説明

神経精神障害を治療するための装置、システム及び方法

本開示は、気分障害、不安障害、心的外傷後ストレス障害、並びに認知及び行動障害(まとめて、神経精神障害)を、三叉神経の表在要素の刺激(「TNS」)によって治療するために使用される方法、装置及びシステムに関する。より具体的には、顔面において頭蓋外に位置する三叉神経の表在分枝、すなわち、眼窩上神経、滑車上神経、眼窩下神経、耳介側頭神経、頬骨側頭神経、頬骨眼窩神経、頬骨顔面神経、眼窩下神経、鼻神経及びオトガイ神経(まとめて表在三叉神経とも称される)の皮膚的刺激方法が、本明細書に開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許法第119条(e)に基づき、以下の出願:2009年10月5日に出願された「Devices and Methods for Treatment of Psychiatric Disorders」と題される米国仮特許出願第61/248,827号;2009年12月23日に出願された「Extracranial Implantable Devices, Systems and Methods for Treatment of Neuropsychiatric Disorders」と題される米国仮特許出願第61/289,829号;2010年2月17日に出願された「Systems, Devices and Methods for Treatment of Neurological Disorders and Conditions」と題される米国仮特許出願第61/305,514号;及び2010年6月14日に出願された「Extracranial Implantable Devices, Systems and Methods for Treatment of Neurological Disorders」と題される米国仮特許出願第61/354,641号に対する優先権の利益を主張し、上記出願の各々は、本明細書に全て記載されたものとして本明細書によって参照により援用される。
【0002】
本願はまた、以下の同時係属出願:本明細書と同日付で出願された、代理人整理番号001659−5007−USである「Extracranial Implantable Devices, Systems and Methods for Treatment of Neuropsychiatric Disorders」と題される米国出願第_______号[2010−396−2];本明細書と同日付で出願された、代理人整理番号001659−5001−USである「Systems, Devices and Methods for Treatment of Neurological Disorders and Conditions」と題される米国出願第_______号[2007−292−2];本明細書と同日付で出願された、代理人整理番号001659−5005−USである「Extracranial Implantable Devices, Systems and Methods for Treatment of Neurological Disorders」と題される米国出願第_______号[2010−588−2]にも関し、上記出願の各々は、本明細書に全て記載されたものとして本明細書によって参照により援用される。
【0003】
本開示は、概して皮膚神経調節装置及びシステム並びにその使用方法に関する。より具体的には、気分障害、認知障害及び行動障害などの神経精神障害を三叉神経刺激(「TNS」)によって治療するように構成された方法、装置、及びシステムが提供される。脳神経の表在感覚分枝を刺激するように構成された装置及びシステム並びにその適用方法が記載される。
【背景技術】
【0004】
精神又は神経精神障害、例えば、うつ病、又は不安障害と称されることもある抑うつ障害(DD)は、従来から薬物療法及び精神療法で治療される。しかしながら、これらの及び他の病態を有する患者のうち相当の割合が、複数の治療を試みるにも関わらず回復しない。従来から、脳刺激が一次的な治療選択肢とされており、20世紀前半以降は電気痙攣療法(ECT、又は「電気ショック」療法)が主要な脳刺激手法となっている。ECTは、記憶及び他の認知に関する副作用リスク、多額のコスト、及び麻酔のリスクを伴う。2つの植込み型手法もまた記載されている:電極を脳内に直接植え込む脳深部刺激法(DBS)、及び刺激電極を頸部の迷走神経上に植え込む迷走神経刺激法(VNS)。U.S. Food and Drug Administration(FDA)はパーキンソン病の治療に対して脳深部刺激システムを承認しているが、DBSは現在のところ、他の神経精神病態に対する実験的なインターベンションである。DBSのリスクには、感染、出血、及び脳深部構造の損傷が含まれる。VNSの臨床試験の報告では、VNS治療を受ける患者の多くは寛解を得ることがなく、植え込まれたVNS装置から良好な転帰を予測し得る信頼性のある要素はない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の主題の一態様は、精神障害の治療方法並びに三叉神経の1つ以上の眼分枝(眼窩上分枝)、眼窩下分枝及びオトガイ分枝を刺激するように構成されたシステム及び装置を提供することにより、及びより具体的には、三叉神経刺激(TNS)を使用した精神障害の治療方法を提供することにより、前述の必要性に対処する。
【0006】
本開示の別の態様において、三叉神経の皮膚刺激用に構成された電極アセンブリが提供される。
【0007】
本開示のさらに別の態様において、開示される電極アセンブリを使用した精神障害の治療方法が提供される。
【0008】
患者における精神障害の治療方法であって、
少なくとも1つの電極を、三叉神経の分枝の少なくとも1つの皮膚分布上にある皮膚表面と接触するように、患者に皮膚的に取り付ける工程と;少なくとも1つの電極によって患者の三叉神経の少なくとも1つに調整可能な電気信号を印加する工程とを含む方法。
【0009】
三叉神経の眼求心性神経又は眼窩上求心性神経の少なくとも1つを皮膚的に刺激するように構成された電極アセンブリであって、該装置は、患者の顔面の右側に配置するように構成された第1の接触子と;患者の顔面の左側に配置するように構成された第2の接触子と;第1の接触子と第2の接触子とを接続する絶縁接続領域とを含み、第1の接触子及び第2の接触子が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある患者の皮膚の一部分と接触するように構成される、電極アセンブリ。
【0010】
患者における精神障害の治療方法であって、請求項2において提供される電極アセンブリを提供する工程と;電極アセンブリを、眼神経又は眼窩上神経の少なくとも一方を覆う皮膚表面と接触するように患者に取り付ける工程と;周波数20〜300ヘルツ、パルス持続時間50〜250マイクロ秒、25mA/cm以下の出力電流密度及び大脳皮質において10μクーロン/cm以下の出力電荷密度で電気信号を電極アセンブリに印加する工程とを含む方法。
【0011】
別の態様において、神経精神障害の治療用三叉神経刺激システムが本明細書に開示される。一実施形態において、このシステムは、パルス発生器と皮膚電極アセンブリとを含む。皮膚電極アセンブリは、患者の顔面の第1の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第1の電極を含み、第1の電極は、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成され、システムは、患者脳内への最小の電流浸透となるように構成され、及び三叉神経の少なくとも1つの分枝は、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される。一実施形態では、このシステムは、患者の顔面の第2の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第2の電極をさらに含むことができ、第2の電極は、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成され、三叉神経の少なくとも1つの分枝は、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される。一実施形態では、第1の電極と第2の電極とは、三叉神経の同じ分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成される。一実施形態では、第1の電極と第2の電極とは、三叉神経の異なる分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成される。このシステムは、パルス発生器と皮膚電極アセンブリとを動作可能に接続するワイヤをさらに含み得る。このシステムは、最大電荷平衡出力電流を約30〜50mA未満に調節するように構成された調節装置をさらに含み得る。いくつかの態様において、神経精神障害は、気分障害、認知障害、行動障害及び不安障害からなる群から選択される。いくつかの態様において、パルス発生器は、周波数約20〜300ヘルツ、パルス持続時間約50〜500マイクロ秒、約25mA/cm以下の出力電流密度及び約10マイクロクーロン/cm以下の出力電荷密度で電気信号を印加するように構成される。
【0012】
別の態様において、神経精神障害を治療するための三叉神経刺激用皮膚電極アセンブリが開示される。一実施形態において、このアセンブリは、患者の顔面の第1の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第1の電極を含み、第1の電極は、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成され、アセンブリは、患者脳内への最小の電流浸透となるように構成され、及び三叉神経の少なくとも1つの分枝は、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される。一実施形態では、このアセンブリは、患者の顔面の第2の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第2の電極をさらに含むことができ、第2の電極は、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成され、三叉神経の少なくとも1つの分枝は、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される。一実施形態において、第1の電極と第2の電極とは、三叉神経の同じ分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成される。一実施形態において、第1の電極と第2の電極とは、三叉神経の異なる分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成される。一実施形態において、神経精神障害は、気分障害、認知障害、行動障害及び不安障害からなる群から選択される。
【0013】
別の態様において、三叉神経刺激による神経精神障害の治療方法が本明細書に開示される。一実施形態において、この方法は、患者の顔面の第1の領域を皮膚電極アセンブリと接触させる工程であって、皮膚電極アセンブリが、患者の顔面の第1の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第1の電極を含み、第1の電極は、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成され、アセンブリは、患者脳内への最小の電流浸透となるように構成され、及び三叉神経の少なくとも1つの分枝は、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、工程と;神経精神障害を治療する特定の動作パラメータで電極アセンブリに電気信号を印加する工程とを含む。一実施形態では、電極アセンブリは、患者の顔面の第2の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第2の電極をさらに含むことができ、第2の電極は、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成され、三叉神経の少なくとも1つの分枝は、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される。一実施形態において、電気信号を印加する工程は、周波数約20〜300ヘルツ、電流0.05〜5ミリアンペア(mA)及び500マイクロ秒以下のパルス持続時間で電気信号を印加することを含む。一実施形態において、電気信号を印加する工程は、周波数約20〜300ヘルツ、パルス持続時間約50〜500マイクロ秒、約25mA/cm以下の出力電流密度及び大脳皮質において10マイクロクーロン/cm以下の出力電荷密度で電気信号を印加することを含む。一実施形態において、神経精神障害は、気分障害、認知障害、行動障害及び不安障害からなる群から選択される。
【0014】
別の態様において、神経精神障害の治療用三叉神経刺激キットが本明細書に開示される。一実施形態において、このキットは、本明細書に記載されるとおりの皮膚電極アセンブリと;神経精神障害を治療するための患者に対する電極アセンブリの配置についての説明書とを含む。一実施形態では、このキットは、パルス発生器と;神経精神障害を治療するための電極アセンブリへの電気信号の印加についての説明書とを含み得る。
【0015】
本開示は、その構成及び動作方法の双方に関して、さらなる目的及び利点と共に、添付の図面との関連をふまえて以下の説明を参照することにより理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】三叉神経のいくつかの分枝(神経)の位置及び三叉神経の表在分枝についての主要な孔の位置を示す。
【図1B】三叉神経のいくつかの分枝(神経)の位置及び三叉神経の表在分枝についての主要な孔の位置を示す。
【図2】本開示の態様により提供される電極アセンブリを含むシステムの実施形態を示す。
【図3A】図2の電極アセンブリの拡大図を示す。
【図3B】図3Aの電極アセンブリの代表的な寸法を示す。
【図4A】図2の皮膚電極アセンブリの様々な実施形態を示す。
【図4B】図2の皮膚電極アセンブリの様々な実施形態を示す。
【図4C】図2の皮膚電極アセンブリの様々な実施形態を示す。
【図5】図2のシステムと共に使用され得る電極アセンブリの別の実施形態を示す。
【図6A】本開示の態様を使用した精神障害の治療試験の治療前及び治療後における4つの評価テストの結果の平均値を示す表である。
【図6B】図6Aに示されるデータの棒グラフである。
【図6C】図6Aに示されるデータの経時的変化を示すグラフである。
【図7】眼窩上神経の皮膚刺激に曝露された対象者についての電流、電荷、電流密度及び電荷密度パラメータの一実施形態を要約する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、気分障害、不安障害、心的外傷後ストレス障害、並びに認知及び行動障害(まとめて、神経精神障害)を、三叉神経の表在要素の刺激(「TNS」)によって治療するのに使用される方法、装置及びシステムに関する。より具体的には、顔面において頭蓋外に位置する三叉神経の表在分枝、すなわち、眼窩上神経、滑車上神経、眼窩下神経、耳介側頭神経、頬骨側頭神経、頬骨眼窩神経、頬骨顔面神経、滑車下神経、鼻神経及びオトガイ神経(まとめて表在三叉神経とも称される)の皮膚的刺激方法が本明細書に開示される。気分障害及び他の神経精神障害のeTNS(外部三叉神経刺激)による治療方法もまた提供される。三叉神経又はその分枝、例えば表在三叉神経の治療刺激用に構成されたシステム及び装置、並びにそれらの適用方法もまた記載される。三叉神経の特有の解剖学的構造と、それが、感覚処理、注意、情動、認知、及び自律神経機能に関与する脳幹、視床、扁桃体、島、前帯状回並びにその他の皮質及び皮質下領域の主要な領域と直接的及び間接的に接続していることとにより、刺激が求められ得る様々な神経精神病態の外部刺激が使用可能となり得る。本明細書に記載される方法、システム及び装置は非侵襲性又は最小侵襲性であり得る。
【0018】
一部の脳刺激法は、皮質の大きい容積、例えば、ECT(電気痙攣療法)では全葉レベルで、及びrTMS(反復経頭蓋磁気刺激法)では大きい領域レベル(すなわち背外側前頭前皮質)で電流を発生させて脳をバルク導体として取り扱うことを目標としている。加えて、脳深部刺激は、概して、極めて多数の細胞の発火をもたらす小さいが局部的な容積の刺激に基礎を置いている。本開示のシステム、装置及び方法が脳に送る電流は、たとえあったとしても最小限である;代わりに信号が脳に送られることで、関連する神経解剖学的構造の活動が調節される。いかなる特定の理論による拘束も意図しないが、電気パルスは三叉神経の皮膚分枝に信号を生成し、電界は概して皮膚組織に閉じ込められ、脳への漏出は、たとえあったとしても最小限である。これらの電気パルスは、特定のニューロン網の極めて限定的で正確な動員を伴う神経細胞シグナリングイベントの変化のカスケードを引き起こす。このような神経解剖学的経路により、うつ病に関与する領域(青斑核、前帯状回、島、扁桃体、並びに皮質及び皮質下構造)における活動を標的化して調節することが可能となる。従って、本明細書に開示されるとおりのシステム、装置及び方法は、脳の既存の基盤構造を利用して目的の標的に信号を伝達する。本開示との関連において、最小の電流浸透とは、(1)大脳皮質において約0uC/cmの電荷密度、又は(2)大脳皮質において以下の閾値未満の電荷密度計算値、実測値、又はモデル値を意味する:(a)錐体ニューロン及び軸索の直接的な活性化を引き起こす可能性が低い電流、電荷密度、又は位相当たりの電荷;及び(b)脳損傷を回避するため、一実施形態では10uC/cm未満の電荷密度、及び他の実施形態では1.0uC/cm未満の電荷密度、及びいくつかの実施形態では0.001〜0.1uC/cm未満の電荷密度、及び脳損傷を引き起こさないことが分かっている電荷密度と位相当たり電荷との組み合わせ。一実施形態では、より低いレベルの刺激に対して個々の患者の中枢神経系の感度が十分に高く、その低いレベルであってもなお臨床的利益を生じることが可能なとき、より低い電荷密度が用いられ得る。
【0019】
以下の説明は、任意の当業者が本開示の主題を作製及び使用することを可能にするために提供される。しかしながら、開示される主題の一般的原理は本明細書に定義され、(1)三叉神経刺激による精神障害の治療方法、(2)皮膚的三叉神経刺激用に構成されるシステム及び電極アセンブリ;及び(3)かかるシステム及び電極アセンブリを使用した精神障害の治療方法が具体的に説明されているため、当業者には依然として様々な変形例が容易に明らかであろう。
【0020】
図1A及び図1Bを参照して、三叉神経は最大の脳神経であり、脳幹及び他の脳構造との広汎な接続を有する。三叉神経は顔面に3本の主要な感覚分枝を有し、そのいずれもが両側性で、且つ極めて到達し易い。眼窩上神経、又は眼神経は、第一枝(V1 division)と称されることが多い。眼窩下分枝、又は上顎神経は、一般に第二枝(V2 division)と称される。下顎神経(オトガイ分枝としても知られる)は、第三枝(V3 division)と称される。眼窩上神経は、前額の皮膚、上眼瞼、鼻の前部、及び眼に対する痛み、温度、及び軽い接触に関する感覚情報を支配する。眼窩下分枝は、下眼瞼、頬、及び上唇に対する痛覚、温度覚、及び軽い触覚に関する感覚情報を支配する。オトガイ分枝は、顔面下部の皮膚(例えば顎及び舌)及び唇に対する同様の感覚様相を支配する。
【0021】
図1A及び図1Bに示されるとおり、これらの分枝は3つの孔から頭蓋を出る。眼窩上神経又は眼神経は、鼻正中線から約2.1〜2.6cm(成人)の孔1(眼窩上孔又は切痕)より出て、眉毛の下側に位置する眼窩隆起の真上に位置する。眼窩下分枝又は上顎神経は、鼻正中線から約2.4〜3.0cm(成人)の孔2(眼窩下孔)より出て、及びオトガイ神経は、鼻正中線から約2.0〜2.3cm(成人)の孔3(オトガイ孔)より出る。鼻神経は眼神経の枝である。他の感覚分枝は、頬骨顔面枝、頬骨眼窩枝、頬骨側頭枝、及び耳介側頭枝を含め、他の孔から現れる。
【0022】
3本の主分枝からの線維は一緒に合わさって三叉神経節を形成する。そこから線維は脳幹に入って橋のレベルまで上行し、橋の主感覚核、Vの中脳核、並びにVの脊髄核及び神経路とシナプス結合する。痛覚線維はVの脊髄核及び神経路に下行し、次に視床後内側腹側核(VPM)まで上行する。軽い触覚の線維は大きい有髄線維であり、これは視床後外側腹側核(VPL)まで上行する。求心性感覚線維は三叉神経核から視床及び大脳皮質に投射する。
【0023】
三叉神経核は、孤束核(NTS)、青斑核、大脳皮質、及び迷走神経に投射を有する。NTSは迷走神経及び三叉神経からの求心性線維を受ける。NTSは複数の供給源からの入力を統合し、青斑核を含め、脳幹及び前脳の構造に相互投射する。
【0024】
青斑核は橋背側で対をなす核構造であり、第四脳室の底の真下に位置する。青斑核は脳幹、皮質下及び皮質の多数の構造への広汎な軸索投射を有し、網様体賦活系の重要な部分である。青斑核は脳幹のノルアドレナリン作動性経路の中心部分であり、神経伝達物質ノルエピネフリンを産生する。ノルエピネフリンは、注意、覚醒度、血圧及び心拍数調節、及び気分において重要な役割を果たす。
【0025】
いかなる特定の理論による拘束も意図しないが、特定の実施形態において、三叉神経と、青斑核、視床、扁桃体、前帯状回、及び上記に記載したとおりの他の中枢神経系構造との間の接続は、気分障害(うつ病など)、不安障害(心的外傷後ストレス障害など)並びに他の認知及び行動障害を含む神経精神障害における三叉神経の潜在的な役割に関連し得る。従って、三叉神経の皮膚刺激は、これらの神経精神障害の治療において有効であり得る。
【0026】
本開示の態様に係る皮膚電極を使用した方法、システム及び装置の特定の実施形態を考察するため、ここで図2A〜図5を参照する。これらの図は、三叉神経の表在分枝の皮膚刺激に用いられ得るシステム及び装置、並びにその使用方法の様々な実施形態を示す。
【0027】
本開示の一態様によれば、三叉神経刺激(「TNS」)を用いた神経精神障害の治療方法が提供される。概して言えば、TNSによる神経精神障害の治療方法は、三叉神経の孔又は分枝(図1A及び図1B)の少なくとも1つの上又は近傍に外部電極を位置決めする工程と、刺激器を一定時間にわたり特定の動作パラメータで使用して電極を刺激する工程とを含む。電極は、神経の主分枝に適用する必要はなく、当該の神経により支配される皮膚領域に適用することができ、その領域は、神経の主分枝から数インチ離れていることもある。一実施形態において、単一の又は別個の電極を右側及び/又は左側に配置することにより(例えば電極アセンブリ、例えば、2つの別個の電極、単一の対をなす電極又は2対の電極であって、各々が少なくとも1つの接触子を有する電極を、前額又は患者の顔面の他の領域の上に配置することにより)三叉神経の片側性の刺激又は両側性の刺激を実現することができるため、外部電極は眼窩上神経又は眼神経の孔(図1A、孔1)の上に位置決めされる。一実施形態において、電極アセンブリは片側刺激用に構成される。一実施形態において、電極アセンブリは両側刺激用に構成される。一実施形態では、種々の脳構造の機能は右と左とで同じでないこともあり得るため、両側刺激は片側刺激と同程度か、又はそれより優れた効力を提供することができる(例えば言語表現は最も一般的には左半球の言語中枢に局在し、そこでの損傷は話す能力の破局的な喪失をもたらすが、右半球の対応する領域の傷害はこの深刻な機能喪失をもたらさず、わずかに機能が変化し得るだけである)。また、両側刺激で生じる相乗効果もあり得る。一実施形態では、2つの別個の電極又は単一の対をなす電極は、前額上に配置され得る。代替的実施形態において、電極は、眼窩下孔(眼窩下神経又は上顎神経)(図1A、孔2)又はオトガイ孔(オトガイ神経又は下顎神経)(図1B、孔3)の孔の上に位置決めすることができる。さらに他の実施形態において、刺激は三叉神経の一つの孔に片側性で適用することができる。他の実施形態において、神経精神障害の治療方法は、外部電極を複数の孔の上に位置決めする工程と、異なる三叉神経を同時に刺激する工程とを含む。他の実施形態において、電極は、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び/又は耳介側頭神経及び/又はそのそれぞれの孔に対応する患者の顔面の領域に(右側及び/又は左側で)位置決めされてもよい。
【0028】
本開示の一態様によれば、TNSによる精神障害の治療方法は、各個別の患者の刺激用動作パラメータについての患者特異的な値を所定の範囲内で選択する工程を含む。一実施形態において、動作パラメータ値は、患者が不快感又は痛みを覚えることなく前額及び頭皮にわたり軽い刺痛などの刺激感覚を受け得るように選択される。一実施形態において、動作パラメータ値は、皮膚のかぶれ、熱傷、並びに脳及び/又は脳神経に対する望ましくない効果が最小限となるように選択される。一実施形態において、動作パラメータの選択方法は、電極の構成及びサイズ、パルス持続時間、電極電流、デューティサイクル並びに刺激周波数などの変数を評価する工程を含み;これらの変数は、全電荷、電荷密度、及び位相当たりの電荷が十分に皮膚、神経及び脳に認められた限界の範囲内にあることを確実にするのに重要な要素である。例えば、皮膚のかぶれを最小限に抑えるには、全電流を定めるだけでは不十分であり、電流密度を定義する必要がある。加えて、電気刺激パラメータ、電極設計、及び電極間距離の選択は、電気刺激範囲が眼神経又は他の脳神経(皮膚表面下約3〜4mm)を含む一方、上記に記載したとおりの頭蓋骨下への電流浸透を回避し、又は最小限にするように選ばれる。
【0029】
以下に図2A〜図5を参照してさらに詳細に記載されるとおり、電極は、神経刺激器からの電気的刺激を送るためのリードに接続される。一実施形態では、神経刺激は、以下の例示的設定で電気神経刺激器を使用して提供されてもよい:周波数20〜150Hz、電流1〜10mA、50〜250マイクロ秒のパルス持続時間(パルス幅)、10%〜50%のデューティサイクル、少なくとも1日1時間。患者の快適性及び低消費電力のため、これらの範囲の下限の刺激パラメータが使用されてもよい。他の実施形態では、異なる動作パラメータ値が使用されてもよい。代替的実施形態では、単一の外部電極を使用することができる。一実施形態では、以下にさらに詳細に記載されるとおり、患者の衣服に取り付けることのできる携帯型外部刺激器が使用される。
【0030】
一実施形態において、図2〜図5から理解され得るとおり、TNSによる神経精神障害の治療用システム200は、電極アセンブリ100と、電気ケーブル又はワイヤ120と、外部神経刺激器又はパルス発生器122とを含む。一実施形態では、パルス発生器は内部パルス発生器であってもよい。電極アセンブリは、眼神経を両側性で同時に及び異時的に刺激するように構成されてもよい。神経刺激器又はパルス発生器は、任意の種類の適切な、刺激を与え、信号を発生する装置であってよい。例示される実施形態において、発生器122は携帯型で、患者20のベルトに取り付けられる。しかしながら、携帯型又は非携帯型のいずれのパルス発生器も使用することができる。図2に示されるとおり、電極アセンブリ100は、電気ケーブル120に接続されるリードワイヤ124によるか、或いは無線で、外部刺激器122に接続可能である。すなわち、一実施形態において、電気ケーブル又はワイヤ120はリードワイヤ124を介して発生器122と電極アセンブリ100との間の物理的且つ電気的連結を提供するように構成される。他の実施形態において、発生器122と電極アセンブリ100とは無線通信し得る(すなわちワイヤ120及びリード124は使用されない)。システム200又はその要素、例えば電極アセンブリ100は、キットの一部であってもよい。一実施形態では、キットはまた、電極システム及び/又はシステムの配置についての説明書も含み得る。一実施形態では、キットはまた、本明細書に開示されるとおりの方法による神経精神障害の治療についての説明書も含み得る。
【0031】
一実施形態では、システム200は、システムの安全な使用を確実にするために調節装置も含み得る。調節装置はパルス発生器122に取り付けられるように構成され、且つ最大電荷平衡出力電流を約30〜50mA未満に抑えることで脳への電流浸透を最小限にし、患者の耐容性を高めるように構成される。調節装置は、0.25〜5.0mA、0〜10mA、0〜15mAの範囲に内部でプログラムされてもよく、これは電極の表面積、配置、及び向き、並びに電極が頭蓋に近接若しくは隣接して刺激するか、又は頭蓋から離れて(オトガイで)刺激するかに依存し、電流範囲はより高くても、又はより低くてもよい。現在のTENSユニットは最大100mAの最大出力電流で刺激し、これによりもたらされる電流は頭蓋に浸透し得るとともに、十分に耐容されないこともあり得る。
【0032】
一実施形態では、電極アセンブリ100は、電極アセンブリを患者の前額に固定するように構成された保持要素130をさらに含む。一実施形態において、保持要素130は弾性バンド又はストラップであってもよい。代替的実施形態において、電極アセンブリ100は、同時に電極アセンブリを見えないように隠す働きもし得るハット型帽子又はキャップ型帽子により所定位置に固定することができる。さらに他の実施形態において、電極アセンブリは、粘着性ストリップ、導電性の範囲を取り囲む粘着性裏当て材又は粘着性導電ゲルなどの接着剤により固定されてもよい。
【0033】
一実施形態では、電極アセンブリは、少なくとも1つの接触子を有する電極を含む。一実施形態では、単一の電極が複数の接触子を有し得る。一実施形態では、電極アセンブリは、接触子の対を有する電極の対を含む。一実施形態では、電極アセンブリは、少なくとも1つの接触子を有するストリップ電極であってもよい。一実施形態では、ストリップ電極は複数の接触子を含み得る。
【0034】
図2〜図3Bに示される電極アセンブリ100は、両側性眼窩上電極とも称される。図2〜図3Bに示されるとおり、電極アセンブリ100は、患者の顔面の第1の領域に配置される第1の接触子対112a、112bと、患者の顔面の第2の領域に配置される第2の接触子対114a、114bとを含む。一実施形態では、第1の領域は患者の顔面の右側であり、第2の領域は患者の顔面の左側である。第1の接触子対は第1の上側接触子112aと第1の下側接触子112bとを含み、一方、第2の接触子対は第2の上側接触子114aと第2の下側接触子114bとを含む。第1の接触子対と第2の接触子対とは、互いに絶縁性接続領域116により接続される。電極アセンブリ100は患者の皮膚と4つの接触域で接触する内側接触面118を含み、各接触域が、4つの接触子112a、112b、114a、114bのうちの1つに対応する。4つの接触域を含む内側接触面118は、皮膚のかぶれを最小限に抑えながら良好な導電率を提供する緩衝ゲル様接着剤を含み、かかるゲルの例には、AmGel Technologies(AmGel Technologies, Fallbrook, CA, USA)から市販されているハイドロゲルが含まれる。
【0035】
一実施形態において、電極アセンブリ100は、左右双方の眼神経を、同時に、或いは異時的に刺激するように構成される。絶縁性接続領域116は、患者が電極アセンブリ100を鼻の正中線と整列させることを補助する働きをし、それにより成人患者の鼻正中線から平均約2.1〜2.6cmにある双方の眼神経の上に電極アセンブリ100が正しく配置されることが確実となる。従って、電極アセンブリは、眼神経の位置に関する知識又は神経に対する重要な目印なしに(例えば患者が)正確に配置することができるため、電極を誤って位置決めすることに起因して不適切に刺激する可能性が低下する。
【0036】
第1の接触子対112a、112b及び第2の接触子対114a、114bを鼻正中線の両側に配置すると、刺激電流が順方向性に又は求心性の眼神経若しくは眼窩上神経の方向に流れることが確実となる。さらに、刺激に対する反応は局在し、従って正中線の一方の側と他方の側とで異なり得るが、電極アセンブリ100のこの構成により、接触子対112a/112b及び114a/114bを独立に及び/又は片側性で刺激することが可能となる。すなわち、本開示の電極アセンブリにより、適用性に応じて第1の領域及び第2の領域又は右側及び左側に対する電流を個別に調整することが可能となり、従って非対称な刺激及び/又は知覚される非対称な刺激が低減される。図4A〜図4Cは電極アセンブリ100の他の実施形態を示し、これらの構成を用いることで、右及び/又は左眼神経及び/又は本明細書に開示されるとおりの三叉神経の他の分枝、例えば頬骨顔面神経及び/又は耳介側頭神経を刺激し得る。1つ以上の接触子を有する単一の電極が使用されても、又は1つ以上の接触子を有する複数の電極が使用されてもよいことは理解され得る。両側性眼窩上電極は、特に両側性の眼窩上刺激用に構成される。これは、脳への電流浸透を無効にし、又は最小化し、又は安全にするため、使用位置、刺激パラメータ及びコンピュータモデリングからの入力に基づき拡縮可能である。皮膚のかぶれが起こり得るときは、同様の構成を片側性で適用してもよく、それにより前額の一方の側に解放がもたらされ、皮膚耐容性が促進され、且つかぶれるリスクが低減される。図4A〜図4Cに示されるとおり、サイズ及び電極間距離に関する他の構成を三叉神経の異なる分枝に対して企図することができる。一実施形態では、少なくとも2つの接触子を有するストリップ電極を使用して耳介側頭神経及び/又は頬骨顔面神経を刺激してもよい。他の実施形態では、2つの別個の電極を使用して耳介側頭神経及び/又は頬骨顔面神経を刺激してもよい。
【0037】
単極性の電気パルス(単相−全て正パルスか、或いは全て負パルス)が生成される刺激については、上側接触子112a、114a及び下側接触子112b、114は固定の極性を有し得る。交番極性(alternating polarities)の電気パルス(二相−交互の正及び負のパルス又はパルス列)が生成される刺激については、上側接触子112a、114a及び下側接触子112b、114bは交番極性を有する。また、下方電極は、典型的には刺激パルスの進み位相のため陰極として働く。単相刺激の場合、下方電極が概して陰極となる。
【0038】
図3Bから理解され得るとおり、接触子112a、112b、114a、114bの各々は、過度の電流密度及び/又は電荷密度に起因する任意の皮膚損傷を最小限にし、且つ頭蓋骨の内表面を越える電流浸透を最小限にし、又はなくすのに十分に大きい表面積にわたり電気パルスを送達するサイズとされる。第1の接触子対112a、112bと第2の接触子対114a、114bとの間の距離は、眼神経を刺激する一方で脳の表面への電流送達を最小限にし、又はなくすように構成される。一実施形態において、接触子の各々の中点は、鼻正中線から約2.5cm(1.5cm〜3.5cmの範囲)である。電極サイズ及び電極間距離は、解剖学的な違いに基づき小児と成人とで、男性と女性とで異なり得る。一実施形態において、電極は約32.5mmの長さ×12.5mmの高さであり、及び例えば上側の電極対112aと114aとの間の電極間距離は17.5mmであり、及び例えば上側の電極112aと下側の電極112bとの間の電極間距離は20mmである。他の実施形態において、電極の長さは32.5mmより大きくても、又はそれより小さくてもよく、及び12.5mmの高さより大きくても、又はそれより小さくてもよい。さらに他の実施形態において、電極間距離は、20mmより大きく、及び/又は17.5mmより小さい範囲であり得る。様々な実施形態において、接触子112a、112b、114a、及び114bの各々の表面積は、約0.5cm〜約20cmの範囲内であり得る。様々な実施形態において、接触子112aと112bとの間の距離及び接触子114aと114bとの間の距離は、約0.5cm〜約10cmの範囲であり得る。当業者は、上記の距離の1つ又は複数を距離の範囲の境界として使用し得ることを認識するであろう。
【0039】
図5は、電極アセンブリ100の別の実施形態を例示する。図5に示されるとおり、患者10は、眼神経の孔に対応して各眉毛上に一つずつ、2つの別個の電極12を前額に装着している。
【0040】
当業者は、電極アセンブリ100の上述の実施形態の様々な適応例及び変形例が本開示の範囲及び趣旨に含まれることを理解するであろう。例えば、本装置の一実施形態は、眼神経の片側刺激用に構成された片側性電極アセンブリを含む。また、本電極アセンブリはまた、上顎神経又は下顎神経の刺激用にも構成することができる。或いは、複数の三叉神経分枝の同時刺激用に構成された電極アセンブリもまた、本開示の範囲に含まれる。一実施形態において、本明細書に開示されるとおりのシステム又は電極アセンブリは、耳介側頭神経を刺激するように構成され得る。一実施形態において、本明細書に開示されるとおりのシステム又は電極アセンブリは、頬骨顔面神経を刺激するように構成され得る。
【0041】
使用時、電極アセンブリ100は患者20の前額上で、絶縁性接続領域116が患者の鼻の正中線と整列するように位置決めされる。一実施形態では、電極アセンブリ100は、眼窩隆起上で鼻正中線の約2.1〜2.6cm外側に位置する眼窩上孔の上に配置される。次に電極アセンブリ100は、リードワイヤ124及び電気ケーブル120を介して外部神経刺激器122に接続される。他の実施形態において、電極アセンブリ100は神経刺激器122に無線接続で接続される。次に、本明細書に記載される方法により決定されるとおりの患者特異的動作パラメータに従う刺激が加えられる。
【0042】
本開示の一態様によれば、上記に記載したとおりの電極アセンブリ100を使用した神経精神障害の治療方法が提供される。一実施形態において、精神障害の治療方法は、患者の前額に対して電極アセンブリ100を位置決めする工程と、電極アセンブリ100を外部刺激器122に接続する工程と、本明細書に開示されるとおりの所定の動作パラメータ値で電極アセンブリ100を刺激する工程とを含む。
【0043】
本開示の一態様によれば、本明細書に記載されるとおりの電極アセンブリの実施形態を使用した神経精神障害の治療方法が提供される。一実施形態において、精神障害の治療方法は、患者の顔面の第1の領域に電極アセンブリを位置決めする工程と、電極アセンブリを外部刺激器に接続する工程と、本明細書に開示されるとおりの所定の動作パラメータ値で電極アセンブリを刺激する工程とを含む。一実施形態において、第1の領域は耳介側頭神経に対応する領域である。一実施形態において、第1の領域は頬骨顔面神経に対応する領域である。一実施形態において、第1の領域は眼窩上神経に対応する領域である。
【0044】
一実施形態において、図2〜図3Aに示される両側性眼窩上電極100は、刺激周波数約20Hz〜約300Hz、パルス持続時間50マイクロ秒(μ秒)〜250μ秒、25mA/cm未満の出力電流密度及び大脳皮質において10μクーロン/cm未満の出力電荷密度で、少なくとも1日30分間〜1時間にわたり刺激される。一般に、刺激は大脳において電荷密度を全く又は無視できるほど僅かしか生じないものであり得る。ある場合には、刺激は1日30分間未満提供され得る。当業者は、上記のパラメータの1つ又は複数をパラメータの範囲の境界として使用し得ることを認識するであろう。
【0045】
様々な実施形態において、刺激は特定のパルス幅又はパルス幅範囲(又はパルス持続時間)で送達される。刺激は、約10マイクロ秒の下限と約3秒の上限との範囲内にある任意の範囲のパルス幅を送達するように設定することができる。様々な実施形態において、刺激は、50μs、60μs、70μs、80μs、90μs、100μs、125μs、150μs、175μs、200μs、225μs、250μs、最大500μsの1つ又は複数より大きい、及び/又はそれより小さい範囲のパルス幅を送達するように設定することができる。当業者は、上記の時間の1つ又は複数をパルス幅の範囲の境界として使用し得ることを認識するであろう。
【0046】
一実施形態では、刺激振幅は、電圧又は電流制御された刺激として送達される。他の実施形態において、刺激振幅は容量放電として送達することができる。様々な実施形態において、電流振幅は、上記に記載したとおり、電極の表面積、電極間距離、刺激される1つ又は複数の分枝、及びモデリングデータに応じて、約300μAの下限と約30mA〜35mAの上限との範囲内にある任意の範囲であってよい。様々な実施形態において、振幅は、50μA、75μA、100μA、125μA、150μA、175μA、200μA、225μA、250μA、275μA、300μA、325μA、350μA、375μA、400μA、425μA、450μA、475μA、500μA、525μA、550μA、575μA、600μA、625μA、650μA、675μA、700μA、725μA、850μA、875μA、900μA、925μA、950μA、975μA、1mA、2mA、3mA、4mA、5mA、6mA、7mA、8mA、9mA、10mA、11mA、12mA、13mA、14mA、15mA、16mA、17mA、18mA、19mA及び20mAの1つ又は複数より大きい、及び/又はそれより小さい範囲であってもよい。当業者は、上記の振幅の1つ又は複数を振幅の範囲の境界として使用し得ることを認識するであろう。
【0047】
様々な実施形態において、刺激は1つ又は複数の周波数又は周波数範囲内で送達することができる。刺激は、約500Hzの上限と約10Hzの下限との範囲内にある任意の範囲の周波数で送達されるように設定することができる。様々な実施形態において、刺激は、50Hz、45Hz、40Hz、35Hz、30Hz、25Hz、20Hz、15Hz、又は10Hzの1つ又は複数より小さい、及び/又はそれより大きい周波数で送達されるように設定することができる。様々な実施形態において、刺激は、20Hz、30Hz、40Hz、50Hz、60Hz、70Hz、80Hz、90Hz、100Hz、125Hz、150Hz、最大300Hzの1つ又は複数より大きい、及び/又はそれより小さい周波数で送達されるように設定することができる。当業者は、上記の周波数の1つ又は複数を周波数の範囲の境界として使用し得ることを認識するであろう。
【0048】
様々な実施形態において、刺激は、100%から約5%までの範囲内の特定のデューティサイクル又はデューティサイクル範囲で送達される。様々な実施形態において、刺激は、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は100%の1つ又は複数より大きい、及び/又はそれより小さい範囲のデューティサイクルで送達するように設定することができる。一実施形態では、神経を確実に温存するため、10%〜50%のデューティサイクルが好ましいとし得る。一実施形態では、特定の状況で最大100%のデューティサイクルが有用であり得る。当業者は、上記のパーセンテージの1つ又は複数をデューティサイクルの範囲の境界として使用し得ることを認識するであろう。
【0049】
他の実施形態では、異なる動作パラメータ値が使用されてもよい。一実施形態において、動作パラメータ値は、患者が不快感又は痛みを覚えることなく前額及び頭皮にわたり軽い刺痛などの刺激感覚を受け得るように選択される。神経刺激パラメータはこの治療方法における重要な要素である。一実施形態において、動作パラメータ値は、皮膚のかぶれ、熱傷、脳及び/又は眼神経に対する望ましくない効果が最小限となるように選択される。一実施形態において、動作パラメータの選択方法は、電極の構成及びサイズ、パルス持続時間、電極電流、デューティサイクル並びに刺激周波数などの変数を評価する工程を含み、これらの変数の各々が、全電荷、電荷密度、及び位相当たりの電荷が十分に皮膚、神経及び脳に認められた安全限界の範囲内にあることを確実にするのに重要な要素である。例えば、皮膚のかぶれを最小限に抑えるには、単に全電流を考慮するだけでは不十分であり、電流密度を定義する必要がある。加えて、電気刺激パラメータ、電極設計、及び電極間距離を、電気刺激範囲が眼神経(約3〜4mm深さ)又は他の目標の神経分枝を含む一方、頭蓋骨下及び電流浸透を回避し、又は最小限にするように選択することが重要である。
【0050】
刺激は上述の動作パラメータ値で行われる。動作パラメータ値は有利には、患者に耐え難い不快感又は痛みを引き起こすことなく患者が前額及び頭皮にわたり軽い刺痛などの刺激感覚を受け得るように選択される。これらの値は目的とする治療によって異なり得る;しかしながら、本明細書に開示されるシステム及び装置は、頭蓋の表面下及び/又は脳内への電流浸透が回避される、又は最小限となるパラメータで刺激する。
【0051】
一実施形態では、外部装置を使用することにより、本明細書に記載の個々の患者において植え込まれた電極アセンブリによる刺激の標的となり得る三叉神経の1つ又は複数の分枝の位置が特定されてもよい。この外部装置は、三叉神経の所望される1つ又は複数の分枝をマッピングして標的を定めるために、並びに効力及び安全性が最適な個別の刺激パラメータを特定するために使用されてもよい。一実施形態において、この装置は複数の外部(経皮的)TNS電極を含み得る。施術者が標的分枝の位置を概測し、標的位置の上方で患者の皮膚に電極を取り付ける。刺激が加えられてもよく、及び1つ又は複数の標的分枝の実際の位置又は好ましい(最適な)刺激位置が決定されてもよい。刺激パラメータもまた確立され得る。外部装置によって位置及び/又は刺激パラメータが確立されると、当該のデータを使用して個々の患者についての植え込み電極の配置案内の助けとなり、患者に合わせた刺激パラメータが確立され得る。
【0052】
加えて、三叉神経の刺激用外部電極を使用することにより、個人間変動に基づく最適な特定の刺激位置及びパラメータに加え、最小侵襲システムから治療利益を得る可能性が高い個人を特定し得る。様々な神経診断法、イメージング法、又は皮神経マッピング法により、個々の解剖学的構造の違いを描き出し、効力及び/又は安全性について刺激を最適化することが可能であり得る。さらに、最小侵襲システムの使用により、他の植込み型システム、例えば脳深部刺激から利益を得る可能性が高い個人のスクリーニング及び同定が可能となり得る。これは、第I段階(三叉神経の外部TNS)、第II段階(表在三叉神経の植込み型TNS)、及び第III段階(脳深部刺激)として、第I段階が第II段階のための、及び第II段階が第III段階のためのスクリーニングとなり得るように3つの手法が連関するものとして概念化することができる。症状の重症度の低減によるなど、有用な治療効果の徴候(evidence)について患者をモニタすることにより、ある段階における治療の結果を用いて、より高い段階の高侵襲性の治療で予想される治療効果を判断し得る。
【0053】
患者における神経精神障害を治療するための三叉神経刺激の使用を評価する方法が、本明細書に開示される。この方法は、患者に三叉神経刺激用皮膚システムを適用する工程と、TNS治療の有用な治療反応の徴候又は耐容性の徴候の少なくとも一方について患者をモニタする工程と、皮下電極アセンブリ又はシステムを提供する工程と、神経精神障害を治療するため患者に皮下電極アセンブリ又はシステムを植え込む工程とを含み得る。
【0054】
患者における神経精神障害を治療するための脳深部刺激の使用を評価する方法が、本明細書に開示される。この方法は、患者に三叉神経刺激用皮膚システムを適用する工程と、TNS治療の有用な治療反応の徴候又は耐容性の徴候の少なくとも一方について患者をモニタする工程であって、それにより外部測定基準を作成する工程と、皮下電極アセンブリ又はシステムを提供する工程と、神経精神障害を治療するため患者に皮下電極アセンブリ又はシステムを植え込む工程と、植え込まれた装置の有用な治療反応又は耐容性の少なくとも一方について患者をモニタする工程であって、それにより頭蓋外測定基準を作成する工程と、外部測定基準及び頭蓋外測定基準を分析して、患者が脳深部刺激から利益を受け得るかどうかを判定する工程とを含み得る。
【0055】
以下の例は、本開示の主題を、その範囲にいかなる限定も課すことなくより明確に説明するために、及び神経精神障害の治療用三叉神経刺激の臨床的利益を例示するために提供される。第1の例では、大うつ病性障害を有する患者を外部皮膚電極でのTNSにより治療した。第2の例では、両側性眼窩上刺激用皮膚電極を使用して患者を治療した。
【実施例】
【0056】
実施例1
図6A〜図6Cは、うつ病を治療するための外部三叉神経刺激の予備試験からの結果を示す。組入れ基準及び除外基準を満たした大うつ病を有する対象者を、UCLAで行われたオープンラベル(非盲検)試験において8週間追跡した。
【0057】
組入れ基準は以下とした:年齢18〜65歳で、大うつ病性障害(MDD)の急性再発エピソードについてのDSM−IV基準を満たし、且つ中等度の重症度の大うつ病エピソード(MDE)であったこと。他の組入れ基準は以下とした:現在のMDEが期間4ヶ月超でなければならず、現在のMDEの間に少なくとも6週間にわたり少なくとも1種の抗うつ剤に反応なし、及び少なくとも1種の抗うつ剤の併用。全対象者が顕著な残存症状を有し、試験登録時のハミルトンうつ病評価尺度(HDRS−28)の平均スコアは25.4(3.9 s.d.)、範囲19〜29であった。対象者は刺激電極を三叉神経の眼窩上分枝上に少なくとも1日8時間(主に就寝中に)置き、電流は快適なレベルが維持されるよう調整された。5人の対象者がこの試験を完了した。主要な転帰は8週間目におけるHDRSの変化であった。
【0058】
除外基準は以下とした:現在妊娠中;非定型又は精神病性又は双極性うつ病についてのDSM−IV基準を満たす;統合失調症、統合失調性感情障害、又は他の非気分障害性精神病の病歴;現在、譫妄、認知症、健忘障害又は他の認知障害の二次的DSM−IV診断(又は徴候)を有する;臨床的に重大な現在の自殺意図;重大な心臓疾患、医学的疾患又は進行性の神経学的又は医学的疾患;顔面痛又は三叉神経痛;VNS又はペースメーカーなどの他の植込み型電気装置;TENS又はVNSユニットを現在使用中、又はノンコンプライアンス歴。
【0059】
全ての対象者が少なくとも1日8時間にわたり非盲検TNS付加(補助)治療を受けた。試験インテーク時、及び急性治療期の2週目、4週目、6週目、及び8週目に評価を行った。治療の継続を希望した対象者は、モニタリングのための月1回の来診を伴う任意選択の6ヶ月の長期延長期への参加が許可された。
【0060】
対象者は、例えば、TENS Products, Inc.(www.tensproducts.com)から市販されるEMS Model 7500などの電気刺激器を使用して、120ヘルツの周波数、20mA未満の電流、250μ秒のパルス持続時間、並びに30秒間オン及び30秒間オフのデューティサイクルで動作させて、1日最低8時間にわたり刺激を受けた。
【0061】
治療の開始前及び続く経過観察評価の来診時、各対象者の症状の重症度を、ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale:HDRS、17項目版及び28項目版の双方を使用してスコア化)、ベックうつ病調査票(Beck Depression Inventory:BDI)、及び簡易抑うつ症状尺度(Quick Inventory of Depressive Symptomatology:QIDS)を用いて定量化し、これらの尺度の各々に関する群平均値を図6Aに示される表に集計した。3つはいずれも、うつ病の重症度を測るように設計された評価ツールである。HDRSは、うつ病の重症度を測るため臨床医が個々の対象者の面接及び観察後に記入する十分に確立された評定尺度ツールである;この試験では、全28項目(設問)に関する評定を行い、全項目(HDRS28)及び標準的なサブセットである17項目(HDRS17)を使用して、尺度を標準方法によってスコア化した。BDIは、うつ病の重症度を測るために使用される21問の設問の多項選択式自己評価による調査である。QIDS−C16は、うつ病の重症度を測るために使用される16問の設問の臨床医が評定する調査である。これらの尺度の各々は、患者の症状の重症度評価において異なる強度及び限界をもたらし(例えばBDIはうつ病の認知症状を重要視している一方、HDRSは自律神経症状に顕著に重点を置いている)、大うつ病における臨床試験では一般に全てが用いられる;複数の尺度を使用することで、大うつ病に対するこの治療のこの初期研究におけるいかなる単一の尺度と比べても、三叉神経刺激の効果をより包括的に評価することが可能となった。
【0062】
図6Aに示され、並びに図6B及び図6Cにグラフで示されるとおり、参加時の25.4(3.9 s.d.)から8週目の13.6(6.3 s.d.)へのHDRS28の低下が有意であった(両側t検定 p<0.01、コーエンのd 2.4)。BDIに対する応答も、26.8(8.1)から10.6(4.9)に同様に下がった(p<0.01、d 2.3)。16項目の臨床医が評定するQIDSの低下もまた有意で、10.8(3.4)から5.5(4.4)に低下した(p<0.05、d 1.3)。従って、急性TNS治療の8週間で症状の重症度の有意な低下が実現された。さらに、抑うつ気分、不安、睡眠、及び精力など、全ての症状項目にわたり症状の変化が起こった。これらの所見から、薬物では症状の寛解を得ることができなかったときに、同様に薬物療法の補助としても利用し得るTNS治療の使用が支持される。
【0063】
実施例2
図7は、眼窩上神経の皮膚刺激に曝露中の対象者における記録された電流、電荷、電流密度及び電荷密度を要約する。図7は、EMS 7500刺激器、120HZ、150〜250u秒、Tyco superior silver電極1.25”を、眉毛上方の正中線から1インチで使用する対象者において記録された両側性の眼窩上刺激についての代表的なパラメータを示す。データは、Flukeオシロスコープ、50mV/div、抵抗=10.1Ωで記録した。一般に、これらの知見から、パルス幅が増加するほど最大耐容可能電流が低下することが示される。
【0064】
円形1.25インチTENSパッチ電極による三叉神経の眼窩上分枝の皮膚電気刺激は、十分に安全性の限度範囲内にある電流密度及び電荷密度/位相をもたらす。一般に、過去に試験したTNS患者が快適に耐容する最大電流は約25mAであり、患者は典型的には、25mAを十分に下回る振幅設定(6〜10mA)で刺激される。
【0065】
1.25インチTENS電極は半径1.59cmの円形電極である。表面積は、A=Πr=[Π]×[1.59cm]=7.92cmと計算することができる。これらの電極を使用すると、典型的な刺激電流は、150〜250u秒のパルス持続時間で6〜10mAの範囲である。
【0066】
電流密度:典型的な対象者において、6〜10mAの刺激電流は0.76〜1.3mA/cmの範囲の電流密度となる。McCreery et alは経頭蓋電気刺激用の刺激電極で25mA/cmの最大安全電流密度を確立している。表面積7.92cmの電極で最大25mAのさらに大きい電流を仮定すると、電流密度は最大3.16mA/cmの範囲となり得る。0.76mA/cmから3.16mA/cmまで、TNSは最大安全許容電流密度の8〜33分の1の電流密度を送達する。電荷密度(電荷密度/位相):Yuen et alは、大脳皮質に送達される電荷密度/位相について40uC/cmの安全限界を特定しており[Yuen et al 1981]、最近ではMcCreery et al.(McCreery et al 1990)が10uC/cmを安全限界として特定している。250u秒で10mAを仮定すると、電荷密度/位相は、刺激電極で[0.010A]×[250u秒]/7.92=0.32uC/cmである。さらに高い刺激レベルの、250u秒で25mAを仮定すると、位相当たりの最大電荷密度は0.79uC/cmである。このようなレベルでは、刺激電極における電荷密度は、概して大脳皮質で許容される最大値の12〜120分の1である。皮質は刺激電極から最小で10〜13mmにあるため、及び間にある皮膚、脂肪、骨、硬膜、及びCSFの層を考えると、実際の電荷密度は大幅に低くなり得る。これは、脳組織をバルク導体として電流が直接通過する望ましくない事態を回避するのに重要である。
【0067】
図7に示されるとおり、表面積7.92cm2の電極によるパルス持続時間150〜250u秒での対象者における刺激強度反応により、頭皮での電流密度は経頭蓋刺激に現在推奨されている電流密度を十分に下回って25mA/cmとなり、及び頭皮での電荷密度は大脳皮質での安全電荷密度を大きく下回る(0.15〜0.18uC/cm)。
【0068】
前述の考察から、本発明を様々な方法で具体化し得ることが理解され、そうした方法には、限定はされないが、以下が含まれる:
1.患者の顔面の第1の領域に配置するように構成された第1の接触子対と;患者の顔面の第2の領域に配置するように構成された第2の接触子対と;第1の接触子対と第2の接触子対とを接続する絶縁接続領域とを含む、神経精神障害を治療するための三叉神経刺激用皮膚電極アセンブリであって、第1の接触子対及び第2の接触子対が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように、且つ頭蓋の表面下への電流浸透を最小限として又は全くなしで前記神経の前記分枝を刺激するように構成される、皮膚電極アセンブリ。
2.三叉神経の少なくとも1つの分枝が、表在性の眼分枝、眼窩下分枝、及びオトガイ分枝からなる群から選択される、請求項1に記載の皮膚電極アセンブリ。
3.三叉神経の少なくとも1つの分枝が眼窩上神経である、請求項1に記載の皮膚電極アセンブリ。
4.三叉神経の少なくとも1つの分枝が耳介側頭神経である、請求項1に記載の皮膚電極アセンブリ。
5.三叉神経の少なくとも1つの分枝が頬骨顔面神経である、請求項1に記載の皮膚電極アセンブリ。
6.電極アセンブリを患者の前額に固定するように構成された保持要素をさらに含む、請求項1に記載の皮膚電極アセンブリ。
7.神経精神障害がうつ病である、請求項1に記載の電極アセンブリ。
8.神経刺激器と;患者の顔面の第1の領域に配置するように構成された第1の接触子対と、患者の顔面の第2の領域に配置するように構成された第2の接触子対と、第1の接触子対と第2の接触子対とを接続する絶縁接続領域とを含む皮膚電極アセンブリと;を含む神経精神障害又は病態の治療用三叉神経刺激システムであって、第1の接触子対及び第2の接触子対が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成される、システム。
9.神経刺激器と皮膚電極アセンブリとを動作可能に接続するケーブル及びリードワイヤをさらに含む、請求項8に記載のシステム。
10.電流出力を調節して頭蓋骨の表面下への電流浸透を最小限にするように、又は回避するように構成された調節装置をさらに含む、請求項8に記載のシステム。
11.三叉神経の少なくとも1つの分枝が、表在性の眼分枝、眼窩下分枝、及びオトガイ分枝からなる群から選択される、請求項8に記載のシステム。
12.電極アセンブリを患者の前額に固定するように構成された保持要素をさらに含む、請求項8に記載のシステム。
13.三叉神経の少なくとも1つの分枝が眼窩上神経である、請求項8に記載のシステム。
14.三叉神経の少なくとも1つの分枝が耳介側頭神経である、請求項8に記載のシステム。
15.三叉神経の少なくとも1つの分枝が頬骨顔面神経である、請求項8に記載のシステム。
16.神経精神障害又は病態の治療用三叉神経刺激キットであって、請求項1に記載の皮膚電極アセンブリと;神経精神障害を治療するための患者に対する電極アセンブリの配置についての説明書とを含むキット。
17.神経刺激器と;神経精神障害を治療するための電極アセンブリへの電気信号の印加についての説明書とをさらに含む、請求項16に記載のキット。
18.三叉神経刺激による神経精神障害の治療方法であって、電極アセンブリを患者に取り付ける工程であって、電極アセンブリが、患者の顔面の第1の領域に配置するように構成された第1の接触子対と、患者の顔面の第2の領域に配置するように構成された第2の接触子対と、第1の接触子対と第2の接触子対とを接続する絶縁接続領域とを含み、第1の接触子対及び第2の接触子対が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成される、工程と;頭蓋骨下への電流浸透を最小限として神経精神障害を治療する特定の動作パラメータで電極アセンブリに電気信号を印加する工程とを含む方法。
19.電気信号を印加する工程が、周波数約20〜300ヘルツ、パルス持続時間約50〜500マイクロ秒、約25mA/cm以下の出力電流密度及び約10マイクロクーロン/cm以下の出力電荷密度で電気信号を印加することを含む、請求項18に記載の方法。
20.電極アセンブリが、眼窩上神経を覆う皮膚表面と接触するように患者に取り付けられる、請求項18に記載の方法。
21.電極アセンブリが、耳介側頭神経を覆う皮膚表面と接触するように患者に取り付けられる、請求項18に記載の方法。
22.電極アセンブリが、頬骨顔面神経を覆う皮膚表面と接触するように患者に取り付けられる、請求項18に記載の方法。
23.神経精神障害がうつ病である、請求項18に記載の方法。
【0069】
当業者は、本開示の範囲及び趣旨から逸脱することなく上述の好ましい実施形態の様々な適応例及び変形例を構成し得ることを理解するであろう。標的神経の刺激は、磁気又は超音波など、エネルギーを多くの形態で皮膚に加えることにより達成され得る。従って、本開示の主題は本明細書に具体的に記載されるもの以外に従い実施され得ることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス発生器と、
前記パルス発生器と電気的に連通している皮膚電極アセンブリであって、前記患者の顔面の第1の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第1の電極を含むアセンブリと
を含む、神経精神障害の治療用三叉神経刺激システムであって、
前記第1の電極が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある患者の顔面の一部分と接触するように構成され、
前記システムが、患者脳内への最小の電流浸透となるように構成され、
三叉神経の前記少なくとも1つの分枝が、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、システム。
【請求項2】
前記アセンブリが、前記患者の顔面の第2の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第2の電極をさらに含み、前記第2の電極が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成され、三叉神経の前記少なくとも1つの分枝が、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1の電極と前記第2の電極とが、三叉神経の同じ分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1の電極と前記第2の電極とが、三叉神経の異なる分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成される、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記パルス発生器と前記皮膚電極アセンブリとを動作可能に接続するワイヤをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
最大電荷平衡出力電流を約30〜50mA未満に調節するように構成された調節装置をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記神経精神障害が、気分障害、認知障害、行動障害、及び不安障害からなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記パルス発生器が、周波数約20〜300ヘルツ、パルス持続時間約50〜500マイクロ秒、約25mA/cm以下の出力電流密度及び大脳皮質において約10マイクロクーロン/cm以下の出力電荷密度で電気信号を印加するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
神経精神障害を治療するための三叉神経刺激用皮膚電極アセンブリであって、前記アセンブリが、患者の顔面の第1の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第1の電極を含み、
前記第1の電極が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成され、
前記アセンブリが、患者脳内への最小の電流浸透となるように構成され、
三叉神経の前記少なくとも1つの分枝が、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、アセンブリ。
【請求項10】
前記患者の顔面の第2の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第2の電極をさらに含み、前記第2の電極が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成され、三叉神経の前記少なくとも1つの分枝が、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、請求項9に記載のアセンブリ。
【請求項11】
前記第1の電極と前記第2の電極とが、三叉神経の同じ分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成される、請求項10に記載のアセンブリ。
【請求項12】
前記第1の電極と前記第2の電極とが、三叉神経の異なる分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成される、請求項10に記載のアセンブリ。
【請求項13】
前記神経精神障害が、気分障害、認知障害、行動障害、及び不安障害からなる群から選択される、請求項9に記載のアセンブリ。
【請求項14】
三叉神経刺激による神経精神障害の治療方法であって、
患者の顔面の第1の領域を皮膚電極アセンブリと接触させる工程であって、
前記皮膚電極アセンブリが、前記患者の顔面の第1の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第1の電極を含み、
前記第1の電極が三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成され、
前記アセンブリが、患者脳内への最小の電流浸透となるように構成され、及び
三叉神経の前記少なくとも1つの分枝が、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、工程と、
神経精神障害を治療するための特定の動作パラメータで前記電極アセンブリに電気信号を印加する工程と
を含む方法。
【請求項15】
前記アセンブリが、前記患者の顔面の第2の領域で皮膚に配置するように構成された少なくとも1つの接触子を含む第2の電極をさらに含み、前記第2の電極が、三叉神経の少なくとも1つの分枝の皮膚分布上にある前記患者の顔面の一部分と接触するように構成され、三叉神経の前記少なくとも1つの分枝が、眼神経、眼窩下神経、オトガイ神経、滑車上神経、滑車下神経、頬骨側頭神経、頬骨顔面神経、頬骨眼窩神経、鼻神経、及び耳介側頭神経からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
電気信号を印加する前記工程が、周波数約20〜300ヘルツ、電流0.05〜5ミリアンペア(mA)、及び500マイクロ秒以下のパルス持続時間で電気信号を印加することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
電気信号を印加する前記工程が、周波数約20〜300ヘルツ、パルス持続時間約50〜500マイクロ秒、約25mA/cm以下の出力電流密度、及び大脳皮質において約10マイクロクーロン/cm以下の電荷密度で電気信号を印加することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記神経精神障害が、気分障害、認知障害、行動障害、及び不安障害からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
神経精神障害の治療用三叉神経刺激キットであって、
請求項1に記載の皮膚電極アセンブリと、
神経精神障害を治療するための患者における前記電極アセンブリの配置についての説明書と
を含むキット。
【請求項20】
パルス発生器と、
神経精神障害を治療するための前記電極アセンブリへの電気信号の印加についての説明書と
をさらに含む、請求項19に記載のキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−506533(P2013−506533A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533256(P2012−533256)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/051542
【国際公開番号】WO2011/044176
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(508228061)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (10)
【Fターム(参考)】