説明

磁石ユニット、磁界発生装置及びマグネトロンスパッタ装置

【課題】時間や手間をかけずに磁気トラックを容易に変更できるとともに、コスト低減も図り得る磁石ユニット、磁界発生装置及びマグネトロンスパッタ装置を提案する。
【解決手段】異なる磁極を有し、磁性板20に回転自在に軸支した第2磁石22を設け、第2磁石22を回転させることで磁極を変化させ、ターゲット13の表面に形成される磁気トラックJTの形状を変化させるようにしたことにより、磁性板20上に配置された磁極を取り外すことなく、磁気トラックJTの形状を最適な形状へと変えることができ、かくして磁極を取り外す時間や手間をかけずに磁気トラックJTを容易に変更できるとともに、その分だけコスト低減も図り得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石ユニット、磁界発生装置及びマグネトロンスパッタ装置に関し、例えば磁界によりプラズマを閉じ込め、原子を効率良くターゲット表面に衝突させるマグネトロンスパッタ装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上に薄膜を形成する薄膜形成装置として、マグネトロンスパッタ装置が知られている。このマグネトロンスパッタ装置では、ターゲットと被成膜基板との間に電圧を印加してスパッタガスを放電させて陰極近傍の空間にプラズマを発生させることにより、被成膜基板上に薄膜を形成するようになされている。そして、このようなマグネトロンスパッタ装置は、磁石ユニットが設けられており、当該磁石ユニットによってスパッタリング領域内に磁界を発生させて、プラズマをこの磁界内に閉じ込めることにより、原子を効率良くターゲット表面に衝突させ得るようになされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−102248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなマグネトロンスパッタ装置では、ターゲット利用効率を高めることや、被成膜基板への膜厚分布を良好にすることが常に求められている。ターゲット利用効率や膜厚分布は、ターゲットの材質や大きさ等によって変わり得るが、ターゲット後方に配置されている磁石ユニットの磁石配置形状による影響も無視できない。
【0005】
ここで、磁石ユニットは、磁性板上に複数の磁石を適宜並べることで構成されている。例えば、図19Aに示すように、磁石ユニット100は、環状に配置された第1磁石102が円盤状の磁性板101上に固定され、この第1磁石102に囲まれた領域において、第1磁石102と接することなく、第2磁石103が磁性板101上に固定された構成が一般的である。
【0006】
そして、図19Bに示すように、このような磁石ユニット100には、磁性板101と対向するようにして、第1磁石102及び第2磁石103が露出した開口面側に円盤状のターゲット13が設置され得る。これによりターゲット13の表面には、磁石ユニット100から発生した磁力線(図19B中ではターゲット13表面に実線で示す)が弧を描くように発生し得る。ここで、ターゲット13の表面に発生した磁力線において、ターゲット13表面の法線成分の磁束密度が零になった点の集合(以下、これを磁気トラックと呼ぶ)は、磁石ユニット100の形状と似た形状となり得る。
【0007】
そして、磁気トラックには、ターゲット13に発生した電界との作用により、高密度プラズマが発生し、磁気トラック近傍にてスパッタが推進される。すなわち、磁気トラック形状、言い換えれば磁石ユニット100の形状が変われば、スパッタ粒子の発生領域も変わり、被成膜基板上の膜厚分布や膜質にも影響を与えることになる。そして、このようなことは、ターゲット13と被成膜基板との距離が近い静止対向成膜において顕著に表れる。
【0008】
また、例えば、磁石ユニット100に設置されているターゲット13を、現在使用しているターゲット13とは異なる材質や大きさ等でなるターゲットに変えた場合には、これに応じてターゲットの利用効率を高めたり、或いは被成膜基板への膜厚分布を良好にするため、磁石ユニット100における第1磁石102及び第2磁石103の配置形状をも変える必要がある。
【0009】
しかしながら、磁石ユニット100では、第1磁石102及び第2磁石103が磁性板101上に接着剤により固定されることから、これら第1磁石102及び第2磁石103の配置状態を変えて磁気トラックを変更しようとした場合、磁石ユニット100自体を改めて製造し直さなければならず、手間や時間がかかり、さらにはその分だけ新たなコストも発生してしまうという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、時間や手間をかけずに磁気トラックを容易に変更できるとともに、コスト低減も図り得る磁石ユニット、磁界発生装置及びマグネトロンスパッタ装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため本発明の請求項1は、マグネトロンスパッタ装置に用いられる磁石ユニットであって、ターゲットが対向するように配置される保持板と、前記保持板に設けられた第1磁石と、前記保持板上に設けられ、異なる磁極を有する第2磁石とを備え、前記第2磁石は、前記保持板に回転自在に軸支され、回転することで前記磁極を変化させて、前記ターゲットの表面に形成される磁気トラックの形状を変化させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2は、前記第2磁石は、第1磁極半体と、前記第1磁極半体の磁極と異なる磁極でなる第2磁極半体とにより構成され、前記保持板の法線との直交方向に回転軸を備え、前記回転軸を中心に前記保持板上で回転することで、前記第1磁極半体及び又は第2磁極半体が前記ターゲット側に配置されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項3は、前記第1磁石は、前記保持板に配置された第1磁極要素と、前記第1磁極要素に囲まれた領域に配置され、外周の一部が切り欠かれた第2磁極要素とを備え、前記第2磁石が、前記第2磁石要素の切り欠かれた切り欠き部に配置されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項4は、前記保持板には開口部が形成されたおり、前記開口部に前記第2磁石の一部が配置されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項5は、請求項1〜4のうちいずれか1項記載の磁石ユニットと、前記磁石ユニットを回転させる回転駆動部と、前記磁石ユニットの所定角度に調整された第2磁石を非回転状態で固定する固定手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項6は、請求項1〜4のうちいずれか1項記載の磁石ユニットと、前記磁石ユニットを回転させる回転駆動部と、前記回転駆動部の回転を前記磁石ユニットの第2磁石に伝達し、前記磁石ユニットの回転と連動させて前記第2磁石も回転させる連動手段とを備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項7は、請求項1〜4のうちいずれか1項記載の磁石ユニットと、前記磁石ユニットを回転させる回転駆動部と、該回転駆動部とは別に前記磁石ユニットの第2磁石を回転させる第2磁石用回転駆動部とを備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項8は、磁界発生装置によってスパッタリング領域内に磁界を発生させて、プラズマを前記磁界内に閉じ込めることにより、原子をターゲット表面に衝突させ、前記ターゲットと対向した被成膜保持板に薄膜を形成するマグネトロンスパッタ装置であって、前記磁界発生装置が請求項5〜7のうちいずれか1項記載の磁界発生装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、異なる磁極を有し、保持板に回転自在に軸支した第2磁石を設け、第2磁石を回転させることで磁極を変化させ、ターゲットの表面に形成される磁気トラックの形状を変化させるようにしたことにより、保持板に配置された磁極を取り外すことなく、磁気トラックの形状を最適な形状へと変えることができ、かくして磁極を取り外す時間や手間をかけずに磁気トラックを容易に変更できるとともに、その分だけコスト低減も図り得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明によるマグネトロンスパッタ装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】磁石ユニットの全体構成を示す概略図である。
【図3】第2磁石の全体構成を示す概略図である。
【図4】第2磁石の回転角度の説明に供する概略図である。
【図5】磁気トラックの変化の様子を示す概略図である。
【図6】磁気トラックとエロージョンと膜厚との関係(1)を示す概略図である。
【図7】磁気トラックとエロージョンと膜厚との関係(2)を示す概略図である。
【図8】磁気トラックとエロージョンと膜厚との関係(3)を示す概略図である。
【図9】第1の実施の形態による磁石ユニットの全体構成を示す上面図、側断面図及び下面図である。
【図10】検証試験で用いた磁石ユニットの全体構成を示す概略図である。
【図11】検証試験で用いた磁界発生装置の側断面構成を示し側断面図である。
【図12】第2の実施の形態による磁界発生装置の側断面構成を示す側断面図である。
【図13】第3の実施の形態による磁界発生装置の側断面構成を示す側断面図である。
【図14】第4の実施の形態による磁石ユニットの構成を示す概略図である。
【図15】第4の実施の形態による磁石ユニットにより形成される磁気トラックとエロージョンの説明に供する概略図である。
【図16】第5の実施の形態による磁石ユニットの構成を示す概略図である。
【図17】第4の実施の形態による磁石ユニットの側断面構成を示す側断面図である。
【図18】他の実施の形態によるマグネトロンスパッタ装置の全体構成を示す概略図である。
【図19】従来の磁石ユニットの説明に供する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0022】
(1)第1の実施の形態
(1−1)第1の実施の形態によるマグネトロンスパッタ装置の構成
図1において、1は本発明を適用できるマグネトロンスパッタ装置を示し、このマグネトロンスパッタ装置1は、所定方向(この場合、紙面に対して奥側)に延びる真空容器2を備え、真空容器2内のほぼ中央位置付近に被成膜基板3が配置されている。マグネトロンスパッタ装置1は、真空容器2内に基板搬送機構4を備えており、この基板搬送機構4によって被成膜基板3の成膜面がz軸と垂直になるように真空容器2内に被成膜基板3を支持している。また、基板搬送機構4は、y軸及びz軸と直交するx軸方向(この場合、紙面奥側)へ延びる真空容器2に沿って、被成膜基板3を搬送し得るようになされている。
【0023】
真空容器2には、ガス導入機構5が設けられており、当該ガス導入機構5により真空容器2内に、例えばアルゴンや窒素、ヘリウム等のスパッタガスが導入され得るようになされている。また、この真空容器2には、排気機構6が設けられており、排気機構6により真空容器2内を10-6パスカル以下の状態とし得るとともに、スパッタガスや不純物ガスを真空容器2内から排気し得るようになされている。なお、この実施の形態の場合には、放電に必要なスパッタガス圧力である0.01〜10パスカルに真空容器2内が調整されている。
【0024】
これに加えて、この真空容器2には、被成膜基板3の両成膜面と対向するようにして磁界発生装置10,11が壁部に配置されている。なお、ここで、磁界発生装置10,11は同一構成を有していることから一方の磁界発生装置10に着目して以下説明する。この磁界発生装置10は、真空容器2内にターゲット13が取り付けられており、磁石ユニット14からの磁力線を真空容器2内のターゲット13表面に発生させ得るようになされている。
【0025】
実際上、磁界発生装置10には、電源15がカソード容器16に接続されており、直流電力、交流電力、或いは交流電療と直流電力を重畳した電力のいずれかが電源から供給され、カソードとなり得る。これによりマグネトロンスパッタ装置1は、磁界発生装置10に設けられたターゲット13と、被成膜基板3との間に電圧が印加されてスパッタガスを放電させて陰極近傍の空間にプラズマを発生させ得る。なお、この実施の形態の場合、ターゲット13と被成膜基板3との距離は、約30〜40[mm]程度に選定されている。
【0026】
実際上、磁界発生装置10は、磁石ユニット14と、磁石ユニット14を保持するカソード容器16と、このカソード容器16に設けられ磁石ユニット14を回転させる回転駆動部18とを備えており、被成膜基板3と対向するようにターゲット13がカソード容器16に設置された構成を有する。このような磁界発生装置10は、磁石ユニット14により所定形状の磁気トラックを形成し、ターゲット13に発生した電界との作用により高密度プラズマを発生させて磁気トラック近傍にてスパッタを推進し、被成膜基板3上に薄膜を形成し得るようになされている。さらには、回転駆動部18により磁石ユニット14を回転させて、磁気トラックを回転させることで、ターゲット13上の発生する浸食(エロージョン)の集中を防ぎ、ターゲット利用効率を高めることを可能にする。かくして、マグネトロンスパッタ装置1は、真空容器2の壁部に対向するように設けられた磁界発生装置10,11により、被成膜基板3の両成膜面にそれぞれ薄膜を形成し得るようになされている。
【0027】
(1−2)磁石ユニットの概略
ここで、図2に示すように、本発明を適用できる磁石ユニット14は、例えば円盤状の磁性板20に第1磁石21と第2磁石22とが設けられた構成を有し、この第2磁石22が回転自在に設けられ、当該第2磁石22が回転することで磁極が変化して磁気トラックの形状を変更可能に構成されている点に特徴を有する。
【0028】
因みに、この磁石ユニット14は、磁性板20の円中心を貫く法線(z軸方向)を回転軸z1として回転駆動部18により回転され得るようになされており、被成膜基板3上に薄膜を形成する際、回転軸z1を中心に時計周り又は反時計回りに回転し続け、ターゲット13表面に均一な磁気トラックを生成し得るようになされている。
【0029】
第1磁石21は、磁性板20の周縁に沿って円形状に配置された第1磁石要素21aと、磁性板20上に固定され、第1磁石要素21aに取り囲まれた領域に配置された第2磁石要素21bとで構成されている。ここで、第2磁石要素21bは、円形状の一部が切り欠かれてC字状に形成されており、外周部に切欠き部23が設けられた構成を有する。具体的にこの第2磁石要素21bは、C字状の直径が、第1磁石要素21aの直径よりも小さく選定されており、第1磁石要素21aと所定間隔を設けて磁性板20上に固定されている。
【0030】
なお、この実施の形態の場合、第1磁石21は、円形状の第1磁石要素21aと、C字状の第2磁石要素21bと、円盤状の磁性板20とが同心状に配置され、エポキシ系接着剤によりこれら第1磁石要素21a及び第2磁石要素21bが磁性板20に固定された構成を有する。また、第1磁石21は、例えば第1磁石要素がN極からなり、第2磁石要素が第1磁石要素の磁極と異なる磁極であるS極からなり、第1磁石要素21a及び第2磁石要素21bが異なる磁極で形成されている。
【0031】
これに加えて、磁石ユニット14は、第2磁石要素21bの切欠き部23内に第2磁石22を備えており、この第2磁石22の磁極を必要に応じて変化させることにより、磁石ユニット14により形成される磁気トラックの形状を適宜変化させ得るようになされている。この実施の形態の場合、第2磁石22は、第2磁石要素21bの切り欠き部23にて軸方向が配置されており、一端部が磁性板20の中心点近傍に位置し、他端部が第1磁石要素21aの近傍に位置している。
【0032】
実際上、図3に示すように、第2磁石22は、円柱形状からなり、半円柱形状の第1磁極半体25aと、同じく半円柱形状で、かつ第1磁極半体25aの磁極(例えばN極)と異なる磁極(例えばS極)でなる第2磁極半体25bとから構成されている。第2磁石22は、軸方向が磁極板20の法線(z軸)に対して直交方向に配置されており、この軸方向を回転軸y1として回転することで、磁性板20に対する第1磁極半体25a及び第2磁極半体25bの配置状態が変化し、磁石ユニット14により形成される磁気トラックが変化し得る。
【0033】
なお、この第1の実施の形態の場合、被成膜基板3上に薄膜を形成する際、磁性板20自体が法線たる中心軸z1を中心に回転しているものの、第2磁石22は、所定の回転位置にて位置決めされ、所定の磁極状態に固定されたまま用いられ得る。
【0034】
ここで、第2磁石22を回転させて磁極の状態を変化させた場合に、磁石ユニット14により形成される磁気トラックがどのように変化するかについて説明する。ここでは、図4に示すように、第2磁石22の回転位置について、第2磁石22に回転基準線a1を設け、この回転基準線a1が磁性板20に定義した固定基準線a2に対してどの程度の回転角度θに位置決めされたかにより特定する。
【0035】
実際上、図4では、第2磁石22の回転軸y1と直角に配置され、かつ第1磁極半体25a及び第2磁極半体25bの各外周面中央を貫く線を回転基準線a1とし、磁性板20の面からの法線(z軸)を固定基準線a2とし、固定基準線a2からの回転基準線a1の回転角度θで第2磁石22の回転の程度を表している。
【0036】
具体的に、回転角度θが0度の場合は、磁性板20の固定基準線a2と第2磁石22の回転基準線a1とが一致し、ターゲット13(図4において図示せず)側にN極たる第1磁極半体25aの外周面がほぼ全て露出し、第1磁極半体25aだけがターゲット13に対向した状態となる。
【0037】
これに対して、回転角度θが90度の場合は、磁性板20の固定基準線a2に対し第2磁石22の回転基準線a1が90度の位置(第1磁極半体25a及び第2磁極半体25bの境界が固定基準線a1と一致した状態)にあり、ターゲット13側にN極たる第1磁極半体25aと、S極たる第2磁極半体25bとの外周面が等しく露出し、これら第1磁極半体25aの外周面と、第2磁極半体25bの外周面が同じ割合でターゲット13に対向した状態となる。
【0038】
また、回転角度θが180度の場合は、磁性板20の固定基準線a2と第2磁石22の回転基準線a1とが一致し、ターゲット13側にS極たる第2磁極半体25bの外周面がほぼ全て露出し、第2磁極半体25bだけがターゲット13に対向した状態となる。因みに、この実施の形態の場合、第2磁石22は、磁性板20に形成された開口部20a内に一部が埋め込まれるように配置されており、磁性板20からの突出の程度が抑制され、磁石ユニット14全体の薄型化が図られている。
【0039】
そして、第2磁石22の回転角度θを所定の角度に調整して磁極状態を固定しつつ、磁性板20も回転させることなく静止させた状態での磁気トラックを調べたところ、図5A〜図5Fに示すような磁気トラックJTとなることが確認できた。なお、図5A〜図5Fの結果が得られる検証試験については、後述する「(1−5)検証試験について」にて説明する。
【0040】
このような磁石ユニット14において、第2磁石22を36度毎に回転させたときのターゲット13上の磁束密度と、磁気トラックJTの形状とを示したものが図5A〜図5Fである。なお、図5A〜図5Fでは、磁性板20の面をx軸及びy軸のxy平面とし、このxy平面と直交しターゲット13表面に垂直な方向をz軸とし、ターゲット13表面を磁場測定手段(例えばテスラメーター)により全面走査測定し、そのうちz軸方向の成分BZが、BZ=0となる箇所を結んだものを磁気トラックJT(ターゲット13表面にエロージョンが発生する箇所)としている。
【0041】
例えば、図5Aに示すように、第2磁石22の回転角度θが0度のとき、磁気トラックJTの形状は、外周の一部領域から中心領域まで切り欠かれた凹状の形状になり得る。また、図5Bに示すように、第2磁石22の回転角度θが36度のときや、図5Cに示すように、第2磁石22の回転角度θが72度のときでは、磁気トラックJTの形状が凹状の形状になるものの、回転角度θが大きくなるに従って、外周の一部領域から中心領域まで切り欠かれた凹みの程度が次第に小さくなってゆく。
【0042】
さらに、図5Dに示すように、第2磁石22の回転角度θが108度のとき、磁気トラックJTの形状は、外周の一部領域が僅かに窪んだ状態となり得る。そして、図5Eに示すように、第2磁石22の回転角度θが144度のときや、図5Fに示すように、第2磁石22の回転角度θが180度のときでは、回転角度θが大きくなるに従って、磁気トラックJTの外周の窪みが小さくなってゆき、当該磁気トラックJTがほぼ円形状になり得る。このように、磁気トラックJTは、第2磁石22の回転状態が変わることで凹状や円形状に変化し、所望の形状に調整し得ることが確認できた。
【0043】
ここで、図6Aは、第2磁石22の磁極位置を調整して、磁石ユニット14が無回転のときに、ターゲット13表面において円形状となった磁気トラックJTを示す。そして、図6Bは、磁気トラックJTを図6Aに示すような円形状とし、そのまま磁石ユニット14を無回転又は回転させて被成膜基板3に成膜した場合に、ターゲット13表面に形成されるエロージョンを示したものである。この場合、図6Bに示すように、ターゲット13の表面には、磁気トラックJTと対向する縁側の領域が大きく侵食されたエロージョンが形成され得る。これにより、図6Cに示すように、被成膜基板3には、ターゲット13に形成されたエロージョンに対向する領域の膜厚が、エロージョンのないターゲット13中央に対向する領域の膜厚よりも厚い薄膜3aが形成される。
【0044】
一方、図7Aは、第2磁石22の磁極位置を調整して、磁石ユニット14が無回転のときに、ターゲット13表面において凹形状となった磁気トラックJTを示す。そして、図7Bは、磁気トラックJTを図7Aに示すような凹形状とし、そのまま磁石ユニット14を回転させて被成膜基板3に成膜した場合に、ターゲット13表面に形成されるエロージョンを示したものである。この場合、図7Bに示すように、ターゲット13には、磁気トラックJTと対向する縁側部分が大きく侵食され、中央領域が僅かに侵食されたエロージョンが形成され得る。これにより、図7Cに示すように、被成膜基板3には、ほぼ均一な膜厚の薄膜3aが形成される。
【0045】
さらに、図8Aは、第2磁石22の磁極位置を調整して、磁性板20が無回転のときに、ターゲット13表面において中央領域側が大きく凹んだそら豆形状になった磁気トラックJTを示す。そして、図8Bは、磁気トラックJTを図8Aに示すようなそら豆形状とし、そのまま磁石ユニット14を回転させて被成膜基板3に成膜した場合に、ターゲット13表面に形成されるエロージョンを示したものである。この場合、図8Bに示すように、ターゲット13には、磁気トラックJTと対向する縁側部分から中央領域までほぼ均一に侵食されたエロージョンが形成され得る。これにより、図8Cに示すように、被成膜基板3には、中央部分の領域の膜厚が、縁部分の領域の膜厚よりも厚い薄膜3aが形成される。
【0046】
このように、磁石ユニット14は、第2磁石22を所定の回転位置にて固定し、磁極の状態を調整することで、ターゲット13表面に形成される磁気トラックJTの形状を適宜変化させることにより、ターゲット13表面に形成されるエロージョンを変え、その結果、ターゲット13の利用効率が図れるとともに、被成膜基板3上の膜厚分布を変更し得るようになされている。
【0047】
(1−3)磁石ユニットの構成
実際上、磁界発生装置10の磁石ユニット14は、上面図である図9Aと、側断面図である図9Bと、下面図である図9Cとに示すように、第2磁石22を回転させる機構として磁極回転機構27が磁性板20に設けられている。なお、この第1の実施の形態においては、第2磁石22を所定の回転位置にて固定した状態で用いるようになされている。
【0048】
この場合、磁極回転機構27は、磁性板20上に固定された第1ベアリング28a及び第2ベアリング28bと、これら第1ベアリング28a及び第ベアリング28b間に回転自在に設けられた円柱状の軸部材29と、軸部材29に設けられた歯車30aと、歯車30aに噛み合う固定歯車30bとで構成されている。第2磁石22は、軸部材29と同心状に設けられており、第1ベアリング28a及び第2ペアリング28b間に配置され、磁性板20に回転自在に軸支されている。
【0049】
なお、この実施の形態の場合、磁極回転機構27は、第1ベアリング28aが磁性板20の中心より僅かに外れ、第2磁石要素21bの近傍位置に配置されており、第1ベアリング28aと対向する第2ベアリング28bが第1磁石要素21aの近傍に配置されている。
【0050】
歯車30aは、所定直径のかさ歯車形状で、その中央部分に穿設された貫通孔(図示せず)に軸部材29が嵌合されて第2磁石22及び第1ベアリング28a間において軸部材29に固定され得る。固定歯車30bは、所定直径のかさ歯車形状で、その中央部分に設けた軸部(図示せず)が磁性板20に対し回転自在に設けられ、頭部に設けられた固定ねじ31により磁性板20に対し固定され、非回転状態となり得る。
【0051】
磁極回転機構27は、固定歯車30bと歯車30とが噛み合わされ、固定手段としての固定ねじ31を緩めて固定歯車30bを回転させることにより、歯車30aが固定歯車30bの回転方向と直交する回転方向に回転し、これに応じて軸部材29が回転することで第2磁石22も回転し得る。磁極回転機構27は、第2磁石22を所望の角度位置まで回転した後、固定歯車30bが固定ねじ31により固定されることにより、第2磁石22が非回転状態となり磁性板20に対し所定の磁極状態で固定され得る。
【0052】
因みに、この実施の形態の場合、磁極回転機構27は、第2磁石22が第1磁石要素21aよりも厚みを有するものの、磁性板20を貫通した開口部20a内に第2磁石22の一部が位置決めされていることから、第2磁石22の直径方向の厚みと、第1磁石要素21a及び磁性板20を合わせた厚みとがほぼ等しくなり、全体として薄型化が図られ、かつ歯車30aが固定歯車30bと確実に噛み合うように設計されている。
【0053】
また、この実施の形態の場合、磁極回転機構27は、磁性板20の厚み方向(z軸)に歯車30aの直径が配置されているものの、当該歯車30aの配置位置に対応して磁性板20に歯車用開口部20bが形成され、この歯車用開口部20bに歯車30aが収納されることで当該歯車30aが、第1磁石要素21a及び磁性板20の厚みから突出することなく薄型化が図られている。
【0054】
さらに、この実施の形態の場合、磁極回転機構27は、固定歯車30bの配置位置に固定歯車30bの外郭形状に合わせた凹んだ段差部20cが形成され、この段差部20cに固定歯車30bが収納され、磁性板20の表面から固定歯車30bが突出することが抑制されており、全体として薄型化が図られている。
【0055】
(1−4)作用及び効果
以上の構成において、磁石ユニット14では、S極及びN極の異なる磁極を有した第2磁石22を磁性板20に回転自在に軸支するようにしたことにより、磁性板20上に配置された磁極を取り外すことなく、第2磁石22を単に回転させるだけで、磁石ユニット14全体で形成される磁気トラックJTの形状を最適な形状へと変えることができる。
【0056】
以上の構成によれば、異なる磁極を有し、磁性板20に回転自在に軸支した第2磁石22を設け、第2磁石22を回転させることで磁極を変化させ、ターゲット13の表面に形成される磁気トラックJTの形状を変化させるようにしたことにより、磁性板20上に配置された磁極を取り外すことなく、磁気トラックJTの形状を最適な形状へと変えることができ、かくして磁極を取り外す時間や手間をかけずに磁気トラックJTを容易に変更できるとともに、その分だけコスト低減も図り得る。
【0057】
(1−5)検証試験について
因みに、上述した図5A〜図5Fに示す結果は、図10に示すような磁石ユニット35を用いて得られた結果である。検証試験に用いた磁石ユニット35は、磁性板20として、SS400の材料で、厚み12[mm]、直径160[mm]の磁性板を用いた。このような磁性板20上に第1磁石36を固定した。ここで第1磁石36は、直方体状でなる複数の磁石体37と、C字状の第2磁石要素36bとを用意し、磁性板20の縁部に沿って円形状になるように磁石体37を並べてゆき磁性板20上に固定することで第1磁石要素36aを形成し、この第1磁石要素36aに取り囲まれた中心領域に第2磁石要素36bを固定した。
【0058】
その際、第1磁石要素36aは、ターゲット13側にN極が現れるように固定し、第2磁石要素36bは、ターゲット13側にS極が現れるように固定した。第1磁石要素36a及び第2磁石要素36bは、接着剤(製品名、アラルダイト)を用いて磁性板20に接着して固定した。一方、第2磁石22は、第2磁石要素36bのコ字状の切り欠き部38に、ベアリング(図示せず)により回転可能な状態で設置した。第2磁石22は直径が32[mm]、長さが55[mm]のものを用いた。また、磁性板20の中心から約7[mm]離して第2磁石22の一端を配置した。
【0059】
なお、第1磁石36及び第2磁石22には信越化学工業製のマグネットN48M(エネルギー積48MGOe)を使用した。図11に示すように、第1磁石36は、磁性板20表面からの高さH1が30[mm]のものと用いた。カソード容器16には、縁部に非磁性材料でなる裏板40を設け、飽和磁束密度が2.4Tの鉄コバルト合金からなる直径160[mm]のターゲット13をこの裏板40上に設けた。第1磁石36及び第2磁石22と裏板40との隙間を1[mm]とし、裏板40の厚みを8[mm]とし、ターゲット13の厚みを3[mm]とし、これらを全て合わせた第1磁石及び第2磁石の上面からターゲット13表面までの高さH2を12[mm]とした。そして、このターゲット13表面を磁場分布確認面として磁場を測定したところ、図5A〜図5Fに示す結果が得られたものである。なお、図11において、41は磁力線を示す。
【0060】
因みに、磁気トラックJT近傍のターゲット面内方向の磁場強度も50[mT]以上あり、放電可能な磁場強度であると言え、本発明による磁石ユニット35は十分に使用に耐え得るものであることが確認できた。第2磁石22の両端に設けたベアリングは、外径が21[mm]、内径12[mm]、幅5[mm]のマルテンサイト系のステンレスにより形成されているが、ベアリング取り付けの有無による磁気トラックJTの形状変化は軽微であった。さらに、シミュレーションによって第2磁石22に加わる力も求めた。ターゲット13として飽和磁束密度が2.4[T]の材料を磁石ユニット35の開口面から約12[mm]離れた箇所に固定しても、第2磁石22のアキシャル方向には最大100[N]、ラジアル方向で最大500[N]の斥力が加わる程度で、上述したベアリングの使用に十分耐え得るものであった。
【0061】
(2)第2の実施の形態
図9Bとの対応部分に同一符号を付して示す図12において、45は第2の実施の形態による磁界発生装置を示し、この磁界発生装置45は、磁性板20の回転に合わせて、第2磁石22も同時に回転する点で、上述した第1の実施の形態と相違している。なお、この場合、マグネトロンスパッタ装置の全体図は省略し、磁界発生装置45の近傍部分についてのみ説明する。
【0062】
実際上、磁界発生装置45は、磁石ユニット14を取り囲むように有底円筒状のカソード容器16が設けられており、当該カソード容器16の底部16aに磁石ユニット14を回転させる回転駆動部18が設けられている。また、カソード容器16には、底部16aと対向させるようにして縁部にターゲット(図1)が配置され、磁石ユニット14の開口面側にターゲットを位置させ得る。
【0063】
カソード容器16は、底部16aにベアリング47有した貫通孔48を備えており、回転駆動部18から延びる軸部材18aがこの貫通孔48を通過し得るとともに、ベアリング47により軸部材18aを軸支し得るようになされている。回転駆動部18は、軸部材18aの端部が磁性板20に設けた保持手段50に固定されており、軸部材18aを回転させて、当該軸部材18aの端部に固定された磁石ユニット14を回転させ得るようになされている。
【0064】
かかる構成に加えて、第2の実施の形態による磁界発生装置45は、連動手段としての遊星歯車機構51を有している。この場合、遊星歯車機構51は、回転駆動部18から延びる軸部材18aに設けられ、カソード容器16の底板16aと磁性板20との間に配置された太陽歯車51aと、この太陽歯車51aに噛み合いつつその周囲を公転するように磁性板20に軸支された遊星歯車51bとで構成されている。なお、この遊星歯車機構51には、遊星歯車51bの外周にリング状の内歯歯車を設け、この内歯歯車に遊星歯車51bを内接するようにしてもよく、この場合、内歯歯車により遊星歯車51bを安定して公転させることができる。
【0065】
ここで、遊星歯車51bは、第2磁石22が固定された軸部材29に有する歯車30aに噛み合われている。これにより、磁界発生装置45は、回転駆動部18により軸部材18aが回転されると、軸部材18aに固定された磁性板20が回転すると同時に、軸部材18aに固定された太陽歯車51aも回転し得る。これにより、太陽歯車51aは、遊星歯車51bに回転を伝達することで、遊星歯車51bを磁性板20とともに所定の公転周期で公転させ得る。そして、遊星歯車51bは、その回転を歯車30aに伝達し、軸部材29を回転させることで第2磁石22も回転させ得るようになされている。
【0066】
かくして、磁界発生装置45では、磁性板20の回転に合わせて、第2磁石22も同時に回転させることができ、磁気トラックJTの形状を、例えば図5A〜図5Fのような磁気トラックJTの形状に周期的に変化させつつ、被成膜基板3に所定の薄膜を形成し得る。因みに、第2磁石22の回転数は、磁石ユニット14の回転数や、太陽歯車51aと遊星歯車51bとの歯車比に依存して決定され得る。
【0067】
以上の構成において、この磁界発生装置45では、上述した第1の実施の形態による効果を奏し得るとともに、さらに磁性板20の回転に合わせて、第2磁石22も連動して回転させるようにしたことにより、磁気トラックJTの外郭形状を常に変化させながら、磁気トラックJTを回転させることができ、ターゲット13表面を満遍なく磁気トラックJTが行き渡るようになり、ターゲット13の利用効率を向上し得る。
【0068】
(3)第3の実施の形態
図12との対応部分に同一符号を付して示す図13において、55は第3の実施の形態による磁界発生装置を示し、この磁界発生装置55は、上述した第2の実施の形態とは磁性板20の回転数と独立して、第2磁石22の回転数を設定できる点で相違している。なお、この場合でも、マグネトロンスパッタ装置の全体図は省略し、磁界発生装置55の近傍部分についてのみ説明する。
【0069】
この場合、磁界発生装置55は、第2磁石22を回転させるための第2磁石用回転駆動部56がカソード容器16に設けられており、この第2磁石用回転駆動部56の軸部材56aに調整歯車57が固定されている。また、この磁界発生装置55にも遊星歯車機構58を有している。遊星歯車機構58の太陽歯車59は、回転駆動部18の軸部材18aにベアリング47を介して設けられている。この太陽歯車59には、所定直径の第1歯車部59aと第2歯車部59bとが対向するように形成されており、一方の第1歯車部59aに調整歯車57が噛み合わされ、他方の第2歯車部59bに遊星歯車51bが噛み合わされている。
【0070】
これにより第2磁石用回転駆動部56は、軸部材56aを回転させて調整歯車57を回転させると、これに応じて太陽歯車59が回転し、当該太陽歯車59の第2歯車部59bに噛み合わされた遊星歯車51bが回転し得る。これにより第2磁石用回転駆動部56は、遊星歯車51bの回転が歯車30aに伝達されて、歯車30aを回転させることで第2磁石22を回転させ得る。この際、太陽歯車59は、ベアリング57によって軸部材18aの回転に規制されることなく、調整歯車57の回転に応じて自由に回転し得るようになされている。かくして第2磁石用回転駆動部56は、回転駆動部18とは独立して第2磁石22を回転させ得るようになされている。
【0071】
また、この磁界発生装置55は、第2磁石用回転駆動部56を停止させた状態で、回転駆動部18だけを回転させることもできる。この場合、磁界発生装置55は、太陽歯車59を軸部材18aに固定することで、上述した第2の実施の形態と同様に、当該軸部材18aの回転により太陽歯車59も回転し、これに応じて太陽歯車59に噛み合っている遊星歯車51b及び歯車30aも回転し得、かくして磁性板20を回転させると同時に第2磁石22をも回転させることができる。
【0072】
さらに、この磁界発生装置55は、磁性板20の回転角速度と、太陽歯車59の回転角速度とが等しくないように、第2磁石用回転駆動部56の回転を調整することで、第2磁石22が磁性板20上において相対的に回転が停止された状態となり得、上述した第1の実施の形態と同様に、磁性板20だけを回転させる状態を実現することができる。
【0073】
以上の構成において、磁界発生装置55では、磁性板20を回転させる回転駆動部18とは別に、第2磁石22を回転させるための第2磁石用回転駆動部56を設けるようにしたことにより、第2磁石22を磁性板20の回転とは別に制御でき、第2磁石22を種々の回転角速度で回転させたり、或いは第2磁石22の回転を停止させ磁極状態を固定させたりすることができる。すなわち、この磁界発生装置55では、上述した第1の実施の形態の磁界発生装置10のような動作や、第2の実施の形態による磁界発生装置45のような動作を実行し得、第2磁石22の回転について一段と細かな制御を行え、各種条件に応じた磁気トラックJTを容易に形成することができる。
【0074】
(4)第4の実施の形態
図2との対応部分に同一符号を付して示す図14において、65は第4の実施の形態による磁石ユニットを示し、この磁石ユニット65は、第1磁石要素21a及び磁石要素群66からなる第1磁石67が磁性板20に設けられているとともに、磁極が変更可能な第2磁石22が磁性板20に設けられている他、さらに第2磁石22と同様に磁極が変更可能な第3磁石68が磁性板20に設けられた構成を有する。
【0075】
この場合、磁石要素群66は、磁性板20上において、円形状の第1磁石要素21aに取り囲まれた領域に配置されている。磁石要素群66は、所定の弧長でなる湾曲状に曲がった第2磁石要素66a及び第3磁石要素66bと、中心部に配置された棒状の第4磁石要素66cとで構成されている。
【0076】
第2磁石要素66a及び第3磁石要素66bは、所定間隔を空けて湾曲状に凹んだ領域が対向するように配置され、第2磁石要素66a及び第3磁石要素66bの中心線上に第4磁石要素66cが配置されている。ここで第2磁石要素66a、第3磁石要素66b及び第4磁石要素66cは、全て同じ磁極からなり、かつ第1磁石要素21aの磁極と異なる磁極から構成されている。すなわち、第1磁石要素21aがN極の場合には、第2磁石要素66a、第3磁石要素66b及び第4磁石要素66cは全てS極から構成されることになる。
【0077】
また、磁性板20には、第4磁石要素66cを挟むようにして円柱形状の第2磁石22及び第3磁石68が配置され、第2磁石22及び第3磁石68がそれぞれ第1ベアリング28a及び第2ベアリング28bにより回転自在に軸支されている。第3磁石68は、上述した第2磁石22と同一構成を有しており、図3に示したように、半円柱形状の第1磁極半体25aと、同じく半円柱形状で、かつ第1磁極半体25aの磁極と異なる磁極でなる第2磁極半体25bとから構成されている。
【0078】
これら第2磁石22及び第3磁石68は、軸方向に延びる回転軸y1が、磁極板20の法線(z軸)に対して直角に配置され、回転軸y1を中心に回転することで、磁性板20に対する第1磁極半体25a及び第2磁極半体25bの配置状態が変化し、磁石ユニット65により形成される磁気トラックJTが変化し得る。なお、この実施の形態の場合、第2磁石22及び第3磁石68は磁性板20上にほぼ一直線状に配置されている。
【0079】
このように磁石ユニット65では、第2磁石22及び第3磁石65が連動することなくそれぞれ個別に回転し、第2磁石22及び第3磁石65の磁極をそれぞれ自由に変化させることで磁気トラックJTを最適な形状に調整し得るようになされている。
【0080】
ここで、図15Aは、第2磁石22及び第3磁石65の磁極位置を調整して、磁石ユニット65が無回転のときに、ターゲット13表面において中心領域に向かって窪んだ2つの凹状領域が形成された磁気トラックJTを示す。そして、図15Bは、磁気トラックJTを図15Aに示すような2つの凹状領域のある形状とし、そのまま磁石ユニット65を回転させて被成膜基板3に成膜した場合に、ターゲット13表面に形成されるエロージョンを示したものである。この場合、図15Bに示すように、ターゲット13の表面には、磁気トラックJTと対向する領域全体を、比較的均一に侵食させたエロージョンを形成し得る。
【0081】
このようにして磁石ユニット65は、図15Aに示したような2箇所の窪みを有し、ターゲット13外周の磁気トラック長を減らした磁気トラックJTを形成し得、ターゲット13外周付近でのエローション速度を遅くし得る。なお、このような磁石ユニット65では、静止対向成膜よりも、オフセット成膜(すなわち、被成膜基板3の中心を、ターゲット13の中心からずらしたオフセット成膜)の場合において有効である。
【0082】
なお、上述した第4の実施の形態においては、第2磁石22及び第3磁石68を回転駆動させる機構としては、第1の実施の形態による磁界発生装置10の機構や、上述した第2の実施の形態による磁界発生装置45の機構、第3の実施の形態による磁界発生装置55の機構等その他種々の機構を組み合わせてもよい。
【0083】
(5)第5の実施の形態
図10との対応部分に同一符号を付して示す図16と、図16の断面構成を示す図17において、70は第5の実施の形態による磁石ユニットを示し、この磁石ユニット70は、第1磁石71の構成が上述した第1〜第3の実施の形態と相違している。この場合、第1磁石71は、一端部72aにN極が配置され他端部72bにS極が配置された棒状の磁石体72から構成されており、これら複数の磁石体72が磁性板20の外側領域に一方の磁極が配置され、磁性板20の内側領域に他方の磁極が配置され得るようにして磁性板20の中心点から外側へ放射状に延びるように配置されている。
【0084】
磁性板20には、法線と直交した方向を軸方向として回転自在に軸支された第2磁石22を避けるようにして、第1磁石71の磁石体72が配置されて得る。磁石ユニット70でも、第2磁石22が磁極を変化可能の構成されていることから、上述した第1の実施の形態の磁石ユニット14と同様の効果を得ることができる。
【0085】
なお、例えば第5の実施の形態においては、保持板として、磁性を有した磁性板20を用いた場合について述べたが、本発明はこれに限らず、非磁性の非磁性板を保持板として用いてもよい。
【0086】
(6)他の実施の形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能であり、例えば、図1との対応部分に同一符号を付して示す図18に示すように、基板設置台76に被成膜基板3を載置し、当該被成膜基板3と対向するようにして例えば上述した第1の実施の形態による磁界発生装置10が設けられたマグネトロンスパッタ装置75を適用してもよい。なお、この場合、マグネトロンスパッタ装置75では、上述した第2及び第3の実施の形態による磁界発生装置45,55を適用してもよく、また第4又は第5の実施の形態による磁石ユニット65,70を適用してもよい。
【0087】
因みに、このようなマグネトロンスパッタ装置75では、磁界発生装置10に電源15が接続され、当該電源15から直流電力が磁界発生装置10に供給され得る。磁界発生装置10は、真空容器2内にターゲット13が設けられており、磁石ユニット14からの磁力線を真空容器2内のターゲット13表面に発生させ得るようになされている。このようなマグネトロンスパッタ装置75でも、ターゲット13に投入された電力によって発生した電界との作用により、プラズマを閉じ込め高密度プラズマをターゲット13表面に発生させ得る。
【0088】
この際、磁石ユニット14では、S極及びN極の異なる磁極を有した第2磁石22を磁性板20に回転自在に軸支するようにしたことにより、磁性板20上に配置された磁極を取り外すことなく、第2磁石22を単に回転させるだけで、磁石ユニット14全体で形成される磁気トラックJTの形状を最適な形状へと変えることができる。かくしてマグネトロンスパッタ装置75でも、磁極を取り外す時間や手間をかけずに磁気トラックJTを容易に変更できるとともに、その分だけコスト低減も図り得る。
【0089】
さらに、上述した実施の形態においては、第1磁石のうち、第1磁極要素に囲まれた領域に配置され、外周の一部が切り欠かれた第2磁極要素として、C字状の第2磁石要素21b,36bを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、コ字状、V字状、U字状等の外周形状を有し、この外周の一部が種々の形状で切り欠き部が設けられた第2磁極要素を適用してもよい。また、第1磁極要素について円形状の21a,36aを適用したが、例えばC字状、コ字状、V字状、U字状等その他種々の外周形状を有した第1磁極要素を適用してもよい。
【0090】
さらに、上述した実施の形態においては、第2磁石として、円柱形状でなる第2磁石22,68を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、すなわち、第1磁極半体と、第1磁極半体の磁極と異なる磁極でなる第2磁極半体とが連結した構成を有した第2磁石であればよく、例えば断面楕円状、三角状、四角状、多角形状等その他種々の断面形状を有した柱状の第2磁石や、或いは球状や立方体状等その他種々の形状でなる第2磁石を適用してもよい。
【0091】
さらに、上述した実施の形態において、第2磁石22,68は、例えばN極の第1磁極半体と、S極の第2磁極半体とが一体形成された磁極体を切削してゆき製造するようにしてもよく、また、例えば半円柱形状の第1磁極半体と、これとは別体でなる半円柱形状の第2磁極半体とを用意し、これら第1磁極半体及び第2磁極半体を連結させて円柱形状の第2磁石22,68を製造するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 マグネトロンスパッタ装置
13 ターゲット
14 磁石ユニット
18 回転駆動部
20 磁性板(保持板)
21 第1磁石
21a 第1磁極要素
21b 第2磁極要素
22 第2磁石
25a 第1磁極半体
25b 第2磁極半体
31 固定ねじ(固定手段)
51 遊星歯車機構(連動手段)
56 第2磁石用回転駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネトロンスパッタ装置に用いられる磁石ユニットであって、
ターゲットが対向するように配置される保持板と、
前記保持板に設けられた第1磁石と、
前記保持板上に設けられ、異なる磁極を有する第2磁石とを備え、
前記第2磁石は、前記保持板に回転自在に軸支され、回転することで前記磁極を変化させて、前記ターゲットの表面に形成される磁気トラックの形状を変化させる
ことを特徴とする磁石ユニット。
【請求項2】
前記第2磁石は、第1磁極半体と、前記第1磁極半体の磁極と異なる磁極でなる第2磁極半体とにより構成され、前記保持板の法線との直交方向に回転軸を備え、前記回転軸を中心に前記保持板上で回転することで、前記第1磁極半体及び又は第2磁極半体が前記ターゲット側に配置される
ことを特徴とする請求項1記載の磁石ユニット。
【請求項3】
前記第1磁石は、前記保持板に配置された第1磁極要素と、前記第1磁極要素に囲まれた領域に配置され、外周の一部が切り欠かれた第2磁極要素とを備え、
前記第2磁石が、前記第2磁石要素の切り欠かれた切り欠き部に配置されている
ことを特徴とする請求項1又は2記載の磁石ユニット。
【請求項4】
前記保持板には開口部が形成されたおり、前記開口部に前記第2磁石の一部が配置されている
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載の磁石ユニット。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1項記載の磁石ユニットと、
前記磁石ユニットを回転させる回転駆動部と、
前記磁石ユニットの所定角度に調整された第2磁石を非回転状態で固定する固定手段と
を備えることを特徴とする磁界発生装置。
【請求項6】
請求項1〜4のうちいずれか1項記載の磁石ユニットと、
前記磁石ユニットを回転させる回転駆動部と、
前記回転駆動部の回転を前記磁石ユニットの第2磁石に伝達し、前記磁石ユニットの回転と連動させて前記第2磁石も回転させる連動手段と
を備えることを特徴とする磁界発生装置。
【請求項7】
請求項1〜4のうちいずれか1項記載の磁石ユニットと、
前記磁石ユニットを回転させる回転駆動部と、
該回転駆動部とは別に前記磁石ユニットの第2磁石を回転させる第2磁石用回転駆動部と
を備えることを特徴とする磁界発生装置。
【請求項8】
磁界発生装置によってスパッタリング領域内に磁界を発生させて、プラズマを前記磁界内に閉じ込めることにより、原子をターゲット表面に衝突させ、前記ターゲットと対向した被成膜基板に薄膜を形成するマグネトロンスパッタ装置であって、
前記磁界発生装置が請求項5〜7のうちいずれか1項記載の磁界発生装置である
ことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図5】
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