説明

移植機

【課題】 不等速変換が行われる株間を必要最少限とし、各株間における植付爪軌跡を最適化する。
【解決手段】 植付機構15の植付周期を変えることなく、一周期中の植付動作速度に変化を生じさせる不等速変換機構42とを備える移植機において、不等速変換機構42を経由する不等速伝動経路と、不等速変換機構42を経由しない等速伝動経路とを構成すると共に、不等速伝動経路と等速伝動経路との切り換えを、株間変速機構38の変速ギヤ39で行い、更に、株間変速機構30、38を、株間変速のみを行う第一株間変速機構30と、その下流で株間変速及び等速・不等速切換えを行う第二株間変速機構38とで構成すると共に、第二株間変速機構38の変速段数を、第一株間変速機構30の変速段数よりも多くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植付機構の植付周期を変えることなく、一周期中の植付動作速度に変化を生じさせる不等速変換機構が設けられた移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、この種の移植機では、植え付けた苗の成育条件(日照、通気等)などを考慮し、植付株間を広げる試みがあるが、植付機構の植付爪軌跡は、標準的な植付株間を基準にして設定されているため、植付株間を広げるべく植付機構の動作速度(車速に対する相対的な動作速度)を遅くすると、機体進行に伴う植付爪の前方移動量が土中で大きくなり、植え付けた苗が引き摺られる惧れがある。
【0003】
そこで、植付機構の植付周期を変えることなく、一周期中の植付動作速度に変化を生じさせることにより、植付爪の土中動作速度を速くし、苗の引き摺りを防止することが提案されている(特許文献1参照。)。例えば、特許文献1に示される田植機では、不等速変換機構を経由する不等速伝動経路と、不等速変換機構を経由しない等速伝動経路とを構成し、不等速伝動経路と等速伝動経路との切り換えを可能にしているので、株間を広げたときだけ植付機構を不等速で動作させることが可能である。
【特許文献1】特開2003−219712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のものでは、株間変速機構と等速・不等速切換機構とが独立して構成されるため、装置が大型化するだけでなく、部品点数が増加してコストアップを招来する不都合がある。しかも、株間変速機構と等速・不等速切換機構は、別々の操作具で切換操作されるため、操作が煩雑になるだけでなく、株間に適さない等速・不等速切換えが行われる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、苗載台から苗を掻取って圃場に移植する植付機構と、車速に対する前記植付機構の相対的な動作速度を変速する株間変速機構と、前記植付機構の植付周期を変えることなく、一周期中の植付動作速度に変化を生じさせる不等速変換機構とを備える移植機において、前記不等速変換機構を経由する不等速伝動経路と、前記不等速変換機構を経由しない等速伝動経路とを構成すると共に、不等速伝動経路と等速伝動経路との切り換えを、前記株間変速機構の変速ギヤで行い、更に、前記株間変速機構を、株間変速のみを行う上流株間変速機構と、その下流で株間変速及び等速・不等速切換えを行う下流株間変速機構とで構成すると共に、下流株間変速機構の変速段数を、上流株間変速機構の変速段数よりも多くしたことを特徴とする。このように構成すれば、株間変速機構の変速ギヤを等速・不等速切換機構に兼用し、部品点数を削減することができる。また、株間変速操作に応じて等速・不等速切換えが自動的に行われるため、別々の操作具で切換操作するものに比べ、操作を簡略化できるだけでなく、株間に適さない等速・不等速切換えが行われる不都合を回避できる。しかも、等速・不等速切換えを行う下流株間変速機構の変速段数が、上流株間変速機構の変速段数よりも多くしてあるので、不等速変換が行われる株間を必要最少限とし、各株間における植付爪軌跡を最適化することができる。
また、前記下流株間変速機構は、多重軸を用いて構成されることを特徴とする。このように構成すれば、下流株間変速機構の大型化を回避しつつ、変速段数を増やすことが可能になる。
また、前記下流株間変速機構の上流で、かつトルクリミッタの下流に減速ギヤを設けると共に、該減速ギヤを、前記下流株間変速機構のギヤと同軸上に配置したことを特徴とする。このように構成すれば、不等速変換機構のタイミングを狂わすことなく、トルクリミッタの切れトルクを低減させることができるだけでなく、軸数の増加を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図面において、1は乗用田植機の走行機体であって、該走行機体1は、機体前部に搭載されるエンジン2と、エンジン動力を入力するミッションケース3と、フロントアクスルケース4を介して取付けられる左右一対の前輪5と、リヤアクスルケース6を介して取付けられる左右一対の後輪7とを備える。エンジン動力は、無段変速機構8を介してミッションケース3に入力され、ここからフロントアクスルケース4、リヤアクスルケース6及び植付PTO軸9に伝動される。
【0007】
走行機体1の後部には、昇降リンク機構10を介して植付作業部11が連結されている。植付作業部11は、昇降リンク機構10にローリング自在に連結される作業部フレーム12と、該作業部フレーム12の上方に左右往復動自在に設けられる苗載台13と、上記作業部フレーム12の左右中間部に取付けられる入力ケース(図示せず)と、上記作業部フレーム12に対して左右方向に所定間隔を存して取り付けられ、作業部フレーム12から後方に延出する複数の植付伝動ケース14と、該植付伝動ケース14の後端部に設けられる植付機構15と、植付作業部11の底部に設けられるフロート16とを備えて構成される。
【0008】
入力ケースは、ミッションケース3の植付PTO軸9から植付動力を入力すると共に、この植付動力を、植付伝動軸17を介して各植付伝動ケース14に伝動する。さらに、植付伝動ケース14に伝動された植付動力は、植付伝動ケース14内のチェン伝動機構18を介して植付機構15に伝動される。
【0009】
植付機構15は、前記植付動力で回転する回転ケース15aと、その両端部に設けられる一対の植付爪支持ケース15bとを備えて構成される。植付爪支持ケース15bは、先端部に備える植付爪19が所定の軌跡を描くように、回転ケース15aに内装されるギヤ列(図示せず)で姿勢がコントロールされる。つまり、回転ケース15aが回転すると、植付爪19が苗載台13の下端部から苗を掻取った後、前方に膨らむ円弧を描きながら土中の植付位置に達し、その後、直線的に上昇するという半月状の静止軌跡(走行停止時の先端運動軌跡)を描くように構成されている。これにより、回転ケース15aが一回転する毎に二回の植付けが実行されることになる。
【0010】
植付機構15の植付動作速度は、車速に連動しており、車速に対する相対的な植付動作速度を変速することによって、植付機構15の植付株間が調節される。また、植付機構15の植付爪軌跡は、標準株間を基準に設定されており、植付株間を広げるべく植付作動速度を遅くすると、機体進行に伴う植付爪19の前方移動量が土中で大きくなり、植え付けた苗が引き摺られてしまう。そのため、植付株間を広げる場合には、植付機構15の植付周期を変えることなく、一周期中の植付動作速度に変化を生じさせることにより、植付爪19の土中動作速度を速くし、苗の引き摺りを防止する必要がある。以下、そのための構成について説明する。
【0011】
前記ミッションケース3は、入力軸20に入力された動力を、入力軸20に回転自在に支持される筒軸21と、該筒軸21に並列する中間伝動軸22と、該中間伝動軸22に並列する株間変速軸23と、該株間変速軸23に回転自在に支持される筒軸24と、該筒軸24に回転自在に支持される筒軸25とを経由して植付PTO軸9に伝動するように構成されている。
【0012】
入力軸20と筒軸21との間には、主クラッチ機構26が構成されており、その入り/切り動作に応じて、走行動力及び植付動力が断続される。主クラッチ機構26の伝動下流となる筒軸21には、走行動力を取り出すギヤ27と、植付動力を取り出すギヤ28とが一体的に設けられており、植付伝動ギヤ28は、常時噛合するギヤ29を介して、中間伝動軸22に植付動力を伝動している。
【0013】
中間伝動軸22と株間変速軸23の左端部間には、第一株間変速機構(上流株間変速機構)30が構成されている。第一株間変速機構30は、中間伝動軸22に一体的に設けられる二枚のギヤ31、32と、株間変速軸23にスプライン嵌合される変速ギヤ33とを備えて構成される。変速ギヤ33は、二つのギヤ部33a、33bを有し、各ギヤ部33a、33bが二枚のギヤ31、32に対して選択的に噛み合うことにより、二段の株間変速を可能にしている。
【0014】
株間変速軸23と筒軸24の右端部間には、トルクリミッタ34及び減速ギヤ機構35が構成されている。減速ギヤ機構35は、株間変速軸23上に配置されるギヤ36と、中間伝動軸22上に配置されるギヤ37とを備え、これらを経由して減速した植付動力を筒軸24の右端部に伝動する。
【0015】
筒軸24の左端部には、第二株間変速機構(下流株間変速機構)38を構成する変速ギヤ39がスプライン嵌合されている。この変速ギヤ39は、中間伝動軸22上のギヤ40に噛み合う第一の位置(株間大)と、中間伝動軸22上のギヤ41に噛み合う第二の位置(株間中)と、側面の噛合歯39aが筒軸25の噛合歯25aに噛み合う第三の位置(株間小)とに変速操作される。変速ギヤ39の噛合歯39aが筒軸25の噛合歯25aに噛み合う状態では、筒軸24の回転が変速されることなく、筒軸25にそのまま伝動される一方、変速ギヤ39がギヤ40、41に噛み合う状態では、そのギヤ比によって植付動力が変速される。これにより、第二株間変速機構38による三段の変速と、第一株間変速機構30による二段の変速を組み合せることにより、六段階の株間調整を行うことが可能になる。
【0016】
ギヤ40には、不等速変換機構42を構成する偏心ギヤ43が一体的に設けられている。この偏心ギヤ43は、筒軸25に一体的に設けられる偏心ギヤ44に常時噛合される。つまり、第二株間変速機構38の変速ギヤ39をギヤ40に噛み合わせた場合、筒軸24の動力が不等速変換機構42を経由して筒軸25に伝動されることになる。これにより、植付動力の等速・不等切換えができるだけでなく、第二株間変速機構38の変速ギヤ39を利用して等速・不等切換えを行うことが可能になる。
【0017】
ギヤ41は、筒軸25上のギヤ45に常時噛合するギヤ46を一体的に備えており、第二株間変速機構38の変速ギヤ39をギヤ41に噛み合わせた場合、筒軸24の動力が不等速変換機構42を経由することなく筒軸25に伝動される。つまり、第二株間変速機構38は、第一株間変速機構30よりも変速段数が多く設定されると共に、そのうちの一段で不等速変換を行うように構成されているので、不等速変換が行われる株間を必要最少限とし、各株間における植付爪軌跡を最適化することができる。
【0018】
例えば、本実施形態では、以下に示すように、第一株間変速機構30と第二株間変速機構38の組み合せにより、六段階の株間K1〜K6(K1<K2<K3<K4<K5<K6)を現出させ、そのうち二つの株間K5、K6で不等速変換を行う。
K1:第一株間変速機構(小)、第二株間変速機構(小)
K2:第一株間変速機構(大)、第二株間変速機構(小)
K3:第一株間変速機構(小)、第二株間変速機構(中)
K4:第一株間変速機構(大)、第二株間変速機構(中)
K5:第一株間変速機構(小)、第二株間変速機構(大)
K6:第一株間変速機構(大)、第二株間変速機構(大)
【0019】
また、本実施形態の第二株間変速機構38は、多重軸を用いて構成される。具体的には、中間伝動軸22の外周でギヤ40を支持すると共に、ギヤ40に形成される筒部40aの外周でギヤ41を支持している。これにより、第二株間変速機構38の大型化を回避しつつ、変速段数を増やすことが可能になる。
【0020】
また、本実施形態では、第二株間変速機構38の上流で、かつトルクリミッタ34の下流に前述の減速ギヤ機構35を設けるにあたり、減速ギヤ機構35を構成するギヤ37を第二株間変速機構38のギヤ40、41と同軸上に配置したので、不等速変換機構42のタイミングを狂わすことなく、トルクリミッタ34の切れトルクを低減させることができるだけでなく、軸数の増加を回避できる。
尚、筒軸25に伝動された動力は、ベベルギヤ機構47及び植付けクラッチ機構48を介して植付PTO軸9から出力される。
【0021】
叙述の如く構成された本実施形態の乗用田植機は、苗載台13から苗を掻取って圃場に移植する植付機構15と、車速に対する植付機構15の相対的な動作速度を変速する株間変速機構30、38と、植付機構15の植付周期を変えることなく、一周期中の植付動作速度に変化を生じさせる不等速変換機構42とを備えるが、不等速変換機構42を経由する不等速伝動経路と、不等速変換機構42を経由しない等速伝動経路とを構成すると共に、不等速伝動経路と等速伝動経路との切り換えを、株間変速機構38の変速ギヤ39で行い、更に、株間変速機構30、38を、株間変速のみを行う第一株間変速機構30と、その下流で株間変速及び等速・不等速切換えを行う第二株間変速機構38とで構成すると共に、第二株間変速機構38の変速段数を、第一株間変速機構30の変速段数よりも多くしてある。これにより、株間変速機構38の変速ギヤを等速・不等速切換機構に兼用し、部品点数を削減することができる。また、株間変速操作に応じて等速・不等速切換えが自動的に行われるため、別々の操作具で切換操作するものに比べ、操作を簡略化できるだけでなく、株間に適さない等速・不等速切換えが行われる不都合を回避できる。しかも、第二株間変速機構38の変速段数を第一株間変速機構30の変速段数よりも多くすることにより、不等速変換が行われる株間を必要最少限とし、各株間における植付爪軌跡を最適化することができる。
【0022】
また、第二株間変速機構38は、多重軸を用いて構成されるので、第二株間変速機構38の大型化を回避しつつ、変速段数を増やすことが可能になる。
【0023】
また、第二株間変速機構38の上流で、かつトルクリミッタ34の下流に減速ギヤ機構35を設けると共に、該減速ギヤ機構35のギヤ37を、第二株間変速機構38のギヤ40、41と同軸上に配置したので、不等速変換機構42のタイミングを狂わすことなく、トルクリミッタ34の切れトルクを低減させることができるだけでなく、軸数の増加を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】乗用田植機の側面図である。
【図2】ミッションケースの展開図である。
【図3】植付動力伝動系を示す要部展開図である。
【図4】乗用田植機の動力伝動系全体を示す伝動回路図である。
【図5】植付動力伝動系を示す動力伝動回路図である。
【符号の説明】
【0025】
1 走行機体
3 ミッションケース
11 植付作業部
13 苗載台
15 植付機構
22 中間伝動軸
23 株間変速軸
24 筒軸
25 筒軸
30 第一株間変速機構
34 トルクリミッタ
35 減速ギヤ機構
38 第二株間変速機構
42 不等速変換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗載台から苗を掻取って圃場に移植する植付機構と、車速に対する前記植付機構の相対的な動作速度を変速する株間変速機構と、前記植付機構の植付周期を変えることなく、一周期中の植付動作速度に変化を生じさせる不等速変換機構とを備える移植機において、
前記不等速変換機構を経由する不等速伝動経路と、前記不等速変換機構を経由しない等速伝動経路とを構成すると共に、不等速伝動経路と等速伝動経路との切り換えを、前記株間変速機構の変速ギヤで行い、更に、前記株間変速機構を、株間変速のみを行う上流株間変速機構と、その下流で株間変速及び等速・不等速切換えを行う下流株間変速機構とで構成すると共に、下流株間変速機構の変速段数を、上流株間変速機構の変速段数よりも多くしたことを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記下流株間変速機構は、多重軸を用いて構成されることを特徴とする請求項1記載の移植機。
【請求項3】
前記下流株間変速機構の上流で、かつトルクリミッタの下流に減速ギヤを設けると共に、該減速ギヤを、前記下流株間変速機構のギヤと同軸上に配置したことを特徴とする請求項1又は2記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−67969(P2006−67969A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258456(P2004−258456)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】