説明

移動検出装置及び移動検出方法

【課題】加速度センセの設置方向の固定を必要とせずに移動状態であるか静止状態であるかを判定すると共に、その判定精度を向上させた移動検出装置を得ることを目的とする。
【解決手段】図1において、加速度センサ1は、移動体にかかる加速度を検出する。ベクトル演算部2は、加速度センサ1で検出された加速度から加速度ベクトルノルムを算出する。統計演算部3は、ベクトル演算部2にて算出された加速度ベクトルノルムから、例えば標準偏差等の統計量を算出する。判定部4は、統計演算部3にて算出された統計量に基づいて静止状態にあるか移動状態にあるかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、物体の移動/静止状態を検出する移動検出装置及び移動検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の加速度センサを用いた移動検出方法では、静止と判定する基準状態を移動検出開始に先立って定めておき、その状態において検出された加速度と、ある時間に検出された加速度とを比較する方法や、一定時間間隔毎に加速度を検出し、前回の検出値と今回の検出値との差分を閾値判定する方法が用いられていた。
【0003】
一例として、移動に伴う振動によって生ずる加速度のために、加速度センサの出力電圧が静止状態において観測される値から変化することを利用して、静止状態から移動状態に遷移したことを検出する移動電話機が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−107718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の移動検出装置及び移動検出方法は以上のように構成されていたので、これらの方法では、基準状態を定めるために加速度センサの設置方向を固定したり、加速度センサの設置方向を変更する度に基準状態を再度設定し直したりする必要があるという課題があった。
また、加速度センサの検出値をそのまま用いているため、アイドリング中の自動車車内等のように定常的な振動がある環境では、静止状態であるにも関わらず移動状態であるという、誤判定が生じる課題があった。
【0006】
この発明は上記のような課題を解消するためになされたもので、加速度センセの設置方向の固定を必要とせずに移動状態であるか静止状態であるかを判定すると共に、定常的な振動がある環境においてもその影響を受けることなく高い精度で判定を行うことができる移動検出装置及び移動検出方法を与えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る移動検出装置は、少なくとも1つ以上の加速度検出軸を備えた少なくとも1つ以上の加速度センサと、加速度センサにより検出した加速度から加速度ベクトルを算出するベクトル演算部と、ベクトル演算部にて算出された複数個の加速度ベクトルから統計量を算出する統計演算部と、統計演算部にて算出された統計量から移動状態にあるか静止状態にあるかを判定する判定部とを備えたものである。
【0008】
この発明に係る移動検出方法は、少なくとも1つ以上の加速度検出軸について加速度を検出する加速度検出処理と、この加速度検出処理により検出した加速度から加速度ベクトルを算出するベクトル演算処理と、このベクトル演算処理において演算された複数個の加速度ベクトルから統計量を算出する統計演算処理と、この統計演算処理により演算した統計量を用いて移動状態にあるか静止状態にあるかを判定する移動状態判定処理を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、加速度ベクトルを用いることにより、加速度センサを任意の方向に設置することができ、また、定常的な振動等の影響を除いて判定精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1について説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係る移動検出装置の構成図である。図1において、加速度センサ1は、移動体にかかる加速度を検出する。ベクトル演算部2は、加速度センサ1で検出された加速度から加速度ベクトルノルムを算出する。統計演算部3は、ベクトル演算部2にて算出された加速度ベクトルノルムから、例えば標準偏差等の統計量を算出する。判定部4は、統計演算部3にて算出された統計量に基づいて静止状態にあるか移動状態にあるかを判定する。
なお、上記では加速度ベクトルノルムを用いた場合の例を説明したが、加速度ベクトルノルムと同様に、角度成分を用いたり、加速度ベクトルノルムと角度成分の両方を用いたりすることもできる。即ち、ベクトル演算部2は、加速度センサ1で検出された加速度から加速度ベクトルを算出した後、所定のデータ(加速度ベクトルノルムや角度成分等)を得るものである。
【0011】
図1のような構成を採ることにより、加速度センサ1の設置方向を固定したり、予め設定した初期状態からの差分を補正したりすることなく、移動体の状態判定を行うことができる。
【0012】
図1では、加速度センサ1として3軸型のセンサを1個用いる構成を示しているが、1つまたは複数の検出軸を備える加速度センサを、1個または複数個、任意に組み合わせて用いる構成としてもよい。
【0013】
次に、動作について説明する。図1の移動検出装置における、移動検出手順の例を示す。ここでは、互いに直交して配置されたx、y、zの3つの加速度検出軸を持つ3軸型の加速度センサ1を利用する場合の例を示す。
【0014】
加速度センサ1において、各検出軸方向の加速度を検出する。x軸、y軸、z軸のそれぞれにおいて検出した加速度をx1、y1、z1とする。
【0015】
ベクトル演算部2において、加速度センサ1で検出した加速度x1、y1、z1に対してベクトル加算を行い、加速度ベクトルノルムを算出する。このベクトル加算は、例えば数1で実行される。ここで、r1は加速度ベクトルノルムとする。
【数1】

【0016】
統計演算部3において、ベクトル演算部2で算出した加速度ベクトルノルムriの集合から、統計情報を算出する。例えば、N個の加速度ベクトルノルムの集合から統計情報として分散を求める場合には、数2を実行する。ここで、varは分散とする。
【数2】

【0017】
判定部4において、統計演算部3で算出した統計情報(ここでは分散var)を閾値判定することにより移動検出を行う。閾値判定による移動検出は、例えば、移動状態と判定する閾値をthreshold1、静止状態と判定する閾値をthreshold2とすると、下記の(1)及び(2)のように判定を行う。但し、threshold1≧threshold2とする。
(1)var>threshold1であれば、「移動」と判定する。
(2)var≦threshold2であれば、「静止」と判定する。
【0018】
以上のように、この実施の形態1によれば、加速度ベクトルノルムを用いることにより、加速度センサを任意の方向に設置することができ、また、定常的な振動等の影響を除いて判定精度を向上させることができる。
【0019】
実施の形態2.
以下、この発明の実施の形態2について説明する。図2は、この発明の実施の形態2に係る移動検出装置の構成図である。図2の移動検出装置は、図1の移動検出装置の構成に加えて、不要な周波数成分を抑圧するためのフィルタ部5を備えている。図1と同一の構成については説明を省略する。
【0020】
図2のような構成を採ることにより、例えば、アイドリング状態の自動車車内等定常的な振動がある環境において、その定常的な振動の周波数成分を抑圧するフィルタを用いてその影響を低減することができ、ひいては静止状態を正しく検出することができる。
【0021】
図2において、フィルタ部5をベクトル演算部2と統計演算部3との間に設置することにより、不要な周波数成分を抑圧しているため、統計演算部3に入力される加速度ベクトルノルムデータの周波数帯域が制限される。これにより、加速度ベクトルノルムデータのデータレートを削減することができるため、統計演算のために必要となる計算量及び消費電力が低減される。
【0022】
図3に、図2中のフィルタ部5の構成の一例を示す。図3において、重み係数テーブル51、乗算器52、加算器53、遅延器54によりフィルタが構成されている。セレクタ55によってDサンプル毎(Dは正の整数)に上側、または下側のフィルタ出力を交互に出力することにより、デジタル信号のサンプリングレートを1/D倍にして、信号の間引き(デシメーション)を行うことができる。ここにおいて、重み係数テーブル51にはフィルタのタップ係数が格納されており、例えばハニング窓やハミング窓等の窓関数を用いることができる。フィルタ係数の総数は2D個であり、上側の乗算器に与えられるフィルタ係数と、下側の乗算器に与えられるフィルタ係数は半位相(D個)だけずれたものになっている。
以下、具体的な動作について説明する。1〜D−1サンプル目までは、セレクタ55は中立状態にあるので出力は現れない。Dサンプル目にセレクタ55が上側の接点に接続され、フィルタ結果が出力される。そして、D+1サンプル目にはセレクタ55は中立状態に戻り、出力は停止される。この動作が2D−1サンプル目まで繰り返される。2Dサンプル目にセレクタ55は下側の接点に接続され、フィルタ結果が出力される。
【0023】
なお、図3では、フィルタ部5をベクトル演算部2と統計演算部3との間に1つ備える構成を示しているが、フィルタ部5を統計演算部3と判定部4との間等、任意の部分に1つまたは複数備える構成としてもよい。
【0024】
また、加速度センサ1として3軸型のセンサを1個用いる構成を示しているが、1つまたは複数の検出軸を備える加速度センサを1個または複数個、任意に組み合わせて用いる構成としてもよい。
【0025】
次に、動作について説明する。図2の移動検出装置における移動検出手順の例を示す。ここでは、互いに直交して配置されたx、y、zの3つの加速度検出軸を持つ3軸型の加速度センサ1を利用し、フィルタ部5をベクトル演算部2と統計演算部3の間に挿入した場合の例を示す。なお、加速度センサ1、ベクトル演算部2の動作については、実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0026】
フィルタ部5において、ベクトル演算部2で算出した加速度ベクトルノルムに対して、不要な周波数帯域の周波数成分を抑圧する。例えば、不要な周波数帯域が比較的高い周波数にある場合には、ローパスフィルタを用いることによって高周波成分を抑圧すればよい。
【0027】
統計演算部3において、フィルタ部5を適用して得た加速度ベクトルノルムriの集合から、統計情報を算出する。例えば、N個の加速度ベクトルノルムの集合から統計情報として分散を求める場合には、数2で実行される。ここで、varは分散とする。以降の判定部4の処理については、実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0028】
以上のように、この実施の形態2によれば、フィルタ部5を用いて不要な周波数成分を抑圧することにより、定常な振動がある環境においてその振動の影響を低減することができる。
【0029】
実施の形態3.
以下、この発明の実施の形態3について説明する。図4は、この発明の実施の形態3に係る移動検出装置の構成図である。実施の形態3では、判定部4は、移動/静止判定の結果に応じて加速度センサ1、ベクトル演算部2、統計演算部3及び判定部4のうちの1つまたは複数の部分における処理を適応的に変更する。
【0030】
次に、動作について説明する。図4において、判定部4は、判定結果に応じて統計演算部3及び判定部4の動作を変更する。例えば、判定結果に応じて、統計演算部3の統計演算に用いるデータ数や判定部4での判定処理に用いる判定閾値を変更する。
【0031】
以上のように、判定部4は、判定結果と入力とから、任意の各部における処理を適応的に制御する。特に、この実施の形態3によれば、移動中または静止中のそれぞれの状態で適切なパラメータを選択することにより、状態判定の精度を向上することができる。
【0032】
実施の形態4.
以下、この発明の実施の形態4について説明する。図5は、この発明の実施の形態4に係る移動検出装置の構成図である。実施の形態4では、判定部4は、移動/静止判定の結果に応じて加速度センサ1、ベクトル演算部2、フィルタ部5、統計演算部3及び判定部4のうちの1つまたは複数の部分における処理を適応的に変更する。
【0033】
次に、動作について説明する。図5において、判定部4は、判定結果に応じてフィルタ部5及び判定部4の動作を変更する場合を示している。例えば、判定結果に応じて、フィルタ部5のフィルタ処理を有効とするか無効とするかを変更したり、判定部4での判定処理に用いる判定閾値を変更する。
【0034】
以上のように、判定部4は、判定結果と入力とから、任意の各部における処理を適応的に制御する。特に、この実施の形態4によれば、移動中または静止中のそれぞれの状態で適切なパラメータを選択することにより、状態判定の精度を向上することができる。
【0035】
実施の形態5.
以下、この発明の実施の形態5について説明する。図6は、この発明の実施の形態5に係る移動検出装置の統計演算部の構成図である。図6において、統計演算部3は、入力される複数個の加速度ベクトルノルムの平均化処理を行うローパスフィルタ(第1ローパスフィルタ部31、第2ローパスフィルタ34)を備えている。
【0036】
図6の統計演算部3は以下の考察に基づいて構成されている。一般にあるデータの集合において、分散varは数3で求められる。
【数3】

ここで、平均化は各要素に含まれる変動成分(周波数軸上では高周波成分に相当する)を除去する操作であるため、一種のローパスフィルタであると考えることができる。また、このときの平均値は低周波成分であると考えることができる。従って、分散を求める処理において、平均化をローパスフィルタによって行う構成とすることができる。
【0037】

【0038】
以上のように、この実施の形態5によれば、複数個の加速度ベクトルノルムを逐次ローパスフィルタに入力することによって平均化を行うことができ、これによって、複数の加速度ベクトルノルムを記憶するためのメモリを必要とすることなく分散を求めることができるようになる。
【0039】
また、ローパスフィルタをIIRフィルタ(Infinite−dulation Impulse Response Filter)を用いて構成することもできる。この場合には、小さな計算量で分散を求めることが可能となるだけでなく、フィルタ係数を変更することにより、平均化するデータ数及び分散を計算するために利用するデータ数を容易に調整できるようになる。
【0040】
実施の形態6.
以下、この発明の実施の形態6について説明する。図7は、この発明の実施の形態6に係る移動検出装置の統計演算部の構成図である。図7の統計演算部3は、実施の形態5の統計演算部3と同様の考察に基づいて構成されており、図6の統計演算部3に平方根演算部35を付加した構成となっている。
【0041】
次に、動作について説明する。平方根演算部35は、第2ローパスフィルタ部35から出力される分散varを入力し、加速度ベクトルノルムの統計量として標準偏差を出力する。その他の動作については、実施の形態5と同様であるので説明を省略する。
【0042】
以上のように、この実施の形態6によれば、標準偏差の計算において、平均化処理をローパスフィルタを用いて構成することで、複数個の加速度ベクトルノルムを保持するためのメモリが不要となり、計算量も削減できる。
また、フィルタ係数を変更することにより、平均化を行うデータ数を容易に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の実施の形態1に係る移動検出装置の構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係る移動検出装置の構成図である。
【図3】図2中のフィルタ部5の構成図である。
【図4】この発明の実施の形態3に係る移動検出装置の構成図である。
【図5】この発明の実施の形態4に係る移動検出装置の構成図である。
【図6】この発明の実施の形態5に係る移動検出装置の統計演算部の構成図である。
【図7】この発明の実施の形態6に係る移動検出装置の統計演算部の構成図である。
【符号の説明】
【0044】
1 加速度センサ、2 ベクトル演算部、3 統計演算部、4 判定部、5 フィルタ部、31 第1ローパスフィルタ部、32 演算部、33 自乗演算部、34 第2ローパスフィルタ部、35 平方根演算部、51 重み係数テーブル、52 乗算器、53 加算器、54 遅延器、55 セレクタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つ以上の加速度検出軸を備えた少なくとも1つ以上の加速度センサと、
前記加速度センサにより検出した加速度から加速度ベクトルを算出するベクトル演算部と、
前記ベクトル演算部にて算出された複数個の前記加速度ベクトルから統計量を算出する統計演算部と、
前記統計演算部にて算出された統計量から移動状態にあるか静止状態にあるかを判定する判定部とを備えた移動検出装置。
【請求項2】
不要な周波数成分を抑圧するフィルタ部を少なくとも1つ以上備えたことを特徴とする請求項1記載の移動検出装置。
【請求項3】
前記判定部において、判定結果と前記統計演算部からの入力とに応じて、前記加速度センサ、前記ベクトル演算部、前記統計演算部、前記判定部のうちのいずれか1つまたは複数における処理を適応的に変更させることを特徴とする請求項1記載の移動検出装置。
【請求項4】
前記判定部において、判定結果と前記統計演算部からの入力とに応じて、前記加速度センサ、前記ベクトル演算部、前記統計演算部、前記フィルタ部、前記判定部のうちのいずれか1つまたは複数における処理を適応的に変更させることを特徴とする請求項2記載の移動検出装置。
【請求項5】
前記統計量として、分散または標準偏差を用いることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の移動検出装置。
【請求項6】
前記統計演算部が、前記複数個のベクトルの平均化処理をローパスフィルタを用いて行い、前記統計量として前記分散または前記標準偏差を求めることを特徴とする請求項5記載の移動検出装置。
【請求項7】
少なくとも1つ以上の加速度検出軸について加速度を検出する加速度検出処理と、
この加速度検出処理により検出した加速度から加速度ベクトルを算出するベクトル演算処理と、
このベクトル演算処理において演算された複数個の前記加速度ベクトルから統計量を算出する統計演算処理と、
この統計演算処理により演算した統計量を用いて移動状態にあるか静止状態にあるかを判定する移動状態判定処理を含む移動検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−278983(P2007−278983A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108829(P2006−108829)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】