説明

移植された神経幹細胞の免疫防御のための骨髄間質細胞

本発明は、NSCの宿主拒絶を低減または阻止するのに有効な量の骨髄間質細胞で、NSCを受容する移植体レシピエントを治療することにより、該レシピエントに対する免疫応答を低減するための方法および組成物を含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発生時損傷として腫瘍形成または遺伝的もしくはその他の要素を有する哺乳動物の神経損傷は、治療および/または回復させるのが非常に難しい。中枢神経系への神経損傷に対する1つの治療法は様々な細胞の神経移植である。神経移植を用いて、中枢神経系の発生、可塑性、および再生について調べられている(McKay, 1977, Science 276:66-71)。また、神経移植を用いて、罹患および損傷した神経組織の修復および機能回復も実施されている(Bjorklund, 1993, Nature 362:414-415;Olson, 1997, Nature Med. 3:1329-1335;Spencerら、1992, N, Engl. J. Med. 327:1541-1548;Freedら、1992, N. Engl. J. Med 327: 1549-1555;Kordowerら、1995, N. Engl. J. Med. 332: 1118-1124;Deferら、1996, Brain 119:41-50;Lopez-Lozanoら、1997, Transp. Proc. 29:977-980;Rosenstein, 1995, Exp. Neurol. 33:106; Turnerら、1993, Neurosurg. 33:1031-1037;Kangら、1993, J. Neurosci. 13:5203-5211;Anderssonら、1993, Int. J. Dev. Neurosci, 11:555-568;Sanbergら、1997, Nature Med. 3:1129-1132)。例えば、一連のヒトパーキンソン病患者は、6〜9週間のヒト流産胎児から得られる中脳細胞の神経移植により治療されている(Spencerら、1992, N, Engl. J. Med. 327:1541-1548;Freedら、1992, N. Engl. J. Med 327: 1549-1555;Kordowerら、1995, N. Engl. J. Med. 332: 1118-1124;Deferら、1996, Brain 119:41-50;Lopez-Lozanoら、1997, Transp. Proc. 29:977-980)。このような患者の一部は、臨床症状およびドーパミン合成のいずれについても有意な改善を示すことが認められた(Spencerら、1992, N, Engl. J. Med. 327:1541-1548;Freedら、1992, N. Engl. J. Med 327: 1549-1555;Kordowerら、1995, N. Engl. J. Med. 332: 1118-1124;Deferら、1996, Brain 119:41-50)。しかし、治療用途で胎児組織を取得する過程には、重要な補給および倫理的障害が立ちはだかっている(Rosenstein, 1995, Exp. Neurol. 33:106;Turnerら、1993, Neurosurg. 33:1031-1037)。また、ドーパミン作動性ニューロンに対する有害な免疫反応のために(Lopez-Lozanoら、1997, Transp. Proc. 29:977-980)、さらに、胎児組織は解糖代謝ではなく主として脂質に依存している(Rosenstein, 1995, Exp. Neurol. 33:106)ことから、約5%〜10%のドーパミン作動性ニューロンしか生存できない。これらの理由から、神経移植のための代替細胞、例えば、繊維芽細胞(Kangら、1993, J. Neurosci. 13:5203-5211)、胎児星状細胞(Anderssonら、1993, Int. J. Dev. Neurosci, 11:555-568)、ならびにセルトリ細胞(Sanbergら、1997, Nature Med. 3:1129-1132)を作り上げる試みがなされてきた。
【0002】
中枢神経系の疾患、障害、または病的状態、例えば、脳腫瘍、脳外傷、ハンチントン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、ならびに脊髄損傷などを移植によって治療するためには、ドナー細胞は、容易に入手可能で、迅速に培養増殖することができ、免疫学的に不活性であり、宿主の脳組織中で長期にわたる生存および組込みが可能であり、かつ外来遺伝子の安定したトランスフェクションおよび長期発現に適したものでなければならない(Bjorklund, 1993, Nature 362:414-415;Olson, 1997, Nature Med. 3:1329-1335)。これらの基準を満たすドナー細胞は現在のところ入手できない。
【0003】
中枢神経系(CNS)の発生の際、多能性前駆細胞(神経幹細胞(NSC)としても知られる)が増殖し、一時的に分裂中の前駆細胞(これは最終的に、成体脳を構成する細胞型に分化する)を生じる。幹細胞(他の組織由来のもの)は伝統的には、自己複製し(すなわち、さらなる幹細胞を形成する)、増殖し、そして多様な異なる表現型系統に分化する能力を有するものとして定義されてきた。神経幹細胞の場合には、異なる表現型系統として、ニューロン、星状細胞およびオリゴデンドロサイトが挙げられる。
【0004】
NSCは、いくつかの哺乳動物種(マウス、ラット、ブタおよびヒトを含む)から単離されている(WO 93/01275、WO 94/09119、WO 94/10292、WO 94/16718;Cattaneoら、1996, Mol. Brain Res. 42:161-66)。ヒトCNS神経幹細胞は、そのげっ歯類相同体と同様に、マイトジェン(典型的には、表皮増殖因子または表皮増殖因子と塩基性繊維芽細胞増殖因子)を含有し、かつ血清を含まない培地で維持すると、懸濁培養物として増殖し「ニューロスフェア(neurosphere)」として知られる細胞の凝集塊を形成する。ヒト神経幹細胞の倍加速度は約30日であることが観察されている(Cattaneoら、1996, Mol. Brain Res. 42:161-66)。マイトジェンを除去すると、その幹細胞は、ニューロン、星状細胞およびオリゴデンドロサイトへと分化することができる。
【0005】
哺乳動物免疫系は、感染因子から個体を防御し、腫瘍増殖を阻止する上で中心的役割を果たす。しかし、同じ免疫系は、非関連ドナーからの細胞、組織および臓器移植片の拒絶のような望ましくない効果を引き起こしうる。免疫系は、移植組織のような有益な侵入物を、有害なものから識別しないため、その免疫系は移植組織または臓器を拒絶する。移植臓器の拒絶は、一般に、ドナー同種抗原(alloantigen)または異種抗原を認識する、宿主に存在する同種異系反応性T細胞により媒介される。
【0006】
遺伝的に異なる個体間の細胞、組織および臓器の移植には常に移植片拒絶の危険性をもたらす。ほぼすべての細胞が、主要組織適合性複合体(MHC)クラスI分子の産物を発現する。さらに、多くの細胞型は、炎症性サイトカインに暴露されると、MHCクラスII分子を発現するように誘導されうる。別の免疫原性分子として、女性レシピエントにより認識されるY染色体抗原のような副組織適合抗原由来の分子が挙げられる。同種移植片の拒絶は、主としてCD4およびCD8サブクラス両方のT細胞により媒介される(Rosenbergら、1992, Annu. Rev. Immunol. 10:333)。同種異系反応性CD4+T細胞は、同種抗原に対する細胞溶解性CD8応答を増幅させるサイトカインを生産する。これらのサブクラス内で、抗原刺激の後、細胞の競合サブセットが発生するが、それは、これらが生産するサイトカインを特徴とする。IL-2およびIFN-γを生産するTh1細胞は、同種移植片拒絶に主として関与する(Mossmannら、1989, Annu. Rev. Immunol. 7:145)。IL-4およびIL-10を生産するTh2細胞は、IL-10を介してTh1応答をダウンレギュレートすることができる(Fiorentinoら、1989, J. Exp. Med. 170:2081)。実際に、望ましくないTh1応答をTh2経路に移行させるために多大な努力が注がれてきた。患者における望ましくない同種異系反応性T細胞応答(同種異系移植拒絶、移植片対宿主病)は、通常は、免疫抑制薬、例えば、プレドニゾン、アザチオプリン、およびシクロスポリンAを用いて対処されている。残念ながら、これらの薬剤は一般に患者の生涯にわたって維持する必要があり、これらには全身免疫抑制を含む多くの危険な副作用がある。汎免疫抑制よりはるかに優れた手法は、ドナー細胞同種抗原に対する特異的または限局性の抑制を誘導し、残りの免疫系はインタクトのままとすることである。
【0007】
同種抗原に対する免疫寛容を誘導し、これによって同種異系幹細胞の移植を可能にする多数の方法があると考えられている。残念なことに、げっ歯類動物モデルではうまく機能した手法の多くが、非ヒト霊長類またはヒトに適用した場合には成功していない。同様に、核移植を用いてレシピエントと遺伝的に同一の胚性幹細胞のクローンを作製することも、近年ヒトについて限定的な成功の報告はあったものの(Hwangら、2004, Science 303:1669)、高等生物種についてはなお問題を含んでいる。この技術をどのようにして他の種類の幹細胞の操作に適用できるのか、また、操作および増殖に必要な時間がその有用性を喪失させるかどうかについては明らかではない。
【0008】
幹細胞は、恐らくその分化および免疫調節特性が未熟な状態であるために、低い程度の免疫原性を示すことが報告された。ラット胚性幹細胞様細胞系は、低レベルのMHCクラスI抗原を発現し、それらはMHCクラスII分子およびCD80(B7-1)/86(B7-2)共刺激分子の発現については陰性である(Fandrichら、2002, Nat. Med. 8:171)。これらの細胞は、それを門脈に注射すると、免疫適格性同種異系レシピエントラットの肝臓に生着した。生着は、共刺激分子の欠如と、幹細胞系によるFasLの発現によって引き起こされた。活性化T細胞は、Fas受容体を発現し、これにより、幹細胞系によりアポトーシスを起こしやすくなる。移植した胎児性および胚性幹細胞由来の組織はしばしばレシピエントの免疫系により拒絶されるため、上記のような特性が他の胚性幹細胞系にも共通するかどうかについては現在のところわかっていない(Bradleyら、2002, Nat. Rev. 2:859, Kaufmanら、2000, E-biomed 1:11)。げっ歯類由来の神経幹細胞は、低いかまたは無視できるレベルのMHCクラスIまたはクラスII抗原を発現する(McLarenら、2001, J. Neuroimmunol 112:35)が、これらの細胞は通常、免疫抑制薬を使用しない限り、同種異系レシピエントへの移植後拒絶される(Masonら、1986, Neuroscience 19:685, Sloanら、1991, Trends Neurosci. 14:341, Woodら、1996, Neuroscience 70:775)。拒絶は、IFNファミリーの炎症性サイトカインへの暴露後、MHC分子が細胞膜上でアップレギュレートされた後に開始するのかもしれない(McLarenら、2001, J. Neuroimmunol 112:35)。
【0009】
臓器移植における主要な目標は、レシピエントにより生じる移植片拒絶免疫応答を誘導することがなく、しかも、他の外来抗原に対するレシピエントの免疫能を保ちながらの、ドナー臓器の永続的生着である。典型的には、宿主拒絶応答を阻止するために、非特異的免疫抑制薬(例えば、シクロスポリン、メトトレキセート、ステロイドおよびFK506)を用いる。これらの薬剤は、毎日投与しなければならず、投与を停止すると、通常、移植片拒絶が起こる。しかし、非特異的免疫抑制薬を用いる上での重要な問題が、それらが免疫応答のあらゆる態様を抑制することにより機能するため、感染やその他の疾患(癌など)に対するレシピエントの感受性を大幅に高めることである。さらに、免疫抑制薬の使用にもかかわらず、移植片拒絶はまだ依然としてヒト臓器移植における罹患および死亡の主な原因のままである。ほとんどのヒト移植体は、永続的な移植片受容をされることなく10年以内に機能しなくなる。心臓移植体の50%が5年間生存し、腎移植体の20%が10年間生存するにすぎない(Opelzら、1981, Lancet 1:1223)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
移植の成功は、免疫エフェクター細胞により媒介される移植体に対する宿主による望ましくない免疫応答を阻止および/または低減して、ドナー組織の宿主拒絶を回避することにかかっていると現在考えられている。また、移植片対宿主病として知られる、レシピエント組織に対するドナー組織による望ましくない免疫応答を排除または低減する方法も、移植を成功させるために有利である。そこで、遺伝的に異なる個体間での細胞、組織および臓器の移植に関連する望ましくない免疫応答を抑制あるいはさもなければ阻止する方法が長間にわたり求められてきた。本発明はこの必要性に応えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の簡単な概要
本発明は、神経幹細胞(NSC)の移植のための組成物および方法を含む。本発明はまた、NSCの移植を受ける患者を治療するための組成物および方法も包含する。
【0012】
本発明は、移植体が神経幹細胞(NSC)である移植体レシピエントを、該レシピエントにおけるエフェクター細胞にとっての同種抗原に対する該エフェクター細胞の免疫応答が低減するように治療する方法を含む。
【0013】
一態様では、上記方法は、エフェクター細胞にとっての同種抗原に対する該エフェクター細胞の免疫応答を低減するのに有効な量で骨髄間質細胞(BMSC)を移植体レシピエントに投与し、これにより、該移植体レシピエントにおいて、該エフェクター細胞が示す該同種抗原に対する免疫応答が低減することを含む。
【0014】
別の態様では、前記エフェクター細胞はT細胞である。
【0015】
別の態様では、前記T細胞はドナーに由来し、かつ前記同種抗原はレシピエントに由来する。
【0016】
さらに別の態様では、前記T細胞はレシピエントに由来し、かつ前記同種抗原はドナーに由来する。
【0017】
別の態様では、前記T細胞が移植体に存在する。
【0018】
さらに別の態様では、BMSCを移植体レシピエントに投与する前に、該BMSCを培養により増殖させる。
【0019】
一態様では、前記エフェクター細胞は、BMSCの投与前に活性化させておいたT細胞であり、さらに、前記免疫応答はドナー由来のT細胞の再活性化である。
【0020】
さらに別の態様では、BMSCを移植体レシピエントに投与することにより、レシピエントによる移植体の拒絶を治療する。
【0021】
別の態様では、BMSCはヒトに由来する。
【0022】
別の態様では、BMSCはマウスまたはラットに由来する。
【0023】
さらに別の態様では、NSCはヒトに由来する。
【0024】
さらなる態様では、免疫抑制薬を移植体レシピエントに投与する。
【0025】
一態様では、移植体をレシピエントに投与する前に、BMSCをレシピエントに投与する。
【0026】
別の態様では、BMSCは、移植体と同時にレシピエントに投与する。
【0027】
さらなる態様では、BMSCを移植体の一部として投与する。
【0028】
さらに別の態様では、BMSCは、移植体の移植後に、レシピエントに投与する。
【0029】
一態様では、BMSCをレシピエントに静脈内投与する。
【0030】
別の態様では、エフェクター細胞は、移植体のレシピエントの細胞である。
【0031】
さらなる態様では、BMSCが遺伝的に改変されている。
【0032】
本発明は、移植体が神経幹細胞(NSC)である移植体レシピエントを、該レシピエントにおけるエフェクター細胞にとっての同種抗原に対する該エフェクター細胞の免疫応答が低減するように治療する方法であって、エフェクター細胞にとっての同種抗原に対する該エフェクター細胞の免疫応答を低減するのに有効な量のBMSCと共に、NSCを移植体レシピエントに移植し、これにより、該移植体レシピエントにおいて、該エフェクター細胞が示す該同種抗原に対する免疫応答を低減することを含む、前記方法を包含する。
【0033】
一態様では、前記エフェクター細胞はT細胞である。
【0034】
図面の簡単な説明
以上の概要、ならびに、以下の本発明の詳細な説明は、添付の図面と組合せて読むことにより、よりよく理解されよう。本発明を説明する目的で、目下好ましい実施形態を図面に示す。しかし、本発明は図示する具体的構成および手段に限定されるわけではないことは理解されるべきである。
(図面の簡単な説明の内容については後述)
【0035】
詳細な説明
本発明は、骨髄間質細胞(BMSC)が、新規の免疫学的特徴を有し、それにより、レシピエント自身の免疫系による移植体に対する免疫応答を低減および/または排除することによって移植体、例えば、生体適合性格子またはドナー組織の移植に有用でありうるという発見に関する。以下にさらに十分に説明するように、BMSCは、移植体の同種移植片拒絶を阻止および/または予防する上で役割を果たす。
【0036】
加えて、本明細書で開示したデータは、BMSCが、移植片対宿主病としても知られる、レシピエント組織に対するドナー移植体(例えば、生体適合性格子またはドナー組織、臓器もしくは細胞)による望ましくない免疫応答の阻止および/または予防に有用であることを実証している。
【0037】
従って、本発明は、移植体の宿主拒絶を低減または阻止するのに有効な量のBMSCでレシピエントを治療することにより、該レシピエントにおいて移植体に対する免疫応答を低減および/または排除するための方法および組成物を包含する。また、レシピエントに対するドナー移植体による有害な応答を阻止または低減するために、ドナー移植体および/または移植体のレシピエントを骨髄間質細胞で治療することにより、宿主において、宿主に対する外来性移植体による免疫応答、すなわち、移植片対宿主病を軽減および/または排除するための方法および組成物も含まれる。
【0038】
定義
本明細書では、以下に挙げる用語の各々は本節にそれと関連付けて示す意味を有する。
【0039】
本明細書で用いる冠詞(”a”および”an”)は、その冠詞が文法上対象とする1または2以上(すなわち、少なくとも1つ)の目的語を指す。例えば、「an element」とは、1または2以上の要素を意味する。
【0040】
用語「約」とは、当業者には理解されるであろうし、それが用いられる文脈に応じてある程度まで変動しうる。
【0041】
本明細書で用いる用語「自己(autologous)」とは、後にそれを再導入しようとする個体と同じ個体に由来するあらゆる材料を指すことを意味する。
【0042】
本明細書で用いる用語「生体適合性格子」は、組織発生に寄与する三次元構造の形成を促進することができる基質を指すことを意味する。従って、例えば、細胞外マトリックス材料、合成ポリマー、サイトカイン、増殖因子などを含むものなどの、そのような生体適合性格子上で細胞を培養または接種することができる。この格子は、組織型の発達を促進するために所望の形状に成形することができる。また、培地および/または基質には、細胞の培養中の少なくとも早期段階で、適切な組織型および構造の発達を促進する因子(例えば、増殖因子、サイトカイン、細胞外マトリックス材料など)を補充する。
【0043】
本明細書で用いる用語「骨髄間質細胞」、「間質細胞」、「間葉幹細胞」、または「MSC」は、互換的に用いられ、骨細胞、軟骨細胞、および脂肪細胞の幹細胞様前駆体として機能できる骨髄中の細胞の小画分を意味する。骨髄間質細胞は詳細に研究されている(Castro-Malaspinaら、1980, Blood 56:289-30125;Piersmaら、1985, Exp. Hematol 13:237-243;Simmonsら、1991, Blood 78:55-62;Beresfordら、1992, J. Cell. 102:341-3 51;Liesveldら、1989, Blood 73:1794-1800;Liesveldら、Exp. Hematol 19:63-70;Bennettら、1991, J. Cell. Sci. 99:131-139)。骨髄間質細胞は、任意の動物に由来するものであってよい。いくつかの実施形態では、間質細胞は、霊長類、好ましくはヒトに由来する。さらに、BMSCは、免疫応答時に同種異系反応性T細胞増殖を抑制することができる。例えば、BMSCは、同種異系T細胞と末梢血単核細胞(PBMC)の間でのリンパ球混合反応(MLR)を抑制することができる。
【0044】
本明細書で用いる「神経幹細胞」または「NSC」は、未分化で、多能性の、自己複製性神経細胞を指す。神経幹細胞は、分裂することができ、かつ、適切な条件下で自己複製能を有し、最終的にニューロン、星状細胞、およびオリゴデンドロサイトに分化することができるクローン性多能性幹細胞である。
【0045】
従って、神経幹細胞は、幹細胞子孫が多数の分化経路を有することから、「多能性」である。神経幹細胞は自己保持(self maintenance)が可能であり、これは、細胞分裂毎に、平均して1個の娘細胞が同様に幹細胞になることを意味する。
【0046】
「移植片」とは、移植用の細胞、組織、臓器またはその他のあらゆる生物学的に適合性の格子を指す。
【0047】
「同種異系」とは、同じ生物種の別個の動物に由来する移植片を指す。
【0048】
「異種」とは、異なる生物種の動物に由来する移植片を指す。
【0049】
「移植体」とは、移植しようとする生体適合性格子、またはドナー組織、臓器もしくは細胞を指す。移植体の例として、限定するものではないが、皮膚細胞または組織、骨髄、ならびに、心臓、膵臓、腎臓、肺および肝臓などの固形臓器が挙げられる。好ましくは、移植体はヒト神経幹細胞である。
【0050】
本明細書で定義するように、「同種異系骨髄間質細胞(BMSC)」は、レシピエントと同じ生物種の別の個体から取得する。
【0051】
「ドナー抗原」とは、レシピエントに移植しようとするドナー組織により発現される抗原を指す。
【0052】
「同種抗原」は、レシピエントにより発現される抗原とは異なる抗原である。
【0053】
本明細書で用いる「エフェクター細胞」とは、抗原に対する免疫応答を媒介する細胞を指す。移植体をレシピエントに導入する状況には、エフェクター細胞は、ドナー移植体に存在する抗原に対する免疫応答を惹起するレシピエント自身の細胞でありうる。別の状況では、エフェクター細胞は、移植体の一部であってよく、それにより、レシピエントへの移植体の導入が、移植体に存在するエフェクター細胞による移植体のレシピエントに対する免疫応答を惹起する。
【0054】
本明細書で用いているように、「移植体レシピエントを、該レシピエントにおけるエフェクター細胞にとっての同種抗原に対する該エフェクター細胞の免疫応答が低減するように治療する」との言い回しは、任意の方法により、例えば、レシピエントにBMSCを投与することにより、レシピエントにおける同種抗原に対する内因性免疫応答を、BMSCを用いて治療しなかったこと以外は同一の動物における内因性免疫応答と比較して低減させることを意味する。内因性免疫応答の低減は、本明細書に開示する方法、または動物における内因性免疫応答を評価する他の任意の方法を用いて、評価することができる。
【0055】
本明細書で用いる「治療上有効な量」とは、BMSCを投与する被験体に有益な効果をもたらすのに十分なBMSCの量である。
【0056】
本明細書で用いる「内因性」とは、生物、細胞または系の内部に由来するかまたはそこで生産される任意の材料を指す。
【0057】
「外来性」とは、生物、細胞または系の外から導入されるかまたはその外で生産される任意の材料を指す。
【0058】
「コードする」とは、遺伝子、cDNA、またはmRNAのようなポリヌクレオチド状のヌクレオチドの特定の配列についての、ヌクレオチド(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)の規定配列またはアミノ酸の規定配列のいずれかとそこから得られる生物学的特性とを有する他のポリマーおよび高分子を生物学的プロセスで合成するための鋳型として機能するという固有の特性を指す。従って、当該遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳によって細胞または他の生体系においてタンパク質が生産される場合、その遺伝子はそのタンパク質をコードする。そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、かつ、通常、配列表に記載されるコード鎖と、遺伝子またはcDNAの転写の鋳型として用いられる非コード鎖のいずれについても、当該遺伝子またはcDNAのタンパク質またはその他の産物をコードするものとして言うことができる。
【0059】
特に記載のない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重形態であり同一のアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列を含む。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチド配列はイントロンを含んでもよい。
【0060】
「単離された核酸」とは、天然の状態ではそれに隣接する配列から分離されている核酸セグメントまたは断片を指し、例えば、DNA断片であって該断片に通常は隣接する配列(例えば、天然に生成されたゲノム中で該断片に隣接する配列)から切り出されたものが挙げられる。この用語は、該核酸に天然に付随して存在する他の成分、例えば、細胞中でそれに天然に付随して存在するRNAまたはDNAまたはタンパク質から、実質的に精製された核酸にも適用される。従って、この用語は、例えば、ベクター、自律複製プラスミドもしくはウイルス、または、原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA中に組み込まれているか、あるいは、他の配列とは独立した別個の分子として(例えば、PCRまたは制限酵素消化により生成されるcDNAまたはゲノムもしくはcDNA断片として)存在する、組換えDNAを包含する。さらにこの用語は、追加のポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNAも含む。
【0061】
本発明に関して、一般的に存在する核酸塩基に対しては次の略語を用いる。「A」はアデノシン、「C」はシトシン、「G」はグアノシン、「T」はチミジン、そして「U」はウリジンを指す。
【0062】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、細胞の内部にその単離された核酸を送達するのに用いることができる合成物である。多数のベクターが当技術分野では知られており、例えば、限定するものではないが、線状ポリヌクレオチド、イオン化合物または両親媒性化合物に関連するポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスが挙げられる。従って、用語「ベクター」は、自律複製プラスミドまたはウイルスを含む。この用語はまた、細胞への核酸の導入を促進する非プラスミド性化合物および非ウイルス性化合物、例えば、ポリリシン化合物、リポソームなども含むと解釈すべきである。ウイルスベクターの例として、限定するものではないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが挙げられる。
【0063】
「発現ベクター」とは、発現させようとするヌクレオチド配列に機能しうるように連結した発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含んでなるベクターを指す。発現ベクターは、発現に十分なシス作用エレメントを含み;発現のための他のエレメントを、宿主細胞により、またはin vitro発現系において、供給してもよい。発現ベクターとしては、組換えポリヌクレオチドを組み込む、コスミド、プラスミド(例えば、裸のもの、またはリポソームに含まれるもの)およびウイルスのような当技術分野で公知の全てのものが包含される。
【0064】
説明
本発明は、骨髄間質細胞(BMSC)を、異なる個体から得られるT細胞(同種異系T細胞)に接触させると、その同種異系T細胞は増殖しないという発見に関する。従来技術の定説では、T細胞を他の任意の細胞と混合させると、続いてT細胞の増殖が起こることが示唆されている。リンパ球混合反応(MLR)は、免疫原性を評価するのに用いられる標準的なアッセイである。本明細書に開示するデータは、ある個体に由来するT細胞が、別の個体から得たBMSCに対し応答性ではないことを実証している。従って、本明細書の開示によれば、BMSCは、T細胞応答の出現に関しては、免疫系にとって免疫原性ではない。
【0065】
別の個体のTリンパ球に関するBMSCの非免疫原性という表現型に加えて、本発明は、BMSCが、同種異系細胞間のMLR、例えば、一方の個体由来のT細胞と他方の個体由来の末梢血単核細胞(PBMC)間のMLRを抑制できるという発見に関する。これらの予想外の結果は、BMSCが、異なる個体に由来するT細胞とPBMCの間のMLRにおいて同種異系T細胞応答を積極的に低減させることができることを示す。さらに、本明細書の他箇所でさらに詳しく説明するように、この低減は用量依存的に起こることが認められる。このことは、BMSCを、移植体の宿主拒絶を阻止し、さらには、移植後の移植片対宿主病を予防またはさもなければ阻止するための治療として使用できることを示している。
【0066】
I.移植体の宿主拒絶を阻止するための治療
本発明は、移植体の宿主拒絶を阻害するための治療法として、BMSCを用いる方法を包含する。本発明は、BMSCが同種異系T細胞の増殖を誘発しないという発見に基づく。加えて、BMSCは、MLR反応においてT細胞増殖を抑制することが認められた。
【0067】
本明細書に記載する開示に基づき、当業者は、BMSCの同種異系T細胞応答を抑制する能力が、全く異なる個体に由来するT細胞とPBMCとの間のMLRに限定されないことは理解されよう。むしろ、BMSCは、異なる個体に由来するT細胞と任意の型の細胞との間のMLRの抑制を含めて活用されうる。例えば、T細胞と、神経幹細胞(NSC)、肝細胞、心臓細胞、軟骨細胞、腎細胞、脂肪細胞などとの間のMLRを、BMSCを用いて抑制することができる。好ましくは、移植されたヒトNSCの宿主拒絶を阻止するために、BMSCを用いる。
【0068】
本発明は、移植体のレシピエントに、該移植体の宿主拒絶を低減または阻止するのに有効な量のBMSCを投与することにより、レシピエントにおける移植体に対する免疫応答を低減および/または排除する方法を包含する。特定の理論に拘束されることは意図しないが、移植体のレシピエントに投与するBMSCは、レシピエントのT細胞の活性化および増殖を阻止する。
【0069】
移植体には、移植しようとする生体適合性格子またはドナー組織、臓器もしくは細胞が包含される。移植体の例として、限定するものではないが、皮膚細胞もしくは組織、骨髄、ならびに、心臓、膵臓、腎臓、肺および肝臓などの固形臓器が挙げられる。好ましくは、移植体はヒト神経幹細胞である。
【0070】
本明細書に記載する開示によれば、BMSCは任意の供給源から、例えば、組織ドナー、移植体レシピエントまたは別の非関連供給源(異なる個体または種すべて)から取得することができる。BMSCは、T細胞(同じ宿主から得られるもの)に対して自己性であっても、あるいは、T細胞に対して同種異系であってもよい。BMSCが同種異系である場合には、BMSCは、T細胞が応答する対象の移植体に対して自己性であってもよいし、あるいは、BMSCは、T細胞の供給源とT細胞が応答する対象の移植体の供給源の両方に対して同種異系である個体から得てもよい。さらに、BMSCは、T細胞に対して異種性(異なる種の動物由来)であってもよく、例えば、ラットBMSCを、MLRにおいてヒトT細胞の活性化および増殖を抑制するために使用することができる。
【0071】
さらなる実施形態では、本発明で用いるMBSCは、任意の種の哺乳動物(限定するものではないが、ヒト、マウス、ラット、類人猿、テナガザル、ウシなど)の骨髄から単離することができる。好ましくは、ヒト、マウス、またはラットからBMSCを単離する。さらに好ましくは、ヒトからBMSCを単離する。
【0072】
本願の開示によれば、BMSCを単離し、in vitroでの培養で増殖させて、本明細書に記載する方法で用いるのに十分な数の細胞を得ることができる。例えば、BMSCは、ヒト骨髄から単離し、完全培地(4 mM L-グルタミン、10%FBS、および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM低グルコース)中で培養することができる。しかし、本発明は決して、BMSCを単離および培養するいずれか1つの方法に限定されると解釈すべきではない。むしろ、BMSCを単離および培養するあらゆる方法が、本発明に包含されると解釈すべきである。
【0073】
BMSCをin vitroで支持することができる任意の培地を用いて、BMSCを培養することができる。BMSCの増殖を支持することができる培地処方としては、限定するものではないが、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、α改変最小必須培地(αMEM)、およびロズウェルパークメモリアルインスティチュート培地1640(RPMI培地1640)などが挙げられる。典型的には、BMSCの増殖を支持するために、0〜20%のウシ胎仔血清(FBS)または1〜20%のウマ血清を上記培地に添加する。しかし、BMSCの培養に必要な、増殖因子、サイトカイン、およびホルモンが適切な濃度で培地に供給されるのであれば、規定培地を用いてもよい。本発明の方法において有用な培地に、1以上の目的とする化合物を含有させてもよく、このようなものとして、限定するものではないが、BMSCの培養に有用な抗生物質、分裂促進化合物または分化化合物が挙げられる。細胞は、27℃〜40℃、好ましくは31℃〜37℃の温度で、さらに好ましくは加湿インキュベーターにおいて増殖させることができる。二酸化炭素含量は2%〜10%の間、酸素含量は1%〜22%の間に維持すればよい。しかし、本発明は決して、BMSCを単離および培養するいずれか1つの方法に限定されると解釈すべきではない。むしろ、BMSCを単離および培養するあらゆる方法が、本発明に包含されると解釈すべきである。
【0074】
培地に添加することができる抗生物質として、限定するものではないが、ペニシリンおよびストレプトマイシンが挙げられる。培地中のペニシリンの濃度は、1ml当たり約10〜約200単位である。培地中のストレプトマイシンの濃度は、約10〜約200μg/mlである。
【0075】
本発明の別の実施形態は、移植体のレシピエントにBMSCを投与する経路を包含する。移植体、すなわち、移植しようとする生体適合性格子またはドナー組織、臓器もしくは細胞の配置に適した経路によりBMSCを投与することができる。BMSCは、全身的、すなわち、非経口的に、静脈内注射により、投与するか、あるいは、特定の組織または臓器、例えば、骨髄へとターゲッティングすることができる。BMSCは、細胞の皮下移植によって、あるいは、結合組織、例えば、筋肉への該細胞の注射により投与することができる。
【0076】
BMSCは、約0.01〜約5×106細胞/mlの濃度で、適切な希釈剤に懸濁させることができる。注射液に適した賦形剤は、BMSCおよびレシピエントと生物学的および生理学的に適合性のもの、例えば、緩衝食塩水もしくはその他の好適な賦形剤である。投与のための組成物は、適正な滅菌および安定性を満たす標準的方法に従って、製剤化し、生産し、そして保存することができる。
【0077】
BMSCの投薬量は、広い範囲内で変動し、個別の各ケースにおける個々の要件に応じて調節することができる。用いる細胞の数は、レシピエントの体重および状態、投与の回数および/または頻度、ならびに当業者には周知のその他の変量に応じて決まる。
【0078】
体重100 kg当たり約105〜約1013個のBMSCを個体に投与することができる。いくつかの実施形態では、体重100 kg当たり約1.5×106〜約1.5×1012個の細胞を投与する。いくつかの実施形態では、体重100 kg当たり約1×109〜約5×1011個の細胞を投与する。いくつかの実施形態では、体重100 kg当たり約4×109〜約2×1011個の細胞を投与する。いくつかの実施形態では、体重100 kg当たり約5×108〜約1×101個の細胞を投与する。
【0079】
本発明の別の実施形態では、移植の前に、または移植と同時に、BMSCをレシピエントに投与して、移植体の宿主拒絶を低減および/または排除する。特定の理論に拘束されることは意図しないが、移植体の移植の前に、またはこれと同時に、レシピエントのT細胞による移植体に対する免疫応答を低減、阻止または排除するのに有効な量でBMSCをレシピエントに投与することにより、BMSCを用いて、該移植体に対してレシピエントの免疫系を条件付けすることもできる。BMSCは、移植体と共に与えられると、レシピエントのT細胞に影響を及ぼしてT細胞応答を低減、阻止または排除する。従って、移植の前、または移植と同時に、BMSCをレシピエントに投与することにより、移植体の宿主拒絶を回避するか、またはその重症度を軽減することができる。
【0080】
別の実施形態では、BMSCは、移植体の投与後に移植体のレシピエントに投与することができる。さらに、本発明は、移植体に対する有害な免疫応答を経験している患者に、移植体に対する免疫応答(移植体の宿主拒絶としても知られる)を低減、阻止または排除するのに有効な量でBMSCを投与することにより、該患者を治療する方法を含む。
【0081】
II.移植後の移植片対宿主病を阻止する治療
本発明は、移植後の移植片対宿主病を阻止する治療法としてBMSCを用いる方法を含む。本発明は、BMSCが同種異系T細胞増殖を誘発しないという発見に基づく。加えて、BMSCは、MLR反応においてT細胞増殖を抑制することが観察された。
【0082】
本発明は、レシピエントに対するドナー移植体による免疫応答(すなわち、移植片対宿主病)を低減および/または排除する方法も提供する。従って、本発明は、例えば、レシピエントに移植体を移植する前に、ドナー移植体、例えば、生体適合性格子またはドナー組織、臓器または細胞、好ましくは神経幹細胞をBMSCと接触させる方法を包含する。BMSCは、レシピエントに対するドナー移植体による有害な応答を改善、阻止または低減するように機能する。
【0083】
本明細書の他箇所で記載するように、移植体のレシピエントに対する移植体による望ましくない免疫応答を排除または低減するのに用いるには、BMSCは、任意の供給源から、例えば、組織ドナー、移植体レシピエントもしくは別の非関連供給源(異なる個体または種すべて)から取得することができる。従って、BMSCは、組織ドナー、移植体レシピエントまたは別の非関連供給源にとって自己性、同種異系または異種性のいずれでもよい。
【0084】
本発明の一実施形態では、レシピエントに移植体を移植する前に、該移植体をBMSCに暴露する。この場合、任意の同種異系反応性レシピエント細胞によって引き起こされる移植体に対する免疫応答は、移植体中に存在するBMSCにより抑制されるであろう。BMSCはレシピエントにとって同種異系であり、ドナー由来のものでも、または、ドナーもしくはレシピエント以外の供給源由来のものでもよい。ある場合には、レシピエントにとって自己性のBMSCを用いて、移植体に対する免疫応答を抑制することもできる。別の場合には、BMSCはレシピエントにとって異種でもよく、例えば、マウスまたはラットBMSCを用いて、ヒトにおける免疫応答を抑制することができる。しかし、本発明では、ヒトBMSCを用いるのが好ましい。
【0085】
本発明の別の実施形態では、レシピエントに対する移植体の免疫原性を低減し、それにより移植片対宿主病を軽減および/または予防する目的で、レシピエントに移植する前に移植体を処理することによってドナー移植体を「予備条件付け」または「前処理」してもよい。移植体に関連するであろうT細胞を活性化するために、移植前にレシピエントから得た細胞または組織に、移植体を接触させることができる。レシピエント由来の細胞または組織で移植体を処理した後、この細胞または組織を移植体から取り除いてもよい。次に、処理済移植体をさらにBMSCと接触させることにより、レシピエント由来の細胞または組織の処理により活性化されたT細胞の活性を低減、阻害または排除する。BMSCによる移植体のこの処理後、BMSCを移植体から除去した後にレシピエントに移植してもよい。しかし、いくらかのBMSCは移植体に付着している可能性があり、従って移植体と共にレシピエントに導入されうる。この場合、レシピエントに導入されたBMSCは、移植体に関連する任意の細胞によって引き起こされるレシピエントに対する免疫応答を抑制することができる。特定の理論に拘束されることは意図しないが、レシピエントに移植体を移植する前に、該移植体をBMSCで処理することは、活性化したT細胞の活性を低減、阻害または排除するように機能し、それにより、再刺激を予防するか、あるいは、レシピエント由来の組織および/または細胞からのその後の抗原刺激に対するT細胞の低応答性を誘導することが可能になる。本明細書の開示に基づき、当業者は、移植前に、移植体を予備条件付けまたは前処理することにより、移植片対宿主応答を低減または排除できることは理解されよう。
【0086】
例えば、骨髄または末梢血幹細胞(造血幹細胞)の移植の文脈では、レシピエントに対する移植片の免疫原性を低減するために、本明細書に開示する前処理方法を用いて、ドナー骨髄を予備条件付けすることにより、移植片による宿主の攻撃を低減、阻止または排除することができる。本明細書の他箇所で記載するように、レシピエントへのドナー骨髄の移植前に、任意の供給源に由来するBMSCにより、好ましくはレシピエントBMSCによりin vitroで、骨髄を前処理することができる。好ましい実施形態では、ドナー骨髄をまずレシピエント組織または細胞に暴露し、次にそれを、BMSCで処理する。特定の理論に拘束されることは意図しないが、ドナー骨髄をレシピエント組織または細胞と初めに接触させると、ドナー骨髄のT細胞が活性化されると考えられる。ドナー骨髄をBMSCで処理することにより、T細胞の低応答性を誘導するかまたはその後の抗原刺激に対するT細胞の再刺激を防止し、それによって、レシピエントに対しドナー骨髄により誘導される有害な作用を低減、阻止または排除する。
【0087】
本発明の一実施形態では、移植片対宿主病に苦しむ移植体レシピエントを、該レシピエントにBMSCを投与して、移植片対宿主病の重症度を軽減、阻害または排除することにより、治療することができ、その際、移植片対宿主病を軽減または排除するのに有効な量のBMSCを投与する。
【0088】
本発明の実施形態では、レシピエントのBMSCは、移植の前にレシピエントから取得してもよく、そしてそれを、進行中の移植片対宿主反応を治療するのに十分な量でBMSCの蓄えを提供するために保存してもよいし、および/または培養して増殖してもよい。しかし、本明細書の他箇所で記載するように、BMSCは、あらゆる供給源から、例えば、組織ドナー、移植体レシピエントもしくは別の非関連供給源(異なる個体または種すべて)から取得することができる。
【0089】
III.BMSCを用いる利点
本明細書の開示内容に基づき、ドナー組織に対する宿主拒絶または移植片対宿主病の治療のために、本発明のBMSCを既存の方法(例えば、免疫抑制薬療法の使用)と共に用いることができると予測される。移植の際に、免疫抑制薬と一緒にBMSCを用いる利点は、本発明の方法を用いて移植体レシピエントにおける免疫応答の重症度を軽減することにより、使用する免疫抑制薬治療の量および/または免疫抑制薬治療の投与頻度を減らすことができる点である。免疫抑制薬治療の使用を減らす利点は、全身的免疫抑制の緩和と、免疫抑制薬治療に伴う望ましくない副作用を軽減することである。
【0090】
また、ドナー組織の宿主拒絶または移植片対宿主病を治療するための「一回限りの」治療として、レシピエントに本発明の細胞を投与することも考えられる。移植体のレシピエントへのBMSCの一回限りの投与により、長期にわたる免疫抑制薬治療の必要がなくなる。しかし、所望であれば、BMSCの多数回投与を用いてもよい。
【0091】
本明細書に記載する本発明は、移植体の宿主拒絶および/または移植片対宿主病の予防、治療または改善のために予防上または治療上有効な量でBMSCを投与することにより、移植体拒絶および/または移植片対宿主病を予防または治療する方法も包含する。本明細書の開示に基づき、BMSCの治療有効量は、BMSCを投与しない場合の活性化T細胞の数と比較して、活性化T細胞の数を抑制するかまたは減少させる量である。移植体の宿主拒絶の場合には、BMSCの有効量は、BMSCの投与前のレシピエント中の活性化T細胞の数と比較して、移植体のレシピエント中の活性化T細胞の数を抑制または減少させる量である。移植片対宿主病の場合には、移植体に存在する活性化T細胞の数を抑制または減少させる量である。
【0092】
BMSCの有効量は、BMSC投与前のレシピエントまたは移植体に存在する活性化T細胞の数を、BMSC投与後のレシピエントまたは移植体に存在する活性化T細胞の数と比較することにより決定することができる。BMSCの投与に伴う、移植体のレシピエントまたは移植体自体に存在する活性化T細胞の数の減少、またはその増加が見られないことは、投与したBMSCの数が治療有効量のBMSCであることを示している。
【0093】
本発明の別の実施形態では、BMSCは、哺乳動物における外来性遺伝子の発現のための遺伝子治療ビヒクルとして用いることができる。現在用いられている細胞を超える、BMSCを遺伝子治療用のビヒクルとして用いる場合の利点は、遺伝子治療適用の分野で現在用いられている細胞と比較して、BMSCがより長い時間生存できるという新しい発見に基づくものである。
【0094】
遺伝的改変
栄養素、増殖因子、サイトカイン、神経栄養因子などの因子を生産するようにBMSCに導入した外来性遺伝子材料を有することにより、本発明の細胞を遺伝的に改変することができる。分泌因子は、近傍の細胞に有益である。このような因子として、限定するものではないが、以下のものが挙げられる:LIF、脳由来神経栄養因子(BDNF)、上皮増殖因子受容体(EGF)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、FGF-6、グリア由来神経栄養因子(GDNF)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、肝細胞増殖因子(HGF)、IFN-γ、インスリン様増殖因子結合タンパク質(IGFBP-2)、IGFBP-6、IL-1ra、IL-6、IL-8、単球走化性タンパク質(MCP-1)、単核食細胞コロニー刺激因子(M-CSF)、神経栄養因子(NT3)、メタロプロテイナーゼの組織インヒビター(TIMP-1)、TIMP-2、腫瘍壊死因子(TNF-β)、血管内皮増殖因子(VEGF)、VEGF-D、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター受容体(uPAR)、骨形成タンパク質4(BMP4)、IL1-a、IL-3、レプチン、幹細胞因子(SCF)、間質細胞由来因子-1(SDF-1)、血小板由来増殖因子-BB(PDGFBB)、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ-1)およびTGFβ-3。
【0095】
別の形態では、BMSCを、HSV-チミジンキナーゼまたは緑色蛍光タンパク質(GFP)のような遺伝子を発現するように遺伝的に改変してもよく、それら遺伝子は、それぞれガンシクロビアによる処理またはフローサイトメーターでの分離によりそれらの除去に用いることができるだろう。
【0096】
BMSCの遺伝的改変に加えて、本発明は、遺伝的に改変したNSCも含む。遺伝的に改変したNSCを用いて、個体で欠損した細胞を置換することができる。本発明は、分泌される所望のタンパク質を発現させるために用いることもできる、すなわち、NSCを単離し、所望のタンパク質の遺伝子と共に導入し、次に、所望のタンパク質が生産されて治療効果を発揮またはそれをもたらすような個体にそれを導入することができる。本発明のこの態様は、遺伝的に改変したNSCを個体に導入することにより、治療タンパク質を個体に投与する遺伝子治療に関する。遺伝的に改変したNSCは、本明細書に開示した方法を用いて培養し、単離し、それを、NSCにより当該タンパク質が体内で発現および分泌される場合に利益を得る個体に移植する。
【0097】
本発明に従い、異種タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子構築物をNSCに導入する。すなわち、その発現が治療的効果を有する遺伝子を個体に導入するように、細胞を遺伝的に改変する。本発明のいくつかの態様によれば、個体由来もしくは別の個体由来、または非ヒト動物由来のNSCを、欠損遺伝子を置換するように、および/またはその発現が治療的効果を有する遺伝子を個体に導入するように、遺伝的に改変することができる。
【0098】
遺伝子構築物を細胞中にトランスフェクションする場合にはすべて、細胞における遺伝子の発現を達成するのに必要な調節配列に、異種遺伝子を機能しうるように連結させる。このような調節配列として、プロモーターおよびポリアデニル化シグナルが挙げられる。
【0099】
遺伝子構築物は、好ましくは、必須調節配列に機能しうるように連結した異種タンパク質のコード配列を含む発現ベクターとして提供され、それにより、該ベクターを細胞にトランスフェクションすると該コード配列がその細胞により発現されるようになる。コード配列は、細胞における前記配列の発現に必要な調節エレメントに機能しうるように連結されている。そのタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、cDNA、ゲノムDNA、合成DNAもしくはそれらのハイブリッド、またはmRNAのようなRNA分子であり得る。
【0100】
遺伝子構築物は、調節エレメントに機能しうるように連結した有益なタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むが、これは、機能性細胞質分子、すなわち、機能性エピソーム分子として細胞中に依然として存在してもよく、あるいは、細胞の染色体DNAに組み込まれていてものでもよい。外来性遺伝的材料を細胞に導入することができ、その場合、それは、プラスミドの形態で別個の遺伝的材料として残る。あるいは、染色体に組み込むことができる線状DNAを細胞に導入してもよい。DNAを細胞に導入する場合、染色体へのDNA組込みを促進する試薬を添加してもよい。また、組込みを促進するのに有用なDNA配列をDNA分子に含有させてもよい。あるいは、RNAを細胞に導入してもよい。
【0101】
遺伝子発現のための調節エレメントとして、プロモーター、開始コドン、停止コドン、およびポリアデニル化シグナルが挙げられる。これらのエレメントは、本発明の細胞内で機能しうることが好ましい。さらに、これらのエレメントは、タンパク質をコードするヌクレオチド配列に機能しうるように連結されて、それにより、該ヌクレオチド配列が細胞において発現され、かくしてタンパク質が生産されるようにするのが好ましい。開始コドンおよび停止コドンは、一般に、タンパク質をコードするヌクレオチド配列の一部であると考えられる。しかし、これらのエレメントは、細胞内で機能的であることが好ましい。同様に、使用するプロモーターおよびポリアデニル化シグナルは、本発明の細胞内で機能的でなければならない。本発明を実施するのに有用なプロモーターの例として、限定するものではないが、多くの細胞において活性であるプロモーター、例えば、サイトメガロウイルスプロモーター、SV40プロモーターおよびレトロウイルスプロモーターが挙げられる。本発明を実施するのに有用なプロモーターの他の例としては、限定するものではないが、組織特異的プロモーター、すなわち、ある組織で機能するが、他の組織では機能しないプロモーターが挙げられ;また、特異的または一般的エンハンサー配列を含むかまたは含まない細胞において正常に発現される遺伝子のプロモーターも挙げられる。いくつかの実施形態では、エンハンサー配列を含むかまたは含まない細胞において遺伝子を構成的に発現するプロモーターを用いる。適切または望ましい場合には、エンハンサー配列がこのような実施形態にて提供される。
【0102】
本発明の細胞は、当業者には容易に利用可能な周知の技術を用いて、トランスフェクションすることができる。遺伝子によりコードされるタンパク質を発現する細胞に遺伝子構築物を導入するのに用いられる標準的方法により、外来性遺伝子を細胞に導入することができる。いくつかの実施形態では、細胞を、リン酸カルシウム沈降トランスフェクション、DEAEデキストラントランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム媒介導入、化学物質媒介導入、リガンド媒介導入、または組換えウイルスベクター導入により、トランスフェクションする。
【0103】
いくつかの実施形態では、組換えアデノウイルスベクターを用いて、所望の配列を有するDNAを細胞に導入する。いくつかの実施形態では、組換えレトロウイルスベクターを用いて、所望の配列を有するDNAを細胞に導入する。いくつかの実施形態では、標準的CaPO4、DEAEデキストランまたは脂質担体媒介トランスフェクション技術を用いて、所望のDNAを分裂中の細胞に組み込む。標準的抗生物質耐性選択技術を用いて、トランスフェクションした細胞を同定および選択することができる。いくつかの実施形態では、マイクロインジェクションによりDNAを細胞に直接導入する。同様に、周知のエレクトロポレーションまたは微粒子銃技術を用いて、外来DNAを細胞に導入することができる。通常、第2の遺伝子は、共トランスフェクションするか、治療遺伝子に結合させる。第2の遺伝子は、多くの場合、選択的抗生物質耐性遺伝子である。選択的遺伝子を取り込まない細胞を死滅させる抗生物質中でこれらの細胞を増殖させることにより、トランスフェクトされた細胞を選択することができる。2つの遺伝子が連結されずに共トランスフェクションされる多くの場合、抗生物質処理で生き残った細胞は、その中に両遺伝子を含んでおり、これら遺伝子の両方を発現する。
【0104】
特に記載のない限り、遺伝子操作は、Sambrookら(2002, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York)に記載のように実施する。本発明は、外来性遺伝子を発現するように操作した、遺伝的に改変された細胞を包含する。外来性遺伝子は、例えば、内因性遺伝子の外因性形態であってもよい(例えば、同じ遺伝子の野生型形態を用いて、突然変異を含む欠損対立遺伝子を置換することができる)。外来性遺伝子は、1以上の追加の遺伝子と、通常は(必ずではないが)共有結合(すなわち「融合」)している。「追加の」遺伝子の例としては、外来性遺伝子を組み込んだ細胞を選択する「陽性」選択のために有用な遺伝子、内因性遺伝子と同じ染色体座位に外来性遺伝子を組み込んだ細胞を選択する「陰性」選択に有用な遺伝子、またはその両方が挙げられる。
【0105】
本明細書に記載する方法は、多数の方法で実施することができ、その際、当技術分野で周知の様々な改変および変更もあることは理解されるべきである。また、細胞型間の作用または相互作用の様式として記載されたいずれの理論も、いかなる様式でも本発明を限定するものとして解釈すべきではなく、それらは本発明の方法を十分に理解できるように提供されているにすぎないことも認識されよう。
【0106】
以下の実施例により、本発明の態様をさらに説明する。しかし、これらは、本明細書に記載した本発明の教示または開示を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0107】
幹細胞は、疾患または外傷による組織損傷の修復および置換において有望な多様な臨床用途を有する。これらの実施例は、同種異系NSCに対するT細胞応答を特性決定することによる、NSCの免疫原性の評価を含んでなる。これらの細胞は、T細胞により認識され、増殖性応答を誘発することがわかっている。本実施例は、BMSCがin vitroでのNSCに対するT細胞活性化を阻害することができるか否か、また、BMSCがin vivoでのNSC生存を延長することができるか否かについて調べる。加えて、本明細書は、同種異系幹細胞生存を助ける免疫抑制または免疫特権の局在化領域を形成することを目的とするBMSCの使用を明らかにする。
【0108】
実施例1:神経幹細胞(NSC)の特性決定:
ヒト胎児神経幹細胞の単離および培養
ヒト胎児脳組織は、Advanced Bioscience Resources(カリフォルニア州アラミダ)から購入することができる。この組織をPBS/抗生物質で洗浄し、髄膜を除去した後、所望の脳組織を用いる。残った組織をピンセットで剥がし除いて、パスツールピペットを用いた粉砕によりさらに解離させる。次に、室温で5分、1,000 rpmの遠心分離により細胞をペレット化する。細胞ペレットを10 mlのNSC増殖培地(DMEM/F12、8mMグルコース、グルタミン、20 mM重炭酸ナトリウム、15 mM HEPES、8μg/mlヘパリン、N2補充剤、10 ng/ml bFGF、20 ng/ml EGF)中に再懸濁する。コーティング(15μg/mlポリオルニチンで一晩の後、10μg/mlヒトフィブロネクチンで4時間以上)した通気キャップ付きT-25 cm2フラスコ上にその細胞をプレーティングし、37℃で5%CO2インキュベーターにおいて増殖させる。白血病阻害因子(LIF)を加えて増殖させた細胞を、初めにbFGFおよびEGFだけの存在下で増殖(1〜2継代)させた後、10 ng/ml LIFを加えた完全増殖培地中にプレーティングする。一日おきに培地の50%を新鮮な完全増殖培地と交換することにより、培養物に補給する。PBS中の0.05%トリプシン−EDTAを用いた2〜3分間のトリプシン処理し、その後、ダイズトリプシンインヒビターを添加してトリプシンを不活性化することにより、細胞を継代する。室温で5分、1,200 rpmで細胞をペレット化し、増殖培地に再懸濁し、コーティングしたフラスコに1.0〜1.25×105細胞/cm2でプレーティングする。10%DMSO+90%完全増殖培地中で細胞を凍結保存する。
【0109】
NSCはMHCクラスI抗原を発現する
本明細書に記載の方法を用いて、ヒト胎児組織からNSCを調製し、約13回継代培養した。標準的フローサイトメトリー法を用いて、免疫学的に対応する細胞膜分子について評価した。手短に言うと、5%FBS含有PBSで細胞を洗浄してから、マウス免疫グロブリンでブロッキングし、その後、蛍光色素タグ付加モノクローナル抗体で染色する。アイソタイプが適合する蛍光色素標識免疫グロブリンと共に細胞をインキュベートすることにより、バックグラウンド染色を測定する。Cell Quest収集ソフトウエアを用いたBecton Dickinson FACSCaliberフローサイトメーターでの分析のために、約50,000個の細胞を回収する。BMSC/NSCと造血細胞は、そのサイズおよび光散乱特性が大きく異なるため、各細胞型について個別にサイトメーターで細胞を取得するのが好ましい。PBMCをBMSCにスパイク添加することにより、ゲート座標を決定した。データは、ヒストグラムまたはドットグラフとして表す。
【0110】
NSCの集団は、造血マーカー(CD45、CD14、CD34)、共刺激分子(CD80、CD86)またはMHCクラスII分子を発現しなかった。しかし、NSCは、幹細胞マーカーであるCD133、ならびにMHCクラスI抗原を発現した。クラスI分子の発現は、通常、その細胞が同種異系反応性T細胞により認識されるであろうこと、そして、それが免疫適格性同種異系レシピエントに移植されれば、拒絶されるであろうことを示す。
【0111】
NSCは同種異系T細胞の増殖を発現する
応答細胞としてT細胞を、刺激細胞として照射NSCを用いて、一方向性リンパ球混合反応(MLR)により、NSCの免疫原性を評価した。同種抗原に対するT細胞増殖応答を測定するMLRにより、in vivoでの同種異系細胞の生存を予測できる。NSCは、本明細書の他所で記載したようにしてヒト胎児組織から調製し、約13回の継代にわたり培養する。刺激細胞として、NSCを約5×104細胞/ウェルの高用量で開始し、3倍ずつ減少させて滴定した。非関連ドナー由来の精製したT細胞(2×105細胞/ウェル)を応答細胞として調製した。自己PBMCを対照の刺激細胞として用いた。図1に示すように、NSCは、最大細胞用量でさえ有意な量のT細胞増殖を誘発しなかった自己PBMCと比較して、有意な程度のT細胞増殖を誘発した(P<0.05、スチューデントt検定)。これらの結果から、同種異系NSCはT細胞により認識され、機能的な免疫応答を誘導することが示される。
【0112】
実施例2:骨髄間質細胞(BMSC)の特性決定:
当技術分野で公知の方法によりBMSCを生成した。例えば、ヒト骨髄は、AllCells LLC(カリフォルニア州バークレイ)から購入するか、またはドナーから針吸引によって収集することができる。この細胞をHespan密度勾配上で800×gにて30分スピンし、その界面の細胞を、10%FBSを補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いてT-185フラスコにおいて1.62×105細胞/cm2でプレーティングする。所定時間の培養後、その細胞集団から非接着性細胞を除去し、そして細胞がコンフルエント(P0)になるまで(これは典型的には、約2〜3週間の培養後に起こる)培地を3〜4日毎に取り替える。トリプシン処理(0.05%トリプシン)により接着細胞を回収し、そして、さらに増殖を所望する場合には、T-185フラスコにおいて5,000細胞/cm2の接種密度で再プレーティングする。細胞がコンフルエントになるまで(通常、1週間)、培地を3〜4日毎に取り替え、トリプシン処理により継代させる。フローサイトメトリーにより、特異的マーカーを用いて細胞を純度について試験した。BMSCを通常2〜4回継代させた後、実験に使用するか、または液体窒素中に凍結保存する。
【0113】
当技術分野で公知の方法を用いて、ラットBMSCを単離することができる。例えば、後肢を取り外し、大腿骨を脛骨から分離する。滅菌骨カッターを用いて大腿骨の遠位端を除去し、18ゲージ針を備えた注射器を用いて、骨髄栓(marrow plug)を無菌培地(例えば、10%ウシ胎児血清およびペニシリン/ストレプトマイシンを補充したα改変イーグル培地)に流し出す。骨髄栓を再懸濁して単細胞懸濁液とし、その懸濁液を100ミクロンセルストレーナーに通すことにより破片を除去する。細胞を洗浄し、培地に再懸濁させる。約9×105/cm2の密度で細胞をT-185フラスコ中にプレーティングする。5%CO2を含む加湿雰囲気中、37℃でそのフラスコを培養する。2日後、非接着細胞を含む培地を吸引し、新鮮な培地に交換する。接着間質細胞がコンフルエントになるまで(通常、14日間)、3〜4日毎に培養物に補給する。これらのP0細胞を37℃で5分間トリプシン処理(0.25%トリプシン)し、新鮮な培地を添加してトリプシンを不活化し、細胞を洗浄し、1.08×104細胞/cm2で再プレーティングする。一般に、細胞はコンフルエントになるので毎週継代する。継代3世代までに、造血細胞の混入は1%に満たなくなるが、これは、CD45、T細胞(OX-52)、マクロファージ(CD11b/c)、およびB細胞(抗κ軽鎖)に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより評価される。BMSCは、Thy-1(CD90)およびMHCクラスI(OX-18)について陽性に染まるが、MHCクラスII抗原については陰性である。
【0114】
BMSC表現型
ヒトBMSCは、本明細書の他箇所で記載のようにして骨髄から生成し、継代2世代にわたり培養した。これらを様々な蛍光色素標識モノクローナル抗体で染色してフローサイトメトリーにより細胞表面マーカーの発現について評価した。BMSCは、CD90、CD105およびMHCクラスIマーカーを発現するが、CD45、CD3、CD34、CD19およびCD14を含む造血マーカーは発現しない。これらはまた、MHCクラスII分子も発現しない。
【0115】
BMSCは同種異系T細胞の増殖を誘発しない
応答細胞としてT細胞を、刺激細胞として照射BMSCを用いた一方向性リンパ球混合反応(MLR)により、BMSCの免疫原性を評価した。その結果から、T細胞は同種異系BMSCに対して増殖しないが、同種異系PBMCに対しては活発に応答することが示される(図2)。
【0116】
ヒトMLRアッセイ:
応答細胞としてT細胞を、刺激細胞として同種異系PBMCを用いたリンパ球混合反応(MLR)により、BMSCの免疫原性を評価した。モノクローナル抗マウスIgG抗体(Dynal Biotech, Inc、ニューヨーク州レークサクセス)でコーティングした磁気ビーズを用いて除去しようとする非T細胞を標識するために単球(CD14)、B細胞(CD19)、MHCクラスII、およびNK細胞(CD56)に特異的なマウスモノクローナル抗体(Serotec、ノースカロライナ州ローリー)を用いた陰性選択により、T細胞を白血球分離(leukopheresis)パック(AllCells, LLC、カリフォルニア州バークレイ;Poietics、メリーランド州ロックビル)から精製した。枯渇後に残った細胞集団は、フローサイトメトリーで分析すると、通常85%を超えるCD3陽性であった。T細胞を次の培地に懸濁した:ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノール、抗生物質/抗真菌薬、および5%ヒトAB血清を補充した(補充剤はすべて、Gibco(カリフォルニア州カールスバド)から入手した。但し、ヒトAB血清はPelFreez(ウィスコンシン州ブラウンディア)から取得した)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)であった。T細胞を、96ウェル低蒸発性平底プレート(BD Falcon、ニュージャージー州フランクリンレークス)中のマイクロタイターウェル(2×105/ウェル)に、同種異系刺激細胞と共に接種した。セシウム源(Isomedix Grammator B、ニューヨーク州パーシッパニー)を用いて、刺激細胞を5,000ラドのγ線照射により照射し、その後、実験に必要な数をプレーティングした(通常、5×104細胞/ウェルという高用量から徐々に減らして滴定する)。培養物は、処理毎に3つずつのウェルで用意した。培養の6日目に3H-チミジンで培養物をパルスすることにより、同種抗原に対するT細胞増殖を測定した。96ウェル細胞収集器(Skatron, Molecular Devices Corp、カリフォルニア州サニーベール)を用いて、16時間後に細胞をフィルターマットに回収し、そのフィルターマット上の細胞をMicrobetaシンチレーションカウンター(Perkin Elmer、フィンランド国トゥルク)を用いて、計数した。
【0117】
ラットMLRアッセイ:
これらのアッセイは、ヒトMLRと同様の方法で用意する。手短に言うと、頚部+腸間膜リンパ節(LNC)を収集することにより、応答細胞を生成する。応答細胞は、セルストレーナー(BD Falcon)に対するシリンジプランジャーを用いて6ウェルプレート中でこれらを粉砕することにより、単細胞懸濁液へと解離させる。血清を10%FBS(HyClone、ユタ州ローガン)とする以外はヒトMLR培地と同様の培地に、その応答細胞を懸濁する。実験に必要な数の同種異系刺激細胞と共に、LNCをマイクロタイターウェル(4×105/ウェル)に接種する。刺激細胞は、プレーティングする前に照射(5,000ラド)する。培養物は、処理毎に3つずつのウェルを用いて用意した。本明細書の他箇所で述べたのと同様にして、同種抗原に対するT細胞増殖を評価した。
【0118】
免疫原性実験
一方向性MLRアッセイを用いて、同種異系BMSCに対するT細胞増殖を評価することができる。手短に言うと、96ウェルマイクロタイター培養プレートにおいて、照射(5,000ラドのγ線)した同種異系BMSC、自己PBMC、または同種異系PBMC(30,000細胞/ウェル)と共にT細胞(2×105/ウェル)を培養する。BMSCは、本明細書に開示する方法を用いて取得する。T細胞は、当技術分野で公知の方法を用いて、異なる4人のドナーから得たPBMCから精製した。T細胞の濃縮は、磁気ビーズ(Dyna, Inc)を用いて非T細胞を除去する陰性選択により達成することができる。マクロファージ/単球/樹状細胞(抗CD14)、B細胞(抗CD19)、NK細胞(抗CD56)、ならびにMHCクラスII抗原(抗DR)に特異的なマウスモノクローナル抗体(mAb)を用いて、これらの細胞を標識する。ヤギ抗マウスIgG抗体でコーティングした磁気粒子を用いて、磁場中でそれらの細胞を取り出すことができる。得られた細胞集団では、T細胞を検出するためにフルオレセイン化抗CD3 mAbを用いたフローサイトメトリーで分析すると、通常は、T細胞が90%を超える。用いる細胞培地は、5%ヒトAB血清、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、pen-strep/ファンギゾン、および2-メルカプトエタノールを補充したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)であってよい。5%CO2の加湿雰囲気中、37℃で6日間、培養物をインキュベートし、3H-チミジン(1μCi/ウェル)で16時間パルスした後、自動96ウェル細胞収集器を用いて第7日に細胞を収集した。シンチレーション計測により取り込まれた放射活性を決定し、その結果を1分当たりのカウント数(cpm)として報告する。
【0119】
BMSCは同種異系T細胞上で活性化分子CD25の発現を誘導しない
精製したヒトT細胞を、以下:1)T細胞マイトジェンPHA、2)同種異系PBMC、または3)同種異系BMSCの存在下で、培地中にて培養した。7日後、培養物からT細胞を収集し、そしてそれを、T細胞サブセットであるCD4およびCD8(FITC標識mAb)ならびにT細胞活性化マーカーであるCD25(APC標識mAb)に特異的なモノクローナル抗体を用いて二重染色した。適切に標識したアイソタイプ対照免疫グロブリンを用いて、バックグラウンド染色を標準化した。これらの結果から、T細胞サブセットは両方とも、PHAおよび同種異系PBMCにより活性化されるが、同種異系BMSCによっては活性化されないことが示された(図3)。
【0120】
BMSCはT細胞増殖を抑制する
BMSCが同種異系反応性T細胞を抑制するか否かを確認するために、T細胞(2×105細胞/ウェル)と、照射済同種異系PBMC(1×105細胞/ウェル)とからなるMLR培養物にてBMSCを滴定した。2人の異なるドナー由来のBMSCを、培養期間開始時にMLR培養物に添加した。その結果から、最大用量のBMSC(3×104細胞/ウェル)で、T細胞増殖が62%(ドナー8)および90%(ドナー20)抑制されたことが示された。これらの結果によれば、有意な抑制を生じるには、7個の応答T細胞に対し約1個のBMSCの比で十分であると考えられる。
【0121】
この結果から、NSCは、MLRにおいて同種異系T細胞増殖を誘導することが証明された。特定の理論に拘束されることは意図しないが、これらの細胞は、同種異系環境に移植された場合、宿主によって拒絶されると考えられる。BMSCは、NSCと比較して類似した一連の細胞表面マーカーを発現したにもかかわらず、BMSCがT細胞を活性化しないことが認められた。ここに記載した結果によれば、BMSCは、免疫抑制特性を有すると考えられる。
【0122】
抑制実験
BMSCが同種異系反応性T細胞の増殖を抑制できるか否かを確認するために、一方向性MLRアッセイにBMSCを添加する。手短には、BMSCに照射(5,000R)し、さらにそれを、精製T細胞(応答細胞)と照射済同種異系PBMC(刺激細胞)とを含む一方向性MLR培養物に添加する。T細胞の精製およびMLRの培養条件は本明細書の他箇所で述べた通りである。T細胞とPBMCの様々な組合せのMLR培養物に、30,000細胞/ウェルの用量でBMSCを添加した。結果は、BMSCを添加していない基本MLR応答の抑制パーセントとして示すことができる。抑制は、次の式に従い、試験細胞を含む応答を対照MLRと比較することにより決定した:
抑制パーセント
=[1−(試験細胞を含むMLR培養物のcpm/対照MLR培養物のcpm)]×100
【0123】
実施例3:移植におけるBMSC
拒絶からの幹細胞のBMSC媒介免疫防御を調べるために以下の実験を設計する。どんな幹細胞を用いてもよいが、以下の実験のためには、入手可能性と、以前のデータでそれらが免疫原性であることが示されていることから、モデル幹細胞としてヒトNSCを用いる。
【0124】
In vitroでのNSCに対する免疫応答を検討するために、各細胞型がどのタイプのT細胞応答を誘発するかを知ることを意図し、NSCに対するT細胞応答を同種異系PBMC(陽性対照)およびBMSCと比較した。特定の理論に拘束されることは意図しないが、これらの実験から得られた結果は、T細胞が増殖およびCD25マーカー発現により活性化されるかどうか、およびT細胞がCD4またはCD8陽性であるかどうかについて洞察をもたらすことができる。サイトカインプロフィールに基づき、その細胞がTh1型T細胞であるかTh2型T細胞であるかを決定することができる。
【0125】
第2群の実験は、BMSCがin vitroでNSCに対するT細胞活性化を阻止できるかどうか、およびBMSCが免疫抑制の経過においてサイトカイン生産をもたらすかどうかを決定するために設計したものである。本明細書の開示に基づけば、T細胞および同種異系NSCの培養物に添加したBMSCは、遺伝的に制限されない様式でT細胞増殖を抑制できると考えられる。
【0126】
また、in vivoで移植片拒絶からNSCを保護するBMSCの能力を評価するために別のセットの実験を設計する。その一例として、ラット繊維芽細胞(対照)またはラットBMSCと共に、レシピエントラットの肝臓にヒトNSCを移植することを伴う異種モデルを用いる。しかし、本明細書の開示内容に基づき、当業者は、同種異系モデルを用いることも可能である。異種モデルは、以下に挙げる基準を包含する:
1)ドナー細胞としてヒトNSC;
2)ラットBMSC、というのもヒトBMSCは、同種異系T細胞増殖の誘導の点では非免疫原性であることがわかっている(McIntoshら、2000 Graft 3:324)ためである;
3)移植部位として肝臓を選択したが、それは、門脈からの細胞投与の容易さ、注射した細胞の免疫系への接近しやすさ、および注射した細胞を回収可能であることのためである。特定の理論に拘束されることは意図しないが、門脈内注射したBMSCは、肝臓に留まるかもしれない。さらに、NSCは、BMSCとほとんど同じ大きさなので、NSCも門脈送達後、肝臓中に捕捉されるかもしれない。このモデルで唯一のヒト細胞としてヒトNSCを用いることにより、ヒトAlu DNA配列に特異的なPCR技術を用いた移植の評価が可能になる。また、ここに記載したモデルは、一方向性MLRアッセイにおいてこれらの細胞を用いることにより、NSCおよびBMSCがレシピエント動物のリンパ節におけるT細胞応答を誘導するかどうかを判定するために、使用することもできる。
【0127】
実施例4:同種異系NSCおよびBMSCに対するT細胞増殖の特性決定
異なる3人のドナーからのNSCに対するT細胞応答を特性決定し、その応答をBMSCに対して得られた応答と比較する。分画していない新しく解凍したPBMCを対照として用いる。これら細胞集団の各々を以下の事項について評価する:1)免疫学的に対応する細胞表面マーカー、2)同種異系T細胞を刺激する能力、および3)活性化マーカーおよびサイトカインの発現のためのT細胞応答。これらの実験から得られたデータにより、これら細胞集団の各々の免疫原性を決定する特徴を知ることができる。
【0128】
フローサイトメトリーによる免疫学的に対応する細胞表面マーカーの特性決定
これらの実験のために十分な数の細胞を得るのに必要な可能な限り少ない継代数で、NSCおよびBMSCを評価する。これらの細胞は、0.05%トリプシンを用いたT-185フラスコ(5×106細胞/フラスコ)中で進行中の培養物から収集する。新しく解凍したPBMCを対照として用いる。これらの細胞を、MHC抗原(クラスIおよびクラスII)の発現および共刺激分子(CD40、CD54、CD80、CD86)についてフローサイトメトリーにより特性決定する。手短には、5%FBS含有PBS中で細胞を洗浄し、マウス免疫グロブリンでブロッキングした後、蛍光色素タグ付加モノクローナル抗体で染色する。バックグラウンド染色は、アイソタイプ適合蛍光色素標識免疫グロブリンと共に細胞をインキュベートすることにより測定する。Cell Quest収集ソフトウエアを用いたBecton Dickinson FACSCaliberフローサイトメーターでの分析のために、約50,000個の細胞を用いる。BMSC/NSCと造血細胞は、そのサイズおよび光散乱特性が大きく異なるため、各細胞型について個別にサイトメーターで細胞を取得する必要があるかもしれない。PBMCをBMSCにスパイク添加することにより、ゲート座標を決定する。そのデータは、ヒストグラムまたはドットグラフとして表す。
【0129】
MLRアッセイによる同種異系NSCおよびBMSCに対するT細胞増殖応答の決定
一方向性MLRアッセイにより、同種異系刺激細胞に対するT細胞による機能的応答を評価する。直接的 対 間接的T細胞活性化(すなわち、幹細胞は、T細胞を直接活性化することにより抗原提示細胞(APC)として機能するのか、あるいは、幹細胞は、その同種抗原を獲得するプロフェショナルAPC(マクロファージ、樹状細胞)を介して間接的にT細胞を活性化するのか)を評価する目的で、応答細胞としての、精製T細胞を非分画PBMCと比較するようMLRを設計する。
【0130】
応答細胞として非分画PBMCまたは精製T細胞(両者とも同じドナー由来のもの)を、また刺激細胞としてNSCまたはBMSCを用いて、混合リンパ球培養物を用意する。手短に言うと、96ウェルマイクロタイター培養プレートにおいて、照射(5,000ラドのγ線)した同種異系BMSC、自己PBMC、または同種異系PBMC(30,000細胞/ウェル)と共にT細胞(2×105/ウェル)を培養する。BMSCは、本明細書に開示する方法を用いて、異なるドナーから取得する。T細胞は、当技術分野で周知の方法を用いて得たPBMCから精製する。T細胞の濃縮は、磁気ビーズ(Dyna, Inc)を用いて非T細胞を除去するための陰性選択により達成する。マクロファージ/単球/樹状細胞(抗CD14)、B細胞(抗CD19)、NK細胞(抗CD56)、ならびにMHCクラスII抗原(抗DR)に対するマウスモノクローナル抗体(mAb)を用いて、これらの細胞を標識する。ヤギ抗マウスIgG抗体でコーティングした磁気粒子を用いて、磁場中で前記細胞を取り出す。得られた細胞集団では、T細胞を検出するフルオレセイン化抗CD3 mAbを用いたフローサイトメトリーで分析すると、通常はT細胞が90%を超える。これらの細胞は、5%ヒトAB血清、非必須アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、pen-strep/ファンギゾン、および2-メルカプトエタノールを補充したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)において培養する。5%CO2の加湿雰囲気中で、培養物を37℃で6日間インキュベートし、3H-チミジン(1μCi/ウェル)で16時間パルスした後、自動96ウェル細胞収集器を用いて第7日に細胞を収集した。シンチレーション計測により取り込まれた放射活性を測定し、その結果を1分当たりのカウント数(cpm)として報告する。
【0131】
試験細胞が免疫原性であるとみなされるためには、次の3つの要件が満たされなければならない:
1)試験細胞は、自己応答より少なくとも750 cpm高いT細胞増殖応答を誘導しなければならない;
2)シンチレーション指数(T細胞+試験細胞cpm/T細胞+自己細胞cpm)は、3.0以上でなければならない;そして
3)T細胞+自己PBMCとT細胞+試験細胞との間に統計学的に有意な差がなければならない(P<0.05、スチューデントt検定)。
【0132】
非応答性の原因として遺伝的要因(すなわち、MHC類似性)を除外するために、各試験細胞を少なくとも2種(好ましくは3種)の異なるT細胞ドナーと共に培養する。ドナーのいずれかが前記のような正の応答をもたらす場合、該試験集団は免疫原性であると考えられる。
【0133】
NSCは、有意なT細胞増殖を誘発することが予測されるが、多数のプロフェショナルAPCを含む同種異系PBMCにみられるほど高くはない。BMSCは免疫抑制性であるため、T細胞増殖を誘発しないはずである。NSCがAPCのように直接機能するか、あるいは、NSC内にAPC集団が存在していれば、これらの細胞は、精製T応答細胞の増殖を刺激するはずと考えられる。APC含有PBMC応答集団内のT細胞は、間接的抗原提示により、さらに活発に増殖するであろう。T細胞を刺激するためには同種抗原がPBMC集団中のAPCにより取り込まれ、プロセッシングされ、提示される必要があることから、上記の後者の応答の一時的動態は、最適な増殖のために、より長期間に向けてシフトする可能性がある。
【0134】
フローサイトメトリーにより、同種異系NSCおよびBMSCに応答したT細胞サブセット上でのCD25アップレギュレーションの測定
CD25(IL-2受容体)は、活性化T細胞上でアップレギュレートされる。T細胞活性化のマーカーとして増殖以外の別のパラメーターを定めて、亜集団レベルでの活性化をさらに評価するために、NSCおよびBMSCとの培養後のCD4およびCD8陽性T細胞についてCD25を分析することができる。
【0135】
以下の実験で用いるNSCおよびBMSCは、本明細書の他箇所で述べたようにしてT-185フラスコ培養物から収集する。バルクMLR培養物を、6ウェルプレート中、3つの時点で収集するために3つずつ用意する。自己PBMC(7×106/ウェル)、同種異系PBSC(7×106/ウェル)、NSC(2×106細胞/ウェル)、またはBMSC(2×106細胞/ウェル)と共に、精製T細胞(14×106細胞/ウェル)を培地中で培養する。NSCおよびBMSCはまた、さらなる対照として単独で(2×106細胞/ウェル)培地中で培養する。刺激細胞はすべて、培養前に5,000ラドで照射しておく。第1、4および7日に培養を停止させ、サイトカイン分析用に上清を回収する。培養物を穏やかに洗浄することにより、非接着性T細胞を回収し、その細胞を、APC、FITC、およびPE蛍光色素を各々コンジュゲートした抗体をそれぞれ用いて、CD3、CD4またはCD8、およびCD25の発現について3色フローサイトメトリーにより分析する。CD25の発現をT細胞+自己PBMCの基本培養物と比較する。
【0136】
特定の理論に拘束されることは意図しないが、CD25は、同種異系MHCクラスI分子およびクラスII分子の両方が存在するため、PBMCに応答してCD4およびCD8陽性T細胞の両者においてアップレギュレートされるはずである。NSCは、MHCクラスIを発現するが、MHCクラスIIは発現しないため、CD25は活性化CD8+T細胞上に出現するが、CD4+T細胞上には観察可能には存在しないと予想される。加えて、BMSCと共に培養するT細胞上にCD25発現が観察されないことも予想される。
【0137】
同種異系NSC、BMSCおよびPBSCに対するT細胞サイトカイン応答の特性決定
同種異系幹細胞に対するT細胞応答をさらに特性決定するために、NSCおよびBMSCに対するサイトカイン応答をアッセイすることができる(PBMCは対照として用いる)。Th1型応答は、IFN-γおよびIL-2を分泌するはずであり、一方、Th2応答はIL-4およびIL-10を分泌する傾向がある(Mossmannら、1989, Annu. Rev. Immunol. 7:145)。その応答が古典的Th1拒絶応答に偏向する場合には、Th2応答を誘導する(すなわち、IL-4サイトカインを使用するか、またはIL-10を用いて該応答をダウンレギュレートする)ことにより、この応答をダウンレギュレートするために、サイトカイン導入戦略を用いることができる。
【0138】
本明細書の他箇所で述べたようにして、6ウェルプレート中の細胞のバルク培養物から上清を回収する。第1、4および7日に、フローサイトメトリーのために細胞を収集する際、1ウェル当たり少なくとも4mlの上清を回収する。生体サンプル中の複数のサイトカインを検出するRayBio(登録商標)サイトカイン抗体アレイ(RayBiotech Inc.、ジョージア州ノークロス)によりサイトカインを評価する。特注アレイを用いて、G-CSF、GM-CSF、インターロイキン-1α、-3、-5、-6、-7、-8、-12、-13、-15、MCP-1、-2および-3、MIG、RANTES、TNF-αおよびβ、ならびにTGF-β1のほかに、IL-2、IFN-γ、IL-4およびIL-10を検出することができる。さらに、目的のサイトカインの定量測定をELISAにより実施することができる。
【0139】
特定の理論に拘束されることは意図しないが、PBMCとNSCの刺激細胞は、高レベルのIL-2およびIFN-γを伴う古典的Th1応答を惹起するはずである。
【0140】
実施例5:in vitroでの同種異系NSCへのT細胞応答に対するBMSCの免疫抑制効果の決定
以下のin vitro試験は、免疫抑制性BMSCがNSCに対するT細胞増殖を阻止できるかどうか、また、応答T細胞に対してBMSCが遺伝的に一致することによって抑制に差が生じるかどうかについて調べるものである。加えて、ここでの実験は、サイトカインアレイを用いて測定することによる、抑制経過において生産されるサイトカインの特性決定も含む。目的とするサイトカインとしては、限定するものではないが、1)Th1型からTh2型へのT細胞応答の移行を特徴づけ;2)幹細胞上でのMHC発現を増強し、そして3)抑制効果を有する、サイトカインが挙げられる。
【0141】
MLR応答におけるT細胞増殖に対するBMSCの抑制効果の決定
本開示は、BMSCがin vitroでNSCに対するT細胞同種反応性を抑制できることを証明する。最低3人の異なるドナーに由来するBMSCを用いて、T細胞増殖に対するBMSCの効果を評価する。BMSCに対して媒介される同種反応性が抑制に有益であるかどうかを評価するために、T細胞と適合する(自己由来の)BMSCを比較することによるHLAマッチングの効果を、非適合BMSCを用いる場合と比較する。
【0142】
一次MLRの抑制を調べるため、本明細書の他箇所で述べたようにして、マイクロタイタープレートにおいて、同種異系PBMC(5×104/ウェル)またはNSC(5×104/ウェル)と共にT細胞(2×105/ウェル)を培養する。BMSC(T細胞に対して自己由来のもの)をその培養物に添加するが、その際、5×104細胞/ウェルで開始し、それを3125細胞/ウェルまで2倍ずつ減少させながら滴定することにより、用量応答曲線を作成する。対照培養物には、BMSCを与えない。抑制パーセントは、BMSCの非存在下でのMLR応答をBMSCの存在下での応答と比較することにより決定する。スチューデントt検定を用いて、統計学的に有意な抑制を決定する。
【0143】
本開示によれば、BMSCは一次応答を抑制する。異なる2種のドナー由来のBMSCは、一次MLR応答を抑制することが観察された。本明細書に開示する方法を用いて、進行中の二次MLR応答の抑制を調べることも可能である。
【0144】
抑制されたMLR培養物におけるサイトカインプロフィールの特性決定
抑制の過程で生産されるサイトカインの特性決定は、そのサイトカインプロフィールを基本MLR単独のそれと比較することにより達成される。サイトカインプロフィールから得られる結果を用いて、BMSCによる抑制の機構を決定することができる。
【0145】
BMSC(2×106/ウェル)の存在下および非存在下で、T細胞(14×106/ウェル)と同種異系NSCまたはPBMC(2×106/ウェル)とを含む6ウェルプレート中のバルクMLR培養物を用意する。培養前に、刺激細胞を5,000ラドで照射しておく。第1、4および7日に培養を停止させる。上清を回収し、RayBio(登録商標)サイトカイン抗体アレイ(RayBiotech Inc.、ジョージア州ノークロス)を用いて、25種のサイトカインについて試験する。T細胞+NSCとT細胞+NSC+BMSCの間、およびT細胞+PBMCとT細胞+PBMC+BMSCの間で比較を行い、サイトカイン応答に対するBMSC抑制の効果を評価する。
【0146】
特定の理論に拘束されることは意図しないが、BMSCは、MLR応答において通常産生されるサイトカインの変更を誘導できると考えられる。
【0147】
実施例6:BMSCが、ラットにおける移植NSCの生存を延長できるかどうかの判定
ここに開示する実験では、哺乳動物における移植NSCの生存に対するBMSCの寄与について調べる。BMSCがin vitroでの同種異系T細胞応答を抑制する場合、BMSCはin vivoでもこれらの応答を抑制できると考えられる。従って、BMSCを十分な数で組織に移植すれば、BMSCは「免疫特権」の領域を形成し、これにより、拒絶応答を誘導することなく同種異系細胞を移植することができるだろう。免疫防御という概念の原理を証明するものとして、以下の実験は、レシピエントラットの肝臓に、対照のラット繊維芽細胞またはラットBMSCと共に、ヒトNSCを移植し、そしてヒト特異的Alu PCRを用いて1ヶ月間その生存を定量することを含む。幹細胞の入手可能性と、ラットBMSCがラットT細胞とヒト刺激細胞との間の異種応答を抑制する確実性が高いことから、以下の異種モデルを選択した。
【0148】
第三者細胞を用いて、望ましいクリニカルパスを反復できるように、同種異系ラットBMSCをこれらの実験に用いる。肝臓は、門脈を介した送達が容易であり、免疫系にアクセスでき、かつ注射細胞を回収できることから、移植部位として選択された。この経路により投与されるMSCは肝臓で捕捉され、少なくとも1週間検出可能であることが示された。処理ラットからリンパ節を回収し、一方向性MRLにより注射した細胞型(ラット繊維芽細胞、ラットBMSC、およびヒトNSC)の各々に対する感作について分析する。
【0149】
ラットBMSCによる異種ラット 対 ヒトMLRの抑制
ラット細胞とヒト細胞の間で異種MLRを設定することにより、ラットBMSC媒介抑制を評価する。これらの一群の実験では、レシピエントにとって同種異系のラットBMSCを用いるが、任意の供給源由来のBMSCを用いてMLR応答を抑制することができる。例えば、レシピエントにとって自己由来のBMSCを用いてもよい。
【0150】
フィッシャーラットリンパ節(LN)を採取し、解離させて単細胞懸濁液とし、そしてMLRにおける応答細胞としてマイクロタイターウェル中にプレーティングする(4×105/ウェル)。ヒトPBMCおよびNSCを照射し、刺激細胞として1×105/ウェルでプレーティングする。ACI系統ラット由来のBMSCおよび皮膚繊維芽細胞を、5×104細胞/ウェルという高用量で、そしてその用量を3125細胞/ウェルまで2倍ずつ減少させて、MLRにて滴定する。BMSCおよび皮膚繊維芽細胞はどのラット系統由来のものでもよいことは当然である。ラットMLRについての培養条件は、本明細書の他箇所で述べた通りである。対照MLR(BMSCなし)を、皮膚繊維芽細胞またはBMSCを含むMLRと比較することにより抑制を決定する。スチューデントt検定を用いて、統計学的評価を実施する。
【0151】
ウィスターラットLNCがヒトPBMCに対し活発に(>100×103 cpm)増殖することが観察された事実に基づけば、異種MLRにラットBMSCを用いることは、MLRにおいてBMSCが有する抑制のレベルを評価するための有益なモデルとなることは当然である。ラットBMSCは、活性化同種異系反応性T細胞における非反応性を誘導することが示されている(Smallら、1999 Blood 94:333)。特定の理論に拘束されることは意図しないが、BMSCはラット/ヒトMLRを抑制すると考えられる。ACI系統BMSCが異種MLRを抑制しない事象では、他のラット系統に由来するBMSCを、ヒトBMSCと同様に、異種MLRにおいて用いることができる。ラット繊維芽細胞はMLRを抑制できるとは考えられず、そのため繊維芽細胞を対照として用いる。
【0152】
移植NSCの生存の判定
対照の繊維芽細胞またはBMSCの投与後のin vivoでNSCの生存を評価するために、以下の実験を設計する。本明細書の開示に基づき、1:3のBMSC:刺激PBMCの比率がin vitroで十分であることが観察されたことを考慮すると、1:1のBMSC:NSCの比率がin vivoでの抑制に適切であるはずである。さらに、PBMCは、NSCよりも強力なT細胞の刺激因子であると考えられるため、1:1のBMSC:NSCの比率は確実であろう。加えて、それより低いBMSC:NSC比をin vivoでの抑制に用いることもできる。
【0153】
ACI系統ラット真皮繊維芽細胞(5×106細胞)と混合したヒトNSC(5×106細胞)を、25匹のフィッシャーラットの各々に200μl容量で門脈内注射する。真皮繊維芽細胞は、ACIラットから得られた皮膚サンプルから生成し、本明細書の他箇所でラットBMSCについて述べたようにして増殖させる。別の群のラット25匹に、NSC(5×106細胞/ラット)を同等数のACI系統ラットBMSC(5×106細胞/ラット)と混合したものを門脈内注射する。注射から1、7、14、21および28日後に各群から5匹ずつのラットを犠牲にする。肝臓を摘出し、急速冷凍し、そして、ヒトNSCの移植を評価するためにAlu PCRアッセイを実施するまで−80℃で保存する。
【0154】
ヒトAlu PCRアッセイ:
Walkerら(2003, Analytical Biochem. 314:122-128)により記載されているAlu内エレメントベースのPCRアッセイを用いて、ラット肝臓におけるヒトNSCの数を定量する。ヒトDNAに存在する天然の反復Alu配列により、単コピー配列/遺伝子をはるかに超える検出感度を得ることができる。従って、ヒト起源のゲノムDNAは、ヒト特異的Alu反復配列に対するリアルタイムPCRにより定量する。このアッセイに用いるプライマーは、Yb8 Aluサブファミリー内の約200 bpのAlu内コア反復配列を増幅する。これらプライマーの使用については、Walkerら(2003, Analytical Biochem. 314:122-128)により報告されており、これによって、2ngの混合種サンプルDNA中、少なくとも10 pg(約1細胞等量)のヒトDNA特異的検出が可能になる。ゲノムDNAは、Puregene DNA単離キット(Gentra Systems)を用いて、急速冷凍したラット肝臓から単離する。ヒトDNAは、既知数のヒト細胞をスパイク添加(10倍ずつ増加)したラット細胞集団から得られたAlu特異的DNA標準曲線との比較により定量する。
【0155】
本明細書の開示に基づけば、BMSCは、in vivoで局所的抑制を媒介し、肝臓での異種細胞の生存を延長すると考えられる。従って、BMSCを与えたラットからは、非抑制性繊維芽細胞と共にNSCを投与したラットからと比べてより多い数のNSCが回収される。これら2つの群の間で最大の差は、免疫応答が異種NSCに対して活性化される1〜2週間後に生じると予想される。PCRアッセイを用いて、ヒト特異的Alu反復配列を測定することにより、移植を生き残ったNSCを検出することができる。
【0156】
レシピエントラットにおける注射細胞に対するT細胞プライミングの測定:
レシピエントラットの末梢リンパ節における同種異系/異種反応性T細胞を、NSC、繊維芽細胞、またはBMSCがプライミングしたかどうかを判定するために、以下の実験を設計する。一方向性MLRアッセイを用いて、このようなプライミングを評価することができる。
【0157】
注射から1ヵ月後、最終時点で死なせた、2群(NSC+線維芽細胞 対 NSC+BMSC)に由来する各々5匹から、頚部および腸間膜リンパ節(LN)を採取する。ラットからのLNを解離させて単細胞懸濁液とし、それを応答細胞として、刺激細胞としての照射済のドナーNSC、繊維芽細胞、およびBMSC(5×104細胞/ウェル)と共にMLRアッセイに用いる。これらの実験で用いる対照群は、刺激細胞としての照射済同系フィッシャー系統脾細胞(バックグラウンド)、培地単独で培養したLNS、および培地単独で培養した照射済刺激細胞である。各ラットを個別に評価する。3日目および7日目にMLRアッセイの結果を得て、ピーク応答を決定する。各刺激集団に対する平均応答を、同系脾細胞に対するバックグラウンド応答と比較する。スチューデントt検定を用いて、統計学的有意差を決定する。
【0158】
特定の理論に拘束されることは意図しないが、T細胞がin vivoで同種異系または異種細胞に対しプライミングされた場合には、MLRではこれらの細胞に対し加速した増殖応答を示すはずであり、そのピークは、7日目よりむしろ3日目であろう(7日目の時点は、一次MLRについて観察されたピーク活性である)。異種NSCがレシピエントラットをプライミングした場合には、そのT細胞は、刺激細胞としてのNSCに対しMLRアッセイで二次応答を生じるはずである。対照的に、BMSCがNSCに対する免疫応答を阻止した場合には、レシピエントT細胞は一次MLR応答を生じるはずである。BMSCがNSCに対してレシピエントT細胞を寛容化した場合には、該細胞はMLRにおいて低減した応答を生じるはずである。
【0159】
本明細書で引用したすべての特許、特許出願、および刊行物は、参照により本明細書にその全体が組み入れられるものとする。
【0160】
本発明は、特定の実施形態を参照して開示してきたが、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当業者が本発明のその他の実施形態および変形を考え付くであろうことは明らかである。添付の特許請求の範囲については、このような実施形態および同等の変形をすべて含むと解釈すべきであることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】図1は、神経幹細胞(NSC)の免疫原性を表すグラフである。図1は、NSCが同種異系T細胞の増殖を誘発したことを実証している。
【図2】図2は、一方向性リンパ球混合反応(MLR)により評価した骨髄間質細胞(BMSC)の免疫原性を表すグラフである。図2は、BMSCが同種異系T細胞増殖を誘発しないことを実証している。
【図3】図3は、BMSCが、同種異系T細胞上での活性化分子CD25の発現を誘導しないことを示すグラフである。
【図4】図4は、BMSCによるMLRの抑制を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植体が神経幹細胞(NSC)である移植体レシピエントを、該レシピエントにおけるエフェクター細胞にとっての同種抗原に対する該エフェクター細胞の免疫応答が低減するように治療する方法であって、
エフェクター細胞にとっての同種抗原に対する該エフェクター細胞の免疫応答を低減するのに有効な量の骨髄間質細胞を移植体レシピエントに投与し、これにより、該移植体レシピエントにおいて、該エフェクター細胞が示す該同種抗原に対する免疫応答が低減することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記エフェクター細胞がT細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記T細胞はドナーに由来し、前記同種抗原はレシピエントに由来する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記T細胞はレシピエントに由来し、前記同種抗原はドナーに由来する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記T細胞が移植体に存在する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
骨髄間質細胞を移植体レシピエントに投与する前に、該骨髄間質細胞を培養により増殖させておく、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記エフェクター細胞が、骨髄間質細胞の投与前に活性化させたT細胞であり、さらに、前記免疫応答が、ドナー由来のT細胞の再活性化である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記骨髄間質細胞を移植体レシピエントに投与することにより、該レシピエントによる移植体の拒絶を治療する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記骨髄間質細胞が、ヒト骨髄間質細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記骨髄間質細胞が、ラット骨髄間質細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記NSCが、ヒトNSCである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記レシピエントに免疫抑制薬を投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記移植体の前に、前記骨髄間質細胞をレシピエントに投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記移植体と同時に、前記骨髄間質幹細胞をレシピエントに投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記骨髄間質細胞を前記移植体の一部として投与する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記移植体の移植後に、前記骨髄間質細胞をレシピエントに投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記骨髄間質細胞をレシピエントに静脈内投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記エフェクター細胞が前記ドナー由来移植体のレシピエントの細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記骨髄間質細胞が遺伝的に改変されている、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
移植体が神経幹細胞(NSC)である移植体レシピエントを、該レシピエントにおけるエフェクター細胞にとっての同種抗原に対する該エフェクター細胞の免疫応答が低減するように治療する方法であって、
エフェクター細胞にとっての同種抗原に対する該エフェクター細胞の免疫応答を低減するのに有効な量の骨髄間質細胞と共に、NSCを移植体レシピエントに投与し、これにより、該移植体レシピエントにおいて、該エフェクター細胞が示す該同種抗原に対する免疫応答を低減することを含む、前記方法。
【請求項21】
前記エフェクター細胞がT細胞である、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−526891(P2008−526891A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550564(P2007−550564)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【国際出願番号】PCT/US2006/000839
【国際公開番号】WO2006/076374
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(507077592)コグネート セラピューティクス,インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】