移送物の水中拡散防止装置
【課題】浚渫土砂等の移送物を水上移送する際に、移送元と移送先との間隔が変化しても両者の間にすき間なく配置することができ、両者の間で移送物が水中に落下しても、拡散を防止できる移送物の水中拡散防止装置を提供する。
【解決手段】弾性復元力を有する芯材4の両端部を、移送元に設置される汚濁防止膜の上端固定枠10に固定することにより、芯材4を移送先に設置される運搬船14に向かって弾性変形によって突出させ、この突出した芯材14に沿って配列されるフロート2を運搬船14に接触させるようにすることで上端固定枠10と運搬船14との間隔が波動や潮流等で変動しても、その変動を吸収して両者との間にすき間が生じないように水中拡散防止装置1を配置でき、両者の間で水中に落下した浚渫土砂は、フロート2の下方に垂下された拡散防止膜3の内側に閉じ込められる。
【解決手段】弾性復元力を有する芯材4の両端部を、移送元に設置される汚濁防止膜の上端固定枠10に固定することにより、芯材4を移送先に設置される運搬船14に向かって弾性変形によって突出させ、この突出した芯材14に沿って配列されるフロート2を運搬船14に接触させるようにすることで上端固定枠10と運搬船14との間隔が波動や潮流等で変動しても、その変動を吸収して両者との間にすき間が生じないように水中拡散防止装置1を配置でき、両者の間で水中に落下した浚渫土砂は、フロート2の下方に垂下された拡散防止膜3の内側に閉じ込められる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浚渫土砂等の移送物を水上移送する際に、移送元と移送先との間隔が変化しても両者の間にすき間なく配置することができ、両者の間で移送物が水中に落下しても、拡散を防止できる移送物の水中拡散防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海、河川湖沼等の水底の土砂を浚渫する際に、浚渫水域を汚濁防止膜によって囲み、この汚濁防止膜で囲んだ水域をバケットなどで浚渫する方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。バケットで浚渫された土砂は、水上に引き揚げられて、浚渫水域に隣接して配置した運搬船の泥倉に積載された後、所定の処理現場に移送される。ところが、浚渫土砂をバケットで水上に引き揚げてから運搬船の泥倉に積載する際に、バケット内の浚渫土砂が少なからずバケットから零れる。運搬船から浚渫水域にバケットを戻す際にも、バケット内に残留していた浚渫土砂が零れる。零れた浚渫土砂が汚濁防止膜で囲んだ水域外に落下すると、落下した浚渫土砂が汚濁を生じさせて周辺外部に拡散するので、汚濁の拡散防止対策としては更なる改善が必要であった。
【0003】
そこで、浚渫土砂等の移送元となる汚濁防止膜と、移送先となる運搬船との間に、折り畳みできる表面板を傾斜して配置する装置が提案されている(特許文献3参照)。ただし、移送元と移送先との間隔は波動や潮流等によって変動するため、水上移送する浚渫土砂等が零れ落ちることにより生じる汚濁拡散を防止するには、両者の間隔変動を考慮して表面板の大きさを大きめに設定する必要があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−275932号公報
【特許文献2】特開2004−68268号公報
【特許文献3】特開2009−161911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、浚渫土砂等の移送物を水上移送する際に、移送元と移送先との間隔が変化しても両者の間にすき間なく配置することができ、両者の間で移送物が水中に落下しても、拡散を防止できる移送物の水中拡散防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の移送物の水中拡散防止装置は、フロートと、このフロートの下方に垂下される拡散防止膜とを備え、水上移送される移送物の移送元と移送先との間に配置される移送物の水中拡散防止装置であって、前記フロートの長手方向に沿って、弾性復元力を有する芯材を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、浚渫土砂等の移送物を水上移送する際に、芯材を曲げた状態にして、この芯材に沿ってフロートを突出させるように配列して、移送元となる汚濁防止膜の上端固定枠等と、移送先となる運搬船等との間に配置することにより、移送元と移送先との間隔が波動や潮流等によって変化しても、芯材が弾性復元力を有するので、両者の間隔の変化を吸収することができる。そのため、両者の間隔が変動しても両者との間にすき間が生じないように水中拡散防止装置を設置することができる。これにより、両者の間で水上移送する移送物が水中に落下しても、芯材に沿って配列されたフロートの下方に垂下された拡散防止膜の内側に閉じ込めることができるので、水中での移送物の拡散を防止できる。
【0008】
ここで、例えば、前記芯材をフロートの下方位置に配置すると、芯材は安定して配置された状態になるので装置全体も安定する。また、芯材の取付けも比較的容易に行なえる。
【0009】
前記芯材としては、例えば、FRP製ロッドを用いる。FRP製ロッドは、強靭であり弾性復元力に富んでいるので、大きな変形にも追従し易い。また、海水による腐食も防止できる。
【0010】
本発明の移送物の水中拡散防止装置の設置は、例えば、前記芯材の両端部を、移送元に設置される設置体または移送先に設置される設置体のいずれか一方に固定することにより、前記芯材を、移送元に設置される設置体または移送先に設置される設置体のいずれか他方に向かって弾性変形によって突出させ、この突出した芯材に沿って配列される前記フロートを前記いずれか他方の設置体に接触させるようにする。或いは、前記芯材を環状に形成し、この環状の芯材に沿って環状に配列される前記フロートを、移送元に設置される設置体および移送先に設置される設置体に接触させるようにする。
【0011】
ここで、前記移送元の設置体と移送先の設置体との間に介在して、互いの設置体の間隔を広げる方向に前記芯材を付勢できる付勢手段を設けることもできる。この場合、潮流や風等の強い抵抗があっても、付勢手段による付勢力によって芯材の弾性変形状態を保持し易くなる。そのため、このような悪条件下であっても装置を設置することが可能になる。
【0012】
また、前記拡散防止膜を、下方を絞ったすり鉢状体に形成し、このすり鉢状体の底部にすり鉢状体の内部に連通する管体を接続することもできる。この場合、水底に接する部分を管体の下端部だけにすることが可能になる。そのため、管体の下端部を持ち上げるだけで、水底を引きずることなく装置を移動させることができ、装置を移動させる際に生じ易い汚濁の巻き上げを防止するには有利になる。
【0013】
前記拡散防止膜を、前記フロートを覆う被覆膜と、この被覆膜の下端部に接続される主膜とで構成し、前記被覆膜と主膜との材質を異ならせることもできる。被覆膜には耐摩耗性、主膜には移送物の拡散を遮断する性能が強く求められる。そこで、被覆膜、主膜に対して、それぞれの要求特性に適合した材質を用いることにより、優れた耐久性および汚濁防止効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の水中拡散防止装置を例示する正面図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】図1の水中拡散防止装置の縦断面図である。
【図4】浚渫土砂を水上移送する工程を例示する平面図である。
【図5】汚濁防止膜の上端固定枠に、水中拡散防止装置を取り付けた状態を例示する平面図である。
【図6】図5の水中拡散防止装置に運搬船が接舷した状態を例示する平面図である。
【図7】水中拡散防止装置の別の実施形態を例示する平面図である。
【図8】水中拡散防止装置のさらに別の実施形態を例示する平面図である。
【図9】水中拡散防止装置のさらに別の実施形態を例示する平面図である。
【図10】水中拡散防止装置のさらに別の実施形態を例示する平面図である。
【図11】図10の水中拡散防止装置の正面図である。
【図12】図10の水中拡散防止装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の移送物の水中拡散防止装置を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0016】
図1〜図3に例示するように、本発明の移送物の水中拡散防止装置1は、フロート2と、フロート2の下方に垂下される拡散防止膜3とを備えている。さらに、フロート2の長手方向に沿って、弾性復元力を有する芯材4が設けられている。
【0017】
フロート2は発泡樹脂等により形成されている。この実施形態では多数の円柱形のフロート2が長手方向に所定のピッチで配置されている。フロート2の形、数、配置ピッチは特に限定されず、浮力や水中拡散防止装置1の設置範囲などに応じて適宜設定される。フロート2は、例えば外径300mm〜1500mm程度、長さ450mm〜2500mm程度の円柱体である。
【0018】
拡散防止膜3は、移送物となる土砂や汚濁の拡散を遮断できる材質で形成されている。従来使用されている汚濁防止膜と同様の材質である。この実施形態では、フロート2を覆う被覆膜3aと、主膜3bとが、被覆膜3aの下端部の接続部3cで接続されることにより、拡散防止膜3が構成されている。被覆膜3aと主膜3bとは材質が異なっているが、拡散防止膜3の全体をすべて同じ材質で構成することもできる。
【0019】
拡散防止膜3の上下方向長さは、使用現場の水深に基づいて適宜設定される。拡散防止膜3の大きさは、例えば、上下方向長さ5m〜30m程度、膜幅方向長さ10m〜60mである。
【0020】
拡散防止膜3の下端には、膜幅方向のほぼ全長に渡って錘8が取り付けられている。錘8としては例えば、金属チェーン等を用いることができる。これにより、拡散防止膜3が水中で不用意に捲れ上がることが防止される。
【0021】
また、拡散防止膜3の膜幅方向に間隔をあけて上下方向に延びるテンションベルト7が取り付けられている。テンションベルト7は、拡散防止膜3よりも剛性の高いベルトである。テンションベルト7を拡散防止膜3に設けることにより、拡散防止膜3を水中で適度なテンションで張設することができる。
【0022】
さらに、拡散防止膜3の膜幅方向に間隔をあけて、拡散防止膜3の下端部に膜昇降用ワイヤ9が取り付けられている。膜昇降用ワイヤ9は、その上端がフロート2よりも上方に位置する長さを有している。膜昇降用ワイヤ9の引き上げ、引き下げによって拡散防止膜3の下端を上下移動させることができる。
【0023】
芯材4は棒状体であり、曲げ変形に富んでいて弾性復元力を有している。例えば、FRP等の樹脂類や金属ワイヤ等の剛体、ゴムや繊維等で形成された筒状体(ゴムホースや樹脂ホース等)に、水や空気等の流体を封じ込めたものなどを用いることができる。海水による腐食、計量化、強靭性等を考慮するとFRP製の芯材4が好ましい。芯材4の外径、本数は特に限定されず、必要な弾性復元力等に基づいて適宜設定される。例えば、外径8mm〜20mm程度の芯材4を複数本束ねて使用する。
【0024】
この実施形態では図3に例示するように、断面においてフロート2の円周を二分割するような被覆膜3aの上端部どうし、下端部どうしを接合することにより、フロート2を収容する空間が形成されている。この空間にフロート2が収容されることにより、フロート2の外周面が被覆膜3aにより被覆されている。
【0025】
また、フロート2を挟んで対向する被覆膜3aどうしを、フロート2の長手方向に所定のピッチで縫い合わせている。この縫い合わせた縫い目3dによって、それぞれのフロート2を収容する空間が区画され、フロート2の長手方向の移動が規制されている。ロープ等の紐状体を用いて、隣り合うフロート2の間で被覆膜3aを締め付けることにより、フロート2を収容する空間を区画してもよい。フロート2を半割構造にして、その合わせ面で被覆膜3aをフロート2に固定することもできる。フロート2と被覆膜3aとは接着等によって一体化させてもよい。
【0026】
被覆膜3aのフロート2の下方位置には、筒状の芯材保持部5が設けられている。芯材保持部5の中空部分に芯材4が挿通することにより、芯材4がフロート2の長手方向に沿って設置されている。この芯材保持部5は、例えば、被覆膜3aと同じ材質で構成される。芯材保持部5は、フロート2(芯材4)の長手方向に切れ目なく連続して設けることもできるが、断続的に設けることもできる。
【0027】
芯材4は、長くなるほど自重によって下方へ弛むため、芯材4には長手方向所定ピッチで固縛ロープを取り付けることもできる。固縛ロープの上端部を被覆膜3aの上面近傍に固定し、固縛ロープによって芯材4を吊り上げた状態にして下方への弛みを防止することができる。
【0028】
芯材4は、フロート2の上方位置、側方位置など、または、フロート2の中心部を貫通させて、フロート2の近傍に設置するが、フロート2の下方位置に配置するのが好ましい。これにより、芯材4は安定して配置された状態になるので、水中拡散防止装置1を安定して設置することができる。また、芯材保持部5に対する芯材4の取付けも比較的容易に行なえる。
【0029】
次に、水中拡散防止装置1の使用方法を説明する。
【0030】
水中拡散防止装置1は、水上移送される移送物の移送元と移送先との間に配置される。図4では、移送物が浚渫土砂Sであり、移送元に設置される上端固定枠10と、移送先に設置される運搬船14との間に水中拡散防止装置1が設置されている。上端固定枠10は、鋼等の金属枠に浮体を付設した公知のものであり、上端固定枠10の下方には汚濁拡散防止膜が垂下されている。上端固定枠10は、作業船11に接続されて水面に浮かんでいる。運搬船14は、上端固定枠10および作業船11に隣接した位置に配置される。
【0031】
平面状態の水中拡散防止装置1は、図5に例示するように、芯材4の両端部を取付部材6によって上端固定枠10に固定することにより、運搬船14に向かって芯材4を弾性変形によって円弧状に突出させた状態で設置される。この突出させた芯材4に沿ってフロート2が円弧状に配列される。芯材4の突出具合は、適宜決定される。芯材4に沿って円弧状に配列されたフロート2は、被覆膜3aを介在させて運搬船14に接触するように構成されている。
【0032】
上端固定枠10と運搬船14との間に設置された水中拡散防止装置1(フロート2)に運搬船14が接舷して押圧されることによって、芯材4は図6に例示するように弾性変形し、水中拡散防止装置1(フロート2)の所定の範囲は、運搬船14とすき間なく接触した状態になる。
【0033】
この状態で、上端固定枠10から垂下された汚濁防止膜で囲んだ水域の土砂Sを、作業船11のクレーン12を操作してグラブバケット13によって浚渫する。グラブバケット13で浚渫された土砂Sは、水上に引き揚げられ、上端固定枠10の上から運搬船14の泥倉15に移送される。グラブバケット13は、水中拡散防止装置1の上方を移動する。運搬船14から上端固定枠10の上方へ戻る際にも、グラブバケット13は水中拡散防止装置1の上方を移動する。
【0034】
したがって、水上移送される土砂Sがグラブバケット13から零れても、芯材4に沿って配列されたフロート2の下方に垂下された拡散防止膜3の内側に閉じ込めることができる。即ち、零れて水中に落下した土砂Sは、上端固定枠10から垂下された汚濁防止膜と、拡散防止膜3とによって外部へ移動が遮断され、両者の間に閉じ込められる。そのため、土砂Sの水中での拡散が防止され、土砂Sにより生じる汚濁が周囲に広がることはない。
【0035】
拡散防止膜3の下端部を、上端固定枠10から下方に垂下されている汚濁防止膜に接合するなどして、拡散防止膜3と汚濁防止膜とによって袋状体を形成することもできる。
【0036】
本発明では、移送元の上端固定枠10と移送先の運搬船14との間隔が波動や潮流等によって変化しても、芯材4が弾性復元力を有するので、芯材4の弾性変形によって両者の間隔の変動が吸収される。そのため、上端固定枠10と運搬船14の間隔が変動しても両者との間にすき間が生じないように設置した水中拡散防止装置1の状態を維持することができる。
【0037】
例えば、弾性復元力を有する芯材4を、ロープ等の弾性復元力を有していないものに代替すると、上端固定枠10と運搬船14との間隔が大きくなった際に、その変動に追従することができないため、フロート2と運搬船14との間にすき間が生じることになる。ところが、本発明では芯材4が両者の間隔の変動に追従して弾性変形するので、波風が多少ある環境下においても、両者の間にすき間なく水中拡散防止装置1を設置することが可能となる。
【0038】
作業船11と運搬船14とを、交差して張設した係留ロープ19で接続することにより、両者の間隔の変動をある程度抑えるとよい。このようにすれば、押圧された芯材4が弾性変形して両者との間にすき間が生じないように設置した水中拡散防止装置1の状態を維持し易くなる。
【0039】
実施形態では既述したように、拡散防止膜3を、異なる材質の被覆膜3aと主膜3bとで構成している。被覆膜3aには、土砂Sの拡散を遮断するとともに耐摩耗性に優れた材質を使用し、主膜3bには土砂Sの拡散を遮断する性能を重視した材質を使用している。
【0040】
被覆膜3aには運搬船14が接舷するので耐摩耗性が求められる。一方、運搬船14に接触しない主膜3bには耐摩耗性は重要ではなく、移送物の拡散を遮断する性能が強く求められる。そこで、このように被覆膜3a、主膜3bに対して、それぞれの要求特性に適合した材質を用いることにより、優れた耐久性および汚濁防止効果を得ることができる。
【0041】
フロート2の高さは、例えば700mm以上、好ましくは1000mm以上にすると、土砂Sが水中に落下した際の跳ね返りなどをフロート2によって遮断し易くなる。そのため、土砂Sが拡散し難くなり、汚濁を外部に漏らさないようにするには有利になる。フロート2の高さの上限は、取り扱い性や製造上の制約等から、例えば、1500mm程度である。
【0042】
図7に例示する水中拡散防止装置1の実施形態は、芯材4が環状を形成し、環状の芯材4に沿ってフロート2が環状に配列されている。したがって、フロート2の下方に垂下された拡散防止膜3は筒状になっている。
【0043】
この水中拡散防止装置1は、移送物となる砂Sの移送元に設置されるガット船16と、移送先に設置されるケーソン18との間に、両者に接触するように設置される。水中拡散防止装置1は係留ロープ19などによってケーソン18に固定される。
【0044】
ガット船16とケーソン18との間に設置された水中拡散防止装置1(フロート2)にカット船16が接舷して押圧されることによって、芯材4は弾性変形して偏平した環状になり、水中拡散防止装置1(フロート2)の所定の範囲は、ガット船16およびケーソン18とすき間なく接触した状態になる。
【0045】
この状態で、ガット船16に積載した砂Sをクレーン17のバケットを用いてケーソン18の内部に移送する。水上移送される砂Sは、水中拡散防止装置1の上方を移動する。したがって、バケットから零れて水中に落下した砂Sは、水中拡散防止装置1(拡散防止膜3)の内側に閉じ込められるので拡散が防止される。
【0046】
ガット船16とケーソン18との間隔が波動や潮流等によって変化しても、芯材4の弾性変形によって両者の間隔の変動が吸収されるので、両者との間にすき間が生じないように設置した水中拡散防止装置1の状態を維持することができる。
【0047】
移送物S(浚渫土砂や石等)の水上移送は、船と船との間、或いは、船と陸地との間で行なわれることもある。これらの場合にも本発明の水中拡散防止装置1を適用することができる。
【0048】
図8に例示する実施形態は、図5に例示した実施形態に付勢ロッド20を追加したものである。付勢ロッド20は、両端部が取付部材6によって上端固定枠10に固定されて円弧状に弾性変形した状態になっていて、円弧状の一部が取付部材6によってフロート2に固定されている。付勢ロッド20は、曲げ変形に富んでいて弾性復元力を有している。付勢ロッド20は、芯材4と同様の材料を用いることができ、例えば、FRP等の樹脂で形成されたものを採用するのがよい。
【0049】
円弧状に弾性変形した付勢ロッド20は、常時、フロート2(芯材4)を運搬船14側に向けて押圧している。即ち、この付勢ロッド20は移送元の設置体(上端固定枠10)と移送先の設置体(運搬船14)との間に介在して、互いの設置体の間隔を広げる方向に芯材4を付勢できる付勢手段になっている。
【0050】
潮流や風等が強い悪条件下では、水中拡散防止装置1を設置する際に、芯材4を弾性変形させて運搬船14に向かって突出させようとしても、潮流や風等の強い抵抗によって突出させることができない、或いは、突出させ難いことがある。しかしながら、この実施形態の場合は、潮流や風等の強い抵抗があっても、付勢ロッド20の付勢力によって芯材4の弾性変形状態を保持し易くなる。そのため、このような悪条件下であっても水中拡散防止装置1を設置することが可能、或いは、設置が容易になる。
【0051】
図9に例示する実施形態は、図8に例示した実施形態の付勢ロッド20の形態を変更したものである。付勢ロッド20は環状に形成されて、その一部が取付部材6によって上端固定枠10およびフロート2に固定されている。
【0052】
弾性変形して環状に形成された付勢ロッド20は、常時、フロート2(芯材4)を運搬船14側に向けて押圧している。即ち、この付勢ロッド20は移送元の設置体(上端固定枠10)と移送先の設置体(運搬船14)との間に介在して、互いの設置体の間隔を広げる方向に芯材4を付勢できる付勢手段になっている。この実施形態の場合も、潮流や風等の強い抵抗があっても、付勢ロッド20の付勢力によって芯材4の弾性変形状態を保持し易くなる。そのため、このような悪条件下であっても水中拡散防止装置1を設置することが可能、或いは、設置が容易になる。
【0053】
尚、付勢ロッド20の数は2つに限らず適宜決定され、1つ或いは3つ以上にすることもできる。図8、9の実施形態では、付勢ロッド20は上端固定枠10およびフロート2に固定されているが、適切に固定できる部材に固定されればよい。例えば、上端固定枠10のみに付勢ロッド20を固定することもできる。
【0054】
本発明の付勢手段は、常時、互いの設置体の間隔を広げる方向に芯材4を付勢するものに限らない。例えば、移送元の設置体と移送先の設置体との間に介在して、互いの設置体の間隔が所定間隔よりも小さくなった場合に、互いの設置体の間隔を広げる方向に芯材4を付勢するものを付勢手段として用いることができる。例えば、浮体で浮かせたタイヤなどの弾性体を、図8、9に例示した上端固定枠10とフロート2(芯材4)との間に介在させて付勢手段とすることができる。このタイプの付勢手段では、互いの設置体の間隔が所定間隔よりも小さくなって、フロート2(芯材4)がその付勢手段を押圧した際に、付勢手段が互いの設置体を広げる方向に芯材4を付勢する。
【0055】
図10〜図12に例示する実施形態は、図5に例示した実施形態の拡散防止膜3の形態を変更したものであり、フロート2の下方に垂下される拡散防止膜3の下方を絞ってすり鉢状体22に形成している。そして、すり鉢状体22に管体21が接続されている。
【0056】
また、移送元の設置体(上端固定枠10)と移送先の設置体(運搬船14)との間に介在して、互いの設置体の間隔を広げる方向に芯材4を付勢できる付勢ロッド20が設けられている。付勢ロッド20は必要に応じて設ければよく、省略することもできる。
【0057】
拡散防止膜3について詳述すると、フロート2および上端固定枠10から下方に垂下するとともに、芯材4の長手方向中途の位置でフロート2(被覆膜3a)と上端固定枠10と繋ぐ吊り上げ部3eによって吊り上げられている。即ち、拡散防止膜3で形成されたすり鉢状体22は、上端を開口した椀状であり、すり鉢状体22の底部には、すり鉢状体22の内部に連通する管体21が接続されている。
【0058】
管体21の長さは、その下端が水底にたるみなく接触する程度、或いは、その下端が水底に近接して接触しない程度にする。管体21としては、例えば、薄肉樹脂を蛇腹状に形成したフレキシブル管やその他のフレキシブル管、塩化ビニル管等を用いることができる。
【0059】
上端固定枠10から垂下された汚濁防止膜10aで囲んだ水域の土砂Sを、運搬船14の泥倉15に移送する際に、その土砂Sが、芯材4に沿って配列されたフロート2と上端固定枠10との間に落下すると、管体21を通じて水底に堆積する。この実施形態の場合、水中拡散防止装置1の水底に接する部分を管体21の下端部だけにすることが可能になる。そのため、管体21の下端部を少し持ち上げるだけで、水底を引きずることなく水中拡散防止装置1を移動させることができる。そのため、水中拡散防止装置1を移動させる際に生じ易い水底の汚濁の巻き上げを防止するには有利になる。
【0060】
この実施形態のように、拡散防止膜10aを、下方を絞ったすり鉢状体22に形成すると、フロート2の下方にそのまま垂下する場合に比して、潮流の抵抗を受ける面積が小さくなる。そのため、潮流が強い条件下においても、潮流の抵抗を受け難くなり、水中拡散防止装置1を設置し易くするには有利である。
【0061】
この実施形態では、管体21が全長にわたって蛇腹状に形成された伸縮可能な仕様になっているが、管体21は、長手方向の少なくとも一部を、蛇腹等の伸縮可能な構造にすることが好ましい。これによって、波動等によってフロート2が上下動しても、その上下動を伸縮可能な部分で吸収することができる。そのため、管体21の下端部が頻繁に上下動することにより水底を打撃して汚濁を巻き上げるという現象を回避し易くなる。
【0062】
尚、すり鉢状体22の数は2つに限らず適宜決定され、1つ或いは3つ以上にすることもできる。
【符号の説明】
【0063】
1 水中拡散防止装置
2 フロート
3 拡散防止膜
3a 被覆膜
3b 主膜
3c 接続部
3d 縫い目
3e 吊り上げ部
4 芯材
5 芯材保持部
6 取付部材
7 テンションベルト
8 錘
9 膜昇降用ワイヤ
10 上端固定枠(設置体)
10a 汚濁防止膜
11 作業船
12 クレーン
13 グラブバケット
14 運搬船(設置体)
15 泥倉
16 ガット船(設置体)
17 クレーン
18 ケーソン(設置体)
19 係留ロープ
20 付勢ロッド(付勢手段)
21 管体
22 すり鉢状体
S 移送物(浚渫土砂、砂)
【技術分野】
【0001】
本発明は、浚渫土砂等の移送物を水上移送する際に、移送元と移送先との間隔が変化しても両者の間にすき間なく配置することができ、両者の間で移送物が水中に落下しても、拡散を防止できる移送物の水中拡散防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海、河川湖沼等の水底の土砂を浚渫する際に、浚渫水域を汚濁防止膜によって囲み、この汚濁防止膜で囲んだ水域をバケットなどで浚渫する方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。バケットで浚渫された土砂は、水上に引き揚げられて、浚渫水域に隣接して配置した運搬船の泥倉に積載された後、所定の処理現場に移送される。ところが、浚渫土砂をバケットで水上に引き揚げてから運搬船の泥倉に積載する際に、バケット内の浚渫土砂が少なからずバケットから零れる。運搬船から浚渫水域にバケットを戻す際にも、バケット内に残留していた浚渫土砂が零れる。零れた浚渫土砂が汚濁防止膜で囲んだ水域外に落下すると、落下した浚渫土砂が汚濁を生じさせて周辺外部に拡散するので、汚濁の拡散防止対策としては更なる改善が必要であった。
【0003】
そこで、浚渫土砂等の移送元となる汚濁防止膜と、移送先となる運搬船との間に、折り畳みできる表面板を傾斜して配置する装置が提案されている(特許文献3参照)。ただし、移送元と移送先との間隔は波動や潮流等によって変動するため、水上移送する浚渫土砂等が零れ落ちることにより生じる汚濁拡散を防止するには、両者の間隔変動を考慮して表面板の大きさを大きめに設定する必要があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−275932号公報
【特許文献2】特開2004−68268号公報
【特許文献3】特開2009−161911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、浚渫土砂等の移送物を水上移送する際に、移送元と移送先との間隔が変化しても両者の間にすき間なく配置することができ、両者の間で移送物が水中に落下しても、拡散を防止できる移送物の水中拡散防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の移送物の水中拡散防止装置は、フロートと、このフロートの下方に垂下される拡散防止膜とを備え、水上移送される移送物の移送元と移送先との間に配置される移送物の水中拡散防止装置であって、前記フロートの長手方向に沿って、弾性復元力を有する芯材を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、浚渫土砂等の移送物を水上移送する際に、芯材を曲げた状態にして、この芯材に沿ってフロートを突出させるように配列して、移送元となる汚濁防止膜の上端固定枠等と、移送先となる運搬船等との間に配置することにより、移送元と移送先との間隔が波動や潮流等によって変化しても、芯材が弾性復元力を有するので、両者の間隔の変化を吸収することができる。そのため、両者の間隔が変動しても両者との間にすき間が生じないように水中拡散防止装置を設置することができる。これにより、両者の間で水上移送する移送物が水中に落下しても、芯材に沿って配列されたフロートの下方に垂下された拡散防止膜の内側に閉じ込めることができるので、水中での移送物の拡散を防止できる。
【0008】
ここで、例えば、前記芯材をフロートの下方位置に配置すると、芯材は安定して配置された状態になるので装置全体も安定する。また、芯材の取付けも比較的容易に行なえる。
【0009】
前記芯材としては、例えば、FRP製ロッドを用いる。FRP製ロッドは、強靭であり弾性復元力に富んでいるので、大きな変形にも追従し易い。また、海水による腐食も防止できる。
【0010】
本発明の移送物の水中拡散防止装置の設置は、例えば、前記芯材の両端部を、移送元に設置される設置体または移送先に設置される設置体のいずれか一方に固定することにより、前記芯材を、移送元に設置される設置体または移送先に設置される設置体のいずれか他方に向かって弾性変形によって突出させ、この突出した芯材に沿って配列される前記フロートを前記いずれか他方の設置体に接触させるようにする。或いは、前記芯材を環状に形成し、この環状の芯材に沿って環状に配列される前記フロートを、移送元に設置される設置体および移送先に設置される設置体に接触させるようにする。
【0011】
ここで、前記移送元の設置体と移送先の設置体との間に介在して、互いの設置体の間隔を広げる方向に前記芯材を付勢できる付勢手段を設けることもできる。この場合、潮流や風等の強い抵抗があっても、付勢手段による付勢力によって芯材の弾性変形状態を保持し易くなる。そのため、このような悪条件下であっても装置を設置することが可能になる。
【0012】
また、前記拡散防止膜を、下方を絞ったすり鉢状体に形成し、このすり鉢状体の底部にすり鉢状体の内部に連通する管体を接続することもできる。この場合、水底に接する部分を管体の下端部だけにすることが可能になる。そのため、管体の下端部を持ち上げるだけで、水底を引きずることなく装置を移動させることができ、装置を移動させる際に生じ易い汚濁の巻き上げを防止するには有利になる。
【0013】
前記拡散防止膜を、前記フロートを覆う被覆膜と、この被覆膜の下端部に接続される主膜とで構成し、前記被覆膜と主膜との材質を異ならせることもできる。被覆膜には耐摩耗性、主膜には移送物の拡散を遮断する性能が強く求められる。そこで、被覆膜、主膜に対して、それぞれの要求特性に適合した材質を用いることにより、優れた耐久性および汚濁防止効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の水中拡散防止装置を例示する正面図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】図1の水中拡散防止装置の縦断面図である。
【図4】浚渫土砂を水上移送する工程を例示する平面図である。
【図5】汚濁防止膜の上端固定枠に、水中拡散防止装置を取り付けた状態を例示する平面図である。
【図6】図5の水中拡散防止装置に運搬船が接舷した状態を例示する平面図である。
【図7】水中拡散防止装置の別の実施形態を例示する平面図である。
【図8】水中拡散防止装置のさらに別の実施形態を例示する平面図である。
【図9】水中拡散防止装置のさらに別の実施形態を例示する平面図である。
【図10】水中拡散防止装置のさらに別の実施形態を例示する平面図である。
【図11】図10の水中拡散防止装置の正面図である。
【図12】図10の水中拡散防止装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の移送物の水中拡散防止装置を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0016】
図1〜図3に例示するように、本発明の移送物の水中拡散防止装置1は、フロート2と、フロート2の下方に垂下される拡散防止膜3とを備えている。さらに、フロート2の長手方向に沿って、弾性復元力を有する芯材4が設けられている。
【0017】
フロート2は発泡樹脂等により形成されている。この実施形態では多数の円柱形のフロート2が長手方向に所定のピッチで配置されている。フロート2の形、数、配置ピッチは特に限定されず、浮力や水中拡散防止装置1の設置範囲などに応じて適宜設定される。フロート2は、例えば外径300mm〜1500mm程度、長さ450mm〜2500mm程度の円柱体である。
【0018】
拡散防止膜3は、移送物となる土砂や汚濁の拡散を遮断できる材質で形成されている。従来使用されている汚濁防止膜と同様の材質である。この実施形態では、フロート2を覆う被覆膜3aと、主膜3bとが、被覆膜3aの下端部の接続部3cで接続されることにより、拡散防止膜3が構成されている。被覆膜3aと主膜3bとは材質が異なっているが、拡散防止膜3の全体をすべて同じ材質で構成することもできる。
【0019】
拡散防止膜3の上下方向長さは、使用現場の水深に基づいて適宜設定される。拡散防止膜3の大きさは、例えば、上下方向長さ5m〜30m程度、膜幅方向長さ10m〜60mである。
【0020】
拡散防止膜3の下端には、膜幅方向のほぼ全長に渡って錘8が取り付けられている。錘8としては例えば、金属チェーン等を用いることができる。これにより、拡散防止膜3が水中で不用意に捲れ上がることが防止される。
【0021】
また、拡散防止膜3の膜幅方向に間隔をあけて上下方向に延びるテンションベルト7が取り付けられている。テンションベルト7は、拡散防止膜3よりも剛性の高いベルトである。テンションベルト7を拡散防止膜3に設けることにより、拡散防止膜3を水中で適度なテンションで張設することができる。
【0022】
さらに、拡散防止膜3の膜幅方向に間隔をあけて、拡散防止膜3の下端部に膜昇降用ワイヤ9が取り付けられている。膜昇降用ワイヤ9は、その上端がフロート2よりも上方に位置する長さを有している。膜昇降用ワイヤ9の引き上げ、引き下げによって拡散防止膜3の下端を上下移動させることができる。
【0023】
芯材4は棒状体であり、曲げ変形に富んでいて弾性復元力を有している。例えば、FRP等の樹脂類や金属ワイヤ等の剛体、ゴムや繊維等で形成された筒状体(ゴムホースや樹脂ホース等)に、水や空気等の流体を封じ込めたものなどを用いることができる。海水による腐食、計量化、強靭性等を考慮するとFRP製の芯材4が好ましい。芯材4の外径、本数は特に限定されず、必要な弾性復元力等に基づいて適宜設定される。例えば、外径8mm〜20mm程度の芯材4を複数本束ねて使用する。
【0024】
この実施形態では図3に例示するように、断面においてフロート2の円周を二分割するような被覆膜3aの上端部どうし、下端部どうしを接合することにより、フロート2を収容する空間が形成されている。この空間にフロート2が収容されることにより、フロート2の外周面が被覆膜3aにより被覆されている。
【0025】
また、フロート2を挟んで対向する被覆膜3aどうしを、フロート2の長手方向に所定のピッチで縫い合わせている。この縫い合わせた縫い目3dによって、それぞれのフロート2を収容する空間が区画され、フロート2の長手方向の移動が規制されている。ロープ等の紐状体を用いて、隣り合うフロート2の間で被覆膜3aを締め付けることにより、フロート2を収容する空間を区画してもよい。フロート2を半割構造にして、その合わせ面で被覆膜3aをフロート2に固定することもできる。フロート2と被覆膜3aとは接着等によって一体化させてもよい。
【0026】
被覆膜3aのフロート2の下方位置には、筒状の芯材保持部5が設けられている。芯材保持部5の中空部分に芯材4が挿通することにより、芯材4がフロート2の長手方向に沿って設置されている。この芯材保持部5は、例えば、被覆膜3aと同じ材質で構成される。芯材保持部5は、フロート2(芯材4)の長手方向に切れ目なく連続して設けることもできるが、断続的に設けることもできる。
【0027】
芯材4は、長くなるほど自重によって下方へ弛むため、芯材4には長手方向所定ピッチで固縛ロープを取り付けることもできる。固縛ロープの上端部を被覆膜3aの上面近傍に固定し、固縛ロープによって芯材4を吊り上げた状態にして下方への弛みを防止することができる。
【0028】
芯材4は、フロート2の上方位置、側方位置など、または、フロート2の中心部を貫通させて、フロート2の近傍に設置するが、フロート2の下方位置に配置するのが好ましい。これにより、芯材4は安定して配置された状態になるので、水中拡散防止装置1を安定して設置することができる。また、芯材保持部5に対する芯材4の取付けも比較的容易に行なえる。
【0029】
次に、水中拡散防止装置1の使用方法を説明する。
【0030】
水中拡散防止装置1は、水上移送される移送物の移送元と移送先との間に配置される。図4では、移送物が浚渫土砂Sであり、移送元に設置される上端固定枠10と、移送先に設置される運搬船14との間に水中拡散防止装置1が設置されている。上端固定枠10は、鋼等の金属枠に浮体を付設した公知のものであり、上端固定枠10の下方には汚濁拡散防止膜が垂下されている。上端固定枠10は、作業船11に接続されて水面に浮かんでいる。運搬船14は、上端固定枠10および作業船11に隣接した位置に配置される。
【0031】
平面状態の水中拡散防止装置1は、図5に例示するように、芯材4の両端部を取付部材6によって上端固定枠10に固定することにより、運搬船14に向かって芯材4を弾性変形によって円弧状に突出させた状態で設置される。この突出させた芯材4に沿ってフロート2が円弧状に配列される。芯材4の突出具合は、適宜決定される。芯材4に沿って円弧状に配列されたフロート2は、被覆膜3aを介在させて運搬船14に接触するように構成されている。
【0032】
上端固定枠10と運搬船14との間に設置された水中拡散防止装置1(フロート2)に運搬船14が接舷して押圧されることによって、芯材4は図6に例示するように弾性変形し、水中拡散防止装置1(フロート2)の所定の範囲は、運搬船14とすき間なく接触した状態になる。
【0033】
この状態で、上端固定枠10から垂下された汚濁防止膜で囲んだ水域の土砂Sを、作業船11のクレーン12を操作してグラブバケット13によって浚渫する。グラブバケット13で浚渫された土砂Sは、水上に引き揚げられ、上端固定枠10の上から運搬船14の泥倉15に移送される。グラブバケット13は、水中拡散防止装置1の上方を移動する。運搬船14から上端固定枠10の上方へ戻る際にも、グラブバケット13は水中拡散防止装置1の上方を移動する。
【0034】
したがって、水上移送される土砂Sがグラブバケット13から零れても、芯材4に沿って配列されたフロート2の下方に垂下された拡散防止膜3の内側に閉じ込めることができる。即ち、零れて水中に落下した土砂Sは、上端固定枠10から垂下された汚濁防止膜と、拡散防止膜3とによって外部へ移動が遮断され、両者の間に閉じ込められる。そのため、土砂Sの水中での拡散が防止され、土砂Sにより生じる汚濁が周囲に広がることはない。
【0035】
拡散防止膜3の下端部を、上端固定枠10から下方に垂下されている汚濁防止膜に接合するなどして、拡散防止膜3と汚濁防止膜とによって袋状体を形成することもできる。
【0036】
本発明では、移送元の上端固定枠10と移送先の運搬船14との間隔が波動や潮流等によって変化しても、芯材4が弾性復元力を有するので、芯材4の弾性変形によって両者の間隔の変動が吸収される。そのため、上端固定枠10と運搬船14の間隔が変動しても両者との間にすき間が生じないように設置した水中拡散防止装置1の状態を維持することができる。
【0037】
例えば、弾性復元力を有する芯材4を、ロープ等の弾性復元力を有していないものに代替すると、上端固定枠10と運搬船14との間隔が大きくなった際に、その変動に追従することができないため、フロート2と運搬船14との間にすき間が生じることになる。ところが、本発明では芯材4が両者の間隔の変動に追従して弾性変形するので、波風が多少ある環境下においても、両者の間にすき間なく水中拡散防止装置1を設置することが可能となる。
【0038】
作業船11と運搬船14とを、交差して張設した係留ロープ19で接続することにより、両者の間隔の変動をある程度抑えるとよい。このようにすれば、押圧された芯材4が弾性変形して両者との間にすき間が生じないように設置した水中拡散防止装置1の状態を維持し易くなる。
【0039】
実施形態では既述したように、拡散防止膜3を、異なる材質の被覆膜3aと主膜3bとで構成している。被覆膜3aには、土砂Sの拡散を遮断するとともに耐摩耗性に優れた材質を使用し、主膜3bには土砂Sの拡散を遮断する性能を重視した材質を使用している。
【0040】
被覆膜3aには運搬船14が接舷するので耐摩耗性が求められる。一方、運搬船14に接触しない主膜3bには耐摩耗性は重要ではなく、移送物の拡散を遮断する性能が強く求められる。そこで、このように被覆膜3a、主膜3bに対して、それぞれの要求特性に適合した材質を用いることにより、優れた耐久性および汚濁防止効果を得ることができる。
【0041】
フロート2の高さは、例えば700mm以上、好ましくは1000mm以上にすると、土砂Sが水中に落下した際の跳ね返りなどをフロート2によって遮断し易くなる。そのため、土砂Sが拡散し難くなり、汚濁を外部に漏らさないようにするには有利になる。フロート2の高さの上限は、取り扱い性や製造上の制約等から、例えば、1500mm程度である。
【0042】
図7に例示する水中拡散防止装置1の実施形態は、芯材4が環状を形成し、環状の芯材4に沿ってフロート2が環状に配列されている。したがって、フロート2の下方に垂下された拡散防止膜3は筒状になっている。
【0043】
この水中拡散防止装置1は、移送物となる砂Sの移送元に設置されるガット船16と、移送先に設置されるケーソン18との間に、両者に接触するように設置される。水中拡散防止装置1は係留ロープ19などによってケーソン18に固定される。
【0044】
ガット船16とケーソン18との間に設置された水中拡散防止装置1(フロート2)にカット船16が接舷して押圧されることによって、芯材4は弾性変形して偏平した環状になり、水中拡散防止装置1(フロート2)の所定の範囲は、ガット船16およびケーソン18とすき間なく接触した状態になる。
【0045】
この状態で、ガット船16に積載した砂Sをクレーン17のバケットを用いてケーソン18の内部に移送する。水上移送される砂Sは、水中拡散防止装置1の上方を移動する。したがって、バケットから零れて水中に落下した砂Sは、水中拡散防止装置1(拡散防止膜3)の内側に閉じ込められるので拡散が防止される。
【0046】
ガット船16とケーソン18との間隔が波動や潮流等によって変化しても、芯材4の弾性変形によって両者の間隔の変動が吸収されるので、両者との間にすき間が生じないように設置した水中拡散防止装置1の状態を維持することができる。
【0047】
移送物S(浚渫土砂や石等)の水上移送は、船と船との間、或いは、船と陸地との間で行なわれることもある。これらの場合にも本発明の水中拡散防止装置1を適用することができる。
【0048】
図8に例示する実施形態は、図5に例示した実施形態に付勢ロッド20を追加したものである。付勢ロッド20は、両端部が取付部材6によって上端固定枠10に固定されて円弧状に弾性変形した状態になっていて、円弧状の一部が取付部材6によってフロート2に固定されている。付勢ロッド20は、曲げ変形に富んでいて弾性復元力を有している。付勢ロッド20は、芯材4と同様の材料を用いることができ、例えば、FRP等の樹脂で形成されたものを採用するのがよい。
【0049】
円弧状に弾性変形した付勢ロッド20は、常時、フロート2(芯材4)を運搬船14側に向けて押圧している。即ち、この付勢ロッド20は移送元の設置体(上端固定枠10)と移送先の設置体(運搬船14)との間に介在して、互いの設置体の間隔を広げる方向に芯材4を付勢できる付勢手段になっている。
【0050】
潮流や風等が強い悪条件下では、水中拡散防止装置1を設置する際に、芯材4を弾性変形させて運搬船14に向かって突出させようとしても、潮流や風等の強い抵抗によって突出させることができない、或いは、突出させ難いことがある。しかしながら、この実施形態の場合は、潮流や風等の強い抵抗があっても、付勢ロッド20の付勢力によって芯材4の弾性変形状態を保持し易くなる。そのため、このような悪条件下であっても水中拡散防止装置1を設置することが可能、或いは、設置が容易になる。
【0051】
図9に例示する実施形態は、図8に例示した実施形態の付勢ロッド20の形態を変更したものである。付勢ロッド20は環状に形成されて、その一部が取付部材6によって上端固定枠10およびフロート2に固定されている。
【0052】
弾性変形して環状に形成された付勢ロッド20は、常時、フロート2(芯材4)を運搬船14側に向けて押圧している。即ち、この付勢ロッド20は移送元の設置体(上端固定枠10)と移送先の設置体(運搬船14)との間に介在して、互いの設置体の間隔を広げる方向に芯材4を付勢できる付勢手段になっている。この実施形態の場合も、潮流や風等の強い抵抗があっても、付勢ロッド20の付勢力によって芯材4の弾性変形状態を保持し易くなる。そのため、このような悪条件下であっても水中拡散防止装置1を設置することが可能、或いは、設置が容易になる。
【0053】
尚、付勢ロッド20の数は2つに限らず適宜決定され、1つ或いは3つ以上にすることもできる。図8、9の実施形態では、付勢ロッド20は上端固定枠10およびフロート2に固定されているが、適切に固定できる部材に固定されればよい。例えば、上端固定枠10のみに付勢ロッド20を固定することもできる。
【0054】
本発明の付勢手段は、常時、互いの設置体の間隔を広げる方向に芯材4を付勢するものに限らない。例えば、移送元の設置体と移送先の設置体との間に介在して、互いの設置体の間隔が所定間隔よりも小さくなった場合に、互いの設置体の間隔を広げる方向に芯材4を付勢するものを付勢手段として用いることができる。例えば、浮体で浮かせたタイヤなどの弾性体を、図8、9に例示した上端固定枠10とフロート2(芯材4)との間に介在させて付勢手段とすることができる。このタイプの付勢手段では、互いの設置体の間隔が所定間隔よりも小さくなって、フロート2(芯材4)がその付勢手段を押圧した際に、付勢手段が互いの設置体を広げる方向に芯材4を付勢する。
【0055】
図10〜図12に例示する実施形態は、図5に例示した実施形態の拡散防止膜3の形態を変更したものであり、フロート2の下方に垂下される拡散防止膜3の下方を絞ってすり鉢状体22に形成している。そして、すり鉢状体22に管体21が接続されている。
【0056】
また、移送元の設置体(上端固定枠10)と移送先の設置体(運搬船14)との間に介在して、互いの設置体の間隔を広げる方向に芯材4を付勢できる付勢ロッド20が設けられている。付勢ロッド20は必要に応じて設ければよく、省略することもできる。
【0057】
拡散防止膜3について詳述すると、フロート2および上端固定枠10から下方に垂下するとともに、芯材4の長手方向中途の位置でフロート2(被覆膜3a)と上端固定枠10と繋ぐ吊り上げ部3eによって吊り上げられている。即ち、拡散防止膜3で形成されたすり鉢状体22は、上端を開口した椀状であり、すり鉢状体22の底部には、すり鉢状体22の内部に連通する管体21が接続されている。
【0058】
管体21の長さは、その下端が水底にたるみなく接触する程度、或いは、その下端が水底に近接して接触しない程度にする。管体21としては、例えば、薄肉樹脂を蛇腹状に形成したフレキシブル管やその他のフレキシブル管、塩化ビニル管等を用いることができる。
【0059】
上端固定枠10から垂下された汚濁防止膜10aで囲んだ水域の土砂Sを、運搬船14の泥倉15に移送する際に、その土砂Sが、芯材4に沿って配列されたフロート2と上端固定枠10との間に落下すると、管体21を通じて水底に堆積する。この実施形態の場合、水中拡散防止装置1の水底に接する部分を管体21の下端部だけにすることが可能になる。そのため、管体21の下端部を少し持ち上げるだけで、水底を引きずることなく水中拡散防止装置1を移動させることができる。そのため、水中拡散防止装置1を移動させる際に生じ易い水底の汚濁の巻き上げを防止するには有利になる。
【0060】
この実施形態のように、拡散防止膜10aを、下方を絞ったすり鉢状体22に形成すると、フロート2の下方にそのまま垂下する場合に比して、潮流の抵抗を受ける面積が小さくなる。そのため、潮流が強い条件下においても、潮流の抵抗を受け難くなり、水中拡散防止装置1を設置し易くするには有利である。
【0061】
この実施形態では、管体21が全長にわたって蛇腹状に形成された伸縮可能な仕様になっているが、管体21は、長手方向の少なくとも一部を、蛇腹等の伸縮可能な構造にすることが好ましい。これによって、波動等によってフロート2が上下動しても、その上下動を伸縮可能な部分で吸収することができる。そのため、管体21の下端部が頻繁に上下動することにより水底を打撃して汚濁を巻き上げるという現象を回避し易くなる。
【0062】
尚、すり鉢状体22の数は2つに限らず適宜決定され、1つ或いは3つ以上にすることもできる。
【符号の説明】
【0063】
1 水中拡散防止装置
2 フロート
3 拡散防止膜
3a 被覆膜
3b 主膜
3c 接続部
3d 縫い目
3e 吊り上げ部
4 芯材
5 芯材保持部
6 取付部材
7 テンションベルト
8 錘
9 膜昇降用ワイヤ
10 上端固定枠(設置体)
10a 汚濁防止膜
11 作業船
12 クレーン
13 グラブバケット
14 運搬船(設置体)
15 泥倉
16 ガット船(設置体)
17 クレーン
18 ケーソン(設置体)
19 係留ロープ
20 付勢ロッド(付勢手段)
21 管体
22 すり鉢状体
S 移送物(浚渫土砂、砂)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロートと、このフロートの下方に垂下される拡散防止膜とを備え、水上移送される移送物の移送元と移送先との間に配置される移送物の水中拡散防止装置であって、前記フロートの長手方向に沿って、弾性復元力を有する芯材を設けたことを特徴とする移送物の水中拡散防止装置。
【請求項2】
前記芯材をフロートの下方位置または上方位置に、或いはフロートを貫通させて配置した請求項1に記載の移送物の水中拡散防止装置。
【請求項3】
前記芯材がFRP製ロッドである請求項1または2に記載の移送物の水中拡散防止装置。
【請求項4】
前記芯材の両端部が、移送元に設置される設置体または移送先に設置される設置体のいずれか一方に固定されることにより、前記芯材を、移送元に設置される設置体または移送先に設置される設置体のいずれか他方に向かって弾性変形によって突出させ、この突出した芯材に沿って配列される前記フロートを前記いずれか他方の設置体に接触させるように構成した請求項1〜3のいずれかに記載の移送物の水中拡散防止装置。
【請求項5】
前記芯材が環状を形成し、この環状の芯材に沿って環状に配列される前記フロートを、移送元に設置される設置体および移送先に設置される設置体に接触させるように構成した請求項1〜3のいずれかに記載の移送物の水中拡散防止装置。
【請求項6】
前記移送元の設置体と移送先の設置体との間に介在して、互いの設置体の間隔を広げる方向に前記芯材を付勢できる付勢手段を設けた請求項4または5に記載の移送物の水中拡散防止装置。
【請求項7】
前記拡散防止膜を、下方を絞ったすり鉢状体に形成し、このすり鉢状体の底部にすり鉢状体の内部に連通する管体を接続した請求項4〜6のいずれかに記載の移送物の水中拡散防止装置。
【請求項8】
前記拡散防止膜を、前記フロートを覆う被覆膜と、この被覆膜の下端部に接続される主膜とで構成し、前記被覆膜と主膜との材質を異ならせた請求項1〜7のいずれかに記載の移送物の水中拡散防止装置。
【請求項1】
フロートと、このフロートの下方に垂下される拡散防止膜とを備え、水上移送される移送物の移送元と移送先との間に配置される移送物の水中拡散防止装置であって、前記フロートの長手方向に沿って、弾性復元力を有する芯材を設けたことを特徴とする移送物の水中拡散防止装置。
【請求項2】
前記芯材をフロートの下方位置または上方位置に、或いはフロートを貫通させて配置した請求項1に記載の移送物の水中拡散防止装置。
【請求項3】
前記芯材がFRP製ロッドである請求項1または2に記載の移送物の水中拡散防止装置。
【請求項4】
前記芯材の両端部が、移送元に設置される設置体または移送先に設置される設置体のいずれか一方に固定されることにより、前記芯材を、移送元に設置される設置体または移送先に設置される設置体のいずれか他方に向かって弾性変形によって突出させ、この突出した芯材に沿って配列される前記フロートを前記いずれか他方の設置体に接触させるように構成した請求項1〜3のいずれかに記載の移送物の水中拡散防止装置。
【請求項5】
前記芯材が環状を形成し、この環状の芯材に沿って環状に配列される前記フロートを、移送元に設置される設置体および移送先に設置される設置体に接触させるように構成した請求項1〜3のいずれかに記載の移送物の水中拡散防止装置。
【請求項6】
前記移送元の設置体と移送先の設置体との間に介在して、互いの設置体の間隔を広げる方向に前記芯材を付勢できる付勢手段を設けた請求項4または5に記載の移送物の水中拡散防止装置。
【請求項7】
前記拡散防止膜を、下方を絞ったすり鉢状体に形成し、このすり鉢状体の底部にすり鉢状体の内部に連通する管体を接続した請求項4〜6のいずれかに記載の移送物の水中拡散防止装置。
【請求項8】
前記拡散防止膜を、前記フロートを覆う被覆膜と、この被覆膜の下端部に接続される主膜とで構成し、前記被覆膜と主膜との材質を異ならせた請求項1〜7のいずれかに記載の移送物の水中拡散防止装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−112233(P2012−112233A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37801(P2011−37801)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【Fターム(参考)】
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