説明

移動体

【課題】 空力音の発生を抑制しつつ、移動体(鉄道車両)周りの空気の流速を検出する
【解決手段】 車両の先端部1に圧力センサS1〜S5を取り付け、先端部1それ自体を5孔ピトー管とする。これにより、車両の外板部分に、別途、5孔ピトー管を設ける必要がないので、5孔ピトー管による気流の乱れは、原理的に発生しないので、空力音の発生を抑制しつつ、移動体周りの空気の流速を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気等の流体中を移動する移動体に関するもので、特に、高速鉄道車両や航空機に適用して有効である。
【背景技術】
【0002】
航空機等の高速で移動する移動体では、ピトー管を用いて移動体周りの空気の流速を検出することにより、移動体の速度を検出している(例えば、特許文献1参照)。
なお、ピトー管とは、周知のごとく、動圧と静圧との圧力差に基づいて流体の流速を検出する一種の差圧計である。
【特許文献1】実開平5−32300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ピトー管は、管(パイプ)の先端側に、圧力を導入するための複数個の孔が設けられており、通常、これら複数個の孔のうち1つの孔が移動体の移動方向と一致する方向に開口し、他の孔が移動方向と交差する方向に向けて開口している。
【0004】
しかし、ピトー管を移動体に取り付けると、ピトー管のうち移動方向と交差する部分により気流が乱され、空力音が発生してしまう。
本発明は、上記点に鑑み、空力音の発生を抑制しつつ、移動体周りの空気の流速を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、移動方向先端側に向かうほど断面積が縮小する先端部を有する移動体であって、先端部に設けられ、互いにずれた位置にて先端部周りを流れる流体の圧力を検出する少なくとも3つの圧力検出手段と、圧力検出手段にて検出された圧力に基づいて、流体の流速を算出する流速算出手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
これにより、請求項1に記載の発明では、移動方向先端側に向かうほど断面積が縮小する移動体の先端部それ自体がピトー管として機能するので、移動体の外板部分に、別途、ピトー管を設ける必要がない。したがって、ピトー管による気流の乱れは、原理的に発生しないので、空力音の発生を抑制しつつ、移動体周りの空気の流速を検出することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明では、移動方向先端部側に、移動方向と交差する方向に突出した突起部を有する移動体であって、突起部に設けられ、互いにずれた位置にて先端部周りを流れる流体の圧力を検出する少なくとも3つの圧力検出手段と、圧力検出手段にて検出された圧力に基づいて、流体の流速を算出する流速算出手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
これにより、請求項2に記載の発明では、移動体の先端側に設けられている既存の突起部それ自体がピトー管として機能するので、移動体の外板部分に、別途、ピトー管を設ける必要がない。したがって、ピトー管による気流の乱れは、原理的に発生しないので、空力音の発生を抑制しつつ、移動体周りの空気の流速を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本実施形態は、本発明に係る移動体を高速鉄道車両(新幹線)に適用したものであり、以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
(第1実施形態)
1.図面の説明
図1は本実施形態に係る鉄道車両(以下、車両という。)の先端部1の斜視図であり、図2(a)は先端部1の上面図であり、図2(b)は先端部1の右側面図であり、図3は車両周りの流速を検出するために電気系ブロック図である。
【0010】
2.車両周りの流速を検出するための具体的構成
車両の先端部1は、図1、図2(a)及び図2(b)に示すように、車両の移動方向先端側(前方側)に向かうほど断面積が縮小するような形状となっている。
【0011】
なお、本実施形態に係る車両の先端部1は、いわゆる流線型とは異なる形状であるが、図2(a)及び図2(b)に示すように、前方側に向かうほど断面積が縮小するような滑らかな曲面にて構成されている。
【0012】
そして、先端部1には、図1に示すように、5つの圧力センサS1〜S5が互いにずれた位置に取り付けられており、これら5つの圧力センサS1〜S5のうち第1圧力センサS1は先端部1の最先端に取り付けられ、他の4つの圧力センサS2〜S5は、第1圧力センサS1を挟んで対称となる位置に取り付けられている。
【0013】
すなわち、第1圧力センサS1は、先端部1の最先端、つまり車両の移動方向に対して直交する仮想面S(図2(b)参照)と接する部位に設けられている。
そして、第2圧力センサS2及び第4圧力センサS4それぞれは、水平方向において、第1圧力センサS1を挟んで対称の位置に配設され、第3圧力センサS3及び第5圧力センサS5それぞれは、鉛直方向において、第1圧力センサS1を挟んで対称の位置に配設されている。
【0014】
また、各圧力センサS1〜S5により検出された圧力信号は、図3に示すように、インタフェース3を介して演算回路5に入力され、演算回路5は、各圧力センサS1〜S5により検出された圧力に基づいて、5孔ピトー管において用いられる周知の算出手法に従って車両周りの空気の流速を演算する。
【0015】
なお、演算回路5は、CPU、ROM及びRAM等からなるマイクロコンピュータにて構成されたものであり、演算処理に用いられるプログラム、及び圧力係数等の諸定数はROMに記憶されている。
【0016】
3.本実施形態に係る鉄道車両の特徴
本実施形態では、先端部1は、前方側に向かうほど断面積が縮小するような滑らかな曲面にて構成されているので、この先端部1に5つの圧力センサS1〜S5を取り付けることにより、先端部1それ自体が5孔ピトー管として機能する。
【0017】
したがって、車両の外板部分に、別途、5孔ピトー管を設ける必要がないので、5孔ピトー管による気流の乱れは、原理的に発生しないので、空力音の発生を抑制しつつ、移動体周りの空気の流速を検出することができる。
【0018】
4.発明特定事項と実施形態との対応関係
本実施形態では、圧力センサS1〜S5が特許請求の範囲に記載された圧力検出手段に相当し、演算回路5が特許請求の範囲に記載された流速算出手段に相当する。
【0019】
(第2実施形態)
第1実施形態では、車両の先端部1に5つの圧力センサS1〜S5を取り付けたが、本実施形態は、図4に示すように、車両の先端部側に設けられた、移動方向と交差する方向(本実施形態では、鉛直方向上方側)に突出した略円筒状の突起部7の側面に、3つの圧力センサS1、S2、S4を設けたものである。
【0020】
因みに、本実施形態に係る突起部7は無線用のアンテナであり、この突起部7は、通常、車両先端側天井部の外板に設けられているとともに、移動方向先端側に向かうほど断面積が縮小するような形状(本実施形態では、円筒状)となっている。
【0021】
なお、本実施形態では、図5に示すように、第1圧力センサS1に対して鉛直方向にずれた位置に設けられた第3圧力センサS3及び第5圧力センサS5は設けられていないので、3孔ピトー管用のプログラムにて演算処理が実行されて車両周りの空気の流速が算出される。
【0022】
以上のように、本実施形態では、車両の先端側に設けられている既存の突起部7それ自体が3孔ピトー管として機能するので、車両の外板部分に、別途、3孔ピトー管を設ける必要がない。したがって、3孔ピトー管による気流の乱れは、原理的に発生しないので、空力音の発生を抑制しつつ、移動体周りの空気の流速を検出することができる。
【0023】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、鉄道車両に本発明を適用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、航空機に適用することができる。
【0024】
また、上述の実施形態では、先端部1又は突起部7に圧力センサを取り付けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、圧力センサを取り付けた部位に相当する部位に圧力を導入するチューブを取り付け、このチューブを介して圧力を圧力センサにて検出してもよい。
【0025】
また、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鉄道車両の先端部1の斜視図である。
【図2】(a)は先端部1の上面図であり、(b)は先端部1の右側面図である。
【図3】流速を検出するために電気系ブロック図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る鉄道車両の先端部1の斜視図である。
【図5】突起部7の拡大図である。
【符号の説明】
【0027】
1…先端部、3…インタフェース、5…演算回路、7…突起部、S1〜S5…圧力センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動方向先端側に向かうほど断面積が縮小する先端部を有する移動体であって、
前記先端部に設けられ、互いにずれた位置にて前記先端部周りを流れる流体の圧力を検出する少なくとも3つの圧力検出手段と、
前記圧力検出手段にて検出された圧力に基づいて、前記流体の流速を算出する流速算出手段と
を備えることを特徴とする移動体。
【請求項2】
移動方向と交差する方向に突出した突起部を移動方向先端部側に有する移動体であって、
前記突起部に設けられ、互いにずれた位置にて前記先端部周りを流れる流体の圧力を検出する少なくとも3つの圧力検出手段と、
前記圧力検出手段にて検出された圧力に基づいて、前記流体の流速を算出する流速算出手段と
を備えることを特徴とする移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−145265(P2009−145265A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324787(P2007−324787)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)