説明

磁気記録媒体

【課題】高Hk磁性層である[Co/Pt]n多層膜と低Hk磁性層であるCoCrPt合金膜を積層し、これらを交換結合させた構造の磁気記録層(ECC媒体)において、良好な結晶構造及び微細構造を実現する。さらに、[Co/Pt]n多層膜及びCoCrPt合金膜の厚さを制御して記録ヘッドに適合した磁気特性を実現することにより、高密度記録が可能な磁気記録媒体を得る。
【解決手段】[Co/Pt]n多層膜は、面心立方構造を有し、その(111)方向が膜面垂直となるように形成する。また、CoCrPt合金膜は、六方最密構造を有し、その(00.1)方位が膜面垂直となるように形成する。高Hk磁性層及び低Hk磁性層は、共にグラニュラー構造とし、その粒界の形成位置は高Hk磁性層と低Hk磁性層間で一致させる。さらに、高Hk磁性層である[Co/Pt]n多層膜の厚さは1.0nm以上2.5nm以下とし、低Hk磁性層であるCoCrPt合金膜の厚さは10nm乃至16nmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式の磁気記録再生装置に用いられる垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)は、コンピューターや民生エレクトロニクス製品で大容量の情報記録を要する用途において必要不可欠な装置である。今後も大容量記録へのニーズは高く、省スペース・省エネルギーなどの要求を満たしつつ大容量化を実現するために、ディスクへの面記録密度を増加させていく必要がある。現在、HDDにおける記録再生方式として垂直磁気記録方式が採用されている。垂直磁気記録方式により面記録密度300Gbit/inch2程度の製品が出荷され、また、600Gbit/inch2程度の面記録密度が実現可能であることが実験室レベルで実証されている。垂直磁気記録方式による更なる面記録密度向上のため、改良のための技術開発が急務である。
【0003】
垂直磁気記録方式に用いる媒体の構造として、異なる異方性磁界Hkを有する複数の垂直磁性層を組み合わせた磁気記録層が提案されている。この構造を有する媒体はExchange-coupled composite(ECC)媒体もしくはExchange-spring(ES)媒体となどと呼ばれ、例えば非特許文献1にその詳細が示されている。ECC媒体のメリットは、異方性磁界Hkの大きい材料を媒体の一部分に用いながらも、記録に必要なヘッド磁界の低減が可能である点である。異方性磁界Hkの大きい材料を使うことによって、記録した磁化状態が外乱によって消失することを防止できる。一方、必要な記録磁界を低減することによって、記録ヘッド磁界の増大という極めて困難な課題への要請が緩和される。
【0004】
非特許文献2にはECC媒体のコンセプトを適用した現実的な媒体構造(Graded媒体)と作製法の記述があり、そのGraded媒体を用いて610Gbit/inch2の面記録密度が実現可能であることが示されている。Graded媒体においては磁気記録層の全体にわたってCoCrPt合金を使用し、その組成比を変化させることで異方性磁界Hkに差を付けている。
【0005】
本願発明者らは様々な組成のCoCrPt合金薄膜を作製してそのHkを測定した。その結果、CoCrPt合金薄膜によって得られるHkの大きさには上限値があり、約22kOeが最大であることが分かった。一方で、Hkが小さいと磁化を膜面垂直方向に安定化出来なくなるので、垂直磁気記録層に適用できる磁性膜のHkには下限値も存在する。よって、CoCrPt合金を使う限り、磁気記録層を構成する磁性層間で異方性磁界Hkの差を大きくすることは難しい。一般に、ECC媒体では組み合わせる磁性層間で異方性磁界Hkの差が大きいほど得られる利得が大きい。したがって、CoCrPt合金層のみによってECC媒体を作製しても、ECC構造の導入による効果には制約がある。
【0006】
CoCrPt合金膜よりも大きな異方性磁界Hkを得ることのできる磁性膜として[Co/Pt]n多層膜が知られている。これはCoを主原料とする極薄層(Co副層)とPtを主原料とする極薄層(Pt副層)とを交互に積層したもので、人工格子膜とも呼ばれ、その詳細については例えば非特許文献3に示されている。Co及びPt副層を所定の厚さに設定した上で適切なプロセス条件及び添加材料を適用すると、[Co/Pt]n多層膜中に明瞭な結晶粒界が形成され、柱状構造(グラニュラー構造)を有する[Co/Pt]n多層膜が得られる。特許文献1及び非特許文献4に、そのプロセス条件や構造に関する詳細な開示が見られる。このような良好なグラニュラー構造は垂直記録媒体として好ましいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−190538号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】IEEE Trans. Magn., vol.41, p.537 (2005)
【非特許文献2】IEEE Trans. Magn., vol.45, p.799 (2009)
【非特許文献3】J. Appl. Phys., 97 (2005) 10J109
【非特許文献4】J. Appl. Phys., 105 (2009) 07B705
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の従来技術を鑑みれば、ECC媒体において、より大きいHkを有する層(高Hk磁性層)を[Co/Pt]n多層膜によって構成し、より小さいHkを有する層(低Hk磁性層)をCoCrPt合金膜で構成することは、ECC媒体の性能向上のための合理的な手段である。しかしながら、これら2つの異なる結晶構造を有する磁性膜を、それぞれの結晶構造及び磁気特性の劣化を招くことなく積層することは一般に困難であった。さらに、[Co/Pt]n多層膜とCoCrPt合金膜を積層した場合に、良好な記録再生特性を得ることが出来るような積層構造についても具体的な知見は得られていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の提案者らは、グラニュラー構造を有する[Co/Pt]n多層膜をECC媒体に適用するための詳細な検討を行った。その結果、以下に示すような積層構造及び層厚で記録膜を形成することにより、[Co/Pt]n多層膜を有効に利用し、ECC媒体の記録再生特性を改善できることが判明した。
【0011】
本発明が開示する代表的な磁気記録媒体は、基板上に、軟磁性裏打ち層、中間層、磁気記録層及び保護層がこの順番で形成された磁気記録媒体であって、磁気記録層において、基板側に[Co/Pt]n多層膜によって構成される高Hk磁性層を、媒体表面側にCoCrPt合金膜によって構成される低Hk磁性層を配置し、これらの高Hk磁性層と低Hk磁性層の間に交換相互作用を働かせてECC媒体としたものである。
【0012】
ここで、軟磁性裏打ち層は記録ヘッドからの磁界を記録媒体表面から内部に導くためのもので、軟磁気特性を有する磁性膜を単独でもしくは複合させて用いる。中間層は軟磁性裏打ち層と磁気記録層との間に挿入される非磁性層であり、特に磁気記録層の結晶配向性や磁気記録層の微細構造を制御するために材料組成や積層層構造を選択する。保護層は記録膜全体を機械的及び化学的に保護するための層であり、カーボンを主原料した薄膜である。また、保護膜の上にはパーフルオロポリエーテル(PFPE)系の潤滑剤を薄く塗布した潤滑膜を形成する。カーボン薄膜はダイヤモンド構造に代表される硬質な機械特性を有し、潤滑膜は記録膜表面の表面エネルギーを低減して記録膜表面の耐擦動性を高める。
【0013】
本発明では、高Hk磁性層である[Co/Pt]n多層膜は実質的に面心立方(fcc)構造の結晶格子を有し、その(111)方向が膜面に対して垂直であることを特徴とする。この結晶配向とすることで、低Hk磁性層として[Co/Pt]n多層膜の上部に形成されるCoCrPt合金膜が好ましい結晶配向を取るようになり、垂直記録膜として望ましい特性が得られる。
【0014】
高Hk磁性層の媒体表面側に近接させて、低Hk磁性層として、CoCrPt合金膜からなるグラニュラー層を形成する。高Hk磁性層上にはfcc(111)結晶面が露出しているため、六方最密(hcp)構造の結晶格子を有するCoCrPt合金膜は、その(00.1)面が基板面に平行になるように(ヘテロ)エピタキシャル成長する。これによって低Hk磁性層には良好な垂直磁気異方性が発現する。ここで、高Hk磁性層と低Hk磁性層は直に接する構造としても良いし、交換相互作用を適当に調整するために薄い磁性層等を挟んだ構造にしても良い。ただし、薄い磁性層等を挟む場合には高Hk磁性層と低Hk磁性層の間のエピタキシャル成長を乱さないように適当に材料を選択する必要がある。
【0015】
さらに、高Hk磁性層及び低Hk磁性層は、磁性微粒子が非金属材料からなる粒界によって分離した構造(グラニュラー構造)を有しており、結晶粒界の形成位置は高Hk磁性層と低Hk磁性層間で連続していることを特徴とする。この場合、一つの磁性微粒子において高Hk部と低Hk部が一対一で界面を形成するため、高Hk部と低Hk部の間に働く交換相互作用によってECC媒体に特有の効能が得られる。
【0016】
粒界を形成させるための非金属材料としては、金属酸化物や窒化物が有用である。CoCrPt合金膜に対しては多くの検討結果が報告されており、Al,Cr,Hf,Mg,Nb,Si,Ta,Ti,V,Zr等の酸化物、中でもSi,Ti,Taの酸化物が良好な記録再生特性を実現しやすいと言われている。[Co/Pt]n多層膜はそもそも磁性微粒子を構成する主原料がCoとPtであるため、CoCrPt合金膜の場合と同様な酸化物を適用することで好ましい効果を得ることが出来る。本発明者らが添加物について様々な材料の検討を行ったところ、ホウ素(B)もしくはTi及びVの酸化物が[Co/Pt]n多層膜中に結晶粒を形成するために特に効果的であった。
【0017】
高Hk磁性層である[Co/Pt]n多層膜の部分の厚さは1.0nm以上2.5nm以下とすることが特に好ましい。高Hk磁性層がこれよりも厚い場合には記録が困難になり、逆に薄い場合には熱エネルギーなどの外乱に対して記録磁化状態の安定性が不十分となる。
【0018】
[Co/Pt]n多層膜はCo元素を主原料とするCo副層とPt元素を主原料とするPt副層を交互に形成することによって得る。その積層構造は、可能な限り大きなHkが得られること、及び、グラニュラー構造を形成しやすいことを前提に決定する。発明者らの検討によれば、大きなHkを得るには積層周期(Co副層とPt副層の厚さの和)を0.4nm以上0.7nm以下とすればよく、0.5nm以上0.7nm以下とすることが特に望ましい。また、Pt副層の厚さはCo副層の厚さよりも薄く、0.15nm以上かつ0.3nm以下とすることが特に望ましい。発明者らの検討によれば、磁性微粒子の粒界はPt副層の厚さが小さいほど形成されやすく、前記の範囲にPt副層厚を設定すれば記録媒体として好適なグラニュラー構造が得られる。
【0019】
[Co/Pt]n多層膜の積層周期を0.6nmとした場合、前記の好適な[Co/Pt]n多層膜厚の範囲は積層周期数を2ないし4にすることに相当する。
【0020】
低Hk磁性層であるCoCrPt合金膜の厚さは10nm乃至16nmとすることが好ましい。CoCrPt合金膜がこれよりも薄い場合、高Hk磁性層の磁化反転を完了することが困難となり所望の記録が出来ない。逆に、厚すぎると磁気記録層全体の厚みが大きくなり、磁気ヘッドまでの距離が増加する等の理由によって、記録再生性能が劣化する。
【0021】
また、CoCrPt合金膜において、その媒体表面側の粒界幅は基板側の粒界幅よりも小さいことがより望ましい。この構造では粒界幅が小さい媒体表面側の部位において磁性微粒子間の交換相互作用の適切な制御が可能になり、これによって記録再生性能が改善する。この構造及び効果については、特開2006−120290号公報やJ. Magn. Magn. Mater., 320 (2008) 3144の他、多くの文献に関連する記述がみられる。
【0022】
高い記録再生性能を実現するためには、高Hk磁性層である[Co/Pt]n多層膜における磁性微粒子の磁気的な分離について特に注意を払う必要がある。第1に、[Co/Pt]n多層膜は磁化反転過程に主要な影響を有するので、磁性粒子間の[Co/Pt]n多層膜の部分に働く交換相互作用は記録特性の劣化を招きやすい。第2に、[Co/Pt]n多層膜は他のCoCrPt合金膜よりも磁化が大きいため、粒子間に働く交換相互作用を低減するのが比較的困難である。第3に、[Co/Pt]n多層膜は磁気記録層の下部に位置するので、膜中の結晶粒界の形成が不完全になり易い。
【0023】
磁気記録層の下部に配置される[Co/Pt]n多層膜部分において粒界形成を促進するためには中間層の設計が重要である。また、中間層は磁気記録層の結晶構造を制御する役目も担っているため、磁気記録層が必要とする結晶構造及び結晶配向との相性を見て決定すべきである。既に実用化されている垂直磁気記録媒体の中間層において採用されているRu層は、[Co/Pt]n多層膜とも相性が良いため、本発明の記録媒体にも適用することが出来る。hcp結晶構造を有するRu層のc軸を膜面垂直に配向させれば、その上に製膜した[Co/Pt]n多層膜のfcc(111)方位は膜面垂直となり、本発明の記録媒体として好ましい構造が得られる。また、よく知られているようにRuは融点が高いため、その多結晶薄膜を作製するとRu結晶粒子による微細な表面凹凸が生じる。この表面凹凸はグラニュラー構造における結晶核形成の基点となるので、グラニュラー構造の形成を促進する。
【0024】
しかし、前記第2の理由に示したように[Co/Pt]n多層膜における粒間交換相互作用を低減するのは困難である。そこで磁気記録層の下部にRu元素を主原料とした合金と酸化物とを混合した薄膜(以下、オンセット層)を挿入することによっても粒界構造を改善することが考えられる。Ru合金に酸化物を添加すると磁気記録層と同様なグラニュラー構造を取るので、このグラニュラー構造をきっかけとして磁気記録層における結晶粒界の形成が更に促進される。ここで酸化物としては例えばTiO2が有効である。
【0025】
また、高Hk磁性層である[Co/Pt]n多層膜の基板側にグラニュラー構造を有する別のCoCrPt合金膜を配置することも考えられる。このCoCrPt合金膜のHkは小さく、記録特性には強く関与しないが、[Co/Pt]n多層膜内での結晶粒界の形成を確実にするとともに、熱安定性指標KuV/kBTの増加にも寄与するものと考えられる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に基づいた垂直磁気記録媒体では、大きなHkを有する[Co/Pt]n多層膜と比較的小さなHkを有するCoCrPt合金膜を、良好な結晶配向性と磁性結晶粒子間の磁気的な分離を維持しながら接合し、ECC構造を有するグラニュラー磁気記録層を作製することが出来る。さらに、高Hk磁性層及び低Hk磁性層の厚みを本発明に示した適正範囲に設定することによってECC媒体として好ましい記録再生性能を実現することが可能となる。ここで、[Co/Pt]n多層膜からなる高Hk磁性層における磁性結晶粒子間の磁気的な分離度を高めることは特に重要であり、本発明に示した適切な添加物及び中間層を用いることによって、磁気記録層における粒界の不完全な構造を抑制することが可能となる。
【0027】
本発明のECC媒体は磁気記録層内のHkの差が大きく、従来から提案されているECC媒体と比べて非一斉磁化反転が起こりやすい構造である。したがって、従来と同等の大きさの書き込み磁界によって、より高い熱揺らぎ耐性を有する記録ビットを、磁化情報として形成することが可能となる。熱揺らぎ耐性に余裕があれば、磁性結晶粒子の面積もしくは厚さを減らすことによって、磁気記録層内の磁化反転をより小さい反転単位で正確に制御することが可能となり、高密度磁気記録に適した垂直磁気記録媒体を得ることが可能となる。
【0028】
他方、HDDにおいて記録面密度を増加させるためには、磁気ヘッドの記録磁極を微細化することも必要であるが、この場合は磁気ヘッドの最大発生磁界は減少する。本発明の垂直磁気記録媒体によれば、比較的小さな書き込み磁界でも良好な記録再生特性が維持されるため、HDDの更なる記録容量拡大のために有益である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1に係る磁気記録媒体の積層構造の断面図である。
【図2】実施例1において[Co/Pt]n多層膜を単独で形成したサンプルの、[Co/Pt]n多層膜及びその周辺部を示す図である。
【図3】実施例1において[Co/Pt]n多層膜を形成するために用いた多元カソードシステムを表す図である。
【図4】実施例1においてCo副層の厚さを0.4nmに固定して作製した[Co/Pt]n多層膜の異方性磁界HkとPt副層厚の関係を示す図である。
【図5】実施例1においてCo副層とPt副層の厚さの比を2:1に固定して作製した[Co/Pt]n多層膜の異方性磁界Hkと積層周期(Co副層とPt副層の厚さの和)の関係を示す図である。
【図6】実施例1において作製した[Co/Pt]n多層グラニュラー膜の微細構造を透過型電子顕微鏡によって観察した画像である。
【図7】実施例1において作製したECC構造を有する磁気記録層の断面図である。
【図8】実施例1の磁気記録媒体Aグループに記録再生を行った時のビットエラーレート(BER)値と同媒体における[Co/Pt]n多層膜の厚みの関係を示す図である。
【図9】実施例1の磁気記録媒体Bグループに記録再生を行った時のビットエラーレート(BER)値と同媒体における[Co/Pt]n多層膜の厚みの関係を示す図である。
【図10】実施例1の磁気記録媒体Cグループに記録再生を行った時のビットエラーレート(BER)値と同媒体におけるCoCrPt合金膜の厚みの関係を示す図である。
【図11】実施例2において作製したECC構造を有する磁気記録層の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施の形態を図示しつつ、本発明の具体的な様態及び効果を説明する。これらの実施例は本発明の一般的な原理を表すことを目的に述べられるものであり、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0031】
[実施例1]
図1は、本実施例で作製した磁気記録媒体の構造の概略断面図である。洗浄した磁気ディスク用強化ガラス基板1を真空室に入れ、DCスパッタリング法により磁気記録膜2を形成した。磁気記録膜2は磁気記録層106を含む多数の薄膜を順次積層したものであり、インライン型スパッタリング装置を用いてこれを作製した。初めに、磁気記録膜2全体のガラス基板1への密着性を確保するため、NiTa38ターゲット(下付きの数値は合金中の元素含有率の原子百分率。以下同様。)を用いて厚さ30nmのNiTaアモルファス合金層101を蒸着した。続けて、FeCo34Ta10Zr5ターゲットを用いて軟磁性アモルファス膜15nmを、Ruターゲットを用いて反強磁性結合膜0.6nmを、そして再びFeCo34Ta10Zr5ターゲットを用いて軟磁性アモルファス膜30nmを製膜して、合計三層からなる軟磁性裏打ち層102を形成した。さらに、NiW8ターゲットを用いて厚さ7nmのNiW合金層103を、純Ruターゲットを用いて厚さ16nmのRu層104を順番に製膜した。ここで、NiW合金層103は(111)結晶方位が膜面垂直方向に配向したfcc構造を、Ru層104は(00.1)結晶方位が膜面垂直方向に配向したhcp構造を其々有しており、これら二層によって中間層105を構成した。以上の各層を製膜する際は、純Arガスをプロセスガスとして使用した。Arガス圧は主として1Paに設定したが、Ru層104の上部(媒体表面側)半分を製膜する時だけArガス圧を上げて4.6Paとした。
【0032】
本実施例では、上記の中間層105の上に、様々な磁気記録層106を形成して実験を行った。磁気記録層の構造、厚さ、及び製膜方法については後述する。真空中プロセスの最後に厚さ3.5nmの保護膜107を形成した。保護層107は、窒素ガス比を10%とした全圧1.5Paのアルゴンと窒素の混合ガス中で炭素ターゲットを放電させて形成した。
【0033】
さらに、記録再生測定を行った磁気記録媒体のサンプルに対してのみ、磁気記録膜2を蒸着後に真空槽からガラス基板1を取りだし、ディップ法を用いてPFPE系の液体潤滑膜3を塗布した。記録再生評価の直前には、表面をバーニッシュして突起部や異物を除去し、グライドヘッドを用いて予めヘッド浮上特性に問題が無いことを確認した。
【0034】
本発明のECC構造では[Co/Pt]n多層膜の異方性磁界Hkが大きいほど好ましいので、まず、大きなHkを示す[Co/Pt]n多層膜の積層構造に関して検討した。図2に[Co/Pt]n多層膜の構造を簡略化して示す。図2(a)は連続的な構造の膜であり、粒界材料の添加がない場合に得られる。図2(b)はグラニュラー構造の膜であり、表面凹凸を有する中間層上に適切なプロセス条件で粒界材料と共に製膜した場合に得られる。一つ一つの磁性微粒子201はCo副層202とPt副層203を交互に積み重ねた柱状構造を有する。前述の磁気記録層106を図2(a)に示したような連続的な構造の膜としたサンプルを作製した。磁力計による評価を行うため、これらのサンプルは軟磁性裏打ち層102を除いた構造とした。
【0035】
ここで、[Co/Pt]n多層膜は純Coターゲットと純Ptターゲットを交互に用いてスパッタリング法により作製した。2種類の材料を交互にスパッタリングする手段として図3に示す多元カソードを用いた。同心円状に配置された3つの独立したカソードの内周側及び外周側に純Ptターゲットを、中周に純Coターゲットを取り付け、各カソードへの投入スパッタ電力をコントローラーによって適切に制御することで所望の周期構造を得た。1周期を形成するために必要な時間は約0.5秒であり、20周期を形成するために約10秒を要した。なお、同様な周期構造を高速に形成するための手段は、この他に特開2003−346335号公報等に示された様々な方法が考えられる。
【0036】
図4にCo副層の厚さを0.4nmに固定して作製した[Co/Pt]n多層膜の異方性磁界HkとPt副層厚の関係を示す。薄いPt副層を挿入することでHkは急激に増加し、Pt副層厚が0.15nmでは十分に大きなHkが得られた。Hkは約0.2nmで最大値である37kOeを示し、それ以上のPt副層厚では徐々に減少した。Pt金属結晶の1原子層の厚さは約0.22nmであるから、1原子層だけで十分強い磁気異方性を得ることが出来ている。
【0037】
次にCo副層とPt副層の厚さの比を2:1に固定し、積層周期(Co副層とPt副層の厚さの和)によるHkの変化を検討した。図5にその結果を示す。Hkの減少量が小さい領域は積層周期が0.4nm以上0.7nm以下の領域である。積層周期が0.5nm以上0.7nm以下において最大のHkを取り、積層周期をこの範囲に設定することが特に望ましい。また、0.4nmより小さくなるとHkが著しく減少した。これは、多層膜としての構造が失われて合金化したためと考えられる。
【0038】
続いて、図2(b)のようにグラニュラー構造を有する[Co/Pt]n多層膜に形成する方法について検討を行った。前述の好適な積層構造を考慮して、Co副層の厚さとPt副層の厚さをそれぞれ0.4nmと0.2nmに設定した。純Coターゲットに変えてCoにホウ素(B)10原子%と酸化Co(CoO2)を2モル%含有させた(CoB1098−(CoO22合金ターゲットを用い、このターゲットを純Ptターゲットと交互に放電させて[Co/Pt]n多層膜を作製した。この時、スパッタリングガスには微量の酸素を添加した。この条件では製膜中に[Co/Pt]n多層膜内部に酸化物が供給され、酸化物からなる結晶粒界を形成することが出来た。作製した[Co/Pt]n多層膜の微細構造を透過型電子顕微鏡により観察したところ、図6に示すような良好なグラニュラー構造が確認された。さらに、X線回折装置を用いてθ−2θスキャンを行ったところ、92°付近に強い回折ピークが観察された。これはhcp構造を有するRu層の(00.1)面及びfcc構造を有する[Co/Pt]n多層膜の(111)面にかかる回折線であり、Ru層の(00.1)結晶方位及び[Co/Pt]n多層膜の(111)結晶方位がそれぞれ膜面垂直方向に配向していることが分かった。
【0039】
なお、(CoB1098−(CoO22合金ターゲット中の酸化コバルトは化学的に安定でなく、スパッタリング中に酸素とコバルトに乖離する。乖離した酸素は主としてホウ素と結合してホウ素酸化物となり、これが結晶粒界に析出した酸化物の主成分であると考えられる。発明者らの検討においては、ホウ素以外にTi及びVによっても図6の構造を得ることが可能であった。これらも酸化Coから乖離した酸素と酸化物を生成しやすい材料である。
【0040】
磁力計を用いて、この[Co/Pt]n多層膜の磁気特性を評価したところ、この磁性膜の異方性磁界Hkは29.2kOe、保磁力Hcは15.4kOe、飽和磁化Msは650emu/cm3であった。このHkは、連続的な構造の[Co/Pt]n多層膜と比べると低下したものの、従来のCoCrPt合金膜で得られる値と比較して十分大きかった。
【0041】
また、発明者らの検討によれば、[Co/Pt]n多層膜の積層構造によってグラニュラー構造が出来にくい場合があった。Pt副層の厚さが0.3nmよりも大きい場合や、積層周期が0.8nmよりも大きい場合が、それに該当する。この場合には、磁性微粒子間に働く交換相互作用の低減を図るとHkが大きく減少し、大きな保磁力Hcを得ることが困難であった。
【0042】
次に、図1に示した磁気記録媒体の磁気記録層106にECC構造を適用し、その積層構造と記録再生特性の関係について詳細に検討した結果について述べる。以下、作製したECC構造の磁気記録媒体をA,B,Cの3グループに分け、順を追って説明する。
【0043】
媒体Aグループでは、[Co/Pt]n多層膜からなる高Hk磁性層701とCoCrPt系合金膜からなる低Hk磁性層702を積層し、図7に示す磁気記録層106を形成した。この磁気記録層106はグラニュラー構造を有しており、その粒界704の形成位置は高Hk磁性層701と低Hk磁性層702で連続している。その結果、磁性微粒子703は高Hk磁性層701と低Hk磁性層702が膜面垂直方向に接合された柱状の構造を有している。
【0044】
高Hk磁性層701である[Co/Pt]n多層膜の作製方法は前述の通りである。図2の[Co/Pt]n多層膜と比べてかなり薄いが、グラニュラー構造を有しており、異方性磁界Hkは約29kOeと大きい。本実施例においては、[Co/Pt]n多層膜における最初の層はCo副層とした。しかし、発明者らが別途行った検討によれば、最初の層をPt副層としても全く同じ効果が得られており、Co副層とPt副層の積層順は問わない。また、一つの[Co/Pt]n多層膜における最初の層及び最後の層の両方をCo副層(Pt副層)とし、Co副層(Pt副層)が一層多い構造としても良い。さらに、一つの[Co/Pt]n多層膜においてCo副層やPt副層の厚さは必ずしも均一である必要はない。ただし、各々のCo副層とPt副層の厚さは前述の積層周期及びPt副層厚の条件を満たす範囲に設定されることが望ましい。
【0045】
低Hk磁性層702は組成の異なる2つのCoCrPt合金膜により形成した。高Hk磁性層701に隣接した第1の低Hk磁性層705はSiO2を8モル%含有したCoCr21Pt18−SiO2(8mol%)混合ターゲットを用いて製膜した。ここで、プロセスガスにはArと酸素の混合ガスを用い、全圧を4Pa、酸素ガス比を4モル%とした。製膜レートを3nm/sとし、バイアス電圧−200Vをディスクに印加した。第2の低Hk磁性層706はCoCrPt合金にホウ素を添加したCoCr14Pt148ターゲットを用いて製膜した。プロセスガスには0.6PaのArガスを用い、製膜レート1.5nm/sで形成した。以上の作製プロセスにおいて、低Hk磁性層702の粒界は高Hk磁性層701に形成された粒界に沿って形成された。透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、粒界位置は磁性層間でよく一致していた。また、第1の低Hk磁性層705においてはSiO2の析出により明瞭な結晶粒界が形成されたのに対して、第2の低Hk磁性層706では比較的の粒界幅が小さくなっていた。ここで第2の低Hk磁性層706は磁気記録層106内の粒間交換相互作用を調整して記録再生特性を向上させることや、媒体表面の平滑性を高めてヘッド浮上特性を改善することを目的として設けるものであり、しばしばキャップ層などと呼ばれる。本発明において低Hk磁性層702を複数の磁性層で構成することは本質的ではなく、適切な粒間交換相互作用や表面平滑性を有する一つの磁性層で構成してもよい。
【0046】
CoCrPt合金膜を製膜後にX線回折装置を用いてθ−2θスキャンを行ったところ、94.5°付近に強い回折ピークが観察された。これはhcp構造を有するCoCrPt合金膜の(00.1)面にかかる回折ピークであり、CoCrPt合金膜の(00.1)結晶方位が膜面垂直方向に配向していることが分かった。また、作製した媒体を断面方向に切り出し、透過型電子顕微鏡を用いて断面像を観察した。粒界704が磁気記録層106を貫く方向に伸びており、粒界704が高Hk磁性層701と低Hk磁性層702で連続していることが確認された。さらに高分解能格子像を観察したところ、高Hk磁性層701にあたる位置にCo原子層とPt原子層が交互に配置された部分を観測することが出来た。
【0047】
第1の低Hk磁性層705と第2の低Hk磁性層706をそれぞれ単独で製膜し、別途、異方性磁界Hkを測定したところ、第1及び第2の低Hk磁性層のHkはそれぞれ19kOe、13kOeであり、高Hk磁性層701のHkである29kOeよりも十分に小さかった。磁気記録層106全体の磁化曲線を評価したところ、磁化反転の前後において両層の磁化方向が一致していることを確認できた。これは、高Hk磁性層701と低Hk磁性層702が隣接しており、磁性層間に十分強い交換相互作用が働くためである。また、保磁力Hcは高Hk磁性層701及び低Hk磁性層702の膜厚によって4.4kOeから6.2kOeまで変化した。
【0048】
図7に示した構造の記録媒体で、第1及び第2の低Hk磁性層の厚さをそれぞれ10nm、4nmに固定し、高Hk磁性層701である[Co/Pt]n多層膜の厚さを変えたものを作製した。[Co/Pt]n多層膜の厚さは積層周期数によって変化させた。ここで、Co副層とPt副層の厚さの比は2:1に固定し、一積層周期の厚さは0.5nm、0.6nm、あるいは0.7nmとした。同一の磁気ヘッドを用いて、これらの媒体の記録再生特性を比較評価した。磁気ヘッドの記録素子の主磁極幅は約80nmであり、主磁極の後端部にシールドを有するシールド型ヘッドであった。また、磁気ヘッドの再生素子は電極間隔が50nm、シールドギャップ長が35nmのトンネル磁気抵抗(TMR)素子であった。磁気ヘッドに対する線速度が10m/sとなるようにディスクの回転速度を制御した。この時の磁気ヘッドの浮上量は約8nmと推定される。
【0049】
図8に、上記条件で線記録密度55.1kbit/mm(1400kbpi)で記録及び再生を行った時のビットエラーレート(BER)値と、上記記録媒体における高Hk磁性層701の厚みの関係を示す。高Hk磁性層701の厚さが1.0nm乃至1.8nmの場合に記録媒体として好適な性能を示したことが分かる。高Hk磁性層701がこれよりも厚い場合には記録が困難になり、オーバーライト値が増加する様子が観測された。また、高Hk磁性層701が薄い場合には、記録は容易であったが記録後の消磁が起こるために、高い信号対雑音強度を得ることが出来なかった。
【0050】
高Hk磁性層701が厚くて記録が困難な場合には、低Hk磁性層702のHkを小さくして磁化反転を起き易くする対策が考えられる。そこで、媒体Bグループにおいては、第1の低Hk磁性層705のCoCrPt合金膜におけるPt組成比を14原子%としてHkを15kOeに下げた媒体を作製した。それ以外の部分についてはAグループとBグループで同じとした。図9に、Bグループの記録再生特性を図8と同条件で評価した結果を示す。Bグループでは高Hk磁性層701の厚さが1.5nm乃至2.5nmの場合に記録媒体として好適な性能を示したことが分かる。その理由はAグループの場合と同じであって、高Hk層が厚すぎる時は記録が困難であり、高Hk層が薄すぎる時は記録状態が不安定になるためと考えられる。
【0051】
AグループとBグループの比較結果から、低Hk磁性層702における異方性磁界Hkをさらに下げることによって、より厚い高Hk磁性層701を適用できるように思われた。しかし、この試みは上手くいかなかった。低Hk磁性層702のHkがBグループに適用した構造のHkを下回ると、記録再生性能は大きく劣化した。これは、記録時以外(磁気信号の再生時など)にも低Hk磁性層702の磁化の向きを安定に膜面垂直方向に維持することが困難となり、垂直磁気記録層として正常に機能しなくなったためと考えられる。
【0052】
媒体Cグループにおいては、高Hk磁性層701の厚さを1.8nm([Co/Pt]n多層膜を3周期)に固定して、低Hk磁性層702の厚さを変えたサンプルを作製した。低Hk磁性層702は第1及び第2の低Hk磁性層により構成し、Aグループと同様に異方性磁界Hkはそれぞれ約19kOe、13kOeとした。第1と第2の低Hk磁性層の膜厚比を5対2に固定したまま、低Hk磁性層702全体の膜厚を6nmから20nmまで変化させた。図10に、Bグループの記録再生特性を図8及び図9と同条件で評価した結果を示す。低Hk磁性層702の膜厚が10nm以上16nm以下の場合に良好な記録再生性能を示すことが分かった。
【0053】
低Hk磁性層702の膜厚が10nmよりも小さい場合には、オーバーライト値が増加する等の挙動を示しており、記録が困難になったことが問題である。低Hk磁性層702の磁化量が減少して高Hk磁性層701の磁化を反転させるのに不十分になったことや、磁気記録層全体が薄くなりすぎて非一斉磁化反転が起こり難くなったことが、記録が困難になった主原因と考えられる。加えて、低Hk磁性層702が薄い場合には保磁力が減少する傾向を示した。これは磁性微粒子の体積が減少したことによって熱安定性指標KuV/kBTが減少した、すなわち記録状態の安定性が損なわれた事を意味している。反対に低Hk磁性層702の膜厚が16nmよりも大きい場合は、信号対雑音比と記録分解能が劣化したために、ビットエラーレートが増加する傾向を示した。また、僅かに記録が困難になる傾向を示した。これは磁気記録層全体が厚くなったため、磁気ヘッドと高Hk磁性層701までの距離が広がりすぎたことが原因と推測される。
【0054】
本実施例の媒体Cグループの中で低Hk磁性層702の厚さが12nmである本発明の媒体#1と、低Hk磁性層702の構造はそのままで高Hk磁性層701の[Co/Pt]n多層膜をCoCrPt合金膜で置き換えた従来の媒体を比較した。[Co/Pt]n多層膜を置き換えたCoCrPt合金膜の異方性磁界Hkを約22kOe、厚さを4.4nmに設定することによって、従来の媒体の保磁力Hcは4.8kOeとなり、本発明の媒体とほぼ一致した。本発明の媒体と従来の媒体の記録再生特性を評価した結果を表1に示す。表1において、オーバーライト値は、23.6kbit/mm(600kfci)の信号の上に2.76kbit/mm(70kfci)の信号を重ね書きした時の、前者の消え残り成分の信号強度と後者の信号強度の比である。またS10T/N1Tは、6.30kbit/mm(160kfci)で記録を行ったときの信号強度S10Tと63.0kbit/mm(1600kfci)で記録を行った時の積算媒体ノイズ強度N1Tの比である。(1)保磁力が高いにもかかわらず書きやすく(オーバーライト値がより小さく)なっている点、及び、(2)同等のエラーレートが得られている一方で記録される記録トラック幅が大幅に抑制された点、において本発明の媒体の有効性が確認された。これは、本発明の媒体では異方性磁界Hkの大きな[Co/Pt]n多層膜を適用したことによるものと考えられる。
【0055】
【表1】

【0056】
[実施例2]
本実施例では、オンセット層もしくは記録層初期層の導入によって磁気記録層における磁性微粒子の磁気的な分離を改善した結果について示す。作製した媒体は、実施例1に示した本発明の媒体#1と同一の基本構造を有する。その全体構造は図1に示す通りであるが、図11の部分断面図に示すように、中間層105と磁気記録層106が接する部位にオンセット層1101もしくは記録層初期層1102が配されている。
【0057】
本発明の媒体#2の積層構造を、図11(a)に示す。中間層105における最後の層としてRuとTi酸化物からなる非磁性層のオンセット層1101が配置されている。Ru層104の製膜後、RuTi10合金ターゲットを用いて厚さ1nmのRuTi合金層を製膜し、さらに真空チャンバー内に微量の酸素を導入してRuTi合金中のTiを酸化させることでオンセット層1101を得た。その後、本発明の媒体#1と同じ構造で磁気記録層106を形成した。作製したオンセット層1101は、Ru微結晶がTi酸化物に取り囲まれたグラニュラー構造を有しており、その上に形成される磁気記録層106において磁気的な分離が改善されることが期待される。
【0058】
本発明の媒体#3の積層構造を、図11(b)に示す。磁気記録層106における高Hk磁性層701の形成前に、記録層初期層1102として、CoCr21Pt18−SiO2(8mol%)混合ターゲットを用い、第1の低Hk磁性層705と同じ製膜条件によって、厚さ2nmのCoCrPt合金膜を形成した。このCoCrPt合金膜は、グラニュラー構造を有する合金膜である。つまり、この媒体における磁気記録層106は、記録層初期層1102、高Hk磁性層701、第1の低Hk磁性層705、第2の低Hk磁性層706の計4層からなっている。この構造により、記録再生性能の向上のために特に重要な高Hk磁性層701における磁気的な分離が促進されると考えられる。
【0059】
以上の媒体#2及び#3の記録再生特性を実施例1と同じ方法で評価した。表2は、その結果を実施例1の媒体#1の結果と比較したものである。本発明の媒体#2及び#3では、本発明の媒体#1と比べて、信号対雑音比で2dB弱、ビットエラーレートでは約0.5桁の改善が見られた。記録されたトラック幅の差は小さいので、本検討の結果によれば、本発明の媒体#2及び#3によって面記録密度の更なる向上が可能である。
【0060】
【表2】

【符号の説明】
【0061】
1 基板
2 磁気記録膜
3 潤滑膜
101 Ni−Ta合金層
102 軟磁性裏打ち層
103 Ni−W合金層
104 Ru層
105 中間層
106 磁気記録層
107 保護層
201 磁性微粒子
202 Co副層
203 Pt副層
204 粒界
301 外周カソード
302 中周カソード
303 内周カソード
304 カソード電源
305 ディスク基板
306 真空チャンバー
701 高Hk磁性層
702 低Hk磁性層
703 ECC構造を有する磁性微粒子
704 粒界
705 第1の低Hk磁性層
706 第2の低Hk磁性層
1101 オンセット層
1102 記録層初期層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも磁気記録層が形成されてなる磁気記録媒体であって、
前記磁気記録層は[Co/Pt]n多層膜によって構成される第一の磁性層とCoCrPt合金膜によって構成される第二の磁性層とを含み、
前記第一の磁性層は面心立方構造の結晶構造を有し、その(111)方向が膜面に対して垂直であり、
第二の磁性層は六方最密構造の結晶構造を有し、その(00.1)方向が膜面に対して垂直であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体において、前記第一の磁性層は前記第二の磁性層に対して基板側に配置されており、前記第一の磁性層と前記第二の磁性層の間に交換相互作用が働いていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁気記録媒体において、前記第一の磁性層の厚さが1.0nm乃至2.5nmであることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体において、前記第二の磁性層の厚さが10nm乃至16nmであることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体において、前記第一の磁性層及び前記第二の磁性層は、磁性微粒子が非金属材料からなる粒界によって分離した構造を有し、前記粒界の形成位置が前記第一の磁性層と前記第二の磁性層間で連続していることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項5に記載の磁気記録媒体において、前記粒界を形成する材料が金属酸化物であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気記録媒体において、前記第一の磁性層における粒界を形成する材料がホウ素、チタンもしくはバナジウムの酸化物であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項5に記載の磁気記録媒体において、前記第一の磁性層である[Co/Pt]n多層膜は、その積層周期が0.4nm以上0.7nm以下であり、かつPt副層の厚さが0.15nm以上0.3nm以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項9】
請求項5に記載の磁気記録媒体において、前記第二の磁性層における粒界の幅は、その媒体表面側において基板側よりも小さいことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項10】
請求項5に記載の磁気記録媒体において、前記磁気記録層の基板側にRu元素を主原料とするhcp結晶構造を有する層が配置されており、当該層のc軸が膜面に対して垂直に配向していることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項11】
請求項5に記載の磁気記録媒体において、前記磁気記録層の直下にRu元素を主原料とした合金と金属酸化物とを混合した薄膜が挿入されてなることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項12】
請求項5に記載の磁気記録媒体において、前記第一の磁性層の基板側にグラニュラー構造を有するCoCrPt合金膜を配置したことを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−113604(P2011−113604A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268910(P2009−268910)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】