説明

移動式シェルタ

【課題】平常時では極めてコンパクトで、収納に要するスペースも取らず、事件が発生すると、汚染物質の侵入を防止でき、安全な生存空間を極めて簡単に短時間の間に形成でき、しかも、事件が発生した場所から安全な場所に避難することができる移動式シェルタを提供する。
【解決手段】外気導入手段2と、この外気導入手段2により導入された外気中の汚染物質を除去する濾過器3とを有し、所定の空間内の空気を浄化し生存空間に形成する移動式シェルタ1であって、移動体の運転室4及び/又は荷室5を密閉手段Mにより密閉し、外気導入手段2により濾過器3を介して外気を導入して運転室4及び/又は荷室5内を陽圧にし、移動体の操縦が可能な生存空間としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染物質の侵入を防止し生存空間を簡易に確保することができる移動式のシェルタに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、原子力発電所の事故等により生じる放射性汚染物質、テロ行為等により散布される炭痘菌等の菌、あるいはサリン等の有毒な化学物質など(本明細書では、これら物質を総称し、単に「汚染物質」と略称する)が大気中に飛散した場合の生存空間を形成する手段としてのシェルタが注目されている。
【0003】
この種シェルタには、従来から個人用や居住用のものあるいは地下式やカプセル式など、種々のものが提案されている。例えば、下記特許文献1では、閉鎖された収容空間内にベッドを内蔵したものが開示されている。また、下記特許文献2では、大きな閉鎖空間を有し、その内部で相当期間居住できる居住用のものが開示されている。
【特許文献1】特開平8−294430号公報(要約参照)
【特許文献2】特開2005−16216号公報(要約参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このようなシェルタは、いずれも固定式であるため、一旦事件が発生すると、周辺の大気状態が生存可能な状態になるまでシェルタ内にいなければならず、事件が発生した場所から遠く離れた安全な場所に避難することはできない。したがって、これらシェルタは、事件発生後、一時しのぎ場所にはなっても確実に生存を可能する手段とはなっていない。
【0005】
特に、事件によっては、どのような汚染物質が発生しているは直ちに判明しないこともあり、シェルタ内であっても汚染物質により大きなダメージを受ける虞がある。
【0006】
また、このようなシェルタは、事件のない平常時では、不必要にスペースをとり、しかも平常時には使用しない種々の装置を有しているため、生産コストあるいは維持コストも高く、実用的でないという問題もある。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、平常時では極めてコンパクトで、収納に要するスペースも取らず、一旦事件が発生すると、汚染物質の侵入を防止でき、安全な生存空間を極めて簡単に短時間の間に形成でき、しかも、事件が発生した場所から安全な場所に避難することができる移動式シェルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の移動式シェルタは、外気導入手段と、この外気導入手段により導入された外気中の汚染物質を除去する濾過器とを有し、所定の空間内の空気を浄化し生存空間を形成するシェルタであって、移動体の運転室及び/又は荷室を密閉手段により密閉し、前記外気導入手段により外気を、前記濾過器を介して導入して前記運転室及び/又は荷室内を陽圧にし、前記運転室及び/又は荷室内を、前記移動体の操縦が可能な前記生存空間としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明は、移動体の運転室などを密閉し、清浄な外気を導入して陽圧な生存空間を形成し、この状態で移動体を操縦し移動可能としたので、事件などが発生すると、既存の運転室などを利用して汚染物質の侵入を防止する安全な生存空間を極めて簡単に短時間の間に形成でき、しかも、事件などの発生場所から安全な場所に速やかに避難することができる。また、平常時では、特にシェルタ用として特別なスペースを要することはなく、移動体に隅部に濾過器など占有スペースの小さなものを設置するのみであり、極めてコンパクトで、収納スペースも取らず、低コストで極めて実用的な移動式シェルタとなる。さらに、外気から汚染物質を除去して運転室などに供給するので、比較的長時間にわたり快適な生活を持続することも可能である。
【0010】
請求項2の発明は、運転室などの密閉手段を、入口を備えた膨張収縮自在な膜体よりなる袋体により構成すれば、安全な生存空間を極めて簡単に短時間の間に形成でき、大きな容積の生存空間を形成する場合であっても、平常時は、収縮させることにより極めてコンパクトなものとなり、収納スペースも取らない極めて実用的な移動式シェルタとなる。
【0011】
請求項3の発明は、袋体を透明な膜体により構成すれば、生存空間に居ながら、周囲の状況を目視観察できるのみでなく、安全な場所まで運転し避難することができる。
【0012】
請求項4,5の発明は、密閉手段を運転室などの隙間を目張りする目張り部材、例えば、粘着テープにより構成すれば、極めて簡単に運転室などを密閉し、移動体内を速やかに生存空間とすることができる。
【0013】
請求項6の発明は、前記粘着テープを、両側端部に粘着剤を塗布し、中間部を無粘着剤領域とすると、隙間が正常にシールされている場合には陽圧により粘着テープの中間部が外方に引かれ内部からは凹んだ状態となり、シールが正常でない場合には漏れにより凹みが生じないことになり、その形状からシール状態あるいは運転室などの陽圧状態を極めて簡単に判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図1は本発明の第1の実施形態に係る移動式シェルタを示す概略断面図、図2は同移動式シェルタの密閉手段の一例を示す断面図、図3(A)(B)は同移動式シェルタの排気口を示す正面図、図4は同移動式シェルタの運転室の状態を示す断面図である。
【0015】
本実施形態の移動式シェルタは、トラックの運転室あるいは荷室を生存空間にするものである。このシェルタ1は、概して、外気導入手段2と、この外気導入手段2により導入された外気中の汚染物質を除去する濾過器3と、運転室4あるいは荷室5を密閉する密閉手段Mとを有し、密閉手段Mは、遮閉可能な入口6を有する膨張収縮自在な袋体7により構成されている。
【0016】
まず、密閉手段Mである袋体7は、本実施形態では、図1,2に示すように、例えば、塩化ビニール、ペットフィルム、エバーフィルム(KKクラレの商品名)、バリアーフィルム(KKクラレの商品名)などにより構成されている。しかし、このような材料のみに限定されるものではなく、任意の加圧力に耐えて外気を遮断することができるものであれば、どのようなものであってもよい。ただ、運転室において使用するものは、トラックの運転を可能にするため、透明な膜体により構成することが好ましい。
【0017】
袋体7は、上述の材料により形成された本体部7aと、ドライバーなどが出入りする入口6と、内部の空気を排出することができる排気口8と、外部と連通するように設けられた連通部7bとを有している。
【0018】
入口6は、人が出入り可能な大きさであり、ここにはシール機能を有するジッパー(不図示)などが設けられている。
【0019】
排気口8は、図3(A)に示すように、外部と連通する複数の開口11aを有する基板11と、基板11に回動可能に設けられ、開口11aと連通する通孔10を有する回動板12とからなり、基板11に対し回動板12を回動することにより開口11aと通孔10との連通面積を調節するようになっている。なお、外部から汚染物質が入らないように、ここにフィルタを設けてもよい。
【0020】
また、排気口8は、図3(B)に示すように、袋体7の開口部分の上端に縫着され、袋体7と同材質のカーテンkを用いてもよい。カーテンkの下端には、重り用の錘体sを設けることが好ましい。
【0021】
連通部7bは、図2に示すように、袋体7の本体7aより突出された比較的細い円筒状通路部であり、入口部分は、比較的硬い塩化ビニール製の短管13により構成され、短管13と車体側とを連結手段14により連結している。なお、この連結手段14は、短管13と車体を封止的に連結することができるものであれば、どのようなものであってもよいが、ワンタッチカップリングのような、素早く連結できるものが好ましい。
【0022】
外気導入手段2は、図2に示すように、連通部7b内にフレーム15が設けられ、フレーム15に取り付けたモータ16により駆動されるファンfを有している。
【0023】
濾過器3は、図2に示すように、複数の汚染物質除去フィルタFがシリーズ的に設けられている。汚染物質除去フィルタFは、上流側から、比較的大きな挨や塵を捕集するプレフィルタFp、菌やウィルスを捕獲し不活性化する抗菌・抗ウィルスフィルタFw、化学物質を吸着するケミカルフィルタFc、放射性汚染物質等の微粒子を捕集する高性能エアフィルタ(HEPAフィルタ)Fhから構成されている。
【0024】
抗菌・抗ウィルスフィルタFwは、カテキン、キトサン、ハイドロキシアパタイト、ビグアナイド、リンゴポリフェノール、銀ゼオライト、銅ゼオライト等の抗菌剤、抗ウィルス剤を含有したフィルタである。
【0025】
ケミカルフィルタFcは、粒状活性炭、繊維状活性炭、薬品添着活性炭、イオン交換樹脂、イオン交換繊維等のいずれか又はこれらの複合体を含有したフィルタである。
【0026】
HEPAフィルタFhは種々のサイズのほうけい酸ファイバーがネット状に形成され、圧着されたものである。
【0027】
なお、プレフィルタFpについての説明は省略するが、上記各種フィルタの製剤の種類、フィルタの数、設置順序、設置場所は適宜に変更することができる。また、汚染物質除去手段は、フィルタを組み合わせたものに限られず、汚染物質を除去することができれば汚染物質除去手段として他の任意の手段を採用することができる。例えば、光触媒として酸化チタンを含有するフィルタと紫外線ランプとの組み合わせで菌やウィルスを捕集、不活性化する手段を採用することができる。また、長期及び/又は高濃度の大気汚染に対応するために、上記フィルタFは、交換可能であることが好ましい。
【0028】
次に、作用を説明する。
【0029】
事件が発生し、大気中に汚染物質が飛散した場合、まず、運転室4内にある袋体7の連結手段14により連通部7bと車体側とを連結する。次に、排気口8を閉じた状態で、外気導入手段2のモータ9を作動し、外気を袋体7内に取り込む。
【0030】
外気は、濾過器3の複数の汚染物質除去フィルタFを通って袋体7内に流入し、袋体7を膨らませる。この場合、フィルタFのプレフィルタFpは、比較的大きな挨や塵を捕集する。抗菌・抗ウィルスフィルタFwは、菌やウィルスを捕獲し不活性化する。ケミカルフィルタFcは、種々の化学物質を吸着する。HEPAフィルタFaは、放射性汚染物質等の微粒子を捕集する。この結果、清浄な空気で膨らされた袋体7は、図4に示すように、運転室内全体を占有することになり、内部で人が自由に行動することができる生存空間を形成する。そして、袋体7の内部が、清浄な空気で充たされ、外部より高圧の陽圧状態となれば、排気口8を徐々に開け、袋体7内部の空気を排出しつつ、外気導入手段2のモータ9を継続作動する。この結果、袋体7の内部は、外部から汚染物質が侵入することがない、常時清浄な空気で充たされた陽圧状態の生存空間が維持された状態になる。
【0031】
したがって、この状態で運転者が運転室内で運転操作すれば、トラックを事件が発生した危険領域から安全な領域まで脱出させることができる。
<第2の実施形態>
前述した実施形態では、密閉手段Mとして袋体7を使用しているが、場合によっては、トラックの車体を利用してもよい。
【0032】
図5は本発明の第2の実施形態に係る移動式シェルタを示す概略断面図、図6は図5の6−6線に沿う断面図で、(A)は正常な密閉状態を、(B)は正常でない密閉状態を示しており、図7は粘着テープの平面図である。
【0033】
本実施形態の移動式シェルタで使用されている密閉手段Mは、荷室5の隙間G(図6参照)を目張りする目張り部材20により構成している。
【0034】
トラックの荷室5は、多数の板材を連続的に連結することにより形成しているが、板材などにより構成される外装材21相互間には隙間Gが存在している。このような場合でも、前述した袋体7を使用すれば、問題なく生存空間を形成することができるが、濾過器3や袋体7を収納するスペースが必要となる。
【0035】
そこで、本実施形態の移動式シェルタでは、目張り部材20を予め準備し、これを用いて隙間Gを目張りすることにより生存空間の確保を可能としている。
【0036】
目張り部材20としては、粘着テープを使用している。この粘着テープの基材は、ビニールのように空気遮断性の高い材料であることが好ましいが、粘着剤22は、図7に示すように、粘着テープの幅方向の両側端部に塗布され、中間部が無粘着剤領域23とすることが好ましい。
【0037】
このような密閉手段Mを使用すれば、外気導入手段2により外気を導入し、荷室5内を陽圧にした場合、隙間Gが正常にシールされている場合には、図6(A)に示すように、陽圧により粘着テープの中間部が外方に引かれ内部から見れば凹んだ状態となり、シールが正常でない場合には、図6(B)に示すように、漏れにより内部から見れば凹んだ状態とならず、かえって内方に膨らんだ状態となる。したがって、粘着テープの形状状態から荷室5のシール状態あるいは陽圧状態を極めて簡単に判断することができる。
【0038】
このような目張り部材20を使用すれば、濾過器3を収納するスペースは必要となるが、大きな袋体7を収納するスペースは不要となり、スペースを確保しつつ生存空間を問題なく形成することができる。
<実験例>
風量1.2m/minの吹き出し能力を有する外気導入手段2を使用し、3m×3m×2mの大きさ(容量19m)で、厚さ0.5mmのビニール製の袋体7に空気を送風した。汚染物質除去フィルタFは、高性能エアフィルタ(HEPAフィルタ)Faが、直径330mm、高さ200mm、ケミカルフィルタFcが、直径193mm、高さ150mm、のものを使用した。空気の充填に要した時間は、14分であった。
【0039】
常時、空気を導入し続けた結果、清浄な空気で充たされた陽圧状態を保持し、内部に10名を収容しても問題ないことが判明した。
【0040】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、上述した実施形態では、トラックについて説明したが、このような車両のみでなく、航空機、電車、バスあるいは船舶など、種々の移動体において使用することができるものである。
【0041】
また、場合によっては、密閉手段Mは、前述した袋体7を構成する材料である透明な膜体を適当な大きさあるいは幅に切断し、前述した粘着テープを用いてトラックの隙間などを閉塞してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、汚染物質の侵入を防止し生存空間を簡易に確保することができる移動式の移動式シェルタとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る移動式シェルタを示す概略断面図である。
【図2】同移動式シェルタの密閉手段の一例を示す断面図である。
【図3】(A)は同移動式シェルタの排気口を示す正面図、(B)は排気口の変形例を示す断面図である。
【図4】同移動式シェルタの運転室の状態を示す断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る移動式シェルタを示す概略断面図である。
【図6】図5の6−6線に沿う断面図で、(A)は正常な密閉状態を、(B)は正常でない密閉状態を示している。
【図7】粘着テープの平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1…移動式シェルタ、
2…外気導入手段、
3…濾過器、
4…運転室、
5…荷室、
6…入口、
7…袋体、
20…目張り部材(粘着テープ)、
22…粘着剤、
23…無粘着剤領域、
M…密閉手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気導入手段と、この外気導入手段により導入された外気中の汚染物質を除去する濾過器とを有し、所定の空間内の空気を浄化し生存空間を形成するシェルタであって、
移動体の運転室及び/又は荷室を密閉手段により密閉し、前記外気導入手段により外気を、前記濾過器を介して導入して前記運転室及び/又は荷室内を陽圧にし、前記運転室及び/又は荷室内を、前記移動体の操縦が可能な前記生存空間としたことを特徴とする移動式シェルタ。
【請求項2】
前記密閉手段は、入口を備えた膨張収縮自在な膜体よりなる袋体により構成したことを特徴とする請求項1に記載の移動式シェルタ。
【請求項3】
前記袋体は、透明な膜体により構成したことを特徴とする請求項2に記載の移動式シェルタ。
【請求項4】
前記密閉手段は、前記運転室及び/又は荷室の隙間を目張りする目張り部材により構成したことを特徴とする請求項1に記載の移動式シェルタ。
【請求項5】
前記目張り部材は、粘着テープにより構成したことを特徴とする請求項4に記載の移動式シェルタ。
【請求項6】
前記粘着テープは、幅方向の両側端部に粘着剤が塗布され、中間部が無粘着剤領域としたことを特徴とする請求項5に記載の移動式シェルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−113971(P2007−113971A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303719(P2005−303719)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(599077409)日本特装株式会社 (7)