説明

種皮特異的誘導性プロモーター

【課題】種皮特異的誘導性プロモーターを提供すること。
【解決手段】特定の塩基配列からなるDNA、(b)特定の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ種皮特異的誘導性プロモーターとして機能するDNA、又は(c)特定の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ種皮特異的誘導性プロモーターとして機能するDNAを含んでなる種皮特異的誘導性プロモーター、前記プロモーターを含んでなる発現ベクター、前記発現ベクターを含んでなる形質転換体、前記プロモーターを含んでなる形質転換体、並びに前記プロモーターを含んでなるトランスジェニック植物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種皮特異的誘導性プロモーターに関する。
【背景技術】
【0002】
液胞タンパク質の多くは小胞体(ER)で不活性な前駆体として合成され、液胞に輸送された後にプロセシングを受けて活性のある成熟型へ転換されるという厳密な制御を受けている。かかる成熟化機構には液胞プロセシング酵素(VPE)が関与することが知られている。
【0003】
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)では3種類のVPE(αVPE、βVPE、γVPE)が存在することが知られている(非特許文献1及び2)。また、それらの遺伝子の解析から、βVPEは種子特異的に、αVPEとγVPEは栄養器官特異的に発現することが明らかにされている(非特許文献3)。
【0004】
さらに、最近、シロイヌナズナの遺伝子データベースから新たに4つ目のVPEが発見され、δVPEと名付けられた(非特許文献4)。非特許文献4は、δVPEがこれまでに知られているVPEのいずれとも異なる新規のVPEであり、珠皮から種皮が発生する過程で発現してくることを明らかにしている。しかしながら、その具体的性状等については未だ不明である。
【非特許文献1】Kinoshita, T. et al., Plant Cell Physiol., 36, 1555-1562 (1995)
【非特許文献2】Kinoshita, T. et al., Plant Mol. Biol., 29, 81-89 (1995)
【非特許文献3】Kinoshita, T. et al., Plant J., 19, 43-53 (1999)
【非特許文献4】Gruis, D. F. et al., Plant Cell, 14, 2863-2882
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、種皮特異的誘導性プロモーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記δVPEの生理学的な機能を解明するため、最初のステップとしてδVPEが機能する場所を詳細に調べる必要があると考え、δVPEに対する特異的抗体を作製し、イムノブロット及び蛍光抗体染色によってその局在を調べた。その結果、δVPEは種子の発生段階の初期に内珠皮の特定の細胞層(ii2・ii3層)に局在化することが分かった。そこで、δVPEの内珠皮での局在化メカニズムについてさらに検討を行ったところ、内珠皮以外の組織でδVPE遺伝子の転写産物であるmRNA、あるいはmRNAの翻訳産物であるδVPEタンパク質が分解による制御を受けていることから、δVPEの内珠皮での局在化は意外にもδVPEのプロモーターが種皮特異的誘導性を有することによるものであることが明らかとなった。本発明者らは、以上の経緯の下、種皮特異的誘導性プロモーターの存在を発見するに至り、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
〔1〕 (a)配列番号:1の塩基配列からなるDNA、(b)配列番号:1の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ種皮特異的誘導性プロモーターとして機能するDNA、又は(c)配列番号:1の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ種皮特異的誘導性プロモーターとして機能するDNAを含んでなる種皮特異的誘導性プロモーター、
〔2〕 前記〔1〕記載のプロモーターを含んでなる発現ベクター、
〔3〕 前記〔2〕記載の発現ベクターを含んでなる形質転換体、
〔4〕 前記〔1〕記載のプロモーターを含んでなる形質転換体、並びに
〔5〕 前記〔1〕記載のプロモーターを含んでなるトランスジェニック植物、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、種皮特異的誘導性プロモーターを提供することができる。かかるプロモーターを用いて、例えば、病原菌や害虫に対する抵抗性等の植物種子の性質の改良に有効なタンパク質をコードする遺伝子を種皮特異的に発現させること、食料となる種子の種皮の消化性を改善する酵素等を種皮特異的に発現させること、重金属等の捕捉に有効な金属結合タンパク質を種皮特異的に発現させること、栄養学的に有効なタンパク質成分を種皮特異的に発現させ蓄積させることなどが可能となり、従って、植物種子の性質向上に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の種皮特異的誘導性プロモーターは、種皮、好ましくは種子の発生段階の初期に内珠皮に特異的に下流の遺伝子を発現誘導することができる。当該プロモーターは、具体的には(a)δVPE遺伝子の上流1〜1294位の塩基配列からなるDNAを主たる構成要素として含んでなるものである。当該塩基配列を配列番号:1に示す。
【0010】
また、本発明のプロモーターとしては、種皮特異的誘導性プロモーターとして機能し得る限り、(b)配列番号:1の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるDNA、又は(c)配列番号:1の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを含んでなるものも包含される。
【0011】
前記(b)のDNAにおける「1若しくは数個」とは、該プロモーターの下流に位置した任意の遺伝子の発現を種皮特異的に誘導させる機能が失われない範囲であれば、配列番号:1の塩基配列において塩基がその数に限定なく欠失、置換若しくは付加されていてもよいことを意味する。
【0012】
前記(c)のDNAにおける「ストリンジェントな条件」は、配列番号:1の塩基配列からなるDNAにハイブリダイズさせるDNAに応じて、ハイブリダイゼーション時の、好ましくはさらに洗浄時の温度及び塩濃度を適宜決定することにより設定し得るが、ストリンジェントな条件としては、例えば、ザンブルーク(Sambrook)ら編「モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリーマニュアル第2版(Molecular Cloning: A Laboratory Manual 2nd Ed.)」〔(Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)〕等に記載の条件が挙げられる。具体的には、例えば、
(i) 6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5% SDSと5×デンハルトと100μg/mL 変性断片化サケ精子DNAと50% ホルムアミドを含む溶液中、プローブと共に42℃で一晩保温し、
(ii) 非特異的にハイブリダイズしたプローブを洗浄により除去するステップ、ここで、より精度を高める観点から、より低イオン強度、例えば、2×SSC、よりストリンジェントには、0.1×SSC等の条件及び/又はより高温、例えば、用いられる核酸のTm値の40℃下、よりストリンジェントには、30℃下、さらにストリンジェントには、25℃下、よりさらにストリンジェントには、10℃下、具体的には、用いられる核酸のTm値により異なるが、25℃以上、よりストリンジェントには、37℃以上、さらにストリンジェントには、42℃以上、よりさらにストリンジェントには、50℃以上、より一層ストリンジェントには、60℃以上等の条件下で洗浄を行う、
という条件が挙げられる。
【0013】
なお、Tmは、例えば、下記式:
Tm=81.5+16.6(log[Na+])+0.41(%G+C)-(600/N)
(式中、Nはオリゴヌクレオチドの鎖長であり、%G+Cはオリゴヌクレオチド中のグアニン及びシトシン残基の含有量である)
により求められる。
【0014】
ハイブリダイゼーションの操作は、例えば、前記成書を参照して行えばよい。なお、本明細書において記載する操作は、当該成書を参照することにより適宜実施することができる。
【0015】
本発明のプロモーターは、例えば、シロイヌナズナのδVPE遺伝子の上流1〜1294位の塩基配列を有するDNA部分を単離することにより得られる。該DNA部分の単離は、公知の方法に従って行うことができる。なお、シロイヌナズナのδVPE遺伝子の塩基配列の情報は、例えば、ジーンバンク アクセッション番号AV555212で入手可能である。
【0016】
例えば、シロイヌナズナのゲノムDNAを抽出し、それを鋳型として所定の塩基配列を有する一対のプライマーを用いたPCRにより前記所望の塩基配列を特異的に増幅し、精製することによって前記DNA部分を得ることができる。PCRの際に用いる一対のプライマーは、シロイヌナズナのゲノム塩基配列情報から適宜設計することができ、公知の方法に従って作製することができる。
【0017】
また、単離されたDNA部分の塩基配列に公知の方法に従って適宜変異を導入して本発明のプロモーターを得てもよい。変異導入法としては、例えば、Kunkel法等の公知の手法又はこれに準ずる方法が挙げられる。さらに、単離されたDNA部分をプローブとして用い、例えば、任意のゲノムDNAライブラリーのスクリーニングを行うことにより、本発明のプロモーターを得ることもできる。
【0018】
本発明のプロモーターが所望の機能を有するか否かは、例えば、後述する本発明の発現ベクターを用いて検討することができる。すなわち、本発明のプロモーターの下流にマーカーとなる遺伝子を組み込んだ発現ベクターをシロイヌナズナの細胞に導入し、得られた形質転換植物を育成する。そして、形質転換植物の種皮でのマーカー遺伝子の発現レベルを観察する。マーカー遺伝子の発現が確認されれば、使用したプロモーターが所望の機能を有すると判定することができる。
【0019】
本発明の発現ベクターは、本発明のプロモーターを適当なベクターに連結(挿入)することにより得ることができる。プロモーターを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、以下のようなベクターが用いられる。
【0020】
プラスミドベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pBR322、pUC118、pUC18、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えば、YEp13、YCp50等)等が挙げられる。ファージベクターとしては、λファージ(例えば、Charon4A、EMBL3、λgt10、λZAP等)が挙げられる。レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルスベクター、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。また、ベクターとしては、pBI101、pBI121等のバイナリーベクターを用いてもよい。
【0021】
ベクターにプロモーターを挿入する方法としては、例えば、該プロモーターを構成する精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、所望のベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法等が挙げられる。また、その際、同様にして、宿主内での発現を所望する任意の遺伝子を挿入することができる。発現を所望する遺伝子としては、特に限定されるものではない。かかる遺伝子は、所望により、センス方向及びアンチセンス方向のいずれの方向で挿入してもよい。また、発現ベクターを導入しようとする宿主に応じて、適宜、複製開始点、リボソーム結合配列、転写終結配列、プロモーター制御配列等を選択し、それらの任意の構成要素(塩基配列)をさらに挿入してもよい。
【0022】
本発明の発現ベクターにおいて、本発明のプロモーターの下流に、例えば、前記任意の遺伝子としてレポーター遺伝子、例えば、植物で広く用いられているGUS遺伝子を連結しておけば、宿主植物でのGUS活性を調べることでプロモーターの機能や、その強度を容易に評価することができる。
【0023】
本発明の形質転換体は、本発明のプロモーターと共に、通常、宿主内での発現を所望する任意の遺伝子を宿主中に導入することにより得ることができる。ここで、宿主としては、本発明のプロモーターが作動可能であって、所望の遺伝子の発現が生じ得るものであれば特に限定されるものではない。
【0024】
宿主としては、例えば、植物の他、大腸菌(Escherichia coli)、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞等が挙げられるが、中でも、植物が好ましい。
【0025】
宿主が植物である場合、その形質転換は、例えば、以下のようにして行うことができる。なお、植物の形質転換操作等については、例えば、S.J.Clough and A.F.Bent, Plant Journal, 16, 735-743 (1998)を参照すればよい。
【0026】
形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば、葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば、表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)、植物培養細胞等のいずれをも包含する。形質転換に用いられる植物種としては、アブラナ科、イネ科、ナス科、マメ科等に属する植物が挙げられるが、これらの植物に限定されるものではない。
【0027】
アブラナ科植物としては、例えば、シロイヌナズナが、イネ科植物としては、例えば、トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sativa)が、ナス科植物としては、例えば、タバコ(Nicotiana tabacum)が、マメ科植物としては、例えば、ダイズ(Glycine max)が挙げられる。
【0028】
本発明の形質転換体の作製には本発明の発現ベクターを好適に用いることができる。宿主への本発明の発現ベクターの導入方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、パーティクルガン法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、PEG法等の直接導入法が挙げられる。
【0029】
一方、本発明の形質転換体は、宿主が植物の場合、アグロバクテリウムに含まれるTiプラスミドの他にRiプラスミド、カリフラワーモザイクウイルス等を用いる方法等の生物的導入法によっても作製することができる。これらの方法により作出された形質転換植物では、そのゲノム中に本発明のプロモーター、及び宿主内での発現を所望する任意の遺伝子が組み込まれることになる。
【0030】
よって、本発明により、本発明の発現ベクターを含んでなる形質転換体や、本発明のプロモーターをそのゲノムDNA中に含んでなる形質転換体が得られる。
【0031】
本発明の形質転換植物は、宿主として用いた植物に応じ、植物体組織、細胞、不定胚、胚、胚盤組織及びそれらからの再分化植物、発芽個体として得られる。次いで、それらは、適宜、細胞培養、組織培養、器官培養に用いることができる。
【0032】
なお、所望の遺伝子が宿主に導入されたか否かの確認は、公知の方法、例えば、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。
【0033】
本発明のトランスジェニック植物は、本発明の形質転換植物の細胞等から植物体に再生することで作製することができる。再生は公知の方法に従って行えばよく、通常、カルス状の形質転換細胞をホルモンの種類、濃度を変えた培地へ移して培養し、不定胚を形成させ、完全な植物体を得る方法が好適である。
【0034】
得られたトランスジェニック植物は、種皮特異的に、本発明のプロモーターの下流に位置する所望の遺伝子を発現させることができる。これにより、その種子に所望の形質を付与することができる。例えば、害虫や病原菌に対して抵抗性を持つ種子や、細胞壁成分の分解酵素を種皮だけに発現させることで種皮を柔らかくし、消化しやすい性質を持つ食料種子を得ることができる。また、重金属等の捕捉に有効な金属結合タンパク質であるメタロチオネインを種皮特異的に発現させることができる。例えば、米ではカドミウムの蓄積が問題視されているが、米の種皮にカドミウムチオネインを特異的に発現させて種皮でカドミウムを捕捉させることにより、米におけるカドミウム蓄積の問題を解決可能であろう。さらに、栄養学的に有効なタンパク質成分、その他所望の物質を種皮特異的に蓄積した種子等を得ることができる。なお、本発明のトランスジェニック植物としては、そのようにして得られた種子、さらに該植物の子孫をも包含する。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0036】
実施例1 シロイヌナズナからのプロモーターの単離
10日間寒天培地で育てたseedlingから本葉を一枚サンプリングし、500μLのextraction buffer(0.2M Tris-HCl、0.4M LiCl、25mM EDTA、1%(w/v)SDS)中ですり潰し、粗抽出液を得た。粗抽出液に、フェノール・クロロホルムを容量比1:1で混合した液500μLを加え、タンパク質を除去し、水層から350μLのゲノムDNAの溶解した液を得た。これに350μLのイソプロパノールを加えてゲノムDNAを沈殿させ、70% EtOHで洗浄し、100μLのTEに溶かすことで濃縮した。このうち20μLをPCR用のテンプレートとして使用した。PCRは、配列番号:2に示すプライマー、その5'端に制限酵素サイトSmaIを付加した配列番号:3に示すプライマー、及びEx-Taq DNA polymeraseを用いて行った。PCRによって増幅したDNA断片をpT7 blue T-vector(Novagen社)(以下、T-vectorという)にligationした。配列にPCRによるミスが入っていないことをシークエンスを行うことで確認し、δVPEプロモーター(配列番号:1)を得た。
【0037】
実施例2 Tiベクターの構築
上記のδVPEプロモーターをクローニングしたT-vectorを制限酵素HindIIIとSmaIによって切断した後、アガロース電気泳動を行って、該プラスミド中のδVPEプロモーター配列を取り出した。このδVPEプロモーター配列をTi-vector pBI121(Clontech社)上の制限酵素HindIII-SmaIサイトに導入した。pBI121はGUS遺伝子を持つバイナリーベクターである。
【0038】
融合遺伝子(δVPEプロモーターの下流に連結してなるGUS遺伝子)を組み込んだTi-vectorはエレクトロポレーション法(植物細胞工学 Vol.14 No.3 1992, p48〜58)によって直接アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens, EHA105)に導入した。水に懸濁したアグロバクテリウム80μLにvectorを1ng加え、CELJECT BACIC electroporation system(EquiBio社製)、電極幅2nmのキュベットを使用して最大電圧2400Vでパルスした(電場12KV/cm、パルス時間5.28msec)。1mLのLB培地(10g/L NaCl、10g/L bactotryptone、5g/L yeast-extract)にて28℃で1時間保温した後、50mg/Lのカナマイシンを含むLB寒天培地に塗布し、28℃で2日間培養し形質転換アグロバクテリウムを選抜した。
【0039】
実施例3 形質転換植物体の作製とGUS活性の測定
形質転換法はCloughらの方法(Plant Journal, 16, 735-743 (1998))に従った。花芽を用いてシロイヌナズナの形質転換植物体を得た。
【0040】
すなわち、実施例2で得た形質転換アグロバクテリウムを10 mL LB培地で1日間前培養し、その全てを200 mL LB培地に移して1日間本培養した。培養したアグロバクテリウムを5 kG、20℃、15分で遠心して回収し、infiltration medium [ムラシゲ・スク-グ培地用混合塩類1袋(日本製薬株式会社)、100 g Sucrose、200 mL 0.05% MES・KOH pH5.7 / 2L]で600 nmの吸光度が0.8になるようにアグロバクテリウムを希釈・縣濁した。このmedium中に植物体の花芽を10分間ほど浸け、アグロバクテリウムを感染させた。その後3週間ほど生育し、T1世代の種子を回収した。T1世代の種子は、50 mg/L kanamycin, 200 mg/L Cefotaxime Sodium Salt (WAKO社)を含むMS固形培地[Murashige & skoog salt base、1 mL/L B5 Vitamin stock (100 mg/mL myo-inositol、10 mg/L thiamin-HCl、1 mg/L nicotinic acid、1 mg/mL pyridoxin-HCl)、30 g/L sucrose、0.08 % agar]で形質転換体を選抜しT2世代の種子を得、これを解析に使用した。なお、得られた形質転換植物体から実施例1と同様にしてゲノムDNAを抽出し、シークエンスを行うことにより目的のDNA断片が含まれることを確認した。
【0041】
形質転換植物体から種子(globular〜heart型胚期)、種子(torpedo型胚期)、花粉、花茎、茎頂、根、葉茎、および葉をそれぞれ採取し、GUS活性を測定した。形質転換植物の組織は以下の方法で採取した。T2世代の種子をバーミキュライト/パーライト(1:1)に播種し、連続光の下25℃で6〜7週間生育させ、植物体から種子(globular〜heart型胚期)、種子(torpedo型胚期)、花粉を採取した。また、花粉、花茎、茎頂、根、葉茎、および葉などの組織は、T2世代の種子をMS固形培地に播種し、暗所4℃に4日間置き、春化処理した後、連続光の下25℃で1週間飼育した植物体より採取した。なお、対照として形質転換を行っていない野生型のシロイヌナズナ由来のものについても同様にしてGUS活性を測定した。
【0042】
GUS活性の測定は、形質転換植物体の各部位のGUS染色を観察することにより行った。GUS染色は、染色対象の試料をGUS染色液〔50 nM X-Gluc(5-bromo-4-chloro-3-indlyl-β-D-glucuronide-cyclohexylammonium salt)、500μM K3[CN]6/K4[Fe(CN)6]、0.3% Triton-X、50 μM NaH2PO4〕に浸漬し、37℃でインキュベートすることによって行った。インキュベート開始から12時間後、植物体を100% EtOHに浸すことで酵素反応を停止させた。何度か100% EtOHを交換してクロロフィル色素を十分に除去した後、青色の染色を微分干渉顕微鏡で観察し、その状態を写真撮影した。
【0043】
結果を図1に示す。(a)は種子(globular〜heart型胚期)、(b)と(b)’は種子(torpedo型胚期)、(c)は花粉、(d)は花茎、(e)は茎頂、(f)は根、(g)は葉茎、(h)は葉でのGUS染色の状態である。当該図からわかるように、GUS染色は(a)、(b)及び(b)’のみにおいて種皮で観察された。なお、野生型のシロイヌナズナ由来のものではGUS染色は観察されなかった。以上の結果より、実施例1で得られたδVPEプロモーターによりGUSが種皮特異的に発現誘導されたことが分かる。このことは、該プロモーターによれば、その下流に連結した遺伝子を種皮内において特異的に発現誘導できることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、種皮特異的誘導性プロモーターを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】δVPEプロモーターの下流に連結してなるGUS遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換植物体の各部位におけるGUS染色の状態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号:1の塩基配列からなるDNA、(b)配列番号:1の塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ種皮特異的誘導性プロモーターとして機能するDNA、又は(c)配列番号:1の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ種皮特異的誘導性プロモーターとして機能するDNAを含んでなる種皮特異的誘導性プロモーター。
【請求項2】
請求項1記載のプロモーターを含んでなる発現ベクター。
【請求項3】
請求項2記載の発現ベクターを含んでなる形質転換体。
【請求項4】
請求項1記載のプロモーターを含んでなる形質転換体。
【請求項5】
請求項1記載のプロモーターを含んでなるトランスジェニック植物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−149313(P2006−149313A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346925(P2004−346925)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】