説明

磁気転写用マスターディスク及びその製造方法

【課題】磁気転写用マスターディスクの情報を磁気記録媒体に磁気転写するにあたり、転写された磁気記録媒体の全面に渡りほぼ均一の転写信号特性が得られるような磁気転写用マスターディスク及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】磁気転写用マスターディスク3の基板3aの表面に形成された凹凸31の凸部上面31Dに形成する磁性層3bの膜厚Mを、磁気転写用マスターディスク3の内周側の凸部32Aから外周側の凸部32Aにかけて厚く形成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気転写用マスターディスク及びその製造方法に係り、特にハードディスク装置等に用いられる磁気記録媒体にフォーマット情報等の磁気情報パターンを転写するための、パターン状の凹凸を備えた磁気転写用マスターディスク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置やフレキシブルディスク装置等に用いられる高密度磁気記録媒体である磁気ディスクは、高速アクセスが可能であるとともに情報記録容量のより大容量化が求められている。
【0003】
この大容量化を実現するために、トラック幅はより狭トラック化され、この狭いトラック幅の中で磁気ヘッドを正確に走査する、いわゆるトラッキングサーボ技術が重要な役割を担っている。
【0004】
磁気ディスクには、所定の間隔でトラッキング用のサーボ信号やアドレス情報信号、及び再生クロック信号等がトラッキングサーボを行うためにプリフォーマットとして記録されている。
【0005】
このプリフォーマットを正確にかつ短時間で効率的に行う方法として、本出願人は、高密度な面内磁気記録媒体である被転写用ディスク(以下スレーブディスクと呼称することがある)に転写すべき情報に対応した凹凸パターンの磁性層を有する磁気転写用マスターディスクを用意するとともに、スレーブディスクの磁性層を予めトラックの一方向に初期磁化し、その後、この初期磁化されたスレーブディスクとマスターディスクとを密着させた状態で初期磁化方向と略逆向きの転写用磁界を印加する磁気転写方法を提案している(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
この場合、転写すべき情報に応じたパターン状の凹凸をマスターディスクの基板上に形成し、この凹凸に沿って連続的に磁性層を形成する。このマスターディスクの磁性層とスレーブディスクの磁性層とをディスクホルダで密着挟持させた状態で転写磁界を印加する。これによりマスターディスクの有する情報パターンに対応する磁気パターンがスレーブディスクに磁気的に転写される。
【0007】
この磁気転写法によれば、マスターディスクとスレーブディスクとの相対的な位置を変化させることなく、マスターディスクの情報を静的に磁気記録を行うことができ、正確なプリフォーマット記録が可能であり、しかも記録に要する時間も極めて短時間である。
【特許文献1】特開2001−014667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、記録媒体は小型高密度化が進み、磁気記録媒体としてのスレーブディスクに予め記録するプリフォーマット信号は極めて微小な信号が求められるようになった。そのため、基板表面に形成する転写すべき情報に応じたパターン状の凹凸サイズの最小単位が数百nmから数十nmの磁気転写用マスターディスクが必要になってきた。
【0009】
この磁気転写用マスターディスクは、全面に渡りほぼ同一の転写信号特性が得られることが必要である。しかし、磁気転写用マスターディスクの基板表面に形成する凹凸の最小サイズはサーボ信号に対応しているため、基板の半径方向の位置によって異なる(外周部は内周部の約2倍となる)。そのため、基板の凸部上面(以後ランド部と呼称することがある)に形成する磁性層の膜厚を基板の全面均一に被覆させることが困難で、それに伴って半径方向の位置によって信号特性に分布が発生してしまう。
【0010】
磁性層の膜厚を全体的に厚くすると基板の最内周のランド部で隣り合った磁性層同士が接触する可能性が生じ、磁性層の膜厚を薄くすると磁気転写時の磁束吸い込み量が低下し、外周側の信号特性の確保が困難となる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、転写すべき情報を有した磁気転写用マスターディスクと被転写用の磁気記録媒体とを密着させて転写磁界を印加し、磁気転写用マスターディスクの情報を磁気記録媒体に磁気転写するにあたり、転写された磁気記録媒体の全面に渡りほぼ均一の転写信号特性が得られるような磁気転写用マスターディスク及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記目的を達成するために、面内磁気記録媒体に転写すべき情報に応じたパターン状の凹凸を有する基板と、該基板上に前記凹凸に沿って連続的に形成された磁性層とを備えてなる磁気転写用マスターディスクにおいて、前記凹凸の凸部上面に形成される磁性層の膜厚が、前記磁気転写用マスターディスクの内周側の凸部から外周側の凸部にかけて厚く形成されたことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、磁気転写用マスターディスクに形成される磁性層の膜厚が磁気転写用マスターディスクの内周側から外周側にかけて厚く形成されているので、磁気転写された面内磁気記録媒体の再生信号出力において、ビット長の長い外周部分においてもサブパルスの発生が抑制され、面内磁気記録媒体の全面に渡って略均一な転写信号特性が得られる。このため、この磁気記録媒体を用いることによって高品位の再生信号を得ることができる。
【0014】
また本発明の磁気転写用マスターディスクは、前記発明において、前記磁気転写用マスターディスクの最外周の凸部上面に形成される磁性層の膜厚が、最内周の凸部上面に形成される磁性層の膜厚の1.5倍以上であることを特徴とする。
【0015】
これによれば、最外周の凸部上面に形成される磁性層の膜厚が最内周の凸部上面に形成される磁性層の膜厚の1.5倍以上あるので、磁気転写された面内磁気記録媒体の再生信号出力において、サブパルスの発生を内周部から外周部にかけて略均一にすることができる。このため、面内磁気記録媒体の全面に渡ってより均一な転写信号特性が得られる。
【0016】
また本発明の磁気転写用マスターディスクは、前記発明において、前記磁気転写用マスターディスクの寸法が、内径2mm乃至15mm、又は外形15mm乃至100mmであることを特徴とし、小径から大径までの広い範囲の磁気転写用マスターディスクに適用することができる。
【0017】
また、本発明は、面内磁気記録媒体に転写すべき情報に応じたパターン状の凹凸を有する基板と、該基板上に前記凹凸に沿って連続的に形成された磁性層とを備えてなる磁気転写用マスターディスクの製造方法において、前記凹凸の凸部上面に形成する磁性層の膜厚を、前記磁気転写用マスターディスクの内周側の凸部から外周側の凸部にかけて厚く形成することを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、磁気転写用マスターディスクに形成する磁性層の膜厚を磁気転写用マスターディスクの内周側から外周側にかけて厚く形成するので、磁気転写された面内磁気記録媒体の再生信号出力において、ビット長の長い外周部分においてもサブパルスの発生が抑制され、面内磁気記録媒体の全面に渡って略均一な転写信号特性が得られる。
【0019】
また本発明の磁気転写用マスターディスクの製造方法は、前記発明において、前記磁気転写用マスターディスクの最外周の凸部上面に形成する磁性層の膜厚を、最内周の凸部上面に形成する磁性層の膜厚の1.5倍以上とすることを特徴とする。
【0020】
これによれば、最外周の凸部上面に形成する磁性層の膜厚を最内周の凸部上面に形成する磁性層の膜厚の1.5倍以上とするので、磁気転写された面内磁気記録媒体の再生信号出力において、サブパルスの発生を内周部から外周部にかけて略均一にすることができる。このため、面内磁気記録媒体の全面に渡ってより均一な転写信号特性が得られる。
【0021】
また本発明の磁気転写用マスターディスクの製造方法は、前記発明において、前記磁気転写用マスターディスクの寸法が、内径2mm乃至15mm、又は外形15mm乃至100mmであることを特徴とし、小径から大径までの広い範囲の磁気転写用マスターディスクの製造に適用することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明に係る磁気転写用マスターディスク及びその製造方法によれば、磁気転写用マスターディスクに形成される磁性層の膜厚が磁気転写用マスターディスクの内周側から外周側にかけて厚く形成されているので、磁気転写された面内磁気記録媒体の全面に渡って略均一な転写信号特性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下添付図面に従って、本発明に係る磁気転写用マスターディスクの好ましい実施の形態について詳説する。なお、各図において同一部材には同一の番号または記号を付している。
【0024】
本発明の磁気転写用マスターディスクであるマスターディスクは、円盤状の基板の表面に転写すべき情報に応じた凹凸が形成され、その凹凸に沿って磁性層が連続的に形成されている。従って、マスターディスクの凹凸とは、基板の凹凸の上に磁性層が形成された凹凸のことであり、マスターディスクの凸部とは、基板の凸部の上に磁性層が形成された凸部のことである。
【0025】
図1は、マスターディスクを示す平面図である。マスターディスク3は円板状で中心部に中心孔3Aが形成されている。マスターディスク3の中心を中心とした円の円周方向にトラックが形成され、転写すべき情報に応じたパターンの凹凸32が形成されている。マスターディスク3の最外周の凹凸32のサイズは最内周の凹凸32のサイズに対してトラック方向に拡大されて形成されている。
【0026】
図2は、マスターディスク3の一部を表わす斜視図であり、転写すべき情報に応じた凹凸パターンとして形成されたマスターディスクの凹凸32の一部を示している。図2に示すようにマスターディスク3の凹凸32は、凸部32Aと凹部32Bとで構成されている。
【0027】
図2において、矢印Xはマスターディスク3の円周方向(トラック方向)を示し、矢印Yはマスターディスク3の半径方向を示している。また、Pはトラック幅を示している。
【0028】
図3は、マスターディスク3の凸部32Aを表わす平面図である。また、図4はマスターディスク3の凹凸32の円周方向(トラック方向)の断面(図2、及び図3におけるA−A’断面)を表わしたものである。
【0029】
図3、及び図4に示すように、マスターディスク3の基板3aには転写すべき情報に応じた凹凸パターンとして形成された凸部31Aと凹部31Bとからなる凹凸31が形成され、この凹凸31に沿って連続的に磁性層3bが形成されて、マスターディスク3の凸部32Aと凹部32Bとからなる凹凸32が形成されている。
【0030】
マスターディスク3の凸部31Aは、円周方向(トラック方向)よりも半径方向に長い四角形を底面とする角錐台状又は角柱状に形成されており、基板3aの凸部31Aの側面31Cが凸部31Aの上面(ランド部)31Dとなす角度の補角、即ち図4に示すように、円周方向(トラック方向)の断面において凸部31Aの側面31Cの延長線と凸部31Aの上面31Dとでなす角度φは、80°〜85°程度が好ましい。
【0031】
また、図4に示すように、円周方向(トラック方向)の断面において凸部31Aの上面31Dの長さ(ランド幅と呼称する)Lと凹部31Bの底面の幅(凸部31Aの隣同士の間隔でスペースと呼称する)Sとは、通常は等しい長さに形成される。
【0032】
また、凸部31Aの上面31Dに形成される磁性層3bの膜厚Mは、マスターディスク3の内周側の凸部31Aから外周側の凸部31Aにかけて厚く形成されている。具体的には、最外周の凸部31Aの上面(ランド部)31Dに形成される磁性層3bの膜厚Moは、最内周の凸部31Aの上面(ランド部)31Dに形成される磁性層3bの膜厚Miの1.5倍以上になっている。
【0033】
マスターディスク3の呼称サイズが2.5インチの場合は、最外周(中心からの半径30mm)におけるランド部の膜厚Moが最内周(中心から10mm)におけるランド部の膜厚Miの2倍程度に形成されると好適である。
【0034】
このようにマスターディスク3の基板3aの凹凸31上に形成される磁性層3bの膜厚Mは、マスターディスク3の最内周のランド部31Dから最外周のランド部31Dにかけて厚く形成されているので、ランド幅Lの広い外周側においても良好な転写特性を得ることができ、内周側から外周側までの全面に渡って均一な転写特性が得られる。
【0035】
マスターディスク3の基板3aとして、ニッケル、シリコン、石英、ガラス、アルミニウム、セラミックス、合成樹脂等が用いられる。また、磁性層3bには軟磁性材料が用いられ、Co、Co合金(CoNi、CoNiZr、CoNbTaZr等)、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi、FeNiMo、FeAlSi、FeAl、FeTaN)、Ni、Ni合金(NiFe)等が好適であり、特に好ましいのはFeCo、FeCoNiである。
【0036】
次に、本発明に係る磁気転写用マスターディスクの製造方法の実施の形態について説明する。先ず、ガラス原盤にサーボ信号に対応するパターン状の凹凸形状を形成する。このパターン状の凹凸形状の形成にはフォトリソグラフィー法やスタンパー法等が用いられる。
【0037】
フォトリソグラフィー法を用いる場合は、先ず、表面が平滑なガラス板(又は石英板)の表面にスピンコート等でフォトレジストを形成する。
【0038】
次にフォトレジストにレーザー光(又は電子ビーム)を照射して、サーボ信号に対応するパターンで露光し、その後フォトレジストを現像して露光部分を除去し、フォトレジストによる凹凸形状を有する原盤を作成する。
【0039】
このガラス原盤の表面にNiをメッキ(電鋳)で成長させ、パターン状の凹凸31を有するNi基板3aを作製し、原盤から剥離する。次にパターン状の凹凸31上に軟磁性材料からなる磁性層3bを成膜し、保護膜を被覆してマスターディスク3とする。
【0040】
なお、金属製の基板3aとしては、前述の通り、Ni又はNi合金等を使用する事ができるが、この基板3aを製作するためのメッキとして、無電解メッキ、電鋳、スパッタリング、イオンプレーティング等各種の金属成膜法を用いることができる。
【0041】
基板3aの凸部31Aのサイズは、ランド幅Lが50nm〜500nm程度が用いられ、スペースSも同寸法が用いられる。また、凸部31Aの高さ(凹凸パターンの深さ)は50nm〜300nm程度である。
【0042】
磁性層3bの成膜では、磁性層3bの膜厚Mを、マスターディスク3の内周側の凸部31Aから外周側の凸部31Aにかけて厚く形成する。具体的には、最外周の凸部31Aの上面(ランド部)31Dに形成する磁性層3bの膜厚Moを、最内周の凸部31Aの上面(ランド部)31Dに形成する磁性層3bの膜厚Miの1.5倍以上になるようにする。
【0043】
例えば、マスターディスク3の呼称サイズが2.5インチの場合は、最外周(中心からの半径30mm)におけるランド部の膜厚Moが最内周(中心から10mm)におけるランド部の膜厚Miの2倍程度厚く形成すると好適である。
【0044】
この磁性層3bの成膜には、図5に示すようなスパッタリング装置を用い、DCスパッタリング法によって成膜する。スパッタリング装置70は、図5に示すように、チャンバ71、チャンバ71内に設けられた基板ホルダである下部電極72、上部電極73、上部電極73及び下部電極72にDC電圧を印加するDC電源75等で構成されている。下部電極72上にはマスターディスク3の基板3aが載置され、陰極である上部電極73の表面には成膜材料であるターゲット74が取り付けられている。
【0045】
チャンバ71内を真空にして、放電用ガスとしてArガスを導入し、下部電極72と上部電極73間に電圧を印加してグロー放電を発生させる。このとき、プラズマ中の正のイオンが陰極である上部電極73表面のターゲット74表面に衝突し、ターゲット原子をはじき出す。このスパッタ現象を利用してマスターディスク3の基板3a上に磁性層3bを成膜する。
【0046】
本実施の形態では、磁性層3bの膜厚Mを、マスターディスク3の内周側の凸部31Aから外周側の凸部31Aにかけて厚く形成するために、基板3aとターゲット74との間に図6に示すようなコリメータ50を挿入して成膜を行う。
【0047】
コリメータ50は、図6に示すように、所定の厚みを有した円盤で、中心部に小径の孔51を有し、孔51の周囲には孔51よりも大径の孔52が複数個形成されている。これらの孔51、及び52をシェルと呼んでいる。このようなコリメータ50を用いることにより、スパッタ粒子の入射角度を制御し、マスターディスク3の半径方向に意図的に膜厚分布を発生させることができる。
【0048】
図6に示すように、孔51の直径をD1、孔52の直径をD2とし、コリメータ50の厚さをHとしたときに、孔の直径に対する深さの割合で定義されるアスペクト比H/D1を孔51のアスペクト比と称し、H/D2を孔52のアスペクト比と称する。
【0049】
マスターディスク3の外周部の磁性層の膜厚Mを内周部の膜厚Mより厚くするためには、面内シェルアスペクト比の異なるコリメータ50を用い、基板3aの中央部に対応するシェルアスペクト比を大きく、外周部に対応するシェルアスペクト比を小さくする。
【0050】
コリメータ50の中央部の孔51のアスペクト比H/D1が周縁部の孔52のアスペクト比H/D2に対して2〜3倍に設定するのが好ましい。また、中央部のシェルアスペクト比が大きくなると基板3aの内周部近傍のスパッタ粒子指向性が良好になり、膜の被覆性の面でも効果がある。
【0051】
このようにコリメータ50を用いてスパッタリングで成膜し、中心孔3Aの内径2mmから15mm、又は外形15mmから100mmのマスターディスク3に対して、磁性層3bの膜厚Mを内周側の凸部31Aから外周側の凸部31Aにかけて厚く形成する。具体的には、最外周の凸部31Aのランド部31Dに形成される磁性層3bの膜厚Moを、最内周の凸部31Aのランド部31Dに形成される磁性層3bの膜厚Miの1.5倍以上に形成することができる。
【0052】
次に、このマスターディスク3を用いてスレーブディスクにマスターディスク3が担持する情報を磁気転写するときの、転写メカニズムについて図7を用いて以下に説明する。図7(a)に示すように、スレーブディスク2の磁性層2cは予め一方向に磁化されている。また、マスターディスク3の磁性層3bには図7(b)に示すように、磁気情報が凹凸の磁性層パターンとして形成されている。
【0053】
このスレーブディスク2の磁性層2cとマスターディスク3の磁性層3bとを密着させ、転写用磁界Hduを印加する。この時、マスターディスク3の磁性層3bに接しないスレーブディスク2の磁性層2cの表面は転写用磁界Hduよりも強い磁界が印加されるため、転写磁界がスレーブディスク2の磁性層2cの保持力Hcを超えるとその部分の磁化は反転する。
【0054】
一方、マスターディスク3の磁性層3bに接するスレーブディスク2の磁性層2cでは、転写用磁界Hduがマスターディスク3の磁性層3bに集中する。すなわちその部分は転写磁界がシールドされた状態となる。その結果、スレーブディスク2の磁性層2cには転写用磁界Hduよりも大幅に弱い磁界しか印加されないため、スレーブディスク2の磁化は転写用磁界Hduに影響されず初期磁化の向きに残り、図7(c)に示すような磁化状態となる。これにより、スレーブディスク2の磁性層2cにはマスターディスク3の磁性層3bに形成されたパターン状の磁気情報が転写され磁気記録される。
【0055】
[実施例]
呼称サイズ2.5インチのガラス原盤にフォトリソグラフィーでフォトレジストによるサーボ信号に対応するパターン状の凹凸形状を形成した。
【0056】
このガラス原盤の表面にNiを電鋳で成長させ、凹凸パターンを有する呼称サイズ2.5インチのNi基板を作製し、この凹凸パターン上に軟磁性材料からなる磁性層3bを成膜した。
【0057】
磁性層3bの成膜には、図6に示すコリメータ50を用い、図5に示すスパッタリング装置70を使用したDCスパッタリング法によって行った。ターゲット材としてFeCo(70- 30at%)を使用し、コリメータ外形=φ300mm(シェル径=φ3mm〜φ20mm)を用いた。
【0058】
成膜条件は、基板3a・ターゲット74間距離=200mm、コリメータ50・基板3a間距離=100mmとし、チャンバー内圧力=0.1Pa(Ar流量=12sccm)、DCパワー=1.5KWとした。
【0059】
コリメータ50の面内シェルアスペクト比を変化させ、膜厚分布を測定した結果、中央部シェル径=φ10mm以上では面内シェルアスペクト比の変化による膜厚分布の発生効果が小さかったのに対し、中央部シェル径=φ5mm以下では面内シェルアスペクト比の変化による膜厚分布の発生効果は大きかった。
【0060】
更に、中央シェルアスペクト比を外周シェルアスペクト比の2倍に設定すると、2.5インチの基板3aの内周部(r=10mm)と外周部(r=30mm)との膜厚差が約1.5倍となり、中央シェルアスペクト比を外周シェルアスペクト比の3倍に設定すると、膜厚差が約2.5倍となった。
【0061】
図8は、このようにコリメータ50の面内シェルアスペクト比を変化させて、最外周部の磁性層3bの膜厚Moと最内周部の磁性層3bの膜厚Miとを変化させ、転写特性を比較した結果を示した表である。
【0062】
表中のデータは基板3aの呼称サイズが2.5インチで、記録密度=80Gbit/in2 としたときのデータであり、また、膜厚の単位はnmである。
【0063】
信号特性の評価の一つにサブパルスの発生がある。図8は転写特性を評価するために、このサブパルスの発生率を測定したものである。サブパルスとは、図9の矢印で示すように、正規のパルスと間違える可能性のあるパルスのことで、ここではAGC(Auto Gain Control)出力比50%以上のパルスとして定義する。
【0064】
図9は、スレーブディスクの再生信号出力を表わしたもので、0.2及び−0.2の出力を正規のパルスとしたもので、図の矢印で示すような0.1又は−0.1を超えるもので正規のパルスと間違える可能性のあるパルスがサブパルスである。
【0065】
このように転写された磁気情報信号に間違いやすいパルスが発生することで、プリフォーマット記録を正確に読み取ることが困難になり、高品位の再生信号を得ることができず、スレーブディスクの磁気記録媒体としての品質が大きく低下してしまうという問題がある。
【0066】
図8の表では、最内周部の磁性層3bの膜厚Miを75nm、100nm、及び120nmとしたときの、夫々の膜厚Miに対して最外周部の磁性層3bの膜厚Moを変化させ、最内周部(r=14.1mm)及び最外周部(r=30.7mm)におけるサブパルスの発生率(%)を記載している。
【0067】
図8の表に示すように、最内周部の磁性層3bの膜厚Mi=75nmでは、最外周部の磁性層3bの膜厚Moの最内周部の磁性層3bの膜厚Miに対する比率(Mo/Mi)が1.4を超えるとサブパルス発生率が極度に改善されている。
【0068】
また、最内周部の磁性層3bの膜厚Mi=100nmでは、Mo/Miが1.2を超えるとサブパルス発生率が極度に改善され、最内周部の磁性層3bの膜厚Mi=120nmでも、Mo/Miが1.2を超えるとサブパルス発生率が極度に改善されている。
【0069】
以上から最外周部の磁性層3bの膜厚Moの最内周部の磁性層3bの膜厚Miに対する比率(Mo/Mi)を1.5以上とすることで、サブパルス発生率を極度に減少させることができ、良好な転写特性を得ることができる。
【0070】
以上説明したように、本発明に係る磁気転写用マスターディスク及びその製造方法によれば、磁気転写用マスターディスク3に形成される磁性層3bの膜厚Mが磁気転写用マスターディスク3の内周側から外周側にかけて厚く(具体的には、最外周部の磁性層3bの膜厚Moの最内周部の磁性層3bの膜厚Miに対する比率を1.5以上)形成されるので、磁気転写された面内磁気記録媒体2の再生信号出力において、ビット長の長い外周部分においてもサブパルスの発生が抑制され、面内磁気記録媒体2の全面に渡って略均一な転写信号特性が得られる。このため、この面内磁気記録媒体2を用いることによって高品位の再生信号を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】マスターディスクを示す平面図
【図2】マスターディスクの一部を表わす斜視図
【図3】マスターディスクの凸部を表わす平面図
【図4】マスターディスクの凹凸の円周方向断面図
【図5】スパッタリング装置を説明する概念図
【図6】コリメータを示す平面図及び断面図
【図7】磁気転写のメカニズムを説明する概念断面図
【図8】実施例の結果を表わす表
【図9】サブパルスを説明する再生信号出力図
【符号の説明】
【0072】
2…スレーブディスク(面内磁気記録媒体)、3…マスターディスク(磁気転写用マスターディスク)、3a…基板、3b…磁性層、3A…中心孔、31…凹凸、31A…凸部、31D…凸部上面(ランド部)、M…磁性層の膜厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面内磁気記録媒体に転写すべき情報に応じたパターン状の凹凸を有する基板と、該基板上に前記凹凸に沿って連続的に形成された磁性層とを備えてなる磁気転写用マスターディスクにおいて、
前記凹凸の凸部上面に形成される磁性層の膜厚が、前記磁気転写用マスターディスクの内周側の凸部から外周側の凸部にかけて厚く形成されたことを特徴とする磁気転写用マスターディスク。
【請求項2】
前記磁気転写用マスターディスクの最外周の凸部上面に形成される磁性層の膜厚が、最内周の凸部上面に形成される磁性層の膜厚の1.5倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気転写用マスターディスク。
【請求項3】
前記磁気転写用マスターディスクの寸法が、内径2mm乃至15mm、又は外形15mm乃至100mmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気転写用マスターディスク。
【請求項4】
面内磁気記録媒体に転写すべき情報に応じたパターン状の凹凸を有する基板と、該基板上に前記凹凸に沿って連続的に形成された磁性層とを備えてなる磁気転写用マスターディスクの製造方法において、
前記凹凸の凸部上面に形成する磁性層の膜厚を、前記磁気転写用マスターディスクの内周側の凸部から外周側の凸部にかけて厚く形成することを特徴とする磁気転写用マスターディスクの製造方法。
【請求項5】
前記磁気転写用マスターディスクの最外周の凸部上面に形成する磁性層の膜厚を、最内周の凸部上面に形成する磁性層の膜厚の1.5倍以上とすることを特徴とする請求項4に記載の磁気転写用マスターディスクの製造方法。
【請求項6】
前記磁気転写用マスターディスクの寸法が、内径2mm乃至15mm、又は外形15mm乃至100mmであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の磁気転写用マスターディスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−209845(P2006−209845A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18289(P2005−18289)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】