説明

移動農機

【課題】中立位置において操作が一旦停止することなく、迅速に油圧式無段変速装置の切換が可能であり、主変速レバーが中立位置に位置した際に駐車ブレーキにより機体を停止させる移動農機を提供する。
【解決手段】主変速レバーガイド9は、前進位置F、後進位置Rとを両端部に位置する略々一直線上の直線ガイド部9aと、中立位置Nにおいて該直線ガイド部と直交する直交ガイド部9cとを有する。主変速レバー8を、直線ガイド部9aに沿って機体前後方向に操作することにより、主変速機24を前進方向及び後進方向に作動し、直交ガイド部9cに沿って機体左右方向に操作することにより、ワイヤ28を介して駐車ブレーキを作動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機等の移動農機に係り、詳しくは中立位置を挟んで、前進方向および後進方向への主変速レバーの傾動角度に応じて前進方向及び後進方向の速度調節可能な油圧式無段変速装置と、駐車ブレーキとを備え、エンジンの動力を前記変速装置を介して駆動車輪に伝達すると共に、前記駐車ブレーキにより停止させる移動農機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧式無段変速装置を介して駆動車輪に走行動力を伝動する移動農機は、主変速レバーの形状が一般に前進方向位置から後進方向位置への移動経路間がクランク形状をしており、該クランク形状の屈曲部に中立位置が配設されていた。また、機体停止時において、駐車ブレーキを掛ける上記移動農機も存在するが、該駐車ブレーキは、専用のレバーにより操作されている。
【0003】
また、主変速(走行)レバーを中立位置に位置させたとき、油圧式無段変速装置(主変速装置)は理論上、油圧が送られないはずであるが、主変速レバーの操作は多数の部材を介して変速軸に伝達されるため、これらの部材の連結部の遊び等により主変速レバーが中立位置に復帰しても、変速軸が完全に中立位置に復帰せず、僅かに圧油が流れ微速ながら油圧無段変速装置が作動して、オペレーターの停止操作にもかかわらず車体が微速前進または微速後進するクリープ現象を生ずる。該クリープ現象を防止するため、油圧式無段変速装置の変速軸に取付けた変速操作部材を中立位置から所定範囲内に位置する時に該変速操作部材に押圧摺接して変速操作部材を中立位置に移動するよう付勢する中立復帰手段を設けると共に、該中立復帰手段中央部に設けた中立係止部にて変速操作部材を係止して、変速操作部材を変速装置の中立位置に保持するように構成し、変速操作部材が前記所定範囲外に位置する時のみ中立復帰手段の中立係止部の両側の平面部に設けた制動手段にて変速操作部材を制動させる構成とした変速装置をも案出されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3620054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の移動農機のレバーガイドは、前進方向位置と後進方向位置の移動経路間に中立位置が配されており、主変速レバーの前進方向位置から後進方向位置への移動もしくはその逆のレバー動作をする際に、クランク形状の中立位置を通らなくてはならないため、納屋等の収納場所にしまう際、狭い場所においての低速での前進及び後進の切り換えや、前進及び後進の頻繁な切り換え時の迅速な主変速レバーの操作を妨げていた。
【0006】
また、主変速レバーが中立位置にあり、駐車ブレーキが掛かっていない場合には、機体が動き出してしまうことがあった。また、上記特許文献1のものは、上記クリープ現象を防止することができるとしても、その構造が複雑になってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、主変速レバーが中立位置で止まることなく迅速に主変速レバーの前進方向位置及び後進方向位置の切り換えをすることが可能であり、また主変速レバーが中立位置に位置した場合、機体が動き出さないように駐車ブレーキを作用することが可能な乗用田植機等の移動農機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、中立N位置を挟んで、前進F方向および後進R方向への主変速レバー(8)の傾動角度に応じて前進F方向及び後進R方向の速度調節可能な油圧式無段変速装置(24)と、駐車ブレーキ(32)とを備え、
エンジンの動力を前記変速装置(24)を介して駆動車輪(3,3)に伝達すると共に、前記駐車ブレーキ(32)により停止させる移動農機において、
前記主変速レバー(8)を案内するレバーガイド(9)を備え、
該レバーガイド(9)が、前進方向位置及び後進方向位置を一直線状又は略々一直線状に結ぶ直線ガイド部(9a)(9b)と、該ガイド部の中間の中立位置において該ガイド部と直交する方向の直交ガイド部(9c)と、を有することを特徴とする移動農機にある。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記主変速レバー(8)と前記駐車ブレーキ(32)とを連動し、
前記主変速レバー(8)が前記直線ガイド部(9a)(9b)に位置する場合、前記駐車ブレーキ(32)を開放し、前記直交ガイド部(9c)の端部に位置する場合、前記駐車ブレーキ(32)が作動するように構成した、
請求項1記載の移動農機にある。
【0010】
なお、括弧内の符号等は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によると、主変速レバーガイドの形状が前進方向位置及び後進方向位置を一直線状又は略々一直線状に結ぶ直線ガイド部と、該ガイド部の中間の中立位置において該ガイド部と直交する方向の直交ガイド部を有することによって、納屋に移動農機をしまう際などの狭い場所においての低速での前進及び後進の切換や、急な前進及び後進の切換のような迅速な主変速レバー操作が必要な際に、中立位置において操作を一旦停止する必要がなく、迅速なレバー操作が可能になる。
【0012】
請求項2に係る発明によると、主変速レバーと駐車ブレーキを連動させ、主変速レバーが中立位置に位置する際に駐車ブレーキが作動するように構成することにより、停止時に駐車ブレーキを確実に掛けることが出来るので、簡単な構成でもって、機体を確実に停止させることが可能となる。また、前進及び後進の切換経路内でブレーキが掛かることがないため、前進及び後進の切り換わる際に不用意に駐車ブレーキが作用することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
乗用田植機1は、図1及び図2に示すように、前輪2,2及び後輪3,3により支持されている走行機体4を有しており、該走行機体4には前輪前方部分にボンネット5に覆われたエンジン6が搭載されていると共に、前後輪の中間部分即ち機体重心部分付近に運転座席7が位置するように配設され、該運転座席7の前方にステアリングハンドル10が配設されている。さらに走行機体4の後方には植付昇降リンク11を介して植付装置12が昇降自在に支持されており、該植付装置12は、植付杆13、フロート14、苗載台15、プランターケース16等により構成されている。
【0014】
また、ステアリングハンドル10の側方には、図3に詳示するように、主変速レバー8が配設されており、該主変速レバー8を案内するように主変速レバーガイド9が配設されている。主変速レバーガイド9は、前進F方向位置、後進R方向位置、中立N位置を有する走行変速段からなり、前進F方向位置及び後進R方向位置を略々一直線状に結ぶ直線ガイド部9aと、該ガイド部の中間の中立N位置において該ガイド部と直交する方向の直交ガイド部9cを有する形状をしている。主変速レバー8は第1軸17によって機体左右方向揺動自在に支持されており、該第1軸を支持するボスブラケット18が第2軸20を中心に機体前後方向に揺動自在に支持されている。該第2軸20はステアリングコラム54から延設されたブラケットに回転自在に支持されており、従って主変速レバー8は機体4と一体のステアリングコラム54に、機体の前後方向及び左右方向に揺動自在に支持されている。
【0015】
主変速レバーガイド9は、図4(a)に詳示するように、直線ガイド部9aが前進F側9a1と後進R側9a2とで僅かにズレており、中立N位置において段違い部Dが構成されている。図4(b)は、異なるレバーガイド9を示す図で、該レバーガイド9は、直線ガイド部9bが一直線状になっており、前記段違い部を有していない。
【0016】
前記主変速レバー8の前後方向の動きに連動する前記第2軸20は、可動カム21及びカムプレート22と連結されており、カムプレート22はロッド23を介して油圧式無段変速装置24と連結している。前記主変速レバー8にはステアリングコラム54方向に付勢されるようにスプリング25が張設されており、また前記主変速レバー8の左右方向の動きに連動するボスブラケット18がリンクプレート26を介して、ワイヤ連結部材27と連結されている。該ワイヤ連結部材27は、固定部材であるブラケット55に枢支ピン49により回転自在に支持されていると共にワイヤ28の一端を連結している。該ワイヤ28の他端は図5(b)に示すように、出力側のワイヤ連結部材29と連結されており、該ワイヤ連結部材29はリンクプレート30を介して、駐車ブレーキアーム31と連結している。
【0017】
上記駐車ブレーキアーム31によって作動される駐車ブレーキ機構32は、図5に示すように、リアアクセルケース33の中央部に位置している作業動力分岐ケース34に内装されている。リアアクセルケース33は、入力軸35と、該入力軸35から得た動力を左右に分配する分配軸36と、分配軸の左右に一対設けられたサイドクラッチ機構37と、後輪車軸38とを内装支持している。上記入力軸35の動力は、ベベルギア51、52を介して分配軸36に伝達され、更に左右のサイドクラッチ機構37及びファイナル減速装置53,53を介して後輪車軸38に連動しており、従って駐車ブレーキ機構32を作動することにより、後輪車軸38が停止状態に保持される。
【0018】
作業動力分岐ケース34は、入力軸35と該入力軸35に対して並行に配置された作業PTO軸39を軸支している。入力軸35及び作業PTO軸39には互いに噛み合うギア40、41が設けられており、これらのギア40、41を介して入力軸35からの動力が作業PTO軸39に伝動される。この作業PTO軸39に伝動された動力は、本実施例においては作業伝動軸56を介して整地ロータ19へと伝動されるが、この入力軸35から取り出された作業動力の出力先は任意であり、必ずしも整地ロータ19に出力されなければならないものではない。
【0019】
駐車ブレーキ機構32は、図6に詳示するように、入力軸35のスプライン部42に軸方向移動自在に支持されている回転側ディスク43と、同じく軸方向移動自在に作業分岐ケース34の内壁に設置されている固定側ディスク44と、スプライン部42に嵌合すると共に作業動力分岐ケース34に抜止めされるカラー45と、該カラー45を上記回転側ディスク43と固定側ディスク44にと押し付けて回転側ディスク43及び固定側ディスク44間に制動力を発揮させるシフタ46から構成されている。該シフタ46は、ボルト47によって駐車ブレーキアーム31に連結されている。
【0020】
本実施の形態は、以上のような構成よりなるので、主変速レバ−8を、第2軸20を中心として機体前後方向に傾動操作すると、該第2軸20に連結されている可動カム21、カムプレート22及びロッド23を介して、油圧式無段変速装置24が、中立及び中立位置を中心として、該中立位置から離れる前進方向及び後進方向への主変速レバーの傾動角度に応じて前進方向及び後進方向に変速操作される。主変速レバーガイド9は、直線ガイド部9a、9bと、直交ガイド部9cから構成されているため、中立N位置において一旦停止することなく、上記主変速レバー8の傾動動作が可能となる。これにより、前記油圧式無段変速装置24を、迅速に変速操作することが出来る。
【0021】
また、乗用田植機1が停止するにあたって、主変速レバー8を主変速レバーガイド9の中立位置Nにおいて、直交ガイド部9cに沿って傾動すると、ボスブラケット18がステアリングコラム54方向に第1軸17を中心として回動する。これにより、リンクプレート26が図3(b)の矢印A方向に移動し、該リンクプレート26とピン48によって連結されているワイヤリンクプレート27がピン49を中心に反時計回りに回動する。そして、該ワイヤリンクプレート27の連結するワイヤ28の一端が引っ張られ、ワイヤ28の他端がワイヤ連結部材29をピン50を中心に反時計回りに回動させる。該ワイヤ連結部材29がピン50を中心に反時計回りに回動することによって、リンクプレート30を介してブレーキアーム31が時計回りにシフタ46を回動させ、カラー45を回転側ディスク43と固定側ディスク44に押し付けることによって、回転側ディスク43と固定側ディスク44の間に制動力を発揮させる。これにより、入力軸35を制動することによって駐車ブレーキ機構32を作動させる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を実施する走行作業車の一例を示す乗用田植機の平面図。
【図2】図1の側面図。
【図3】主変速レバーとブレーキ調整機構との関係を示す図で、(a)は側面図、(b)は正面図。
【図4】主変速レバーガイドを示す図で、(a)は、直線部が略々一直線状の主変速レバーガイドの構成を示す平面図、(b)は、直線部が一直線状の主変速レバーガイドの構成を示す平面図。
【図5】リアアクセルケースを示す図で、(a)は、平面断面図、(b)は、平面図、(c)は、正面図。
【図6】駐車ブレーキ機構を示す図で、(a)は、断面図、(b)は、リアアクセルケースの側面図。
【符号の説明】
【0023】
1 移動農機(乗用田植機)
2 前輪
3 後輪
4 走行機体
5 ボンネット
6 エンジン
7 運転座席
8 主変速レバー
9 主変速レバーガイド
9a、9b 直線ガイド部
9c 直交ガイド部
10 ステアリングハンドル
11 植付昇降リンク
12 植付装置
13 植付杆
14 フロート
15 苗載台
16 プランターケース
17 第1軸
18 ボスブラケット
19 整地ロータ
20 第2軸
21 可動カム
22 カムプレート
23 ロッド
24 油圧式無段変速装置
25 スプリング
26 リンクプレート
27 ワイヤ連結部材
28 ワイヤ
29 ワイヤ連結部材
30 リンクプレート
31 駐車ブレーキアーム
32 駐車ブレーキ機構
33 リアアクセルケース
34 作業動力分岐ケース
35 入力軸
36 分配軸
37 サイドクラッチ機構
38 後輪車軸
39 作業PTO軸
40,41 ギア
42 スプライン部
43 回転側ディスク
44 固定側ディスク
45 カラー
46 シフタ
47 ボルト
48 ピン
49 枢支ピン
50 ピン
51,52 ベベルギア
53 ファイナル減速装置
54 ステアリングコラム
55 ブランケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中立位置を挟んで、前進方向および後進方向への主変速レバーの傾動角度に応じて前進方向及び後進方向の速度調節可能な油圧式無段変速装置と、駐車ブレーキとを備え、
エンジンの動力を前記変速装置を介して駆動車輪に伝達すると共に、前記駐車ブレーキにより停止させる移動農機において、
前記主変速レバーを案内するレバーガイドを備え、
該レバーガイドが、前進方向位置及び後進方向位置を一直線状又は略々一直線状に結ぶ直線ガイド部と、該ガイド部の中間の中立位置において該ガイド部と直交する方向の直交ガイド部と、を有する
ことを特徴とする移動農機。
【請求項2】
前記主変速レバーと前記駐車ブレーキとを連動し、
前記主変速レバーが前記直線ガイド部に位置する場合、前記駐車ブレーキを開放し、前記直交ガイド部の端部に位置する場合、前記駐車ブレーキが作動するように構成した、
請求項1記載の移動農機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−290599(P2007−290599A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121909(P2006−121909)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)