説明

移動ステージシステム及び加工トルクの計測方法

【課題】トルクセンサ等の外部センサを用いずに、被加工物に作用する加工トルクを推定できる、移動ステージシステムの提供。
【解決手段】Y方向にそれぞれ移動可能であり且つY方向に直角なX方向に離して配置された2つの可動部71,72を有する駆動部と、可動部71,72に固定されたステージ70と、可動部71,72の位置を検出する検出部75,76と、検出部75,76によって検出された位置をフィードバックし、可動部71,72の位置を指令する指令信号に従って可動部71,72の位置を制御する制御部と、検出部75,76によって検出された可動部71,72個々の位置と該個々の位置に作用する外力成分F,Fとに基づいて、ステージ70上の被加工物に作用する加工トルクを推定する推定部とを備えることを特徴とする、移動ステージシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の可動部に固定されたステージを備える、移動ステージシステムに関する。また、複数の可動部に固定されたステージ上の被加工物に作用する加工トルクを推定する、加工トルクの計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削や研削を行う工作機械のインテリジェント化の観点から、加工プロセスの監視技術に関する研究が注目されている。特に、切削抵抗をモニタリングすることで、加工プロセスの監視を行う技術の開発が重要視されている。従来、切削抵抗をモニタリングする技術として、工作機械テーブルと工作物の間に外部センサを取り付けて加工力を監視する技術や電流計により駆動電流を測定して加工力を推定する技術がある。
【0003】
例えば、力センサを外部センサとして用いることで、高精度に加工力を計測することができる。しかしながら、実際の製品を加工する現場では、外部センサを工作機械に取り付けて加工することは、段取り工程の増加や剛性低下を招くことから使用されることはまれである。また、加工力を高精度に測定するための外部センサは非常に高価で、生産現場の全ての機械にこれを搭載することは、コスト面から難しい場合がある。
【0004】
このような課題を解決可能な従来技術として、例えば特許文献1には、外部センサを用いずに加工力(典型的には、切削力)を高精度に推定する加工力監視システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−271880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来技術では、加工力の推定はできるものの、ドリル等の回転工具によって被加工物に作用する加工トルクを推定することはできなかった。この加工トルクを推定することができれば、例えば、回転工具の磨耗状態などを検知する技術に応用できる。
【0007】
そこで、本発明は、トルクセンサ等の外部センサを用いずに、被加工物に作用する加工トルクを推定できる、移動ステージシステム及び加工トルクの計測方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る移動ステージシステムは、
同一方向にそれぞれ移動可能であり且つ前記同一方向に直角な方向に離して配置された複数の可動部を有する駆動部と、
前記可動部に固定されたステージと、
前記可動部の位置を検出する検出部と、
前記検出部によって検出された位置をフィードバックし、前記可動部の位置を指令する指令信号に従って前記可動部の位置を制御する制御部と、
前記検出部によって検出された前記可動部個々の位置と該個々の位置に作用する外力成分とに基づいて、前記ステージ上の被加工物に作用する加工トルクを推定する推定部とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る加工トルクの計測方法は、
同一方向にそれぞれ移動可能であり且つ前記同一方向に直角な方向に離して配置された複数の可動部の位置を検出する検出ステップと、
前記検出ステップによって検出された位置をフィードバックし、前記可動部の位置を指令する指令信号に従って前記可動部の位置を制御する制御ステップと
前記検出ステップによって検出された前記可動部個々の位置と該個々の位置に作用する外力成分とに基づいて、前記可動部に固定されたステージ上の被加工物に作用する加工トルクを推定する推定ステップとを有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トルクセンサ等の外部センサを用いずに、被加工物に作用する加工トルクを推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態である移動ステージシステムを構成するステージ装置10の概略図である。
【図2】加工力推定オブザーバ6を含む、本発明の一実施形態である移動ステージシステム1の位置制御系のブロック線図である。
【図3】4つのリニアモータを有するXYステージ装置100の斜視図である。
【図4】XYステージ装置100の正面図である。
【図5】XYステージ装置100の平面図である。
【図6】4つの可動子11,21,31,41を可動部として備えるXYステージ装置100を使用した場合のトルク計測の方法を示した図である。
【図7】XYステージ装置100を備えた移動ステージシステム101の位置制御系のブロック線図である。
【図8】位置決め試験の結果である。
【図9】センサによる実測値とオブザーバによる推定値との比較結果である。
【図10】切削トルクの比較結果である。
【図11】小径穴加工における結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態である移動ステージシステムを構成するステージ装置10の概略図である。ステージ装置10は、2つのガイド73,74と、2つの可動部71,72と、ステージ70と、2つの検出部75,76とを備える。ステージ装置10は、ステージ70が一方向(この場合、Y方向)に移動する一軸のテーブル装置である。図1は、XY平面に対して直交するZ方向から見た図である。
【0014】
2つのガイド73,74は、Y方向に平行に固定され、Y方向に直角なX方向に所定の距離だけ離して配置されている。ガイド73は、可動部71をY方向に変位可能にガイドし、ガイド74は、可動部72をY方向に変位可能にガイドする。可動部71は、ガイド73に沿ってY方向に移動する部材であり、可動部72は、ガイド74に沿ってY方向に移動する部材である。ステージ70は、可動部71,72のZ方向の上側の面に固定されることで、可動部71,72のY方向の移動に連動してY方向に移動する。ステージ70は、所定の取り付け部材を介して間接的に可動部71,72に固定されてもよいし、可動部71,72に直接固定されてもよい。回転工具によって加工される被加工物は、Z方向から見たときに可動部71と可動部72との間に位置するように、ステージ70のZ方向の上側の面に配置されて固定される。ステージ70のZ方向の上側の面は、XY平面に対して平行になるように、可動部71,72に固定される。検出部75は、可動部71のY方向の位置を検出し、その検出した位置に応じた検出信号を出力する。検出部76は、可動部72のY方向の位置を検出し、その検出した位置に応じた検出信号を出力する。検出部75,76の好適な具体例として、リニアエンコーダが挙げられるが、他の位置検出手段でもよい。
【0015】
可動部71,72個々の位置は、不図示の制御部によって制御される。この制御部は、検出部75,76によって検出された可動部71,72個々の位置をフィードバックし、可動部71,72個々の位置を指令する指令信号に従って、可動部71,72個々の位置をフィードバック制御する。これにより、ステージ70がY方向に位置制御される。
【0016】
次に、本発明に係る加工トルクの計測方法の原理について説明する。ステージ70の位置は、指令信号で指令された位置に一致するように、上述の制御部によってフィードバック制御されている。そのため、ステージ70に何らかの外乱トルクTがトルク作用点Pを中心に作用すると、外乱トルクTに抗う力F1,F2が、制御部により位置制御される可動部71,72によってステージ70に作用する。この互いに逆向きの力F1,F2によって、外乱トルクTに対して逆向きのトルクT^がステージ70に作用する。このトルクT^は、ステージ70に固定された被加工物に作用する加工トルクに等価なトルクとみなすことができるため、トルクT^の計測値(算出値)を、ステージ70に固定された被加工物に作用する加工トルクとして推定できる。
【0017】
トルクT^は、可動部の個数をn(nは2以上の整数)、各可動部の現在位置に作用する外力成分をF,各可動部とトルク作用点Pとの距離をrとすると、式(1)で表すことができる。
【0018】
【数1】

なお、上記の説明は、回転工具によって加工される被加工物が、Z方向から見たときに可動部71と可動部72との間に位置するようにしたが、被加工物は可動部71と可動部72の間に無くてもよい。このような場合、ステージ70に作用する外乱トルクTとT^は必ずしも逆向きにはならない可能性もあるが、T^の計算には影響しない。
【0019】
一方で、被加工物に作用する加工力は、各可動部の現在位置に作用する外力成分Fの和で表すことができる。被加工物に作用する加工力及び加工トルクは、コンピュータ等の制御部の制御サンプリング間隔で、同時に推定することができる。
【0020】
ここで、工作機械は、一般に、回転工具の位置を動かさずにステージ上の被加工物を加工するため、回転工具の位置(すなわち、トルク作用点Pの位置)は工作機械側で既知である。したがって、工作機械に備えられた演算部は、予めメモリに記憶されたトルク作用点Pの位置と検出部によって検出された各可動部の現在位置とを用いて、距離rを容易に演算できる。もちろん、トルクT^を算出するたびに、所定の位置検出手段によって検出されたトルク作用点Pの位置を距離rの演算に使用してもよい。
【0021】
一方、外力成分Fは、歪みセンサなどのセンサを用いて検出してもよいが、加工力推定オブザーバで推定してもよい。
【0022】
図2は、加工力推定オブザーバ6を含む、本発明の一実施形態である移動ステージシステム1の位置制御系のブロック線図である。例えば、比例微分コントローラ2、信号変換器3、外乱オブザーバ5及び加工力推定オブザーバ6が、各可動部の位置を制御する上述の制御部に相当し、具体的にはコンピュータによって実現されるとよい。iは、可動部毎の変数であることを示す。
【0023】
図2に示されるように、図示しない入力手段から、ステージの位置(すなわち、各可動部の位置)を指令する指令信号xcmdが比例微分コントローラ2に入力される。比例微分コントローラ2は、指令信号xcmdを2階微分することによって、加速度信号arefを出力する。加速度信号arefは、信号変換器3によって、各可動部を変位させるモータ4を駆動するための参照電流信号Irefに変換される。
【0024】
モータ4によって各可動部を変位させるための参照電流信号Irefと外乱オブザーバ5から出力された補償電流信号Icmpは加算器によって加算され、参照電流信号Irefと補償電流信号Icmpとの加算電流信号がモータ4に入力される。
【0025】
外乱オブザーバ5は、モータ4に入力される信号とモータ4から出力される信号に基づいて、モータ4に入力される外乱負荷Floadを推定し、外乱負荷Floadの推定値F^disに応じた補償電流信号Icmpを生成する。例えば、モータ4に入力される信号は、各可動部を変位させるための電流信号であり、モータ4から出力される信号は、位置検出部によって検出される各可動部の応答位置を表す検出信号xresである。また、外乱負荷Floadは、例えば、ステージ上の被加工物に作用する加工力とステージに作用する摩擦力によって生ずる。外乱オブザーバ5によって、移動ステージシステム1のロバスト性を高めることができる。
【0026】
加工力推定オブザーバ6は、外乱オブザーバ5と同様に、モータ4に入力される信号とモータ4から出力される信号に基づいて推定した外乱負荷Fdisから、予め推定された摩擦力F^fricを減算することで、ステージ上の被加工物に作用する加工力F^proを推定する。例えば、モータ4に入力される信号は、各可動部を変位させるための電流信号であり、モータ4から出力される信号は、位置検出部によって検出される各可動部の応答位置を表す検出信号xresである。なお、摩擦力F^fricは、無負荷の状態でモータ4を駆動したときの外乱負荷Fdisと同じなので、摩擦力F^fricの値は、テーブルや関数等によって予めデータベース化されているとよい。
【0027】
加工トルク算出部7は、位置検出部によって検出される各可動部の応答位置を表す検出信号xresと加工力推定オブザーバ6によって推定された加工力F^proとを用いて、上述の式(1)内の距離r及び外力成分Fを算出し、トルクT^を算出することによって、ステージ上の被加工物に作用する加工トルクを推定する推定部である。加工トルク算出部7は、例えば、コンピュータによって実現されるとよい。
【0028】
次に、可動部が4つある場合を例に挙げて、移動ステージシステムを構成するXYステージ装置の具体例について説明する。
【0029】
図3は、4つのリニアモータを有するXYステージ装置100の斜視図である。図4は、XYステージ装置100の正面図である。図5は、XYステージ装置100の平面図である。
【0030】
XYステージ装置100は、4つのリニアモータ13,23,33,43を有する駆動部と、2つのステージ50,60と、4つのリニアエンコーダ14,24,34,44と、4つのエアガイド17,27,37,47とを備える。XYステージ装置100は、ステージ50が一方向(この場合、Y方向)に移動し、ステージ60がステージ50の移動方向に直角な方向(この場合、X方向)に移動する二軸のテーブル装置である。
【0031】
リニアモータ13は、Y方向を長手方向とする固定子12と、固定子12によってY方向に移動可能にガイドされる可動子11とを有する。リニアモータ23は、Y方向を長手方向とする固定子22と、固定子22によってY方向に移動可能にガイドされる可動子21とを有する。
【0032】
2つの固定子12,22は、Y方向に平行にベース30に固定され、Y方向に直角なX方向に所定の距離だけ離して配置されたシャフトである。固定子12,22の一方の端部が、ベース30の一方のY方向端部に固定された壁部61に固定され、固定子12,22のもう一方の端部が、ベース30のもう一方のY方向端部に固定された壁部62に固定されている。可動子11は、固定子12に沿ってY方向にベース30に対し相対移動し、可動子21は、固定子22に沿ってY方向にベース30に対して相対移動する。
【0033】
エアガイド17,27は、可動子11,21の移動方向にステージ50をガイドするガイド部である。エアガイド17,27によって、可動部11,21と同じ方向に、ステージ50を滑らかに移動させることができる。エアガイド17とエアガイド27との間に、リニアモータ13,23が配置され、エアガイド17とリニアモータ13との間に、リニアエンコーダ14が配置され、エアガイド27とリニアモータ23との間に、リニアエンコーダ24が配置される。
【0034】
エアガイド17は、Y方向を長手方向とする固定体16と、固定体16によってY方向に移動可能にガイドされる可動体15とを有する。エアガイド27は、Y方向を長手方向とする固定体26と、固定体26によってY方向に移動可能にガイドされる可動体25とを有する。
【0035】
2つの固定体16,26は、Y方向に平行にベース30に固定され、Y方向に直角なX方向に所定の距離だけ離して配置されたシャフトである。固定体16,26の一方の端部が、壁部61に固定され、固定体16,26のもう一方の端部が、壁部62に固定されている。可動体15は、固定体16に沿ってY方向に移動し、可動体25は、固定体26に沿ってY方向に移動する。
【0036】
ステージ50は、可動子11,21及び可動体15,25のZ方向の上側の面に固定されることで、可動子11,21及び可動体15,25のY方向の移動に連動してY方向に移動する。ステージ50は、可動子11,21及び可動体15,25に直接固定されている。なお、ステージ50は、所定の取り付け部材を介して間接的に可動子11,21及び可動体15,25に固定されてもよい。
【0037】
リニアエンコーダ14は、可動子11のY方向の位置を検出し、その検出した位置に応じた検出信号を出力する。リニアエンコーダ24は、可動子21のY方向の位置を検出し、その検出した位置に応じた検出信号を出力する。
【0038】
一方、リニアモータ33は、X方向を長手方向とする固定子32と、固定子32によってX方向に移動可能にガイドされる可動子31とを有する。リニアモータ43は、X方向を長手方向とする固定子42と、固定子42によってX方向に移動可能にガイドされる可動子41とを有する。
【0039】
2つの固定子32,42は、X方向に平行にステージ50に固定され、Y方向に所定の距離だけ離して配置されたシャフトである。固定子32,42の一方の端部が、ステージ50の一方のX方向端部に固定された壁部51に固定され、固定子32,42のもう一方の端部が、ステージ50のもう一方のX方向端部に固定された壁部52に固定されている。可動子31は、固定子32に沿ってX方向にステージ50に対して相対移動し、可動子41は、固定子42に沿ってX方向にステージ50に対して相対移動する。
【0040】
エアガイド37,47は、可動子31,41の移動方向にステージ60をガイドするガイド部である。エアガイド37,47によって、可動部31,41と同じ方向に、ステージ60を滑らかに移動させることができる。エアガイド37とエアガイド47との間に、リニアモータ33,43が配置され、エアガイド37とリニアモータ33との間に、リニアエンコーダ34が配置され、エアガイド47とリニアモータ43との間に、リニアエンコーダ44が配置される。
【0041】
エアガイド37は、X方向を長手方向とする固定体36と、固定体36によってX方向に移動可能にガイドされる可動体35とを有する。エアガイド47は、X方向を長手方向とする固定体46と、固定体46によってX方向に移動可能にガイドされる可動体45とを有する。
【0042】
2つの固定体36,46は、X方向に平行にステージ50に固定され、X方向に直角なY方向に所定の距離だけ離して配置されたシャフトである。固定体36,46の一方の端部が、壁部51に固定され、固定体36,46のもう一方の端部が、壁部52に固定されている。可動体35は、固定体36に沿ってX方向に移動し、可動体35は、固定体46に沿ってX方向に移動する。
【0043】
ステージ60は、可動子31,41及び可動体35,45のZ方向の上側の面に固定されることで、可動子31,41及び可動体35,45のX方向の移動に連動してX方向に移動する。回転工具によって加工される被加工物は、ステージ60のZ方向の上側の面に配置されて固定される。ステージ60は、可動子31,41及び可動体35,45に直接固定されている。なお、ステージ60は、所定の取り付け部材を介して間接的に可動子31,41及び可動体35,45に固定されてもよい。
【0044】
リニアエンコーダ34は、可動子31のX方向の位置を検出し、その検出した位置に応じた検出信号を出力する。リニアエンコーダ44は、可動子41のX方向の位置を検出し、その検出した位置に応じた検出信号を出力する。
【0045】
図6は、4つの可動子11,21,31,41を可動部として備えるXYステージ装置100を使用した場合のトルク計測の方法を示した図である。可動子11,21,31,41の重心位置に作用する外力成分を、それぞれ、F,F,F,Fとする。トルク作用点Pから可動子11,21,31,41の各移動方向の延長線までの距離を、それぞれ、r,r,r,rとする。そうすると、上述の式(1)に従ってトルクT^を算出することによって、ステージ60に固定された被加工物に作用する加工トルクT^を推定できる。
【0046】
図7は、XYステージ装置100を備えた移動ステージシステム101の位置制御系のブロック線図である。移動ステージシステム101は、図2の具体例であり、比例微分コントローラ102と、信号変換器103と、リニアモータ104と、外乱オブザーバ105と、回転工具による切削加工によってステージ上の被加工物に作用する切削力F^cutを推定する加工力推定オブザーバ106と、その被加工物に作用する切削トルクを推定する加工トルク算出部107とを備える。
【0047】
ここで、ラプラス演算子をs,位置比例制御ゲインをKpp,速度比例制御ゲインをKvp,ステージの質量をM,リニアモータの推力定数をK,公称値をn,ステージ上の被加工物に作用する加工力をFcut,ステージに作用する摩擦力をFfric,各可動子の速度応答値をvres,各可動子の位置応答値をxres,擬似微分遮断周波数をgLPF,外乱オブザーバ105の遮断周波数をgdis,加工力推定オブザーバ106の遮断周波数をgcutとする。
【0048】
図7の位置制御系を用いて階段状の指令に対するステージ(可動子)の位置決め試験を行って、移動ステージシステム101の性能を評価した。位置指令を40nm/ステップ,サンプリングタイムを125ms,Kpp=50,Kvp=200,gLPF=gdis=gcut=1000rad/sとした。図8に示されるように、移動ステージシステム101によれば、ステージの位置決め分解能を40nmにすることができた。
【0049】
次に本発明に係る加工力を検証した。数Nの負荷を手で印加した場合において、ステージに実際に取り付けた力センサの値(波形x)と加工力推定オブザーバ106によって算出された各駆動部の加工力F^cutの総和の値(波形y)とを比較した。図9に示すように、加工力が精度よく推定されていることがわかる。
【0050】
次に、本発明に係るトルクの計測方法を実験によって検証した。
【0051】
はじめに、図10に示されるように、数Nmのトルクを手で印加した場合において、ステージに実際に取り付けたトルクセンサの値(波形a)と加工トルク算出部107によって算出されたトルクT^の値(波形b)とを比較した。図9に示されるように、移動ステージシステム101によれば、最大0.2Nmの誤差で切削トルクが推定可能であることが確認できる。
【0052】
続いて、ドリル径3mmの工具でアクリル材の穴加工を行った。トルクセンサの測定値(波形c)と移動ステージシステム101による推定値(波形d)を比較した結果を図11に示す。図11に示されるように、切削トルクを精度良く推定できる。
【0053】
このように、本発明の実施形態によれば、トルクセンサ等の外部センサを用いずに、被加工物に作用する加工トルクを推定できる。加工トルクを監視することで、工具の摩耗を予測することができ、これに基づく工具交換時期管理などが実現する。加工力ならびに加工トルクを監視することで,各種加工(エンドミル加工,ドリル加工など)におけるびびり振動などの異常加工状態を検知することが可能になる。これに基づく回避手法を提案することで、生産現場における安心安全性を高めることができる。従来、モータスピンドルが組み込まれた加工機では、スピンドルの電流負荷を計測することで、間接的に加工トルクを計測する技術があるが、エアタービンスピンドルの場合には適用することが難しい。本発明の実施形態は、ステージ側で加工トルクを計測できることからエアタービンスピンドルの場合でもトルク計測を実現できる。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0055】
例えば、上述の実施例では、切削加工を例に挙げたが、本発明は、被加工物に加工トルクが作用する加工であれば、研削加工や研磨加工にも適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 移動ステージシステム
10 ステージ装置
11,21,31,41 可動子
12,22,32,42 固定子
13,23,33,43 リニアモータ
14,24,34,44 リニアエンコーダ
15,25,35,45 可動体
16,26,36,46 固定体
17,27,37,47 エアガイド
30 ベース
51,52,61,62 壁部
50,60,70 ステージ
71,72 可動部
73,74 ガイド
75,76 検出部
100 XYステージ装置
101 移動ステージシステム
102 比例微分コントローラ
103 信号変換器
104 リニアモータ
105 外乱オブザーバ
106 加工力推定オブザーバ
107 加工トルク算出部
Fi 外力成分
P トルク作用点
外乱トルク
T^ 加工トルクの推定値


【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一方向にそれぞれ移動可能であり且つ前記同一方向に直角な方向に離して配置された複数の可動部を有する駆動部と、
前記可動部に固定されたステージと、
前記可動部の位置を検出する検出部と、
前記検出部によって検出された位置をフィードバックし、前記可動部の位置を指令する指令信号に従って前記可動部の位置を制御する制御部と、
前記検出部によって検出された前記可動部個々の位置と該個々の位置に作用する外力成分とに基づいて、前記ステージ上の被加工物に作用する加工トルクを推定する推定部とを備える、移動ステージシステム。
【請求項2】
前記可動部の移動方向に前記ステージをガイドするガイド部を備える、請求項1に記載の移動ステージシステム。
【請求項3】
前記外力成分は、オブザーバによって推定される、請求項1又は2に記載の移動ステージシステム。
【請求項4】
前記可動部は、
第1の方向にそれぞれ移動可能であり且つ前記第1の方向に直角な第2の方向に離して配置された複数の第1の方向可動部と、
前記第2の方向にそれぞれ移動可能であり且つ前記第1の方向に離して配置された複数の第2の方向可動部とを有し、
前記ステージは、
前記第1の方向可動部に固定された第1の方向ステージと、
前記第2の方向可動部に固定された第2の方向ステージとを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の移動ステージシステム。
【請求項5】
同一方向にそれぞれ移動可能であり且つ前記同一方向に直角な方向に離して配置された複数の可動部の位置を検出する検出ステップと、
前記検出ステップによって検出された位置をフィードバックし、前記可動部の位置を指令する指令信号に従って前記可動部の位置を制御する制御ステップと
前記検出ステップによって検出された前記可動部個々の位置と該個々の位置に作用する外力成分とに基づいて、前記可動部に固定されたステージ上の被加工物に作用する加工トルクを推定する推定ステップとを有する、加工トルクの計測方法。
【請求項6】
同一方向にそれぞれ移動可能であり且つ前記同一方向に直角な方向に離して配置された複数の可動部の位置を検出する検出ステップと、
前記検出ステップによって検出された位置をフィードバックし、前記可動部の位置を指令する指令信号に従って前記可動部の位置を制御する制御ステップと
前記検出ステップによって検出された前記可動部個々の位置と該個々の位置に作用する外力成分とに基づいて、前記可動部に固定されたステージ上の被加工物に作用する加工力及び加工トルクを推定する推定ステップとを有する、加工トルクの計測方法。
【請求項7】
前記外力成分は、オブザーバによって推定される、請求項5又は6に記載の加工トルクの計測方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−61243(P2013−61243A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199854(P2011−199854)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月14日 公益社団法人精密工学会発行の「2011年度 精密工学会春季大会 第18回学生会員卒業研究発表講演会 講演論文集(CD−ROM)」に発表
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)