説明

神経変性疾患動物モデル、該モデルの作成方法、およびその適用

本発明は、神経変性疾患の実験モデルとして使用可能な非ヒト動物に関する。本発明の動物モデルは、脳室の脈絡叢の上皮細胞における成長因子IGF-Iの受容体の生物学的活性が変化したものである。この動物モデルは、遺伝子組換え手法により得ることができる。かかる動物モデルは、神経変性疾患、例えば痴呆を示す神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、の疾患原因メカニズムの研究に、あるいはかかる疾患に対する効果を目的とした治療用化合物の同定および評価に、使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には神経変性疾患の処置に関し、また具体的には、神経変性疾患のモデルとして有用な非ヒト動物の開発に関する。
【背景技術】
【0002】
神経疾患の実験モデルの開発は、主として生物医学研究にとって重要である(Cenci MA, Whisaw IQ, Schallert T (2002) Animal models of neurological deficits: how relevant is the rat? Nat Rev Neurosci 3: 574-579)。神経変性疾患の場合、ヒトにおける疾患の特徴に近いモデルの開発は、大きな方法論的進歩を意味する。しかしながら、従来の遺伝子操作によって作成されたものはいずれも、大規模な資金、人的資源、および設備関連資源が必要である。それにもかかわらずその使用は広まってきているが、その高コストが研究に投下される資源に多大な負荷となっている。
【0003】
痴呆を示す典型的神経変性疾患であるアルツハイマー病は、産業国において4番目にあたる死因であり、約1300万人が罹患しており、患者の約25%が診断を受けていないためにその数はさらに大きいかもしれない。ここ数年で罹患者数は急上昇すると予測され、人口の高齢化が明らかな産業国において4000万人を上回る可能性がある (Dekosky et al. (2001) Epidemiology and Pathophysiology of Alzheimer's disease, Clinical Cornerstone 3 (4): 15-26)。現在アルツハイマー病の処置に有効な医薬は少なく、また本疾患の患者あたりの処置費用は非常に高価で、American Alzheimer Associationのデータでは約225,000 USドルと推定されている。有用な医薬の数が非常に限られるこの深刻な健康問題の存在が、この神経変性疾患に有効な治療用化合物の同定および評価のためこの疾患の疾患原因メカニズムの解明を目的とする研究を促進している。
【0004】
アルツハイマー病の場合、主な進歩の1つはまさに、家族性アルツハイマー病に関与するタンパク質が同定できたことにあるが、家族性アルツハイマー病は本疾患の最も高頻度の形態である散発性アルツハイマー病と異なり加齢に関連しない (Mayeux R (2003) Epidemiology of neurodegeneration. Annu Rev Neurosci 26: 81-104)。
【0005】
家族性アルツハイマー病患者に見られる各種の変異、例えばプレセニリンおよびアミロイドβの変異、を有するトランスジェニックモデルが存在する ((Hock BJ, Jr., Lamb BT (2001) transgenic mouse models of Alzheimer's disease. Trends Genet 17: S7-12)。非常に重要な欠点の1つは、これら変異動物はアルツハイマー病のいくつかの症状の有するが、いずれもこの疾患に関連する全種類の病理学的変化は示さないことである(Richardson JA, Burns DK (2002) Mouse models of Alzheimer's disease: a quest for plaques and tangles. ILAR J 43: 89-99)。この問題を解決するため、よりヒトの病理に似たモデルを達成すべく、各々がこの疾患の異なる局面を再現する相異なる変異を有するトランスジェニックマウス系統が互いに交配された(Phinney AL, Home P, Yang J, Janus C, Bergeron C, Westaway D (2003) Mouse models of Alzheimer's disease: the long and filamentous road. Neurol Res 25: 590-600)。例えば、ヒトアミロイドβの前駆体タンパク質の変異型の1つ (APP-Swe695) を大量に発現するマウスを、プレセニリンの変異型を発現するマウスと交配すると、神経原線維変化にそったアミロイドプラークと認知障害とを有するハイブリッドが生じる(Duff K, Eckman C, Zehr C, Yu X, Prada CM, Perez-tur J, Hutton M, Buee L, Harigaya Y, Yager D, Morgan D, Gordon MN, Holcomb L, Refolo L, Zenk B, Hardy J, Younkin S (1996) Increased Amyloid-beta42(43) in brains of mice expressing mutant presenilin 1. Nature 383: 710-713; Richards JG, Higgins GA, Ouagazzal AM, Ozmen L, Kew JN, Bohrmann B, Malherbe P, Brockhaus M, Loetscher H, Czech C, Huber G, Bluethmann H, Jacobsen H, Kemp JA (2003) PS2APP Transgenic Mice, Coexpressing hPS2mut and hAPPswe, Show Age-Related Cognitive Deficits Associated with Discrete Brain Amyloid Deposition and Inflammation. J Neurosci 23: 8989-9003)。
【0006】
以下に、例示を目的として、アルツハイマー病の動物モデルに関するいくつかの特許を示す : US20030229907, Transgenic non-human mammals with progressive neurologic disease; US20030167486, Double transgenic mice overexpressing human beta secretase and human APP-London; US20030145343, Transgenic animals expressing human p25; US20030131364, Method for producing transgenic animal models with modulated phenotype and animals produced therefrom; US20030101467, Transgenic animal model for Alzheimer disease; US200030093822, Transgenic animal model of neurodegenerative disorders; US6,717,031, Method for selecting a transgenic mouse model of Alzheimer's disease; US6,593,512, Transgenic mouse expressing human tau gene; US6,563,015, Transgenic mice over-expressing receptor for advanced alycation endproduct (RAGE) and mutant APP in brain and uses thereof; US6,509,515, Transgenic mice expressing mutant human APP and forming congo red staining plaques; US6,455,757, Transgenic mice expressing human APP and TGF-beta demonstrate cerebrovascular amyloid deposits; US6,452,065, Transgenic mouse expressing non-native wild-type and familial Alzheimer's Disease mutant presenilin 1 protein on native presenilin 1 null background; WO03053136, Triple transgenic model of Alzheimer disease; WO03046172, Disease model; US6563015, Transgenic mice over-expressing receptor for advanced glycation endproduct (RAGE) and mutant APP in brain and uses thereof; WO0120977, Novel animal model of Alzheimer disease with amyloid plaques and mitochondrial dysfunctions; EP1285578, Transgenic animal model of Alzheimer's disease。
【0007】
現在のところ、これらトランスジェニック動物モデルのみがアルツハイマー病の病理メカニズムの研究および医薬レベルでの新規薬物のスクリーニングにおいて認められている。この疾患の可能性ある原因の各々を再現し分析することを目的として作成されたモデルの不一致を考慮すると、多くの場合、所有権関係の問題により、とりわけ複雑なハイブリッドを作成するために必要な物的資源の欠如により、その利用可能性は制限される (Oddo S, Caccamo A, Shepherd JD, Murphy MP, Golde TE, Kayed R, Metherate R, Mattson MP, Akbari Y, LaFerla FM (2003) Triple-transgenic model of Alzheimer's disease with plaques and tangles: intracellular Aβ and synaptic dysfunction. Neuron 39: 409-421)。このことは、これらモデルの広範な使用が厳重に制限されることを意味する。
【0008】
さらに特筆すべきは、アルツハイマー病の処置のための既存の医薬はあまり効果的でないこと、および、既存のトランスジェニック動物に基づくモデルはアルツハイマー病の病理を正確に反映していないという欠点があることである。それゆえ有用な医薬の数が非常に限られた状態で深刻な健康問題が存在し続けており、このため、この神経変性疾患の疾患原因メカニズムの研究および/またはこの疾患に有効な治療用化合物の同定および評価を可能とする、既存のモデルに代わる実験モデルの開発が必要とされている。
【0009】
一方、1型インスリン様成長因子(IGF-I)受容体は、チロシンキナーゼ酵素活性を有する受容体のファミリーに関連する、インスリン受容体に酷似する膜タンパク質である(Ullrich A, Gray A, Tam AW, Yang-Feng T, Tsubokawa M, Collins C, Henzel W, Le Bon T, Kathuria S, Chen E. (1986) Insulin-like growth factor I receptor primary structure: comparison with insulin receptor suggests structural determinants that define functional specificity. EMBO J5: 2503-2512)。その豊富かつ関連性の高い生物学的機能から重点的に研究され、その細胞内シグナル伝達経路は比較的よく知られている(LeRoith D, Werner H, Beitner-Johnson D, Roberts CT, Jr. (1995) Molecular and cellular aspects of the insulin-like growth factor I receptor. Endocr Rev 16:143-163)。癌、糖尿病および神経変性等の病理におけるその役割は、臨床で使用される薬理学的モジュレーターの探索におけるターゲットであったが、その機能的変化が誘発しうるアルツハイマー病のような病理において、その疾患原因的役割は知られていない。
【発明の開示】
【0010】
本発明は、ヒト神経変性疾患、例えば痴呆を示すヒト神経変性疾患、の新規動物モデルの提供という問題に取り組み、その疾患の1つはアルツハイマー病である。
【0011】
本発明により提供される解決策は、動物の脳の脳室脈絡叢の上皮細胞におけるIGF-I受容体の機能的活性を抑制すると、神経変性疾患の動物モデル、一般的かつ具体的には痴呆を示すヒト神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、の動物モデルを作成できるという本発明者等の観察に基づき、このモデルは、そのヒト疾患の主な特徴を満たし、作成が容易で、かついずれの遺伝的背景を有する研究用動物においても使用可能である。他の技術的可能性のなかでも特にこの目的のため、ドミナントネガティブとして機能して脈絡叢のレベルでこの成長因子の機能的活性を無効にするIGF-I受容体の変異型を含むベクター(実施例1)を、脳の側脳室に定位手術により注射した。数ヶ月後、動物はアルツハイマー病に関連するすべての症状を示した: 脳におけるアミロイドペプチドの蓄積、ユビキチンと共存する過リン酸化tauタンパク質の沈着、シナプスタンパク質の消失、および重度の認知障害 (学習および記憶)。アルツハイマー型病理は、宿主動物の遺伝的背景に依存して、ベクターの注射後3-6ヶ月で発生し、アルツハイマー病の発症を調節できるこの遺伝子組換え動物では、この疾患の標準的神経病理はより早期に現れる(実施例2および3)。
【0012】
それゆえ、ある局面において、本発明は、脳室の脈絡叢の上皮細胞に存在するIGF-I受容体の生物学的活性が変化していることを特徴とする、実験モデルとして有用な非ヒト動物に関する。この非ヒト動物は、神経変性疾患、特に痴呆を示すヒト神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、の実験モデルとして有用である。
【0013】
別の局面において、本発明は、実験モデルとして有用な前記非ヒト動物の作成方法であって、遺伝子組換え手法によりこの非ヒト動物の脈絡叢の上皮細胞におけるIGF-I受容体の機能的活性を抑制することを含む方法、に関する。この目的のため、遺伝子構築物およびベクターをその適用とともに開発する必要があり、それらは本発明のさらなる局面を構成する。
【0014】
別の局面において、本発明は、神経変性疾患の疾患原因メカニズムの研究または前記疾患に有効な治療用化合物の同定および評価のための、実験モデルとしての前記非ヒト動物の使用、に関する。具体的態様において、前記神経変性疾患は、痴呆を示すヒト神経変性疾患、例えばアルツハイマー病である。
【0015】
本発明により開発された実験モデルの利点の1つは、それが完全にアルツハイマー病の病理を反映しており、その結果、このモデルが、前記神経変性疾患の疾患原因メカニズムの研究および前記疾患に有効な治療用化合物の同定および評価に有効な手段の開発において、質的な大躍進である点にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のある局面は、脳室の脈絡叢の上皮細胞に存在する1型インスリン様成長因子(IGF-I)受容体の生物学的活性が変化していることを特徴とする、実験モデルとして有用な非ヒト動物(以降、本発明の動物モデルと称する)に関する。
【0017】
本発明で使用する用語「非ヒト動物」は、あらゆる遺伝的背景の非ヒト哺乳動物、好ましくは実験動物、例えば齧歯類、より好ましくはラットおよびマウス、または非ヒト霊長類、を意味する。
【0018】
本発明で使用する用語「遺伝的背景」は、正常非ヒト動物およびトランスジェニック非ヒト動物の両方を意味する。
【0019】
本発明において動物に使用する「正常」なる用語は、神経変性疾患、例えばヒト神経変性疾患、例えば痴呆を示すヒト神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、の疾患原因に関与しうる導入遺伝子を有さない動物を意味する。
【0020】
本発明において動物に使用する用語「トランスジェニック」は、神経変性疾患、例えばヒト神経変性疾患、例えば痴呆を示すヒト神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、の疾患原因に関与しうる導入遺伝子を含む動物を意味し、本発明の範囲を限定する意図ではなく例示を目的として、以下の群のトランスジェニック動物を含む: LID マウス(Yakar S, Liu JL, Stannard B, Butler A, Accili D, Sauer B, LeRoith D (1999) Normal growth and development in the absence of hepatic insulin-like growth factor I. Proc Natl Acad Sci USA 96: 7324-7329)、プレセニリンおよびβアミロイドに変異を有するトランスジェニック動物(Hock BJ, Jr., Lamb BT (2001) Transgenic mouse models of Alzheimer's disease. Trends Genet 17: S7-12)、他の変異および変化を有する動物(US20030229907, Transgenic non-human mammals with progressive neurologic disease; US20030145343, Transgenic animals expressing human p25; US20030131364, Method for producing transgenic animal models with modulated phenotype and animals produced therefrom; US20030101467, Transgenic animal model for Alzheimer disease; US200030093822, Transgenic animal model of neurodegenerative disorders; US6,717,031, Method for selecting a transgenic mouse model of Alzheimer's disease; US6,593,512, Transgenic mouse expressing human tau gene; US6,563,015, Transgenic mice over-expressing receptor for advanced alycation endproduct (RAGE) and mutant APP in brain and uses thereof; US6,509,515, Transgenic mice expressing mutant human APP and forming congo red staining plaques; US6,455,757, Transgenic mice expressing human APP and TGF-beta demonstrate cerebrovascular amyloid deposits; US6,452,065, Transgenic mouse expressing non-native wild-type and familial Alzheimer's Disease mutant presenilin 1 protein on native presenilin 1 null background; WO03053136, Triple transgenic model of Alzheimer disease; WO03046172, Disease model; US6563015, Transgenic mice over-expressing receptor for advanced glycation endproduct (RAGE) and mutant APP in brain and uses thereof; WO0120977, Novel animal model of Alzheimer disease with amyloid plaques and mitochondrial dysfunctions; EP1285578, Transgenic animal model of Alzheimer's disease) 、アルツハイマー病で生じる異なる変異を有するトランスジェニックマウス系統と交配することにより作成されたトランスジェニック動物(Phinney AL, Home P, Yang J, Janus C, Bergeron C, Westaway D (2003) Mouse models of Alzheimer's disease: the long and filamentous road. Neurol Res 25: 590-600; Duff K, Eckman C, Zehr C, Yu X, Prada CM, Perez-tur J, Hutton M, Buee L, Harigaya Y, Yager D, Morgan D, Gordon MN, Holcomb L, Refolo L, Zenk B, Hardy J, Younkin S (1996) Increased amyloid-beta42(43) in brains of mice expressing mutant presenilin 1. Nature 383: 710-713; Richards JG, Higgins GA, Ouagazzal AM, Ozmen L, Kew JN, Bohrmann B, Malherbe P, Brockhaus M, Loetscher H, Czech C, Huber G, Bluethmann H, Jacobsen H, Kemp JA (2003) PS2APP Transgenic Mice, Coexpressing hPS2mut and hAPPswe, Show Age-Related Cognitive Deficits Associated with Discrete Brain Amyloid Deposition and Inflammation. J Neurosci 23: 8989-900; US20030167486 Double transgenic mice overexpressing human beta secretase and human APP-London)。
【0021】
本発明の動物モデルの脳室の脈絡叢の上皮細胞におけるIGF-I受容体機能の生物学的活性の変化は、通常、その生物学的活性の機能的抑制(生物学的抑制)からなる。
【0022】
脳室の脈絡叢の上皮細胞におけるIGF-I受容体機能の生物学的活性の変化は、IGF-I受容体の優性非機能的変異型(dominant non-functional mutated form)をコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドの発現による、IGF-I受容体の機能的活性の抑制によるものでありうる。ある具体的態様において、ポリヌクレオチドは、ヒトIGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードする。例示として、ヒトIGF-I受容体の優性非機能的変異型は以下から選択される:IGF-IR.KR と呼ばれるIGF-I受容体の非機能的変異型(ヒトIGF-I受容体のアミノ酸配列の1003位のリジン残基がアルギニン残基と置換されたK1003R変異を有する)、およびIGF-IR.KA と呼ばれるIGF-I受容体の非機能的変異型(ヒトIGF-I受容体のアミノ酸配列の1003位のリジン残基がアラニン残基と置換されたK1003A変異を有する)(Kato H, Faria TN, Stannard B, Roberts CT, Jr., LeRoith D (1993) Role of tyrosine kinase activity in signal transudation by the insulin-like growth factor-I (IGF-I) receptor. Characterization of kinase-deficient IGF-I receptors and the action of an IGF-I-mimetic antibody (alpha IR-3). J Biol Chem 268: 2655-2661)。ヒトIGF-I受容体のアミノ酸残基の番号付与に用いた番号付与システムは、Ullrich et al.が使用したものである (Ullrich A. et al. (1985) Human insulin receptor and its relationship to the tyrosine kinase family of oncogenes. Nature 313:756-761; Ullrich A. et al. (1986) Insulin-like growth factor I receptor primary structure: comparison with insulin receptor suggests structural determinants that define functional specificity. EMBO J. 1986 Oct; 5(10): 2503-2512)。
【0023】
あるいは、脳室の脈絡叢の上皮細胞におけるIGF-I受容体機能の生物学的活性の変化は、IGF-I受容体の機能的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメントをコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドの発現による、IGF-I受容体の機能的活性の抑制でありうる。本発明で使用する用語「IGF-I受容体の機能的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメント」は、IGF-I受容体のmRNAのタンパク質への翻訳を阻害する、タンパク質、酵素活性、または一本鎖または二本鎖のヌクレオチド配列、すなわちRNAまたはDNA配列、を意味する。例として、ポリヌクレオチドは、IGF-I受容体の遺伝子配列またはmRNA配列の特異的アンチセンスヌクレオチド配列をコードするポリヌクレオチド、あるいはIGF-I受容体のmRNAの特異的アプタマーをコードするポリヌクレオチド、あるいはIGF-I受容体のmRNAの特異的干渉RNA (「低分子干渉RNA」またはsiRNA)をコードするポリヌクレオチドでありうる。
【0024】
本発明の動物モデルは、いずれの遺伝的背景を有していてもよい; そうではあるが、ある具体的態様において、本発明の動物モデルは、正常動物、好都合には健康な、言い換えればいずれの病理診断もうけていない正常動物、例えば健康ラット (実施例2)に由来し、一方本発明の別の具体的態様においては、トランスジェニック動物、例えばLID トランスジェニックマウス (実施例3)に由来する。
【0025】
本発明の動物モデルは、神経変性疾患、例えば痴呆を示す神経変性疾患、の実験モデルとして有用な動物である。好ましくは、神経変性疾患は、ヒト神経変性疾患、より好ましくは痴呆を示すヒト神経変性疾患である。ある具体的態様において、痴呆を示す神経変性疾患はアルツハイマー病である。アルツハイマー病は全痴呆患者の60%を占め、一方微小血管疾患または多発脳梗塞性疾患がその20%を示る。他のより少数の痴呆原因は、慢性アルコール依存症および薬物依存症、ならびに非常に発症率の低い神経疾患、例えばピック病およびクロイツフェルト・ヤコブ病である。
【0026】
それゆえ別の局面において、本発明は、神経変性疾患、例えば痴呆を示す神経変性疾患、の実験モデルとしての本発明の動物モデルの使用、に関する; 好ましくは、神経変性疾患は、ヒト神経変性疾患、例えば痴呆を示すヒト神経変性疾患である; それは例えばアルツハイマー病である。
【0027】
同様に、神経変性疾患、特にヒト神経変性疾患、さらに特には痴呆を示すヒト神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、の疾患原因メカニズムの研究のための本発明の動物モデルの使用、ならびに、前記疾患に有効な治療用化合物の同定および評価のための本発明の動物モデルの使用が、本発明のさらなる局面を構成する。
【0028】
本発明の動物モデルは、本発明の動物モデルの脈絡叢の上皮細胞におけるIGF-I受容体の機能的抑制を可能とする遺伝子組換え手法により作成することができる。
【0029】
それゆえ別の局面において、本発明は、本発明の動物モデルの脈絡叢の上皮細胞のIGF-I受容体の機能的活性を遺伝子組換え手法により抑制することを含む、本発明の動物モデルの作成方法(以降、本発明の方法と称する)に関する。
【0030】
本明細書で用いる用語「遺伝子組換え手法」は、生存生物の一連の細胞にその生物のあらゆる細胞に影響することなく外部遺伝子、すなわち「導入遺伝子」を組み込むことができ、かつそれを有する細胞および生物に新たな生物学的背性質を付与する、いずれの技術または方法をも意味する。導入遺伝子または外部遺伝子は、形質転換の対象である細胞に正常には常在または存在しないDNAを意味する。
【0031】
一方、本発明の動物モデルを作成するための遺伝子組換え手法は、完全に成熟した動物モデルの脈絡叢の上皮細胞におけるIGF-I受容体の機能的活性の抑制を可能とする限り、完全に成熟した動物にもその胎児にも適用可能である。
【0032】
ある特定の態様において、IGF-I受容体の機能的活性の抑制をもたらす遺伝子組換え手法は、完全に成熟した非ヒト動物の脈絡叢の上皮細胞がIGF-I受容体の優性非機能的変異型を発現するような、前記細胞の形質転換を含む。この目的は、脈絡叢の上皮細胞がIGF-I受容体の優性非機能的変異型を発現するように前記細胞を形質転換するため、非ヒト動物の脈絡叢の上皮細胞に対して、IGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物を投与することにより達成されうる。好都合には、遺伝子構築物は、ベクター、例えば発現ベクターまたは移入ベクターに含まれる。
【0033】
本発明で用いる用語「ベクター」は、外部遺伝子または外部遺伝子構築物の細胞内部への移入プロセスに利用され、遺伝子および外部遺伝子構築物の安定な小胞化を可能とするシステム、を意味する。ベクターは、非ウイルスベクターであってもウイルスベクターであってもよく、好ましくはウイルスベクターであり、これはウイルスベクターによる遺伝子組換えが成体組織において比較的正確に異種遺伝子を発現できるという利点を有し、それが遺伝子治療への一般的使用が提案されている理由の1つであることによる (Pfeifer A, Verma IM (2001) Gene therapy: promises and problems. Annu Rev Genomics Hum Genet 2: 177-211)。
【0034】
本発明は、レンチウイルスベクターの使用により例示される。このベクターはその主要な利点の1つとして取り扱いが容易あり、また、導入効率がよく、ゲノムに組み込まれ、発現が持続的かつ長時間性である。他の適切なウイルスベクターには、レトロウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルスベクターが含まれる (Consiglio A, Quattrini A, Martino S, Bensadoun JC, Dolcetta D, Trojani A, Benaglia G, Marchesini S, Cestari V, Oliverio A, Bordignon C, Naldini L (2001) In vivo gene therapy of metachromatic leukodystrophy by lentiviral vectors: correction of neuropathology and protection against learning impairments in affected mice. Nat Med 7: 310-316; Kordower JH, Emborg ME, Bloch J, Ma SY, Chu Y, Leventhal L, McBride J, Chen EY, Palfi S, Roitberg BZ, Brown WD, Holden JE, Pyzalski R, Taylor MD, Carvey P, Ling Z, Trono D, Hantraye P, Deglon N, Aebischer P (2000) Neurodegeneration prevented by lentiviral vector delivery of GDNF in primate models of Parkinson's disease. Science 290: 767-773)。レンチウイルスベクターの例には1型ヒト免疫不全ウイルス (HIV-1)が含まれ、それについて多くの適切なベクターが開発されている。ベクターとしての使用に適する他のレンチウイルスには、2型ヒト免疫不全ウイルス (HIV-2)、3型ヒト免疫不全ウイルス (HIV-3)、サル免疫不全ウイルス (SIV)、サルAIDSレトロウイルス(SRV-1)、4型ヒトTリンパ球向性ウイルス (HTLV4)などの霊長類レンチウイルス群、ならびにウシレンチウイルス、ウマレンチウイルス、ネコレンチウイルス、ヒツジ/ヤギレンチウイルスおよびマウスレンチウイルス群が含まれる。
【0035】
本発明は、神経変性疾患の実験モデルとして、具体的には痴呆を示すヒト神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、のモデルとして有用な本発明の動物モデルの作成に有用であるベクター、例えばウイルスベクター、具体的にはレンチウイルスベクター、を提供する。ベクターおよびその作成は、より詳細に後述する。
【0036】
IGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物、またはかかる遺伝子構築物を含むベクターの、形質転換すべき非ヒト動物の脈絡叢の上皮細胞への投与は、あらゆる常套的方法により行うことができる;そうではあるが、ある特定の態様において、ベクターの脈絡叢の上皮細胞への投与は、脳室内 (icv) 注射により行う。
【0037】
本発明で用いる用語「IGF-I受容体の優性非機能的変異型」は、本発明の方法の過程において内因性の正常IGF-I受容体との組換えによりドミナントネガティブ体として機能しその生物学的機能を抑制する、いずれのIGF-I受容体の変異型をも含む。IGF-I受容体の優性非機能的変異型は、IGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物による形質転換の結果、本発明の動物モデルの脈絡叢の上皮細胞により発現される。ある特定の態様において、ポリヌクレオチドは、ヒトIGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードする。他の特定の態様において、ポリヌクレオチドは、ヒト以外の動物種、例えば齧歯類または非ヒト霊長類のような哺乳動、のIGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードする。
【0038】
実際上、IGF-I受容体の生物学的活性の機能的抑制(生物学的抑制)を達成する目的のため、いずれのIGF-I受容体の優性非機能的変異型も使用可能であるが、ある特定の態様において、IGF-I受容体の優性非機能的変異型は、本明細書において規定済みのIGF-IR.KRおよびIGF-IR.KAとして知られるヒトIGF-I受容体の非機能的変異型から選択される。
【0039】
導入遺伝子の投与により脳室の脈絡叢の上皮細胞が形質転換されようとする非ヒト動物は、いずれの遺伝的背景を有していてもよい。
【0040】
本発明の方法は、ある具体的態様において、利用されるベクターが本明細書中HIV/IGF-IR.KR (HIV/KR)として知られるHIV-1起源のレンチウイルスベクターであり、IFG-I受容体の優性非機能的変異型がIGF-IR.KRとして知られるヒトIGF-I受容体の非機能的変異型であり、かつ脈絡叢上皮細胞が形質転換された非ヒト動物が健康成体正常ラットである、本発明の動物モデルを作成するための方法において具現化される(実施例2)。
【0041】
さらに、本発明の方法は、別の具体的態様において、利用されるベクターがHIV/IGF-IR.KR (HIV/KR)として知られるレンチウイルスベクターであり、IFG-I 受容体の優性非機能的変異型がIGF-IR.KRとして知られるヒトIGF-I受容体の非機能的変異型であり、かつ脈絡叢上皮細胞が形質転換された非ヒト動物がLIDトランスジェニックマウスである、本発明の動物モデルを作成するための方法において具現化される(実施例3)。
【0042】
あるいは、前述のように、脳室の脈絡叢の上皮細胞におけるIGF-I受容体の機能の生物学的活性の変化は、IGF-I受容体の機能的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメントをコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドの発現による、IGF-I受容体の機能的活性の抑制によることもある。
【0043】
それゆえ、別の特定の態様において、IGF-I受容体の機能的活性を抑制する遺伝子組換え手法は、IGF-I受容体の機能的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメントをコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物の導入による、非ヒト動物の脈絡叢の上皮細胞の形質転換を含み、この阻害エレメントは以下から選択される:
a) IGF-I受容体の遺伝子配列またはmRNA配列の特異的アンチセンスヌクレオチド配列、
b) IGF-I受容体のmRNAの特異的リボザイム、
c) IGF-I受容体のmRNAの特異的アプタマー、または
d) IGF-I受容体のmRNAの特異的干渉RNA (iRNA)。
【0044】
好都合には、遺伝子構築物は、ベクター、例えば発現ベクターまたは移入ベクターに含まれる。かかるベクターの特徴は前述した。
【0045】
上記のa)-d) のヌクレオチド配列は、IGF-I受容体遺伝子のmRNAへの発現を、またはmRNAのタンパク質への発現を阻害し、それによりその生物学的機能を抑制するものであり、遺伝子組換えおよび遺伝子発現の抑制についての当業界における既存のノウハウに関する遺伝子操作分野の専門家により作成されうる (Clarke, A.R. (2002) Transgenesis Techniques. Principles and Protocols, 2nd Ed Humana Press, Cardiff University; Patent US20020128220. Gleave, Martin. TRPM-2 antisense therapy; Puerta, Ferandez E et al. (2003) Ribozymes: recent advances in the development of RNA tools. FEMS Microbiology Reviews 27: 75-97; Kikuchi, et al., 2003. RNA aptamers targeted to domain II of Hepatitis C virus IRES that bind to its apical loop region. J. Biochem 133, 263-270; Reynolds A. et al., 2004. Rational siRNA design for RNA interference. Nature Biotechnology 22 (3): 326-330)。
【0046】
別の局面において、本発明は、本発明の動物モデルの作成方法の実施に有用なベクターに関する。ベクターは、非ウイルスベクターであってもよいが、前述のように好都合にはウイルスベクターであり、IGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチド、またはIGF-I受容体の機能的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメントをコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドを含み、併せて、非ヒト動物の細胞においてそれらを発現させるために必要なエレメントを含んでいてもよい。ベクターは、人工またはキメラウイルス粒子の形態であってよい。
【0047】
ある特定の態様において、ベクターは、IGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列およびIGF-I受容体の機能的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメントをコードするヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列のポリヌクレオチドを含む、レンチウイルスベクターである。
【0048】
ある特定の態様において、IGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列は、本明細書中で規定済みの、IGF-IR.KRおよびIGF-IR.KAとして知られるヒトIGF-I受容体の非機能的変異型から選択される。
【0049】
別の特定の態様において、IGF-I受容体の機能的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメントをコードするヌクレオチド配列は、以下をコードする配列から選択される: A) IGF-I受容体の遺伝子配列またはmRNA配列の特異的アンチセンスヌクレオチド配列; b) IGF-I受容体のmRNAの特異的リボザイム; c) IGF-I受容体のmRNAの特異的アプタマー; および d) IGF-I受容体のmRNAの特異的干渉 RNA (iRNA)。
【0050】
本発明は、ある具体的態様において、パッケージング細胞における以下の一過性トランスフェクションにより得られうるレンチウイルスベクターを提供する:
プラスミド (i)、これは以下から選択されるヌクレオチド配列を含む:
-IGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列、および
-IGF-I受容体の機能的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメントをコードするヌクレオチド配列;
プラスミド (ii)、これはRevタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む;
プラスミド (iii)、これはRev 応答エレメント (RRE)をコードするヌクレオチド配列を含む; および
プラスミド (iv)、これはベクターの異種パッケージングをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0051】
実際上、いずれの適切なパッケージング細胞も使用可能であるが、ある特定の態様において、パッケージング細胞は、市販の形質転換ヒト腎臓上皮細胞株である293T-細胞株に関連する。
【0052】
プラスミド (i)は、ベクター、例えば移入または発現ベクターであり、問題の導入遺伝子と、パッケージング細胞においてそのベクターが効率的に産生されるような転写を可能とするパッケージング細胞における機能的プロモーターとを含む遺伝子構築物を有する。ある特定の態様において、プラスミド (i)は、先に規定した本明細書においてIGF-IR.KRおよびIGF-IR.KAと呼ばれるヒトIGF-I受容体の非機能的変異型から選択されるIGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列を含む。別の特定の態様において、プラスミド (i) は、以下をコードする配列から選択される、IGF-I受容体の機能的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメントをコードするヌクレオチド配列を含む: a) IGF-I受容体の遺伝子配列またはmRNAの配列の特異的アンチセンスヌクレオチド配列; b) IGF-I受容体のmRNAの特異的リボザイム; c) IGF-I受容体のmRNAの特異的アプタマー; および d) IGF-I受容体のmRNAの特異的干渉 RNA (iRNA)。
【0053】
プラスミド (ii)は、ウイルス転写物の細胞質内蓄積を促進するRevタンパク質のいずれをコードするヌクレオチド配列をも事実上含みうる、非オーバーラップベクターである; そうではあるが、ある特定の態様において、プラスミド (ii) はRSV-Revと特定されるプラスミドであり、これはラウス肉腫ウイルス(RSV)のRevタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0054】
プラスミド (iii)は、条件付パッケージングベクターであり、適切なRev 応答エレメント (RRE)をコードするヌクレオチド配列を含み、このエレメントは、遺伝子が発現し、新しいウイルス粒子が産生されるように連結されている。
【0055】
プラスミド (iv) は、異種ベクターパッケージングをコードするヌクレオチド配列を含み、つまり、ウイルスがレンチウイルスでないことを条件として、適切なウイルスのパッケージングのためのいずれのタンパク質をコードするヌクレオチド配列をも含みうる; そうではあるが、ある特定の態様において、このプラスミドはp-VSVとして知られるものであり、これは水疱性口内炎ウイルス (VSV)のパッケージングをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0056】
レンチウイルスベクターは、当業者に知られる常套的方法により作成することができる。
【0057】
ある特定の態様において、レンチウイルスベクターはHIV7IGF-IR.KR (HIV/KR) (実施例1) と称され、これは、ヒトIGF-I受容体のアミノ酸配列においてK1003R変異を有するIGF-IR-KRと呼ばれるIGF-I受容体の非機能的変異型の非ヒト動物細胞における発現、IGF-I受容体の生物学的抑制、および痴呆を示すヒト神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、の実験モデルとして有用な非ヒト動物の作成を可能とする。
【0058】
別の特定の態様において、本発明の動物モデルの脈絡叢の上皮細胞におけるIGF-I受容体の機能的活性の抑制をもたらす遺伝子組換え手法は、その動物の脈絡叢の将来の細胞が遺伝子形質転換されIGF-Iに対する応答能を失うような、動物の胎生期における常套的遺伝子組換え手法を含む。このタイプのトランスジェニック動物の作成は、トランスジェニック動物関連の当業界における既存のノウハウに関する遺伝子操作分野の専門家により行われうる(Bedell MA, Jenkins NA, Copeland NG. Mouse models of human disease. Part I: techniques and resources for genetic analysis in mice. Genes Dev. 1997 Jan 1; 11(1):1-10. Bedell MA, Largaespada DA, Jenkins NA, Copeland NG. Mouse models of human disease. Part II: recent progress and future directions. Genes Dev. 1997 Jan 1; 11(1): 11-43)。
【0059】
本発明の可能性の1つは、特異的組織プロモーター (例えば、トランスサイレチンプロモーター、Ttr1 (Schreiber, G. The evolution of transthyretin synthesis in the choroid plexus. Clin. Chem Lab Med. 40, 1200-1210 (2002) と、IGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドとを含む導入遺伝子を発現させる、常套的遺伝子組換え法である。これにより、IGF-I受容体の優性非機能的変異型は脈絡叢の細胞でのみ発現し、その結果本発明の動物モデルが作成される。例示として、ヒトIGF-I受容体の優性非機能的変異型は、K1003R変異を有するIGF-IR.KR と呼ばれるIGF-I受容体の非機能的変異型(ヒトIGF-I受容体のアミノ酸配列の1003位のリジン残基がアルギニン残基に置換されている)、およびK1003A変異を有するIGF-IR.KAと呼ばれるIGF-I受容体の非機能的変異型(ヒトIGF-I受容体のアミノ酸配列の1003位のリジン残基がアラニン残基に置換されている)から選択される (Kato H, Faria TN, Stannard B, Roberts CT, Jr., LeRoith D (1993) Role of tyrosine kinase activity in signal transduction by the insulin-like growth factor-I (IGF-I) receptor. Characterization of kinase-deficient IGF-I receptors and the action of an IGF-I-mimetic antibody (alpha IR-3). J Biol Chem 268: 2655-2661)。
【0060】
あるいは、トランスジェニック動物の脳室の脈絡叢の上皮細胞におけるIGF-I受容体機能の生物学的活性の変化は、IGF-I受容体の機能的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメントをコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドの発現による、IGF-I受容体の機能的活性の抑制によりもたらされうる。本発明で使用する場合、前述のように、用語「IGF-I受容体の機能的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメント」は、IGF-I受容体のmRNAのタンパク質への翻訳を阻害する、タンパク質、酵素活性、ヌクレオチド配列、すなわち一本鎖または二本鎖のRNAまたはDNA、を意味する。例示として、ポリヌクレオチドは、IGF-I受容体の遺伝子配列またはmRNA配列の特異的アンチセンスヌクレオチド配列をコードするポリヌクレオチド、またはIGF-I受容体のmRNAの特異的アプタマーをコードするポリヌクレオチド、またはIGF-I受容体のmRNAの特異的干渉RNA (「低分子干渉RNA」またはsiRNA) をコードするポリヌクレオチドでありうる。
【0061】
同様に、本発明の動物モデルは、IGF-I受容体の機能的活性の抑制がその動物のより優れた制御および使用を可能とする各種メカニズムにより調節されうる、常套的遺伝子組換えにより作成可能である。つまり、制御された遺伝子組換え技術の1つは、内因性IGF-IR 配列にかえてLox-IGF-IRトランスジェニック配列を有する動物(「ノックイン」系統)と、特異的組織プロモーター、例えば繰り返しになるがトランスサイレチンプロモーター、により制御されるCreバクテリアリコンビナーゼを有する動物との交配による、「Cre/Lox」システムの使用から構成されうる(Isabelle Rubera, Chantal Poujeol, Guillaume Bertin, Lilia Hasseine, Laurent Counillon, Philippe Poujeol and Michel Tauc (2004) Specific Cre/Lox Recombination in the mouse Proximal Tubule. J Am Soc Nephrol. 15 (8): 2050-6; Ventura A, Meissner A, Dillon CP, McManus M, Sharp PA, Van Parijs L, Jaenisch R, Jacks T. (2004) Cre-lox-regulated conditional RNA interference from transgenes. Proc Natl Acad Sci USA. 101 (28): 10380-5)。別の制御可能なトランスジェニックモデル動物を作成するための別の例は、「tet-off」システムの使用から構成される (Rennel E, Gerwins P. (2002) How to make tetracycline-regulated transgene expression go on and off. Anal Biochem. 309 (1): 79-84; Schonig, K. Bujard H. (2003) Generating conditional mouse mutants via tetracycline-controlled gene expression. In: Transgenic mouse Methods and Protocols, Hofker, M, van Deursen, J (eds.) Humana Press, Totowa, New Jersey, pages 69-104)。本発明を例示するある態様は、Tre-Cre マウス(TreはTtaタンパク質 (tetracycline-controlled transactivator protein)の制御可能プロモーターである)と交配されたLox-IGF-IR マウスから構成される; このハイブリッドは続いてTtr-Tta マウスと交配され、得られるマウス: Lox-IGF-IR/Tre-Cre/Ttr-Ttaは、Ttaタンパク質の作用を失わせる化合物であるテトラサイクリンの投与に応答して、IGF-IRの機能が除去される。
【0062】
別の局面において、本発明は、実験モデル、例えば神経変性疾患、特にヒト神経変性疾患の実験モデル、特に痴呆を示すヒト神経変性疾患、例えばアルツハイマー病のモデル、として有用な非ヒト動物の作成方法における、本発明のベクターの使用に関する。
【0063】
以下の実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲を限定する意味に理解されてはならない。
【実施例】
【0064】
実施例1:持続性遺伝子組換え発現のためのウイルスベクターの作成
IGF-IR.KRと呼ばれる変異型IGF-I受容体を脈絡叢の上皮細胞に導入するための遺伝子媒体として、ウイルスベクターを作成した。変異型IGF-I受容体であるIGF-IR.KRは、K1003R変異(リジン残基がアルギニン残基と置換されている)を示し、正常内因性受容体との組換えにおいてドミナントネガティブとして作用し、それにより正常な機能を不可能にする (Kato H, Faria TN, Stannard B, Roberts CT, Jr., LeRoith D (1993) Role of tyrosine kinase activity in signal transduction by the insulin-like growth factor-I (IGF-I) receptor. Characterization of kinase deficient IGF-I receptors and the main action of an IGF-I mimetic antibody (alpha IR-3). J Biol Chem 268: 2655-2661)。
【0065】
長時間発現を特徴とするレンチウイルスベクターを使用した(Consiglio A, Quattrini A, Martino S, Bensadoun JC, Dolcetta D, Trojani A, Bengalia G, Marchesini S, Cestari V, Oliverio A, Bordignon C, Naldini L (2001) In vivo gene therapy of metachromatic luekodystrophy by lentiviral vectors: correction of neuropathy and protection against learning impairments in affected mice. Nat Med 7: 310-316; Kordower JH, Emborg ME, Bloch J, Ma SY, Chu Y, Levanthal L, McBride J, Chen EY, Palfi S, Roitberg BZ, Brown WD, Holden JE, Pyzalski R, Taylor MD, Carvey P, Ling Z, Trono D, Hantraye P, Deglon N, Aebischer P, (2000) Neurodegeneration prevented by lentiviral vector delivery of GDNF in primate models of Parkinson´s disease. Science 290: 767-773)(このベクターは、1型ヒト免疫不全ウイルス (HIV-1)に由来し、水疱性口内炎ウイルス(VSV) プラスミドベクターを用いて、293T細胞における一過性トランスフェクションにより作成およびパッケージングされ、ウイルスの送達のため超遠心によりウイルス粒子を濃縮した後に使用された)。HIVウイルスの第3世代を既報の方法により作成した(Dull HB (1998) Behind the AIDS mailer. Am J Prev Med 4: 239-240)。このプロセスでは、既報の構築物に類似する4つの構築物を用いた(Bosch A, Perret E, Desmaris N, Trono D, Heard JM. Reversal of pathology in the entire brain of mucopolysaccharidosis type VII mice after lentivirus-mediated gene transfer. Hum Gen Ther 8: 1139-1150, 2000):
(i)ラウス肉腫ウイルス (RSV)のためのRevタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むRSV- Rev 非オーバーラップベクター;
(ii)Rev応答エレメント (RRE)をコードするヌクレオチド配列を含むp-RRE条件付パッケージングベクター;
(iii)ベクターの異種パッケージング、特に水疱性口内炎ウイルス (VSV)のためのパッケージング、をコードするヌクレオチド配列をを含むp-VSVベクター; および
(iv)適切な導入遺伝子(この場合IGF-IR.KR)、およびパッケージング細胞(293T)におけるベクターの効率的な転写を可能とするホスホグリセロキナーゼ (PCK) プロモーターのための遺伝子構築物を有する移入ベクター。
【0066】
始めの3つのベクター [1)-3)] は既知である (既に引用済みの文献を参照のこと)。最後のベクターの構築は、変異型IGF-I受容体(この場合、リジン残基がアルギニン残基と置換されたK1003R変異を有するIGF-IR.KRと呼ばれる変異型受容体(Kato H, Faria TN, Stannard B, Roberts CT, Jr., LeRoith D (1993) Role of tyrosine kinase activity in signal transduction by the insulin-like growth factor-I (IGF-I) receptor. Characterization of kinase deficient IGF-I receptors and the action of an IGF-I mimetic antibody (alpha IR-3) J Biol Chem 268: 2655-2661))をコードするIGF-I受容体のcDNAのHincII-XbaI フラグメントを、ベクター HIV-LacZ (Naldini L, Blomer U, Gallay P, Ory D, Mulligan R, Gage FH, Verma IM, Trono D (1996) In vivo gene delivery and stable transduction of non-dividing cells by a lentiviral vector. Science 272: 263-267)に導入することによって行った。簡単に説明すると、既報の方法により、IGF-IR.KRをコードするcDNAを用いたlacZ との情報交換によって、K1003R変異を有するIGF-Iの変異型(IGF-IR.KR) をコードするcDNAをHIV-lacZに導入した ((Desmaris N, Bosch A, Salaun C, Petit C, Prevost MC, Tordo N, Perrin P, Schwartz O, de Rocquigny H, Heard JM (2001) Production and neurotropism of lentivirus vectors pseudotyped with lyssavirus envelope glycoproteins. Mol Ther 4: 149-156)。このプロセスのため、HIV-lacZベクターをSmaI/XbaIで切断し、lacZ cDNAを除去し、そしてHincII/XbaIで切断したIGF-IR.KRをコードするcDNAと結合した。これら制限酵素部位は相同である。その結果、導入遺伝子のIGF-IR.KRを有する移入ベクターが得られた。
【0067】
本明細書においてHIV/IGF-IR.KRまたはHIV/KRとして知られるレンチウイルスベクターは、293T細胞の一過性トランスフェクショにより得た。RSV-Rev、p-RRE、p-VSVプラスミド、および導入遺伝子 IGF-IR.KRを有する移入ベクターは、前述の293T細胞にエピソームとしてパッケージングされる(Desmaris N, Bosch A, Salaun C, Petit C, Prevost MC, Tordo N, Perrin P, Schwartz O, de Rocquigny H, Heard JM (2001) Production and neurotropism of lentivirus vectors pseudotyped with lyssavirus envelope glycoproteins. Mol Ther 4: 149-156)。293T細胞株 (American Type Culture Collectionより購入可能)は、プロモーター領域におけるプラスミドのエピソーム的複製を可能とするSV40T抗原を発現する形質転換ヒト腎臓上皮細胞株である。前述の場合、この細胞を、トランスフェクションの24時間前に、10cmプレートにDMEM(10% ウシ胎児血清およびペニシリン (100 IU/ml)含有)中において密度 1-5 x 106にて播種した。トランスフェクションプロセス中に、各プレートにつき合計32.75μgのプラスミドDNAを使用した: 3μgのp-VSV プラスミド、3.75μgのRSV-Rev プラスミド、および13μgのp-RRE プラスミドおよびIGF-IR.KR導入遺伝子を有する移入プラスミド。500μlのHEPES 2X 緩衝生理食塩水 (NaCl 280mM, HEPES 100mM, Na2HPO4 1.5mM, pH 7.12)を滴下することにより、沈殿物を得た。沈殿物は振盪しながら各培養プレートに添加した。10 mlの培地を24時間後に交換し、さらに24時間後、粒子を回収し、低速遠心機を用いて浄化し、セルロースアセテートフィルター (0.22μm)を通過させた。最後に、一連の超遠心プロセスの後、その後の使用のため、粒子すなわちレンチウイルスベクター HIV/IGF-IR.KR (HIV/KR)をリン酸緩衝生理食塩水 (PBS/BSA)に再懸濁した。簡単に説明すると、はじめに、293T細胞の存在するトレイから得た培養培地を0.45μm フィルターを用いてろ過した。この培地を次いで、4℃で1.5時間、19,000rpmにて遠心した。沈殿物を1% PBS/PBAに再懸濁し、氷中に1時間放置し、そして1.5時間、19,000rpmにて再度遠心した。その後培地を1% PBS/BSAに再懸濁し、氷中に1時間放置し、そして4℃で5分間、14,000rpmにて遠心した。最終生成物は直ちに凍結し、-80℃で保存した。これと同じ方法を、空のHIV粒子およびHIV/GFP粒子の精製に使用した。空のHIV粒子 (すなわち、空のHIVベクター)(SmaI/XbaIにより切断されたHIV-lacZに相当)およびHIV/GFP粒子は、以前に記載されている(Desmaris N, Bosch A, Salaun C, Petit C, Prevost MC, Tordo N, Perrin P, Schwartz O, de Rocquigny H, Heard JM (2001) Production and neurotropism of lentivirus vectors pseudotyped with lyssavirus envelope glycoproteins. Mol Ther 4: 149-156)。
【0068】
実施例2: 脈絡叢由来の上皮細胞におけるレンチウイルスベクターの発現
脈絡叢由来上皮細胞におけるレンチウイルスベクターの発現を分析するため、導入遺伝子としてGFPをコードする遺伝子を含むHIV/GFP レンチウイルスベクターを構築した。簡単に説明すると、GFPタンパク質遺伝子のためのcDNAを、HIV-1移入ベクター [(pHR'CMV)-PGK、Desmaris N, Bosch A, Salaun C, Petit C, Prevost MC, Tordo N, Perrin P, Schwartz O, de Rocquigny H, Heard JM (2001) Production and neurotropism of lentivirus vectors pseudotyped with lyssavirus envelope glycoproteins. Mol Ther 4: 149-156] にBamHI/SalI 制限酵素部位において実施例1の詳細な説明にしたがいサブクローニングし、HIV/GFPと呼ばれるレンチウイルスベクターを得た。
【0069】
その後、動物(5-6ヶ月齢雄ラット (n=7))に、トリブロモエタノール麻酔下、定位手術によりHamiltonシリンジを用いて1μl/分にて6μlのHIV/GFP ベクターを両側脳室(定位軸: ブレグマから1mm、側方へ1.2 mm、深さ4mm) に注射した。6ヶ月後、ラットを屠殺し、導入遺伝子の存在を蛍光を用いて観察した。この目的のため、動物に経心的に 4% パラホルムアルデヒドを還流させた。そして、脳をビブラトームで50μm切片に切断しその切片を直ちにゼラチン処理ホルダーにマウントし、GFPタンパク質の蛍光を蛍光顕微鏡 (Leica)を用いて直接観察した。
【0070】
その結果、HIV/GFPレンチウイルスベクター (本発明で用いた、導入遺伝子として使用された蛍光GFPタンパク質をコードする遺伝子のベクター) を成体ラットに脳室内 (icv) 注射にて投与することによってGFPタンパク質が脈絡叢において持続的に発現することがわかった(図1)。
【0071】
実施例3: レンチウイルスベクター HIV/IGF-IR.KR (HIV/KR)を用いた脈絡叢由来上皮細胞の形質転換
既報の方法により上皮細胞の単層を得た(Strazielle, N. and Ghersi-Egea, J.F. (1999) Demonstration of a coupled metabolism-efflux process at the choroid plexus as a mechanism of brain protection toward xenobiotics. J. Neurosci. 19: 6275-6289)。5-7日齢のラットを屠殺し、側脳室および前脳室から脈絡叢を迅速に取り出し、氷上にてDMEM培養培地中にセットした。取り出しおよび調製後、脈絡叢を酵素; 1 mg/ml プロナーゼ (SIGMA) および 12.5μg/ml Dnase I (Boehringer Mannheim)により15分間かけて機械的分散を同時に行い消化した。最後に、この溶液を遠心し (1,000rpm) 、細胞をDMEM(10% 胎児血清 (FCS) 添加物、10ng/ml EGF (上皮成長因子) (Sigma)、5ng/ml FGF (繊維芽細胞成長因子) (Boehringer Mannheim) およびゲンタマイシン含有)に再懸濁した。これら細胞を、以下に要約する方法にて、レンチウイルスベクター HIV/IGF-IR.KV (HIV/KR)および空のHIVベクターで形質転換した。24時間の培養後、培地をウイルス (10-2〜10-3で希釈され少なくとも50μg/mlを含有)および 8μg/ml ポリブレン (Sigma) を含む新しいDMEMと交換した。この感染培地を24時間後に交換し、細胞をさらに1日維持し、最後に培地を吸引した後に細胞を処理した。
【0072】
その結果、レンチウイルスベクター HIV/IGF-IR.KR (HIV/KR) をラット脈絡叢から得た培養上皮細胞に添加すると、成長因子IGF-Iの産生率が低下することが観察された。空のHIVベクターをトランスフェクトした細胞とは異なり、HIV/KRベクターが感染した細胞においてのみ、IGF-IによるAβ1-40のペプチドトランスサイトーシスが起こらなかった (図2)。トランスサイトーシスは、上部培養チャンバーから低部培養チャンバーへ通過した(これは上皮細胞の単層の通過を必要とする)Aβ1-40の量により定量した (Carro E, Trejo JL, Gomez-Isla T, LeRoith D, Torres-Aleman I (2002) Serum insulin-like growth factor I regulates brain amyloid-beta levels. Nat Med 8: 1390-1937)。
【0073】
実施例4: 健康成体ラットにおけるアルツハイマー型神経病理の発症
健康成体ラット(Wistar 株)にHIV/IGF-IR.KR (HIV/KR) ベクターを感染させた。このプロセスは、トリブロモエタノール麻酔下、Hamiltonシリンジを用いる定位手術により行い、5-6ヶ月齢雄ラットに1μl/分にて6μlのHIV/ IGF-IR.KR ベクターを両側脳室(定位軸: ブレグマから1mm、側方へ1.2 mm、深さ4mm) に注射した。コントロール動物に等量の空のHIVウイルスベクターを同じ条件下で注射した。5ヶ月後、アルツハイマーにおいて典型的に影響をうける構造である海馬に依存するモーリス空間学習試験(Clark CM, Karlawish JH (203) Alzheimer disease: current concepts and emerging diagnostic and therapeutic strategies. Ann Intern Med 138: 400-410)により、標準的方法にしたがい (Trejo JL, Torres Aleman I (2001) Circulating insulin-like growth factor I mediates exercise-induced increases in the number of new neurons in the adult hippocampus. J Nuerosci 21: 1628-1634)、ラットの認知能力を測定した。「水迷路」(またはモーリス試験)と呼ばれるこの試験は、アルツハイマー病に存在する特徴的欠陥の1つである空間記憶を測定する (van der Staay FJ (2002) Assessment of age associated cognitive deficits in rats: a tricky business. Nuerosci Biobehav Rev 26: 753-759)。試験完了時にラットを屠殺し (ウイルスベクター注射の6ヶ月後)、大動脈を介して緩衝生理食塩水を還流し、脳を直ちに取り出し、一方の半球を「ウェスタンブロット」を用いる後の処理のため-80℃で保存し、もう一方の半球を免疫組織化学試験のため4% パラホルムアルデヒドに24時間浸漬した。
【0074】
皮質アミロイド (Aβ)のレベルおよび脳脊髄液(CSF)のレベルを、ウェスタンブロット技術、ELISA、および免疫組織化学を用いて既報の方法にしたがい測定し(Carro E, Trejo JL, Gomez-Isla T, LeRoith D, Torres-Aleman I (2002) Serum insulin-like growth factor I regulates brain amyloid-beta levels. Nat Med 8: 1390-1937) 、また、皮質における過リン酸化tau (HPF-tau) のレベルをウェスタンブロットおよび免疫組織化学を用いて測定した (Carro E, Trejo JL, Gomez-Isla T, LeRoith D, Torres-Aleman I (2002) Serum insulin-like growth factor I regulates brain amyloid-beta levels. Nat Med 8: 1390-1937)。さらに、HPF-tau沈着およびアミロイド沈着の存在もまた、免疫組織化学技術により記録した (Carro E, Trejo JL, Gomez-Isla T, LeRoith D, Torres-Aleman I (2002) Serum insulin-like growth factor I regulates brain amyloid-beta levels. Nat Med 8: 1390-1937)。
【0075】
HIV/IGF-IR.KRベクターの添加により脈絡叢内のIGF-Iシグナルをブロックした動物は、空間学習および記憶において有意な認知障害を示した (図3Aおよび3B)。
【0076】
さらに、コントロール動物として比較して、Aβのレベルの有意な増加が脳実質において観察され、同時にCSFにおいてAβレベルの低下が観察された(図4Aおよび4B)。両変化はアルツハイマー病に典型的である (Selkoe DJ (2001) Clearing the Brain's Amyloid Cobwebs. Neuron 32: 177-180; Sunderland T, Linker G, Mirza N, Putnam KT, Friedman DL, KImmel LH, Bergeson J, Manetti GJ, Zimmermann M, Tang B, Bartko JJ, Cohen RM (2003) Decreased beta-amyloid1-42 and increased tau levels in cerebrospinal fluid of patients with Alzheimer's disease. JAMA 289: 2094-2103)。このアミロイドーシスとともに、細胞内および細胞外のHPF-tau蓄積が終脳領域に観察された(図5)。細胞外蓄積はまたユビキチンを含有し (図5C) 、これもアルツハイマー病に特徴的なものである (Clark CM, Karlawish JH (2003) Alzheimer disease: current concepts and emerging diagnostic and therapeutic strategies. Ann Intern Med 138: 400-410)。さらに、この動物はタンパク質沈着と関連する反応性グリオーシスと顕著なシナプルタンパク質の欠損を示したことから、アルツハイマー型細胞変化を示したといえる(Masliah E, Mallory M, Alford M, DeTeresa R, Hansen LA, McKeel DW, Jr., Morris JC (2001) Altered expression of synaptic proteins occurs early in the progression of Alzheimer disease. Neurology 56: 127-129)。結論として、長時間発現レンチウイルスベクター HIV/IGF-IR.KR (HIV/KR) を注射された動物は、以下のようなアルツハイマー病と関連する神経病理学的特徴を示した: 高い皮質アミロイドレベル、過リン酸化tauおよびユビキチンの細胞内および細胞外沈着の存在、および認知欠損。
【0077】
実施例5:遺伝子組換えマウスであるLIDマウスにおけるアルツハイマー型神経病理の発症
別の実験例は、トランスジェニックマウスにおけるアルツハイマー型病理変化の作成からなる。ヒトにおいてアルツハイマー病理が発症する通常の条件により近づけるため、老齢マウスを選択した。
【0078】
HIV/IGF-IR.KR (HIV/KR) ベクターを、15ヶ月齢またはそれ以上のLID 遺伝子組換えトランスジェニックマウスに注射した。本実施例において用いるトランスジェニックマウスは、Cre/Loxシステムを用いたIGF-I 肝臓遺伝子の除去により血清IGF-Iを欠損する(LIDマウス) (Yakar S, Liu JL, Stannard B, Butler A, Accili D, Sauer B, LeRoith D (1999) Normal growth and development in the absence of hepatic insulin-like growth factor I. Proc Natl Acad Sci U S A 96: 7324-7329)。LIDマウス自体、IGF-I欠損がアミロイドーシスおよびグリオーシスをもたらすことから、既にアルツハイマーの幾つかの特徴を示すものである (Carro E, Trejo JL, Gomez-Isla T, LeRoith D, Torres-Aleman I (2002) Serum insulin-like growth factor I regulates brain amyloid-beta levels. Nat Med 8: 1390-1937)。さらに、マウスが高齢の場合、認知欠損およびアミロイドーシスを示す(Bronson RT, Lipman RD, Harrison DE (1993) Age-related gliosis in the white matter of mice. Brain Res 609: 124-128; van der Staay FJ (2002) Assessment of age associated cognitive deficits in rats: a tricky business. Nuerosci Biobehav Rev 26: 753-759)。本実験の目的は、アミロイドーシス形成にとって最も好ましい条件を得て、本実験に供した系がアルツハイマー病の特徴の1つであるアミロイド沈着をもたらすかについて決定することである。使用した方法および反応物質は先の実施例に記載されている。動物は、ウイルスベクター注射の3ヶ月後に屠殺した。
【0079】
HIV/KRベクター投与のちょうど3ヶ月後、老齢LIDマウスは、重篤な認知欠損 (図6A)と、成体ラットにおいてこのウイルスベクターへの暴露の6ヶ月後に観察されたものと類似するアミロイドーシスおよびタウパチー(taupathy)(データは示さないがこの結果は図4および5に示すものと類似する)とを示した。より重要なことに、このモデルを使用すると、より進行した段階の疾患が達成される: この動物はアミロイド蓄積を示し、それらはコンゴーレッド親和性ではない(不溶性プラークマーカーの「コンゴーレッド」で検出されない)ものの典型的な分散プラークを示した (図6B)。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、HIV/GFP レンチウイルスベクターが脈絡叢細胞において導入遺伝子を発現させることを示す写真であり、HIV/GFP ベクターの脳室内 (icv) 注射後に緑色蛍光タンパク質 GFP (緑)の発現が成体ラットの脈絡叢の細胞 (矢印)に見られる。写真は、屠殺3ヶ月前にHIV/GFP レンチウイルスベクターを単回icv注射にて投与された動物の脈絡叢細胞を示す。
【図2】図2は、出生後ラットの脈絡叢から得られた培養上皮細胞へのHIV/IGF-IR.KR (HIV/KR) ベクターの投与によりIGF-Iに対する応答が消失することを示す。KR (HIV+KR+ および HIV+KR+IGF+Aβ)を感染させた細胞でのみ、ヌルHIVベクター (HIV) をトランスフェクトした細胞とは異なり、IGF-Iがペプチド Aβ-40のトランスサイトーシスを促進しなかった。*P<0.05 、全ての他の群に対して。
【図3】図3は、学習 (A) および空間記憶 (B) がHIV/IGF-IR.KR ラットにおいて減少することを示し、これはこのラットがモーリス試験(動物がプラットフォーム上以外では休憩できずに泳ぐプール中の、水に覆われたプラットフォームの位置を記憶することからなる)においてコントロールラット (HIV)よりも学習が遅く劣っていることからわかる。HIV/IGF-IR.KR ラット: r2=0.8516 vs. コントロールラット r2=0.9884, *P<0,05。
【図4】図4は、HIV/IGF-IR-KR (HIV/KR) ベクターを注射されたラットの大脳皮質 (A) および脳脊髄液 (CSF) (B)におけるAβレベルを示す。皮質のAβレベルは増加する一方、Aβクリアランスの減少を示すCSFの減少が並行して起こる。このレベルは、抗Aβ抗体を用いる免疫ブロット濃度測定により測定した。代表的免疫ブロットを示す。相違が各実験群における全タンパク質量に起因するものでないことを示すため、ニューロンタンパク質のカルビンジンもまた評価した。*P<0.05 vs. コントロール (ヌルHIVを注射したラット)。
【図5】図5は、HIV7IGF-IR-KR (HIV/KR) ベクターを注射したラットの大脳皮質における過リン酸化tau (HPF-tau)のレベルを示す。図5Aは、HIV/IGF-IR.KR (HIW7KR) ベクターおよびコントロールベクター (HIV-コントロール)を注射したラットの大脳皮質におけるHPF-tauのレベルを示す。このレベルは、抗HPF-tau抗体を用いた免疫ブロット濃度測定により測定した。*P<0.05 vs. コントロール。図5Bは、HPT-tau沈着の組織位置の共焦点顕微鏡分析の結果を示す。HIV/IGF-IR-.KR (HIV/KR) 動物 (右パネル)は、終脳領域のニューロン(βチューブリンについて免疫陽性、緑)の内側 (矢印) および外側 (アスタリスク)の両方においてHPF-tau (赤)の蓄積を示したが、コントロール動物 (HIVで処置、左パネル)は示さなかった。黄赤色の細胞内シグナルから、ニューロンにおけるHPF-tauの共局在化が明らかとなっている。図5Cは、HPF-tauの細胞外蓄積はまたユビキチンを含むことを示す。HPF-tau 沈着 (赤) とユビキチン (緑)との共局在化 (黄色蓄積、矢印)が生じる。コントロール動物はこれらの沈着を有さない (データ非提示)。
【図6】図6は、遺伝的背景の改変されたマウスにおける標準的なアルツハイマー神経病理を示す。図6Aは、HIV/IGF-IR.KR (HIV/KR) [LID-HIV/IGF-IR.KR) ベクターを処置した老齢 (15ヶ月以上) LIDマウスは事実上モーリス試験を学習しなかったことを示す。コントロールウイルスベクター [LID-HIV]のみを投与した老齢LIDマウスは、学習し、学習内容を維持した。同様に、脈絡叢におけるIGF-I受容体のシグナル伝達が除去されているLID-HIV/IGF-IR.KRマウスは、学習が有意に劣っていた (*P<0.001 vs. コントロール)。LID-HIV/IGF-IR.KR (n=5): r2=0.6320, LID-HIV (n=7): r2=0.7379; 同齢コントロール(n=6), r2=0.7909。図6Bは、LID-HIV/IGF-IR.KR 動物が終脳領域においてAβ蓄積(拡大パネル上でアスタリスクにより明示)を示し、これはLID-HIV コントロール マウス(下パネル)ではほとんど見られないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳室の脈絡叢の上皮細胞に存在する1型インスリン様成長因子 (IGF-I) 受容体の生物学的活性が変化していることを特徴とする、実験モデルとして有用な非ヒト動物。
【請求項2】
IGF-I受容体の生物学的活性の変化が生物学的抑制からなることを特徴とする、請求項1記載の動物。
【請求項3】
哺乳動物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の動物。
【請求項4】
齧歯類および霊長類から選択されることを特徴とする、請求項3記載の動物。
【請求項5】
ラットまたはマウスであることを特徴とする、請求項4記載の動物。
【請求項6】
脈絡叢の上皮細胞のIGF-I受容体の機能の変化がIGF-I受容体の優性非機能的変異型の発現によることを特徴とする、請求項1−5のいずれかに記載の動物。
【請求項7】
IGF-I受容体の優性非機能的変異型が、ヒトIGF-I受容体のアミノ酸配列の1003位のリジン残基がアルギニン残基と置換されたK1003R変異を有するIGF-IR.KRと呼ばれるIGF-I受容体の非機能的変異型であることを特徴とする、請求項6記載の動物。
【請求項8】
IGF-I受容体の優性非機能的変異型が、ヒトIGF-I受容体のアミノ酸配列の1003位のリジン残基がアラニン残基と置換されたK1003A変異を有するIGF-IR.KAと呼ばれるIGF-I受容体の非機能的変異型であることを特徴とする、請求項6記載の動物。
【請求項9】
正常動物であることを特徴とする、請求項1−8のいずれかに記載の動物。
【請求項10】
正常健康ラットであることを特徴とする、請求項9記載の動物。
【請求項11】
トランスジェニック動物であることを特徴とする、請求項11記載の動物。
【請求項12】
トランスジェニック動物がLIDトランスジェニックマウスであることを特徴とする、請求項11記載の動物。
【請求項13】
神経変性疾患の実験モデルとして有用な、請求項1−12のいずれかに記載の動物。
【請求項14】
神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項13記載の動物。
【請求項15】
非ヒト動物において遺伝子組換え手法を用いて脈絡叢の上皮細胞のIGF-I受容体の機能的活性を抑制することを含む、実験モデルとして有用な請求項1−14のいずれかに記載の非ヒト動物を得る方法。
【請求項16】
IGF-I受容体の機能的活性を抑制するための遺伝子組換え手法が、IGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物、またはIGF-I受容体の優性非機能的変異型が発現するような脈絡叢の上皮細胞の形質転換を可能とする遺伝子構築物を含むベクターを、非ヒト動物の脈絡叢の上皮細胞に投与することを含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
遺伝子構築物またはベクターの脈絡叢の上皮細胞への投与が脳室内注射 (icv)により行われる、請求項16記載の方法。
【請求項18】
ベクターがウイルスベクターおよび非ウイルスベクターから選択される、請求項16記載の方法。
【請求項19】
ウイルスベクターがレンチウイルスベクターである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
IGF-I受容体の優性非機能的変異型が、ヒトIGF-I受容体のアミノ酸配列の1003位のリジン残基がアルギニン残基と置換されたK1003R変異を有するIGF-IR.KRと呼ばれるIGF-I受容体の非機能的変異型である、請求項16記載の方法。
【請求項21】
IGF-I受容体の優性非機能的変異型が、ヒトIGF-I受容体のアミノ酸配列の1003位のリジン残基がアラニン残基と置換されたK1003A変異を有するIGF-IR.KAと呼ばれるIGF-I受容体の非機能的変異型である、請求項16記載の方法。
【請求項22】
動物が正常非ヒト動物である、請求項16記載の方法。
【請求項23】
非ヒト動物が非ヒトトランスジェニック動物である、請求項16記載の方法。
【請求項24】
IGF-I受容体の機能的活性を抑制するための遺伝子組換え手法が、IGF-I受容体の生物学的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメントをコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物、または該遺伝子構築物を含むベクターを導入することにより、非ヒト動物の脈絡叢の上皮細胞を形質転換することを含む、請求項15記載の方法、ここで該阻害エレメントは以下から選択される:
a) IGF-I受容体の遺伝子配列またはmRNA配列の特異的アンチセンスヌクレオチド配列、
b) IGF-I受容体のmRNAの特異的リボザイム、
c) IGF-I受容体のmRNAの特異的アプタマー、および
d) IGF-I受容体のmRNAの特異的干渉RNA干渉 (iRNA)。
【請求項25】
以下のプラスミドのパッケージング細胞における一過性トランスフェクションにより得られる、レンチウイルスベクター:
以下から選択されるヌクレオチド配列を含む、プラスミド (i):
-IGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列、および
-IGF-I受容体の機能的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメントをコードするヌクレオチド配列;
Revタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、プラスミド (ii);
Rev 応答エレメント (RRE)をコードするヌクレオチド配列を含む、プラスミド (iii); および
ベクターの異種パッケージングをコードするヌクレオチド配列を含む、プラスミド (iv)。
【請求項26】
プラスミド (i) が、以下から選択されるIGF-I受容体の非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドである、請求項25記載のベクター:
ヒトIGF-I受容体のアミノ酸配列の1003位のリジン残基がアルギニン残基と置換されたK1003R変異を有するIGF-IR.KRと呼ばれるIGF-I受容体の非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列、および
ヒトIGF-I受容体のアミノ酸配列の1003位のリジン残基がアラニン残基と置換されたK1003A変異を有するIGF-IR.KAと呼ばれるIGF-I受容体の非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列。
【請求項27】
プラスミド (ii) が、以下をコードするヌクレオチド配列から選択されるIGF-I受容体の機能的活性を抑制可能なIGF-I受容体遺伝子の発現の阻害エレメントをコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドである、請求項25記載のベクター:
a) IGF-I受容体の遺伝子配列またはmRNA配列の特異的アンチセンスヌクレオチド配列、
b) IGF-I受容体のmRNAの特異的リボザイム、
c) IGF-I受容体のmRNAの特異的アプタマー、および
d) IGF-I受容体のmRNAの特異的干渉RNA (iRNA)。
【請求項28】
パッケージング細胞が293T細胞である;
プラスミド (i) が、請求項27または28に規定されるプラスミドである;
プラスミド (ii) が、ラウス肉腫ウイルス (RSV)のRevタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、RSV-Revと特定されるプラスミドである;
プラスミド (iii) が、水疱性口内炎ウイルス (VSV)のためのパッケージングタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む、p-RREと特定されるプラスミドである、
請求項25記載のウイルスベクター。
【請求項29】
実験モデルとして有用な請求項15−24のいずれかに記載の非ヒト動物を得る方法における、請求項25−28のいずれかに記載のベクターの使用。
【請求項30】
脈絡叢の上皮細胞のIGF-I受容体の機能的活性を抑制するための遺伝子組換え手法が、脈絡叢特異的プロモーターおよびIGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物、または該遺伝子構築物を含むベクターを、非ヒト動物の胎生細胞に投与することを含む、請求項15記載の方法。
【請求項31】
IGF-I受容体の優性非機能的変異型が、ヒトIGF-I受容体のアミノ酸配列の1003位のリジン残基がアルギニン残基と置換されたK1003R変異を有するIGF-IR.KRと呼ばれるIGF-I受容体の非機能的変異型である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
IGF-I受容体の優性非機能的変異型が、ヒトIGF-I受容体のアミノ酸配列の1003位のリジン残基がアラニン残基と置換されたK1003A変異を有するIGF-IR.KAと呼ばれるIGF-I受容体の非機能的変異型である、請求項30記載の方法。
【請求項33】
脈絡叢の上皮細胞のIGF-Iの機能的活性を抑制するための遺伝子組換え手法が、脈絡叢特異的プロモーターおよびIGF-I受容体の優性非機能的変異型をコードするヌクレオチド配列のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物、または該遺伝子構築物を含むベクターを、非ヒト動物の胎生細胞に投与することを含む、請求項15記載の方法、ここで該阻害エレメントは以下から選択される:
a) IGF-I受容体の遺伝子配列またはmRNA配列の特異的アンチセンスヌクレオチド配列、
b) IGF-I受容体のmRNAの特異的リボザイム、
c) IGF-I受容体のmRNAの特異的アプタマー、および
d) IGF-I受容体のmRNAの特異的干渉RNA (iRNA)。
【請求項34】
脈絡叢特異的プロモーターがトランスサイレチン遺伝子プロモーターである、請求項30−33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
遺伝子組換え手法が誘導性である、請求項30−34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
神経変性疾患の疾患原因メカニズムの研究のため、または該疾患の治療用化合物の同定および評価のためのモデルとしての、請求項1−14のいずれかに記載の動物の使用。
【請求項37】
神経変性疾患が痴呆を示す神経変性疾患である、請求項36記載の使用。
【請求項38】
神経変性疾患がヒト神経変性疾患である、請求項36または37に記載の使用。
【請求項39】
アルツハイマー病の疾患原因メカニズムの研究のため、または該疾患に有効な治療用化合物の同定および評価のためのモデルとしての、請求項36記載の請求項1−14のいずれかに記載の動物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−508872(P2008−508872A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524357(P2007−524357)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【国際出願番号】PCT/ES2005/070106
【国際公開番号】WO2006/015996
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(593005895)コンセホ・スペリオール・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス (67)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS
【出願人】(596009674)アンスティテュ・パストゥール (23)
【Fターム(参考)】