説明

神経刺激装置

【課題】交感神経に長時間刺激を与えることを防止するとともに、容易に電極の位置を決定することができる神経刺激装置を提供する。
【解決手段】血管内に挿入される神経刺激電極5と、神経刺激電極5に接続され、迷走神経を刺激するパルスを発生する神経刺激出力回路11と、心拍を検出する心拍検出用電極6と、心拍検出用電極6により検出された心拍の周期から心拍数を算出する心拍検出回路12と、心拍検出回路12により算出された心拍数に基づいて神経刺激電極5の位置を決定する制御回路13とを備える神経刺激装置1を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経刺激装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、神経組織や筋肉等の生体組織(線状組織)に電気的刺激を与えて治療を行う神経刺激装置が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。このような神経刺激装置の適用例としては、例えば、疼痛緩和装置、てんかん治療装置、および筋肉刺激装置等が挙げられる。
【0003】
これらの神経刺激装置は、電気的刺激が伝達される電極リードを生体内の刺激対象に近接させるため、電極リードを生体に埋め込んで使用される場合がある。具体的には、生体内の迷走神経に電気刺激を行うことで、例えば心拍数を低下させて頻拍等の治療効果を得ることができる。また、急性心筋梗塞の発症直後に迷走神経の刺激を行うことで、予後の改善につながることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−506618号公報
【特許文献2】特表2008−535624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、血管内へ電極を設置する場合、必要とする治療効果を得るためには、血管内における電極の位置が重要になる。例えば、心拍数低下を必要とする場合は、血管と並走する迷走神経に近い内壁面側に電極を配置することが効果的である。このような配置とすることで、少ないエネルギーで迷走神経を刺激することができる。一方、迷走神経からの距離が大きいほど刺激の効果は低くなる。
【0006】
また、交感神経が血管付近にある場合、電極が交感神経に近づいた場合には、心拍数が上昇するなどの逆効果となる恐れがあり、長時間の刺激は避ける必要がある。したがって、電極の位置決めは、慎重に電極を移動させながら心拍数低下の効果を確認しつつ、迅速に最適位置を探していく必要がある。
【0007】
しかしながら、特許文献1および2に開示されている神経刺激装置では、電気刺激を連続して出力し、電極の位置を少しずつ移動させながら心拍数を確認して、最適位置の探索が行われていた。このような方法によれば、交感神経に長時間刺激を与えることとなり、人体への負担が大きいという不都合があった。また、刺激に対する生体の反応は、生体それぞれの特性・状態などで変化し、また経時的に変化する場合があり、術者の経験によって電極が最適位置か否かを判断しなければならないという不都合があった。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、交感神経に長時間刺激を与えることを防止するとともに、容易に電極の位置を決定することができる神経刺激装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、血管内に挿入される電極と、該電極に接続され、迷走神経を刺激するパルスを発生するパルス発生手段と、心拍を検出する心拍検出手段と、該心拍検出手段により検出された心拍の周期から心拍数を算出する心拍数算出手段と、該心拍数算出手段により算出された心拍数に基づいて前記電極の位置を決定する電極位置決定手段とを備える神経刺激装置を採用する。
【0010】
本発明によれば、パルス発生手段により発生されたパルスが、血管内に挿入される電極に伝達される。このパルスにより迷走神経が刺激され、心拍数を低減させることができ、頻拍等の症状を抑えることができる。この場合において、心拍検出手段により心拍が検出され、心拍数算出手段により心拍の周期から心拍数が算出される。そして、電極位置決定手段により、算出された心拍数に基づいて電極の位置が決定される。
【0011】
これにより、心拍数低減効果の高い位置、すなわち、血管内における好適な位置に電極を配置することができ、心拍数低減効果を向上することができる。また、このように電極の位置を決定することで、従来のように、電気刺激を連続的に出力してユーザーが効果を確認しながら電極の位置を探索するという作業を排除することができ、交感神経に長時間刺激を与えることを防止して、患者の負担を軽減することができる。
【0012】
上記発明において、前記電極位置決定手段が、前記心拍数算出手段により算出された心拍数が所定の閾値以下となった場合に前記電極の位置を決定することとしてもよい。
このようにすることで、電極の位置を容易に決定することができ、電極位置決定手段による演算処理量を小さくするとともに、交感神経に刺激が与えられる時間を短くして患者の負担を軽減することができる。
【0013】
上記発明において、前記電極位置決定手段により前記電極の位置が決定されたことを報知する報知手段を備えることとしてもよい。
このようにすることで、電極が心拍数低減効果の高い位置に配置されたことをユーザーが知ることができ、ユーザーの作業性を向上することができる。なお、報知手段の具体例としては、例えば、電極の位置が決定された際に報知音を鳴らすブザーや画面表示を行うモニタ等が挙げられる。
【0014】
上記発明において、前記心拍数算出手段により算出された心拍数が所定の閾値以下である場合、前記パルス発生手段がパルスの発生を停止させることとしてもよい。
このようにすることで、心拍数が所定の閾値以下となった場合に、パルスによる迷走神経の刺激をすぐに停止させることができ、迷走神経に対するダメージを最小限に抑えることができる。
【0015】
上記発明において、前記パルス発生手段が、迷走神経に刺激を与え始めてから心拍数低下が飽和するまでの時間よりも短い期間でパルスを発生させることとしてもよい。
パルス発生手段によりパルスを発生させて迷走神経の刺激を行う期間を、迷走神経に刺激を与え始めてから心拍数低下が飽和するまでの時間よりも短い時間とすることで、心拍数が刺激前の値に回復するまでの時間を短くすることができる。これにより、電極の位置を決定するために要する時間を短縮することができ、交感神経に刺激が与えられる時間を短くして患者の負担を軽減することができる。
【0016】
上記発明において、前記パルス発生手段は、電極位置決定のためのパルスを発生させる位置検出モードと、治療のためのパルスを発生させる治療モードとを切り替えられるように構成されていることとしてもよい。
このようにすることで、位置検出モードにより電極位置を決定し、決定された位置に電極を配置して治療モードによりパルスを発生させて心臓治療を行うことができる。
【0017】
上記発明において、前記パルス発生手段は、第1の期間パルスを発生させるモードと、前記第1の期間よりも時間の長い第2の期間パルスを発生させるモードとを切り替えられるように構成されていることとしてもよい。
このようにすることで、刺激開始後は短時間(第1の期間)で刺激を停止し、その後は長時間(第2の期間)で刺激を行うことができる。なお、刺激の開始直後は、電極が最適位置から離れている可能性が高いため、短時間(第1の期間)の刺激による心拍数の変化で電極位置の判断は可能であり、この間におおよその見当を付ける。その後、長時間(第2の期間)で心拍数の変化を比較することで、電極位置の微妙な違いを判断することが可能となる。
【0018】
上記発明において、前記電極を血管内で移動させる移動機構と、該移動機構を制御して、前記電極位置決定手段により決定された位置に前記電極を移動させる制御部とを備えることとしてもよい。
このような移動機構および制御部を備えることで、電極位置決定手段により決定された位置に電極を自動的に移動させることができ、ユーザーの作業性を向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、交感神経に長時間刺激を与えることを防止するとともに、容易に電極の位置を決定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る神経刺激装置の概略構成図である。
【図2】図1の神経刺激装置による刺激パルスの出力期間と心拍数との関係を示すグラフである。
【図3】図1の神経刺激装置により実行される処理を示すフローチャートであり、(a)は位置検出モード時、(b)は治療モード時の処理を示している。
【図4】第1の変形例に係る神経刺激装置の概略構成図である。
【図5】第2の変形例に係る神経刺激装置の概略構成図である。
【図6】従来の神経刺激装置による刺激パルスの出力期間と心拍数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る神経刺激装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る神経刺激装置1は、図1に示されるように、血管内に挿入される神経刺激電極(電極)5と、心拍を検出する心拍検出用電極(心拍検出手段)6と、神経刺激電極5および心拍検出用電極6に接続された神経刺激装置本体10とを備えている。
【0022】
神経刺激電極5は、血管内に挿入されて、血管内から迷走神経を刺激するための電極である。神経刺激電極5は、図示しないリード線により神経刺激装置本体10内の神経刺激出力回路11と接続されており、後述するように、神経刺激装置本体10から発生されるパルス状の電気刺激(刺激パルス)が伝達されるようになっている。神経刺激電極5は、血管の軸線方向や血管内壁に沿って移動させたり、血管の軸線回りに回転させることで、迷走神経の刺激位置を任意に変化させることができるようになっている。
【0023】
心拍検出用電極6は、心電信号を検出するための電極である。心拍検出用電極6は、図示しないリード線により神経刺激装置本体10内の心拍検出回路12と接続されており、検出した心電信号を神経刺激装置本体10に出力するようになっている。心拍検出用電極6の具体的な構成としては、患者の体表面に貼り付ける電極や、心内へ挿入する電極や、あるいは、神経刺激電極5と同様にリード線に電極が設置されて血管内に挿入される電極でも良い。また、心拍検出手段として、上記のような電極に代えて、脈圧を検出する圧力センサを採用することとしても良い。
【0024】
神経刺激装置本体10は、神経刺激電極5および心拍検出用電極6が接続された金属または樹脂製の筐体である。神経刺激装置本体10は、図1に示されるように、神経刺激出力回路(パルス発生手段)11と、心拍検出回路(心拍数算出手段)12と、制御回路(電極位置決定手段)13と、表示ディスプレイ(報知手段)14と、発音デバイス(報知手段)15と、操作スイッチ(以下「操作SW」という)16と、電池17とを備えている。
【0025】
神経刺激出力回路11は、パルス状の電気刺激(刺激パルス)を出力し、リード線および神経刺激電極5を介して生体内の迷走神経に刺激を与えるようになっている。電気刺激の波形パラメータとしては、例えば、電圧が0〜20V程度、パルス幅が0〜1ms、周波数が5〜20Hzの範囲で設定できるようになっている。
【0026】
心拍検出回路12は、心拍検出用電極6から得られた心電信号から心拍数を算出する回路である。なお、心拍検出手段として、脈圧を検出する圧力センサを採用した場合には、心拍検出回路12は、圧力センサからの圧力信号から心拍数を算出する。
【0027】
表示ディスプレイ14は、例えばLCDデバイスやLED表示デバイス等であり、刺激パルスの設定パラメータや、患者の心拍数や、制御回路13により計算された心拍数低減効果を表示するようになっている。
発音デバイス15は、例えばスピーカーやブザー等であり、操作者に対して報知音を発するようになっている。
【0028】
操作SW16は、例えばスイッチやタッチパネル等であり、刺激パルスの設定パラメータ等を操作者が入力することができるようになっている。また、操作SW16は、神経刺激装置1の動作モードを切り替える動作モード切り替えスイッチを有している。具体的には、動作モード切り替えスイッチにより、血管内における神経刺激電極5の位置を決定する位置検出モードと、決定された位置に配置された神経刺激電極5に刺激パルスを伝達して頻拍等の治療を行う治療モードとが切り替えられる。
【0029】
電池17は、各デバイスを動作させるための電源であり、例えば1次電池、あるいは充電可能な2次電池である。また、電源17に代えて、ACアダプターによる電源供給を行うこととしても良い。
【0030】
制御回路13は、図示しないCPUおよびメモリが内蔵されており、メモリに記録されたソフトウェアをCPUにより読み出して、神経刺激出力回路11および心拍検出回路12を始め、各部の制御を行うようになっている。具体的には、制御回路13は、心拍検出回路12により算出された心拍数が予め設定された所定の閾値よりも小さくなった場合に、血管内における神経刺激電極5の位置を、最適位置として決定するようになっている。
【0031】
また、制御回路13は、神経刺激出力回路11を制御して、迷走神経に刺激を与えてから心拍が安定するまでの時間よりも短い時間に、神経刺激出力回路11から刺激パルスを出力して迷走神経の刺激を行うようになっている。この刺激パルスの出力期間の設定方法について、図2および図6を用いて以下に説明する。
【0032】
図2は、本実施形態に係る神経刺激装置1において、神経刺激電極5による刺激パルスを断続的に出力した場合の心拍数の変化を示している。なお、図2において、刺激パルスは、開始時刻t2と開始時刻t3の2回出力されている。開始時刻t2は、神経刺激電極5の位置が迷走神経の直近からわずかに外れた時の刺激パルスの出力開始のタイミングである。開始時刻t3は、神経刺激電極5の位置が迷走神経に接近した最適位置にある時の刺激パルスの出力開始のタイミングである。符号D2は、開始時刻t2のタイミングで刺激パルスが出力期間T1だけ出力された場合の心拍数の低下幅を示している。符号D3は、開始時刻t3のタイミングで刺激パルスが出力期間T1だけ出力された場合の心拍数の低下幅を示している。
【0033】
図6は、従来の神経刺激装置において、連続的に刺激パルスを出力した場合の心拍数の変化を示している。
従来の神経刺激装置によれば、図6に示すように、刺激パルスを心拍数が最低値に落ち着くまで出力し(出力期間T)、その際の心拍数の低下幅D1を計測して、心拍数低減効果を判断する。この場合には、最低心拍数に落ち着くまでは、ある程度の時間を要する。また、この心拍数の低下幅D1は生体の状態等により安定しないため、心拍数の最低値を見つけにくいという不都合がある。
【0034】
これに対して、本実施形態に係る神経刺激装置1によれば、図2に示すように、神経刺激電極5の位置が迷走神経の直近からわずかに外れた場合(開始時刻t2)と、神経刺激電極5の位置が迷走神経に接近した最適位置にある場合(開始時刻t3)のいずれの場合も、刺激パルスの出力を、心拍数が低下して安定する前に停止させる。すなわち、刺激パルスの出力期間T1は、迷走神経に刺激を与えてから心拍が安定するまでの時間よりも短い時間である。
【0035】
この出力期間T1に出力された刺激パルスによる効果を、時刻t2と時刻t3の2つの場合で比較する。すなわち、心拍数の低下幅D1と心拍数の低下幅D2とを比較することで、神経刺激電極5の位置を変化させたことによる心拍数低減効果の影響を知ることができる。
【0036】
上記構成を有する神経刺激装置1の作用について、図3(a)、図3(b)に示すフローチャートに従って以下に説明する。
まず、電源スイッチをONにすると動作切り替えスイッチ(モード切り替え手段)の状態により、位置検出モード(図3(a)のステップS1)、または治療モード(図3(b)のステップS12)のいずれか選択された動作モードに切り替わる。また、この動作切り替えスイッチは常時確認が行われ、状態が切り替わった場合には、割り込み処理によりステップS1、あるいはステップS12に移行する。
【0037】
位置検出モードが選択されている場合には、電気刺激の出力は行わず、待機状態となる。なお、この間、心拍数の取得は継続して行われる。
次に、開始スイッチをONにすることにより電気刺激を開始し(ステップS2)、基準心拍数P1を取得して(ステップS3)、心電波形から心拍数を繰り返し計測する。ただし、基準心拍数P1が取得できない場合は、アラームを発し、電気刺激は開始しない。
【0038】
ここで、基準心拍数P1は、休止期間(刺激パルスを出力しない期間)における心拍数、すなわち、開始スイッチをONにする直前の心拍数である。この基準心拍数P1は、開始スイッチをONにする直前の値を数回(例えば3回)算出し、これらの値を平均して求める。心拍数は、心電波形から1回の心拍間隔を計測し、1分間当たりの拍動回数に換算して求めることができる。
【0039】
基準心拍数P1は、位置検出モードの出力を停止した段階でクリアされ、次回位置検出モードを開始することで再取得される。なお、基準心拍数P1は、開始スイッチをONにした後、刺激パルスを出力する直前までに取得すれば良い。
【0040】
次に、刺激パルスの出力を開始する(ステップS4)。
具体的には、図2に示すように、生体の反応が最低心拍数に落ち着く時間より短い、予め設定された一定の時間(出力期間T1)で、刺激パルスの出力を停止する。この際、出力期間T1は、固定値とし、例えば一般的に心拍数が安定する時間(例えば20〜30秒程度)よりも十分短い時間(例えば3秒)とする。この出力期間T1は、生体の反応状態に合わせて術者が設定することができる。また、休止時間T2は、心拍数が刺激前の値に回復するのに十分な時間(例えば10秒)とする。
【0041】
なお、休止時間T2を固定せずに、刺激パルスの出力中に心拍数を連続してモニタして、刺激開始時の基準心拍数P1に回復した場合には、次の刺激パルスの出力を開始することとしても良い。
また、測定された心拍数が基準心拍数P1に回復した場合には、次の開始スイッチがONにされるまで待機状態にして、ユーザーが開始スイッチをONにするまでは刺激パルスを出力しない動作モードとしても良い(半自動モード)。
【0042】
ここで、出力期間T1を自動的に決定することも可能である。具体的には、出力期間T1を基準心拍数P1に応じて変化させることとし、基準心拍数P1が小さな場合には出力期間T1を長くし、基準心拍数P1が大きな場合には出力期間T1を短くする。例えば、基準心拍数P1が50bpmの場合には出力期間T1を5秒とし、基準心拍数P1が200bpmの場合には出力期間T1を2秒とし、この範囲で基準心拍数P1に比例して出力期間T1を変化させる。
【0043】
また、出力期間T1を、初めのうちは短時間(第1の期間)、刺激パルスを発生させるモードで設定し、後に長時間(第2の期間)、刺激パルスを発生させるモードに変化させるように自動的にモードが切り替わるように動作させても良い。例えば、刺激開始後10回は短時間(出力期間T1=2秒)で刺激を停止し、その後は長時間(出力期間T1=5秒)で出力を行うこととしても良い。なお、刺激の開始直後は、神経刺激電極5が最適位置から離れている可能性が高いため、短時間の刺激による心拍数の変化で判断は可能である。この初めの10回の刺激出力の間におおよその見当を付ける。その後、長時間(5秒)で心拍数の変化を比較することで、微妙な違いを判断することが可能となる。
【0044】
次に、現在の心拍数P2を取得し、表示ディスプレイ14に表示を行う(ステップS5)。この動作は、出力期間T1が経過するまで繰り返される(ステップS6)。この現在の心拍数P2が、予め設定された所定の閾値以下となった場合に、制御回路13は、神経刺激電極5の位置を最適位置として決定する。また、ユーザーは、表示ディスプレイ14に表示された現在の心拍数P2を見ながら、最小となる位置を神経刺激電極5の最適位置とすることが可能である。
【0045】
神経刺激電極5の位置が決定されると、刺激パルスの出力を停止し(ステップS7)、表示ディスプレイ14に心拍数低減効果の表示を行う(ステップS8)。結果表示としては、例えば、基準心拍数P1と現在の心拍数P2との差分値(P1−P2)bpmを表示する。具体的には、基準心拍数P1=100、現在の心拍数P2=80のとき、低下心拍数(心拍数低減効果)を20bpmと表示する。
神経刺激電極5は、閾値以下になったときに刺激パルスの出力を停止することで、最適位置として決定しつつ、神経刺激による影響を最小限に抑えることが出来る。
【0046】
なお、この際、差分値(P1−P2)に代えて、低下率(P2/P1)を表示しても良い。この場合には、例えば、基準心拍数P1=100、現在の心拍数P2=80のとき、低下率(心拍数低減効果)を20%と表示する。
【0047】
この差分値、あるいは低下率が所定の閾値を超えた場合に、「効果あり」の表示ランプを点灯させることとしても良い。この場合、「効果あり」を示す表示ランプの色を、効果の程度により変化させることとしても良い。例えば、効果が高い場合は緑色の点灯を行い、中程度の場合は黄色、効果が低い場合には赤で表示するといった表示を行うことも可能である。
【0048】
また、上記の表示方法以外にも、効果の程度をバーグラフで表示することも可能である。例えば、5段階表示で実施する場合、予め設定した閾値に従って、低下率が15%で5本表示、12%で4本、9%で3本、6%で「2本」、3%で「1本」、それ以下の場合「点灯なし」と表示する。なお、このような表示は、上記の5段階表示に限定するものではなく、閾値の設定もユーザーにより変更可能としても良い。
【0049】
また、差分値、あるいは低下率が所定の閾値を超えた場合に、ブザー等の発音デバイス15による報知を行っても良い。例えば、「効果あり」の場合、報知音を発する。また、差分値や低下率の変化量・変化率に応じて、ブザーの音量、音程、間欠音の周期等を変化させて、ユーザーに報知することとしてもよい。この場合、例えば、差分値、あるいは低下率が大きいほど、音量を大きくしたり、音の周波数を高くしたり、間欠音の間隔を短くする。
【0050】
なお、心拍低減効果の判定を行う場合の閾値は、ユーザーが予め設定することが可能である。この際、心拍数の測定誤差や生体の状態変化による変動が考えられるので、「効果あり」の判定の閾値に一定の幅を持たせることや、移動平均を行うことも誤動作対策として有効である。
【0051】
次に、休止時間T2における現在の心拍数P3を取得する(ステップS9)。この動作は、休止時間T2における現在の心拍数P3が基準心拍数P1以上になるまで、すなわち心拍数が刺激前の値に回復するまで繰り返される(ステップS10)。そして、心拍数が刺激前の値に回復した場合に(P3≧P1)、符号Aとして示す処理を行った後(ステップS11)、ステップS4に戻る。
【0052】
符号Aとして示す処理として、例えば、自動モード時には何も処理を行わず、半自動モード時には開始スイッチの受付待ちの処理としても良い。また、どちらのモードを行うかを、ユーザーが選択可能とする構成としても良い。
【0053】
そして、上記のように神経刺激電極5の位置が決定された状態で、頻拍等の治療を行う治療モードを開始する。
具体的には、動作モード切り替えスイッチを治療モードに設定することにより、図3(b)に示すように、割り込み処理により治療モードに移行する(ステップS12)。その後、刺激の開始スイッチをONにする(ステップS13)ことにより、神経刺激出力回路11から神経刺激電極5に治療のための電気刺激が伝達され、頻拍等の治療が行われる(ステップS14)。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る神経刺激装置1によれば、神経刺激出力回路11により発生された刺激パルスが、血管内に挿入される神経刺激電極5に伝達される。このパルスにより迷走神経が刺激され、心拍数を低減させることができ、頻拍等の症状を抑えることができる。この場合において、心拍検出用電極6により心拍が検出され、心拍検出回路12により心拍の周期から心拍数が算出される。そして、制御回路13により、算出された心拍数に基づいて神経刺激電極5の位置が決定される。
【0055】
これにより、心拍数低減効果の高い位置、すなわち、血管内における好適な位置に神経刺激電極5を配置することができ、心拍数低減効果を向上することができる。また、このように神経刺激電極5の位置を決定することで、従来のように、電気刺激を連続的に出力してユーザーが効果を確認しながら神経刺激電極5の位置を探索するという作業を排除することができ、交感神経に長時間刺激を与えることを防止して、患者の負担を軽減することができる。
【0056】
また、制御回路13が、心拍検出回路12により算出された心拍数が所定の閾値以下となった場合に神経刺激電極5の位置を決定することで、神経刺激電極5の位置を容易に決定することができる。これにより、制御回路13による演算処理量を小さくするとともに、交感神経に刺激が与えられる時間を短くして患者の負担を軽減することができる。
【0057】
また、表示ディスプレイや発音デバイス15により神経刺激電極5の位置が決定されたことを報知することで、神経刺激電極5が心拍数低減効果の高い位置に配置されたことをユーザーが知ることができ、ユーザーの作業性を向上することができる。
【0058】
また、神経刺激出力回路11から刺激パルスを出力して迷走神経の刺激を行う時間を、迷走神経に刺激を与え始めてから心拍数低下が飽和するまでの時間(例えば20〜30秒)よりも短い時間(例えば3秒)とすることで、心拍数が刺激前の値に回復するまでの時間(例えば10秒)を短くすることができる。これにより、神経刺激電極5の位置を決定するために要する時間を短縮することができ、交感神経に刺激が与えられる時間を短くして患者の負担を軽減することができる。
【0059】
なお、本実施形態に係る神経刺激装置1において、神経刺激電極5を血管内で移動させる移動機構(図示略)と、該移動機構を制御して制御回路13により決定された位置に神経刺激電極5を移動させる制御部(図示略)とを備えることとしてもよい。
このような移動機構および制御部を備えることで、制御回路13により決定された位置に神経刺激電極5を自動的に移動させることができ、ユーザーの作業性を向上することができる。
【0060】
[第1の変形例]
以下に、本実施形態に係る神経刺激装置1の第1の変形例について説明する。
本変形例に係る神経刺激装置2は、図4に示すように、前述の神経刺激装置1(図1参照)における心拍検出用電極6および心拍検出回路12に代えて、外部インターフェイス回路21および患者モニタ装置(心拍検出手段、心拍数算出手段)22を備えている。
【0061】
患者モニタ装置22は、神経刺激装置本体10の外部に設けられ、患者の心拍数を測定する装置である。
外部インターフェイス回路21は、患者モニタ装置22により測定された心拍数のデータを有線または無線通信により取得して、取得した心拍数のデータを制御回路13に出力するようになっている。
【0062】
上記構成を有する神経刺激装置2によれば、前述の神経刺激装置1と同様の効果に加えて、装置構成を簡略化することができ、製造コストの低減および装置の小型化を図ることができる。
【0063】
[第2の変形例]
以下に、本実施形態に係る神経刺激装置1の第2の変形例について説明する。
本変形例に係る神経刺激装置3は、図5に示すように、前述の神経刺激装置1(図1参照)における心拍検出用電極6および心拍検出回路12に代えて、患者情報検出回路(心拍数算出手段)31およびセンサ(心拍検出手段)32を備えている。
【0064】
センサ32は、脈圧や心電信号等の患者データを測定するセンサである。具体的には、センサ32は、患者の脈圧を測定する圧力センサや、患者の心電信号を測定する心電センサ等である。なお、センサ32の具体的構成としては、上記の他、赤外線式センサ等の心拍数を測定可能なセンサであれば良い。
【0065】
また、図5において、センサ32は、神経刺激装置本体10の内部に図示されているが、刺激装置本体10の外面にコネクタを設け、センサ32を外部接続するとしても良い。また、センサ32を神経刺激装置本体10に内蔵する場合、神経刺激装置本体10の裏面に圧力センサや心電センサを配置して、神経刺激装置本体10を直接患者の腕などに固定する構造としても良い。
【0066】
患者情報検出回路31は、センサ32により測定した患者データ(脈圧、心電信号など)から、心拍数を測定する回路である。
上記構成を有する神経刺激装置3によれば、圧力センサ、心電センサ、赤外線センサなどにより心拍数を容易に検出することができ、前述の神経刺激装置1と同様の効果を得ることができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、神経刺激出力回路11から出力される刺激パルスの仕様は上述した形態に制限されず、個々の患者の心臓の状態に応じて適宜変更することができる。具体的には、神経刺激出力回路11は、検出した心拍数に応じて、発生させる刺激パルスのパルス幅を長くまたは短くすることにより刺激パルスのエネルギーを増減させ、迷走神経に与える刺激を増強または減弱させることとしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1,2,3 神経刺激装置
5 神経刺激電極(電極)
6 心拍検出用電極(心拍検出手段)
10 神経刺激装置本体
11 神経刺激出力回路(パルス発生手段)
12 心拍検出回路(心拍数算出手段)
13 制御回路(電極位置決定手段)
14 表示ディスプレイ(報知手段)
15 発音デバイス(報知手段)
16 操作スイッチ
17 電池
21 外部インターフェイス回路
22 患者モニタ装置(心拍検出手段、心拍数算出手段)
31 患者情報検出回路(心拍数算出手段)
32 センサ(心拍検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内に挿入される電極と、
該電極に接続され、迷走神経を刺激するパルスを発生するパルス発生手段と、
心拍を検出する心拍検出手段と、
該心拍検出手段により検出された心拍の周期から心拍数を算出する心拍数算出手段と、
該心拍数算出手段により算出された心拍数に基づいて前記電極の位置を決定する電極位置決定手段とを備える神経刺激装置。
【請求項2】
前記電極位置決定手段が、前記心拍数算出手段により算出された心拍数が所定の閾値以下となった場合に前記電極の位置を決定する請求項1に記載の神経刺激装置。
【請求項3】
前記電極位置決定手段により前記電極の位置が決定されたことを報知する報知手段を備える請求項1または2に記載の神経刺激装置。
【請求項4】
前記心拍数算出手段により算出された心拍数が所定の閾値以下である場合、前記パルス発生手段がパルスの発生を停止させる請求項1〜3のいずれかに記載の神経刺激装置。
【請求項5】
前記パルス発生手段が、迷走神経に刺激を与え始めてから心拍数低下が飽和するまでの時間よりも短い期間でパルスを発生させる請求項1〜4のいずれかに記載の神経刺激装置。
【請求項6】
前記パルス発生手段は、電極位置決定のためのパルスを発生させる位置検出モードと、治療のためのパルスを発生させる治療モードとを切り替えられるように構成されている請求項1〜5のいずれかに記載の神経刺激装置。
【請求項7】
前記パルス発生手段は、第1の期間パルスを発生させるモードと、前記第1の期間よりも時間の長い第2の期間パルスを発生させるモードとを切り替えられるように構成されている請求項1〜6のいずれかに記載の神経刺激装置。
【請求項8】
前記電極を血管内で移動させる移動機構と、
該移動機構を制御して、前記電極位置決定手段により決定された位置に前記電極を移動させる制御部とを備える請求項1〜7のいずれかに記載の神経刺激装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−120640(P2012−120640A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272824(P2010−272824)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】