説明

移動ロボットの安全装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、移動ロボットを所定の作業位置へ移動させその作業位置に停止させながら、ロボットアームによる作業を行なわせるようにしたシステムに用いられる移動ロボットに組込まれる安全装置に関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】近年、例えば自動車用部品の組立製造ライン等においては、無人搬送台車にロボットアームを搭載して構成される複数台の移動ロボットを、ラインに設けられた複数の設備の前の作業位置間を移動させながら作業を行なわせるようにしたシステムが採用されてきている。このようなシステムでは、例えば移動ロボットと作業者とが安全柵なしで共存して作業を行なう場合等の安全性を確保するために、移動ロボットに安全装置を設けることが行なわれており、例えば本出願人の先の出願に係る特願平9−300252号公報に示されたものが知られている。
【0003】このものは、図8に示すように、移動ロボット1の搬送台車2の前後に各1個、左右に各2個の赤外線センサ等の障害物センサ3を設け、例えば移動ロボット1が設備4の前の作業位置で停止し、ロボットアーム5により作業を行なっているときに、それら障害物センサ3の検知エリアA内に作業者や他の移動ロボットが侵入すると、ロボットアーム5を停止させるようになっている。尚、この作業時には、設備4側にロボットアーム5を伸ばしてワークを受取る等の必要があるため、予めプログラムにより、設備4側を向く障害物センサ3はオフされるようになっている。
【0004】ところで、上記した安全装置にあっては、障害物センサ3の検知エリアAをある程度の範囲で確保する必要があり、作業中の移動ロボット1に他の移動ロボットが近付いた場合でも、その検知エリアAに侵入することによってロボットアーム5の作業が停止されてしまうことになる。このため、安全性に問題がない場合でも、移動ロボット1同士をある程度の間隔(例えば500mm以上)離しておかなければならず、言い換えれば、複数の作業位置(設備4)をある程度の間隔を離して配置する必要があり、ひいては、ライン全体の省スペース化を十分に図り得ないものとなっていた。
【0005】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、人に対する安全性を確保しながらも、作業位置の間隔を狭めることを可能とする移動ロボットの安全装置を提供するにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の請求項1の移動ロボットの安全装置は、移動ロボットの周囲多方向に検知エリアが設定される障害物センサを設け、その障害物センサの検知に基づきアーム制御手段によってロボットアームの安全確保動作を実行させるようにしたものにあって、障害物センサにより検知された障害物が自分の作業位置に近接する作業位置にて作業を行なう他の移動ロボット等の作業機械であるかどうかを判断する判断手段を設けると共に、この判断手段により他の作業機械の近接作業が判断されたときには近接作業する他の作業機械側に検知エリアを有する障害物センサの無効化あるいはその検知エリアの縮小を行なうセンサ制御手段を設けさらに、前記他の作業機械との間での信号の送受信が可能な通信手段を設けて、該他の作業機械の近接作業中において、障害物センサにより障害物が検知されたときに障害物侵入信号を送信するように構成すると共に、近接作業中の他の作業機械から障害物侵入信号を受信したときにも、アーム制御手段による安全確保動作が実行されるようにした構成に特徴を有するものである。
【0007】これによれば、移動ロボットの周囲に障害物が近付いたときには、障害物センサの検知に基づきロボットアームの安全確保動作が実行される。これにより、作業者が共存作業するような場合の人に対する安全性を確保することができる。このとき、障害物センサの検知エリアに障害物が侵入したときには、その障害物が近接作業を行なう他の作業機械かどうかが、判断手段により判断される。そして、障害物が近接作業する他の作業機械であるときには、センサ制御手段により、他の作業機械側に検知エリアを有する障害物センサが無効化あるいはその検知エリアが縮小される。
【0008】従って、自分の作業位置に近接する作業位置に他の作業機械が近接作業を行なうときには、相互間の検知エリアがなくなるあるいは縮小されるので、移動ロボット同士が接近状態にあっても、相互に検知エリアに侵入し合うことがなくなり、ロボットアームによる作業を互いに阻害されることなく行なうことが可能となる。この結果、人に対する安全性を確保しながらも、作業位置の間隔を狭めること可能となるさらに、他の作業機械の近接作業中においては、障害物センサにより障害物が検知されたときに、自らの安全確保動作が実行されることに加え通信手段により他の作業機械に障害物侵入信号を送信し、また他の作業機械から障害物侵入信号を受信したときにも、安全確保動作が実行されるので、近接作業を行なっている複数台の移動ロボット(作業機械)がひとつのいわば移動ロボット群と見なされ、その移動ロボット群の周囲に設定される検知エリアのどこかに障害物が侵入したときに、その移動ロボット群の全ての移動ロボットにおいて安全確保動作が実行されるようになり、安全性をより一層高めることができる。
【0009】本発明の請求項6の移動ロボットの安全装置は、移動ロボットの周囲多方向に設定された複数の検知エリア内への障害物の侵入を夫々検知する複数個の障害物センサと、これら障害物センサを個々に無効化あるいはその検知エリアの縮小を行なうことが可能なセンサ制御手段と、いずれかの障害物センサにより障害物が検知されているときにロボットアームの安全確保動作を実行させるアーム制御手段と、障害物センサにより検知された障害物が、自分の作業位置に近接する作業位置にて作業を行なう他の移動ロボットであるかどうかを判断する判断手段とを具備すると共に、判断手段により他の移動ロボットの近接作業が判断されたときに、センサ制御手段が、近接作業する他の移動ロボット側に検知エリアを有する障害物センサのみを無効化あるいはその検知エリアを縮小することにより、近接作業する2台の移動ロボットがひとつの群とみなされ、その群の周囲に検知エリアが設定されるように構成されているところに特徴を有する。
【0010】
【0011】上記した請求項1、6の移動ロボットの安全装置にあって、障害物センサにより検知された障害物が他の作業機械(移動ロボット)であるかどうかを判断するためのより具体的な構成として、他の作業機械(移動ロボット)との間での信号の送受信が可能な通信手段を設け、障害物センサにより障害物が検知されたときに障害物検知信号を送信するように構成すると共に、判断手段を、他の作業機械(移動ロボット)からの障害物検知信号を受信したときに近接作業であると判断するように構成することができる(請求項2、7の発明)。
【0012】これによれば、自分の作業位置に近接する作業位置に他の作業機械(移動ロボット)が近接作業を行なうときには、一旦ロボットアームの安全確保動作が実行されると共に、障害物検知信号の送信が行なわれるが、このとき、他の作業機械からの障害物検知信号を受信することにより、いわば近接作業を通信によって相互に確認し合うことができ、これに基づいて確実に他の作業機械(移動ロボット)側の障害物センサの無効化あるいは検知エリアの縮小が行なわれて、ロボットアームによる作業が開始(再開)されることになる。
【0013】またこのとき、前記障害物検知信号に自分の作業位置を示す信号を含ませると共に、判断手段を、その障害物検知信号の作業位置信号が、自分の作業位置に近接する作業位置を示すものであったときに、近接作業を判断するように構成すれば(請求項3、8の発明)、例えば離れた作業位置にいる他の作業機械(移動ロボット)から障害物検知信号を偶然に受信した場合等における誤判断を未然に防止することができ、より一層確実に近接作業を相互に確認し合うことができるようになる。
【0014】また、このとき、障害物センサの検知エリアを、他の作業機械(移動ロボット)の近接作業中において、該他の作業機械(移動ロボット)の障害物センサの検知エリアと一部がオーバーラップするように構成することができ(請求項4、9の発明)、これにより、近接作業を行なっている複数台の移動ロボット(作業機械)からなる移動ロボット群の周囲に、検知エリアの間隙が生ずることを防止でき、安全性を高めることができる。
【0015】さらに、他の作業機械(移動ロボット)との間での信号の送受信が可能な通信手段を備えるものにあっては、近接作業中の他の作業機械(移動ロボット)から離脱する際に離脱信号を送信するように構成すると共に、センサ制御手段を、近接作業中の他の作業機械(移動ロボット)からの離脱時及び他の作業機械(移動ロボット)から離脱信号を受信したときに、障害物センサの検知エリアを元の状態に戻すように構成することもできる(請求項5、10の発明)。これによれば、近接作業の状態が解消されたときに、速やかに障害物センサの検知エリアを元に戻すことができ、安全性を確保することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施例について、図1ないし図7を参照しながら説明する。尚、この実施例では、2台の移動ロボットが近接作業を行なう場合を具体例としている。図3及び図4は、本実施例に係る移動ロボット11の構成を概略的に示しており、この移動ロボット11は、無人搬送台車(AGV)12上に、ロボットアーム13を搭載して構成されている。
【0017】前記無人搬送台車12(以下単に「搬送台車12」と略称する)は、上面を作業台としたほぼ矩形箱状の本体の底部に、走行用の車輪14を有して構成されている。この車輪14は、図示しない駆動モータ、ステアリングモータ、電源となるバッテリ等と共に移動機構を構成し、この移動機構は、図3に示す走行用コントローラ15により制御されるようになっている。
【0018】一方、前記ロボットアーム13(以下単に「アーム13」と略称する)は、例えば多関節形ロボットからなり、その先端に設けられたハンド16により、図示しないワークを把持して、該ワークの積み降ろし等の作業を行なうようになっている。このアーム13(及びハンド16)は、図3に示すアーム用コントローラ17により制御されるようになっている。
【0019】ここで、前記移動ロボット11が稼働される組立製造ラインは、図5,図7に一部のみ示すように、移動ロボット11が移動する走行路に沿って複数の設備18,19(2つのみ図示)を備えて構成されており、各設備18,19の前部が夫々移動ロボット11の作業位置a,bとされている。この場合、設備18,19(作業位置a,b)は近接して配置されている。
【0020】また、前記各設備18,19の側部には、安全確保が必要な領域に位置して、作業者が侵入した(足で踏んだ)ことを検知するマットスイッチ(安全マット)20が設けられている(便宜上斜線を付して示す)。詳しい説明は省略するが、このマットスイッチ20がオンすると、前記各設備18,19から後述する通信機能を利用して移動ロボット11に対して人侵入信号が送信されるようになっている。
【0021】そして、図示はしないが、前記走行路には、例えばガイドテープからなる誘導ラインが敷設され、さらに、各作業位置a,bを示すノードマークが設けられている。前記移動ロボット11(走行用コントローラ15)は、誘導ラインに沿って移動し、ノードマークの検出に基づいて所定の作業位置に停止するようになっている。尚、複数台この場合2台の移動ロボット11を区別する必要があるときには、以下、符号11の後に(A),(B)を付して区別することとする。
【0022】さて、前記搬送台車12の側壁部には、前記アーム13の周囲の障害物(人や他の移動ロボット11等)を検知するための障害物センサ21が設けられる。この障害物センサ21は、非接触形の物体検知センサ例えば赤外線センサからなり、図4等に示すように、搬送台車12の進行方向(図4で左右方向)前後に各1個、左右に各2個の合計6個が設けられている。
【0023】これら障害物センサ21は、斜め上方を指向して設けられ、図4に示すように、移動ロボット11の周囲に前記アーム13の動作領域の高さに対応する検知エリアAを設定し、その検知エリアA内に侵入した障害物を検知するようになっている。全ての障害物センサ21がオンされた状態では、検知エリアAが移動ロボット11の周囲全体をカバーするようになっている。
【0024】さらに、前記搬送台車12には、上面の前後部に位置して通信手段たる通信機22が設けられている。この通信機22は、他の移動ロボット11との間で、例えば光(赤外線)よる信号の送受信を行なうことが可能とされ、後述するように、障害物検知信号や、作業位置信号、障害物侵入信号、離脱信号などの信号のやり取りを行なうようになっている。尚、この通信機22は、前記マットスイッチ20の検知に基づく前記設備18,19からの人侵入信号も受信するようになっている。
【0025】これに対し、図3に示すように、前記搬送台車12内には、各機構を制御するための制御装置23が設けられている。この制御装置23は、マイコン等からなる演算処理部24と、入出力ポート部25とを備えて構成されている。この制御装置23は、作業内容(どの設備(作業位置)でどのような作業を行なうか)を示す作業プログラムに基づいて、前記走行用コントローラ15及びアーム用コントローラ17に制御信号を与え、もって複数の作業位置間を移動させ各作業位置に停止させながら、前記アーム13による作業を行なわせるようになっている。この場合、制御装置23には、各設備(作業位置)の位置を示す地図データ等の必要なデータが記憶され、どの作業位置が近接作業位置となっているかが判るようになっている。
【0026】また、この制御装置23は、前記各障害物センサ21の有効及び無効(電源のオン,オフ)を個々に制御するようになっていると共に、有効とされた障害物センサ21からの検知信号が入力されるようになっている。この場合、図5に示すように、移動ロボット11が設備の前に停止して作業を行なう際には、設備18,19側を向く障害物センサ21に関しては無効化(電源オフ)されるようになっている。さらには、この制御装置23は、後述するように、前記通信機22による信号の送信を制御すると共に、通信機22の受信信号が入力されるようになっている。
【0027】このとき、後の作用説明でも述べるように、制御装置23は、そのソフトウエア構成により、障害物センサ21の検知に基づいて以下のような制御を行なうようになっている。即ち、移動ロボット11が所定の作業位置に停止してアーム13による作業を行なっている通常作業モードにおいては、設備18,19側を除く4個の障害物センサ21がオン(有効化)され、そのうちいずれかが検知エリアA内への障害物の侵入を検知したときに、アーム13に安全確保動作を行なわせるこの場合一時停止させるようになっている。検知エリアAから障害物がいなくなれば、作業を再開させる。
【0028】また、これと共に、制御装置23は、障害物センサ21が検知エリアA内への障害物の侵入を検知したときに、その障害物が、自分の作業位置に近接する作業位置にて作業を行なう他の移動ロボット11であるかどうかを判断する。より具体的には、障害物センサ21により障害物が検知されたときには、制御装置23は、前記通信機22により、障害物を検知した旨の障害物検知信号を、自分の作業位置を示す作業位置信号と併せて送信するようになっており、これと共に、他の移動ロボット11からの障害物検知信号を受信し、その作業位置信号が近接する作業位置を示すものであるときに、他の移動ロボット11の近接作業であると判断するのである。
【0029】そして、他の移動ロボット11の近接作業と判断されたときには、障害物センサ21に基づく制御モードが、通常作業モードから近接作業モードに変更され、近接作業する他の移動ロボット11側(近接する作業位置側)の障害物センサ21をこの場合無効化(電源オフ)するようになっている。従って、この制御装置23が、アーム制御手段、判断手段、センサ制御手段として機能するのである。尚、このとき、図7にハッチングを付し且つ符号Bで示したように、他の移動ロボット11の近接作業中においては、移動ロボット11の障害物センサ21の検知エリアAは、該他の移動ロボット11の障害物センサ21の検知エリアAと一部がオーバーラップするように構成されている。
【0030】前記近接作業モードにおいては、制御装置23は、3個の障害物センサ21のうちいずれかの検知エリアA内への障害物の侵入を検知したときに、アーム13を一時停止させるようになっていると共に、近接作業を行なう他の移動ロボット11に対し、障害物侵入信号を送信するようになっている。また、近接作業を行なっている他の移動ロボット1からの障害物侵入信号を受信した際にも、アーム13を一時停止させるようになっている。
【0031】さらには、この近接作業に係る作業が終了し、移動を行なう際には、制御装置23は、離脱信号を送信すると共に、障害物センサ21の検知エリアAを通常作業モードの状態に戻すようになっている。尚、図示及び詳しい説明を省略するが、この移動ロボット11(搬送台車12)には、移動時における移動方向前方の障害物を検知するための走行用障害物センサも設けられており、前記制御装置23は、移動ロボット11の移動時において、その走行用障害物センサが障害物を検知したときに、走行を一時停止させるように構成されている。
【0032】次に、上記構成の作用について、図1及び図2、並びに図5ないし図7も参照して述べる。ここでは、図5ないし図7に示すように、近接する作業位置a,b(設備18,19)において、移動ロボット11(A)に対して他の作業機械たる移動ロボット11(B)が近接作業を行なう場合を具体例としてあげながら説明する。図1及び図2のフローチャートは、移動ロボット11が設備にて作業を行なう際の、制御装置23が実行する障害物検知に関連する部分の制御手順を示しており、このうち、図1のフローチャートは、通常作業モードにおける制御手順を示している。
【0033】即ち、作業位置に停止してアーム13による作業を行なうにあたり、まず設備側を除く4個の障害物センサ21の電源がオンされる(ステップS1)。その後は、障害物センサ21の信号が常に監視され(ステップS2)、障害物の侵入の検知がないことを条件に(ステップS2にてNo)、アーム13による作業が実行されるのである(ステップS3)。図5の例では、作業位置a(設備18)に移動ロボット11(A)が停止された状態では、移動ロボット11(A)の周囲に設備18側を除いて検知エリアAが設定され、検知エリアA内に障害物の侵入がない限り、アーム13による作業(設備18との間でのワークの積み降ろし等)が実行されるのである。
【0034】そして、検知エリアA内への障害物の侵入が検知されると(ステップS2にてYes)、アーム13が停止される安全確保動作が実行される(ステップS4)。引続き、通信機22により、障害物検知信号を自分の作業位置を示す作業位置信号と併せて送信する(ステップS5)。さらに、他の移動ロボット11から障害物検知信号の受信がないかどうかが判断され(ステップS6)、受信があった場合には(ステップS6にてYes)、次いで受信した作業位置信号が示す作業位置が、自分の作業位置に近接するものであるかが判断されるようになっている(ステップS7)。
【0035】障害物検知信号の受信がない場合(ステップS6にてNo)、あるいは作業位置信号が近接するものでない場合(ステップS7にてNo)には、検知された障害物が近接作業を行なう他の移動ロボット11ではない(例えば人など)であると判断され、ステップS2に戻る。これに対し、他の移動ロボット11の近接作業であると判断されたときには(ステップS7にてYes)、近接作業モードに切替えられるのである(ステップS8)。
【0036】図5の例では、今、移動ロボット11(A)が作業を行なっている際に、例えば作業者が検知エリアA内に侵入すると、アーム13の作業が一時停止され、安全性が確保されるのである。尚、詳しい説明は省略するが、作業者が、マットスイッチ20上に侵入した場合にも、アーム13の作業が一時停止されるようになっている。
【0037】ここで、図5に示すように移動ロボット11(A)が作業位置a(設備18)にて作業を行なっているときに、他の移動ロボット11(B)が、図で左方から移動してきて、それとは近接した作業位置b(設備19)に停止しそこで作業(近接作業)を行なう場合を考える。図6に示すように、他の移動ロボット11(B)が作業位置b(設備19)に停止すると、移動ロボット11(A)の検知エリアA内に侵入することになる。これと同時に、移動ロボット11(B)の検知エリアA内に移動ロボット11(A)が侵入することになり、互いに検知エリアA内に侵入し合うことになる。
【0038】すると、移動ロボット11(A)においては、アーム13の作業が一時停止されると共に、障害物検知信号が作業位置信号(作業位置a)と共に送信され(ステップS5)、その信号を移動ロボット11(B)が受信するようになる。また、移動ロボット11(B)においても、同様に障害物検知信号が作業位置信号(作業位置b)と共に送信され、移動ロボット11(A)はその信号を受信することになる(ステップS6)。
【0039】そして、移動ロボット11(A)は、受信した作業位置信号が、自分の作業位置aに近接する作業位置bを示すものであるため、近接作業と判断するのである(ステップS7)。また、移動ロボット11(B)側においても、同様に受信した作業位置信号が、自分の作業位置bに近接する作業位置aを示すものであるため、近接作業と判断する。これにて、近接作業を行なう移動ロボット11(A),(B)は共に、いわば近接作業を相互に確認し合うことができ、接近作業モードに切替えられるのである(ステップS8)。
【0040】図2のフローチャートは、近接作業モードにおける制御手順を示している。即ち、この接近作業モードが開始されると、まず、有効となる障害物センサ21の変更、つまり近接作業する他の移動ロボット11側を向く障害物センサ21の無効化がなされる(ステップS11)。図7の具体例では、移動ロボット11(A)にあっては、図で左側の障害物センサ21が無効化(電源オフ)され、移動ロボット11(B)にあっては、図で右側の障害物センサ21が無効化されることになる。
【0041】これにて、移動ロボット11(A),(B)間で互いに干渉していた部分の検知エリアAがなくなることになり、移動ロボット11(A),(B)が接近状態にあっても、相互に検知エリアAに侵入し合うことがなくなり、アーム13による作業を互いに阻害されることなく行なうことが可能となるのである。また、この状態では、近接作業を行なっている2台の移動ロボット11(A),(B)がひとつのいわば移動ロボット群と見なされ、その移動ロボット群の周囲に検知エリアAが設定されるようになり、このとき、移動ロボット11(A)の検知エリアAと,移動ロボット11(B)の検知エリアAとが、一部のオーバーラップ部Bを介して隙間なくつながる状態とされるようになっている。
【0042】この接近作業モードでは、常に、近接作業中の他の移動ロボット11からの離脱信号(後述する)の受信がないかどうかが監視され(ステップS12)、また、障害物センサ21の信号が常に監視され(ステップS13)、更には、近接作業中の他の移動ロボット11からの障害物侵入信号の受信がないかどうかが常に監視される(ステップS14)。離脱信号の受信がなく(ステップS12にてNo)、且つ、障害物の検知がなく(ステップS13にてNo)、且つ、障害物侵入信号の受信がない(ステップS14にてNo)ことを条件に、アーム13による作業が実行されるのである(ステップS15)。
【0043】これに対し、障害物センサ21により検知エリアA内への障害物の侵入が検知されると(ステップS13にてYes)、通信機22により、近接作業中の他の移動ロボット11に対して、障害物侵入信号が送信される(ステップS16)と共に、アーム13が一時停止されるのである(ステップS17)。また、近接作業中の他の移動ロボット11からの障害物侵入信号を受信したときにも(ステップS14にてYes)、アーム13が一時停止される(ステップS17)。障害物が検知エリアAから離れれば、アーム13による作業が続行される。
【0044】ここで、図7の具体例において、今、図に矢印Cで示すように、移動ロボット11(A)の検知エリアAに作業者が侵入した場合を考えると、移動ロボット11(A)は、障害物センサ21の検知に基づいて、移動ロボット11(B)に対して障害物侵入信号を送信すると共に、自らのアーム13を停止させる。また、移動ロボット11(B)側においては、障害物侵入信号を受信することに基づいてやはりアーム13を停止させる。
【0045】これにて、近接作業を行なっている2台の移動ロボット11(A),(B)の周囲に隙間なく設定される検知エリアAのうちのどこに障害物が侵入しても、2台の移動ロボット11(A),(B)は共にアーム13を停止させる安全確保動作を実行するのである。これにより、例えば移動ロボット11(A)の検知エリアAである矢印Cの位置に侵入した作業者が、移動ロボット11(B)のアーム13の動作範囲に手が届いてしまう場合があるということに伴う不具合が解消され、安全性をより一層高めることができるのである。
【0046】また、このフローチャートには示されていないが、移動ロボット11は、近接作業に係る作業が終了し、近接する他の移動ロボット11から離れる方向に移動する際には、近接する他の移動ロボット11に離脱信号を送信すると共に、自らの障害物センサ21の検知エリアAを通常作業モードの状態に戻すようになっている。そして、移動ロボット11は、近接する他の移動ロボット11から離脱信号を受信した際にも(ステップS12にてYes)、障害物センサ21の検知エリアAを通常作業モードの状態に戻し(ステップS18)、通常作業モードに移行するようになっている。
【0047】従って、図7の例で、例えば移動ロボット11(B)が作業が終了し左方へ移動する際には、自らの障害物センサ21の検知エリアAを通常作業モードの状態に戻す(図6参照)と共に、移動ロボット11(A)に対し、離脱信号を送信する。移動ロボット11(A)側では、離脱信号を受信することに基づいて、障害物センサ21の検知エリアAを通常作業モードの状態に戻し(図5,図6参照)、上述の通常作業モードに戻されるのである。
【0048】このように本実施例によれば、障害物センサ21により検知された障害物が近接作業を行なう他の移動ロボット11かどうかを判断し、近接作業する他の移動ロボット11であるときには他の移動ロボット11側の障害物センサ21を無効化して、アーム13による作業を互いに阻害されることなく行なうことを可能としたので、作業者が共存作業するような場合の人に対する安全性を確保しながらも、移動ロボット11同士間の間隔、つまり作業位置a,bの間隔を狭めることを可能とすることができる。
【0049】この結果、ライン全体の省スペース化を十分に図ることができ、ひいては、このラインの省スペース化により、移動ロボット11の移動距離つまり移動時間の短縮化を図ることができ、作業の効率化にもつながるのである。ちなみに、従来では、移動ロボット1同士の間隔が500mm以上必要であったものが、この実施例では、移動ロボット11同士の間隔を30mmまで接近させることができ、28%ものライン全体の省スペース化を図ることができたのである。
【0050】そして、特に本実施例では、移動ロボット11に通信機22を設け通信によって相互に近接作業を確認し合う構成としたので、近接作業の判断をより確実に行なうことができる。また、近接作業を行なっている2台の移動ロボット11をいわば1つの移動ロボット群と見なし、その移動ロボット群の周囲に設定される検知エリアAのどこかに障害物が侵入したときに、その2台の移動ロボット11のアーム13を共に停止させるようにしたので、安全性をより一層高めることができる。さらには、近接作業の状態が解消されたときに、速やかに障害物センサ21の検知エリアAを元に戻すことができ、安全性を確保することができるものである。
【0051】尚、上記実施例では、2台の移動ロボットの近接作業を具体例としたあげたが、3台以上の移動ロボットが近接作業を行なう場合にも本発明を適用することができる。また、移動ロボット同士の近接作業に限らず、移動ロボットと他の作業機械例えばAGVや固定ロボットとの間の近接作業にも本発明を適用することができる。また、上記実施例では、近接作業時に、相手側に位置する障害物センサ21を無効化するようにしたが、検知エリアを縮小するようにしても良い。
【0052】その他、障害物センサとしては、赤外線センサに限らず、超音波センサなどを採用しても良く、接触式のセンサを用いても良い。また、通信機としても、赤外線(光)通信機に限らず、特定省電力無線機等を用いても良い。さらには、ロボットアームの安全確保動作としても、停止することに限らず、動作速度を低速としたり、所定の退避位置に移動させたりしても良いなど、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すもので、通常作業モードにおける制御手順を示すフローチャート
【図2】近接作業モードにおける制御手順を示すフローチャート
【図3】移動ロボットの全体構成を概略的に示す図
【図4】障害物センサの検知エリアを示す正面図(a)及び平面図(b)
【図5】1台の移動ロボットの作業時の様子を示す平面図
【図6】移動ロボットに他の移動ロボットが近接した様子を示す正面図
【図7】2台の移動ロボットの近接作業モードにおける様子を示す平面図
【図8】従来例を示す図5相当図
【符号の説明】
図面中、11は移動ロボット、12は無人搬送台車、13はロボットアーム、18,19は設備、21は障害物センサ、22は通信機(通信手段)、23は制御装置(アーム制御手段,判断手段,センサ制御手段)、Aは検知エリア、Bはオーバーラップ部、a,bは作業位置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 移動機構及びロボットアームを備える移動ロボットを、所定の作業位置へ移動させその作業位置にて前記ロボットアームによる作業を行なわせるようにしたシステムにおける、前記移動ロボットに組込まれる安全装置であって、前記移動ロボットの周囲多方向に設定された検知エリア内への障害物の侵入を検知する障害物センサと、この障害物センサにより障害物が検知されているときに前記ロボットアームの安全確保動作を実行させるアーム制御手段と、前記障害物センサにより検知された障害物が、自分の作業位置に近接する作業位置にて作業を行なう他の移動ロボット等の作業機械であるかどうかを判断する判断手段と、この判断手段により他の作業機械の近接作業が判断されたときには、近接作業する他の作業機械側に検知エリアを有する障害物センサの無効化あるいはその検知エリアの縮小を行なうセンサ制御手段と前記他の作業機械との間での信号の送受信が可能な通信手段とを具備し、前記他の作業機械の近接作業中において、前記障害物センサにより障害物が検知されたときに前記通信手段により障害物侵入信号を送信するように構成されていると共に、前記アーム制御手段は、近接作業中の他の作業機械から障害物侵入信号を受信したときにも、安全確保動作を実行させるように構成されていることを特徴とする移動ロボットの安全装置。
【請求項2】 記障害物センサにより障害物が検知されたときに、前記通信手段により障害物検知信号を送信するように構成されていると共に、前記判断手段は、他の作業機械からの障害物検知信号を受信したときに近接作業を判断することを特徴とする請求項1記載の移動ロボットの安全装置。
【請求項3】 前記障害物検知信号は、自分の作業位置を示す信号を含んでいると共に、前記判断手段は、その障害物検知信号の作業位置信号が、自分の作業位置に近接する作業位置を示すものであったときに、近接作業を判断することを特徴とする請求項2記載の移動ロボットの安全装置。
【請求項4】 前記障害物センサの検知エリアは、他の作業機械の近接作業中において、該他の作業機械の障害物センサの検知エリアと一部がオーバーラップするように構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の移動ロボットの安全装置。
【請求項5】 近接作業中の他の作業機械から離脱する際に前記通信手段により離脱信号を送信するように構成されていると共に、前記センサ制御手段は、近接作業中の他の作業機械からの離脱時及び他の作業機械から離脱信号を受信したときには、前記障害物センサの検知エリアを元の状態に戻すように構成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の移動ロボットの安全装置。
【請求項6】 移動機構及びロボットアームを備える移動ロボットを、所定の作業位置へ移動させその作業位置にて前記ロボットアームによる作業を行なわせるようにしたシステムにおける、前記移動ロボットに組込まれる安全装置であって、前記移動ロボットの周囲多方向に設定された複数の検知エリア内への障害物の侵入を夫々検知する複数個の障害物センサと、これら障害物センサを個々に無効化あるいはその検知エリアの縮小を行なうことが可能なセンサ制御手段と、前記いずれかの障害物センサにより障害物が検知されているときに前記ロボットアームの安全確保動作を実行させるアーム制御手段と、前記障害物センサにより検知された障害物が、自分の作業位置に近接する作業位置にて作業を行なう他の移動ロボットであるかどうかを判断する判断手段とを具備すると共に、前記判断手段により他の移動ロボットの近接作業が判断されたときに、前記センサ制御手段が、近接作業する他の移動ロボット側に検知エリアを有する障害物センサのみを無効化あるいはその検知エリアを縮小することにより、近接作業する2台の移動ロボットがひとつの群とみなされ、その群の周囲に検知エリアが設定されるように構成されていることを特徴とする移動ロボットの安全装置。
【請求項7】 前記他の移動ロボットとの間での信号の送受信が可能な通信手段を備え、前記障害物センサにより障害物が検知されたときに、障害物検知信号を送信するように構成されていると共に、前記判断手段は、他の移動ロボットからの障害物検知信号を受信したときに近接作業を判断することを特徴とする請求項6記載の移動ロボットの安全装置。
【請求項8】 前記障害物検知信号は、自分の作業位置を示す信号を含んでいると共に、前記判断手段は、その障害物検知信号の作業位置信号が、自分の作業位置に近接する作業位置を示すものであったときに、近接作業を判断することを特徴とする請求項7記載の移動ロボットの安全装置。
【請求項9】 前記障害物センサの検知エリアは、他の移動ロボットの近接作業中において、該他の移動ロボットの障害物センサの検知エリアと一部がオーバーラップするように構成されていることを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の移動ロボットの安全装置。
【請求項10】 前記他の移動ロボットとの間での信号の送受信が可能な通信手段を備え、近接作業中の他の移動ロボットから離脱する際に離脱信号を送信するように構成されていると共に、前記センサ制御手段は、近接作業中の他の移動ロボットからの離脱時及び他の移動ロボットから離脱信号を受信したときには、前記障害物センサの検知エリアを元の状態に戻すように構成されていることを特徴とする請求項6ないし9のいずれかに記載の移動ロボットの安全装置。

【図2】
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【図1】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図7】
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【図4】
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【特許番号】特許第3446650号(P3446650)
【登録日】平成15年7月4日(2003.7.4)
【発行日】平成15年9月16日(2003.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−70200
【出願日】平成11年3月16日(1999.3.16)
【公開番号】特開2000−263489(P2000−263489A)
【公開日】平成12年9月26日(2000.9.26)
【審査請求日】平成13年6月27日(2001.6.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【参考文献】
【文献】特開 平11−58271(JP,A)
【文献】特開 平2−302805(JP,A)
【文献】特開 昭63−150710(JP,A)