説明

穀物の昇温方法

【課題】 穀物の温度よりも高い温度であって、温度と湿度を適性に設定した空気を送風することにより、穀物をサイロやビンの中に貯留させたまま一切動かすことなく、しかも貯留した穀物の含水率に影響を与えることなく、穀物の温度を目的温度まで上昇させる。即ち、出荷に伴いサイロやビンの中から穀物を取り出す際に、穀物の温度と外気温度との差を小さくさせて表面結露を防止させ、かつ従来のローテーションに比べて時間、労力、電力などの消費を減少させ、また、穀物の肌ずれ、破砕、くずなどの発生による品質劣化を抑制させることを目的とする。
【解決手段】 サイロやビンの中に貯留された穀物を目的温度に上昇させるための昇温方法であって、送風温度を穀物の温度よりも高い目的温度付近に設定させると共に、穀物の含水率を維持させるように平衡水分曲線に基づき相対湿度を設定させた空気をサイロやビンの中に送風させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は穀物の昇温方法に関し、特に、穀物をサイロやビンの中から取り出す際の表面結露を防止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
冬季の外気温度が低い地域においてサイロやビンに穀物(例えば、籾)を貯留して越冬する場合、低い外気温との関係上、サイロ内の結露を防止するため穀物の温度を下げて貯留している。従って、冬季の貯留中の穀物の温度は10℃付近まで低下している。
冬季に温度が低下した穀物は5月頃になっても呼吸による内部発熱の発生もなくサイロやビンの中で自然に温度上昇する事はほとんどない。このように温度が低いままの状態で外気温度と外気湿度が上昇した梅雨や夏季に穀物をサイロやビンから取り出すと、低温の穀物の表面に温かい空気中の水が結露してしまい、穀物の水分上昇や品質劣化を招いてしまう。
【0003】
この表面結露という問題は、穀物の取り出し時において、穀物の温度と外気温度との差が大き過ぎると発生するもので、穀物の貯留施設では出荷に伴いサイロやビンの中から穀物を取り出すに際し、穀物の温度と外気温度及び外気湿度に細心の注意を払う必要がある。
【0004】
従来、冬季から春季になり外気温度が上昇し始める時期にサイロやビンの中から穀物を取り出し、送風機や集塵機などを使って穀物を外気にさらし、外気温度付近まで穀物を温めて、再度サイロやビンの中に穀物を戻す作業が行なわれている(特許文献1参照)。
この作業はローテーションと呼ばれ、1回で終わる場合と、穀物が目的の温度に達するまで複数回繰り返される場合がある。
【特許文献1】特開平5−219828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなローテーション作業は、時々刻々と変化する外気気象条件下では穀物の温度調整と水分調整は困難であるし、穀物をサイロから出し入れするだけでなく、送風機や集塵機を使用し、コンベアや昇降機で搬送し、再度サイロやビンの中へ投入しなければならないため、膨大な時間、労力、電力などを消費する。
また、穀物を動かすため、穀物の肌ずれ、破砕、くずなどが発生し、品質劣化の原因となっている。
【0006】
穀物の温度を昇温させる場合、その昇温方法として穀物の温度よりも高い温度の空気を送風させることが考えられるが、単に、サイロやビンの中に外気を送風したり、除湿空気を送風したりすると、穀物の含水率に影響を及ぼすだけでなく、サイロやビンの中で結露を引き起こし、品質事故につながる。
特に、サイロやビンの中に穀物よりも温かい空気を送風するのは結露の発生を促すためタブーとされていた。
このような問題を回避するためにローテーションという手段を取らざるを得ないのが現状である。
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点を解決するためになされたもので、穀物の温度よりも高い温度であって、温度と湿度を適性に設定した空気を送風することにより、穀物をサイロやビンの中に貯留させたまま一切動かすことなく、しかも貯留した穀物の含水率に影響を与えることなく、穀物の温度を目的温度まで上昇させることができる穀物の昇温方法を提供することを課題としている。
【0008】
即ち、出荷に伴いサイロやビンの中から穀物を取り出す際に、穀物の温度と外気温度との差を小さくさせて表面結露を防止させ、かつ従来のローテーションに比べて時間、労力、電力などの消費を減少させ、また、穀物の肌ずれ、破砕、くずなどの発生による品質劣化を抑制させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明(請求項1)の穀物の昇温方法は、
サイロやビンの中に貯留された穀物を目的温度に上昇させるための昇温方法であって、送風温度を穀物の温度よりも高い目的温度付近に設定させると共に、穀物の含水率を維持させるように平衡水分曲線に基づき相対湿度を設定させた空気をサイロやビンの中に送風させる構成とした。
【0010】
即ち、本発明の穀物の昇温方法は、送風する空気の温度と湿度を適性に設定することにより、穀物の温度よりも高い温度の空気を送風して穀物の温度を昇温させることを可能にしたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の穀物の昇温方法は、送風温度を目的温度付近に設定させた空気をサイロやビンの中に送風させるため、この送風によってサイロやビンの中に貯留された穀物を目的温度付近に上昇させることができる。
この場合の目的温度は、サイロやビンの中から穀物を取り出す際の穀物の温度と外気温度との差が小さく穀物に表面結露が生じないような温度に設定するもので、穀物の温度と外気温度及び外気湿度に応じて目的温度を設定させ、この目的温度付近に送風温度を設定させる。
このように本発明によれば、出荷に伴いサイロやビンの中から穀物を取り出す際の穀物の表面結露を送風という簡単な手段によって防止させることができる。
【0012】
又、送風によって穀物の温度を上昇させるため、穀物をサイロやビンの中に貯留させたまま一切動かすことなく穀物の温度を上昇させることができる。
これにより従来のローテーションに比べて時間、労力、電力などの消費を減少させることができるし、穀物の肌ずれ、破砕、くずなどの発生による品質劣化を抑制させることができる。
【0013】
送風する空気の相対湿度を、穀物の含水率を維持させるように平衡水分曲線に基づき設定させたので、この送風により穀物の乾燥や加湿を抑制でき、穀物の水分を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
収穫後の穀物は、温度、湿度が一定な空気中に放置すると、ある一定の水分含量に落ち着き、空気と平衡状態になる。そのときの水分含量を平衡含水率という。
穀物の平衡含水率の推移(穀物の平衡水分曲線)を表したものが図1である。
図1では穀物温度10℃と、穀物温度30℃の場合の含水率の推移を表している。
このグラフでは横軸の空気相対湿度が上昇するに従って、縦軸の穀物水分(含水率)が徐々に上昇することが示されている。
【0015】
従って、この図1の穀物の平衡水分曲線において、穀物温度、穀物水分、送風する空気の相対湿度の相関関係を参照しながら、穀物の含水率を維持させるように空気の相対湿度をどの程度に設定すればよいかを導くことができる。この場合、穀物の乾燥を防止させるため、必要以上に送風湿度を下げすぎないようにする。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の穀物の昇温方法に係る実施例を説明する。
この実施例は、玄米含水率15.5%で6℃の籾を昇温対象とし、この籾を含水率(15.5%)には影響を与えずに目的温度16℃付近まで上昇させるようにした例である。
即ち、玄米含水率15.5%で6℃の籾が貯留されているサイロの中に、送風温度を目的温度16℃付近に設定させた空気を送風させる。
そして、図1の平衡水分曲線に基づき穀物の含水率を維持させるように相対湿度を導き出すもので、縦軸上の含水率15.5%において目的温度16℃付近の相対湿度を参照すれば、概ね相対湿度75%程度(74%〜77%)を導き出すことができる。
【0017】
このように、玄米含水率15.5%で6℃の籾を貯留しているサイロの中に、送風温度16℃で、相対湿度75%程度の空気を送風させれば、籾の含水率15.5%に影響を与えることなく籾の温度を目的温度16℃付近まで上昇させることができる。
【0018】
次に、本発明の穀物の昇温方法に係る他の実施例を説明する。
この実施例は、玄米含水率14.5%で10℃の籾を昇温対象とし、この籾を含水率(14.5%)には影響を与えずに目的温度20℃付近まで上昇させるようにした例である。
即ち、玄米含水率14.5%で10℃の籾が貯留されているサイロの中に、送風温度を目的温度20℃付近に設定させた空気を送風させる。
そして、図1の平衡水分曲線に基づき穀物の含水率を維持させるように相対湿度を導き出すもので、縦軸上の含水率14.5%において目的温度20℃付近の相対湿度を参照すれば、概ね相対湿度70%程度(68%〜72%)を導き出すことができる。
【0019】
このように、玄米含水率14.5%で10℃の籾を貯留しているサイロの中に、送風温度20℃で、相対湿度70%程度の空気を送風させれば、籾の含水率14.5%に影響を与えることなく籾の温度を目的温度20℃付近まで上昇させることができる。
【0020】
なお、本発明の昇温方法を適用できる穀物の種類としては、籾に限らず、玄米、小麦、大麦、大豆、蕎麦など幅広く適用できるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】穀物の平衡水分曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイロやビンの中に貯留された穀物を目的温度に上昇させるための昇温方法であって、送風温度を穀物の温度よりも高い目的温度付近に設定させると共に、穀物の含水率を維持させるように平衡水分曲線に基づき相対湿度を設定させた空気をサイロやビンの中に送風させることを特徴とした穀物の昇温方法。


【図1】
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