説明

移動基準点写真測量装置および方法

【課題】広範囲における連続的な写真測量が可能であり、かつ安価な移動基準点写真測量装置および方法を提供する。
【解決手段】対象物に対して移動する3つ以上の移動基準点2と、対象物に対して移動し、移動基準点2とともに対象物を写真撮影する2台以上のカメラ3と、移動基準点2の絶対座標を測定する位置測定手段4とを備える。カメラ3を移動させつつ連続的に写真撮影することにより広範囲における写真測量を行うことができる。対象物に基準点を設置する必要がなく、IMU等の高価な測定機器を設置する必要がないため、測量のコストを低くすることができる。ジャイロを使用しないため、ドリフト誤差が累積することがなく、安定した精度で測量できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動基準点写真測量装置および方法に関する。さらに詳しくは、連続的に写真撮影し広範囲の測量を行うための移動基準点写真測量装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、移動しながら広範囲を連続して写真測量する方法として、以下の2つの方法が知られている。
(1)1つ目の方法は、絶対座標が既知の基準点を地表に3つ以上設置し、その基準点をステレオ写真に写し込んで、基準点の絶対座標と写真座標とからカメラの位置と姿勢を標定した後に、ステレオ写真に写された対象物の写真座標から絶対座標を求めることにより3次元測量を行う方法である(例えば、非特許文献1)。
(2)2つ目の方法は、カメラの位置を測定するGPS(全地球測位システム)と、カメラの姿勢を測定するIMU(慣性計測装置)とを設置し、それらの測定器によりカメラの位置と姿勢を測定した後に、ステレオ写真に写された対象物の写真座標から絶対座標を求めることにより3次元測量を行う方法である(例えば、非特許文献2)。
【0003】
しかるに、(1)の方法では、1つのステレオ写真内に少なくとも3つの基準点を写し込む必要があるため、広範囲に写真測量を行うためには多数の基準点を設置する必要がある。そのため、その基準点の設置作業が煩雑であり、測量のコストが高くなるという問題がある。
また、(2)の方法で用いられるIMUは高価であり、測量のコストが高くなるという問題がある。
さらに、IMUはジャイロを使用するため、ジャイロ特有のドリフト誤差が累積することから、測量精度が不安定となったり不均質となったりするという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】津留 宏介、村井 俊治著、「デジタル写真測量の基礎」、日本測量協会、2011年2月25日発行
【非特許文献2】今西 暁久著、「MMS(Mobile Mapping System)による道路空間3次元計測と公共測量への適用」、測量、日本測量協会、2011年3月発行、Vol.61、No.3、p.12-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、広範囲における連続的な写真測量が可能であり、かつ安価な移動基準点写真測量装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の移動基準点写真測量装置は、対象物に対して移動する3つ以上の移動基準点と、前記対象物に対して移動し、前記移動基準点とともに該対象物を写真撮影する2台以上のカメラと、前記移動基準点の絶対座標を測定する位置測定手段と、を備えることを特徴とする。
第2発明の移動基準点写真測量装置は、第1発明において、前記移動基準点と前記カメラとは同一の移動体に搭載されていることを特徴とする。
第3発明の移動基準点写真測量装置は、第1または第2発明において、前記位置測定手段は、前記移動基準点に取り付けられたGPS受信機であることを特徴とする。
第4発明の移動基準点写真測量方法は、対象物に対して移動する2台以上のカメラで、該対象物に対して移動する3つ以上の移動基準点とともに該対象物を写真撮影し、写真撮影時の前記移動基準点の絶対座標を測定し、前記移動基準点の絶対座標と写真座標とから前記カメラの位置と姿勢を標定し、前記対象物の写真座標から、該対象物の絶対座標を求めることを特徴とする。
第5発明の移動基準点写真測量方法は、第4発明において、前記2台以上のカメラで撮影した写真において対応する点の写真座標から該カメラの相対的な回転角を標定し、該標定結果を初期値として、前記移動基準点の絶対座標と写真座標とから前記カメラの位置と姿勢を標定することを特徴とする。
第6発明の移動基準点写真測量方法は、第4または第5発明において、カメラキャリブレーションによって、前記カメラの焦点距離、主点位置のズレおよびレンズ歪を決定し、前記主点位置のズレおよびレンズ歪を校正した写真と、前記焦点距離とを用いて、前記移動基準点の絶対座標と写真座標とから前記カメラの位置と姿勢を標定し、前記対象物の写真座標から、該対象物の絶対座標を求めることを特徴とする。
第7発明の移動基準点写真測量方法は、第4、第5または第6発明において、所定時間間隔で測定される前記移動基準点の絶対座標を内挿することにより、前記写真撮影時の前記移動基準点の絶対座標を求めることを特徴とする。
第8発明の移動基準点写真測量プログラムは、対象物に対して移動する2台以上のカメラで、該対象物に対して移動する3つ以上の移動基準点とともに該対象物を撮影した写真データと、該写真撮影時の前記移動基準点の絶対座標である移動基準点データと、にアクセス可能なコンピュータに、写真測量処理を行わせるプログラムであって、前記移動基準点の絶対座標と写真座標とから前記カメラの位置と姿勢を標定し、前記対象物の写真座標から、該対象物の絶対座標を求める処理をコンピュータに行わせることを特徴とする。
第9発明の移動基準点写真測量プログラムは、第8発明において、前記2台以上のカメラで撮影した写真において対応する点の写真座標から該カメラの相対的な回転角を標定し、該標定結果を初期値として、前記移動基準点の絶対座標と写真座標とから前記カメラの位置と姿勢を標定することを特徴とする。
第10発明の移動基準点写真測量プログラムは、第8または第9発明において、所定時間間隔で測定される前記移動基準点の絶対座標を内挿することにより、前記写真撮影時の前記移動基準点の絶対座標を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、カメラを移動させつつ連続的に写真撮影することにより広範囲における写真測量を行うことができる。また、対象物に基準点を設置する必要がなく、IMU等の高価な測定機器を設置する必要がないため、測量のコストを低くすることができる。さらに、ジャイロを使用しないため、ドリフト誤差が累積することがなく、安定した精度で測量できる。
第2発明によれば、移動基準点とカメラとは同一の移動体に搭載されているので、その移動体を測量範囲に沿って移動させるだけで、測量範囲を覆う連続的な写真撮影ができ、測量が容易となる。
第3発明によれば、移動基準点にGPS受信機が取り付けられているので、そのGPS受信機で測位することにより移動基準点の絶対座標を測定することができる。
第4発明によれば、カメラを移動させつつ連続的に写真撮影することにより広範囲における写真測量を行うことができる。また、対象物に基準点を設置する必要がなく、IMU等の高価な測定機器を設置する必要がないため、測量のコストを低くすることができる。さらに、ジャイロを使用しないため、ドリフト誤差が累積することがなく、安定した精度で測量できる。
第5発明によれば、カメラの相対的な回転角を標定し、その標定結果を初期値とすることにより、カメラの位置と姿勢を精度よく標定できる。そのため、対象物を精度よく測量できる。
第6発明によれば、カメラキャリブレーションを行うことで、主点位置のズレおよびレンズ歪を校正した写真を得ることができ、正確な焦点距離を得ることができるため、カメラの位置と姿勢を精度よく標定できる。そのため、対象物を精度よく測量できる。
第7発明によれば、所定時間間隔で測定される移動基準点の絶対座標を内挿することにより、写真撮影時の移動基準点の絶対座標を精度よく求めることができる。そのため、対象物を精度よく測量できる。
第8発明によれば、カメラを移動させつつ連続的に写真撮影することにより広範囲における写真測量を行うことができる。また、対象物に基準点を設置する必要がなく、IMU等の高価な測定機器を設置する必要がないため、測量のコストを低くすることができる。さらに、ジャイロを使用しないため、ドリフト誤差が累積することがなく、安定した精度で測量できる。
第9発明によれば、カメラの相対的な回転角を標定し、その標定結果を初期値とすることにより、カメラの位置と姿勢を精度よく標定できる。そのため、対象物を精度よく測量できる。
第10発明によれば、所定時間間隔で測定される移動基準点の絶対座標を内挿することにより、写真撮影時の移動基準点の絶対座標を精度よく求めることができる。そのため、対象物を精度よく測量できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る移動基準点写真測量装置の説明図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】相互標定の概念図である。
【図3】外部標定の概念図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る移動基準点写真測量方法のフローである。
【図5】移動基準点写真測量プログラムを実行するコンピュータの構成図である。
【図6】試験におけるカメラと移動基準点の位置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(装置)
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る移動基準点写真測量装置Aは、自動車1の両側のサイドミラー付近とルーフ前方とに設置された3つの移動基準点2,2,2と、自動車1のルーフ後方の高い位置に設置された2台のカメラ3,3とを備えている。各カメラ3は、3つの移動基準点2,2,2が全て映り込むように設置されており、それら移動基準点2,2,2とともに対象物である地表を写真撮影できるようになっている。また、2台のカメラ3,3は、所定の基線長だけ離れており、光軸がほぼ平行、あるいは互いにやや内向きとなるように設置されており、対象物のステレオ写真が撮影できるようになっている。
なお、自動車1は特許請求の範囲に記載の移動体に相当する。
さらになお、後述のごとく、写真測量には少なくとも3つの基準点と2台のカメラが必要であるが、移動基準点2を4つ以上設置するように構成してもよいし、カメラ3を3台以上設置するように構成してもよい。
【0010】
本実施形態において、対象物は自動車1の周囲の地表である。そのため、自動車1を走行させることにより、移動基準点2を対象物に対して移動させることができる。このように、本発明の基準点は、対象物に固定される従来の基準点とは異なり、対象物に対して移動するため、従来の基準点と区別するために移動基準点と称される。
ただし、移動基準点2としては、黒地の背景に白の円形の標識など、公知の標識を用いることができる。
【0011】
各移動基準点2には、GPS受信機4(図示せず)が取り付けられており、そのGPS受信機4を用いて測位することにより、写真撮影時の各移動基準点2の絶対座標を測定できるようになっている。ここで、本明細書において絶対座標とは、対象物の系における3次元位置座標を意味する。対象物が地表の場合には地上座標とも称される。
【0012】
なお、GPS受信機4は、特許請求の範囲に記載の位置測定手段に相当する。本実施形態では、リアルタイムに絶対座標を測位する必要があるため、GPS受信機としてRTK−GPS(リアルタイムキネマティックGPS)用のGPS受信機を用いることが好ましい。一般に、RTK−GPSは、1秒間に1〜10点の測位が可能であるが、必ずしも写真撮影時と同一時刻で測位できない。この様な場合には、GPSで測位される位置座標を、測位時間を基に内挿することにより、写真撮影時の移動基準点2の絶対座標を求めることが好ましい。このようにすれば、写真撮影時の移動基準点2の絶対座標を精度よく求めることができる。
【0013】
自動車1には、カメラ3で撮影した写真データと、GPS受信機4で測位した移動基準点2の絶対座標である移動基準点データとを記憶する記憶装置5(図示せず)が設けられている。
【0014】
移動基準点写真測量装置Aは、以上の様な構成であるから、自動車1を走行させることにより、カメラ3を移動させつつ連続的に写真撮影することにより広範囲における写真測量を行うことができる。
また、対象物に基準点を設置する必要がなく、IMU等の高価な測定機器を設置する必要がないため、測量のコストを低くすることができる。
さらに、ジャイロを使用しないため、ドリフト誤差が累積することがなく、安定した精度で測量できる。
【0015】
(原理)
つぎに、写真測量の原理について説明する。
(1)内部標定
内部標定とは、カメラキャリブレーションによって、カメラの焦点距離c、主点位置のズレ(xp,yp)、レンズ歪(K1,K2,K3,P1,P2)を決定することをいう。ここで、焦点距離cとはカメラのレンズ中心と結像面との距離をいう。また、主点とは光軸が結像面に結像する点であり、主点位置のズレ(xp,yp)とは主点と結像面の中心とのズレをいう。また、レンズ歪のうちK1、K2、K3は放射方向のレンズ歪であり、P1、P2は接線方向のレンズ歪を表す係数である。
【0016】
写真座標に対する補正式の一般式は、下記の数1で表わされることが知られている。
【数1】

ここで、
r2=xm2+ym2
xm=x-xp
ym=y-yp
x,y:画面中心を原点とした写真座標
X'、Y'、Z':カメラの傾き(回転角)を回転変換した絶対座標
【0017】
移動基準点写真測量装置に用いるカメラでカメラキャリブレーション用の参照体を撮影し、参照体に設けられた標識の写真座標を測定し、その写真座標を数1に代入して、非線形連立方程式の同時解を求めることで、内部標定要素(c,xp,yp,K1,K2,K3,P1,P2)を決定できる。
【0018】
このように、内部標定において内部標定要素を決定した後に、撮影した写真を内部標定要素を用いて校正することにより、主点位置のズレ(xp,yp)およびレンズ歪(K1,K2,K3,P1,P2)を校正した写真を得ることができ、また、正確な焦点距離cを得ることができる。そのため、後述の相互標定、外部標定および絶対座標の算出を精度よく行うことができる。
【0019】
(2)相互標定
相互標定とは、ステレオ写真の撮影時と相対的に同じ空間的位置と傾きの関係を再現することをいい、写真撮影時のカメラの位置と傾きのみを再現することをいう。
図2に示すように、一般的には、左カメラの投影中心を原点とし、原点と右カメラの投影中心とを結ぶ直線をX軸とし、カメラ間の距離(基線長)を単位長さとしてモデル座標を定義する。この場合、2つのカメラの相対的な傾きは、左カメラの回転角φ1、κ1、および右カメラの回転角ω2、φ2、κ2で表わすことができる。相互標定は、これら5つの未知変量(φ11222)を求めることを意味する。
なお、左カメラの回転角φ1、κ1、および右カメラの回転角ω2、φ2、κ2は、特許請求の範囲に記載の「カメラの相対的な回転角」に相当する。
【0020】
図2に示すように、モデル座標系において、左カメラのレンズ中心O1(XO1,YO1,ZO1)、右カメラのレンズ中心O2(XO2,YO2,ZO2)、対象物Pの左の写真の像点p1(x1,y1)(モデル座標系では(X1,Y1,Z1))、右の写真の像点p2(x2,y2)(モデル座標系では(X2,Y2,Z2))の4点は、同一平面上にあるという共面条件を満足する。すなわち、数2の共面条件式を満たす。
【数2】

ここで、モデル座標系での像点p1(X1,Y1,Z1)、p2(X2,Y2,Z2)は、数3の通りとなる。
【数3】

【0021】
相互標定は、2台のカメラで撮影した写真において対応する5点以上の写真座標を数2に代入して、非線形連立方程式の同時解を求めることで行われる。
【0022】
(3)外部標定
外部標定とは、絶対座標系XYZの空間のなかで、左右のカメラのレンズ中心O1(XO1,YO1,ZO1)、O2(XO2,YO2,ZO2)、および傾き(ω111)、(ω222)を求めることをいう。
【0023】
図3に示すように、レンズ中心O(XO,YO,ZO)、像点p(x,y)、対象物P(X,Y,Z)は、一直線に結ばれるという共線条件を満足する。すなわち、数4の共線条件式を満たす。
【数4】

ここで、
【数5】

【0024】
外部標定は、絶対座標が既知の基準点を測量したい対象物と一緒に写し込んで、基準点の写真座標(xi,yi)および絶対座標(Xi,Yi,Zi)を数4に代入して、非線形連立方程式の同時解を求めることで行われる。
このとき、相互標定で求めた、相互標定要素(φ11222)を初期値として非線形連立方程式の同時解を求めることにより、外部標定の解析精度を向上できる。
なお、本発明においてカメラ3と移動基準点2との空間的位置関係はほぼ一定であるため、相互標定で得られるモデル座標系と、GPS受信機4から得られる移動基準点2の絶対座標、および移動基準点2の絶対座標から算出されるカメラ3の概略絶対座標から、上記数4、数5の初期値を容易に算出することができる。
【0025】
外部標定における未知数(XO1,YO1,ZO1,XO2,YO2,ZO2111222)は12個であるから、基準点は少なくとも3点必要である。また、基準点が4点以上あれば、非線形連立方程式を最小二乗法等により解くことで、より精度よく外部標定を行うことができる。そのため、移動基準点写真測量装置を移動基準点を4つ以上設置するように構成すれば、外部標定を精度良く行え、ひいては写真測量の精度が向上する。
【0026】
(4)絶対座標の算出
標定された外部標定要素(XO1,YO1,ZO1,XO2,YO2,ZO2111222)を数4に代入して得た式を用いれば、対象物のステレオペアの写真座標(x1,y1)、(x2,y2)から、その対象物の絶対座標(X,Y,Z)を求めることができる。これにより、対象物の側量ができる。
【0027】
なお、カメラを3台以上搭載するように構成した場合には、各カメラで撮影された写真を用いて数4の共線条件式の非線形連立方程式の同時解を求めるバンドル調整が行われる。そのため、移動基準点写真測量装置をカメラを3台以上設置するように構成すれば、外部標定の精度が向上し、ひいては対象物の測量精度が向上する。
【0028】
(測量方法)
つぎに、移動基準点写真測量装置Aを用いた移動基準点写真測量方法について説明する。
図4に示すように、まず、自動車1に搭載されるカメラ3の内部標定を行い、内部標定要素(c,xp,yp,K1,K2,K3,P1,P2)を決定する(ステップS1)。内部標定は、自動車1に搭載されるそれぞれのカメラ3に対して行われる。
【0029】
つぎに、自動車1を走らせつつ、所定時間間隔あるいは所定移動距離間隔で、カメラ3で対象物である地表を順次撮影する。また、写真撮影時の移動基準点2の絶対座標をGPS受信機4で順次測位する(ステップS2)。カメラ3で撮影した写真データと、GPS受信機4で測位した移動基準点データは、記憶装置5に記憶されていく。
なお、本実施形態では写真撮影およびGPS測位(ステップS2)より前に内部標定(ステップS1)を行っているが、写真撮影およびGPS測位(ステップS2)の後に内部標定(ステップS1)を行ってもよい。
【0030】
つぎに、相互標定を行い、相互標定要素(φ11222)を標定する(ステップS3)。相互標定には、ステップS2において撮影された写真を用いてもよいし、予め相互標定用に撮影した写真を用いてもよい。いずれの写真を用いる場合においても、内部標定(ステップS1)で決定した主点位置のズレ(xp,yp)およびレンズ歪(K1,K2,K3,P1,P2)を校正し、校正後の写真を用いて相互標定を行うことで、相互標定の精度を向上させることができる。また、内部標定(ステップS1)で決定した焦点距離cを用いて相互標定を行うことでも、相互標定の精度を向上させることができる。
【0031】
つぎに、記憶装置5に記憶された写真データと移動基準点データとを用いて、撮影された写真毎に外部標定を行う(ステップS4)。この際、得られた写真データに対して、主点位置のズレ(xp,yp)およびレンズ歪(K1,K2,K3,P1,P2)を校正し、校正後の写真を用いて外部標定を行うことで、外部標定の精度を向上させることができる。また、内部標定(ステップS1)で決定した焦点距離cを用いて外部標定を行うことでも、外部標定の精度を向上させることができる。
また、外部標定の際には、相互標定(ステップS3)で標定した相互標定要素(φ11222)を初期値として解析することにより、外部標定の精度を向上させることができる。
【0032】
最後に、標定された外部標定要素(XO1,YO1,ZO1,XO2,YO2,ZO2111222)を用いて、対象物の写真座標から、その対象物の絶対座標を求める(ステップS5)。これにより、対象物の側量ができる。この際、写真座標を特定するための写真として、主点位置のズレ(xp,yp)およびレンズ歪(K1,K2,K3,P1,P2)を校正した後の写真を用いることで、測量精度を向上させることができる。
ここで、2台のカメラ3,3で撮影されたそれぞれの写真における対象物の写真座標(ステレオ対応点)を特定する必要がある。これは、作業員が手作業で指定していくか、コンピュータにより自動認識することで行われる。なお、相互標定を行っていれば、縦視差ゼロの共役線上におけるステレオ対応点の自動認識が容易になる。
【0033】
なお、外部標定(ステップS4)と絶対座標の算出(ステップS5)は、写真撮影およびGPS測位(ステップ2)が全て終わった後に行ってもよいし、写真撮影およびGPS測位の都度、順次行ってもよい。
【0034】
(プログラム)
上記移動基準点写真測量の演算は、一般にコンピュータを用いて行われる。
図5に示すように、移動基準点写真測量の演算に用いられるコンピュータCのハードウエア構成は、一般的なパーソナルコンピュータとほぼ同様の構成であり、キーボード、マウス等の入力装置11、CPU12、メモリ13、ハードディスク14、ディスプレイ等の出力装置15がバス10に接続されている。さらに、移動基準点写真測量装置Aの記憶装置5が直接またはネットワークを介して接続されているか、写真データおよび移動基準点データが記録された記録媒体6が接続されており、写真データと移動基準点データとにアクセス可能となっている。
【0035】
ハードディスク14には、オペレーティングシステムの他に、移動基準点写真測量プログラム21が記憶されており、CPU12が移動基準点写真測量プログラム21を実行することにより移動基準点写真測量処理ができるようになっている。
また、ハードディスク14には、標定後の内部標定要素22、相互標定要素23、外部標定要素24および校正後の写真データ25が記憶されるようになっている。
【0036】
CPU12が移動基準点写真測量プログラム21を実行することにより、前述の内部標定(ステップS1)、相互標定(ステップS3)、外部標定(ステップS4)、絶対座標の算出(ステップS5)が行われる。
【0037】
具体的には、内部標定(ステップS1)においては、カメラ3でカメラキャリブレーション用の参照体を撮影した写真データを取り込み、参照体に設けられた標識の写真座標を自動認識し、または入力装置11により指定され、その写真座標を数1に代入して、非線形連立方程式の同時解を求めることで内部標定要素22を決定し、ハードディスク14に記録する。
【0038】
相互標定(ステップS3)においては、まず、ハードディスク14から内部標定要素22を呼び出し、写真データを主点位置のズレおよびレンズ歪を校正した写真25に変換し、ハードディスク14に記録する。
そして、校正写真25において対応する5点以上の写真座標を自動認識し、または入力装置11により指定され、その写真座標を数2に代入して、非線形連立方程式の同時解を求めることで相互標定要素23を決定し、ハードディスク14に記録する。
【0039】
外部標定(ステップS4)においては、校正写真25において移動基準点の写真座標を自動認識し、または入力装置11により指定され、その写真座標と移動基準点データとを数4に代入して、非線形連立方程式の同時解を求めることで外部標定要素24を決定し、ハードディスク14に記録する。このとき、ハードディスク14に記録された相互標定要素23を初期値として解析する。
【0040】
なお、RTK−GPS等、移動基準点の絶対座標が所定時間間隔で測定される場合には、測位時間を基に移動基準点データを内挿することにより、写真撮影時の移動基準点の絶対座標を求め、その値を外部標定に用いる。
【0041】
絶対座標の算出(ステップS5)においては、校正写真25において対象物の写真座標を自動認識し、または入力装置11により指定され、その写真座標と外部標定要素24とを数4に代入して、その対象物の絶対座標を求める。これにより、対象物の側量が完了する。
【0042】
(他の実施形態)
上記実施形態では、内部標定を行ったが、精度の良いカメラを用いる場合や、測量精度が高くなくてよい場合には、内部標定を省略してもよい。この場合、焦点距離cは、一般にカメラに表示されている焦点距離を用いればよい。
【0043】
また、上記実施形態では、相互標定の後に外部標定を行ったが、相互標定を省略し、直接外部標定を行ってもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、移動体として自動車1を用いたが、移動体としては、自動車、鉄道などの車両の他、ヘリコプターや航空機、船舶などを用いてもよい。
カメラの撮影方向は、車両の場合、進行方向前方、後方または斜め方向とすることができる。ヘリコプターや航空機の場合は、下方向または斜め下方向が撮影方向となる。船舶の場合は、進行方向前方、後方に加えて、横方向も撮影方向となる。
【0045】
また、上記実施形態の様に、移動基準点とカメラとを同一の移動体に搭載するように構成してもよいし、移動基準点とカメラとを別々の移動体に搭載するように構成してもよい。さらに、個々の移動基準点、個々のカメラを別々の移動体に搭載するように構成してもよい。
例えば、第1の車両にカメラを搭載し、第1の車両の前方または後方の撮影範囲内を走行する第2の車両に移動基準点を搭載してもよい。また、ヘリコプターや航空機にカメラを搭載し、撮影範囲内の地上を走行する複数の車両あるいは船舶に、それぞれ移動基準点を搭載してもよい。
ただし、移動基準点とカメラとを同一の移動体に搭載すれば、その移動体を測量範囲に沿って移動させるだけで、測量範囲を覆う連続的な写真撮影ができるので、測量が容易となる。
【0046】
(試験)
本発明に係る移動基準点写真測量における測量精度を検証する試験を行った。
本試験では、移動基準点を陸上に静止させ、その配置を順次ずらしながら写真撮影を繰り返すことで、移動基準点写真測量を再現した。
【0047】
試験は以下の通りに行った。
(1)対象物
近くでGPS受信が可能な石垣を対象物とし、その石垣に高さ方向に5点ずつ、幅方向に6点ずつの合計30点の円形標識を設置した。円形標識の幅方向の間隔は約1mとした。設置した円形標識の中心座標を、GPSでスタティック測位した基準を基にトータルステーションで測定した(以下、直接計測という)。スタティック測位の精度は高いため、この直接計測の値を基準として測量精度を検証することとした。
(2)移動基準点
9つの円形標識を移動基準点と見立て、高さ2mの脚2本(R1、R3)および高さ3mの脚1本(R2)に3つずつ取り付けた。それらの脚を1m間隔で石垣の前面に立設した。また、円形標識の中心座標を、GPSでRTK測位した基準を基にトータルステーションで測定した。
(3)カメラ
カメラは、Canon5DMarkIIを使用した。図6に示すように、対象物から約5mの距離で、約1m間隔で6か所(1位置(C1)〜6位置(C6))から写真撮影した。カメラの画角が45°であるため、対象物面における撮影範囲は約4m幅であり、隣り合う位置で撮影した写真同士は3m幅のオーバーラップとなり、オーバーラップ率は75%となっている。
なお、カメラ位置を1mずらす毎に撮影範囲から外れる脚の位置をカメラの移動方向に3mずらしており、撮影範囲内につねに3本の脚(R1、R2、R3)が写り込むようにしている。位置をずらした移動基準点の座標は、GPSでRTK測位した基準を基にトータルステーションで測定し直した。このとき、GPS受信機も脚とともに移動させた。
このようにして、隣り合う位置で撮影した写真が、9つの移動基準点および石垣が写り込んだステレオ写真となり、1位置(C1)と2位置(C2)、3位置(C3)と4位置(C4)、5位置(C5)と6位置(C6)がペアとなった3セットのステレオ写真を得た。
【0048】
得られた3セットのステレオ写真を用いて、石垣に設置された円形標識の位置を移動基準点写真測量で測量した。
基準となる直接計測の値との差異を確認するため、30点の円形標識において、直接計測で得た座標と、移動基準点写真測量で得た座標との距離を求めると、最大0.059m、最小0.019m、平均0.033mとなった。この差異は、土木測量に必要な精度の範囲内であり、移動基準点写真測量で土木測量に必要な精度を確保できることが検証できた。
【符号の説明】
【0049】
1 自動車
2 移動基準点
3 カメラ
4 GPS受信機
5 記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に対して移動する3つ以上の移動基準点と、
前記対象物に対して移動し、前記移動基準点とともに該対象物を写真撮影する2台以上のカメラと、
前記移動基準点の絶対座標を測定する位置測定手段と、を備える
ことを特徴とする移動基準点写真測量装置。
【請求項2】
前記移動基準点と前記カメラとは同一の移動体に搭載されている
ことを特徴とする請求項1記載の移動基準点写真測量装置。
【請求項3】
前記位置測定手段は、前記移動基準点に取り付けられたGPS受信機である
ことを特徴とする請求項1または2記載の移動基準点写真測量装置。
【請求項4】
対象物に対して移動する2台以上のカメラで、該対象物に対して移動する3つ以上の移動基準点とともに該対象物を写真撮影し、
写真撮影時の前記移動基準点の絶対座標を測定し、
前記移動基準点の絶対座標と写真座標とから前記カメラの位置と姿勢を標定し、
前記対象物の写真座標から、該対象物の絶対座標を求める
ことを特徴とする移動基準点写真測量方法。
【請求項5】
前記2台以上のカメラで撮影した写真において対応する点の写真座標から該カメラの相対的な回転角を標定し、
該標定結果を初期値として、前記移動基準点の絶対座標と写真座標とから前記カメラの位置と姿勢を標定する
ことを特徴とする請求項4記載の移動基準点写真測量方法。
【請求項6】
カメラキャリブレーションによって、前記カメラの焦点距離、主点位置のズレおよびレンズ歪を決定し、
前記主点位置のズレおよびレンズ歪を校正した写真と、前記焦点距離とを用いて、
前記移動基準点の絶対座標と写真座標とから前記カメラの位置と姿勢を標定し、
前記対象物の写真座標から、該対象物の絶対座標を求める
ことを特徴とする請求項4または5記載の移動基準点写真測量方法。
【請求項7】
所定時間間隔で測定される前記移動基準点の絶対座標を内挿することにより、前記写真撮影時の前記移動基準点の絶対座標を求める
ことを特徴とする請求項4、5または6記載の移動基準点写真測量方法。
【請求項8】
対象物に対して移動する2台以上のカメラで、該対象物に対して移動する3つ以上の移動基準点とともに該対象物を撮影した写真データと、
該写真撮影時の前記移動基準点の絶対座標である移動基準点データと、
にアクセス可能なコンピュータに、写真測量処理を行わせるプログラムであって、
前記移動基準点の絶対座標と写真座標とから前記カメラの位置と姿勢を標定し、
前記対象物の写真座標から、該対象物の絶対座標を求める
処理をコンピュータに行わせる
ことを特徴とする移動基準点写真測量プログラム。
【請求項9】
前記2台以上のカメラで撮影した写真において対応する点の写真座標から該カメラの相対的な回転角を標定し、
該標定結果を初期値として、前記移動基準点の絶対座標と写真座標とから前記カメラの位置と姿勢を標定する
ことを特徴とする請求項8記載の移動基準点写真測量プログラム。
【請求項10】
所定時間間隔で測定される前記移動基準点の絶対座標を内挿することにより、前記写真撮影時の前記移動基準点の絶対座標を求める
ことを特徴とする請求項8または9記載の移動基準点写真測量プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−15429(P2013−15429A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148810(P2011−148810)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(502271494)株式会社五星 (3)
【出願人】(596163013)