説明

神経細胞活性化剤

【課題】有効量のプラセンタ抽出物を含有する、神経細胞の活性化剤を提供する。
【解決手段】本発明の神経細胞活性化剤は、神経変性疾患、うつ病、及び/又はこれらの予備的状態等、神経細胞の活性化が必要な患者に対する使用に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラセンタ抽出物を含有する神経細胞の活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プラセンタ由来の素材は、美容、健康又は医薬関連分野において盛んに利用されている。例えば、酒粕エキスにイワベンケイエキス及びプラセンタエキス等を配合した、化粧料及び健康食品用の素材が知られている(特許文献1)。該化粧料及び健康食品用の素材において、プラセンタエキスは荒れた肌をケアして透明感のある生き生きとした素肌作りを達成するために配合されている。その他、プラセンタエキスを細胞賦活剤として利用する毛母細胞活性化剤(特許文献2)、ローヤルゼリーとプラセンタエキスを含有する更年期障害の改善用食品(特許文献3)、及び、プラセンタとガラナ及びマカエキス等を有効成分とする血行不全や記憶力等の改善効果を有する栄養剤(特許文献4)が知られている。
【0003】
しかしながら、プラセンタ由来の素材を経口投与して神経細胞を活性化することは知られておらず、またヒト由来腸管細胞とラット由来神経細胞の共培養によって腸管細胞・神経細胞の相互作用を検討しているに過ぎず、まずその媒介物としてはNGFのみを想定しているに過ぎない(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-119433
【特許文献2】特開平08-073321
【特許文献3】特開2008-017815
【特許文献4】特開2001-348334
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Biosci. Biotechnol. Biochem., 67: 1312-1318 (2003)
【非特許文献2】Cytotechnology, 35: 73-79 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プラセンタ抽出物を含有する、神経細胞の活性化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の状況において、本発明者は、食品成分による腸管を介した神経制御に着目して研究を開始した。鋭意検討の結果、プラセンタ抽出物が神経細胞を活性化することを明らかにした。このような結果は、全く予測し得ないものであった。以上の知見に基づいて、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下を提供する。
(1)有効量のプラセンタ抽出物を含有する神経細胞活性化剤。
(2)腸管上皮細胞においてNGF及び/又はBDNFの生成を促進させるための、(1)に記載の神経細胞活性化剤。
【0009】
(3)神経細胞において樹状突起の形成を促進させるための、(1)又は(2)に記載の神経細胞活性化剤。
(4)飲食品に添加するための、(1)〜(3)のいずれか1に記載の神経細胞活性化剤。
【0010】
(5)神経変性疾患、うつ病、及び/又はこれらの予備的状態を処置するための飲食品に添加するための、(1)〜(4)のいずれか1に記載の神経細胞活性化剤。
(6)医薬に添加するための、(1)〜(3)のいずれか1に記載の神経細胞活性化剤。
【0011】
(7)神経変性疾患、うつ病、及び/又はこれらの予備的状態を処置するための医薬に添加するための、(1)〜(3)、及び(6)のいずれか1に記載の神経細胞活性化剤。
(8)(1)〜(5)のいずれか1に記載の神経細胞活性化剤を含有する飲食品。
【0012】
(9)神経細胞活性化剤の一食当たりの摂取量が、体重1 kg当たり0.01〜500 mg/kgである、(8)に記載の飲食品。
(10)(1)〜(3)、(6)、及び(7)のいずれか1に記載の神経細胞活性化剤を含有する医薬品。
【0013】
(11)神経細胞活性化剤の投与量が、体重1 kg当たり0.01〜500 mg/kgである、(10)に記載の医薬品。
(12)(1)〜(11)に記載の神経細胞活性化剤、飲食品、又は医薬品を、必要のある対象(動物、ほ乳類、ヒト)へ投与することを含む、神経細胞を活性化する方法(医療行為を除く)。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、神経細胞を活性化し、樹状突起の形成を促進させることができる。従って、本発明は、神経細胞の活性化が必要な疾患の予防(発症の防止、発症リスクの低減)、治療、軽減等を目的とする飲食品及び医薬品に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】試験例2の結果を示す図である。プラセンタ抽出物で処理されたCaco-2細胞におけるNGFのmRNAの発現量を示す。図の数値は、NGFのmRNA発現量をβ−アクチンのmRNA発現量で補正した値を表す。ctrl: プラセンタ抽出物無添加;1μg/ml、10μg/ml、100μg/ml、及び1000μg/ml: プラセンタ抽出物の培地中の濃度。
【図2】試験例2の結果を示す図である。プラセンタ抽出物で処理されたCaco-2細胞におけるBDNFのmRNAの発現量を示す。図の数値は、BDNFのmRNA発現量をβ−アクチンのmRNA発現量で補正した値を表す。ctrl: プラセンタ抽出物無添加;1μg/ml、10μg/ml、100μg/ml、及び1000μg/ml: プラセンタ抽出物の培地中の濃度。
【図3】試験例3の結果を示す図である。SH-SY5Y細胞における樹状突起の形成促進効果を示す。Caco-2細胞の培養液で処理されていないSH-SY5Y細胞((a)〜(c))、プラセンタ抽出物による処理がされていないCaco-2細胞の培養液で処理されたSH-SY5Y細胞((d)〜(f))、及びポジティブコントロールとしてのレチノイン酸で処理されたSH-SY5Y細胞((g)〜(i))の顕微鏡写真を示す。それぞれの条件でSH-SY5Y細胞を24時間、48時間、及び72時間処理した。
【図4】試験例3の結果を示す図である。SH-SY5Y細胞における樹状突起の形成促進効果を示す。プラセンタ抽出物により処理されたCaco-2細胞の培養液で処理されたSH-SY5Y細胞の顕微鏡写真を示す。プラセンタ抽出物1μg/ml((a)〜(c))、10μg/ml ((d)〜(f))又は100μg/ml ((g)〜(i))で処理されたCaco-2細胞の培養液で、SH-SY5Y細胞を24時間、48時間、及び72時間処理した。
【図5】試験例4の結果を示す図である。SH-SY5Y細胞における樹状突起の形成促進効果を示す。プラセンタ抽出物で直接処理されたSH-SY5Y細胞の顕微鏡写真を示す。プラセンタ抽出物1μg/ml ((a)〜(c))、10μg/ml ((d)〜(f))又は100μg/ml ((g)〜(i))で、SH-SY5Y細胞を24時間、48時間、及び72時間処理した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<プラセンタ抽出物>
本明細書でいうプラセンタ抽出物とは、例えば、ヒト、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ等の、ヒト又はヒト以外の脊椎動物の胎盤から得られる抽出物をいう。本発明においては、特定の脊椎動物由来のプラセンタ抽出物の一種を選択して単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
プラセンタ抽出物は、従来から行われている方法によって調製することができる。例えば、凍結した胎盤を砕き、水溶性溶媒で撹拌後、遠心分離により不溶成分を除去することによって調製することができる。水溶性溶媒としては、水、生理的食塩水(PBS)、緩衝液を使用することができるが、好ましくは水又は生理的食塩水である。撹拌の条件は、温度:2〜20℃、好ましくは2〜15℃、時間:5分〜24時間、好ましくは10分〜12時間、より好ましくは15〜60分で行うことができる。遠心分離の条件は、回転数:2000〜10000×g、好ましくは3000〜8000×g、時間:1〜60分、好ましくは5〜30℃、温度:1〜20℃、好ましくは2〜10℃で行うことができる。
【0018】
このような方法によって、胎盤1 gから調製されるプラセンタ抽出物のタンパク質濃度は、タンパク質定量法によると、0.01〜1000μg/ml、典型的には0.1〜500μg/ml、より具体的には試験例1の方法によって調製されるプラセンタ抽出物においては、0.5〜100μg/mlである。このタンパク質濃度は、プラセンタ抽出物を希釈、濃縮等することによって調整してもよい。また、プラセンタ抽出物は、例えば、液体、油状、濃縮物、又は乾燥物(粉末、固体等)のいずれの形状であってもよい。
【0019】
<神経細胞活性化剤>
本発明の神経細胞活性化剤は、神経細胞の分化、生存、機能の維持及び再生、樹状突起の伸長、及び神経伝達物質の合成等を促進する。本発明の神経細胞活性化剤は、プラセンタ抽出物を含有していればよいが、腸管上皮細胞において神経細胞を活性化する物質の生成を促進させるために有効量のプラセンタ抽出物を含有していることが望ましい。ここで、神経細胞を活性化する物質とは、例えば、神経栄養因子(neurotrophic factor)、及びレチノイン酸等が挙げられる。
【0020】
本明細書でいう神経栄養因子とは、交感神経細胞、神経冠由来の感覚神経細胞、中枢神経の一部のコリン作動性神経細胞に作用し、その分化、生存、機能の維持、樹状突起の伸長、神経伝達物質の合成を促進するタンパク質性成長因子であり、神経細胞の分化、成熟、生存、再生、及び老化と密接な関係を有する。神経栄養因子としては、神経成長因子(nerve growth factor、以下NGF)及び/又は脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor、以下BDNF)、NT-3、NT4/5、NT-6、CNTF、LIF、GDNF等が挙げられる。
【0021】
例えば、腸管上皮細胞においてNGF及び/又はBDNFの生成を促進させるためのプラセンタ抽出物の有効量とは、例えば、試験例1で調製したプラセンタ抽出物を用いた場合、タンパク質濃度として、マウスの体重1 kg当たり1〜5000 mg/kg、好ましくは10〜3000 mg/kg、より好ましくは100〜2000 mg/kg、特に好ましくは200〜1000 mg/kgである。ヒトへ適用する際は、前記有効量の1/10〜1/100が適切であると考えられる。例えば、ヒトの体重1 kg当たり0.01〜500 mg/kg、好ましくは0.1〜300 mg/kg、より好ましくは1〜200 mg/kg、特に好ましくは20〜100 mg/kgである。該投与量は、1日当たりの投与量としてもよく、数日当たりの投与量としてもよい。また、1回当たりの投与量としてもよく、数回、例えば2回又は3回に分けて投与してもよい。
【0022】
したがって、本発明の神経細胞活性化剤は、神経細胞の活性化を通じてアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ポリグルタミン病(ハンチントン病、脊髄小脳変性症等)、プリオン病(ウシ海綿状脳症、クロイツフェルト・ヤコブ病等)等の神経変性疾患、及びうつ病等の処置に有効である。本明細書において処置というときは、発症リスクの低減、発症の遅延、発症の予防、治療、進行の停止、遅延を含む。処置には、医療行為と医師以外の例えば、栄養士による栄養・食餌指導等の非医療行為が含まれる。
【0023】
また、本発明の神経細胞活性化剤は、タンパク質、アミノ酸、核酸、ミネラル、ビタミン等を含有していてもよい。
<神経細胞の活性化効果>
神経細胞の活性化効果は、例えば、以下の手法で評価することができる。本明細書においては、別段の記載がない限り、この手法を用いて神経細胞の活性化効果を評価する。
【0024】
試験物質で処理された細胞において神経細胞を活性化する物質の生成促進を確認することによって、該試験物質による神経細胞の活性化の可能性を評価することができる。神経細胞を活性化する物質の生成促進は、どのような方法で確認してもよい。例えば、神経細胞を活性化する物質が蛋白質である場合、そのネイティブ又は変性蛋白質、又は部分分解物等の生成を抗体等を用いて確認してもよく、或いは、神経細胞を活性化する物質をコードするmRNAの発現を確認してもよい。神経細胞を活性化する物質の中から1種又は2種以上の物質、例えばNGFやBDNF等を選択し、これらの生成促進を指標にしてもよい。
【0025】
次に、上記のように試験物質で処理された細胞に由来する培養液を回収し、該培養液で神経細胞を処理することによって神経細胞の活性化の程度を確認することができる。神経細胞の活性化は、神経細胞の分化、生存率、樹状突起形成、カルシウム流入、接着分子・レセプター発現等の程度に基づいて評価することができる。
【0026】
神経細胞の活性化を樹状突起の形成の程度に基づいて評価する場合、例えば、細胞体の大きさの2倍以上の長さの樹状突起が少なくとも2本以上形成されている場合に、神経細胞が活性化されていると評価することができる。そのような樹状突起の数が多いほど活性化の程度が強いと評価することができる。
【0027】
以下に評価手法の一態様を示す。細胞培養ディッシュ上で培養された腸管上皮細胞に設定された濃度の試験物質を添加し、設定された時間培養した後、細胞培養ディッシュから培養液を回収する。該ディッシュから細胞を回収し、神経栄養因子、例えばNGF及び/又はBDNFをコードするmRNAの発現量を定量する。該mRNAの発現量に基づいて、試験物質による神経細胞を活性化する物質の生成促進の程度を評価する。
【0028】
次に神経細胞を細胞培養ディッシュ上で培養し、上記で回収した腸管上皮細胞由来の培養液で神経細胞を処理する。設定された時間後の神経細胞の樹状突起の形成の促進を観察する。
【0029】
<組成物>
本発明は、神経細胞活性化剤を含有する組成物を提供する。
本発明の組成物は、神経細胞の活性化が必要な疾患、状態、又は予備的状態を有する患者のための使用に適している。そのような患者の例としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ポリグルタミン病(ハンチントン病、脊髄小脳変性症等)、プリオン病(ウシ海綿状脳症、クロイツフェルト・ヤコブ病等)等の神経変性疾患、及びうつ病等の処置が必要な患者が挙げられる。
【0030】
本発明の組成物は、腸管上皮細胞における神経細胞を活性化する物質の生成促進に有効な量で神経細胞活性化剤を含有していることが好ましい。神経細胞を活性化する物質の生成促進に有効な量とは、例えば、NGF及び/又はBDNFの生成促進を指標にして決定することができる。NGF及び/又はBDNFの生成促進に有効な量とは、例えばマウスの体重1 kg当たり例えば1〜5000 mg/kg、好ましくは10〜3000 mg/kg、より好ましくは100〜2000 mg/kg、特に好ましくは200〜1000 mg/kgとなる量である。ヒトへ適用する際は、前記有効量の1/10〜1/100が適切であると考えられる。従って、ヒトの体重1 kg当たり、例えば0.01〜500 mg/kg、好ましくは0.1〜300 mg/kg、より好ましくは1〜200 mg/kg、特に好ましくは20〜100 mg/kgとなる量である。
【0031】
本発明の組成物は、発明の効果に影響しない限り、一般的に使用可能な成分:希釈剤、担体、保存料、着色料、酸化防止剤、防かび剤、調味料、甘味料、膨張剤、凝固剤、香料、酸味料、pH調整剤等を含有していてもよい。
【0032】
本発明の組成物は飲食品に適用することができる。本明細書でいう飲食品とは、ヒトが日常的に食物として摂取するもの、健康の保持増進に資する食品として販売・利用される健康食品、及び動物用の飼料をいう。そのような例として、飲料、菓子類、パン類、スープ類などの各種飲食品又はその添加成分;又はドッグフード、キャットフードなどの各種ペットフード又はその添加成分が挙げられる。これらの飲食品の製造方法は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されず、各用途で当業者によって使用されている方法に従えばよい。
【0033】
さらに、本発明の組成物は医薬品に適用することができる。当該医薬品は、経口投与及び非経口投与のいずれでも投与でき、かつ投与方法に適した形態にすることができる。経口投与に適した形態としては、例えば、錠剤、ロゼンジ、硬質又は軟質カプセル、水性又は油性懸濁液、乳液、分散性粉末又は顆粒、シロップ又はエリキシルが挙げられる。非経口投与に適した形態としては、例えば、吸入に適した形態、通気による投与に適した形態、注射に適した形態、及び局所投与に適した形態などが挙げられる。通気による投与に適した形態として、微細に分割された粉末がある。非経口注射に適した形態として、静脈内、皮下、筋肉内、血管内又は注入投与のための滅菌溶液、懸濁液、又は乳液があげられる。局所投与に適した形態として、クリーム、軟膏、ゲル、或いは水性又は油性溶液若しくは懸濁液があげられる。
【実施例】
【0034】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
[試験例1]プラセンタ抽出物で処理された腸管上皮細胞由来の培養液の回収
(1−1)Caco-2細胞の培養
腸管上皮細胞としてヒト結腸ガン由来Caco-2細胞(American Tissue Culture Collection)を用いた。Caco-2細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS、Life Technologies, Gaithersburg, MD)、1%非必須アミノ酸(Non-essential amino acids:NEAA, Invitrogen, Carlsbad, CA)、4 mM L-グルタミン、100 U/mlペニシリン(明治製菓株式会社)及び0.1 mg/mlストレプトマイシン(明治製菓株式会社)を含有するダルベッコ変法イーグル培地(ダルベッコ改変イーグル培地2(商標)、日水製薬株式会社)(以下、DMEMとする)中、37℃、5% CO2の条件下で培養した。
【0035】
(1−2)プラセンタ抽出物の調製
黒豚由来の凍結プラセンタ(有限会社▲桑▼水流畜産)(1 g)を砕き、PBS中にて5〜10℃で30分間攪拌後、遠心分離(6,500×g、10分、4℃)によって不溶物を除去し、上澄を得た。該上澄をろ過してろ液(20 ml)を得、ろ液のタンパク質濃度をプロテインアッセイ法によって定量したところ、タンパク質濃度は1.182μg/mlであった。該ろ液をプラセンタ抽出物として以降の検討に使用した。
【0036】
(1−3)プラセンタ抽出物で処理されたCaco-2細胞の培養液の回収
Caco-2細胞を5 mlディッシュに70%コンフルエントの状態(3×105 cells)で播種した。培養24時間後、プラセンタ抽出物をタンパク質濃度として1〜1000μg/mlとなるように培養液に添加した。3日後に培養液を回収し、以降の試験に用いた。
【0037】
[試験例2]Coco-2細胞におけるNGF及びBDNFの転写制御
(2−1)全RNA及び相補的DNA(cDNA)の調製
上記(1−3)において培養液を回収した後、プラセンタ抽出物で処理されたCaco-2細胞を回収した。Fast Pure RNA Kit(タカラバイオ株式会社)を使用してキットに附属の使用説明書に記載の方法に従って、該Caco-2細胞から全RNAを抽出した。該抽出物の260 nmでの吸光値に基づいて、該抽出物中のRNA濃度を算出した。
【0038】
(2−2)cDNAの調製
適当な濃度に調整されたRNA含有溶液に、Oligo (dT) 20プライマーを1μl、及びRNase不含滅菌水を加えて総液量14μlの混合液を調製した。該混合液をサーマルサイクラー(PTC-200 Peltier Thermal Cycler, BIO-RAD)にセットし、70℃で5分間アニーリングを行った。アニーリング後、該混合液を直ちに氷上に移して5分間静置し、10 mM dNTPs (Amersham Pharmacia Biotech, Buckinghamsir, UK) 1.25μl、M-MLV Reverse transcriptase 5×Reaction buffer (Promega Corporation, Madison, MI) 5μl、M-MLV Reverse transcriptase RNase H Minus (Promega) 0.5μl、及びRNA不含滅菌水 4.25μlを加えて、総容量を25μlとした。再度、サーマルサイクラー(Thermal Cycler Dice:TaKaRa)にセットし、40℃で10分間;55℃で50分間;70℃で15分間の反応を行うことによりcDNAを合成した。該cDNAを、後に行うreal time PCR(RT-PCR)の鋳型として用いた。
【0039】
(2−3)NGF及びBDNFのmRNA発現の定量
プラセンタ抽出物を添加したCaco-2細胞におけるNGF及びBDNF mRNAの発現をRT-PCR法により評価した。スタンダード用cDNAを1、3、9、27、及び81倍に希釈したものを使用した。反応液の組成は、β−アクチン、NGF、及びBDNFのそれぞれに対するForward及びReverseプライマー(10μM)各1μl、上記(2−2)で調製した鋳型cDNA 2μl、及び滅菌水14μl、2×SYBR Premix Ex Taq(タカラバイオ株式会社)7μlとした(合計25μl)。PCR反応のプログラムは、95℃で5秒;55℃で20秒;72℃で20秒の3段階に設定し、これを45サイクル行った。mRNAの定量は、3連で解析した。NGF、及びBDNFのmRNAの発現量は、β−アクチンの発現量で補正した。β−アクチン(配列番号1, 2)、NGF(配列番号3, 4)、及びBDNF(配列番号5, 6)それぞれに対するプライマーは、タカラバイオ株式会社に委託合成したものを用いた。
【0040】
NGF mRNAの解析結果を図1に示す。Caco-2細胞におけるNGFのmRNAの発現量は、プラセンタ抽出物の添加量に伴って増加し、特に添加量1000μg/mlで著しく増加した(図1)。一方、Caco-2細胞におけるBDNFのmRNAの発現量もプラセンタ抽出物の添加量に伴って増加したが、添加量100μg/ml以上で著しく増加した(図2)。この結果より、プラセンタ抽出物によって、Caco-2細胞におけるNGF及びBDNFの生成が促進されることが示された。
【0041】
[試験例3]Caco-2細胞の培養液で処理した神経細胞(SH-SY5Y細胞)の形態観察
神経細胞としてヒト神経繊維芽細胞腫SH-SY5Y細胞を用いた。SH-SY5Y細胞を2 mlディッシュに30%コンフルエントの状態で播種し、10% FBS、1%非必須アミノ酸、4 mM L-グルタミン、100 U/mlペニシリン、及び0.1 mg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM中、37℃、5% CO2の条件下で培養した。24時間後、上記(1−3)で回収したCaco-2細胞の培養液を500μl添加し、24時間後、48時間後、72時間後の細胞の形態を顕微鏡で観察した。また、該培養液の代わりに、ポジティブコントロールとして10μM(終濃度)レチノイン酸を添加したものも同様に観察した。
【0042】
観察結果を図3及び4に示す。プラセンタ抽出物で処理されたCaco-2細胞の培養液によってSH-SY5Y細胞における樹状突起の形成が促進されることが示された(図4)。
[試験例4]プラセンタ抽出物による神経細胞の直接的活性化
SH-SY5Y細胞を5 mlディッシュに70%コンフルエントの状態で播種し、試験例3の条件に従って培養した。培養24時間後、試験例1で調製したプラセンタ抽出物を、1〜100μg/mlとなるように添加し、24時間後、48時間後、及び72時間後のSH-SY5Y細胞の様子を顕微鏡で観察した。
【0043】
その観察結果を図5に示す。SH-SY5Y細胞においては、樹状突起の伸長は強く促進されなかった。

以上の試験例の結果から、プラセンタ抽出物によって腸管上皮細胞におけるNGF及びBDNFの生成が促進されることが明らかになった。さらに、そのようなNGF及びBDNF等の神経細胞を活性化する物質を含有する培養液によって神経細胞が活性化され、樹状突起の形成が促進されることも明らかとなった。また、プラセンタ抽出物で神経細胞を直接処理しても、神経細胞における樹状突起の形成は促進されなかった。これらのことから、NGF及び/又はBDNFが神経細胞活性化剤を評価するための指標として利用できること、及びプラセンタ抽出物の神経細胞に対する作用は、腸管上皮細胞によるNGF及びBDNF等の神経細胞を活性化する物質の生成促進を経由することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、飲食品製造産業、治療食及び介護食の製造産業、医薬品製造産業、外食、栄養・食餌指導、及び医療等の産業において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のプラセンタ抽出物を含有する神経細胞活性化剤。
【請求項2】
腸管上皮細胞においてNGF及び/又はBDNFの生成を促進させるための、請求項1に記載の神経細胞活性化剤。
【請求項3】
神経細胞において樹状突起の形成を促進させるための、請求項1又は2に記載の神経細胞活性化剤。
【請求項4】
飲食品に添加するための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の神経細胞活性化剤。
【請求項5】
神経変性疾患、うつ病、及び/又はこれらの予備的状態を処置するための飲食品に添加するための、請求項1〜4のいずれか1項に記載の神経細胞活性化剤。
【請求項6】
医薬に添加するための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の神経細胞活性化剤。
【請求項7】
神経変性疾患、うつ病、及び/又はこれらの予備的状態を処置するための医薬に添加するための、請求項1〜3、及び6のいずれか1項に記載の神経細胞活性化剤。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の神経細胞活性化剤を含有する飲食品。
【請求項9】
神経細胞活性化剤の一食当たりの摂取量が、体重1 kg当たり0.01〜500 mg/kgである、請求項8に記載の飲食品。
【請求項10】
請求項1〜3、6、及び7のいずれか1項に記載の神経細胞活性化剤を含有する医薬品。
【請求項11】
神経細胞活性化剤の投与量が、体重1 kg当たり0.01〜500 mg/kgである、請求項10に記載の医薬品。
【請求項12】
請求項1〜11に記載の神経細胞活性化剤、飲食品、又は医薬品を、必要のある対象(動物、ほ乳類、ヒト)へ投与することを含む、神経細胞を活性化する方法(医療行為を除く)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−136448(P2012−136448A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288235(P2010−288235)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(510340148)有限会社▲桑▼水流畜産 (1)
【Fターム(参考)】