説明

移植機

【課題】機体の運搬や格納に際し、苗移送装置が必要スペースを拡張するという不都合を解消する。
【解決手段】前後方向に延設される苗移送装置15を備え、該苗移送装置15を介して、機体前方から機体上に予備苗14を供給する乗用型田植機であって、苗移送装置15を、固定部20と可動部21とで構成すると共に、可動部21の姿勢変更に基づいて、全体姿勢を移送姿勢と格納姿勢とに変更可能にし、移送姿勢のときは、固定部20の前方に可動部21を位置させる一方、格納姿勢のときは、固定部20と可動部21とを上下に並列させると共に、固定部20及び可動部21の前端を、機体前端又はそれよりも後方に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体前方から機体上に予備苗を供給するための苗移送装置を備える乗用型田植機等の移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
前後方向に延設される苗移送装置を備え、該苗移送装置を介して、機体前方から機体上に予備苗を供給できるようにした移植機が知られている。例えば、特許文献1に記載される移植機(乗用型田植機)は、ローラコンベアからなる苗移送装置(予備苗載台)を備え、該苗移送装置を介して、畔側から機体上に連続的に予備苗(マット苗)を供給できるようにすると共に、苗移送装置を折畳み自在に構成し、その要/不要に応じて苗移送装置の全体姿勢を移送姿勢と格納姿勢とに変更できるようにしている。
【特許文献1】特開2005−176680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載される移植機では、格納姿勢であっても苗移植装置の前端部が機体前端から突出するので、機体の運搬や格納に際し、広いスペースが必要になるという問題があった。
また、特許文献1に記載される移植機では、苗移送装置が移送姿勢の場合、乗降スペースであるフロアステップの左右両端スペースが苗移送装置で塞がれてしまうため、機体に対する乗降に際し、苗移送装置をいちいち格納姿勢に姿勢変更しなければならないという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、前後方向に延設される苗移送装置を備え、該苗移送装置を介して、機体前方から機体上に予備苗を供給する移植機であって、前記苗移送装置を、固定部と可動部とで構成すると共に、可動部の姿勢変更に基づいて、全体姿勢を移送姿勢と格納姿勢とに変更可能にし、移送姿勢のときは、固定部の前方に可動部を位置させる一方、格納姿勢のときは、固定部と可動部とを上下に並列させると共に、固定部及び可動部の前端を、機体の前端又はそれよりも後方に位置させることを特徴とする。このようにすると、苗移送装置を格納姿勢とした場合、苗移送装置の前端部が機体前端から突出しないので、機体の運搬や格納に際し、苗移送装置が必要スペースを拡張するという不都合を解消できる。
また、前記苗移送装置を機体の一側方又は両側方に配置するにあたり、移送姿勢及び格納姿勢における苗移送装置の後端と、フロアステップの後端との間に、少なくともオペレータが乗降可能なスペースを確保したことを特徴とする。このようにすると、苗移送装置が移送姿勢であっても、乗降スペースが確保されるので、機体に対する乗降に際し、苗移送装置をいちいち格納姿勢に姿勢変更する必要がない。
また、前記苗移送装置を、一つの固定部と一つの可動部で構成すると共に、固定部の前端を機体の前端に合わせ、さらに、固定部と可動部を同一長さとしたことを特徴とする。このようにすると、格納姿勢における機体前端からの突出を回避しつつ、移送姿勢においても乗降スペースが確保されるように苗移送装置を構成するにあたって、移送姿勢の苗移送装置を最大限に長くすることができる。
また、前記苗移送装置を、一つの固定部と一つの可動部で構成すると共に、固定部の上方に、予備苗を載置可能な間隔を開けて、可動部を折畳み状に格納させることを特徴とする。このようにすると、苗移送装置を格納姿勢にしても、予備苗を上下二段に載置することができ、特に、4条植えの田植機においては、このように構成される苗移送装置を機体の左右両側に設けることにより、植付条数分の予備苗が載置可能になるという利点がある。
また、前記固定部及び可動部の後端を、オペレータが座る座席よりも前方で、かつ、座席前方のステアリングハンドルよりも後方に位置させることを特徴とする。このようにすると、乗降スペースを確保しつつ、苗移送装置の長さを可及的に長くすることができる。例えば、固定部及び可動部を苗箱長よりも長くし、移送姿勢で苗箱長の2.5倍以上にすれば、移送姿勢で3枚の苗箱を載置することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
[第一実施形態]
次に、本発明の第一実施形態に係る乗用型田植機(移植機)を図1〜図4に基づいて説明する。図面において、1は乗用型田植機の走行機体であって、該走行機体1は、機体上の後部にオペレータが座るための座席2を備えると共に、座席2の前方に操作パネル3やステアリングハンドル4を備えている。平面視において、座席2と操作パネル3との間には、フロアステップ5が形成されている。フロアステップ5の左右両端部は、走行機体1に対する乗降口となっており、その下側には、乗降を容易にする乗降ステップ6も設けられている。
【0006】
走行機体1の後方には、昇降リンク機構7を介して植付部8が昇降自在に連結されている。本実施形態の植付部8は、4条分の苗を同時に植付可能な4条植え仕様であり、4条分のマット苗を載置可能な苗載台9、該苗載台9の下端部から苗を掻取って圃場に植付ける4条分の植付機構10、田面を滑走するフロート11などを備えて構成されている。本実施形態の苗載台9は、マット苗の載置面が前高後低状に傾斜すると共に、その前端側が座席2の近傍まで延出している。これにより、オペレータは、座席2に座ったままの姿勢でも、苗載台9に対するマット苗の補給が可能になる。
【0007】
本実施形態では、座席2の左側方に肥料タンク12を配置し、該肥料タンク12に貯留される液状又は粒状の肥料を、植付けと同時に圃場に施すようになっている。このようにすると、オペレータは、座席2に座ったままの姿勢でも、肥料タンク12に対する肥料の補給や、肥料の残量確認を行うことが可能になる。尚、肥料タンク12は、走行機体1の側部に設けたタンクブラケット13によって支持されている。
【0008】
また、走行機体1の右側方には、機体前方から機体上に予備苗14を供給するための苗移送装置15が前後方向に延設されている。予備苗14は、苗箱16に収納された状態で供給され、通常、スクレーパ17を用いて苗箱16から掬い出し、苗載台9に補給される。本実施形態の苗移送装置15は、所定間隔を存して並列する左右の外枠18と、左右の外枠18間に所定間隔を存して回転自在に架設される複数の転動ローラ19とを備えるローラコンベアであり、機体側部から機体前方に向けて延出すると共に、前高後低状に傾斜している。
【0009】
畔側から機体上に予備苗14を供給する際は、まず、走行機体1から前方に延出する苗移送装置15の前端部を畦際に進入させ、しかる後、苗箱16に収納された状態の予備苗14を畔側から苗移送装置15上に載せる。そして、苗移送装置15に載せられた予備苗14は、苗移送装置15の傾斜及び転動ローラ19の回転により後方に送られるので、畔側から機体上に連続的に予備苗14を供給することが可能になる。尚、苗移送装置15の後端部には、図示しないストッパが設けられており、該ストッパによって予備苗14の落下が規制される。また、畔側から機体上に予備苗14を供給する際には、予備苗(マット苗)14と苗箱16との間に予めスクレーパ17を差し込んでおくことが好ましく、このようにすることにより、機体上における予備苗14の掬い出し作業が容易になる。
【0010】
また、本実施形態の苗移送装置15は、一つの固定部20と一つの可動部21とによる2ピースの構成であり、可動部21の姿勢変更に基づいて、全体姿勢を移送姿勢と格納姿勢とに変更できるようになっている。つまり、固定部20は、コンベアブラケット22を介して機体側部に固定され、可動部21は、支軸23を介して固定部20に回動自在(折り畳み自在)に連結されている。そして、移送姿勢のときは、固定部20の前方に可動部21を一直線状に位置させる一方、格納姿勢のときは、可動部21の回動操作により、固定部20と可動部21とを上下に並列させると共に、固定部20及び可動部21の前端を、走行機体1の前端又はそれよりも後方に位置させるようになっている。具体的には、支軸23を走行機体1の前端又はそれよりも後方に位置させることにより、可動部21を走行機体1の前端又はそれよりも後方に折畳み状に格納できるようにしている。このようにすると、苗移送装置15を格納姿勢とした場合、苗移送装置15の前端部が機体前端から突出しないので、走行機体1の運搬や格納に際し、苗移送装置15が必要スペースを拡張するという不都合を解消できる。
【0011】
また、苗移送装置15を走行機体1の一側方又は両側方に配置するにあたり、移送姿勢及び格納姿勢における苗移送装置15の後端と、フロアステップ5の後端との間には、少なくともオペレータが乗降可能なスペースを確保することが好ましい。このようにすると、苗移送装置15が移送姿勢であっても、乗降スペースが確保されるので、走行機体1に対する乗降に際し、苗移送装置15をいちいち格納姿勢に姿勢変更する必要がない。しかも、本実施形態では、苗移送装置15の後端を、座席2の前端よりも前側に位置させるだけでなく、乗降ステップ6の前端よりも前側に位置させ、さらには、フロアステップ5の左右両端部を後方に延長し、座席2の側方まで入り込ませているので、より広い乗降スペースを確保し、良好な乗降が可能になる。
【0012】
また、本実施形態の苗移送装置15では、固定部20と可動部21を上下並列状に格納するにあたり、固定部20の前端を走行機体1の前端に合わせると共に、固定部20と可動部21を同一長さとしている。このようにすると、格納姿勢における機体前端からの突出を回避しつつ、移送姿勢においても乗降スペースが確保されるように苗移送装置15を構成するにあたって、移送姿勢の苗移送装置15を最大限に長くすることができる。例えば、固定部20及び可動部21を苗箱16の長さよりも長くし、固定部20及び可動部21の後端を、座席2よりも前方で、かつ、ステアリングハンドル4よりも後方に位置させると、移送姿勢における苗移送装置15の長さを苗箱16の長さの2.5倍以上とし、3枚の苗箱16を載置することが可能になる。
【0013】
また、本実施形態の苗移送装置15では、固定部20と可動部21を上下並列状に格納するにあたり、固定部20と可動部21との間に、予備苗14を載置可能な間隔を確保している。このようにすると、苗移送装置15を格納姿勢にしても、予備苗14を上下二段に載置することが可能になる。
【0014】
さらに、走行機体1の側部には、予備苗14を載置可能な補助苗載台24が設けられている。走行機体1の左側部に設けられる上下二段の補助苗載台24は、乗降スペースを介して肥料タンク12の前方に配置され、走行機体1の右側部に設けられる一段の補助苗載台24は、苗移送装置15の下方に配置されている。このようにすると、より多くの予備苗14を載せることが可能になるだけでなく、使用済みの苗箱16やスクレーパ17の置き場所を確保することができる。
【0015】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、前後方向に延設される苗移送装置15を備え、該苗移送装置15を介して、機体前方から機体上に予備苗14を供給する乗用型田植機であって、苗移送装置15を、固定部20と可動部21とで構成すると共に、可動部21の姿勢変更に基づいて、全体姿勢を移送姿勢と格納姿勢とに変更可能にし、移送姿勢のときは、固定部20の前方に可動部21を位置させる一方、格納姿勢のときは、固定部20と可動部21とを上下に並列させると共に、固定部20及び可動部21の前端を、機体前端又はそれよりも後方に位置させるので、苗移送装置15を格納姿勢とした場合、苗移送装置15の前端部が機体前端から突出することを回避できる。これにより、機体の運搬や格納に際し、苗移送装置15が必要スペースを拡張するという不都合を解消できる。
【0016】
また、苗移送装置15を機体の一側方又は両側方に配置するにあたり、移送姿勢及び格納姿勢における苗移送装置15の後端と、フロアステップ5の後端との間に、少なくともオペレータが乗降可能なスペースを確保したので、苗移送装置15が移送姿勢であっても、乗降スペースを確保でき、その結果、機体に対する乗降に際し、苗移送装置15をいちいち格納姿勢に姿勢変更する必要がない。
【0017】
また、苗移送装置を、一つの固定部20と一つの可動部21で構成すると共に、固定部20の前端を機体の前端に合わせ、さらに、固定部20と可動部21を同一長さとしたので、格納姿勢における機体前端からの突出を回避しつつ、移送姿勢においても乗降スペースが確保されるように苗移送装置15を構成するにあたって、移送姿勢の苗移送装置15を最大限に長くすることができる。
【0018】
また、苗移送装置15を、一つの固定部20と一つの可動部21で構成すると共に、固定部20の上方に、予備苗14を載置可能な間隔を開けて、可動部21を折畳み状に格納させるので、苗移送装置15を格納姿勢にしても、予備苗14を上下二段に載置することができる。
【0019】
また、固定部20及び可動部21の後端を、座席2よりも前方で、かつ、ステアリングハンドル4よりも後方に位置させるので、乗降スペースを確保しつつ、苗移送装置15の長さを可及的に長くすることができる。例えば、固定部20及び可動部21を苗箱長よりも長くし、移送姿勢で苗箱長の2.5倍以上にすれば、移送姿勢で3枚の苗箱16を載置することが可能になる。
【0020】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る乗用型田植機を図5及び図6に基づいて説明する。ただし、第一実施形態と共通する部分については、第一実施形態と同じ符号を付け、第一実施形態の説明を援用する。
【0021】
図5及び図6に示すように、第二実施形態の乗用型田植機は、走行機体1の左右両側部に苗移送装置15を備える点が第一実施形態と相違している。このようにすると、より多くの予備苗14を畔側から機体上に効率良く供給することが可能になる。走行機体1の左右両側部に苗移送装置15を配置する場合、補助苗載台24の有無は任意であるが、補助苗載台24を省く場合は、使用済みスクレーパ17の置き場所を別途確保することが好ましい。例えば、本実施形態では、苗移送装置15の後部外端に、使用済みのスクレーパ17を上方から差し込み可能なスクレーパ入れ25を設けている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第一実施形態に係る乗用型田植機において苗移送装置が移送姿勢となった状態を示す側面図である。
【図2】第一実施形態に係る乗用型田植機において苗移送装置が格納姿勢となった状態を示す側面図である。
【図3】第一実施形態に係る乗用型田植機において苗移送装置が移送姿勢となった状態を示す平面図である。
【図4】第一実施形態に係る乗用型田植機において苗移送装置が移送姿勢となった状態を示す正面図である。
【図5】第二実施形態に係る乗用型田植機において苗移送装置が移送姿勢となった状態を示す側面図である。
【図6】第二実施形態に係る乗用型田植機において苗移送装置が移送姿勢となった状態を示す正面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 走行機体
2 座席
5 フロアステップ
8 植付部
9 苗載台
12 肥料タンク
14 予備苗
15 苗移送装置
16 苗箱
17 スクレーパ
20 固定部
21 可動部
23 支軸
24 補助苗載台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延設される苗移送装置を備え、該苗移送装置を介して、機体前方から機体上に予備苗を供給する移植機であって、
前記苗移送装置を、固定部と可動部とで構成すると共に、可動部の姿勢変更に基づいて、全体姿勢を移送姿勢と格納姿勢とに変更可能にし、移送姿勢のときは、固定部の前方に可動部を位置させる一方、格納姿勢のときは、固定部と可動部とを上下に並列させると共に、固定部及び可動部の前端を、機体の前端又はそれよりも後方に位置させることを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記苗移送装置を機体の一側方又は両側方に配置するにあたり、移送姿勢及び格納姿勢における苗移送装置の後端と、フロアステップの後端との間に、少なくともオペレータが乗降可能なスペースを確保したことを特徴とする請求項1記載の移植機。
【請求項3】
前記苗移送装置を、一つの固定部と一つの可動部で構成すると共に、固定部の前端を機体の前端に合わせ、さらに、固定部と可動部を同一長さとしたことを特徴とする請求項1又は2記載の移植機。
【請求項4】
前記苗移送装置を、一つの固定部と一つの可動部で構成すると共に、固定部の上方に、予備苗を載置可能な間隔を開けて、可動部を折畳み状に格納させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の移植機。
【請求項5】
前記固定部及び可動部の後端を、オペレータが座る座席よりも前方で、かつ、座席前方のステアリングハンドルよりも後方に位置させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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