説明

移植臓器の線維化抑制剤

【課題】免疫抑制剤を長期投与している臓器移植患者において、移植臓器が漸次線維化し、臓器不全を誘発するのを抑制する薬剤、及び臓器を提供するドナーの臓器を患者であるレシピエントに提供した時に、臓器拒絶反応に対する免疫寛容を患者が獲得し得る免疫寛容獲得剤に関する
【解決手段】肝細胞増殖因子を含有することを特徴とする、免疫抑制剤投与に伴う移植臓器の線維化抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は肝細胞増殖因子(以下、HGFと略記する。)を含有し、免疫抑制剤の長期投与に伴い移植臓器が線維化するのを抑制する薬剤に関するものである。また、本発明はHGFの中でも、特に5アミノ酸欠損HGFを含み、臓器移植患者が免疫耐性を獲得し得る免疫寛容剤に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器移植が、臓器を代替する以外に治療法がない場合の医療として定着してきている。しかし、近年、臓器移植の生着数の増加及び臓器移植後の患者の追跡調査等により、臓器移植後長年の経過後に、移植された臓器が、徐々に線維化することが問題となってきている。臓器移植において、移植片又は移植組織の拒絶反応の抑制等に免疫抑制剤が使用されている。自己移植を除き免疫抑制剤は一生涯に渡り服用を続けなければならず、移植臓器に線維化が見られるのは免疫抑制剤を服用し続けている場合である。免疫抑制剤と移植臓器の線維化との因果関係は明らかではないが、免疫抑制剤投与下における移植臓器の線維化を抑制する手段は知られていない。
【0003】
従来から、免疫抑制剤は、移植片又は移植組織の定着には、必須であり、一生涯に渡り服用を続ける必要がある。前記免疫抑制剤において、シクロスポリン及びFK506(タクロリムス)は強い免疫抑制作用を有し、腎臓、肝臓、心臓、膵臓等の臓器移植後における移植片拒絶反応の抑制にすばらしい成績を収めており、注目されている薬剤である。臓器移植後の急性拒絶反応の発症率を著しく低減できることから、臓器移植の際に汎用されるシクロスポリン等は、骨髄抑制の出現頻度が少ないため、白血球減少症に伴う重篤な感染症の発症を防止でき、臓器移植後の管理が容易になるという利点を有し、この効果からも臓器移植の成績を著しく向上させることが可能になった。しかし、シクロスポリン等においても副作用は認められ、例えば、腎毒性、肝毒性、神経障害、高血圧、大腿骨頭壊死、白内障、糖尿病、急性膵炎、サイトメガロウイルス感染症等移植部位とは異なる部位や全身的な副作用が報告されている。HGFは、このような免疫抑制剤による全身的な副作用を軽減し得ることが知られている(特許文献1参照)。HGFは、本発明者の中村らが再生肝ラット血清中から成熟肝実質細胞をin vitroで増殖させる因子として見出した蛋白質である(非特許文献1参照)。中村らは更に、HGFをラット血小板より単離することに成功し(非特許文献2,3参照)、そのアミノ酸配列を一部決定した。さらに、中村らは解明されたHGFアミノ酸配列をもとにヒト及びラット由来のHGFcDNAクローニングを行い、このcDNAを動物細胞に組換え技術により導入してHGFを蛋白質として得ることに成功した(例えば、非特許文献4参照)。
しかし、上記文献のいずれにもHGFが移植臓器の線維化を抑制するということについての言及はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−89869号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミューニケーションズ(Biochemical and Biophysical Research Communications)、1984年、第122巻、p.1450−1459
【非特許文献2】プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ユナイテッド・ステート・オブ・アメリカ(Proc.Natl.Acad.Sci)、1986年、第83巻、p.6489
【非特許文献3】エフ・イー・ビー・エス・レターズ(FEBS Letters)、1987年、第22巻、p.311
【非特許文献4】ネイチャー(Nature)、1989年、第342巻、p.440−443
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、免疫抑制剤を長期投与している臓器移植患者において、移植臓器が漸次線維化し、臓器不全を誘発するのを抑制する薬剤に関するものである。また、本発明は、臓器を提供するドナーの臓器を患者であるレシピエントに提供した時に、臓器拒絶反応に対する免疫寛容を患者が獲得し得る免疫寛容(taransplantation tolerance)獲得剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、HGFの投与により臓器移植された動物の移植臓器の線維化が抑制されること、また、5アミノ酸欠損HGFを投与された臓器移植動物が移植臓器に対し免疫寛容を獲得することを知見した。本発明者らはこれら知見に基づきさらに研究を進め、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) HGFを含有することを特徴とする、免疫抑制剤投与に伴う移植臓器の線維化抑制剤、
(2) HGFが、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドであってHGFとして作用するペプチド又はこれらの部分ペプチドであってHGFとして作用するペプチドであることを特徴とする上記(1)に記載の移植臓器の線維化抑制剤、
(3) HGFをコードするDNAを含有することを特徴とする免疫抑制剤投与に伴う移植臓器の線維化抑制剤、
(4) HGFをコードするDNAが、配列番号3又は4で表される塩基配列からなるDNA、あるいは配列番号3又は4で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGFとして作用するペプチドをコードするDNAであることを特徴とする上記(3)に記載の移植臓器の線維化抑制剤、
(5) 免疫抑制剤が、タクロリムスであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の線維化抑制剤、
(6) 配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドであってHGFとして作用するペプチド又はこれらの部分ペプチドであってHGFとして作用するペプチドを含有することを特徴とする免疫寛容獲得剤、及び
(7) 配列番号4で表される塩基配列からなるDNA又は配列番号4で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGFとして作用するペプチドをコードするDNAを含有することを特徴とする免疫寛容獲得剤、
に関する。
【0009】
また、本発明は、
(8) 免疫抑制剤が投与されている臓器移植された哺乳動物にHGFを投与することを特徴とする、移植臓器の線維化を抑制する方法、
(9) HGFが、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドであってHGFとして作用するペプチド又はこれらの部分ペプチドであってHGFとして作用するペプチドであることを特徴とする上記(8)に記載の方法、
(10) 免疫抑制剤が投与されている臓器移植された哺乳動物にHGFをコードするDNAを投与することを特徴とする、移植臓器の線維化を抑制する方法、
(11) HGFをコードするDNAが、配列番号3又は4で表される塩基配列からなるDNA、あるいは配列番号3又は4で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGFとして作用するペプチドをコードするDNAであることを特徴とする上記(10)に記載の方法、
(12) 免疫抑制剤が、タクロリムスであることを特徴とする上記(8)〜(11)のいずれかに記載の方法、
(13) 臓器移植される哺乳動物に、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドであってHGFとして作用するペプチド又はこれらの部分ペプチドであってHGFとして作用するペプチドを投与することを特徴とする、免疫寛容の獲得方法、
(14) 臓器移植される哺乳動物に、配列番号4で表される塩基配列からなるDNA、あるいは配列番号4で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGFとして作用するペプチドをコードするDNAを投与することを特徴とする、免疫寛容の獲得方法、
に関する。
【0010】
また、本発明は、
(15) 免疫抑制剤投与に伴う移植臓器の線維化を抑制する医薬を製造するためのHGFの使用、
(16) HGFが、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドであってHGFとして作用するペプチド又はこれらの部分ペプチドであってHGFとして作用するペプチドであることを特徴とする上記(15)に記載の使用、
(17) 免疫抑制剤投与に伴う移植臓器の線維化を抑制する医薬を製造するためのHGFをコードするDNAの使用、
(18) HGFをコードするDNAが、配列番号3又は4で表される塩基配列からなるDNA、あるいは配列番号3又は4で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGFとして作用するペプチドをコードするDNAであることを特徴とする上記(17)に記載の使用、
(19) 免疫抑制剤が、タクロリムスであることを特徴とする上記(15)〜(18)のいずれかに記載の使用、
(20) 移植臓器に対する免疫寛容を獲得する医薬を製造するためのHGFの使用、
(21) HGFが、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドであってHGFとして作用するペプチド又はこれらの部分ペプチドであってHGFとして作用するペプチドであることを特徴とする上記(20)に記載の使用、
(22) 移植臓器に対する免疫寛容を獲得する医薬を製造するためのHGFをコードするDNAの使用、及び
(23) HGFをコードするDNAが、配列番号4で表される塩基配列からなるDNA、あるいは配列番号4で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGFとして作用するペプチドをコードするDNAであることを特徴とする上記(22)に記載の使用、
に関する。
【0011】
なお、本発明において、線維化とは、移植臓器に膠原線維(コラーゲン)等の細胞外マトリックス(extracellular matrix)が過剰に蓄積し、その結果、移植臓器が硬くなる病態をいう。また、免疫寛容とは、臓器移植時にドナーの細胞、組織等がレシピエントの免疫系に攻撃されないよう、レシピエントの免疫系の破壊的行為を抑制することをいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明の移植臓器の線維化抑制剤は、免疫抑制剤を長期に投与されている臓器移植動物において、移植された臓器の線維化を抑制するので、移植臓器が漸次線維化され、終局的に臓器不全に陥るのを防止できる。
また、ドナーの臓器を移植された直後からレシピエントである動物(患者)に本発明の免疫寛容獲得剤を投与することにより、臓器移植された動物(患者)において該移植された臓器に対する免疫寛容を獲得できるので、該移植臓器に対する拒絶反応を抑制し得る。さらに、本発明の免疫寛容獲得剤の投与によりドナーに対する免疫寛容を獲得した臓器移植動物は、その後のドナー又はドナー臓器に対する免疫応答に対して反応性を示さない状態を誘導できるので、免疫抑制剤の投与量を減少又は、免疫抑制剤の投与を中止し得る。また、臓器移植前に、ドナーの移植臓器以外の組織(例えば、後記する免疫に関与する組織等)を移植するとともに本発明の免疫寛容獲得剤をレシピエントに投与し、ドナーの移植臓器に対する免疫寛容をレシピエントに獲得させることができる。あるいは、ドナーにレシピエントの組織(例えば、後記する免疫に関与する組織等)を移植するとともに本発明の免疫寛容獲得剤を臓器移植前に投与し、ドナーにレシピエントに対する免疫寛容を獲得させることもできる。前記いずれかの方法により免疫寛容を獲得させることにより、従来ドナーとレシピエントとの組織適合抗原が一致せず、移植が不可能であったドナーとレシピエントとの臓器の移植も可能となり得る。また、ドナーに対する免疫寛容を獲得したレシピエントにドナーの臓器を移植、又はレシピエントの免疫寛容を獲得したドナーの臓器を移植されたレシピエントにおいては、臓器移植後の拒絶反応を抑制又は減少させることができる。前記拒絶反応の抑制又は減少は、免疫抑制剤の中止又は免疫抑制剤の投与量の減少を可能とする。なお、本発明における動物はもちろんヒト等の哺乳動物を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は心臓移植後60日生存したマウスの移植心臓の病理像(A)と移植心冠状断の総面積に対する線維化部面積の比率(B)を示す図である。
【図2】図2はC3H/Heマウスの黒毛に、BALB/cマウスの白毛の皮膚が定着したことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で使用されるHGFは公知物質であり、医薬として使用できる程度に精製されたものであれば、種々の方法で調製されたものを用いることができる。HGFの製造方法としては、例えばHGFを産生する初代培養細胞や株化細胞を培養し、培養上清等から分離、精製して該HGFを得ることができる。あるいは遺伝子工学的手法によりHGFをコードする遺伝子を適切なベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に挿入して形質転換し、この形質転換体の培養上清から目的とする組換えHGFを得ることもできる。(例えば、特開平5−111382号公報、Biochem.Biophys.Res.Commun.1989年、第163巻,p.967等を参照)。上記の宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、酵母又は動物細胞等を用いることができる。このようにして得られたHGFは、天然型HGFと実質的に同じ作用を有する限り、そのアミノ酸配列中の1若しくは複数個〔例えば、数個(例えば1〜8個;以下同様である。)〕のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されていてもよく、また同様に糖鎖が置換、欠失若しくは付加されていてもよい。そのようなHGFとして、下記する5アミノ酸欠損型HGFを挙げることができる。ここで、アミノ酸配列について、「1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加」とは、遺伝子工学的手法、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、又は天然に生じうる程度の数(1〜数個)が、欠失、置換若しくは付加等されていることを意味する。糖鎖が置換、欠失若しくは付加したHGFとは、例えば天然のHGFに付加している糖鎖を酵素等で処理し糖鎖を欠損させたHGF、また糖鎖が付加しない様に糖鎖付加部位のアミノ酸配列に変異が施されたもの、あるいは天然の糖鎖付加部位とは異なる部位に糖鎖が付加するようアミノ酸配列に変異が施されたもの等をいう。
さらに、HGFのアミノ酸配列と少なくとも約80%以上の相同性を有する蛋白質、好ましくは約90%以上の相同性を有する蛋白質、より好ましくは約95%以上の相同性を有する蛋白質であって、かつHGFとして作用する蛋白質も含まれる。上記アミノ酸配列について「相同」とは、蛋白質の一次構造を比較し、配列間において各々の配列を構成するアミノ酸残基の一致の程度の意味である。
【0015】
上記HGFとしては、例えば配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列等が挙げられる。配列番号2で表されるHGFは、配列番号1で表されるアミノ酸配列の161〜165番目の5個のアミノ酸残基が欠失している5アミノ酸欠損型HGFである。配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質は、両者ともヒト由来の天然HGFであって、HGFとしてのマイトゲン活性、モートゲン活性等を有する。
配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含むペプチドとしては、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と少なくとも約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチド、例えば配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列から、1〜数個のアミノ酸残基を挿入又は欠失させたアミノ酸配列、1〜数個のアミノ酸残基を別のアミノ酸残基と置換させたアミノ酸配列又は1〜数個のアミノ酸残基が修飾されたアミノ酸配列等を含むペプチドであってHGFとして作用するペプチドであることが好ましい。挿入されるアミノ酸又は置換されるアミノ酸は、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸以外の非天然アミノ酸であってもよい。非天然アミノ酸は、アミノ基とカルボキシル基を有する限りどのような化合物でもよいが、例えばγ−アミノ酪酸等が挙げられる。
これらのペプチドは、単独であっても、これらの混合ペプチドであってもよい。
【0016】
本発明に用いられるHGFは、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO)、アミド(−CONH)又はエステル(−COOR)のいずれであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはn−ブチル等のC1−6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル等のC3−8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチル等のC6−12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチル等のフェニル−C1−2アルキル基もしくはα−ナフチルメチル等のα−ナフチル−C1−2アルキル基等のC7−14アラルキル基のほか、経口用エステルとして汎用されるピバロイルオキシメチル基等が用いられる。本発明で用いられるHGFが、C末端以外にカルボキシル基(又はカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化又はエステル化されているものも本発明におけるHGFに含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステル等が用いられる。さらに、本発明に用いられるHGFには、上記した蛋白質において、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル等のC2−6アルカノイル基等のC1−6アシル基等)で保護されているもの、N末端側が生体内で切断され生成したグルタミル基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば、−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基等)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル等のC2−6アルカノイル基等のC1−6アシル基等)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質等の複合蛋白質等も含まれる。
【0017】
本発明で用いるHGFの部分ペプチド(以下、部分ペプチドと略記する場合がある。)としては、上記したHGFの部分ペプチドであればいずれのものであってもよい。本発明において、部分ペプチドのアミノ酸の数は、上記したHGFの構成アミノ酸配列のうち少なくとも約20個以上、好ましくは約50個以上、より好ましくは約100個以上のアミノ酸配列を含有するペプチド等が好ましい。本発明の部分ペプチドにおいては、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO)、アミド(−CONH)又はエステル(−COOR)のいずれであってもよい。さらに、部分ペプチドには、上記したHGFと同様に、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基で保護されているもの、N端側が生体内で切断され生成したGlnがピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチド等の複合ペプチド等も含まれる。
【0018】
本発明に用いられるHGF又はその部分ペプチドの塩としては、酸又は塩基との生理学的に許容される塩が挙げられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩等が挙げられる。
【0019】
本発明に用いられるHGFの部分ペプチド又はその塩は、公知のペプチドの合成法に従って、あるいはHGFを適当なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれでも良い。すなわち、HGFを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は、保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、M.Bodanszky及びM.A.Ondetti、ペプチド・シンセシス(Peptide Synthesis),Interscience Publishers,New York(1966年)、Schroeder及びLuebke、ザ・ペプチド(The Peptide), Academic Press,NewYork(1965年)等に記載された方法が挙げられる。反応後は通常の精製方法、例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶等を組み合わせてHGFの部分ペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られる部分ペプチドが遊離体である場合は、公知の方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に塩で得られた場合は、公知の方法によって遊離体に変換することができる。
【0020】
本発明は、HGFをコードするDNAをその有効成分として含有することもできる。
HGFをコードするDNAとしては、例えば、配列番号3又は4で表わされる塩基配列を有するDNA、又は配列番号3又は4で表わされる塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、HGFと実質的に同質の活性、例えばマイトゲン活性、モートゲン活性等を有する蛋白質をコードするDNA等が挙げられる。なお、配列番号3又は4で表わされる塩基配列を有するDNAとハイブリダイズするDNAとは、例えば上記DNAをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAを意味する。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、約0.7〜1.0M程度の塩化ナトリウム存在下、約65℃程度でハイブリダイゼーションを行った後、約0.1〜2倍程度の濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムよりなる。)を用い、約65℃程度の条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNAを挙げることができる。
【0021】
上記の配列番号3又は4で表される塩基配列を有するDNAとハイブリダイズするDNAとして具体的には、配列番号3又は4で表わされる塩基配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を有するDNA等が挙げられる。ハイブリダイゼーションは、公知の方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning,A laboratory Manual, Third Edition(J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab.Press,2001:以下、モレキュラー・クローニング第3版と略す。)に記載の方法等に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
【0022】
さらに、本発明のHGFをコードするDNAは上記に限定されず、発現するタンパク質がHGFと実質的に同じ作用を有するDNAである限り、本発明のHGFをコードするDNAとして使用できる。例えばHGFの部分ペプチドをコードするDNA等もHGFとしての作用を有する部分ペプチドをコードするものであれば、本発明のHGFをコードするDNAの範疇に含まれる。HGFの部分ペプチドをコードするDNAとしては、上記した部分ペプチドをコードする塩基配列を有するDNAであればいかなるものであってもよい。また、上記のHGFをコードするDNAと同様に、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、上記した細胞・組織由来のcDNA、上記した細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAのいずれでもよい。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミド等いずれであってもよい。また、上記した細胞・組織よりmRNA画分を調製したものを用いて、直接RT−PCR法によって増幅することもできる。具体的な本発明の部分ペプチドをコードするDNAとしては、例えば、(a)配列番号3又は4で表わされる塩基配列を有するDNAの部分塩基配列を有するDNA、(b)配列番号3又は4で表わされる塩基配列を有するDNAの部分塩基配列を有するDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、HGFと実質的に同質の活性を有する蛋白質をコードするDNA、又は上記(a)或いは(b)の部分塩基配列を有するDNA等が挙げられる。
該DNAは、例えば通常のハイブリダイゼーション法やPCR法等により容易に得ることができ、該DNAの取得は具体的には前記Molecular Cloning等の基本書等を参考にして行うことができる。
【0023】
また、本発明で用いられるHGF又は部分ペプチドをコードするRNAも、逆転写酵素によりHGF又は部分ペプチドを発現することができるものであれば、本発明に用いることができ、本発明の範囲内である。また該RNAも公知の手段により得ることができる。
【0024】
本発明の移植臓器の線維化抑制剤又は免疫寛容獲得剤は、ヒトの他、哺乳動物(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)に適用できる。
また、移植臓器の線維化抑制剤が適用される移植臓器としては、心臓、腎臓、肝臓、小腸、膵臓、皮膚又は角膜が挙げられる。とりわけ心臓が好ましい。また、本発明の免疫寛容獲得剤は、前記移植臓器の他、造血細胞等の移植にも適用ができる。
【0025】
本発明の移植臓器の線維化抑制剤又は免疫寛容獲得剤は、種々の製剤形態、例えば液剤、固形剤又はカプセル剤等をとりうるが、一般的にはHGFのみ又はそれと慣用の担体と共に注射剤、吸入剤、坐剤又は経口剤とされる。上記注射剤は、水性注射剤又は油性注射剤のいずれでもよい。水性注射剤とする場合、公知の方法に従って、例えば、水性溶媒(注射用水、精製水等)に、医薬上許容される添加剤、例えば等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、ブドウ糖、プロピレングリコール等)、緩衝剤(リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸緩衝液、イプシロンアミノカプロン酸緩衝液等)、保存剤(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等)、増粘剤(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等)、安定化剤(亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン等)又はpH調整剤(塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸等)などを適宜添加した溶液に、HGFを溶解した後、フィルター等で濾過して滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することにより調製することができる。また適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)又は非イオン界面活性剤(ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50等)などを使用してもよい。油性注射剤とする場合、油性溶媒としては、例えば、ゴマ油又は大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル又はベンジルアルコール等を使用してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプル又はバイアルに充填される。注射剤中のHGF含量は、通常約0.0002〜0.2w/v%程度、好ましくは約0.001〜0.1w/v%程度に調整される。なお、注射剤等の液状製剤は、凍結保存又は凍結乾燥等により水分を除去して保存するのが望ましい。凍結乾燥製剤は、用時に注射用蒸留水等を加え、再溶解して使用される。
【0026】
また、経口剤としては、例えば錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、液剤、乳剤、懸濁剤又はシロップ剤等の剤形が挙げられる。これら製剤は公知の方法によって製造される。顆粒又は錠剤として製造する場合には、医薬上許容される添加剤、例えば賦形剤(乳糖、白糖、ブドウ糖、デンプン、結晶セルロース等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム等)、崩壊剤(デンプン、カルメロースナトリウム、炭酸カルシウム等)又は結合剤(デンプン糊液、ヒドロキシプロピルセルロース液、カルメロース液、アラビアゴム液、ゼラチン液、アルギン酸ナトリウム液等)などを用いることにより製造することができる。また、顆粒剤又は錠剤には、適当なコーティング剤(ゼラチン、白糖、アラビアゴム、カルナバロウ等)又は腸溶性コーティング剤(例えば酢酸フタル酸セルロース、メタアクリル酸コポリマー、ヒドロキシプロピルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース等)などで剤皮を施してもよい。カプセル剤として製造する場合には、公知の賦形剤、例えば流動性と滑沢性を向上させるためのステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク又は軽質無水ケイ酸、加圧流動性のための結晶セルロースや乳糖、あるいは上記崩壊剤等を適宜選択できる。HGFは前記賦形剤と共に均等に混和し、又は粒状化し、若しくは粒状化としたものに適当なコーティング剤で剤皮を施し、カプセルに充填するか、適当なカプセル基剤(ゼラチン等)にグリセリン又はソルビトール等を加えて塑性を増したカプセル基剤で被包成形してもよい。これらカプセル剤には所望に応じて、着色剤又は保存剤(二酸化イオウ、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等)などを加えることができる。カプセル剤は、通常のカプセル剤の他、腸溶性コーティングカプセル剤、胃内抵抗性カプセル剤又は放出制御カプセル剤とすることもできる。腸溶性カプセル剤とする場合、腸溶性コーティング剤でコーティングしたHGF又はHGFに上記の適当な賦形剤を添加したものを通常のカプセルに充填する。あるいは、腸溶性コーティング剤でコーティングしたカプセル、若しくは腸溶性高分子を基剤として成形したカプセルにHGF又はHGFに上記の適当な賦形剤を添加したものを充填することができる。シロップ剤として製造する場合には、例えば安定剤(エデト酸ナトリウム等)、懸濁化剤(アラビアゴム、カルメロース等)、矯味剤(単シロップ、ブドウ糖等)又は芳香剤等を適宜選択して使用することができる。
【0027】
また、坐剤も慣用の基剤(例えばカカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチン、マクロゴール、ウィテップゾル等)を用いた製剤上の常法によって調製することができる。
【0028】
また、吸入剤も製剤上の常套手段によって調整することができる。吸入剤として製造する場合、その添加剤としては、一般に吸入用製剤に使用される添加剤であればいずれのものであってもよく、例えば、噴射剤の他、上記した賦形剤、結合剤、滑沢剤、保存剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤又は矯味剤(クエン酸、メントール、グリチルリチンアンモニウム塩、グリシン、香料等)などが用いられる。噴射剤としては、液化ガス噴射剤又は圧縮ガス等が用いられる。液化ガス噴射剤としては、例えば、フッ化炭化水素(HCFC22、HCFC−123、HCFC−134a、HCFC142等の代替フロン類等)、液化石油、ジメチルエーテル等が挙げられる。圧縮ガスとしては、例えば、可溶性ガス(炭酸ガス、亜酸化窒素ガス等)又は不溶性ガス(窒素ガス等)などが挙げられる。
【0029】
また、本発明で用いられるHGFは、生体分解性高分子と共に、徐放性製剤とすることもできる。HGFは特に徐放性製剤とすることにより、血中濃度の維持、投薬回数の低減及び副作用の軽減等の効果が期待できる。該徐放性製剤は例えばドラッグデリバリーシステム、第3章(CMC,1986年)等に記載の公知の方法に従って製造することができる。本徐放性製剤に使用される生体内分解性高分子は、公知の生体内分解性高分子のなかから適宜選択できるが、例えばデンプン、デキストラン又はキトサン等の多糖類、コラーゲン又はゼラチン等の蛋白質、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリロイシン、ポリアラニン又はポリメチオニン等のポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸重合体又は共重合体、ポリカプロラクトン、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリリンゴ酸、ポリ酸無水物又はフマル酸・ポリエチレングリコール・ビニルピロリドン共重合体等のポリエステル、ポリオルソエステル又はポリメチル−α−シアノアクリル酸等のポリアルキルシアノアクリル酸、ポリエチレンカーボネート又はポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート等である。好ましくはポリエステル、更に好ましくはポリ乳酸又は乳酸・グリコール酸重合体又は共重合体である。ポリ乳酸−グリコール酸重合体又は共重合体を使用する場合、その組成比(乳酸/グリコール酸)(モル%)は徐放期間によって異なるが、例えば徐放期間が約2週間ないし3カ月、好ましくは約2週間ないし1カ月の場合には、約100/0ないし50/50である。該ポリ乳酸−グリコール酸重合体又は共重合体の重量平均分子量は、一般的には約5,000ないし20,000である。ポリ乳酸−グリコール酸共重合体は、公知の製造法、例えば特開昭61−28521号公報に記載の製造法に従って製造できる。生体分解性高分子とHGFの配合比率は特に限定はないが、例えば生体分解性高分子に対して、HGFが約0.01〜30w/w%程度である。
【0030】
上記した各製剤中のHGF含量は、剤形、適用疾患、疾患の程度又は年齢等に応じて適宜調整することができる。
【0031】
HGFをコードするDNAを患者に投与することは、常法、例えば別冊実験医学,遺伝子治療の基礎技術,羊土社,1996、別冊実験医学,遺伝子導入&発現解析実験法,羊土社,1997、日本遺伝子治療学会編遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス,1999等に記載の方法に従って、行うことができる。
製剤形態としては、上記の各投与形態に合った種々の公知の製剤形態をとり得ることができる。例えば、マイクロカプセル剤とする場合、例えばHGFをコードするDNA若しくはHGFをコードするDNAを含む発現プラスミドを導入した宿主細胞等を芯物質としてこれを公知の方法(例えばコアセルベーション法、界面重合法又は二重ノズル法等)に従って被膜物質で覆うことにより直径約1〜500、好ましくは約100〜400μmの微粒子として製造することができる。被膜物質としては、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、エチルセルロース、アルギン酸又はその塩、ゼラチン、ゼラチン・アラビアゴム、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール又はヒドロキシプロピルセルロース、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、キトサン−アルギン酸塩、硫酸セルロース−ポリ(ジメチルジアリル)−アンモニウムクロライド、ヒドロキシ−エチルメタクリレートメチルメタクリレート、キトサン−カルボキシメチル−セルロース、アルギン酸塩−ポリリジン−アルギン酸塩等の膜形成性高分子が挙げられる。
製剤中のDNAの含量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調節することができるが、1日の投与量として通常、本発明のDNAとして約0.0001−100mg、好ましくは約0.001−10mgである。
また、HGFをコードするDNAとHGFは独立して使用することもできれば、両者を併用して用いることもできる。
【0032】
免疫抑制剤は臓器移植に使用される免疫抑制剤のすべてが含まれる、免疫抑制剤としては例えば、カルシニューリン阻害剤である、シクロスポリンやタクロリムス(FK506);IL−2抗体であるゼナパックスや、シムレクト;TOR(target of rapamycin:栄養状態に応じて細胞成長に関わる生理機能を調節するための情報伝達経路を構成する因子)阻害剤であるラパマイシン等;又は代謝拮抗薬であるセルセプト等が挙げられる。本発明の移植臓器の線維化抑制剤は、とりわけタクロリムスの長期投与により発生する移植臓器の線維化の予防、改善又は治療に有用である。
【0033】
また、本発明の移植臓器の線維化抑制剤又は免疫寛容獲得剤には、本発明の目的に反しない限り、その他の医薬活性成分を適宜含有させてもよい。このような医薬活性成分としては、例えば、冠状血管拡張薬(亜硝酸アミル、硝酸イソソルビド、ニトログリセリン、トラピジル等)、β遮断薬(オクスプレノロール、カルテオロール、ブクモロール、ブフェトロール、プロプラノロール、ピンドロール等)、カルシウム拮抗薬(ジルチアゼム、ベラパミル、ニフェジピン、ニカルジピン等)、末梢循環障害治療薬(アルプロスタジルアルファデクス、カリジノゲナーゼ、トコフェロール、ニコモール等)、抗不整脈薬(アジマリン、プロカインアミド、リドカイン等)、降圧薬(フロセミド、トリクロルメチアジド、ヒドララジン、交感神経抑制薬、カルシウム拮抗剤等)、高脂血症薬(クロフィブラート、プラバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、ニコモール等)、抗凝血薬(ヘパリン、ワルファリン、ジクマロール、アスピリン等)、血栓溶解薬(ウロキナーゼ等)、糖尿病薬(トルブタミド、クロルプロパミド、アセトヘキサミド、グリベンクラミド、メトホルミン、アカルボース等)、抗炎症剤(ジクロフェナクナトリウム、イブプロフェン、インドメタシン等)、抗菌剤(セフィキシム、セフジニル、オフロキサシン、トスフロキサシン等)又は抗真菌剤(フルコナゾール、イトラコナゾール等)などが挙げられる。また、これらの医薬活性成分を含む製剤を本発明の製剤と併用して使用することもできる。これらの医薬活性成分は本発明の目的が達成される限り特に限定されず、適宜適当な配合割合又は併用割合での使用が可能である。
【0034】
本発明の移植臓器の線維化抑制剤は、その製剤形態に応じた適当な投与経路により投与され得る。例えば、注射剤の形態にして静脈、動脈、皮下又は筋肉内等に投与することができる。その投与量は、患者の症状、年齢又は体重等により適宜調整されるが、通常HGFとして成人一人当たり約0.001〜1000mg、好ましくは約0.01〜100mgであり、これを1日1回ないし数回に分けて投与するのが適当である。また、本発明の移植臓器の線維化抑制剤は、臓器移植後、免疫抑制剤の投与と同時又は、免疫抑制剤の投与前、あるいは投与直後に投与されるのがよい。また、本発明の移植臓器の線維化抑制剤は、臓器移植前から投与し始めてもよい。
【0035】
本発明の免疫寛容獲得剤は、臓器移植と同時、又は臓器移植前、あるいは臓器移植後にレシピエントである患者に投与され、該免疫寛容獲得剤の投与期間は、臓器移植後から少なくとも約2週間投与されるのがよい。また臓器移植に先立ち、移植される臓器と異なるドナーの組織、例えば、移植臓器が心臓の場合、ドナーとなる動物の例えば、リンパ球等を心臓移植されるレシピエントに移植し、免疫抑制剤と共に本発明の免疫寛容獲得剤を少なくとも約2週間投与されるのがよい。又は、レシピエントの組織、例えばリンパ球等を臓器移植前にドナーに移植し、免疫抑制剤と共に本発明の免疫寛容獲得剤を投与することによってレシピエントに対する免疫寛容をドナーの臓器に獲得させることも可能である。後者の方法であればレシピエントに対する免疫寛容を獲得したドナーの臓器をレシピエントに移植することにより、レシピエントにおける移植した臓器の拒絶反応を抑制できる。
本発明の免疫寛容獲得剤の投与経路、投与量及び投与方法は、上記した本発明の移植臓器の線維化抑制剤における投与経路、投与量及び投与方法と同様である。
上記ドナーの組織又はレシピエントの組織における「組織」とは、免疫に関与する組織をいい、例えば骨随、胸腺、脾臓、リンパ節、扁桃、血管、皮膚、腸管等の各器官や組織、あるいは白血球、マクロファージ、リンパ球(NK/ナチュラルキラー細胞、T/ヘルパー細胞、T/キラー細胞、B細胞)、樹状細胞等の免疫細胞、サイトカイン、又は抗体(免疫グロブリン(Ig)G、IgA、IgM、IgD、IgE等)、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
%は特にことわりのない限り質量%を示す。また、以下の実施例においては、HGFとしては、5アミノ酸欠損HGF(配列番号2で示されるHGF)を用いた。
【実施例1】
【0037】
心臓移植マウスにおける心筋の線維化抑制効果
(1)心臓移植モデルの作成
8週齢、体重約20g、雄のマウス2種(BALB/cマウス及びC3H/Heマウス)を用いた。BALB/cマウスをドナーとし、ケタミン(100μg/kg)及びキシラジン(10μg/kg)の合剤で麻酔した。前記麻酔下、BALB/cマウスの心臓を7.5質量%ヘパリン加生理食塩水1mLで灌流した後、心臓を摘出し、移植用心臓とした。C3H/Heマウスをケタミン(100μg/kg)及びキシラジン(10μg/kg)の合剤で麻酔した後、開腹し、BALB/cマウスから摘出した移植用心臓をC3H/Heマウスの腹部大動脈及び腹部下大静脈へ顕微鏡下に異所性移植を行った。
(2)免疫抑制剤及びHGFの投与
免疫抑制剤として、プログラフ注射液5mg(タクロリムス5mg/mL含有;藤沢薬品工業株式会社製)を使用した。
上記(1)の移植直後より、タクロリムス0.1mg/kg/日を1日1回、27ゲージの注射針を用いて60日間皮下投与した。また移植直後より、HGF投与群の動物には、HGF1mgに生理食塩水20mLを加え溶解した溶液(0.2mL;HGF250μg/kg)を12時間ごと(500μg/kg/日)に14日間、対照動物には生理食塩水(0.2mL)を同様に14日間、連日27ゲージの注射針を用いて皮下投与した。
(3)組織学的解析
移植手術を行った日を0日として、14日目に移植心臓を摘出し、定法に従い、ホルマリン固定及びパラフィン包埋し、心臓の組織切片を作成した。組織切片は、マッソントリクローム染色を行った。染色した組織像を顕微鏡CCDカメラ(OLYMPUS製)にてコンピューターに取り込み、NIH画像解析用ソフトウェア(フリーソフト)を用い、移植した心臓の冠状断像の総面積に対する線維化部を示す緑色染色部面積の比率を算出した。
(4)結果
対照動物における移植心臓の線維化率は22.3±7.7%であったのに対して、HGF投与群では、線維化率は15.6±1.3%に抑制された(図1参照。)。
このことは、ヒト組換えHGFは移植心臓の線維化を抑制することが明らかとなった。
【実施例2】
【0038】
免疫寛容の獲得
(方法)
実施例1の(1)と同様にBALB/cマウスをドナーとし、C3H/Heマウスの腹部大動脈及び腹部下大静脈へBALB/cマウスの移植用心臓を移植した。移植直後からHGF1mgに生理食塩水20mLを加え溶解した溶液(0.2mL;HGF250μg/kg)を12時間ごと(500μg/kg/日)に14日間、連日27ゲージの注射針を用いて皮下投与した。移植60日後、生き残った心臓移植マウスの背部皮膚を切除し、BALB/cマウス又はC57BL/10マウスから採取した皮膚1cmを移植した。
(結果)
心臓移植後60日生存したC3H/Heマウスに心臓のドナーであったBALB/cマウスの皮膚を移植した。皮膚を移植されたC3H/Heマウスでは、免疫抑制剤を投与しなかったにも関わらずC3H/Heマウスの黒毛に、BALB/cマウスの白毛の皮膚が定着した。これは、BALB/cマウスの心臓を移植されたC3H/Heマウスが、BALB/cマウスに対する免疫寛容を獲得したことを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の移植臓器の線維化抑制剤及び免疫寛容獲得剤は、臓器移植の分野、再生医療分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞増殖因子を含有することを特徴とする、免疫抑制剤投与に伴う移植臓器の線維化抑制剤。
【請求項2】
肝細胞増殖因子が、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドであってHGFとして作用するペプチド又はこれらの部分ペプチドであってHGFとして作用するペプチドであることを特徴とする請求項1に記載の移植臓器の線維化抑制剤。
【請求項3】
肝細胞増殖因子をコードするDNAを含有することを特徴とする、免疫抑制剤投与に伴う移植臓器の線維化抑制剤。
【請求項4】
肝細胞増殖因子をコードするDNAが、配列番号3又は4で表される塩基配列からなるDNA、あるいは配列番号3又は4で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ肝細胞増殖因子として作用するペプチドをコードするDNAであることを特徴とする請求項3に記載の移植臓器の線維化抑制剤。
【請求項5】
免疫抑制剤が、タクロリムスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の線維化抑制剤。
【請求項6】
配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドであってHGFとして作用するペプチド又はこれらの部分ペプチドであってHGFとして作用するペプチドを含有することを特徴とする免疫寛容獲得剤。
【請求項7】
配列番号4で表される塩基配列からなるDNA又は配列番号4で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGFとして作用するペプチドをコードするDNAを含有することを特徴とする免疫寛容獲得剤。
【請求項8】
免疫抑制剤投与に伴う移植臓器の線維化を抑制する医薬を製造するための肝細胞増殖因子の使用。
【請求項9】
肝細胞増殖因子が、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドであって肝細胞増殖因子として作用するペプチド又はこれらの部分ペプチドであって肝細胞増殖因子として作用するペプチドであることを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項10】
免疫抑制剤投与に伴う移植臓器の線維化を抑制する医薬を製造するための肝細胞増殖因子をコードするDNAの使用。
【請求項11】
肝細胞増殖因子をコードするDNAが、配列番号3又は4で表される塩基配列からなるDNA、あるいは配列番号3又は4で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ肝細胞増殖因子として作用するペプチドをコードするDNAであることを特徴とする請求項10に記載の使用。
【請求項12】
免疫抑制剤が、タクロリムスであることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
移植臓器に対する免疫寛容を獲得する医薬を製造するための肝細胞増殖因子の使用。
【請求項14】
肝細胞増殖因子が、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むペプチドであって肝細胞増殖因子として作用するペプチド又はこれらの部分ペプチドであって肝細胞増殖因子として作用するペプチドであることを特徴とする請求項13に記載の使用。
【請求項15】
移植臓器に対する免疫寛容を獲得する医薬を製造するための肝細胞増殖因子をコードするDNAの使用。
【請求項16】
肝細胞増殖因子をコードするDNAが、配列番号4で表される塩基配列からなるDNA、あるいは配列番号4で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ肝細胞増殖因子として作用するペプチドをコードするDNAであることを特徴とする請求項15に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−173900(P2011−173900A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86165(P2011−86165)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【分割の表示】特願2006−553821(P2006−553821)の分割
【原出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り インターネットアドレス「http://circ.ahajournals.org/」に発表
【出願人】(502068908)クリングルファーマ株式会社 (16)
【Fターム(参考)】