説明

神経性刺激システム

【課題】神経性刺激システムを提供すること。
【解決手段】種々の側面は、埋込型装置を提供する。種々の実施形態では、装置は、少なくとも1つのポートを備え、各ポートは、電極を伴うリードを装置に接続するように構成される。装置はさらに、少なくとも1つのポートに接続されて固有心臓信号を感知する感知回路と、刺激チャネルを介して少なくとも1つのポートに接続され、刺激チャネルを通して電極に刺激信号を送達する刺激回路とを含む、刺激プラットフォームを含む。刺激回路は、神経性刺激療法およびCRM療法の両方に対して、刺激チャネルを通して刺激信号を送達するように構成される。感知および刺激回路は、CRM機能を果たすように構成される。装置はさらに、感知回路および刺激回路に接続される制御器を含んで、神経性刺激療法およびCRM療法を制御する。他の側面および実施形態を本願で提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の主張)
本出願において、米国特許出願第11/468,135号(2006年8月29日出願)に基づく優先権が主張され、この出願は、本明細書において参照により援用される。
【0002】
(関連出願)
本出願は、米国特許出願第11/087,935号(2005年3月23日出願)および米国特許出願第11/468,143号に関連し、これらの出願は、その全体が本明細書において参照により援用される。
【0003】
(技術分野)
本出願は、概して、医療機器に関し、より具体的には、心筋および神経性の刺激を提供するシステム、装置、および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
医学的治療法を送達するように、心臓刺激装置等の慢性電気刺激装置を埋め込むステップが知られている。心臓刺激装置の実施例は、ペースメーカー等の埋込型心調律管理(CRM)装置、埋込型除細動器(ICD)、ならびにペーシングおよび除細動機能を果たすことが可能な埋込型装置を含む。埋込型CRM装置は、心調律の障害を治療するために心臓の選択された各部に電気刺激を提供し、本明細書では、概して、CRM機能/療法と呼ばれる。埋込型ペースメーカーは、例えば、タイミングのとられたペーシングパルスで心臓のペースを保つCRM装置である。ペーシングパルスは、他のペーシングパルスまたは感知した電気的活動からタイミングをとられることができる。適切に機能すれば、ペースメーカーは、最小心拍数を実施することによって、代謝要求を満たすために適切な調律で自らのペースを保つことができない心臓を補う。一部のCRM装置は、収縮を協調させるために、心臓の異なる領域に送達されるペーシングパルスを同期化させる。協調した収縮は、十分な心拍出量を提供しながら、心臓が効率的に拍出することを可能にする。臨床データは、同期両心室ペーシングを通して達成される心臓再同期が、心臓機能の有意な改善をもたらすことを示している。心臓再同期療法は、心不全患者の心臓機能を改善する。
【0005】
心不全患者には、LV機能障害および死亡率の増加と関連する異常自律平衡がある。交感神経および副交感神経系の変調には、心不全およびMI後患者におけるリモデリングおよび死亡を防ぐ潜在的な臨床効果がある。直接電気刺激は、圧反射を活性化することができ、交感神経活動の低減を誘発し、血管抵抗を減少させることによって血圧を低減する。交感神経抑制および副交感神経活性は、おそらく急性虚血心筋の側副かん流を増加させ、心筋障害を減少させることによって、心筋梗塞後の不整脈脆弱性の低減と関連している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本主題の種々の側面は、埋込型装置を提供する。種々の実施形態では、装置は、少なくとも1つのポートを備え、各ポートは、電極を伴うリードを装置に接続するように構成される。さらに、装置は、少なくとも1つのポートに接続されて固有心臓信号を感知する感知回路と、刺激チャネルを介して少なくとも1つのポートに接続され、刺激チャネルを通して電極に刺激信号を送達する刺激回路とを含む、刺激プラットフォームを含む。刺激回路は、神経性刺激療法およびCRM療法の両方に対して、刺激チャネルを通して刺激信号を送達するように構成される。感知および刺激回路は、CRM機能を果たすように構成される。さらに、装置は、感知回路および刺激回路に接続される制御器を含み、神経性刺激療法およびCRM療法を制御する。
【0007】
本主題の種々の側面は、刺激チャネルを通して、電極に所望の刺激信号を送達するように埋込型装置を操作するための方法を提供する。方法の実施形態では、刺激チャネルを通して電極に送達される所望の治療法が判定される。心調律管理(CRM)療法が望ましいと判定されると、CRM刺激信号が刺激チャネルを通して電極に送達されて、心筋を捕らえる。神経性刺激療法が望ましいと判定されると、神経性刺激信号が刺激チャネルを通して電極に送達され、神経反応を誘出する。
【0008】
本主題の種々の側面は、埋込型医療機器を作製するための方法を提供する。方法の実施形態では、制御器は、メモリ、電極から感知チャネル上で固有心臓信号を感知するように構成される感知モジュール、および電極へ刺激チャネル上で刺激信号を生成するように構成される刺激モジュールに接続される。制御器によって行われるコンピュータ命令は、メモリに保存される。コンピュータ命令は、刺激モジュールを使用して神経性刺激療法を行うこと、ならびに感知モジュールおよび刺激モジュールを使用して心調律管理(CRM)療法を行うことを含む。さらに、コンピュータ命令は、治療法選択入力を受信する命令、神経性刺激療法が選択された場合に電極へと刺激チャネル上で神経性刺激信号を生成する命令、および神経CRM療法が選択された場合に電極へと刺激チャネル上でCRM刺激信号を生成する命令を含む。
【0009】
この課題を解決するための手段は、本出願の教示の一部の概説であり、本主題の排他的または包括的扱いとなることを目的としない。本主題についてのさらなる詳細は、発明を実施するための最良の形態および添付の請求項にある。それぞれが限定的な意味で理解されるものではない、次の詳細な説明を読んで理解し、その一部を形成する図面を参照することによって、他の側面が当業者にとって明白となるであろう。本発明の範囲は、添付の請求項およびそれらの同等物によって定義される。
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
迷走神経を刺激するために適合される1つ以上の電極と、
該1つ以上の電極に電気刺激を送達するための刺激回路と、
該刺激回路による電気刺激の該送達を制御するための、該刺激回路に接続される制御器と
を備え、該制御器は、該刺激回路が、
周波数=20Hz
パルス幅=300マイクロ秒
振幅=1.5〜2.0mA
の近似パラメータを伴うパルス列を送達するように構成される、
埋込型装置。
(項目2)
上記迷走神経を刺激するために適合される上記1つ以上の電極は、双極構成である、項目1に記載の装置。
(項目3)
上記迷走神経を刺激するために適合される上記1つ以上の電極は、遠方界皮下リターン電極を含む単極構成である、項目1に記載の装置。
(項目4)
上記制御器は、上記刺激回路が、交互極性を伴う二相パルス列として上記パルス列を送達するように構成される、項目1に記載の装置。
(項目5)
上記制御器は、上記刺激回路が、各連続パルス列の上記極性が交代する一連の単相パルス列を送達するように構成される、項目1に記載の装置。
(項目6)
上記制御器は、上記パルス列を継続的に送達するように構成される、項目1に記載の装置。
(項目7)
上記制御器は、規定の期間にわたって上記パルス列を断続的に送達するように構成される、項目1に記載の装置。
(項目8)
上記制御器は、10秒のオンおよび50秒のオフのデューティサイクルで、上記パルス列を断続的に送達するように構成される、項目1に記載の装置。
(項目9)
上記刺激回路は、上記制御器によって特定される電流振幅においてパルスを出力するための、電流源パルス出力回路をさらに備える、項目1に記載の装置。
(項目10)
上記刺激回路は、上記制御器によって特定される電流振幅においてパルスを出力するための、容量放電パルス出力回路と、リードインピーダンス測定回路とをさらに備える、項目1に記載の装置。
(項目11)
迷走神経を刺激するために適合される1つ以上の電極と、
該1つ以上の電極に電気刺激を送達するための刺激回路と、
該刺激回路による電気刺激の該送達を制御するための、該刺激回路に接続される制御器と
を備え、該制御器は、該刺激回路が、各連続パルス列の極性が第1の相および第2の相を交互する一連の単相パルス列を送達するように構成され、さらに、該第1の相および第2の相のそれぞれに対する該パルス幅、パルス振幅、デューティサイクル、および周波数は、別々に調整可能である、
埋込型装置。
(項目12)
上記第1の相は、滴定されて所望の治療的効果を達成し、上記第2の相は、滴定されて副作用の所望の低減を達成する、項目11に記載の装置。
(項目13)
迷走神経を刺激するために適合される1つ以上の電極と、
該1つ以上の電極に電気刺激を送達するための刺激回路と、
該刺激回路による電気刺激の該送達を制御するための、該刺激回路に接続される制御器と
を備え、該制御器は、該刺激回路が、第1の相および第2の相の交互極性を伴う二相パルス列としてパルス列を送達するように構成され、該第1の相および第2の相のそれぞれの該パルス振幅およびパルス幅は、別々に調整可能である、
埋込型装置。
(項目14)
上記制御器は、上記第1の相を滴定して所望の治療的効果を達成し、かつ上記第2の相を滴定して副作用の所望の低減を達成するように構成される、項目13に記載の装置。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】図1Aは、末梢血管制御のための神経機構を図示する。
【図1B】図1Bは、末梢血管制御のための神経機構を図示する。
【図2】図2は、心臓を図示する。
【図3】図3は、頸動脈洞、大動脈弓、および肺動脈の領域中の圧受容器を図示する。
【図4】図4は、肺動脈の中および周囲の圧受容器を図示する。
【図5】図5は、動脈管索および肺動脈幹の近傍の、大動脈弓中の受容器域を図示する。
【図6】図6は、頸動脈洞圧、交感神経活動(SNA)、および平均動脈圧(MAP)間の関係を使用し、圧反射順応を図示する。
【図7】図7は、刺激パラメータ、CRM刺激を行うために使用されることが可能なパラメータを表す領域、神経性刺激を行うために使用されることが可能なパラメータを表す領域、ならびに神経性刺激およびCRM刺激の両方を行うために使用されることが可能パラメータを表す領域、を表す図を図示する。
【図8】図8は、血圧の変化と刺激信号の速度との間の関係の図式解説である。
【図9A】図9Aは、心臓の中へ延在するリードを伴う埋込型医療機器を図示する。
【図9B】図9Bは、心内膜リードを伴う埋込型医療機器を図示する。
【図9C】図9Cは、心外膜リードを伴う埋込型医療機器を図示する。
【図10A】図10Aは、心臓の右側を図示し、さらに、一部の神経性刺激療法に対する神経標的を提供する心臓脂肪体を図示する。
【図10B】図10Bは、心臓の左側を図示し、さらに、一部の神経性刺激療法に対する神経標的を提供する心臓脂肪体を図示する。
【図11】図11は、埋込型医療機器の実施形態を図示する。
【図12】図12は、図11に図示されるハードウェアプラットフォームに対するペースモジュールの簡略図である。
【図13】図13は、埋込型医療機器の多重チャネルの実施形態を図示する。
【図14A】図14Aは、心筋および神経性刺激を提供するために使用される波形の実施例を図示する。
【図14B】図14Bは、心筋および神経性刺激を提供するために使用される波形の実施例を図示する。
【図14C】図14Cは、心筋および神経性刺激を提供するために使用される波形の実施例を図示する。
【図15】図15は、埋込型医療機器の刺激チャネル上で心筋および/または神経性刺激を選択的に提供する方法を図示する。
【図16】図16は、電流源パルス出力回路によって生成されるような、交互極性を伴う単相パルス列で構成されている、波形を図示する。
【図17】図17は、電流源パルス出力回路によって生成されるような、交互極性を伴う二相波形を図示する。
【図18】図18は、容量放電パルス出力回路によって生成されるような、交互極性を伴う単相パルス列で構成されている、波形を図示する。
【図19】図19は、容量放電パルス出力回路によって生成されるような、交互極性を伴う二相波形を図示する。
【図20】図20は、電流源パルス出力回路を使用して刺激パルス列を送達するための回路の実施形態を示す。
【図21】図21は、容量放電パルス出力回路を使用して刺激パルス列を送達するための回路の実施形態を示す。
【図22】図22は、模範的な神経刺激装置の系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本主題の次の発明を実施するための最良の形態は、例証として、本主題を実践することができる具体的側面および実施形態を示す、添付図面を参照する。当業者が本主題を実践することが可能となるように、これらの実施形態は十分に詳細に説明される。他の実施形態を利用してもよく、かつ本主題の範囲を逸脱しない限り、構造的、理論的、および電気的な変更を行ってもよい。本開示における「ある」、「1つの」、または「種々の」実施形態に対する言及は、必ずしも同じ実施形態を指さず、そのような言及は、2つ以上の実施形態を検討する。したがって、次の発明を実施するための最良の形態は、限定的な意味で理解されるものではなく、範囲は、添付の請求項のみによって、そのような請求項が享受できる法的同等物の全範囲とともに、定義される。
【0012】
本明細書で開示されるのは、神経性刺激、および心筋刺激とも呼ばれるCRM刺激の両方を提供するために、共通ハードウェアプラットフォームが使用され、したがって、CRMおよびNS療法の両方を行うハードウェア要件を低減する、装置である。低減したハードウェア要件は、装置の費用およびサイズを削減することができる。種々の装置の実施形態は、心筋刺激と神経性刺激を繰り返すことが可能なハードウェアを含み、種々の装置実施形態は、心筋および神経を同時に活性化することが可能な、共通刺激波形を提供するハードウェアを含む。例えば、一実施形態は、刺激モードを切り替え、その場合、装置が心臓ペーシング、神経性刺激、または、心臓ペーシングおよび神経性刺激の両方に適した刺激波形が送達される。これらの異なる刺激波形は、異なる部位で送達することができる(CRMリードを通して、または神経性刺激リードを通して)。一部の実施形態では、神経性刺激波形は、専用リードを通して送達され、心臓ペーシング波形は、専用リードを通して送達される。一部の実施形態では、神経性刺激および心臓ペーシング波形は、同じリードを通して交互の時間で送達される。
【0013】
一部のCRM装置には、ハードウェアにおいて、最大50Hzまでの周波数におけるバーストペーシング等の、神経性刺激に対する適切な振幅および周波数において電気刺激を提供する能力がある。神経性刺激リードの実施例は、高濃度の圧受容器の近傍で肺動脈に配置される拡張可能刺激リード、心臓脂肪体の近位に配置され、それを経血管的に刺激するように構成される、血管内挿入リード、心臓脂肪体に配置される心外膜リード、大動脈神経、頸動脈神経、または迷走神経等の神経幹の周囲に配置されるカフ電極、および、大動脈神経、頸動脈神経、または迷走神経等の神経幹の近位に配置され、それを経血管的に刺激するように構成される、血管内挿入リードを含む。
【0014】
種々の実施形態では、埋込型装置は、心筋および神経を刺激する適切に配置した刺激リードを通して波形を送達することによって、心筋刺激を提供する、神経性刺激を提供する、または心筋刺激および神経性刺激の両方を同時に提供する、のいずれかを行うように位置付けられるリードを使用する。したがって、刺激波形の賢明な選択を通して、本実施形態は、モードを切り替えないが、同時の心臓および神経性刺激を達成する。両方ではなく、心臓ペーシングまたは神経性刺激のみを提供することが所望である場合は、他の波形が印加される。
【0015】
本主題の刺激装置は、共通リードまたは独立リードのいずれかを通して、CRM療法(ペーシング、CRT等)および神経性刺激の両方を提供するために、共通または共有ハードウェアプラットフォームを使用する。一部の装置の実施形態は、心臓ペーシングおよび神経性刺激を提供するために同じハードウェアを使用して、出力モードを切り替える。典型的に、心臓ペーシングは、神経性刺激よりも比較的低い周波数および大きい振幅において発生する。
【0016】
CRM療法(徐脈ペーシングおよび/またはCRT等)は、CRMハードウェアにおいてすでにあるもの以外に追加ハードウェアを必要とせずに、神経性刺激(抗リモデリング療法等)と併せて提供されることが可能である。種々の実施形態は、神経性刺激を独占的に提供するように構成される既存のCRM出力チャネルを使用し、心臓刺激と神経性刺激を繰り返すように構成される既存のCRM出力チャネルを使用し、ならびに、心臓刺激および神経性刺激を同時に提供するように構成される既存のCRM出力チャネルを使用する。
【0017】
既存のCRM装置に対する刺激プラットフォームは、既存のパルス発生器、ペーシングアルゴリズム、および出力回路を保持する。実施形態では、装置は、心臓ペーシングを断続的に一時停止し、共有プラットフォームを使用して神経性刺激を送達する。他の実施形態では、既存のCRMリードは、刺激波形に応じて、心臓刺激または神経性刺激のいずれか、または両方を提供するような場所に配置される。
【0018】
次の開示は、生理学および本主題によって行われることが可能な治療法の実施例の考察を提供し、さらに、本主題による埋込型医療機器および方法の考察を提供する。
【0019】
(生理学)
(心不全)
心不全とは、心臓機能が、末梢組織の代謝要求を満たすのに十分なレベルを下回り得る正常以下の心拍出量を引き起こす、臨床的症候群を指す。心不全は、付随する静脈および肺のうっ血によるうっ血性心不全(CHF)として現れる場合がある。心不全は、虚血性心疾患等の種々の病因によるものであり得る。
【0020】
(高血圧症)
高血圧症は、心疾患および他の関連心臓共存疾患の原因である。高血圧症は、血管が収縮すると発生する。結果として、心臓がより激しく動き、より高い血圧で血流を維持し、それが心不全の一因となり得る。高血圧症は、概して、心臓血管損傷または他の有害結果を誘発する可能性があるレベルへの全身動脈血圧の一過性または持続的上昇等の、高い血圧に関する。高血圧症は、140mmHg以上の収縮期血圧、または90mmHg以上の拡張期血圧として任意に定義されている。制御されていない高血圧症の結果は、網膜血管疾患および発作、左心室肥大および不全、心筋梗塞、解離性動脈瘤、ならびに腎血管性疾患を含むが、それらに限定されない。
【0021】
一般集団の大部分、ならびにペースメーカーまたは除細動器を埋め込まれた大部分の患者は、高血圧症に罹患している。血圧および高血圧症を低減することができれば、この集団にとって長期死亡率および生活の質を改善することができる。高血圧症に罹患している多くの患者は、生活様式の変化および血圧降下剤に関係する治療等の治療に反応しない。
【0022】
(心臓リモデリング)
心筋梗塞(MI)または心拍出量の減少の他の原因の後に、構造、生化学、神経ホルモン、および電気生理学的因子を伴う、心室の複雑なリモデリング過程が発生する。心室リモデリングは、心室の拡張期充満圧を増加させ、それにより、いわゆる前負荷(すなわち、心臓拡張期の終わりに、心室中の血液の量によって心室が伸張される程度)を増加させる、いわゆる後方不全により、心拍出量を増加させるように作用する、生理学的代償機構によって誘起される。前負荷の増加は、フランク・スターリングの原則として知られる現象である、心臓収縮期中の1回拍出量の増加を引き起こす。しかしながら、ある期間にわたって前負荷の増加により心室が伸張されると、心室は拡張する。心室体積の拡大は、所与の収縮期圧における心室壁応力の増加を引き起こす。心室によって行われる圧力・体積作業の増加とともに、このことは心室筋の肥大に対する刺激の役割を果たす。拡張の不利点は、正常な残存心筋に課せられる余分な作業負荷、および肥大に対する刺激を表す壁張力の増加(ラプラスの法則)である。肥大が増加した張力に適合するのに十分ではない場合、さらなる進行性拡張を引き起こす悪循環が後に続いて起こる。
【0023】
心臓が拡張し始めるにつれて、ホルモン分泌および交感神経放電に応答する、血管運動中枢神経系の制御中枢に、求心性圧受容器および心肺受容器信号が送信される。最終的に、心室リモデリングに関与する細胞構造の有害変化の主な原因となるのは、血行動態的な交感神経系およびホルモンの変調の組み合わせ(アンギオテンシン変換酵素(ACE)活性の有無等)である。肥大を引き起こす持続的応力は、心筋細胞のアポトーシス(すなわち、プログラム細胞死)、および心臓機能のさらなる低下を引き起こす最終的な壁の薄化を誘発する。したがって、心室拡張および肥大は、最初は代償性で心拍出量を増加させる場合があるものの、該過程は、最終的には収縮および拡張両方の機能障害をもたらす。心室リモデリングの程度には、MI後および心不全患者における死亡率の増加との正の相関があることが示されている。
【0024】
(神経系)
自律神経系(ANS)は、「不随意」器官を調節する一方で、随意(骨格)筋の収縮は、体性運動神経によって制御される。不随意器官の実施例は、呼吸器官および消化器官を含み、また、血管および心臓も含む。しばしば、ANSは、不随意の反射的な方法で機能して、例えば、腺を調節し、皮膚、目、胃、腸、および膀胱の筋肉を調節し、心筋および血管の周囲の筋肉を調節する。
【0025】
ANSは、交感神経系および副交感神経系を含む。交感神経系は、緊張および緊急時に対するストレスおよび「闘争・逃走反応」と連携している。いくつかある作用の中で特に、「闘争・逃走反応」は、血圧および心拍を増加させて骨格筋血流量を増加させ、消化を減少させて「闘争・逃走」に対するエネルギーを提供する。副交感神経系は、弛緩および「安静・消化反応」と連携し、それはいくつかある作用の中で特に、血圧および心拍を減少させ、消化を増加させてエネルギーを節約する。ANSは、正常な内部機能を維持し、体性神経系と連動する。
【0026】
心拍および力は、交感神経系が刺激されると増加され、交感神経系が抑制される(副交感神経系が刺激される)と減少される。図1Aおよび1Bは、末梢血管制御のための神経機構を図示する。図1Aは、概して、血管運動神経中枢への求心性神経を図示する。求心性神経は、神経中枢に向かってインパルスを伝える。血管運動神経中枢は、血管を拡張および収縮して、血管のサイズを制御する神経に関する。図1Bは、概して、血管運動神経中枢からの遠心性神経を図示する。遠心性神経は、神経中枢から離れてインパルスを伝える。
【0027】
交感神経および副交感神経系を刺激すると、心拍および血圧以外の影響を及ぼし得る。例えば、交感神経系を刺激すると、瞳孔を拡張し、唾液および粘液産生を低減し、気管支筋を弛緩し、胃の不随意収縮(蠕動)の連続波および胃の運動性を低減し、肝臓によるグルコースへのグリコーゲンの変換を増加し、腎臓による尿分泌を減少し、膀胱の壁を弛緩して括約筋を閉じる。副交感神経系を刺激する(交感神経系を抑制する)と、瞳孔を収縮し、唾液および粘液産生を増加し、気管支筋を収縮し、胃および大腸における分泌物および運動性を増加し、小腸における消化を増加し、尿分泌を増加し、膀胱の壁を収縮して括約筋を弛緩する。交感神経および副交感神経系と関連する機能は多く、互いに複雑に統合され得る。
【0028】
圧反射は、圧受容器の刺激によって誘起される反射である。圧受容器は、心耳、大静脈、大動脈弓、および頸動脈洞の壁の中の感覚神経終末等の、圧力変化の感覚器を含み、内側からの圧力上昇に起因する壁の伸張に敏感であり、その圧力を低減する傾向がある中枢性反射機構の受容器官として機能する。神経細胞の集合は、自律神経節と呼ぶことが可能である。また、これらの神経細胞は、電気的に刺激されて、交感神経活動を抑制し、副交感神経活動を刺激する、圧反射を誘発することも可能である。したがって、自律神経節は、圧反射経路の一部を形成する。感覚神経終末から通じる、迷走神経、大動脈神経、および頸動脈神経等の求心性神経幹もまた、圧反射経路の一部を形成する。圧反射経路および/または圧受容器を刺激すると、交感神経活動を抑制し(副交感神経系を刺激する)、末梢血管抵抗および心筋収縮能を減少させることによって、全身動脈圧を低減する。圧受容器は、内圧および血管壁(例えば、動脈壁)の伸張によって、自然に刺激される。
【0029】
本主題の一部の側面は、神経系の無差別刺激の望ましくない作用を低減しながら、所望の反応(例えば、高血圧症の低減)を刺激する目的で求心性神経幹を刺激するよりもむしろ、動脈壁の中の特定神経終末を局所的に刺激する。例えば、一部の実施形態は、肺動脈中の圧受容器部位を刺激する。本主題の一部の実施形態は、大動脈、心腔、心臓の脂肪体の中の圧受容器部位または神経終末のいずれかを刺激するステップを伴い、本主題の一部の実施形態は、迷走神経、頸動脈神経、および大動脈神経等の求心性神経幹を刺激するステップを伴う。一部の実施形態は、カフ電極を使用して求心性神経幹を刺激し、一部の実施形態は、神経に最も近い血管中に位置付けられる血管内リード線を使用して求心性神経幹を刺激するため、電気刺激が血管壁を通過して求心性神経幹を刺激する。
【0030】
図2は、図3−5の図解との文脈関係を提供するために、心臓201、上大静脈202、大動脈弓203、および肺動脈204を含む。下記でさらに詳細に論じられるように、肺動脈204は、圧受容器を含む。リードは、心臓ペースメーカーリードと同様に、末梢静脈を通り、三尖弁を通り、心臓の右心室の中へと(図中で明示せず)、血管内挿入されて、肺動脈弁を通って肺動脈の中へ進み続けることが可能である。肺動脈および大動脈の一部は、互いに近接している。種々の実施形態は、肺動脈に血管内で位置付けられるリードを使用して、大動脈中の圧受容器を刺激する。したがって、本主題の種々の側面によれば、圧反射は、肺動脈の中へ血管内挿入される少なくとも1つの電極によって、肺動脈の中または周囲で刺激される。あるいは、圧力感知能力がある、またはない、無線刺激装置が、カテーテルを介して肺動脈の中へ位置付けられてもよい。刺激および/または刺激のためのエネルギーの制御は、超音波、電磁、またはそれらの組み合わせを介して、別の埋込型または外部装置によって供給されてもよい。本主題の側面は、肺動脈の中へ圧反射刺激装置を血管内に埋め込む、比較的非侵襲性の外科技術を提供する。
【0031】
図3は、頸動脈洞305、大動脈弓303、および肺動脈304の領域中の圧受容器を図示する。大動脈弓303および肺動脈304は、すでに図2の心臓に関して図示した。図3で図示されるように、迷走神経306は、延在して、大動脈弓303、頸動脈洞305、および総頸動脈310中の圧受容器として機能する感覚神経終末307を提供する。舌咽神経308は、頸動脈洞305中の圧受容器として機能する神経終末309を提供する。これらの神経終末307および309は、例えば、内側からの圧力上昇に起因する壁の伸張に敏感である。これらの神経終末の活性化は、圧力を低減する。図示されていないものの、心臓の心房および心室も、圧受容器を含む。カフは、迷走神経等の求心性神経幹の周囲に配置されており、圧受容器から血管運動神経中枢に通じる、圧反射を刺激する。本主題の種々の実施形態によれば、求心性神経幹は、カフまたは求心性神経に最も近い血管に位置付けられる、血管内供給リードを使用して、刺激することができる。
【0032】
図4は、肺動脈404の中および周囲の圧受容器を図示する。上大静脈402および大動脈弓403も図示される。図示されるように、肺動脈404は、概して、色の濃い領域によって示されるように、多数の圧受容器411を含む。その上、一群の密集した圧受容器が、動脈管索412の取着部の近傍に位置している。また、図4は、心臓の右心室413、および肺動脈404から右心室413を分離する肺動脈弁414も図示する。本主題の種々の実施形態によれば、リードは、末梢静脈を通して挿入され、三尖弁を通って右心室の中へ、そして右心室413から肺動脈弁414を通って肺動脈404の中へ通され、肺動脈の中および/または周囲の圧受容器を刺激する。種々の実施形態では、例えば、リードは、動脈管索412の近傍の一群の圧受容器を刺激するように位置付けられる。図5は、動脈管索512および肺動脈504の幹の近傍の、大動脈弓503中の圧受容器域511を図示する。一部の実施形態は、肺動脈にリードを位置付けて、大動脈中の圧受容器部位を刺激する。
【0033】
神経は、刺激に順応することができるため、連続刺激の有効性は経時的に減退する。本主題の実施形態は、神経順応を考慮した神経性刺激を提供する。図6は、頸動脈洞圧615、交感神経活動(SNA)616、および平均動脈圧(MAP)617間の関係を使用する、圧反射順応を図示する。頸動脈洞において発生するもの等の、内圧および動脈壁の伸張は、自然に圧反射を活性化し、圧反射は、SNAを抑制する。頸動脈洞圧、SNA、およびMAPは、(1)618で示される、比較的低い一定の頸動脈洞圧615、(2)619で示される、比較的高い一定の頸動脈洞圧615、(3)620で示される、比較的高いパルス頸動脈洞圧615、および(4)621で示される、比較的高い一定の頸動脈洞圧615への復帰といった、4つの時間区分について図示される。618で示されるように、頸動脈洞圧が比較的低く一定である時、SNAは、比較的高く一定であり、脈動MAPは比較的高い。頸動脈洞圧が、推移622において比較的高い一定の圧力に増加されると、SNAおよびMAPは、圧反射により最初は減少し、次いで、増加した頸動脈洞圧に対する圧反射の急速な順応により増加する。しかしながら、620で図示されるように、頸動脈洞圧が自然発生の血圧パルスと同様に脈動すると、SNAおよびMAPは、比較的低いレベルに減少し、これらの比較的低いレベルで維持される。推移623において、頸動脈洞圧がパルス圧力から一定圧力に変化すると、SNAおよびMAPの両方は、圧反射の順応により、再び増加する。種々の実施形態は、神経性刺激を変調して、自然発生のパルス圧力の作用を模倣し、順応を防ぐ。例えば、振幅、周波数、波動形態、バースト周波数、および/または持続時間を調整して、順応を弱めることができる。
【0034】
(治療法)
神経性刺激は、他の治療法の送達を伴って、または伴わずに、埋込型装置によって送達されてもよい。例えば、神経性刺激および心調律管理(CRM)装置による心筋刺激の組み合わせは、多数の治療法で使用してもよく、その一部を下記で論じる。例えば、神経性刺激をCRM療法と組み合わせるステップは、高血圧症を治療する効果を提供し、神経性刺激を心調律療法(CRT)と組み合わせるステップは、心臓リモデリングを治療する効果を提供する。
【0035】
神経性刺激信号と関連するパラメータは、振幅、周波数、バースト周波数、パルス幅、および形態/波形を含む。図7は、刺激パラメータ724、CRM刺激を行うために使用されることが可能なパラメータを表す領域725、神経性刺激を行うために使用されることが可能なパラメータを表す領域726、ならびに神経性刺激およびCRM刺激の両方を行うために使用されることが可能なパラメータを表す領域727を表す図を図示する。したがって、図7は、これらのパラメータに対する値の一部の組み合わせが心筋刺激および神経性刺激の両方をもたらし、これらのパラメータに対する値の他の組み合わせが神経性刺激ではなく心筋刺激をもたらし、これらのパラメータに対する値の他の組み合わせが心筋刺激ではなく神経性刺激をもたらすことを図示する。本主題の実施形態は、刺激パラメータを調整して、心筋、神経系、または心筋および神経系の両方を選択的に刺激する。
【0036】
例えば、神経は、概して、心筋組織を捕らえるために典型的に使用されるよりも高い周波数信号で脱分極される。図8は、血圧の変化と刺激信号の速度との間の関係の図式解説である。図は、刺激信号の周波数が、SNAの抑制を示す代理圧反射パラメータである、血圧の減少に有意に影響することを図示する。図は、血圧の最大減少が、約64から約256Hzの範囲内の刺激周波数において発生し、そして約128Hzにおいて発生することを図示する。一部の既知のCRM装置は、心筋組織を捕らえることが可能であり、かつ神経脱分極を誘出するのに十分な周波数(例えば、50Hz)における、バーストペーシングを提供することが可能である。種々の実施形態は、刺激モードに従って、バーストペーシングの周波数、振幅、および/または形態を調整し、神経系ではなく心筋を刺激する、心筋および神経系の両方を刺激する、ならびに心筋ではなく神経系を刺激する、のいずれかを行う。
【0037】
本主題の埋込型医療機器で使用されるペースまたは刺激装置モジュールの種々の実施形態は、刺激信号の周波数を変調して血圧を変調し、自然発生のパルスの作用を模倣する。種々の実施形態は、約8Hzから約512Hzの間の周波数、または、例えば、約16Hzから約128Hz、約32Hzから約128Hz等の、この範囲内の種々の範囲で刺激する。他の実施形態は、刺激信号の他のパラメータを変調して、自然発生のパルスの作用を模倣し、したがって、神経性刺激への順応を予防または低減する。圧反射が増加した圧反射活動に順応するのを防ぐことによって、例えば、高血圧症の反射性低減を達成するために長期圧反射刺激を使用することができる。圧反射刺激を変えると、SNAの反射抑制を維持し、一定刺激中に発生する増加した圧反射活動への順応を弱める(すなわち、程度または強度を無効または低減する)。
【0038】
(CRM療法)
CRM療法の実施例は、心臓再同期療法(CRT)である。しかしながら、CRMは、多数のペーシングモードおよび除細動モードを含むため、CRTに限定されない。臨床データは、同期両心室ペーシングを通して達成される心臓再同期療法(CRT)が、心臓機能の有意な改善をもたらすことを示している。また、CRTが、MI後および心不全患者においてしばしば発生する心室リモデリングを予防および/または逆転するのに有益となり得ることも報告されている。心臓再同期ペーシングで心室活性化を制御することによるリモデリング制御療法(RCT)、および交感神経活動を抑制するために圧反射を刺激することによる抗リモデリング療法(ART)の混用は、いずれか個別よりも多大な治療効果を提供する。装置は、左右心室の同期ペーシングを通して、心室活性化を制御する。また、装置は、副交感神経刺激および交感神経抑制の組み合わせを提供してもよい。副交感神経刺激は、頸部迷走神経束の周囲に配置される神経カフ電極を通して達成することができる一方で、交感神経抑制は、大動脈または頸動脈洞神経の周囲に配置される神経カフ電極を通して、または肺動脈中の圧受容器を刺激するように設計されている刺激リードを通してのいずれかで、圧反射刺激を通して達成することができる。装置は、開ループまたは閉ループ方式のいずれかで独立してRCTおよびARTの送達を制御し、後者の方式は、装置によって行われる心臓機能評価に基づく。
【0039】
多数の心疾患を治療するために、選択した心腔に電気刺激を提供する埋込型心臓装置が開発されている。例えば、ペースメーカーは、最も一般的には、心拍数がゆっくりすぎる徐脈の治療に対する、タイミングがとられたペーシングパルスで心臓のペースを保つ装置である。房室伝導欠損(すなわち、AVブロック)および洞不全症候群は、永久ペーシングが適応され得る、除脈の最も一般的な原因を表す。適切に機能すれば、ペースメーカーは、最小心拍数を実施することによって、代謝要求を満たすために適切な調律で自らのペースを保つことができない心臓を補う。また、埋込型装置は、心房または心室細動を終結するための、抗頻脈ペーシングまたは電気ショックの送達のいずれかにより、速すぎる心調律を治療するために使用してもよい。
【0040】
血液の効率的な拍出を促進するために、心周期中に心腔が収縮する態様および程度に影響を及ぼす、埋込型装置も開発されている。心腔が協調して収縮すると、心臓はより効果的に拍出し、これは、心筋の全体を通した興奮の急速伝導(すなわち、脱分極)を可能にする、心房および心室の両方における特殊伝導経路によって、通常提供される結果である。これらの経路は、洞房結節から、心房心筋へ、房室結節へ、そこから心室心筋へと、興奮性インパルスを伝導し、両心房および両心室の協調した収縮をもたらす。このことは、各心腔の筋繊維の収縮の同期化、および、各心房または心室と対側心房または対側心室との収縮の同期化の両方を行う。正常に機能している特殊伝導経路によって得られる同期化がないと、心臓のポンプ効率は大きく減退される。これらの伝導経路の病変、ならびに他の心室間および心室内伝導の欠損は、心臓機能の異常により、心拍出量が末梢組織の代謝要求を満たすのに十分なレベルを下回る臨床的症候群を指す、心不全の原因因子となり得る。これらの問題を治療するために、心房および/または心室収縮の協調を改善しようとして、1つ以上の心腔に適切にタイミングがとられた電気刺激を提供する、心臓再同期療法(CRT)と称される埋め込み型心臓装置が開発されている。直接変力性ではないものの、再同期は、ポンプ効率の改善および心拍出量の増加を伴う、心室のさらに協調した収縮をもたらすため、心室再同期は心不全を治療するのに有用である。現在、一般的な形態のCRTは、同時に、または指定の両心室オフセット間隔によって分けられるかのいずれかで、かつ、固有心房収縮または心房ペースの送達の検出に対する規定の房室遅延の後に、両心室に刺激パルスを印加する。
【0041】
CRTは、MI後および心不全患者において発生し得る有害な心室リモデリングを低減するのに有益となり得ることも分かっている。おそらく、これは、CRTが適用される時に心臓の拍出周期中に心室によって経験される、壁応力の分布の変化の結果として、生じる。収縮する前に心筋繊維が伸張される程度は、前負荷と称され、筋繊維の最大張力および短縮の速度は、増加する前負荷とともに増加する。心筋領域が、他の領域と比べて遅れて収縮すると、これらの対立領域の収縮は、遅れて収縮する領域を伸張し、前負荷を増加させる。収縮する際に心筋繊維にかかる張力および応力の程度は、後負荷と称される。血液が大動脈および肺動脈の中へ拍出されるにつれて、心室内の圧力が拡張期値から収縮期値に急速に上昇するため、興奮性刺激パルスにより最初に収縮する心室の一部は、後で収縮する心室の一部よりも低い後負荷に対して収縮する。したがって、他の部位よりも遅れて収縮する心筋領域は、増加した前負荷および後負荷の両方の影響を受ける。この状況は、心不全およびMIによる心室機能障害と関連する心室伝導遅延によって、頻繁に生じる。遅れて活性化する心筋領域への増加した壁応力が、最もおそらくは、心室リモデリングの誘因である。さらに協調した収縮を引き起こす方法で、心室中の1つ以上の部位のペースを保つことによって、CRTは、そうでなければ後で心臓収縮期中に活性化され、増加した壁応力を経験する、心筋領域の早期興奮を提供する。他の領域と比べた再形成領域の早期興奮は、機械的応力から領域を無負荷にし、リモデリングの逆転または予防が生じることを可能にする。
【0042】
(神経性刺激療法)
1つの神経性刺激療法は、高血圧症を軽減するのに十分な持続的期間にわたって圧反射を刺激することによって、高血圧症を治療するステップを伴う。別の治療法は、心室リモデリングを予防および/または治療するステップを伴う。自律神経系の活動は、MIの結果として、または心不全により発生する、心室リモデリングに少なくとも部分的に責任がある。リモデリングは、例えば、ACE阻害剤およびベータ遮断薬の使用による薬理学的介入によって影響され得ることが実証されている。しかしながら、薬理学的治療には、副作用の危険性があり、また、正確な方法で薬剤の作用を変調することは困難である。本主題の実施形態は、抗リモデリング療法またはARTと呼ばれる、自律神経活動を変調する電気刺激手段を採用する。心室再同期化ペーシングと併せて送達されると、自律神経活動のそのような変調は、心臓リモデリングを逆転または予防するように相乗的に作用する。
【0043】
虚血後の増加した交感神経系活動は、しばしば、エピネフリンおよびノルエピネフリンへの心筋の暴露の増加をもたらす。これらのカテコールアミンは、筋細胞内の細胞内経路を活性化し、それは心筋死および線維化につながる。副交感神経(迷走神経)の刺激は、この作用を抑制する。種々の実施形態によれば、本主題は、心不全患者におけるCRTに加えて、迷走心臓神経を選択的に活性化して、さらなるリモデリングおよび不整原性から心筋を保護する。CRTに加えて、迷走心臓神経を刺激する他の潜在的な効果は、心筋梗塞後の炎症反応の低減、および除細動のための電気刺激閾値の低減を含む。例えば、心室頻脈が感知されると、迷走神経刺激が印加され、次いで、除細動ショックが印加される。迷走神経刺激は、除細動ショックがより少ないエネルギーにおいて印加されることを可能にする。
【0044】
図9Aは、心臓の中へ延在するリードを伴う埋込型医療機器(IMD)を図示し、図9Bおよび9Cは、心内膜および心外膜リードをそれぞれ伴う埋込型医療機器を図示する。図9Aは、パルス発生器929およびヘッダ930を含むIMD928を図示する。リード931は、ヘッダに取着され、リード上の電極を定位置に配置するように適切に誘導されて、所望の刺激反応を提供する。
【0045】
図9Bおよび9Cで図示されるように、心臓932は、上大静脈933、大動脈弓934、および肺動脈935を含む。CRMリード936は、本主題に従って刺激することができる神経部位を通過する。図9Bは、経血管供給リードを図示し、図9Cは、心外膜リードを図示する。電極位置の実施例は、記号「X」によって図面中で提供される。例えば、CRMリードは、末梢静脈を通って冠状静脈洞の中へ血管内挿入されることが可能であり、かつ、心臓ペースメーカーリードと同様に、末梢静脈を通り、三尖弁を通り、心臓の右心室の中へと(図中で明示せず)、血管内挿入されて、右心室から肺動脈弁を通って肺動脈の中へ進み続けることが可能である。冠状静脈洞および肺動脈は、リードが血管内挿入されて、血管構造内またはそれに最も近い神経を刺激することができる、心臓に最も近い血管系の実施例である。したがって、本主題の種々の側面によれば、神経は、心臓の最も近くに位置する血管系の中または周囲で、その中に血管内挿入される少なくとも1つの電極によって刺激される。
【0046】
図10Aおよび10Bは、それぞれ心臓の右側および左側を図示し、さらに、一部の神経性刺激療法に対する神経標的を提供する心臓脂肪体を図示する。図10Aは、右心房1037、右心室1038、洞房結節1039、上大静脈1033、下大静脈1040、大動脈1041、右肺静脈1042、および右肺動脈1043を図示する。また、図10Aは、上大静脈と大動脈との間の心臓脂肪体1044を図示する。心臓脂肪体1044中の神経標的は、一部の実施形態では、脂肪体にねじ込まれる、あるいは配置される電極を使用して、刺激され、一部の実施形態では、例えば、右肺動脈または上大静脈等の血管中で脂肪体に近接して位置付けられる血管内供給リードを使用して、刺激される。図10Bは、左心房1045、左心室1046、右心房1037、右心室1038、上大静脈1033、下大静脈1040、大動脈1041、右肺静脈1042、左肺静脈1047、右肺動脈1043、および冠状静脈洞1048を図示する。また、図10Bは、右心静脈の最も近くに位置する心臓脂肪体1049、ならびに下大静脈および左心房の最も近くに位置する心臓脂肪体1050を図示する。脂肪体1049中の神経標的は、一部の実施形態では、脂肪体1049にねじ込まれる電極を使用して刺激され、一部の実施形態では、例えば、右肺動脈1043または右肺静脈1042等の血管中で脂肪体に近接して位置付けられる血管内供給リードを使用して、刺激される。脂肪体1050中の神経標的は、一部の実施形態では、脂肪体にねじ込まれる電極を使用して刺激され、一部の実施形態では、例えば、下大静脈1040または冠状静脈洞等の血管中で脂肪体に近接して位置付けられる血管内供給リード、または左心房1045中のリードを使用して、刺激される。
【0047】
種々の実施形態では、神経性刺激チャネルは、血管内に配置されて適切な神経を経血管的に刺激するリードを使用し、例えば、圧受容器近傍で交感神経抑制を提供し、または副交感神経近傍で副交感神経刺激を提供するように構成される。一部のCRT装置は、右心房のペーシングおよび/または感知を行う心房リード、右心室のペーシングおよび/または感知を行う右心室リード、および図9Bおよび9Cに図示されるような、左心室のペーシング/感知を行う位置へ冠状静脈洞を通して供給される左心室リードを含む。冠状静脈洞内のリードは、隣接神経の脱分極を誘出するのに十分な強さで、冠状静脈洞の血管外表面上に解剖学的に位置する副交感神経を経血管的に刺激するために使用されることが可能であり、また、例えば、左心室に最も近い部位において、適切にタイミングがとられたペーシングパルスによる心臓再同期療法を送達するために使用されることも可能である。
【0048】
種々のリードの実施形態は、所定の血管壁に当接する寸法であるメッシュ表面を伴う拡張可能ステント様電極、コイル状電極、固定ネジ型電極、および同類のものを含む、多数の設計を実施する。種々の実施形態は、血管の内側や血管壁の中に電極を配置するか、または血管の内側に少なくとも1つの電極と血管壁の中へ少なくとも1つの電極とを組み合わせて配置する。神経性刺激電極は、CRTに使用される同じリードに、またはCRTに加えて別のリードに組み込むことができる。
【0049】
本明細書では経血管リードとも呼ばれる、血管の外側の標的を経血管的に刺激するように構成される血管内供給リードは、他の神経部位を刺激するために使用することができる。例えば、実施形態は、右奇静脈の中へ経血管刺激リードを供給して、迷走神経を刺激する。実施形態は、内頸静脈の中へ経血管刺激リードを供給して、迷走神経を刺激する。種々の実施形態は、神経性刺激を経血管的に印加し、CRTの一部として心室ペーシング等の、心筋を電気的に刺激するために、リード経路に沿って血管内供給される少なくとも1つのリードを使用する。
【0050】
他の経血管場所は、図10Aおよび10Bに関して記述されている。神経性刺激電極の血管内の場所に応じて、右迷走神経枝、左迷走神経枝、または左右迷走神経枝の組み合わせが、刺激されることが可能である。左右の迷走神経枝は、心臓の異なる領域に神経を分布し、したがって、刺激されると、異なる結果を提供する。現在の知識によれば、右迷走神経は、右心房および右心室を含む、心臓の右側に神経を分布すると考えられ、左迷走神経は、左心房および左心室を含む、心臓の左側に神経を分布すると考えられる。洞結節が心臓の右側にあるため、右迷走神経の刺激には、より変時性の作用がある。したがって、種々の実施形態は、右迷走神経および/または左迷走神経を選択的に刺激し、心臓の右および/または左側の収縮性、興奮性、および炎症性反応を選択的に制御する。静脈系は大部分が対称であるため、リードは適切な血管の中へ供給されて、右または左迷走神経を経血管的に刺激することができる。例えば、右迷走神経を刺激するために右内頸静脈中のリードを使用することができ、左迷走神経を刺激するために左内頸静脈中のリードを使用することができる。
【0051】
末梢神経刺激への経血管アプローチが使用される時に、刺激電極は、神経と直接神経接触していない。したがって、神経炎症に関連する問題および直接接触電極と一般的に関連する損傷が低減される。
【0052】
本発明の実施形態では、MI後患者に心臓治療法を送達するための埋込型装置は、1つ以上の心室部位にペーシングパルスを送達するための1つ以上のペーシングチャネル、および神経を刺激するための神経性刺激チャネルを含む。制御器は、心臓収縮期中の領域を機械的に無負荷にするよう心室筋の領域を早期興奮させる、心臓再同期モードで心室ペーシングを送達することによって、リモデリング制御療法(RCT)を送達するようにプログラムされる。心臓再同期療法は、プログラムした両心室オフセット間隔によって決定されるような、心室のうちの一方が他方と比べて早期興奮される、両心室ペーシングとして送達されてもよい。患者が左心室の遅延活性化に罹患している実施形態では、左心室のみの再同期ペーシングモードが採用される。別の実施形態では、ペーシング療法は、部位のうちの1つ以上が他の部位と比べて早期興奮されるように、心室のうちの少なくとも一方が複数の部位においてペースを保たれる、多重部位心室ペーシングとして送達されてもよい。いずれの場合でも、心室ペーシングは、心室の補充収縮間隔が心室ペース間で定義される、非心房追跡モードで、または、心房センスに続く定義された房室補充収縮間隔の後に心室ペースが送達される、心房追跡モードで、送達されてもよい。周期変動能力がない患者では、また、心房ペーシングチャネルは、心房のペーシングを行うために提供されてもよく、心房ペース後の房室補充収縮間隔の満了時に心室ペースが送達される。
【0053】
さらに、制御器は、圧反射弓の動脈圧受容器または求心性神経の近傍の配置に対して適合される電極を組み込むリードを使用するRCTと併せて、抗リモデリング療法(ART)を送達するようにプログラムされる。圧反射弓の刺激は、交感神経活動の抑制をもたらす。電極は、血管中、あるいは、肺動脈または心臓脂肪体の中等の圧受容器または求心性神経に最も近い他の場所に血管内で位置付けられてもよい。別の実施形態では、装置は、副交感神経活動を刺激することによって、抗リモデリング療法を送達する。電極は、副交感神経の周囲での配置に対して適合される神経カフ電極、または血管に隣接する副交感神経を経血管で刺激するための血管内電極であってもよい。
【0054】
装置は、開ループ方式でRCTおよびARTを送達するようにプログラムされてもよく、その場合、RCTおよびARTは、同時に、またはプログラムした間隔で別々に送達される。別の実施形態では、装置は、閉ループ方式でRCTおよびARTを送達するようにプログラムされ、その場合、RCTおよびARTの強度は、制御器によって行われる心臓機能の評価に従って変調される。
【0055】
また、装置は、心臓機能の評価に従ってARTの一部として送達される、副交感神経刺激および交感神経抑制の強度を別々に変調してもよい。心臓機能は、いくつかの異なる様式を単独または併用のいずれかで使用する装置によって、評価されてもよい。一実施形態では、装置は、心拍出量を測定するためのセンサを組み込み、制御器は、測定した心拍出量に従ってRCTおよびARTの送達を変調するようにプログラムされる。上記のように、そのような心拍出量センサは、経胸腔インピーダンス測定回路であってもよい。心臓機能を評価するための手段は、動脈血圧センサであり、その場合、制御器は、測定した血圧に従ってRCTおよびARTの送達を変調するようにプログラムされる。血圧センサは、動脈内の配置に対して適合される、圧力変換器およびリードの形をとってもよい。分時換気量センサによって得られる、患者の呼吸活動の尺度は、血圧の代理として使用してもよい。また、心臓機能は、心拍出量および/または血圧の尺度とともに、患者の労作レベルを測定することによって(例えば、分時換気量センサまたは加速度計のいずれかを使用して)評価されてもよく、その場合、制御器は、組み合わせた測定に従ってRCTおよびARTの送達を変調するようにプログラムされる。
【0056】
実施形態では、心臓機能評価は、患者の自律平衡の評価を含む。自律平衡は、適切に位置付けた感知電極により交感神経および副交換神経における電気的活動を測定するための感知チャネルで直接的に、または患者に変時性の能力がある場合は、固有心拍を測定することによって、評価されてもよい。上記のように、心拍変動を測定すると、自律平衡を測定するための1つの手段を提供する。したがって、装置は、BB間隔と呼ばれる、連続固有拍動間の時間間隔を測定および収集するための回路を含んでもよく、その場合、BB間隔は、連続する心房センスまたは心室センス間の間隔であってもよい。装置は、離散的なBB間隔信号として収集した間隔を保存し、定義された高および低周波数帯へとBB間隔信号にフィルタをかけ、それぞれLFおよびHFと呼ばれる低および高周波数帯のそれぞれのBB間隔信号の信号電力を判定する。次いで、装置は、LF/HF比をコンピュータで計算し、LF/HF比を規定の閾値と比較することによって自律平衡を評価する。
【0057】
(埋込型医療機器)
本明細書で記載されるような神経性刺激は、神経性刺激のみを送達する、または除脈および/または心臓再同期ペーシング、電気的除細動/除細動および/または抗頻脈ペーシング等の抗頻脈性不整脈治療法、および/または他の治療法等の、他の治療法を送達するように構成される、埋込型医療機器によって送達されてもよい。また、神経性刺激を送達するための埋込型装置は、心臓電気的活動および/または生理的パラメータを感知するための1つ以上の感知チャネルを組み込んでもよい。図11は、神経性刺激を送達するための埋込型医療機器1128の一実施形態を図示する。図示した装置は、パルス発生器1129を含み、パルス発生器は、メモリ1152と通信する制御器1151、埋込型医療のプログラマ(図示せず)と通信する際に使用するためのテレメトリインターフェース1153、および刺激/感知ハードウェアプラットフォーム1154を含む。図示したハードウェアプラットフォームは、感知モジュール1155、ペースモジュール1156、ならびに感知モジュールおよびペースモジュールを電極1158Aおよび1158Bに動作可能に接続するために使用するためのスイッチ1157を含む。図示した電極は、先端およびリング電極等の、1つのリード上の2つの電極となり得るか、または、別個のリード上にあり得る。加えて、電極のうちの1つは、埋込型医療機器の「缶」とも呼ばれる導電性部となり得る。図示した制御器1151は、ペース/感知モジュール1159を含んでスイッチを制御し、感知モジュールが電極に動作可能に接続して電極にわたる電位を感知すること、または、ペースモジュールが電極に動作可能に接続してペーシング信号を印加し、電極間のペーシング電位を生成して患者に所望の電気刺激を提供することを選択的に可能にする。
【0058】
図示した制御器1151は、刺激モードモジュール1160を含み、図示したペースモジュールは、例えば、振幅、周波数、波形、およびペーシングモード等の調整可能パラメータ1161を含む。ペースモジュールのパラメータは、電極へ神経性刺激信号、または電極へ心筋刺激信号を選択的に提供するように調整されることができる。一部の実施形態では、パラメータは、心筋刺激および神経性刺激を同時に提供するように構成される神経性刺激信号を選択的に提供するように調整されることができる。種々の実施形態によれば、刺激モードモジュールは、電極を使用してCRMまたは心筋刺激を選択的に印加する、電極を使用して神経性刺激を印加する、所望の治療法に従って電極を使用して心筋刺激と神経性刺激を選択的に繰り返す、および/または電極を使用して心筋刺激および神経性刺激の両方を同時に印加するように構成される。図示したペースモジュールは、調整可能パラメータを含む。
【0059】
図12は、図11に図示されるハードウェアプラットフォームに対するペースモジュール1256の簡略図である。図示したペースモジュールは、電源1261(例えば、埋込型医療機器のバッテリ)、ペーシングコンデンサ1262、帯電スイッチ1263、および放電スイッチ1264への接続を含む。電荷が電源からペーシングコンデンサ上に保存されている時は、帯電スイッチは閉じられ、放電スイッチは開かれ、電極1258Aおよび1258Bにわたる信号をペーシングするときは、ペーシングコンデンサを放電するために、帯電スイッチは開かれ、放電スイッチは閉じられる。一部の実施形態は、放電回路を伴う直列の放電コンデンサ1265を含み、分極電圧、または刺激パルスの印加に続く後電位を減衰させ、感知モジュールが電極間の固有電位を感知することを可能にする。追加回路を追加して、例えば、帯電コンデンサにわたる電位を制御および選択的に調整すること、放電信号の持続時間および減衰を調整すること、放電信号の波形および形態を調整すること、放電信号の周波数を調整すること、およびバーストペーシングを調整することができる。当業者であれば、本開示を読んで理解することによって、これらの調整可能パラメータを提供するようにペースモジュールを設計する方法、ならびに、埋込型医療機器の設計にペースモジュールを組み込んで、制御器が心筋を刺激する信号、神経反応を刺激する信号、および一部の実施形態では、心筋刺激および神経性刺激の両方を提供する刺激信号を印加することを可能にする方法を理解するであろう。
【0060】
図12で図示される装置は、2つの電極への信号経路1266Aおよび1266Bを伴う簡略化した装置を示す。刺激信号を印加するために使用され、および刺激信号を感知するために使用される各信号経路は、チャネルと呼ぶことができる。埋込型医療機器は、1つ以上の電極を各チャネルに選択的に接続するスイッチを伴って設計することができ、または、埋込型装置の電極は、各チャネルが所定の電極に接続されるように、設計することができる。各チャネルは、所定の電極に刺激信号を送信するように個別に制御されることが可能である。
【0061】
図13は、埋込型医療機器の多重チャネルの実施形態を図示する。図示した装置1328は、パルス発生器1329を含み、パルス発生器は、メモリ1352と通信する制御器1351、埋込型医療のプログラマと通信する際に使用するためのテレメトリインターフェース1353、およびハードウェアプラットフォーム1354を含む。図示したハードウェアプラットフォームは、感知モジュール1355、刺激またはペースモジュール1356、ならびに感知モジュールおよびペースモジュールをヘッダ1330に動作可能に接続するために使用するためのスイッチ1357を含む。ヘッダは、1つ以上のポート1367を含んでリード1368を受領する。各リードは、1つ以上の電極を含むことができる。スイッチは、感知およびペースモジュールとヘッダのポートとの間の所望の接続を選択的に提供して、ペースモジュールとリード上の所望の電極との間の所望のペースチャネルを提供し、かつ感知モジュールとリード上の所望の電極との間の所望の感知チャネルを提供する。種々の実施形態では、埋込型医療機器の缶が電極として使用される。ペースモジュール1356の一部の実施形態は、多重チャネル上で刺激信号を独立して、かつ同時に提供する回路を含む。
【0062】
制御器は、ペース/感知制御モジュールを含んでスイッチを制御し、感知モジュールが電極に動作可能に接続して電極にわたって電位を感知すること、または、ペースモジュールが電極に動作可能に接続してペーシング信号を印加し、電極間のペーシング電位を生成して患者に所望の電気刺激を提供することを、選択的に可能にする。
【0063】
図示した制御器は、刺激モードモジュール1360を含み、図示したペースモジュール1356は、バーストペーシングパラメータを含む調整可能な刺激パラメータを含む。ペースモジュールのパラメータは、選択した電極に神経性刺激信号を、または選択した電極に心筋刺激信号を選択的に提供するように調整されることができる。一部の実施形態では、ペースモジュールの刺激パラメータは、心筋刺激および神経性刺激を同時に提供するように構成される神経性刺激信号を選択的に印加するように調整されることができる。種々の実施形態によれば、刺激モードモジュールは、電極を使用してCRMまたは心筋刺激を選択的に印加する、電極を使用して神経性刺激を印加する、所望の治療法に従って電極を使用して心筋刺激と神経性刺激を選択的に繰り返す、および/または電極を使用して心筋刺激および神経性刺激の両方を同時に印加するように構成される。
【0064】
本主題は、刺激チャネル上で神経およびCRM刺激療法を提供することが可能である。一部の実施形態は、神経を脱分極するように選択される刺激パラメータによるモードで、心筋を捕らえるように設計されている、CRMハードウェアプラットフォームを操作するステップを伴う。例えば、CRMハードウェアプラットフォームは、比較的低い振幅および比較的高い周波数を伴うバーストペーシングモードで操作されて、神経性刺激を提供してもよい。
【0065】
特定の刺激チャネルは、CRMペーシングまたは神経性刺激のいずれかの専用となるようにプログラムすることができる。一部の実施形態では、刺激チャネルは、CRMペーシングおよび神経性刺激を断続的に、かつ区別して行うことができる。異なる刺激モードは、刺激チャネルの時間領域多重化により行うことができる等、異なる時間で行われる。一部の実施形態では、刺激チャネルは、刺激信号を伝送して、心筋および所望の刺激反応を同時に刺激することができる。例えば、より高い周波数の神経性刺激信号は、より低い周波数のCRM刺激信号について変調することができる。
【0066】
図15は、埋込型医療機器の刺激チャネル上で心筋および/または神経性刺激を選択的に提供する方法を図示する。図示した方法では、所望の刺激は、1575で判定される。CRM刺激が望ましい場合、過程は1576に進み、装置はCRM刺激モードになる。1577で表されるように、CRM刺激パラメータは、ペーシングハードウェアプラットフォームを使用する適切なCRMアルゴリズムに従ってCRMを印加するために使用される。1575で神経性刺激療法を提供することが望ましいと判定された場合、過程は1578に進み、神経性刺激になる。1579で表されるように、神経性刺激パラメータは、CRM刺激を提供するために使用される同じプラットフォームである、ペーシングハードウェアプラットフォームを使用する適切なアルゴリズムに従って神経性刺激を印加するために使用される。一部の実施形態によれば、1575でCRMおよび神経性刺激の両方を同時に提供することが望ましいと判定された場合、過程は1580に進み、そこで装置はCRMおよびNSモードになる。1581で表されるように、パラメータは、刺激信号を印加して、装置のペーシングプラットフォームを使用するCRMおよびNSペーシングの両方を提供するために使用される。
【0067】
(リード配設)
リードは、多数の生理学的場所に配置することができる。一部の実施例を上記で提供している。埋込型装置の実施形態は、1つ以上の心筋刺激リード、ならびに1つ以上の神経リードを含有する。神経性刺激リードの実施例は、高濃度の圧受容器の近傍で肺動脈に配置されるステント様電極等の拡張可能刺激リード、心臓脂肪体のうちの1つの近位に配置される経血管リード、または心臓脂肪体に配置される心外膜リード、および大動脈神経、頸動脈神経、または迷走神経等の神経幹の周囲に配置されるカフ電極を含む。
【0068】
実施形態では、心筋刺激および神経性刺激は、同じリードを使用して提供され、リード上で異なる電極を使用するか、またはリード上で同じ電極を使用する。一部の実施形態では、神経性刺激および心筋刺激を同時に提供するため、または神経性刺激を提供し、かつ神経性刺激とは異なる時間に心筋刺激を提供するために、同じリードを使用することができる。一部の実施形態では、リードは、神経性刺激または心筋組織の刺激のいずれかに専用である。専用リードを使用する実施形態では、埋込型医療機器の制御器は、専用リードへのペースチャネルに対する刺激モードを選択することができ、CRMと神経性刺激モードを交互しない。
【0069】
(神経性刺激回路および波形)
本主題は、神経性刺激を単独で、またはCRM/心筋刺激と組み合わせて提供することが可能な、ハードウェアプラットフォームを提供する。CRM療法は、典型的に、神経性刺激信号よりも比較的大きい振幅および低い周波数を伴うペーシング信号を使用し、刺激パラメータは、所望の刺激モードに対して適切に調整することができる。一部の刺激信号には、CRM/心筋刺激および神経性刺激の両方に対して十分なパラメータがある。したがって、本主題の一部の実施形態は、同時CRMおよび神経性刺激を提供するモードを提供する。例えば、CRM刺激波形は、神経系を刺激することが可能な調和周波数を有するように設計することができる。
【0070】
図14A、14B、および14Cは、心筋および神経性刺激を提供するために使用される波形の実施例を図示する。図14Aは、CRM刺激パルス1470と、高周波数信号として図示される神経性刺激1471とを繰り返す、少なくとも2つの電極間に印加される刺激波形を図示する。一部の実施形態は、感知した生理的パラメータの閉ループフィードバック(例えば、CRM刺激に対しては要求ペーシング、神経性刺激に対しては感知した血圧)に従って必要な場合に応じてのみ、CRMおよび/または神経性刺激を印加するため、CRM刺激および神経性刺激は繰り返す必要がない。そのような実施形態では、時間領域多重化スキームが使用され、その場合、印加されるCRM刺激は、タイミング期間の一部において提供され、印加される神経性刺激は、タイミング期間の別の一部において提供される。
【0071】
図14Bは、少なくとも2つの電極間に印加される別の刺激波形を図示する。図示した波形は、同時心筋および神経性刺激の実施例を図示する。波形には、神経の脱分極を誘出するのに十分な信号周波数がある。信号の振幅は、1472で図示されるように、心筋を捕らえるのに十分な電位に増加する。
【0072】
図14Cは、少なくとも2つの電極間に印加される別の波形を図示する。図示した波形は、心筋を捕らえるのに十分な振幅を伴うCRM刺激パルスを提供する。CRM刺激信号は、1473で心筋が捕らえられた後に減衰し、同じ電極上で神経性刺激1474を提供する。
【0073】
一部の実施形態では、刺激チャネルは、プログラミング中に、CRMまたは神経性刺激のいずれかを提供するように設計される。一部の実施形態では、刺激チャネルは、配線、ソフトウェア、または論理回路を介して、埋込型装置の組み立て中に、CRMまたは神経性刺激のいずれかを提供するように設計される。
【0074】
1つの特定の実施形態では、刺激回路は、次のようなパラメータを伴う神経性刺激に対する波形を送達するように構成される。
周波数=20Hz
パルス幅=300us
振幅=1.5〜2.0mA
この波形は、例えば、MI後または心不全患者に抗リモデリング療法を提供するために、連続的または断続的のいずれかで印加されるパルス列(例えば、デューティサイクル=10秒のオン、50秒のオフを伴う)として、送達することができる。そのような刺激は、経過時間間隔または感知した生理的状態に従って、慢性的または周期的のいずれかで印加されてもよい。この波形は、頸部の迷走神経に印加される時に、特に有効な抗リモデリング療法であることが、前臨床試験において実証されており、その場合、刺激は、神経カフまたは経血管リードのいずれかを通して印加されてもよい。波形を送達するための刺激構成は、遠方界皮下リターン電極による双極構成または単極構成のいずれか等、本書で記載される構成のいずれであってもよい。刺激回路は、神経性刺激を送達する専用であってもよいか、または、CRMに適した波形も送達するように構成されてもよいかのいずれかである。
【0075】
別の実施形態では、前段落または本書の他の場所で記載されるような神経性刺激波形は、本明細書では第1の相および第2の相と呼ばれる、交互極性の相を伴って送達されてもよい。例えば、波形は、単相パルスの相が各連続パルス列において交代されるように、双極刺激構成を伴い、かつ「双極スイッチ」を伴う単相パルスとして送達されてもよい。つまり、1つの極性の第1の相を有する単相パルスを伴うパルス列の後に、異極性の第2の相を有する単相パルスを伴うパルス列が続く。図16および17は、刺激電極間の電位を記録することによって産生されるような実施例の波形を示す。図16は、正の極性の第1の相FP1を有する単相パルス列MPT1の後に、負の極性の第2の相SP1を有する単相パルス列MPT2が続く、そのような波形の実施例を示す。別の実施形態では、刺激回路は、第1の相が第2の相と交互に起こる(すなわち、列における各連続パルスが極性を交代させる)ように、二相パルスを伴うパルス列を送達するように構成されてもよい。図17は、極性を交代させる、第1の相FP2および第2の相SP2を有する二相パルス列BPT1の実施例を示す。交互極性を伴うそのような二相パルス列、または交互極性を有する一連の単相パルスは、規定の期間にわたって、連続的、あるいは周期的または断続的に印加されてもよい。
【0076】
図20および21は、上記のように刺激パルス列を送達するための回路の異なる実施形態を示す。図20では、電流源パルス出力回路2003は、制御器1351からのコマンド入力に従って、刺激電極1258Aおよび1258B間で電流パルスを出力する。制御器からのコマンド入力は、パルスのタイミング、パルス幅、電流振幅、および極性を特定する。図21は、制御器1351からのコマンド入力に従って、刺激電極1258Aおよび1258B間で電圧パルスを出力するために容量放電パルス出力回路2001が使用される、別の実施形態を図示する。本実施形態では、制御器からのコマンド入力は、パルスのタイミング、パルス幅、電圧振幅、およびパルス極性を特定する。制御器が、パルスに対して所望の電流振幅をもたらす電圧振幅を特定するために、リードインピーダンスがリードインピーダンス測定回路2002によって測定されてもよい。次いで、パルス出力回路の出力コンデンサは、各パルスに対する適切な電圧に帯電されてもよい。リードインピーダンスを監視するために、制御器は、周期的に、またはテレメトリを介してユーザからのコマンドを受けると、出力コンデンサを既知の電圧レベルに帯電させ、出力コンデンサを刺激リードに接続して刺激パルスを送達し、コンデンサ電圧が特定の量まで(例えば、初期値の半分まで)減衰するのにかかる時間を測定するようにプログラムされる。患者の苦痛を最小限化するために、リードインピーダンス手順は、可能な限り低い電圧を使用して行われるべきである。一実施形態では、制御器は、第1の電圧振幅(例えば、1ボルト)を使用し、次いで、測定カウント(すなわち、コンデンサの減衰期間)を規定の最小値CntZMinと比較するようにプログラムされる。測定カウントがCntZMin未満である場合、試験中に送達される電流は、測定に対して小さすぎて正確ではないとみなされる。次いで、第2の測定パルスが、より高い第2の電圧(例えば、2ボルト)で送達される。そのカウントが再びCntZMin未満である場合、第3の測定パルスが、さらになお高い第3の電圧(例えば、4ボルト)で送達される。典型的な刺激リードにより、この手順は、およそ1mAから0.6mAの間に測定電流を制限する。
【0077】
図18および19は、それぞれ図16および17の波形に対応する、容量放電パルス出力回路によって生成されるような、実施例の波形を示す。容量放電パルス出力回路により、各パルスの電圧振幅は、電流源パルス出力回路の場合のように一定ではない。したがって、図18および19は、電圧が初期値に上昇し、次いで、出力コンデンサが放電するにつれて減衰する、パルスを示す。また、回路は、刺激電極からの後電位を放散するために、単相パルス間の受動的再充電を組み込んでもよい。図18は、パルスと反対の方向にパルス間の電圧をわずかにオーバーシュートさせ、刺激電極間の後電位が放電するにつれてゼロに減衰させる方法で、出力回路が切り替えられる、そのような再充電サイクルを示す。各パルスが前のパルスによって産生された後、電位を放電するため、受動的再充電は、二相パルスの場合には必要とされない。図19は、二相パルス間の相間遅延IPDを示す。特定の実施形態では、この遅延を最小限化するか、または排除することさえ望ましいことがある。
【0078】
別の実施形態では、二相パルス列、または交互極性を有する一連の単相パルス列のいずれかの場合、第1の相および第2の相に対する刺激パラメータが別々に調整されてもよい。例えば、二相パルス列の第1の相および第2の相に対するパルス幅および振幅は、同じ、または異なるように選択されてもよい。交互極性を有する一連の単相パルス列の場合、第1の相および第2の相に対するパルス幅、パルス振幅、デューティサイクル、および周波数は、同じ、または異なるように選択されてもよい。
【0079】
別の実施形態では、異なる極性のパルスによる迷走神経の刺激は、異なる作用があり得るという実証的事実が活用される。二相パルス列として、または交互極性を伴う単相パルス列によってのいずれかで送達される、交互極性による迷走神経刺激は、上記のように心臓リモデリングを予防または逆転するための所望の治療効果をもたらすだけでなく、望ましくない副作用の低減も伴う。迷走神経刺激からのそのような副作用は、例えば、喉頭の迷走神経支配による、嗄声および咳を含み得る。治療効果と望ましくない副作用との間の最適平衡を達成するために、各極性に対するパルス振幅およびパルス幅を変えながら、交互極性を伴う神経性刺激波形が経時的に印加されてもよい。パルス振幅および幅が変えられるにつれて、提供される治療効果および望ましくない副作用の程度について、臨床的判断が行われてもよい。例えば、1つの極性に対するパルス振幅およびパルス幅が治療量に滴定される、二相パルス列または交互極性を伴う一連の単相パルス列が印加されてもよい。次いで、異極性に対するパルス振幅およびパルス幅が調整されて、副作用の存在を制御する。パルス列の2つの極性のうちのどちらが、治療効果を産生することに責任があり、どの極性が副作用を低減することに責任があるのかは、経験的に判定されてもよい。そのような滴定手順は、装置の実装後に臨床医によって行われてもよく、その場合、パルス幅および振幅等の刺激パラメータは、テレメトリを介して調整される。また、装置は、規定の期間内で標的振幅に治療量を自動的に滴定するように構成され得る。例えば、そのような滴定は、MI後の最初の1〜2週間中に急速に行われ得て、それは、最大治療効果が達成される時間であることが臨床試験で示されている。
【0080】
図22は、模範的な神経刺激装置の系統図である。バッテリ220は、装置の電子回路部品に電力を提供する。プログラム可能な電子制御器200は、パルス発生回路205にインターフェース接続され、神経性刺激パルスの出力を制御する。また、制御器は、心臓活動および他の生理的変数を感知するための感知回路にインターフェース接続されてもよい。制御器200は、メモリと通信するマイクロプロセッサで構成されてもよく、その場合、メモリは、プログラム保存のためのROM(読み出し専用メモリ)およびデータ保存のためのRAM(ランダムアクセスメモリ)を備えてもよい。また、制御器は、状態機械型の設計を使用する他の種類の論理回路(例えば、別々のコンポーネントまたはプログラム可能論理アレイ)によって実装され得る。制御器は、経過時間間隔を追跡し、定義されたスケジュールに従って神経性刺激を送達するために使用される、クロック信号を生成するための回路を含む。パルス発生回路205は、心臓ペースメーカーで使用されるもの、または図21および22を参照して記載されるものと同様であってもよい。パルス発生回路は、リード210を介して神経性刺激電極215(または、双極リードの場合は複数の電極)に電気刺激パルスを送達する。神経性刺激電極は、例えば、迷走神経または圧受容器を刺激するために配置されてもよい、カフまたは経血管電極であってもよい。制御器200にインターフェース接続される磁気または触覚作動スイッチ240は、患者が神経性刺激パルスの送達を開始および/または停止することを可能にする。いったん開始されると、神経性刺激パルスは、所定の長さの時間にわたって、または所定のスケジュールに従って、送達され続けてもよい。本実施形態でのパルス周波数、パルス幅、パルス振幅、パルス極性、および双極/単極刺激構成は、プログラム可能なパラメータであり、その最適設定は、刺激部位および刺激電極の種類に依存する。また、装置は、神経性刺激によって影響される生理的変数を感知するための異なる感知様式を装備してもよい。次いで、装置は、神経性刺激の送達を制御する際にこれらの変数を使用するようにプログラムされてもよい。図22の装置は、心臓電気的活動を検出するために心臓に静脈内配置されてもよいリード310を介して、電極315(または、双極リードの場合は複数の電極)に接続される、感知回路305を含む。感知回路305は、装置が心拍を測定すること、および、神経性刺激の送達を制御する際に使用するための心拍変動または心拍数不整等の、それに由来するパラメータをコンピュータで計算することを可能にする。心房および心室両方の拍動を検出するために、別個の感知チャネルが提供されてもよい。例えば、迷走神経刺激は、心拍の速度を落とし、装置は、心拍の検出した変化に応じて、送達される神経性刺激のレベルを滴定するようにプログラムされてもよい。また、神経性刺激は、呼吸数にも影響し得るため、装置は、分時換気量センサ250も含み、呼吸数の検出した変化に応じて、送達される神経性刺激のレベルを同様に滴定するようにプログラムされてもよい。また、加速度計260も、制御器にインターフェース接続され、装置が心音を検出することを可能にし、その強度は心筋収縮能を反映し得る。また、圧力センサも、本目的で使用され得る。また、加速度計260は、迷走神経刺激によって引き起こされる咳を検出するために使用してもよい。次いで、装置は、患者による持続性の咳が検出された場合に、神経性刺激が減少または停止されるように、プログラムされてもよい。
【0081】
当業者であれば、本明細書に示され、記載されるモジュールおよび他の回路は、ソフトウェア、ハードウェア、ならびにソフトウェアおよびハードウェアの組み合わせを使用して実装できることを理解するであろう。そのようなものとして、モジュールという用語は、ソフトウェア実装、ハードウェア実装、ならびにソフトウェアおよびハードウェア実装を包含することを目的とする。
【0082】
本開示で図示される方法は、本主題の範囲内の他の方法を除くことを目的としない。当業者であれば、本開示を読んで理解することによって、本主題の範囲内の他の方法を理解するであろう。上記で示した実施形態、および図示した実施形態の各部は、必ずしも相互排他的ではない。これらの実施形態、またはそれらの各部は、組み合わせることができる。例えば、種々の実施形態は、図示した過程のうちの2つ以上を組み合わせる。種々の実施形態では、上記で提供される方法は、搬送波または伝搬信号に埋め込まれるコンピュータデータ信号として実施され、それは、プロセッサによって実行されると、プロセッサに各方法を行わせる、一連の命令を表す。種々の実施形態では、上記で提供される方法は、プロセッサに各方法を行うように指示することが可能な、コンピュータアクセス可能媒体上に含有される一式の命令として実施される。種々の実施形態では、媒体は、磁気媒体、電子媒体、または光学媒体である。
【0083】
具体的実施形態を本明細書で図示および説明したが、同じ目的を達成するように計算される任意の配設が、示される具体的実施形態に代替されてもよいことが、当業者によって十分理解されるであろう。本出願は、本主題の適応型または変化型を対象とすることを目的とする。上記の説明は、限定的ではなく、例示的となることを目的とすることが理解される。上記の実施形態の組み合わせ、ならびに他の実施形態での上記の実施形態の各部の組み合わせは、上記の説明を再検討することによって、当業者に明白となるであろう。本主題の範囲は、添付の請求項を参照して、そのような請求項が享受できる同等物の全範囲とともに、決定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓および迷走神経を刺激するように配置するために適合された1つ以上の電極に電気刺激を送達するための刺激回路と、
該刺激回路による電気刺激の送達を制御するための該刺激回路に接続された制御器と、
該制御器にインターフェース接続された加速度計と
を含み、
該制御器は、該1つ以上の電極に心臓ペーシングパルスおよび神経刺激パルスの両方を送達するように、該刺激回路を動作させるように構成されており、
該制御器は、加速度計信号から咳が検出された場合に、神経刺激パルスの送達を減少または停止するように構成されている、埋込型装置。
【請求項2】
前記制御器は、低周波数の心臓ぺーシグ信号上で変調された高周波数の神経刺激信号として、前記神経刺激パルスおよび心臓ペーシングパルスを送達するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記制御器は、神経刺激パルスと交互される心臓ペーシングパルスを送達するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記制御器は、前記刺激回路が、交互極性を伴う二相パルス列として神経刺激パルスを送達するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記制御器は、前記刺激回路が、各連続パルス列の極性が交互する一連の単相パルス列として神経刺激パルスを送達するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記制御器は、神経刺激パルスを継続的に送達するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記制御器は、規定の期間にわたって神経刺激パルスを断続的に送達するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記制御器は、10秒のオンおよび50秒のオフのデューティサイクルで、神経刺激パルスを断続的に送達するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記刺激回路は、前記制御器によって特定される電流振幅において神経刺激パルスを出力するために、電流源パルス出力回路をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記刺激回路は、前記制御器によって特定される電流振幅においてパルスを出力するために、容量放電パルス出力回路と、リードインピーダンス測定回路とをさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記制御器は、前記刺激回路が、一連の単相パルス列として神経刺激パルスを送達するように構成されており、各連続パルス列の極性は、第1の相および第2の相を交互するものであり、さらに、該第1の相および第2の相のそれぞれに対するパルス幅、パルス振幅、デューティサイクル、周波数は、別々に調整可能である、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記制御器は、前記第1の相を滴定して所望の治療的効果を達成し、かつ、前記第2の相を滴定して副作用の所望の低減を達成するように構成されている、請求項11に記載の装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10A】
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【図10B】
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【図12】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−228575(P2012−228575A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−185580(P2012−185580)
【出願日】平成24年8月24日(2012.8.24)
【分割の表示】特願2009−526629(P2009−526629)の分割
【原出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(505003528)カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド (466)
【Fターム(参考)】