説明

移動式スタンション

【課題】H形鋼上に沿って移動可能なスタンションを提供する。
【解決手段】親綱を挿通したり安全帯のフックを掛けられるリング3を上部に備えるスタンション本体2の下部に、H形鋼Sの上部フランジの両側部を上下から挟む滑車11・13を備える。具体的には、スタンション本体2の下部に設けたフレーム4に上下の滑車11・13が取り付けられている。そして、上下の滑車11・13を取り付けたコ字状部材6が、フレーム4に沿って横方向へ移動可能に取り付けられている。さらに、スタンション本体2の下部に、H形鋼Sの上部フランジの上面に対し固定可能とするロック部材9を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動式のスタンションに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨系建築物の施工においては、上端に親綱を挿通するリングが備えられたスタンションを架設桁(H形鋼)上にボルト・ナットで固定し(例えば特許文献1参照)、そのスタンション間に架設した親綱に安全帯を掛けて作業及び移動を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−350743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、切梁等の先端にスタンションを設置する作業は危険が伴い、高所では足場や高所作業車を使って設置しなければならず、また、海上等では設置できない場合もあった。
【0005】
本発明の課題は、H形鋼上に沿って移動可能なスタンションを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、親綱を挿通したり安全帯のフックを掛けられるリングを上部に備えるスタンション本体の下部に、H形鋼の上部フランジの両側部を上下から挟む滑車を備える移動式スタンションを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の移動式スタンションであって、前記スタンション本体の下部に設けたフレームに上下の滑車が取り付けられていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の移動式スタンションであって、上下の滑車を取り付けたコ字状部材が、前記フレームに沿って横方向へ移動可能に取り付けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の移動式スタンションであって、前記フレームは、上方の滑車を取り付けた上部分に対し下方の滑車を取り付けた下部分が外側に可動にヒンジ結合されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の移動式スタンションであって、前記スタンション本体の下部に、前記H形鋼の上部フランジの上面に対し固定可能とするロック部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、H形鋼上に沿ってスタンションを移動できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した移動式スタンションの実施形態1の構成を示す斜視図である。
【図2】図1の移動式スタンションをH形鋼に設置した状態の平面図である。
【図3】図2の矢印A−A線に沿った断面図である。
【図4】図2の矢印B−B線に沿った断面図である。
【図5】図2から図4の調整プレートを拡大して示すもので、上部調整プレートの平面図(a)と下部調整プレートの平面図(b)である。
【図6】実施形態2の移動式スタンションをH形鋼に設置した状態の正面図である。
【図7】図6の移動式スタンションの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
〔実施形態1〕
図1は本発明を適用した実施形態1の移動式スタンション1の構成を示すもので、図2から図4は移動式スタンション1をH形鋼Sに設置した状態を示したものであり、図中、2はスタンション本体、3はリング、4はフレーム、5は横方向長孔、6はコ字状部材、7はボルト、8はナット、9はロック部材、10はナット、11は滑車、12はホルダ、13は滑車、14はホルダである。
【0014】
図示のように、移動式スタンション1は、支柱によるスタンション本体2の上端に、図示しない親綱を挿通したり安全帯のフックを掛けられるリング3を溶接して一体に備える。また、スタンション本体2の下端には、横H形状をなすフレーム4を溶接して一体に備える。
【0015】
フレーム4は、フラットなプレート製で、スタンション本体2を中心に左右両側で前後の四箇所に、H形鋼Sのフランジ幅に対応する調整用の横方向長孔5が形成されている。フレーム4の下面には、その四箇所の横方向長孔5に沿ってスライド可能にコ字状部材6がボルト7・ナット8でそれぞれ組み付けられている。
【0016】
また、フレーム4上でスタンション本体2に対し前後には、ボルトによるロック部材9が貫通して組み付けられている。すなわち、ロック部材9は、フレーム4上の中央部前後に溶接したナット10にネジ結合して下端部がフレーム4の下方に突出している。
【0017】
そして、コ字状部材6には、その上面部の下に、上方の滑車11を軸受保持するホルダ12が前記ボルト7・ナット8で固定されて、下面部の上に、下方の滑車13を軸受保持するホルダ14が溶接されている。なお、ナット8は、ホルダ12の上部下面に溶接されている。
【0018】
ここで、フレーム4の横方向長孔5に沿ってスライド可能にコ字状部材6を組み付けるボルト7の頭部下とナット8が上部下面に溶接されたホルダ12の上には、各々複数枚の調整プレート15・16がそれぞれ介装されている。
【0019】
図5は調整プレート15・16を拡大して示すもので、図5(a)は横方向長孔5の上でボルト7の頭部下に介装される調整プレート15を示している。また、図5(b)は横方向長孔5の下でホルダ12の上に介装される調整プレート16を示している。この調整プレート16は、H形鋼Sのフランジ厚に対応する調整用である。
【0020】
以上の構成による移動式スタンション1は、先ず、前後左右の四箇所において、ホルダ12の上部下面に溶接により固定されたナット8に対しボルト7をそれぞれ緩めるとともに、フレーム4上の中央部前後のナット10に対しボルトによるロック部材9をそれぞれ緩めておく。
【0021】
そして、図2及び図3に示すように、各々のコ字状部材6をフレーム4の横方向長孔5に沿ってそれぞれスライドさせることで、桁や切梁を構成するH形鋼Sの安全な箇所において、その上部フランジのフランジ幅に合わせて上下の滑車11・13の位置をそれぞれ調整する。
【0022】
次に、H形鋼Sのフランジ厚に合わせて所定枚数の調整プレート16をホルダ12の上に差し込んで、図3及び図4に示したように、H形鋼Sの上部フランジの両側部を上下の滑車11・13が挟んだ状態にして、ナット8に対しボルト7をそれぞれ締め込む。これにより、H形鋼Sの上部フランジの上に移動式スタンション1が組み付けられる。
【0023】
また、前後のロック部材9をそれぞれ締め付けて、図3に示したように、ロック部材9の下端部をH形鋼Sの上部フランジの中央上面に圧接させる。これにより、H形鋼Sの上部フランジ上の任意位置に移動式スタンション1を固定した状態にロックする。
【0024】
このように、桁や切梁を構成するH形鋼Sの安全な箇所に組み付けて固定状態にロックした移動式スタンション1のスタンション本体2の上端のリング3に、図示しない安全帯のフックを掛けて任意の作業を行う。
【0025】
そして、H形鋼S上の移動に際しては、フレーム4上の中央部前後のボルトによるロック部材9をナット10に対しそれぞれ緩める。これにより、移動式スタンション1の固定状態のロックが解除される。従って、スタンション本体2を手で持って押し引きすると、H形鋼Sの上部フランジに圧接した上下の滑車11・13が回転して、H形鋼S上を移動式スタンション1が人とともに移動する。
【0026】
任意位置への移動後は、前述したように、前後のロック部材9をそれぞれ締め付けて、H形鋼Sの上部フランジ上に移動式スタンション1を固定状態にロックする。
【0027】
以上、実施形態の移動式スタンション1によれば、桁や切梁を構成するH形鋼Sの上において、スタンション本体2の上端のリング3に安全帯のフックを掛けた状態で、H形鋼Sの上部フランジに圧接した上下の滑車11・13の回転により人とともに移動できるため、親綱設置前のH形鋼Sの上を安全に歩行することができる。
【0028】
従って、切梁や桁の先端、高所、海上、あるいは先行設置した親綱が切れた場合等の危険な箇所においても、移動式スタンション1とともに移動して安全に作業することができる。しかも、移動式スタンション1は軽量なため、設置・撤去が容易に行える。
【0029】
また、前後左右の四箇所において、上下の滑車11・13を支持するコ字状部材6の横方向位置をそれぞれ独立して調整できるため、移動式スタンション1をセットしたまま、H形鋼Sのウェブに設けられるスティフナーなど移動に支障をきたすものをかわすことができる。
【0030】
〔実施形態2〕
図6及び図7は実施形態2の移動式スタンション21の構成を示すもので、22はスタンション本体、23はリング、24はフレーム、25はヒンジ、29はロック部材、31は滑車、33は滑車、SはH形鋼である。
【0031】
実施形態2は、図示のように、スタンション本体22の上端にリング23を備え、スタンション本体22の下端にフレーム24を備える。このフレーム24は横H形状で、その前後左右の四箇所に、ヒンジ25をそれぞれ設けている。また、フレーム24上でスタンション本体22に対し後方には、レバーによるロック部材29を備える。
【0032】
そして、フレーム24には、ヒンジ25の内側の四箇所に滑車31をそれぞれ軸受支持して、ヒンジ25の外側の四箇所の下部分に滑車33をそれぞれ軸受支持することで、移動式スタンション21を構成している。
【0033】
以上の移動式スタンション21は、図6及び図7に仮想線で示すように、フレーム24の下部分及び滑車33をヒンジ25で外側に開いた状態にして、H形鋼Sの上部フランジ上に滑車31を載せる。そして、フレーム24の下部分及び滑車33をヒンジ25により外側に開いた状態から内側に回動して、H形鋼Sの上部フランジの下面に滑車33を当接させる。
【0034】
こうして、H形鋼Sの上部フランジの上に移動式スタンション21を組み付ける。
【0035】
また、レバーによるロック部材29を揺動操作して、ロック部材29の下端部をH形鋼Sの上部フランジの中央上面に噛み込ませる。これにより、H形鋼Sの上部フランジ上の任意位置に移動式スタンション21を固定した状態にロックする。
【0036】
以上、実施形態2の移動式スタンション21によっても、前述した実施形態1と同様、H形鋼S上の人と一緒の移動と固定が行える。
【0037】
なお、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、スタンション本体、リング、フレーム、ロック部材の形状等も任意であり、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0038】
1 移動式スタンション
2 スタンション本体
3 リング
4 フレーム
5 横方向長孔
6 コ字状部材
7 ボルト
8 ナット
9 ロック部材
10 ナット
11 滑車
12 ホルダ
13 滑車
14 ホルダ
15 調整プレート
16 調整プレート
21 移動式スタンション
22 スタンション本体
23 リング
24 フレーム
25 ヒンジ
29 ロック部材
31 滑車
33 滑車
S H形鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親綱を挿通したり安全帯のフックを掛けられるリングを上部に備えるスタンション本体の下部に、H形鋼の上部フランジの両側部を上下から挟む滑車を備えることを特徴とする移動式スタンション。
【請求項2】
前記スタンション本体の下部に設けたフレームに上下の滑車が取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の移動式スタンション。
【請求項3】
上下の滑車を取り付けたコ字状部材が、前記フレームに沿って横方向へ移動可能に取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の移動式スタンション。
【請求項4】
前記フレームは、上方の滑車を取り付けた上部分に対し下方の滑車を取り付けた下部分が外側に可動にヒンジ結合されていることを特徴とする請求項2に記載の移動式スタンション。
【請求項5】
前記スタンション本体の下部に、前記H形鋼の上部フランジの上面に対し固定可能とするロック部材を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の移動式スタンション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−196036(P2011−196036A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61788(P2010−61788)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)