説明

磁気記録装置のサーボライト方法およびサーボライトシステム

【課題】磁気記録装置を製造する際のセルフサーボライト工程の歩留り、および、製品試験工程の歩留りを向上させる。
【解決手段】データベースと接続するための外部インタフェース105、システム全体を制御するMPU106、一時的にデータを保持するためのメモリ107、リード信号とライト信号を送受信するリードライトチャネル108、スピンドルモーター211やVCM204を制御するモータドライバ制御ユニット109からなるセルフサーボライト装置100と歩留りデータベース101、シリアルナンバーリーダー104からなるサーボライトシステムを用いて、磁気記録装置毎に、組み込まれた各磁気ヘッドを位置制御用ヘッドにした場合の歩留りを予測し、予測された歩留りが最大となる磁気ヘッドで位置を制御し、セルフサーボライトを実施する。これによって、磁気記録装置の生産性を向上出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録装置に係り、特に、磁気記録装置の外部のアクチュエータやクロックヘッド等を用いずにディスク上にサーボ信号を記録することが可能な磁気記録装置の製造システムおよび製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録装置は,記憶媒体であるディスクに対して,磁気ヘッドで情報の記録と再生を行う。一台の磁気記録装置には,その記憶容量に応じて,一枚ないしは複数枚のディスクを組み込み、ディスクの一記録面に対して一個の磁気ヘッドが対応するよう、一個ないしは複数個の磁気ヘッドを組み込む。
【0003】
一般に、磁気記録装置は、ディスク上における磁気ヘッドの位置を検出するため、1周あたり数十個かそれ以上の数のサーボ信号をその記録面に配置している。該サーボ信号の記録は、通常、サーボライトと呼ばれる製造工程で行なわれる。該サーボライト工程においては、一般に、サーボライト専用の磁気記録装置の外部のアクチュエータやクロックヘッドを用いて行なわれている。
一方で、サーボライト専用の磁気記録装置の外部のアクチュエータやクロックヘッドを用いることなく、磁気記録装置が備える自己の磁気ヘッドを用いて、サーボ信号を記録するセルフサーボライト方式が、例えば、特許文献1や特許文献2により、既に知られている。
【0004】
セルフサーボライト方式は一般的に、まず磁気記録装置が備える複数の磁気ヘッドの中から位置制御用の磁気ヘッドを一個選び、その位置制御用ヘッドが記録したサーボ信号を利用して位置を制御しながら、複数の磁気ヘッドで同時に複数のディスクに対してサーボ信号を記録する。
【0005】
【特許文献1】特許第2921604号公報
【特許文献2】特開2006-260682公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
位置制御に用いる位置制御用ヘッドが記録したサーボ信号が不明確であったり、再生時にノイズが発生し、サーボ信号を記録する際に位置を制御できなくなることがある。このため、規格で定めた数のサーボ信号を記録できない場合や、サーボ信号の位置が不適切で磁気記録装置の完成後にデータの記録や再生をできない場合がある。このため、セルフサーボライト工程に投入された磁気記録装置の総数に対する、各磁気記録装置の最初のサーボ信号記録処理において規格を満たすサーボ信号を記録できた磁気記録装置数の割合であるセルフサーボライト歩留りや、その後に行われる製品試験の合格品と不合格品の和に対する合格品の割合である製品試験歩留りは、位置制御用ヘッドの記録や再生に関係する様々な磁気特性に依存することを発明者らは発見した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための主な手段は、部品特性と歩留りの関係を用いて、磁気記録装置毎に、組み込まれた各磁気ヘッドを位置制御用ヘッドにした場合の歩留りを予測し、予測された歩留りが最も高くなる磁気ヘッドを位置制御用ヘッドとして選択する磁気記録装置のサーボライト方法およびサーボライトシステである。
【発明の効果】
【0008】
本発明を磁気記録装置の生産に用いることで、サーボライト工程の歩留りや製品試験工程の歩留りを向上できる。その結果、サーボライト工程の生産性を向上できるとともに、製造コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に実施例を用いての本発明の内容を詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
以下、実施形態の一例として、4個の磁気ヘッドを組み込んだ磁気記録装置の例を用いて説明する。ただし、本発明は4個の磁気ヘッドを組み込んだ磁気記録装置に限ったものではなく、複数の磁気ヘッドを組み込んだ磁気記録装置であれば、磁気ヘッドの個数に関係なく、同様の方法を適用できる。また、部品のデータとして、磁気ヘッドとディスクのデータを用いるが、データを用いる部品の数が1つ以上あれば同様の方法を適用できる。
【0011】
図2には、本発明の実施の形態になる磁気記録装置の一例と、その下部には、当該装置のディスク上に記録されたサーボ信号の一例を示す。なお、この図2では、その構成要素が見やすいように、カバーを取り除いた状態が示している。磁気記録装置は、情報を表裏の両面に記録面を持つ記録媒体である2枚のディスク202a、202bと、上記記録媒体に対して信号(情報)を記録及び再生する4個の磁気ヘッド203a、203b、203c、203dとを備えている。
【0012】
この各磁気ヘッド203a、203b、203c、203dは、ピボット205を中心とした回転運動が可能なアーム208a、208b、208c、208dにそれぞれ支持されており、アクチュエータであるボイスコイルモータ(以降、「VCM」と記す)204の働きによって対応するディスク202a、202b上の任意の半径位置に移動される。また、この各磁気ヘッド203a、203b、203c、203dは、IC206により駆動されて、もって、その記録動作と再生動作を実施する。
【0013】
なお、この各磁気ヘッド203a、203b、203c、203dは、記録動作や再生動作を行わない時には、ディスク202の外側に位置するランプ機構207に待避し、すなわち、上記ディスク202a、202bから離れた状態でその上に保持される。これらは、筺体201に組み込まれ、筺体には該磁気記録装置のシリアルナンバー212が例えばシールで貼り付けられる。
【0014】
また、図2の下部には、上記の磁気記録装置において、当該装置が備える各磁気ヘッド203a、203b、203c、203dを用いてディスク202a、202bの両記録面上に書き込まれたサーボ信号210が示されている。サーボ信号は、ディスク上における磁気ヘッドの位置検出に用いられる。
【0015】
図3は、図2に示したディスク202a、202b上のサーボ信号210の一例である。この図3に示したサーボ信号のパターンでは、先頭に自動ゲイン調整のためのプリアンブル303と、それに続いて、磁気ヘッドの円周方向位置検出用のセクタマーカ304があり、更に、その後ろには、磁気ヘッドの半径方向位置検出用のトラックIDコード305とバーストパターン306が設けられる。なお、このバーストパターンは、この例では、円周方向に3つの区間に分けられており、かつ、それぞれの区間のバーストはディスク半径方向にサーボトラック307と同じ幅を持ちながら互いにディスク半径方向にオフセットして配置されている。
【0016】
図4は,磁気記録装置の製造手順を表すフローチャートの一例である。部品試験工程400を経た部品から、組立工程401で磁気記録装置を組み立てる。組み立てる際には、各磁気記録装置に組み込んだ部品のシリアルナンバーと磁気記録装置のシリアルナンバー212を後述する製造実績データベース103に保存する。次に、セルフサーボライト工程402でサーボ信号を記録する。
【0017】
セルフサーボライト工程402では、磁気記録装置のシリアルナンバー212とセルフサーボライトの結果を保存しておく。最後に、製品試験工程403で合否を判定し、合格品を製品として出荷する。製品試験の際には、磁気記録装置のシリアルナンバー212と製品試験結果を保存しておく。部品試験工程400では、各部品の特性を計測している。磁気ヘッド203の試験では、例えば、再生幅や記録幅、重ね書き強度、隣接トラック影響量、信号振幅を測定している。
【0018】
図5は,部品試験工程400における、磁気ヘッド203の再生幅の測定方法の一例である。横軸はディスクの半径方向の信号幅,縦軸は信号強度(電圧)である。再生幅は、再生素子が読み込む信号の幅である。再生幅の測定では,まず,ディスク上に1ビットの磁気的な信号を書き込み、次に,再生素子で書き込んだ信号500を読み込み,読み込んだ信号の幅が再生幅である。
【0019】
これを幾何学的に説明すると次のようになる。書き込んだ信号500の100%分位線501と、70%分位線502、30%分位線503を引く。次に、書き込んだ信号500と70%分位線502の交点、および、書き込んだ信号500と30%分位線503の交点を通る線504と505を引く。線504,505と100%分位線501の交点から交点までの幅をW1,線504,505と横軸の交点から交点までの幅をW2と定義する。このとき,再生幅は,W2とW1の差を2で割った商である。
【0020】
図6は,部品試験工程400における、磁気ヘッド203の記録幅の測定方法の一例である。横軸はディスクの半径方向の信号幅,縦軸は信号強度(電圧)である。記録幅は、記録素子を用いて,ディスク上に1ビットの磁気的な信号を書き込んだときの信号の幅である。記録幅の測定では,まず,ディスク上に1ビットの磁気的な信号を書き込み、次に,再生素子で書き込んだ信号600を読み込み,読み込んだ信号の幅が記録幅である。
【0021】
これを幾何学的に説明すると次のようになる。書き込んだ信号600の50%分位線601と、70%分位線602、30%分位線603を引く。次に、書き込んだ信号600と70%分位線602の交点、および、書き込んだ信号600と30%分位線603の交点を通る線604と605を引く。記録幅は、接線604,605と50%分位線601の交点から交点までの幅である。
【0022】
図7は,部品試験工程400における、磁気ヘッド203の重ね書き強度の測定方法の一例である。両グラフの横軸はディスクの半径方向の位置,縦軸は信号強度(電圧)である。重ね書き強度は、低周波数の交流電流を記録素子に流し、ディスク上に1ビットの磁気的な信号を書き込んだ後に,高周波数の交流電流を記録素子に流し、ディスク上に1ビットの磁気的な信号を書き込んだ時の、低周波数で書かれた信号の強度と、高周波数で書かれた信号の強度の比である。
【0023】
図7の上の信号700は低周波数で書かれた信号を示し、下の信号701は高周波数で書かれた信号を示す。重ね書き強度は、信号701の書き込み中心位置の信号強度H2を、信号700の書き込み中心位置の最大信号強度H1で割った商である。
【0024】
図8は,部品試験工程400における、磁気ヘッド203の隣接トラック影響量の測定方法の一例である。両グラフの横軸はディスクの半径方向の位置,縦軸は信号強度(電圧)である。隣接トラック影響量は、図3記載の1つのサーボトラック307に1ビットの磁気的な信号を書き込んだ時の信号強度と、1つのサーボトラックに1ビットの磁気的な信号を書き込んだ後に両隣のサーボトラックを消去した時の信号強度の比である。
【0025】
図8の上の信号800は中央のサーボトラック2に1ビットの磁気的な信号を書き込んだ時の信号を示し、下の信号801は中央のトラック2に1ビットの磁気的な信号を書き込んだ後に、両隣のサーボトラック1とサーボトラック3で消去を実施した時の信号を示す。隣接トラック影響量は、信号801の最大信号強度H2を、信号800の最大信号強度H1で割った商である。
【0026】
図9は,部品試験工程400における、磁気ヘッド203の信号振幅の測定方法の一例である。両グラフの横軸はディスクの半径方向の信号幅,縦軸は信号強度(電圧)である。信号振幅は、符号が反対の2つの磁気的な信号の信号強度の絶対値の和である。図9の上の信号900は正の信号を示し、下の信号901は負の信号を示す。信号振幅は、信号900の最大信号強度H1の絶対値と、信号901の最大信号強度H2の絶対値の和である。
【0027】
図17はディスク202の膜組成の一例を示す。ディスク202はアルミやガラスなどの基板1700と、ニッケルやコバルトの合金などからなる磁性膜1701、炭素などからなる保護膜1702で構成される。ディスク202は、例えば、ディスク202の磁性膜1701と保護膜1702の膜厚を、部品試験工程において、蛍光エックス線分析で測定している。
【0028】
図18は磁性膜1701のヒステリシス曲線の一例を示す。横軸は外部磁界、縦軸は磁性膜の磁束密度を示す。外部磁界が0になったとき、残っている磁束密度を残留磁化1800という。さらに逆向きの外部磁界を加えて、磁束密度が0になったときの外部磁界の強さが保磁力1801である。ディスク202は、例えば、部品試験工程において、磁界測定装置で保磁力1801を測定している。
【0029】
図1は、本発明のセルフサーボライトシステム構成に処理対象となる磁気記録装置をセットした一例である。該セルフサーボライトシステムは、セルフサーボライト装置100と歩留りデータベース101、部品特性データベース102、製造履歴データベース103、シリアルナンバーリーダー104からなる。
【0030】
セルフサーボライト装置は、データベースと接続するための外部インタフェース105、システム全体を制御するMPU106、一時的にデータを保持するためのメモリ107、リード信号とライト信号を送受信するリードライトチャネル108、スピンドルモーター211やVCM204を制御するモータドライバ制御ユニット109からなる。シリアルナンバーリーダー104は、セルフサーボライト装置にセットされた磁気記録装置のシリアルナンバー212を読む。
【0031】
図10は、製造履歴データベース103に格納される、各磁気記録装置に組み込まれている部品のシリアルナンバーを示すデータの一例である。データ1000は、各磁気記録装置に組み込まれている磁気ヘッド203のシリアルナンバーを示す。データ1001は、各磁気記録装置に組み込まれているディスク202のシリアルナンバーを示す。
【0032】
例えば、製品番号がHDXZであるシリアルナンバー212がHDXZ001の磁気記録装置には、1番上の磁気ヘッド203aとしてTMRA01が使われ、上から2番目の磁気ヘッド203bにTMRB02が使われ、上から3番目の磁気ヘッド203cにTMRA03が使われ、上から4番目の磁気ヘッド203dにTMRB04が使われていることを示し、各磁気ヘッド203に対応するディスク202として、DKG123U、DKG123D、DKG456U、DKG456Dが使われていることを示す。1枚のディスク202は、表裏両面に記録面を持ち、両面が試験され、別々の特性を持つ。それぞれの特性を管理するため、便宜上、例えば、一枚のディスクの表裏に別のシリアルナンバーを付与して管理している。
【0033】
図11は、部品特性データベース102に格納される、磁気ヘッド203の特性データ1100とディスク202の特性データ1101の一例である。部品の特性は、例えば測定値と部品番号を含む。例えば、シリアルナンバーがTMRB02の磁気ヘッド203は、再生幅が0.54nm、記録幅が0.547nm、重ね書き強度が0.83、隣接トラック影響量が0.65、信号振幅が2.3mV、部品番号がTMR-Aであることを示す。また、例えば、シリアルナンバーがDKG123Dのディスク202は、磁性膜厚が0.35nm、保護膜厚が0.13nm、保磁力が1.45A/m、部品番号がDK-G-Dであることを示す。
【0034】
図12は、歩留りデータベース101に格納される、部品の特性とセルフサーボライト歩留りの関係を、製品毎に示すデータの一例である。例えば、HDXZという製品で磁気ヘッドの再生幅が0.5nm以上0.6nm未満という条件を満たす場合のセルフサーボライト歩留りが0.83であることを示す。また、例えば、HDXZという製品でディスク202の部品番号がDK-G-Uという条件を満たす場合のセルフサーボライト歩留りが0.81であることを示す。
【0035】
該歩留りは、位置制御用ヘッドと、それに対応するディスク202の特性が条件を満たす場合の、例えば直近1カ月の過去実績を用いて、各磁気記録装置の最初のサーボ信号記録処理において規格を満たすサーボ信号を記録できた磁気記録装置数を、セルフサーボライト工程に投入された磁気記録装置数で割ることで求める。
【0036】
例えば、HDXZという製品の位置制御用ヘッドの再生幅に対するセルフサーボライト歩留りは、図15に示すように、位置制御用ヘッドの再生幅が0以上0.1nm未満の場合の過去実績を用いて、各磁気記録装置の最初のサーボ信号記録処理において規格を満たすサーボ信号を記録できた磁気記録装置数を、セルフサーボライト工程に投入された磁気記録装置数で割ることで、位置制御用ヘッドの再生幅が0以上0.1nm未満の場合の歩留り求め、0.1nm以上0.2nm未満の場合、0.2nm以上0.3nm未満の場合と繰り返し、それを表形式のデータにすることで得られる。
【0037】
同様に、HDXZという製品に使用されているディスクの部品番号に対するセルフサーボライト歩留りを図16に示すように、位置制御用ヘッドに対応するディスク202の部品番号がDK−G−Uの場合の過去実績を用いて、各磁気記録装置の最初のサーボ信号記録処理において規格を満たすサーボ信号を記録できた磁気記録装置数を、セルフサーボライト工程に投入された磁気記録装置数で割ることで、ディスク202の部品番号がDK−G−Uの場合の歩留り求め、部品番号がDK−G−Dの場合も同様に求め、それを表形式のデータにすることで得られる。
【0038】
図13は、本発明を用いたセルフサーボライト工程402での処理フローの一例である。磁気記録装置のシリアルナンバー読み込み処理1300では、シリアルナンバーリーダー104から例えば、バーコードを用いてセルフサーボライト装置にセットされた磁気記録装置のシリアルナンバー212を読み込む。部品のシリアルナンバー取得処理1301では、磁気記録装置に組み込まれている部品のシリアルナンバーを取得する。
【0039】
例えば、シリアルナンバー212がHDXZ001である磁気記録装置に組み込まれている磁気ヘッド203のシリアルナンバーは、図10に示す製造履歴データベース103から、TMRA01、TMRB02、TMRA03、TMRB04とわかる。同様に、ディスク202のシリアルナンバーは、DKG123U、DKG123D、DKG456U、DKG456Dとわかる。部品の特性データ取得処理1302では、前述の部品のシリアルナンバー取得処理で取得した部品の特性を取得する。
【0040】
例えば、磁気ヘッドTMRA01の特性は、図11に示す部品特性データベース102から、再生幅が0.66nm、記録幅が0.657nm、重ね書き強度が0.85、隣接トラック影響量が0.74、信号振幅が2.1mV、部品番号がTMR-Aだとわかる。歩留りデータ取得処理1303では、前処理で取得した部品の特性に対応する歩留りを図12に示す歩留りデータベース101から取得する。
【0041】
例えば、磁気ヘッドの再生幅が0.66nmのとき、対応する歩留りは0.81とわかる。全磁気ヘッドの歩留り予測処理1304では、各磁気ヘッドを位置制御用ヘッドにした場合の歩留りを予測する。各磁気ヘッドの歩留りを予測する方法は、例えば、磁気ヘッドと、それに組み合わさるディスクの特性に対応する歩留りから「数1」のように相乗平均を計算してもよい。
【0042】
【数1】

「数1」において、yiは磁気ヘッドおよびディスクの特性に対応する歩留り、nは使用する特性の数である。
【0043】
例えば、シリアルナンバーがHDXZ001である磁気記録装置に組み込まれている各磁気ヘッドを位置制御用ヘッドにした場合の、相乗平均による予測歩留りは、再生幅に対応する歩留りと、記録幅に対応する歩留り、重ね書き強度に対応する歩留り、隣接トラック影響量に対応する歩留り、信号振幅に対応する歩留り、磁気ヘッドの部品番号に対応する歩留り、磁性膜厚に対応する歩留り、保護膜厚に対応する歩留り、保磁力に対応する歩留り、ディスクの部品番号に対応する歩留りをかけ合わせ、その積の十乗根を計算することで得られる。ここで、十乗根としたのは、上記の予測歩留りに影響を与える要素が10個あるからである。
【0044】
なお、上記の予測歩留りに影響を与える要素のうち、磁気ヘッドの部品番号に対する歩留りとは、磁気ヘッドの構造、あるいは磁気ヘッドの製造工程の影響が含まれている。また、ディスクの部品番号に対する歩留りとは、ディスクの構造あるいはディスクの製造工程の影響が含まれている。
【0045】
また、測定したすべての部品特性を使用することで予測精度が落ちる場合は、例えば、使用する部品特性間で相関が強くならないように、使用する部品特性を選択し、それ以外の部品特性を使用しない。位置制御用ヘッド選択処理1305では、磁気記録装置に組み込まれた磁気ヘッドの中から、前処理で予測した歩留りが最も高くなる磁気ヘッドを、位置制御用ヘッドとして選択する。そして、サーボ信号記録処理1306では、前処理で選択した位置制御用ヘッドで位置を制御しながら、サーボ信号を記録する。そして、記録したサーボ信号が規格を満たしていれば終了する。
【0046】
もし、記録したサーボ信号が規格を満たしていなければ、サーボ信号消去処理1307を実施し、磁気記録装置のシリアルナンバー読み込み処理からやり直す。記録したサーボ信号が規格を満たしていない場合に、その時に位置制御用ヘッドとして使用したヘッドを不良ヘッドとし、図19に示すような不良ヘッドデータを製造実績データベース103に格納し、やり直し時に不良ヘッド以外を優先的に位置制御用ヘッドとして選択してもよい。
【0047】
全磁気ヘッドの歩留り予測処理1304で、各磁気ヘッドの歩留りを予測する方法は、前述のように相乗平均でもよいし、「数2」のように相加平均を用いてもよい。
【0048】
【数2】

「数2」において、yiは磁気ヘッドおよびディスクの特性に対応する歩留り、nは使用する特性の数である。
【0049】
また、本発明では、位置制御用ヘッドを選ぶために予測歩留りの大小を比較できればよいので、相乗平均の代わりに、累乗根を計算せず単純に積だけを計算しても良い。同様に、相加平均を計算する代わりに、総和を計算してもよい。ただし、相乗平均か積を用いた場合、部品の特性の外れ値に対する歩留りを0にすることで、特性に外れ値を持つような信頼性の低い磁気ヘッドの予測歩留りを0にできる。
【0050】
これにより、該磁気ヘッドは位置制御用ヘッドに選択されず、歩留り低下を防げる。各磁気ヘッドの歩留りを予測する方法として、相加平均か総和を用いた場合、部品の特性の外れ値に対する歩留りを0にしても、その他の部品の特性に対する歩留りにより、予測歩留りが0になることはない。これにより、特性に外れ値を持つような信頼性の低い磁気ヘッドが、位置制御用ヘッドに選択され、歩留りが低下する可能性があることに注意が必要である。
【実施例2】
【0051】
実施例1で説明したセルフサーボライトの歩留りは、例えば、位置制御用ヘッドとして使用したヘッドによるサーボ信号の書き込みが所定のトラック数書きこむことが成功するか否かによって判断をする。しかし、製品としては、磁気記録装置に単に所定のトラック数が書き込まれたか否かのみでなく、書き込まれたサーボトラックの間隔、すなわち、サーボトラックがお互いに重なりすぎていないか、あるいは、離れすぎていないか、又は、サーボトラックがディスクの回転中心と偏心していないか等の品質が問題となる。
【0052】
これらの品質は、例えば磁気記録装置に実際にデータを書き込んだり、読み込んだりして評価する。本実施例では、図1等に示す歩留りデータベースのデータとして、磁気記録装置に所定のトラック数が書き込まれた後にデータを書き込んだり、読み込んだりした際のエラー率が規格を満たすものか否かの記録を蓄積しておく。そして、磁気ヘッドと磁気ディスクの組み合わせの評価として、実際にデータを書き込んだり、読み込んだりした際のエラー率が規格を満たすか否かを基準として判断するものである。
【0053】
図14は、部品の特性と製品試験工程403の歩留りの関係を、製品毎に示すデータの一例である。実施例1記載の図12との相違点は、セルフサーボライト歩留りではなく、製品試験歩留りが示されている点である。ここで、製品試験歩留りは、上記で説明したように、実際にデータを書き込んだり、読み込んだりした際のエラー率を満たすか否かによって判断される。
【0054】
例えば、HDXZという製品でヘッドの再生幅が0.5nm以上0.6nm未満という条件を満たす場合の製品試験歩留りが0.83であることを示す。また、例えば、HDXZという製品でディスクの部品番号がDK-G-Uという条件を満たす場合の製品試験歩留りが0.72であることを示す。製品試験歩留りは、位置制御用ヘッドと、それに対応するディスクの特性が条件を満たす場合の、例えば過去1カ月の過去実績を用いて、製品試験の合格品の数を、合格品と不合格品の和で割ることで求める。上記以外は、実施例1と同様に実施する。
【実施例3】
【0055】
実施例1および実施例2は、図1に示す部品特性データベースに格納されるデータ、すなわち、磁気ヘッドあるいは磁気ディスク等のデータは、図4における部品試験工程において取得される。本実施例では、図1における部品特性データベースに格納される磁気ヘッドあるいは磁気ディスク等のデータ、あるいは、図1における製造履歴データベースに格納されるデータは、セルフサーボライト工程において取得される。
【0056】
図21は、本実施例のセルフサーボライト工程402での処理フローの一例である。実施例1記載の図13との相違点は、部品のシリアルナンバー取得処理1301、部品の特性データ取得処理1302がなく、部品の特性データ計測処理2100がある点である。部品の特性データ計測処理2100では、図5に示す磁気ヘッドの再生幅と、図6に示す磁気ヘッドの記録幅と、図7に示す磁気ヘッドの重ね書き強度、図8に示す磁気ヘッドの隣接トラック影響量、図9に示す磁気ヘッドの信号振幅を、セルフサーボライト装置を用いて測定する。これ以降の処理は実施例1と同様である。
【0057】
図20は、本実施例のセルフサーボライトシステム構成に処理対象となる磁気記録装置をセットした一例である。図1との相違点は、部品特性データベース102、製造履歴データベース103を備えていない点である。上記以外は実施例1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のセルフサーボライトシステムの構成例である。
【図2】本発明の実施の形態になる磁気記録装置の一例と、当該装置のディスク上に記録されたサーボ信号の一例である
【図3】サーボ信号の一例である。
【図4】磁気記録装置の製造工程の一例である。
【図5】磁気ヘッドの特性の再生幅の測定方法の一例である。
【図6】磁気ヘッドの特性の記録幅の測定方法の一例である。
【図7】磁気ヘッドの特性の重ね書き強度の測定方法の一例である。
【図8】磁気ヘッドの特性の隣接トラック影響量の測定方法の一例である。
【図9】磁気ヘッドの特性の信号振幅の測定方法の一例である。
【図10】製造履歴データベースの一例である。
【図11】部品特性データベースの一例である。
【図12】歩留りデータベースの一例である。
【図13】セルフサーボライト工程での処理フローの一例である。
【図14】歩留りデータベースの一例である。
【図15】位置制御用ヘッドの再生幅に対する歩留りの一例である。
【図16】ディスク部品番号に対する歩留りの一例である。
【図17】ディスクの膜組成の一例である。
【図18】ディスクの磁性膜のヒステリシス曲線の一例である。
【図19】不良ヘッドデータの一例である。
【図20】本発明のセルフサーボライトシステムの構成例である。
【図21】セルフサーボライト工程での処理フローの一例である。
【符号の説明】
【0059】
100…セルフサーボライト装置、101…歩留りデータベース、102…部品特性データベース、103…製造履歴データベース、104…シリアルナンバーリーダー、105…外部インタフェース、106…MPU、107…メモリ、108…リードライトチャネル、109…モータドライバ制御ユニット、114…磁気記録装置、201…筺体、202a〜202b…ディスク、203a〜203d…磁気ヘッド、204…VCM、205…ピボット、206…IC、207…ランプ機構、208a〜208d…アーム、210…サーボ信号、301…再生素子、302…記録素子、303…プリアンブル、304…セクタマーカ、305…トラックIDコード、306…バーストパターン、307…サーボトラック、400…部品試験工程、401…組立工程、402…セルフサーボライト工程、403…製品試験工程、500…書き込んだ信号、501~503…分位線、504〜505…信号に対する接線、600…書き込んだ信号、601~603…分位線、604〜605…信号に対する接線、700~701…書き込んだ信号、800~801…書き込んだ信号、900~901…書き込んだ信号、1100…磁気ヘッドの特性データの表、1101…セルフサーボライト工程、1300…磁気記録装置シリアルナンバーの取得処理、1301…部品のシリアルナンバー取得処理、1302…部品の特性データ取得処理、1303…歩留りデータ取得処理、1304…全磁気ヘッドの歩留り予測処理、1305…位置制御用ヘッド選択処理、1306…サーボ信号記録処理、1307…サーボ信号消去処理、1400…再生幅に対応する歩留り、1401…記録幅に対応する歩留り、1402…重ね書き強度に対応する歩留り、1403…隣接トラック影響量に対応する歩留り、1404…信号振幅に対応する歩留り、1405…磁気ヘッドの部品番号に対応する歩留り、1406…磁性膜厚に対応する歩留り、1407…保護膜厚に対応する歩留り、1408…保磁力に対応する歩留り、1409…ディスクの部品番号に対応する歩留り、1410…セルフサーボライト工程の予測歩留り、1700…ディスクの基板、1701…磁性膜、1702…保護膜、1800…残留磁化、1801…保磁力、2100…部品の特性データ測定処理。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録装置に組み込まれた磁気ヘッドおよび磁気ディスク特性と、該磁気記録装置の歩留りの相関関係から作成した歩留り予測モデルと、仕掛中の磁気記録装置の磁気ヘッドおよび磁気ディスク特性の特性を入力として、各磁気ヘッドを位置制御用ヘッドにした場合の歩留りを予測し、予測される歩留りが最大となる磁気ヘッドを位置制御用ヘッドとして選択し、サーボ信号を記録することを特徴とする磁気記録装置のサーボライト方法。
【請求項2】
前記歩留りとして、セルフサーボライト工程に投入された磁気記録装置の総数に対する、各磁気記録装置の最初のサーボ信号記録処理において所定のサーボ信号を記録できた磁気記録装置数の割合を用いる、請求項1記載の磁気記録装置のサーボライト方法。
【請求項3】
前記歩留りとして、製品試験の合格品と不合格品の和に対する合格品の割合を用いる、請求項1記載の磁気記録装置のサーボライト方法
【請求項4】
前記歩留り予測モデルとして、複数の部品特性に対する歩留りの相乗平均、もしくは、積を用いる、請求項1記載の磁気記録装置のサーボライト方法。
【請求項5】
前記歩留り予測モデルとして、複数の部品特性に対する歩留りの相加平均もしくは、総和を用いる、請求項1記載の磁気記録装置のサーボライト方法。
【請求項6】
データベースと接続するための外部インタフェース、システム全体を制御するMPU、一時的にデータを保持するためのメモリ、リード信号とライト信号を送受信するリードライトチャネル、スピンドルモーターとVCMを制御するモータドライバ制御ユニットからなるセルフサーボライト装置と
前記セルフサーボライト装置に接続された部品の特性と歩留りの関係を示すデータが格納される歩留りデータベースと、シリアルナンバーリーダーと、磁気記録装置を有する磁気記録装置のサーボライトシステムであって、
前記歩留りデータベースは、過去における前記磁気記録装置に組み込まれた磁気ヘッドおよび磁気ディスクの特性と前記磁気記録装置の歩留りの関係を蓄積しており、
前記磁気記録装置は複数の磁気ディスクと、前記複数の磁気ディスクの記録面に対応する複数の磁気ヘッドを有し、
前記セルフサーボライト装置は、前記複数の磁気記録面とそれに対応する前記磁気ヘッドの組み合わせにおいて、前記複数の磁気ヘッドの全てについて位置制御用ヘッドとした場合の歩留りを予測し、
前記セルフサーボライト装置は、前記複数の磁気ヘッドのうちで、予測される歩留りが最大となる磁気ヘッドを選択して、セルフサーボライトを行うことを特徴とする磁気記録装置のサーボライトシステム。
【請求項7】
前記歩留りとして、セルフサーボライト工程に投入された磁気記録装置の総数に対する、各磁気記録装置の最初のサーボ信号記録処理において所定のサーボ信号を記録できた磁気記録装置数の割合を用いる、請求項6記載の磁気記録装置のサーボライトシステム。
【請求項8】
前記歩留りとして、製品試験の合格品と不合格品の和に対する合格品の割合を用いる、請求項6記載の磁気記録装置のサーボライトシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−134985(P2010−134985A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308842(P2008−308842)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】