説明

磁気論理システム

強磁性コンジットを通じて磁壁の伝播を行う駆動システムと方法が記述され、前記コンジット上の少なくとも二つの間隔をあけた点により電気的接続をするように調整された少なくとも二つの電気接点を介して、振動電流供給源から前記コンジットを通じて振動電流が通される。磁壁を支持し伝播できる磁気物質の連続トラックとして形成された細長い強磁性素子を含む強磁性コンジットが記述され、直列アレイになったそうした駆動システムは、好ましくはその論理機能が処理される結果としてノードおよび/または方向の変化を用意することにより磁気論理素子として役立つように更に調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気論理システム内のコンジット(conduit)を通じて磁壁の伝播を行う駆動システムと方法の提供に関し、また磁気論理システムおよびそれを組み込んだシステムの作動方法に関する。
【0002】
国際特許出願WO 02/41492には、リソグラフィにより決定される磁気コンジットに沿う磁壁またはソリトンを使用するデジタル・ロジックのための、新規なシステムが記載されている。複数の単一領域粒子を磁気的に相互作用させるネットワークまたは強磁性物質の連続サブミクロン幅トラックによって作られたコンジットが記載されている。
【0003】
従来のマイクロエレクトロニックデジタル・ロジックにおいて、二つのブール代数状態「1」および「0」は、高電圧および低電圧により信号化される。上記の参考文献において提案されたナノマグネティック論理方式において、この二つのブール代数状態は、コンジット内の磁化方向により信号化される。一つの従来のマイクロエレクトロニックシステムは、導電性相互接続の長さに沿った電圧の立上りまたは立下りを送信することにより、チップ上の一点から他の点へ、ブール代数状態の変化を伝達する。
【0004】
導電物質の一つの性質は、そうした電圧の変化が波動方程式に従うので、立上りまたは立下りを明示的に推進する必要がないということである。上記の参考文献で提案されたナノマグネティック論理方式においては、一つの実施例で、磁壁を下の磁気コンジットへ送信することにより、ブール代数状態の変化が伝達される。しかしながら電気的な場合と反対に、この磁壁は、エッジ欠陥におけるピンニング(pinning)のために自己推進的(self−propelling)でなく、したがって、ある力により明示的に移動されなければならない。この開示では、この力が、時間と共に回転する磁界から来るべきであって、システムの同期クロックとしても動作することが提案されている。
【0005】
前記の回転する磁界は、磁壁を推進するのに非常に効果的であるが、比較的に大きい電流と、かさばったコイルが通常必要であるために、そうした磁界を発生させなければならないのは、不便である。これはラップトップ・コンピュータおよび移動電話などのポータブルなアプリケーションにおいて特に問題であり、そこでは磁界を発生するために必要な電力が、限られた電池容量上で、かなり大きな消耗になるからである。
【0006】
こうして、そうした論理システムにおける磁壁の伝播を行うための駆動システムと方法、および前記参考文献に説明された高エネルギー入力の外部的に発生された磁気駆動磁界を必要としない磁気論理システム、およびそれを組み込んだシステムの作動方法が一般的に要望される。電力容量が限られた実用的なポータブルの装置へ、この論理システムが応用される場合には、これは特に該当する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一つの目的は、磁気論理システム内の強磁性コンジットを通じて磁界の伝播を行う駆動システムと方法を提供することであり、また磁気論理システムおよびそれを組み込んだシステムの作動方法を提供することであり、それは先行技術のいくつかの不利な点を緩和し、特に前記コンジットに沿った磁壁の変換を行うのに必要なエネルギー入力を減少させるものである。
【0008】
本発明の一つの特別な目的は、前記の参考文献に記述されたものに代替する駆動システムと方法を提供することであり、とくに変動磁界の応用を含まないシステムと方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
こうして本発明の第1の面によれば、たとえば上記参考文献に説明されたような論理システムにおいて、強磁性コンジットを通じて磁壁の伝播を行う駆動システムが、強磁性コンジット上の少なくとも二つの、間隔をとった点と電気的に接続するように調整された少なくとも二つの電気接点と、そこへ振動電流を供給するための電流源であって、前記接点とともに適所に使用されて、前記コンジットを通じて振動電流を通す。
【0010】
そのように加えられた電流は、強磁性物質の連続的トラックへ磁区を推進するのに効果的であって、外部的に付加された磁界を含むことなしに同期クロックを供給するのに有効である。結果として、本発明を組み込んだ装置は、外部付加磁界を使用するものよりも、物理的にかさばらず、エネルギー使用が一層少ない。
【0011】
本発明は必ずしも特定の理論に限定されないが、「スピン・トランスファ効果(spin transfer effct)」により、強磁性物質の連続トラックへ磁壁を推進するために、供給された電流が効果的であると考えられる。
【0012】
この理論を原理的に概説する二つの非常に重要な科学論文が、1996年に、Slonczewski(J.C.Slonczewski、J.Magn.Magn.Mater.159頁、第1行(1996年))および、Berger(L.Berger、Phys.Rev.B54,9353(1996年))により、発表された。わずかに異なった形式を使用しているが、それぞれ予測しているのは、二つの強磁性体層の間に電流を通した場合、その時誘導電子が一つの層でスピン偏極されて、それらが、他の層へトルクを加えることである。このトルクは、スピン・トランスファ・トルクと呼ばれるが、それは、一つの層から他の層へ転送された伝導電子のスピンに由来する。
【0013】
この予測の最初の確認は、1999年に、マイヤー他(E.B.Myers、D.C.Ralph、J.A.Katine、R.N.Louie、R.A.Buhrman、サイエンス誌、285号、867頁(1999年))により行われ、彼は、二つの層の間に電流を通すだけで、磁気スピン・バルブを含む二つの強磁性層の一つを、磁気的にスイッチすることに成功した。注目すべきスピン・トランスファ効果を達成するために、非常に高い電流密度を必要としたが、このデバイスの小さな断面(典型的に、100nm×100nm)は、実際の電流が非常に少ないことを意味し、古典的磁界を通る同一のスイッチングを達成するために外部磁界コイルに電力を供給するのに必要な電流よりも、確かにはるかに小さかった。強調すべき重要なことは、スピン・トランスファが新規な非古典的効果であって、磁界の発生を含まないことである。スピン・トランスファの、簡潔な概説は、ラルフ(D.Ralph、サイエンス誌、291号、999頁(2001年))により与えられている。
【0014】
本発明によれば、磁壁を通る電流を通すことにより、スピン・トランスファ効果により、磁壁に平行移動の力(translational force)を加えることができるが、このスピン・トランスファ効果をナノマグネティック論理デバイス内の磁壁コンジットに沿って磁壁を推進するのに使用できる。伝導電子は、磁壁の片側へ一様に磁化された領域内でスピン偏極されてくる;それらが壁自体を通過するにつれて、そのスピン偏極が壁のコア内でスピンを歳差運動させ、電子流の方向へ(すなわち、通常の電流の流れと反対の方向へ)磁壁を移動させる。
【0015】
幅が1μm以下で、厚さが50nm以下のコンジットの内側に磁壁がある場合は、磁壁を移動させるのに必要な電流は、非常に小さい(典型的に1mAまたはそれ以下)。古典的な磁界(磁界コイルのストリップラインを使用する)を発生させて、古典的な手段により同一の壁を移動させるのに必要な電流は典型的に1Aであり、これと比較して本発明が大きな効率を導き、先行技術に示唆される回転磁界と比較して、はるかに少ない電力しか必要ないことが理解される。この論理装置にもとづいて形成されるデバイスは、はるかに効率的であって、小型のポータブル装置など、元々限られた電力源しか持てない装置が、一層実用的になる。
【0016】
この電流源は、接点に振動電流を供給するように調整され、強磁性コンジットを通じて振動電流を通す場所の接点と共に、使用される。本発明の一つの長所は、この電流が比較的低い、好ましくは100mA以下、一層好ましくは10mA以下で良いことである。振動の周波数は、KHzから数百MHzまでであり、たとえば1kHzと1GHzの間であり、特に20kHzと500MHzの間である。いずれか適当な振動波形を使用でき、正弦波、三角波、方形波またはビット・シーケンスを含むが、これらに限定されない。
【0017】
さらに一つの面において、本発明は、磁壁を支持し伝播することができる磁気物質の連続トラックとして形成された長い強磁性素子を含む磁気論理システムのための強磁性コンジットと、特に、一般に長く平らで薄い層の強磁性構造と、コンジットまたはその一部の長さに沿って上記のように間隔を空けた電気接点の直列のアレイを含む駆動システムとを含む。こうして、コンジットは、たとえば国際特許出願WO 02/41492に記述されたコンジット構造の一つであり、その内容は参考文献として本書に組み込まれている。
【0018】
これらの直列アレイの接点は、たとえば種々の隣接するペアの間の抵抗における不連続を避けるために、均等に配置される。代わりに、これらの接点は不規則に間隔をあけて配置されても良く、または、たとえば特定の論理機能などを行うのに適当な構造特性に関連してコンジットにおける不連続を増補または修正を導入するなど、希望する効果をもたらすための特定の不均一間隔パターンを有しても良い。
【0019】
前記少なくとも二つの電気的接点は、強磁性コンジットに沿って配置された少なくとも二つの点により電気的接続をするように調整され、こうしてコンジットに沿って電流を通して、磁壁をその間で縦方向へ移動させる。前記少なくとも二つの電気的接点は、好ましくはコンジットに沿って一般に縦方向に電流を流すように、配置される。最も好ましくは、各駆動接点がトラックまたはその一部を横方向に横切って広がる接点部材を含む。
【0020】
一つの好ましい実施例において、前記駆動システムは、コンジットまたはその一部分の長さに沿った上記のような駆動接点の直列アレイを含み、前記電流源は、各コンジットに振動電流を供給して、前記長さに沿って少なくとも一つの360°サイクルを完了するように、アレイの隣接する部材の間でその供給が連続的に位相シフトするように、調整されている。磁壁伝播の一方向性(unidirectionality)を維持するためには、隣接する接点ペアの間のシフトが180°よりも小さくなければならず、したがって360°サイクルを完了するためには、少なくとも3つの接点が必要なことが理解されよう。
【0021】
所望のように、一つのサイクルは三つよりも多い接点を含む。前記アレイの長さに沿って、複数のサイクルが完了され得る。前記長さに沿って複数のサイクルが完了される場合は、前記アレイのシーケンスに前進的に沿った位相シフトの方向性がなければならず、前記アレイのシーケンスに前進的に沿った位相シフトのパターンが、便宜的には連続的なサイクルで反復される。
【0022】
こうして回転磁界を通じて先行技術において達成された方向性と同期クロッキングは、スピン・トランスファ・プロパルジョン(propulsion)を通じても達成できる。
【0023】
適切に位相シフトされるシーケンス内に接点がトポロジー的に現れる限り、接点が等間隔に配置される必要はない。同様に、便宜的には隣接する接点における供給の間の位相間隔は、一般にアレイに沿って一定であることが通常好ましいが、これは本発明のこの実施例の要件ではなく、あるアプリケーションにおいては、規則性の少ない配列が好まれ得る。
【0024】
一般に、シーケンス内の各接点への振動電流供給は、便宜的には同一の振幅、周波数および波形を有し、位相においてのみ異なる。あるアプリケーションのためには、異なった振幅および/または周波数および/または波形の二つまたはそれ以上の供給は、単向性(unidirectionality)のために、アレイのシーケンスに進行方向に沿った一方向位相シフトが単一方向でなければならないという条件に従属するものと考えられる。電流源は、公知の方法により、必要な複数の位相シフトされた供給を提供するように、調整される。
【0025】
便利のためには、前述の連続的に位相シフトする配列は、上述のような駆動接点の直列アレイを含む駆動システムにおいて達成され、これらの接点は、交互の層に並びあう(interdigited)方法で接続された複数の別個の(distinct)グループを含み、各グループは、共通の電力供給(単一の供給手段または、複数の同一の同期供給手段または、それらの組み合わせを意味する)を有する一つまたはそれ以上の接点を含み、各電力供給は、別々の位相を有する。この別々の位相は、アレイの隣接する部材の間で供給が連続的に位相シフトされて、グループ・パターンの反復ごとに、少なくとも一つの360°サイクルを完了するようになっている。
【0026】
たとえば電流源は、三つの別個の交互に層に並びあった接点グループに、別々の三つの異なった位相の電流を供給するように調整され、好ましくは各供給が他の二つの位相から一般にほぼ±120°外れているようになっている。
【0027】
連続トラックは、好ましくは1μmよりも小さな幅を有し、一層好ましくは200nmよりも小さく、さらに好ましくは150nmよりも小さく、最も好ましくは100nmよりも幅が小さい。このトラック幅は一定でも良く、または突然または徐々に変化しても良く、たとえばWO 02/41492に記述された方法で磁気論理素子を生成するために、コンジット内に伝播エネルギーの不連続性を生成したり緩和したりする。
【0028】
トラックを貫通する厚さは好ましくは50nmよりも薄く、一層好ましくは5nmと20nmの間にある。5nm未満では物質の不一致(inconsistency)および生産の困難が増大しやすい。より大きな厚さでは電力の必要が増大する。繰り返すが厚さはいずれか所定の磁気論理素子またはデバイスにおいて、トラックの長さ全体を通じて一定であっても良く、または突然または徐々に変化して、トラックに沿った伝播エネルギーに不連続性を導入または緩和しても良い。
【0029】
磁気素子は、好ましくはパーマロイ(Ni80Fe20)またはCoFeなどの、やわらかい磁気物質から形成される。
【0030】
コンジットの磁気物質は、基板上に形成される。基板は電気絶縁体であるか、または基板のバルク(bulk)物質とコンジットの間に、絶縁バリア層を有する。たとえばシリコン基板が使用され、その上に二酸化シリコン絶縁層が配置されている。
【0031】
本発明の更なる面において、論理デバイスのための磁気論理素子は、磁壁を支持し伝播できる少なくとも一つのコンジットを含み、コンジットまたは少なくともその一部分の長さに沿って上述のような駆動接点の直列アレイを含む駆動システムを備え、前記コンジットはさらに、その論理機能が処理される結果として、ノードおよび/または方向の変化を供給するように調整されている。
【0032】
論理デバイスの素子または論理デバイスまたは論理回路の素子に対する本書の参考文献は、効果的な論理に基づいたシステム、特にストレート相互接続、コーナ、分岐相互接続およびジャンクションおよびANDゲート、ORゲートおよびNOTゲートなどの論理ゲートを含む相互接続を含むグループから選択された特定のデバイスまたは回路素子を作るのに必要な、当分野に知られた全ての回路素子またはデバイスへ範囲を拡大するように解釈されることを意図している。
【0033】
素子は、たとえば国際特許出願WO 02/41492に記述されたアーキテクチャを有する。効果的な相互接続とゲートを生成するために、ノード、ジャンクションおよびコンジット内の方向変更の供給を通じて、厳密な直線性からの逸脱が必要であり、これがトラックに沿った効果的な結合の効果を減少させ、磁壁を伝播させるのに必要なエネルギーを増加させる傾向がある。磁壁伝播におけるこの結果の不連続性が、論理相互接続およびゲートにおいて本発明により使用されている。
【0034】
本発明の更なる面によれば、たとえば上記参考文献に記述されたような論理システムにおける強磁性コンジットを通る磁壁を伝播する方法は、コンジットの少なくとも二つの点の間に沿った振動電流を加えることを含む。特にこの方法は、コンジットの長さの少なくとも一部分について、そこに直列に配置された複数の点において、コンジットに沿って電流を加えることを含む。
【0035】
好ましい実施例において、この方法はコンジットに直列に配置された複数の点においてコンジットに沿って振動電流を加えることを含み、前記電流供給は、前記長さに沿った少なくとも一つの360°サイクルを完了するように、アレイの隣接する部材の間を連続的に位相シフトされる。
【0036】
最も好ましくは、この方法はコンジットに沿って直列に配置された複数の点においてコンジットに沿って振動電流を加えることを含み、それに交互の層に並び合う形で接続された複数の別々のグループとして含まれる接点へ電流が供給され、グループ内の各接点は同一の電流供給を供給され、それぞれの電流供給が別々に位相を決められることにより、グループ・パターンを反復するごとに少なくとも一つの360°サイクルを完成するように、アレイの隣接する部材の間で前記供給が位相シフトされる。たとえば3つの別々の互いに隣接する接点グループへ3つの別々な電圧が加えられて、好ましくは各電圧が他の二つの位相からほぼ±120°外れた位相になるようにされる。
【0037】
本発明の更なる面によれば、磁気論理回路のための磁気論理相互接続は、駆動システムを組み込んだ上記のような少なくとも一つの素子、またはそこに磁壁を伝播させるための上記の方法を含む。本発明の更に一つの面によれば、磁気論理回路のための磁気論理ゲートが、駆動システムを組み込んだ上記のような少なくとも一つの素子またはその中の磁壁を伝播させるための上記の方法を含む。本発明の更に一つの面によれば、磁気論理回路が適切に設計された複数の磁気論理相互接続、駆動システムを組み込んだ上記のような少なくとも一つの素子、またはその中の磁壁を伝播させるための上記の方法を含む。そうした回路において、本発明の第一の面による磁気論理素子は、ORゲート、ANDゲート、NOTゲート、それらいずれかの適当な組み合わせ、またはいずれか他の公知の論理ゲートとともに適当な相互接続を含む。
【0038】
このデバイスとシステムは、さらに、より大きな回路に使用される磁気論理デバイスを動作可能にする適当な電気的入力および/または出力を含む。
【実施例】
【0039】
図1は、3つの明白な接点グループへ3つの別々の電圧が加えられる好ましい条件の一つの特定の場合の例を示し、正弦波形を使用して、他の二つに対して位相が±120°ずれるようになっている。
【0040】
図面は、典型的な強磁性物質のサブ・ミクロン・トラック(磁壁コンジット)の概略の図示を供給する。伝播磁壁(13)がトラック内に矢印(15)により示されて、その各々の側に磁化方向がある。磁壁コンジットに対して電気的接続(E)が作られ、3つの異なったグループ(E1、E2、E3)に接続されている。これら3つの別々のグループは、3つの別々に加えられた電圧(V1、V2、V3)を有し、図面の下部に示すように、±120°位相がずれた正弦波形を有する。
【0041】
第1サイクルの開始に際して、電子流の正味の流れが接点E1(それは最もポジティブである)へ入るので、磁壁がタイプE1の最寄の接点へ向かって進行する。サイクルの第2の3分の1の間に、電子流の正味の流れが接点E2へ入るので、磁壁がタイプE2の最寄の接点まで進行する。サイクルの最後の3分の1の間に電子流の正味の流れが接点E3へ入るので、磁壁がタイプE3の最寄の接点まで進行する。こうして、磁壁が矢印(17)の一般的な方向に、コンジットに沿って横方向へ進行する。
【0042】
シーケンス1−2−3−1−などに接点が常に順序付けられている限り、壁が左から右へ確実に進行することが理解される。最少3つの異なった電気的位相が、一方向動作のために必要である。必要により、より多くの位相を使用できる。シーケンス1−2−3−1−などでトポロジー的に現れる限り、接点が均等に間隔を空ける必要はない。こうして、回転磁界を通じて達成された同期クロッキングはまた、スピン・トランスファ・プロパルジョン(propulsion)を通じても達成できる。
【0043】
3位相(またはそれ以上の)電流を使用する同期プロパルジョンは、論理機能の以前の部分へのブール代数計算のフィード・バックを含む論理回路のために、重要なものである。この場合、情報経路の開始および終了を定義することはできないので、機能全体を通じて単一の電流が磁壁を搬送することができない。そうした回路の例は、同期カウンタおよび他の有限状態機械を含む。[たとえば、B.Holdsworthによりデジタル論理設計第8章Butterworthsに記述されている]。
【0044】
同期クロッキングが重要であるもう一つ場合は、NOTゲートについて国際特許出願WO 02/41492および英国特許出願0220907.0に説明されている。これらの従来の開示によれば、ナノ磁壁NOTゲート機能は、磁壁コンジットを、カスプ(cusp)の形またはトポロジー的にそれに等価なものへねじることにより、達成できる。図2は、そうした論理素子を示し、そこで主要壁コンジットはNOT機能を遂行するために、カスプ(21)に形成されている。
【0045】
図面は、本発明によりスピン・トランスファ電流のみを使用して、そうしたNOTゲートを通じて磁壁を推進するために、どのように3つの電気接点を作るべきかを、図示する。サイクルの最初の3分の1の間に、電子流がポイントE1からE2へ通るので、磁壁は入力から中央垂直アームへ進行する。サイクルの第2の3分の1の間に、電子流はポイントE2からE3にあるので、磁壁はゲートの外へ進行する。こうして、サイクルの最初の2/3以内で、反転機能が完成される。
【0046】
図3は6ビット直列データ記憶装置リングを示し、そこで磁壁コンジット(31)が6個の連結NOTゲート(33)へ形成され、そこで電気接続(35)がなおトポロジー的に順序1−2−3−1−で現れるが、図2に示したものよりも単純になっている。
【0047】
図4は3磁気入力(I1、I2、I3)単一磁気出力(O1)、MAJORITYゲート(MAJORITY機能の定義については、Snider他、J.Appl.Phys.85巻、4283頁(1999年)を参照)として構成された磁壁コンジット(41)を示し、3つの電気接続(43)を有し、ここでも3つのグループ電圧(V1、V2、V3)が加えられている。
【0048】
図5は、一つのNOTゲートへ接続された3入力MAJORITYゲートとして構成された磁壁コンジット(51)を示し、3つの電気接続(53)があって、以前と同様に3つのグループ電圧(V1、V2、V3)が加えられている。
【0049】
図6は、NOTゲートへ接続された3入力MAJORITYゲートとして構成された磁壁コンジット(61)を示し、そのときそのアウトプットは二つの部分に分割され、一つの部分(O2)は機能からの出力であり、もう一つの部分はMAJORITYゲートへフィードバックする。3つの電気接続(63)が示されていて、その加えられた電圧(V1、V2、V3)がある。
【0050】
スピン・トランスファを通じて磁壁を移動することが可能なことを証明するために、我々は100nm幅5nm厚の磁壁コンジットを、電子ビーム・リソグラフィを使用して、パーマロイ(Ni80Fe20)から製作した。図7はそのサンプルを示す。磁壁コンジット(73)が文字「C」の形に作られ、大きなパーマロイ磁壁インジェクター・パッド(71)が、ワイヤの一端へ接続されているが、これは磁壁を注入するためである。磁壁コンジット(73)の他端に、更なる電気接続(77)が作られている。
【0051】
磁気光学磁力計の焦点に合わせたレーザー・スポットが、位置75においてコンジットの第2コーナの後に配置されるが、これはその点におけるコンジットの磁気スイッチングをモニタするためである。パッドから磁壁を注入して、それを第1コーナまで伝播させるために、水平磁界パルスが加えられる。磁力計はどんな変化も示さず、ループの周りに磁壁が完全に伝播しなかったことを示す。それから350μAの電流がワイヤへ通される。この電流のスイッチが入れられると、磁力計はスイッチを記録することが見出され、第1コーナからトラックの終端までの全行程にわたり、磁壁を電流がプッシュし終わったことを示した。これは、磁壁コンジットに沿って磁壁を推進するスピン・トランスファの能力を証明する。
【0052】
本発明を、国際特許出願WO 02/41492に示唆された論理アーキテクチャを参照して、詳細に説明した。本発明は、そうしたアーキテクチャのための磁界ドライバに特別の利点を授与するが、しかし本発明は強磁性コンジットに沿って横方向に磁壁を伝播することにより、論理機能または他の機能が得られるあらゆるアーキテクチャに、応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
本発明の駆動システムの作動の一例について、また本発明の諸原則による例示的な磁気論理装置について、添付図面を参照して、そうした図示の方法により説明してきた。
【図1】本発明の伝播システムの一例を示す。
【図2】磁気NOTゲートへ応用された図1の諸原則を示す。
【図3】他の論理素子に適用された類似の原則を示す。
【図4】他の論理素子に適用された類似の原則を示す。
【図5】他の論理素子に適用された類似の原則を示す。
【図6】他の論理素子に適用された類似の原則を示す。
【図7】本発明の諸原則をテストする例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性コンジットを通じて磁壁の伝播を行う駆動システムであって、
強磁性コンジット上の少なくとも二つの間隔を空けた点と電気的接続をなすように調整された少なくとも二つの電気接点と、
振動電流を供給するための電流源であって、前記接点と共に適所に使用されて、前記コンジットを通じて振動電流を通す前記電流源と、
を有する前記駆動システム。
【請求項2】
前記電流源が100mAまでの振動電流を供給するように調整されている請求項1記載の前記駆動システム。
【請求項3】
前記電流源が1kHzと1GHzの間の振動周波数における振動電流を供給するように調整されている請求項1または請求項2記載の前記駆動システム。
【請求項4】
磁壁を支持し伝播することができる磁気物質の連続トラックとして形成された細長い強磁性素子を含む駆動システムと、
前記コンジットまたはその一部分の長さに沿って配置された前項までのいずれかの請求項に記載の電気接点の直列アレイと、
を有する磁気論理システムのための強磁性コンジット。
【請求項5】
前記直列アレイ内の前記接点が均等に間隔を空けている請求項4記載のコンジット。
【請求項6】
前記コンジットに沿って、長さ方向に電流を供給するように、前記コンジット上に、前記電気接点が配置されている請求項4または請求項5によるコンジット。
【請求項7】
トラックまたはその一部分に沿って横方向に延長する接点部材を、各駆動接点が含む請求項4ないし請求項6までのいずれか一項に記載のコンジット。
【請求項8】
前記長さに沿って少なくとも一つの360°サイクルを完了するように、前記アレイの隣接部材の間に前記供給が連続的に位相シフトさせて、前記アレイ内の各接点へ振動電流を供給するように、前記電流源が調整されている請求項4ないし請求項7のいずれか一項記載のコンジット。
【請求項9】
前記シーケンス内の各接点への前記振動電流供給は、同一の振幅、周波数および波形を有し、位相のみ異なる請求項8記載のコンジット。
【請求項10】
前記直列アレイの前記接点が交互の層に並び合うように接続された複数の別個のグループを含み、各グループは共通の電気的供給を有する一つまたはそれ以上の接点を含み、各グループ・パターンの反復ごとに少なくとも一つの360°サイクルを完了するように、前記アレイの隣接する部材の間で連続的に位相シフトするように、それぞれの電気的供給が別々に位相を有する請求項8または請求項9記載のコンジット。
【請求項11】
3つの別個の交互の層に並び合う接点グループへ、3つの別々の位相の供給を供給するように、前記電流源が調整された請求項10記載のコンジット。
【請求項12】
各供給が他の二つに対して、位相が一般にほぼ±120°外れている請求項11記載のコンジット。
【請求項13】
前記連続トラックが、1μm未満の幅を有する請求項4ないし請求項12のいずれか一項に記載のコンジット。
【請求項14】
前記トラックを貫通する厚さが、50nm未満である請求項4ないし請求項13のいずれか1項記載のコンジット。
【請求項15】
前記磁気素子は、パーマロイ(Ni80Fe20)またはCoFeのいずれかの磁気物質から形成されている請求項4ないし請求項14のいずれか1項記載のコンジット。
【請求項16】
請求項4ないし請求項15のいずれか1項による少なくとも一つのコンジットおよび駆動システムを含む論理デバイスのための磁気論理素子であって、その論理機能が処理される結果として、ノードおよび/または方向の変更の用意により前記コンジットがさらに調整される前記磁気論理素子。
【請求項17】
強磁性コンジットを通じて磁壁を伝播する方法であって、コンジット上の少なくとも二つの点の間で前記コンジットに沿って振動電流を加えるステップを含む前記方法。
【請求項18】
少なくともコンジットの長さの一部分について、コンジットに沿って直列に配置された複数の点において、前記コンジットに沿って電流を加えることを含む請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記電流供給は前記アレイの隣接する部材の間で連続的に位相シフトされることにより、前記長さに沿って少なくとも一つの360°サイクルを完了する請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記コンジットに沿って直列に配置された複数の点において前記コンジットに沿って振動電流を供給することにより、交互の層に並び合うように接続された複数の別個のグループとして含まれる接点へ電流が供給され、グループ内の各接点は同一の電流供給を供給され、それぞれの電流供給は別々の位相を有することにより、アレイの隣接する部材の間で前記供給が連続的に位相シフトされて、これによりグループ・パターンの反復ごとに、少なくとも一つの360°サイクルを完了する請求項19記載の方法。
【請求項21】
3つの別個の交互の層に並び合う接点グループへ、3つの別々の電圧が加えられることにより、各電圧は他の二つに対して位相がほぼ±120°ずれている請求項20記載の方法。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2006−519537(P2006−519537A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502336(P2006−502336)
【出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000840
【国際公開番号】WO2004/077451
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(505086679)インゲニア・テクノロジー・リミテッド (16)