説明

神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷の治療方法または予防の方法あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織の修復方法

被験体における、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷を治療、予防、阻害または低減するためか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するための治療方法は、そのような治療を必要とする被験体に、アミノ酸配列LKKTETもしくはLKKTNTを含むペプチド剤、その保存的変異体あるいはその組織においてLKKTETもしくはLKKTNTペプチドまたはその保存的変異体の産生を刺激するペプチド剤を含む組成物の有効量を投与する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
関連出願の相互参照
本出願は、2005年1月13日に出願された米国仮出願第60/643,307号の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による、組織の変敗、傷害または損傷の治療または予防あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織の修復の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術の説明
神経変性疾患、筋変性疾患および神経筋変性疾患は、被験体の記憶、脳機能、筋機能および他の生理学的機能を破壊しうる消耗性疾患である。このような疾患は、遺伝性であるか、または被験体が環境や汚染された食料などの因子に曝露されることによって生じうる。このような疾患としては、アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)、ルー・ゲーリッグ病(筋萎縮性側索硬化症(amytrophic lateral sclerosis)またはALS)、パーキンソン病、骨髄性筋萎縮症(SMA)、重症筋無力症、自閉症、筋ジストロフィ、ウシ海綿状脳症(BSE)を含む伝達性海綿状脳症(TSE)などを挙げることができる。
【0004】
筋ジストロフィは、進行性の筋肉消耗および筋肉における微視的変化から始まる衰弱を特徴とする遺伝性障害である。筋肉が時間とともに変質するにつれて、その患者の筋肉の強度は低下していく。
【0005】
デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)は、筋肉の拡張を特徴とする筋ジストロフィの群の1つである。DMDは、筋ジストロフィの最も一般的なタイプの1つであり、幼年期に起こる、急速に進行する筋肉変性を特徴とする。そのすべてがX染色体連鎖であり、主に男性が罹患し、世界中で3500人に1人の男児が罹患すると推定されている。
【0006】
X染色体上に見られる、DMDについての遺伝子は、大型タンパク質であるジストロフィンをコードする。ジストロフィンは、構造的に支えるために筋細胞の内側に必要であり、内部の細胞骨格の要素を表面膜に固定することによって筋細胞を強化すると考えられている。これがないと細胞膜は透過性になるので、細胞外の成分が細胞に流入し、筋細胞が「破裂」して死滅するまで内圧が増大する。それに続く免疫応答がその損傷に加わり得る。
【0007】
ベッカー型筋ジストロフィ(BMD)は、DMDの軽度のものである。その発症は、通常10代であるか、または成人期の初期であり、その経過は遅く、DMDの場合よりも予測が困難である。
【0008】
米国では、84,000人超の患者が変性筋ジストロフィ疾患に罹患している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷を治療、予防、阻害または低減するためか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するための治療方法が当該分野で未だ必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
1つの態様によれば、被験体における、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷を治療、予防、阻害または低減するためか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するための治療方法は、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による前記組織の変敗、傷害または損傷を阻害するためか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するために、そのような治療を必要とする被験体に、アミノ酸配列LKKTETまたはLKKTNT、その保存的変異体(conservative variant)あるいは前記組織においてLKKTETもしくはLKKTNTペプチドまたはその保存的変異体の産生を刺激する刺激剤を含むペプチド剤を含む組成物の有効量を投与する工程を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
発明の詳細な説明
任意の特定の理論に見られることなく、サイモシンベータ4(Tβ4またはTB4)などのアクチン隔離ペプチドおよびアミノ酸配列LKKTETもしくはLKKTNTまたはその保存的変異体を含むアクチン隔離ペプチドまたはペプチドフラグメントを含む他の薬剤は、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷の回復または予防を促進する。
【0012】
サイモシンベータ4は、インビトロにおける内皮細胞の遊走および分化の間にアップレギュレートされるタンパク質として当初は同定された。サイモシンベータ4は、最初に胸腺から単離され、種々の組織で同定されている、43アミノ酸、4.9kDaの遍在性ポリペプチドである。内皮細胞の分化および遊走、T細胞の分化、アクチンの隔離、血管新生ならびに創傷治癒における役割を含むいくつかの役割がこのタンパク質の役割とされている。
【0013】
本発明を適用することができる神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患としては、アルツハイマー病、多発性硬化症、ルー・ゲーリッグ病、パーキンソン病、骨髄性筋萎縮症、重症筋無力症、自閉症、筋ジストロフィ(DMDおよびBMDを含む)、BSEを含む伝達性海綿状脳症(TSE)などが挙げられるが、これらに限定されない。このような疾患は、炎症性障害に関連しうる。従って、本発明は、炎症に関連した、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患に特に適用することができる。1つの実施形態によれば、本発明は、筋ジストロフィ以外の神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患に適用することができる。
【0014】
1つの実施形態によれば、本発明は、被験体における、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷を治療、予防、阻害または低減するためか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するための治療方法であり、そのような治療を必要とする被験体に、ペプチド剤を含む組成物の有効量を投与する工程を含む方法である。そのペプチド剤は、神経変性疾患、筋変性疾患および/または神経筋変性疾患を阻害する活性を有する、アミノ酸配列LKKTETもしくはLKKTNTまたはその保存的変異体を含むポリペプチドであってもよく、好ましくはKLKKTET、LKKTETQ、Tβ4のN末端変異体、Tβ4のC末端変異体およびTβ4のアンタゴニストを含むサイモシンβ4および/またはTβ4アイソフォーム、類似体もしくは誘導
体を含む。本発明はまた、酸化Tβ4を利用してもよい。他の実施形態によれば、抗菌剤は、サイモシンベータ4以外であるか、または酸化Tβ4である。
【0015】
本発明に従って使用されうる組成物としては、ペプチド剤、例えば、サイモシンβ4(Tβ4)および/またはTβ4アイソフォーム、類似体もしくは誘導体(酸化Tβ4、Tβ4のN末端変異体、Tβ4のC末端変異体およびTβ4のアンタゴニストを含む)、神経変性疾患、筋変性疾患および/もしくは神経筋変性疾患を阻害する活性を有する、アミノ酸配列LKKTETまたはその保存的変異体を含むか、または本質的にそれらからなる、ポリペプチドまたはペプチドフラグメントが挙げられる。本明細書中に参考として援用される、国際出願番号PCT/US99/17282は、本発明に従って有用であり得るTβ4のアイソフォームならびに本発明とともに利用され得るアミノ酸配列LKKTETおよびその保存的変異体を開示する。本明細書中に参考として援用される、国際出願番号PCT/GB99/00833(WO99/49883)は、本発明に従って使用され得る酸化サイモシンβ4を開示する。以降、主にTβ4およびTβ4アイソフォームに関して本発明を説明していくが、以下の説明が、アミノ酸配列LKKTETもしくはLKKTNT、神経変性疾患、筋変性疾患および/もしくは神経筋変性疾患を阻害する活性を有する、LKKTETもしくはLKKTNT、それらの保存的変異体を含むか、または本質的にそれらからなるペプチドおよびフラグメントおよび/またはTβ4アイソフォーム、類似体もしくは誘導体(Tβ4のN末端変異体、Tβ4のC末端変異体およびTβ4のアンタゴニストを含む)に等しく適用することができると意図されると理解されるべきである。本発明はまた、酸化Tβ4を使用してもよい。
【0016】
1つの実施形態において、本発明は、被験体において、筋ジストロフィ以外の神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷を治療、予防、阻害または低減するためか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するための治療方法を提供する。この方法は、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による前記組織の変敗、傷害または損傷を阻害するか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するために、そのような治療を必要とする被験体に、アミノ酸配列LKKTETもしくはLKKTNT、その保存的変異体または前記組織においてLKKTETもしくはLKKTNTペプチドまたはその保存的変異体の産生を刺激する刺激剤を含むペプチド剤を含む組成物の有効量を投与する工程を含む。別の実施形態において、この疾患は、デュシェンヌ型筋ジストロフィ以外である。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、被験体において、筋ジストロフィを含む疾患による組織の変敗、傷害または損傷を治療、予防、阻害または低減するためか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するための治療方法を提供する。この方法は、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷を阻害するか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するために、そのような治療を必要とする被験体に、アミノ酸配列LKKTETまたはLKKTNT、その保存的変異体あるいは前記組織においてLKKTETもしくはLKKTNTペプチドまたはその保存的変異体の産生を刺激する刺激剤を含むTB4以外のペプチド剤を含む組成物の有効量を投与する工程を含む。
【0018】
1つの実施形態において、本発明は、組織と本明細書中に説明されるようなペプチド剤を含む組成物の有効量とを接触させることによって、被験体において、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷を治療、予防、阻害または低減するためか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するための治療方法を提供する。非限定的な実施例として、その組織は、前記被験体の神経組織および/または筋組織から選択され得る。接触は、直接的であってもよく、全身的であってもよい。直接投与の例としては、例えば、本明細書中に説明されるようなペプチド剤を含む、
溶液、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、ペースト、噴霧液、懸濁液、分散液、ヒドロゲル、軟膏剤または油剤とを組織と直接適用または吸入によって接触されることである。全身性投与としては、例えば、注射用水などの薬学的に許容可能な担体中の本明細書中に説明されるようなペプチド剤を含む組成物の静脈内、腹腔内、筋肉内注射が挙げられる。
【0019】
本明細書中に説明されるような、本発明における用途のためのペプチド剤は、任意の有効量で投与されてもよい。例えば、本明細書中に説明されるようなペプチド剤は、約0.0001〜1,000,000マイクログラムの範囲内の用量、より好ましくは、約0.1〜5,000マイクログラムの範囲内の量、最も好ましくは、約1〜30マイクログラムの範囲内で投与されてもよい。
【0020】
本発明による組成物は、投与日の1日あたり単回適用または複数回適用(投与日の1日あたり2、3、4または4回以上の適用)で毎日、1日おき、1週間おき、1ヶ月おきなどで投与してもよい。
【0021】
多くのTβ4アイソフォームは、同定されており、Tβ4の既知のアミノ酸配列に対して約70%または約75%または約80%以上の相同性を有する。このようなアイソフォームとしては、例えば、Tβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14およびTβ15が挙げられる。Tβ4と同様に、Tβ10およびTβ15アイソフォームは、アクチンを隔離することが示されている。Tβ4、Tβ10およびTβ15ならびにこれらの他のアイソフォームは、アクチンの隔離または結合の媒介に関連すると見られる、アミノ酸配列LKKTETもしくはLKKTNTを共有する。特定の任意の理論に制約されることを望まれるわけではないが、本明細書中に説明されるようなペプチド剤の活性は、そのような薬剤の抗炎症性活性に少なくとも部分的に起因し得る。また、Tβ4は、アクチン重合を調節することができる(例えば、β−サイモシンは、遊離Gアクチンを隔離することによってFアクチンを脱重合すると見られる)。アクチン重合を調節するTβ4の能力は、LKKTETもしくはLKKTNT配列を介してアクチンに結合するか、または隔離する能力に起因しうる。従って、Tβ4と同様に、抗炎症性であり、アクチンを結合または隔離するか、あるいはアミノ酸配列LKKTETもしくはLKKTNTを有するTβ4アイソフォームを含むアクチン重合を調節する他のタンパク質は、本明細書中で説明されるように、単独か、またはTβ4と組み合わせて効果的である可能性がある。
【0022】
本明細書中に説明されるようなペプチド剤は、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(P13−K)/Akt(タンパク質キナーゼβ)経路などの代謝性酵素およびシグナル伝達酵素をアップレギュレートすることによって、脳ならびに他の神経血管細胞および組織のアポトーシス性の死(apoptic death)を予防および/または制限することができる。P13−K)/Aktおよび下流のリン酸化BadおよびプロリンリッチAkt生存キナーゼをアップレギュレートすることによって、神経細胞が保護される。さらに、IL−18などの炎症性サイトカインおよびIL−8などのケモカインおよび酵素(例えば、カスパーゼ(caspace)2、3、8および9)をダウンレギュレートする能力のおかげでTβ4およびTβ4アイソフォームまたはTβ4の酸化型などの本明細書中に説明されるようなペプチド剤は、神経細胞を保護し、神経組織の治癒を促進する。
【0023】
本明細書中に説明されるようなペプチド剤は、炎症性ケモカイン、サイトカインおよびカスパーゼ(capase)活性を減少することができる。
【0024】
本明細書中に説明されるようなペプチド剤は、グルタミン酸が誘導する神経毒性を予防することによって脳および脊髄における神経毒性を予防することができる。興奮性神経伝
達物質であるグルタミン酸の損傷した脳および神経組織からの制御されない放出は、細胞におけるミトコンドリアの機能不全およびエネルギー機構の主な媒介物であり、これによって、いくつかの炎症性応答、栄養性シグナルを変化させる機械的ストレスおよび罹患した神経細胞および組織の死がもたらされる。
【0025】
従って、Tβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14およびTβ15などのTβ4アイソフォームならびに未同定のTβ4アイソフォームを含む、本明細書中に説明されるような既知のLKKTETペプチドまたはLKKTNTペプチドは、本発明の方法において有用となることが特に企図される。同様に、Tβ4アイソフォームを含む、本明細書中に説明されるようなLKKTETペプチドまたはLKKTNTペプチドは、被験体において実施される方法を含む本発明の方法において有用である。従って、本発明は、Tβ4ならびにTβ4アイソフォームである、Tβ4ala、Tβ9、Tβ10、Tβ11、Tβ12、Tβ13、Tβ14およびTβ15ならびに医薬的に許容可能な担体を含む、本明細書中に説明されるようなLKKTETペプチドまたはLKKTNTペプチドを含む医薬組成物をさらに提供する。
【0026】
さらに、適切な隔離、結合、可動化または重合アッセイにおいて証明されるか、あるいは例えば、LKKTETまたはLKKTNTなどのアクチン結合を調節するアミノ酸配列の存在によって同定されるように、抗炎症性活性および/もしくはアクチン隔離能力もしくはアクチン結合能力を有するか、またはアクチンを可動化することができるか、またはアクチン重合を調節することができる他の薬剤またはタンパク質は、同様に本発明の方法において使用され得る。このようなタンパク質としては、例えば、ゲルゾリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、デパクチン(depactin)、ディナセル(Dnasel)、ビリン(vilin)、フラグミン、セバリン、キャッピングタンパク質、β−アクチニンおよびアキュメンチンを挙げることができる。このような方法が、被験体において実施される方法を含むので、本発明は、本明細書中で説明されるような、ゲルゾリン、ビタミンD結合タンパク質(DBP)、プロフィリン、コフィリン、デパクチン、ディナセル(Dnasel)、ビリン、フラグミン、セバリン、キャッピングタンパク質、β−アクチニンおよびアキュメンチンを含む医薬組成物をさらに提供する。従って、本発明は、アミノ酸配列LKKTETまたはLKKTNTおよびそれらの保存的変異体を含むポリペプチドの使用を含む。
【0027】
本明細書中で使用されるとき、用語「保存的変異体」またはその文法上の変化形は、アミノ酸残基が、別の生物学的に類似した残基によって置換されていることを示す。保存的改変の例としては、イソロイシン、バリン、ロイシンまたはメチオニンなどの疎水性残基の別の残基への置換、極性残基の別の残基への置換(例えば、アルギニンからリシンへの置換、グルタミン酸からアスパラギン酸への置換またはグルタミンからアスパラギンへの置換)などが挙げられる。
【0028】
Tβ4は、多くの組織および細胞タイプに局在するので、Tβ4などのLKKTETもしくはLKKTNTペプチドの産生を刺激する薬剤または本明細書中に説明されるような別のペプチド剤は、組織および/または細胞からのペプチド剤の産生に影響を及ぼす組成物に加えられるか、あるいはそれを含んでもよい。このような刺激剤としては、インスリン様成長因子(IGF−1)、血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF−β)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、サイモシンα1(Tα1)および血管内皮成長因子(VEGF)などの成長因子のファミリーのメンバーを挙げることができる。より好ましくは、刺激剤は、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF−β)またはTGF−βスーパーファミリーの他のメンバーである。
【0029】
1つの実施形態によれば、被験体は、本明細書中に説明されるようなペプチド剤の被験体における産生を刺激する刺激剤で治療される。
【0030】
そのうえ、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷の低減あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織の修復を助ける他の薬剤を、本明細書中に説明されるようなペプチド剤とともに組成物に加えてもよい。限定する目的ではないが、例えば、本明細書中に説明されるようなペプチド剤の単独または併用に、有効量の以下の薬剤:抗生物質、VEGF、KGF、FGF、PDGF、TGFβ、IGF−1、IGF−2、IL−1、プロサイモシンαおよび/またはサイモシンα1のうちの任意の1つ以上と組み合わせて加えてもよい。
【0031】
本発明はまた、医薬的に許容可能な担体中に本明細書中に説明されるようなペプチド剤の治療有効量を含む医薬組成物を含む。
【0032】
治療を提供する実際の用量または試薬、処方物または組成物は、被験体の大きさおよび健康状態を含む多くの因子に依存し得る。しかしながら、当業者は、使用するのに適切な用量を決定するために、PCT/US99/17282、前出および本明細書中に引用される参考文献に開示されるような臨床上の用量を決定するための方法および技術を記載する教示を使用することができる。
【0033】
適当な処方物は、本明細書中に説明されるようなペプチド剤を約0.001〜50重量%の範囲内、より好ましくは約0.01〜0.1重量%、最も好ましくは約0.05重量%の濃度で含んでもよい。
【0034】
本明細書中に説明される治療的アプローチは、被験体への任意の従来の投与技術(例えば、これらに限定されないが、直接投与、局所注射、吸入または全身投与)を含む、本明細書中に説明されるようなペプチド剤の様々な投与の経路または送達を含む。本明細書中に説明されるようなペプチド剤を使用するか、またはそれらを含む方法および組成物は、医薬的に許容可能な無毒の賦形剤または担体と混合することによって医薬組成物に処方されてもよい。
【0035】
本発明は、本明細書中に説明されるようなペプチド剤と相互作用するか、それを促進するか、または阻害する抗体の使用を含む。様々なエピトープの特異性を有する貯蔵されたモノクローナル抗体ならびに異なるモノクローナル抗体調製物から実質的になる抗体が提供される。モノクローナル抗体は、PCT/US99/17282、前出に開示されているような当業者に周知の方法によってタンパク質のフラグメントを含む抗原から製造される。本発明において使用されるとき、用語抗体は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を含むと意味される。
【0036】
なおも別の実施形態において、本発明は、遺伝子発現を調節する有効量の刺激剤を投与することによって被験体を治療する方法を提供する。用語「調節する」とは、本明細書中に説明されるようなペプチド剤が過剰発現される場合の発現の阻害または抑制および本明細書中に説明されるようなペプチド剤が過小発現される場合の発現の誘導のことをいう。用語「有効量」とは、本明細書中に説明されるようなペプチド剤の遺伝子発現を調節するのに有効であり、その結果、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷の症状を低減するか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復する、刺激剤の量を意味する。本明細書中に説明されるようなペプチド剤の遺伝子発現を調節する刺激剤は、例えば、ポリヌクレオチドであってもよい。そのポリヌクレオチドは、アンチセンス、3重鎖またはリボザイムであってもよい。例えば、本明細書中に説明されるようなペプチド剤の構造遺伝子領域またはプロモーター領域に特異的であ
るアンチセンスを利用してもよい。本明細書中に説明されるようなペプチド剤の遺伝子発現を調節する刺激剤はまた、低分子干渉RNA(siRNA)であってもよい。
【0037】
別の実施形態において、本発明は、本明細書中に説明されるようなペプチド剤の活性を調節する化合物を利用するための方法を提供する。本明細書中に説明されるようなペプチド剤の活性に影響を及ぼす化合物(例えば、アンタゴニストおよびアゴニスト)としては、ペプチド、ペプチド模倣物、ポリペプチド、化合物、亜鉛などのミネラルおよび生物学的薬剤が挙げられる。
【0038】
本明細書中に説明されるような刺激剤についてスクリーニングする方法は、神経変性疾患、筋変性疾患および/または神経筋変性疾患を示す組織と候補化合物とを接触させる工程;およびLKKTETまたはLKKTNTペプチドの前記組織における活性を測定する工程を含み、ここで、前記候補化合物を有しない対応する組織における前記ペプチドの活性のレベルと比較して前記組織における前記ペプチドの活性が増加しているとき、前記化合物が前記刺激剤を誘導することができると示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体において、デュシェンヌ型筋ジストロフィ以外の神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷を治療、予防、阻害または低減するためか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するための治療方法であって、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による前記組織の変敗、傷害または損傷を阻害するためか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するために、そのような治療を必要とする被験体に、アミノ酸配列LKKTETもしくはLKKTNT、その保存的変異体(conservative variant)あるいは前記組織においてLKKTETもしくはLKKTNTペプチドまたはその保存的変異体の産生を刺激する刺激剤を含むペプチド剤を含む組成物の有効量を投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記疾患が、前記被験体における炎症性障害に関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記疾患が、前記被験体における炎症性障害を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ペプチド剤が、抗炎症剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ペプチド剤が、サイモシンベータ4(Tβ4)である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ペプチド剤が、Tβ4以外であり、他の酸化Tβ4である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチド剤が、アミノ酸配列KLKKTET、アミノ酸配列LKKTETQおよびTβ4のN末端変異体、Tβ4のC末端変異体またはTβ4のアイソフォームを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ペプチド剤を、前記被験体に約1〜30マイクログラムの範囲内の用量で投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記薬剤を、前記組織に直接投与によって投与するか、または前記被験体に静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、吸入、経皮的または経口投与によって投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物を全身的に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物を直接的に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、溶液、ゲル、クリーム、ペースト、ローション、噴霧液、懸濁液、分散液、軟膏、ヒドロゲルまたは軟膏剤の処方物の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ペプチド剤が、組換えペプチドまたは合成ペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記疾患が、アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)、ルー・ゲーリッグ病(筋萎縮性側索硬化症またはALS)、パーキンソン病、骨髄性筋萎縮症(SMA)、重症筋無力症、伝達性海綿状脳症(TSE)またはウシ海綿状脳症(BSE)のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記疾患が、神経変性疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記疾患が、筋変性疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記疾患が、神経筋変性疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
請求項1において定義されるような刺激剤についてスクリーニングするための方法であって、神経変性疾患、筋変性疾患および/または神経筋変性疾患を示す組織と候補化合物とを接触させる工程、ならびに前記組織におけるLKKTETまたはLKKTNTペプチドの活性を測定する工程を含み、前記候補化合物を有しない対応する組織における前記ペプチドの活性レベルと比べて前記組織における前記ペプチドの活性が高いことは、前記化合物が、前記刺激剤を誘導することができることを示唆する、方法。
【請求項18】
前記ペプチドが、サイモシンベータ4である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
被験体において、筋ジストロフィを含む神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷を治療、予防、阻害または低減するためか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するための治療方法であって、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による前記組織の変敗、傷害または損傷を阻害するか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するために、そのような治療を必要とする被験体に、アミノ酸配列LKKTETもしくはLKKTNT、その保存的変異体あるいは前記組織においてLKKTETもしくはLKKTNTペプチドまたはその保存的変異体の産生を刺激する刺激剤を含む、Tβ4以外のペプチド剤を含む組成物の有効量を投与する工程を含む、方法。
【請求項20】
前記ペプチド剤が、抗炎症剤である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ペプチド剤が、アミノ酸配列KLKKTET、アミノ酸配列LKKTETQおよびTβ4のN末端変異体、Tβ4のC末端変異体またはTβ4のアイソフォームを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記ペプチド剤を、約1〜30マイクログラムの範囲内の用量で前記被験体に投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記薬剤を、前記組織に直接投与によって投与するか、または前記被験体に静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、吸入、経皮的または経口投与によって投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物を全身的に投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記組成物を直接的に投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物が、溶液、ゲル、クリーム、ペースト、ローション、噴霧液、懸濁液、分散液、軟膏、ヒドロゲルまたは軟膏剤の処方物の形態である、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記ペプチド剤が、組換えペプチドまたは合成ペプチドである、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前記薬剤が、抗体である、請求項19に記載の方法。
【請求項29】
前記疾患が、ベッカー型筋ジストロフィである、請求項19に記載の方法。
【請求項30】
被験体において、筋ジストロフィ以外の神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による組織の変敗、傷害または損傷を治療、予防、阻害または低減するためか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するための治療方法であって、神経変性疾患、筋変性疾患または神経筋変性疾患による前記組織の変敗、傷害または損傷を阻害するためか、あるいは前記疾患によって悪影響を受ける組織を修復するために、そのような治療を必要とする被験体に、アミノ酸配列LKKTETもしくはLKKTNT、その保存的変異体あるいは前記組織においてLKKTETもしくはLKKTNTペプチドまたはその保存的変異体の産生を刺激する刺激剤を含むペプチド剤を含む組成物の有効量を投与する工程を含む、方法。

【公表番号】特表2008−526986(P2008−526986A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551407(P2007−551407)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/001255
【国際公開番号】WO2006/076588
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(503334769)リジェナークス・バイオファーマスーティカルズ・インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】