磁気記録媒体
【課題】 本発明の磁気記録媒体は汎用性を重視し、かつ水没してもメモリ機能を失わず、耐振動・耐久性に優れ、高低温・多湿や高濃度の放射線に晒されるような過酷な環境下で使用可能な書き換え可能型磁気記録媒体を提供することにある。
【解決手段】 非磁性金属粉と磁性粉を混合・焼結して得られた焼結体を一定の形状になるように加圧成形加工または切断研磨加工して得られた磁気記録媒体を、被装着物に取り付けるための支持体とすべく構成した。
【解決手段】 非磁性金属粉と磁性粉を混合・焼結して得られた焼結体を一定の形状になるように加圧成形加工または切断研磨加工して得られた磁気記録媒体を、被装着物に取り付けるための支持体とすべく構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のように磁気記録媒体が支持体上に配設されたディスクやテープとは異なる形状であり、高温・多湿のような、いわゆる“苛酷な環境”に晒されても記録情報を保持できる個体認証デバイスである、支持体それ自体が磁気記録媒体でもある書き換え可能型高耐久磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気記録、光磁気記録、光ディスク、半導体メモリ、誘電体メモリなど、各種の記録技術の進展は著しく、より高密度に情報を記録することを目指して研究開発が進んでいる。しかしながら、これらの技術は清浄雰囲気、低振動、通常生活している温湿度領域などの、極限られた良好な環境下でしか使用できない惰弱な技術になってきている。一方で、水熱処理により殺菌消毒を行う手術器具の使用履歴の記録、クリーニングのタグ、魚や肉などのトレーサビリティを行うためのメモリ、家電製品や自動車部品など、スチーム洗浄を要するリサイクル部品の使用履歴などを記録する耐環境性を備えたメモリが要求され始めている。
【0003】
現在の個体認証メモリ技術は主にバーコードおよびICタグによって支えられている。紙に印刷するバーコードについては、コストはほぼ0円、ICタグは大量生産した場合には一つ数十円である。また、現在は、ある程度の高温まで耐えられるバーコードおよびICタグが開発されている。しかしながら、バーコードは情報の書き換えができず、耐熱温度が300℃程度のものになるとコストが数十〜数百円と高くなる。ICタグは情報の書き換えは出来るが、耐熱温度約200℃のものではコストが一つ数百円となるため、実用に供するには、価格が高すぎる。
【0004】
ところで、特許文献1には、磁性体粉末と非磁性体粉末とを焼結した焼結体を機械加工したスパッタリング用ターゲットが開示されている。
【0005】
即ち、特許文献1には、主として磁気記録媒体として用いられるCo系磁性膜を形成するために使用されるCo系ターゲットが記載されている。そして、Coを主体とし、溶解材として飽和磁束密度が0.1T未満となる合金組成のターゲットを製造するに際し、その原料を非磁性粉末と磁性体粉末を混合し、焼結により飽和磁束密度を0.1T以上となるように調整することが開示されている。
【0006】
この得られたCo系ターゲットを用いて形成されたCo合金系磁気記録膜は、保磁力160kA/m(20106Oe)以上、残留磁束密度膜厚積130Gμm以下の特性を有するとされている。
【0007】
しかしながら、ターゲットそれ自体は、磁気記録媒体として用いられるものではない。
【特許文献1】特開2000−38661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、現在は、既存技術の適用範囲を拡張して苛酷な環境下でも使用可能とするための研究・開発は行われているが、苛酷な環境下での使用を第一の目的としたメモリの開発は行われていない。
【0009】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の磁気記録媒体は汎用性を重視し、水没してもメモリ機能を失わず、耐振動・耐久性に優れ、高低温・多湿や高濃度の放射線にさらされても耐え得るような書き換え可能型磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、非磁性金属粉と磁性粉を混合・焼結して得られた焼結体からなることを特徴とする磁気記録媒体である。
【0011】
また、請求項2に係る発明は、非磁性金属粉と磁性粉を混合・焼結して得られた焼結体を加圧成形加工または切断研磨加工することにより被装着物に取り付けるための支持体を構成したことを特徴とする磁気記録媒体である。
【0012】
請求項3に係る発明では、該非磁性金属粉として銅(Cu)やアルミニウム(Al)の中から一つを用いるようにした。また、請求項4に係る発明では、該磁性粉として磁性酸化物を用いるようにした。また、請求項5に係る発明では、支持体の表面に酸化防止膜を設けたものである。
【発明の効果】
【0013】
ディスクやテープのような従来の磁気記録媒体とは異なり、下記(1)〜(4)のような顕著な効果を有する。
(1)苛酷な温湿度にも耐えられ、水没しても使用でき、耐振動性、耐侵食性、耐腐食性に優れ、塵埃環境にも耐えられ、しかも低コストであり書き換えが可能な、高耐久磁気メモリを容易に実現することができる。
(2)非磁性金属粉と磁性粉を均一になるように混合、焼結し、所望の形状に加工した磁気記録媒体とすることで、苛酷な条件下でもメモリとしての機能を失わず、記録情報を再生できるメモリが得られる。
(3)情報の書き換えができるためシーケンシャルな使用が可能であり、耐熱温度の目標値は400℃(これまでの研究で200℃に耐えられることを確認済み)で、更にコストが非常に安く、一つ当たり0.1円以下であるという特徴をもつ。
(4)現在では家電リサイクル法を契機に、リサイクルの促進があらゆる分野で推奨されている。自動車のリサイクル部品産業は2004年にはおよそ155億円に達しており、今後も年々増加する見通しである。たとえば自動車の修理歴、検査日時などを記録する素子、家電製品などのリサイクル部品の使用履歴を記録する素子を作製するには、耐熱温度だけでなく耐風化性も考慮する必要がある。しかしながら、耐環境性を備え、低コストで書き換え可能なメモリは本発明の磁気記録媒体をおいて今のところ他には存在しない。本発明の磁気記録媒体が個体認証素子として最も効果を発揮することができるのはリサイクル産業である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
従来の磁気記録テープ媒体は、非磁性基板上に磁性紛とバインダを混合し、塗布または蒸着した微粒子媒体であったが、本発明の磁気記録媒体は、非磁性金属粉に非磁性基板とバインダの役割を持たせ、磁性紛を混合し、焼結した、微粒子媒体である。
【0015】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性金属粉と磁性粉を混合・焼結し、これ自体を形状加工を施して作製する。非磁性金属粉として、形状加工を施しやすい、500℃程度以上の融点をもつ金属、例えば銅またはアルミを用い、磁性粉として安価なコバルト被着ガンマフェライトを用いる。これらの材料を用いることで400℃程度の高温でも記録情報を保持できる磁気記録媒体を作製することができる。
【0016】
非磁性金属粉と磁性粉は合金化するのではなく、焼結体とすることで磁性粉を粒子状に保ち高い保磁力を確保することができる。
【0017】
磁気記録媒体は、ステープルや画鋲のような形状にし、被装着物に取り付けできるようにする。上述した材料・作製方法により、これまでに試作した磁気記録媒体は形状加工性が良く、優れた磁気特性を有しており、メモリとして用いるには充分である。記録・再生はリング型の電磁誘導型ヘッドを用いた接触型としており、作製した磁気記録媒体は信号の記録および再生が可能であることを確認している。また、接触記録・再生方式で、長さ1インチ当たりに約1700ビットの情報が記録できることを確認した。記録トラック幅をビット長の10倍程度とすると、提案の磁気記録媒体の記録容量は一般的な2次元バーコードの約3倍に相当する。さらに、作製した磁気記録媒体の耐環境試験で、加圧・水没・200℃の環境で1時間保持した後でも記録信号を再生できることを確認しており、今後は更に苛酷な条件での耐環境試験を行うことが望ましい。
【0018】
また、本発明で作製した磁気記録媒体の信号再生には、現在は接触型の機構を採用しているが、汎用的な使用および信号再生の簡便性を考慮すると再生機構は非接触型であることが望まれる。そこで、光を用いた再生システムの開発が期待される。具体的には、上述の磁気記録媒体の表面に磁気光学材料である軟磁性イットリウム酸化鉄(YIG)をスパッタにより成膜し、Kerr効果を利用して記録信号の再生を行うことが考えられる。一般に、磁気記録媒体と再生センサの距離が大きくなるに連れて再生分解能は低下する。そこで、磁気記録媒体と再生センサとの間隔が3mm程度以上の非接触型再生システムの開発が待たれる。
【0019】
本発明では、公知のディジタル磁気記録方式を採用することができる。記録磁化を保持し十分な再生電圧を得るためには、磁化方向の角型比および保磁力が大きくなければならない。また、商品管理等に必要な記録容量を確保するために、面記録密度を高める必要がある。なお、記録・再生はマルチトラックで行うことも可能である。
【0020】
次に、本発明に係る書き換え可能型磁気記録媒体の実施形態について、図1乃至図11を参照しながら説明する。
【0021】
図1は平板状の磁気記録媒体の斜視図、図2はT字型針状の磁気記録媒体の斜視図、図3はステープル形状の磁気記録媒体の斜視図、図4は平板をコ字状に折り曲げた磁気記録媒体の斜視図、図5は平板のコーナー部に先尖状の脚部を有する磁気記録媒体の斜視図、図6は薄型被装着物にステープル形状の磁気記録媒体を取り付けた場合の説明図、図7は厚型被装着物にステープル形状の磁気記録媒体を取り付けた場合の説明図である。図8は焼結により作成したサンプルを示す図である。図9は保磁力の焼結温度依存性を示す図である。図10は線記録密度特性を示す図である。図11は水熱処理前後の再生波形を示す図である。
【実施例1】
【0022】
実施例に基づいて、詳細に説明する。すなわち、支持体1は、磁性粉と非磁性金属粉を混合・焼結して得られた焼結体を加圧成形加工または切断研磨加工することにより構成され、例えば平板状および針状(釘、画鋲、ステープルのような形状を含む)に加圧成形加工または切断研磨加工したものである。
【0023】
まず、上述した支持体1(支持体1全体が磁気記録媒体となっている)について説明する。支持体1を成す磁気記録媒体は、融点が500℃程度以上の温度である銅(Cu)やアルミニウム(Al)などの非磁性金属の粉体とマグヘマイト(γ―Fe2O3)やマグネタイト(Fe3O4)などの磁性粉を均一になるように充分に混合し、これらの混合物を所望の形状の圧肉容器に充填した後、押圧力を付加するピストンを前記圧肉容器に係合させた状態下で前進させて加圧し、次のような温度、圧力、焼結時間の条件下で製造される。
【0024】
温度 : 200℃〜磁性粉の融点以下の温度
圧力 : 0.5MPa〜500MPa
焼結時間: 2分〜20時間
【0025】
上記のような加圧・温度・焼結時間の環境下で焼結し、その焼結体を圧延して形状加工することにより所望の形状の支持体1が得られる。支持体1は、上記加圧成形加工に限定するものではなく、切断研磨加工してもよい。なお、本発明のメモリ(磁気記録媒体)の大きさは、厚み1mm程度以下であり、長さが数mmから数十mmのものとなる。なお、磁性粉としては、マグヘマイト(γ―Fe2O3)やマグネタイト(Fe3O4)に限定するものではなく、バリウムフェライト(BaFe12O19)、ストロンチウムフェライト(SrFe12O19)などの科学的に安定で安価な酸化鉄をベースとした磁性酸化物を使用することができる。なお、本発明のメモリ(磁気記録媒体)の保磁力は300〜4000Oe(エルステッド)である。
【0026】
実施例に示す磁気記録媒体の製造時は、予め非磁性金属粉、磁性粉、ポリビニルアルコール(PVA)などのバインダを少量混合し、加圧成形した後にオーブンなどで焼結し、形状加工することができる。
【実施例2】
【0027】
磁気記録媒体は、非磁性金属粉と磁性粉を混合・焼結し、形状加工を施して作製した。非磁性金属粉として形状加工を施しやすいアルミ(Al)を用い、磁性粉には安価で磁気記録分野で実績のあるコバルト被着ガンマフェライト(Co−γ−Fe2O3)を用いた。Al粉末とCo−γ−Fe2O3粉末を体積比9:1となるようにボールミルにより乾式混合し、直径1.5cmの筒状の圧肉容器に充填し、放電プラズマ焼結法により、温度を200℃から550℃とし、焼結時間10分で焼結した。得られた焼結体を切断・研磨し、サンプルを作製した(図8)。サンプルの厚みは約0.5mmである。磁気特性の測定には試料振動型磁力計、記録特性の測定には記録再生特性評価装置を用いた。
【0028】
図9に面内保磁力の焼結温度依存性を示す。保磁力は焼結温度の上昇とともに増大し、400℃で約1100Oeとなり,比較的高い値が得られた。また、更に温度を上げると保磁力は減少した。保磁力の焼結温度依存性は、コバルトがγ−Fe2O3中に拡散したためであると考えられる。飽和磁化は焼結温度に依らず、ほぼ一定であった。
【0029】
記録・再生特性測定は、オーディオヘッドを用いて接触記録・再生方式で行った。ヘッド・媒体間の相対速度を1m/secとして、方形波信号を記録した。図10に1100Oeの保磁力が得られたサンプルの線記録密度特性を示す。同図から、作製したサンプルは、再生出力が孤立反転の再生出力の50%になる記録密度であるD50が約1.7kFRPI程度の記録能力があることが分かる。このサンプルを1cm角とし、トラック密度を線密度の10倍と仮定すると、作製したサンプルの記録容量は一般的な2次元バーコードの約3倍に相当する6kB程度であると予想される。また、記録・再生システムに信号処理を適用することで更なる大容量化が可能である。
【0030】
1100Oeの保磁力が得られたサンプルに線密度1kFRPIの信号を記録した後、オートクレーブにより加圧、水中200℃、1時間の水熱処理を施し、信号の再生を行った。水熱処理前後で得られた再生波形を図11に示す。同図から水熱処理前後の再生波形にほとんど変化はなく、作製したサンプルは水中200℃程度の環境下でも記録情報を保持できることが分かる。
【0031】
なお、上記記載の磁気記録媒体を成す支持体1の形状については、平板状(図1)、T字型針状(図2)、ステープル形状(図3)、平板をコ字状に折り曲げた形状(図4)平板のコーナー部に先尖状の脚部を有する形状(図5)を述べたが、例えば、図5については、平板のコーナー部ではなく、平板の端部のいかなる箇所に先尖状の脚部を有する形状にしてもよく、例えばコーナー部間やそれ以外の部分に配設してもよい。なお、支持体1の形状は図1乃至図5に限定するものではなく、他のいかなる多様な形状にも適用できる。
【0032】
上記のように磁気記録媒体そのものを支持体1を被装着物(製品)5などに取り付ける場合には、図6や図7に示すように、専用の装置を使って支持体1を被装着物5に打ち込んで取り付けることができる。なお、図1に示すような平板形状のものを使用する場合には、例えば被装着物5にドリルなどで穴を開け、紐やワイヤなどで結んでもよいが、端部をステープルなどで留めることもできる。
【0033】
また、支持体1の表面には、厚みが100μm以下となるように酸化防止用樹脂などを噴霧または塗布するとよい。なお、記録および再生を行う場合には、電磁誘導型ヘッドを複数備えたマルチトラックの記録装置や再生装置を用いることができる。また、再生には、磁気抵抗効果型ヘッドを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】平板状の磁気記録媒体の斜視図である。
【図2】T字型針状の磁気記録媒体の斜視図である。
【図3】ステープル形状の磁気記録媒体の斜視図である。
【図4】平板をコ字状に折り曲げたステープル形状の磁気記録媒体の斜視図である。
【図5】平板のコーナー部に先尖状の脚部を有する磁気記録媒体の斜視図である。
【図6】薄型被装着物にステープル形状の磁気記録媒体を取り付けた場合の説明図である。
【図7】厚型被装着物にステープル形状の磁気記録媒体を取り付けた場合の説明図である。
【図8】焼結により作製した磁気記録媒体のサンプル。
【図9】焼結により作製した磁気記録媒体の保磁力の焼結温度依存性を示す図である。
【図10】1100Oeの保磁力が得られたサンプルの線記録密度特性を示す図である。
【図11】水熱処理前後の再生波形を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 支持体
2 被装着物(製品)
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のように磁気記録媒体が支持体上に配設されたディスクやテープとは異なる形状であり、高温・多湿のような、いわゆる“苛酷な環境”に晒されても記録情報を保持できる個体認証デバイスである、支持体それ自体が磁気記録媒体でもある書き換え可能型高耐久磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気記録、光磁気記録、光ディスク、半導体メモリ、誘電体メモリなど、各種の記録技術の進展は著しく、より高密度に情報を記録することを目指して研究開発が進んでいる。しかしながら、これらの技術は清浄雰囲気、低振動、通常生活している温湿度領域などの、極限られた良好な環境下でしか使用できない惰弱な技術になってきている。一方で、水熱処理により殺菌消毒を行う手術器具の使用履歴の記録、クリーニングのタグ、魚や肉などのトレーサビリティを行うためのメモリ、家電製品や自動車部品など、スチーム洗浄を要するリサイクル部品の使用履歴などを記録する耐環境性を備えたメモリが要求され始めている。
【0003】
現在の個体認証メモリ技術は主にバーコードおよびICタグによって支えられている。紙に印刷するバーコードについては、コストはほぼ0円、ICタグは大量生産した場合には一つ数十円である。また、現在は、ある程度の高温まで耐えられるバーコードおよびICタグが開発されている。しかしながら、バーコードは情報の書き換えができず、耐熱温度が300℃程度のものになるとコストが数十〜数百円と高くなる。ICタグは情報の書き換えは出来るが、耐熱温度約200℃のものではコストが一つ数百円となるため、実用に供するには、価格が高すぎる。
【0004】
ところで、特許文献1には、磁性体粉末と非磁性体粉末とを焼結した焼結体を機械加工したスパッタリング用ターゲットが開示されている。
【0005】
即ち、特許文献1には、主として磁気記録媒体として用いられるCo系磁性膜を形成するために使用されるCo系ターゲットが記載されている。そして、Coを主体とし、溶解材として飽和磁束密度が0.1T未満となる合金組成のターゲットを製造するに際し、その原料を非磁性粉末と磁性体粉末を混合し、焼結により飽和磁束密度を0.1T以上となるように調整することが開示されている。
【0006】
この得られたCo系ターゲットを用いて形成されたCo合金系磁気記録膜は、保磁力160kA/m(20106Oe)以上、残留磁束密度膜厚積130Gμm以下の特性を有するとされている。
【0007】
しかしながら、ターゲットそれ自体は、磁気記録媒体として用いられるものではない。
【特許文献1】特開2000−38661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、現在は、既存技術の適用範囲を拡張して苛酷な環境下でも使用可能とするための研究・開発は行われているが、苛酷な環境下での使用を第一の目的としたメモリの開発は行われていない。
【0009】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の磁気記録媒体は汎用性を重視し、水没してもメモリ機能を失わず、耐振動・耐久性に優れ、高低温・多湿や高濃度の放射線にさらされても耐え得るような書き換え可能型磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、非磁性金属粉と磁性粉を混合・焼結して得られた焼結体からなることを特徴とする磁気記録媒体である。
【0011】
また、請求項2に係る発明は、非磁性金属粉と磁性粉を混合・焼結して得られた焼結体を加圧成形加工または切断研磨加工することにより被装着物に取り付けるための支持体を構成したことを特徴とする磁気記録媒体である。
【0012】
請求項3に係る発明では、該非磁性金属粉として銅(Cu)やアルミニウム(Al)の中から一つを用いるようにした。また、請求項4に係る発明では、該磁性粉として磁性酸化物を用いるようにした。また、請求項5に係る発明では、支持体の表面に酸化防止膜を設けたものである。
【発明の効果】
【0013】
ディスクやテープのような従来の磁気記録媒体とは異なり、下記(1)〜(4)のような顕著な効果を有する。
(1)苛酷な温湿度にも耐えられ、水没しても使用でき、耐振動性、耐侵食性、耐腐食性に優れ、塵埃環境にも耐えられ、しかも低コストであり書き換えが可能な、高耐久磁気メモリを容易に実現することができる。
(2)非磁性金属粉と磁性粉を均一になるように混合、焼結し、所望の形状に加工した磁気記録媒体とすることで、苛酷な条件下でもメモリとしての機能を失わず、記録情報を再生できるメモリが得られる。
(3)情報の書き換えができるためシーケンシャルな使用が可能であり、耐熱温度の目標値は400℃(これまでの研究で200℃に耐えられることを確認済み)で、更にコストが非常に安く、一つ当たり0.1円以下であるという特徴をもつ。
(4)現在では家電リサイクル法を契機に、リサイクルの促進があらゆる分野で推奨されている。自動車のリサイクル部品産業は2004年にはおよそ155億円に達しており、今後も年々増加する見通しである。たとえば自動車の修理歴、検査日時などを記録する素子、家電製品などのリサイクル部品の使用履歴を記録する素子を作製するには、耐熱温度だけでなく耐風化性も考慮する必要がある。しかしながら、耐環境性を備え、低コストで書き換え可能なメモリは本発明の磁気記録媒体をおいて今のところ他には存在しない。本発明の磁気記録媒体が個体認証素子として最も効果を発揮することができるのはリサイクル産業である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
従来の磁気記録テープ媒体は、非磁性基板上に磁性紛とバインダを混合し、塗布または蒸着した微粒子媒体であったが、本発明の磁気記録媒体は、非磁性金属粉に非磁性基板とバインダの役割を持たせ、磁性紛を混合し、焼結した、微粒子媒体である。
【0015】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性金属粉と磁性粉を混合・焼結し、これ自体を形状加工を施して作製する。非磁性金属粉として、形状加工を施しやすい、500℃程度以上の融点をもつ金属、例えば銅またはアルミを用い、磁性粉として安価なコバルト被着ガンマフェライトを用いる。これらの材料を用いることで400℃程度の高温でも記録情報を保持できる磁気記録媒体を作製することができる。
【0016】
非磁性金属粉と磁性粉は合金化するのではなく、焼結体とすることで磁性粉を粒子状に保ち高い保磁力を確保することができる。
【0017】
磁気記録媒体は、ステープルや画鋲のような形状にし、被装着物に取り付けできるようにする。上述した材料・作製方法により、これまでに試作した磁気記録媒体は形状加工性が良く、優れた磁気特性を有しており、メモリとして用いるには充分である。記録・再生はリング型の電磁誘導型ヘッドを用いた接触型としており、作製した磁気記録媒体は信号の記録および再生が可能であることを確認している。また、接触記録・再生方式で、長さ1インチ当たりに約1700ビットの情報が記録できることを確認した。記録トラック幅をビット長の10倍程度とすると、提案の磁気記録媒体の記録容量は一般的な2次元バーコードの約3倍に相当する。さらに、作製した磁気記録媒体の耐環境試験で、加圧・水没・200℃の環境で1時間保持した後でも記録信号を再生できることを確認しており、今後は更に苛酷な条件での耐環境試験を行うことが望ましい。
【0018】
また、本発明で作製した磁気記録媒体の信号再生には、現在は接触型の機構を採用しているが、汎用的な使用および信号再生の簡便性を考慮すると再生機構は非接触型であることが望まれる。そこで、光を用いた再生システムの開発が期待される。具体的には、上述の磁気記録媒体の表面に磁気光学材料である軟磁性イットリウム酸化鉄(YIG)をスパッタにより成膜し、Kerr効果を利用して記録信号の再生を行うことが考えられる。一般に、磁気記録媒体と再生センサの距離が大きくなるに連れて再生分解能は低下する。そこで、磁気記録媒体と再生センサとの間隔が3mm程度以上の非接触型再生システムの開発が待たれる。
【0019】
本発明では、公知のディジタル磁気記録方式を採用することができる。記録磁化を保持し十分な再生電圧を得るためには、磁化方向の角型比および保磁力が大きくなければならない。また、商品管理等に必要な記録容量を確保するために、面記録密度を高める必要がある。なお、記録・再生はマルチトラックで行うことも可能である。
【0020】
次に、本発明に係る書き換え可能型磁気記録媒体の実施形態について、図1乃至図11を参照しながら説明する。
【0021】
図1は平板状の磁気記録媒体の斜視図、図2はT字型針状の磁気記録媒体の斜視図、図3はステープル形状の磁気記録媒体の斜視図、図4は平板をコ字状に折り曲げた磁気記録媒体の斜視図、図5は平板のコーナー部に先尖状の脚部を有する磁気記録媒体の斜視図、図6は薄型被装着物にステープル形状の磁気記録媒体を取り付けた場合の説明図、図7は厚型被装着物にステープル形状の磁気記録媒体を取り付けた場合の説明図である。図8は焼結により作成したサンプルを示す図である。図9は保磁力の焼結温度依存性を示す図である。図10は線記録密度特性を示す図である。図11は水熱処理前後の再生波形を示す図である。
【実施例1】
【0022】
実施例に基づいて、詳細に説明する。すなわち、支持体1は、磁性粉と非磁性金属粉を混合・焼結して得られた焼結体を加圧成形加工または切断研磨加工することにより構成され、例えば平板状および針状(釘、画鋲、ステープルのような形状を含む)に加圧成形加工または切断研磨加工したものである。
【0023】
まず、上述した支持体1(支持体1全体が磁気記録媒体となっている)について説明する。支持体1を成す磁気記録媒体は、融点が500℃程度以上の温度である銅(Cu)やアルミニウム(Al)などの非磁性金属の粉体とマグヘマイト(γ―Fe2O3)やマグネタイト(Fe3O4)などの磁性粉を均一になるように充分に混合し、これらの混合物を所望の形状の圧肉容器に充填した後、押圧力を付加するピストンを前記圧肉容器に係合させた状態下で前進させて加圧し、次のような温度、圧力、焼結時間の条件下で製造される。
【0024】
温度 : 200℃〜磁性粉の融点以下の温度
圧力 : 0.5MPa〜500MPa
焼結時間: 2分〜20時間
【0025】
上記のような加圧・温度・焼結時間の環境下で焼結し、その焼結体を圧延して形状加工することにより所望の形状の支持体1が得られる。支持体1は、上記加圧成形加工に限定するものではなく、切断研磨加工してもよい。なお、本発明のメモリ(磁気記録媒体)の大きさは、厚み1mm程度以下であり、長さが数mmから数十mmのものとなる。なお、磁性粉としては、マグヘマイト(γ―Fe2O3)やマグネタイト(Fe3O4)に限定するものではなく、バリウムフェライト(BaFe12O19)、ストロンチウムフェライト(SrFe12O19)などの科学的に安定で安価な酸化鉄をベースとした磁性酸化物を使用することができる。なお、本発明のメモリ(磁気記録媒体)の保磁力は300〜4000Oe(エルステッド)である。
【0026】
実施例に示す磁気記録媒体の製造時は、予め非磁性金属粉、磁性粉、ポリビニルアルコール(PVA)などのバインダを少量混合し、加圧成形した後にオーブンなどで焼結し、形状加工することができる。
【実施例2】
【0027】
磁気記録媒体は、非磁性金属粉と磁性粉を混合・焼結し、形状加工を施して作製した。非磁性金属粉として形状加工を施しやすいアルミ(Al)を用い、磁性粉には安価で磁気記録分野で実績のあるコバルト被着ガンマフェライト(Co−γ−Fe2O3)を用いた。Al粉末とCo−γ−Fe2O3粉末を体積比9:1となるようにボールミルにより乾式混合し、直径1.5cmの筒状の圧肉容器に充填し、放電プラズマ焼結法により、温度を200℃から550℃とし、焼結時間10分で焼結した。得られた焼結体を切断・研磨し、サンプルを作製した(図8)。サンプルの厚みは約0.5mmである。磁気特性の測定には試料振動型磁力計、記録特性の測定には記録再生特性評価装置を用いた。
【0028】
図9に面内保磁力の焼結温度依存性を示す。保磁力は焼結温度の上昇とともに増大し、400℃で約1100Oeとなり,比較的高い値が得られた。また、更に温度を上げると保磁力は減少した。保磁力の焼結温度依存性は、コバルトがγ−Fe2O3中に拡散したためであると考えられる。飽和磁化は焼結温度に依らず、ほぼ一定であった。
【0029】
記録・再生特性測定は、オーディオヘッドを用いて接触記録・再生方式で行った。ヘッド・媒体間の相対速度を1m/secとして、方形波信号を記録した。図10に1100Oeの保磁力が得られたサンプルの線記録密度特性を示す。同図から、作製したサンプルは、再生出力が孤立反転の再生出力の50%になる記録密度であるD50が約1.7kFRPI程度の記録能力があることが分かる。このサンプルを1cm角とし、トラック密度を線密度の10倍と仮定すると、作製したサンプルの記録容量は一般的な2次元バーコードの約3倍に相当する6kB程度であると予想される。また、記録・再生システムに信号処理を適用することで更なる大容量化が可能である。
【0030】
1100Oeの保磁力が得られたサンプルに線密度1kFRPIの信号を記録した後、オートクレーブにより加圧、水中200℃、1時間の水熱処理を施し、信号の再生を行った。水熱処理前後で得られた再生波形を図11に示す。同図から水熱処理前後の再生波形にほとんど変化はなく、作製したサンプルは水中200℃程度の環境下でも記録情報を保持できることが分かる。
【0031】
なお、上記記載の磁気記録媒体を成す支持体1の形状については、平板状(図1)、T字型針状(図2)、ステープル形状(図3)、平板をコ字状に折り曲げた形状(図4)平板のコーナー部に先尖状の脚部を有する形状(図5)を述べたが、例えば、図5については、平板のコーナー部ではなく、平板の端部のいかなる箇所に先尖状の脚部を有する形状にしてもよく、例えばコーナー部間やそれ以外の部分に配設してもよい。なお、支持体1の形状は図1乃至図5に限定するものではなく、他のいかなる多様な形状にも適用できる。
【0032】
上記のように磁気記録媒体そのものを支持体1を被装着物(製品)5などに取り付ける場合には、図6や図7に示すように、専用の装置を使って支持体1を被装着物5に打ち込んで取り付けることができる。なお、図1に示すような平板形状のものを使用する場合には、例えば被装着物5にドリルなどで穴を開け、紐やワイヤなどで結んでもよいが、端部をステープルなどで留めることもできる。
【0033】
また、支持体1の表面には、厚みが100μm以下となるように酸化防止用樹脂などを噴霧または塗布するとよい。なお、記録および再生を行う場合には、電磁誘導型ヘッドを複数備えたマルチトラックの記録装置や再生装置を用いることができる。また、再生には、磁気抵抗効果型ヘッドを用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】平板状の磁気記録媒体の斜視図である。
【図2】T字型針状の磁気記録媒体の斜視図である。
【図3】ステープル形状の磁気記録媒体の斜視図である。
【図4】平板をコ字状に折り曲げたステープル形状の磁気記録媒体の斜視図である。
【図5】平板のコーナー部に先尖状の脚部を有する磁気記録媒体の斜視図である。
【図6】薄型被装着物にステープル形状の磁気記録媒体を取り付けた場合の説明図である。
【図7】厚型被装着物にステープル形状の磁気記録媒体を取り付けた場合の説明図である。
【図8】焼結により作製した磁気記録媒体のサンプル。
【図9】焼結により作製した磁気記録媒体の保磁力の焼結温度依存性を示す図である。
【図10】1100Oeの保磁力が得られたサンプルの線記録密度特性を示す図である。
【図11】水熱処理前後の再生波形を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 支持体
2 被装着物(製品)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性金属粉と磁性粉を混合・焼結して得られた焼結体のみからなることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記焼結体を加圧成形加工または切断研磨加工することにより被装着物に取り付けるための支持体を構成したことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記非磁性金属粉として銅(Cu)、アルミニウム(Al)の中から一つを用いるようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁性粉として磁性酸化物を用いるようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記支持体の表面に酸化防止膜を設けたことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項1】
非磁性金属粉と磁性粉を混合・焼結して得られた焼結体のみからなることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記焼結体を加圧成形加工または切断研磨加工することにより被装着物に取り付けるための支持体を構成したことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記非磁性金属粉として銅(Cu)、アルミニウム(Al)の中から一つを用いるようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁性粉として磁性酸化物を用いるようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記支持体の表面に酸化防止膜を設けたことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図8】
【公開番号】特開2006−73174(P2006−73174A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209607(P2005−209607)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
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