を作製した。
【0099】
[比較例5]
厚さ5.2μmのポリエチレンフタレートベース上に、カーボンブラックをケッチェンブラック(平均粒径20nm)に変更し20部入れて乾燥後の厚さが0.8μmになるように変更した以外はサンプル1と同様にしてテープ試料を作製した。
【0100】
評価方法
(1)押し込み硬度
エリオニクス社製微小押し込み試験機ENT−1100aによって、荷重6mgfで測定した。
(2)段差摩耗
1/2インチリニア系システム(記録ヘッド:飽和磁束密度(Bs)1.6Tのインダクティブヘッド、再生ヘッド:MRヘッド)を使用し、200時間走行後、MRヘッド基板と基板間のMR素子部との段差を測定した(凹みはマイナスで表示する)。段差摩耗が−20nm未満を、実用上許容できるレベルと判断した。
(3)ヘッド摩耗(全体摩耗)、ヘッド汚れ
上記システムを使用し、1000時間走行後のMRヘッドの摩耗量を測定し、ヘッド汚れを光学顕微鏡にて観察した。ヘッド摩耗量250nm以下を、実用上許容できるレベルと判断した。
ヘッド汚れについては、△までを、実用上許容できるレベルと判断した。
○:ヘッド摺動部に汚れ発生なし
△:ヘッドギャップ部付近に汚れ発生なし
×:ヘッドギャップ部付近に汚れ発生
(4)SNR測定
上記システムにおける200時間走行後のSNRを測定した。Sは記録密度(300kfci)の信号、Nは記録密度の2倍の帯域までの積分値とした。実施例1の磁気テープの300kfciでのSNRを0dBとして相対値で示した。
結果を表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
評価結果
ヌープ硬度が2500〜7000kgf/mm2の範囲であり、平均粒径が磁性層の厚さの±20%以内である研磨剤を磁性層に使用し、かつ、磁性層の押し込み硬度が、50kg/mm2(0.49GPa)より大きく、100kg/mm2(0.98GPa)以下である実施例1〜8では、段差摩耗、ヘッド摩耗、ヘッド汚れが少なく、SNRが良好であった。
それに対し、磁性層にヌープ硬度1600kgf/mm2の研磨剤を使用した比較例1の磁気テープでは、段差摩耗が顕著に発生し、SNRが低下した。また、比較例2では、磁性層厚に対して研磨剤粒径が過度に大きかったため、ヘッド全体の摩耗量が多く、SNRが低下した。一方、磁性層厚に対して研磨剤粒径が過度に小さかった比較例3では、段差摩耗、ヘッド摩耗は少ないものの、ヘッド汚れが多く、走行不能であった。磁性層押し込み硬度が100kg/mm2(0.98GPa)を超えた比較例4の磁気テープは、ヘッド全体の摩耗量が多かった。SNRが低下した。比較例5の磁気テープは、磁性層押し込み硬度が50kg/mm2(0.49GPa)であり、段差摩耗およびヘッド摩耗が抑制されたものの、ヘッド汚れが顕著に発生し、走行不能であった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の磁気記録媒体は、高密度領域における記録再生に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気信号を記録し、該信号を磁気抵抗型ヘッド(以下、「MRヘッド」という)を用いて再生するために使用される磁気記録媒体であって、
前記磁気記録媒体は、非磁性支持体上に強磁性粉末、研磨剤および結合剤を含む磁性層を有し、
前記研磨剤のヌープ硬度は、2500〜7000kgf/mm2(24.5〜68.6GPa)の範囲であり、
前記研磨剤の平均粒径は、前記磁性層の厚さの±20%以内であり、
前記磁性層の押し込み硬度は、50kg/mm2(0.49GPa)より大きく、100kg/mm2(0.98GPa)以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記非磁性支持体と磁性層との間に、放射線硬化型樹脂およびカーボンブラックを含む下塗り層を有する請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記MRヘッドのシールド間距離は100〜250nmの範囲である請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記強磁性粉末は、六方晶フェライト粉末である請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記磁性層の厚さは、0.03〜0.15μmの範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。

【公開番号】特開2006−216149(P2006−216149A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−27437(P2005−27437)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】