説明

穀類分解物含有発泡性飲料の泡持ち向上方法

【課題】穀類分解物含有発泡性飲料の泡持ちの向上方法の提供。
【解決手段】穀類分解物含有発泡性飲料を、その凍結温度よりも高い温度で外気ガス成分を用いて発泡させることにより得られる発泡体と、穀類分解物含有発泡性飲料とを混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀類分解物含有発泡性飲料の泡持ち向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビール、ノンアルコールビール、発泡酒等などの様々な穀類分解物含有発泡性飲料の開発が検討されている。このような穀類分解物含有発泡性飲料の泡は、炭酸ガスの逃げを防止するとともに、弾ける音の心地良さ、泡立ちによる香り立ち、見た目の美味しさ等を付与する機能を有している。また、グラスやジョッキに注いだ穀類分解物含有発泡性飲料の泡には酸化防止効果がある。
【0003】
穀類分解物含有発泡性飲料の香味および美観向上等を勘案して、泡持ちの向上が従前検討されている。穀類分解物含有発泡性飲料の泡持ちを改善させる方法として、例えば、ビールに窒素ガスを添加する方法が報告されております(例えば、特開平10−287393号公報(特許文献1)参照)。この方法では、ビール内に溶存する窒素ガスを発泡させることにより泡持ちの向上を実現している。しかしながら、穀類分解物含有発泡性飲料に窒素ガスを添加するためには大規模な装置が必要であり、コスト面および設備面の負担が問題となる。
【0004】
また、ビールの泡持ちを改善する別の手法として、起泡剤を添加する手法が報告されている(特許文献2:特開2006−314282号公報)。しかしながら、起泡剤は、穀類分解物含有発泡性飲料本来の成分とは異なるため、香味等への影響が問題となりうる。
【0005】
このような技術状況下、穀類分解物含有発泡性飲料の泡持ちを簡易かつ効果的に向上させる手段が依然として求められているといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−287393号公報
【特許文献2】特開2006−314282号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今般、穀類分解物含有発泡性飲料をその凍結温度よりも高い温度で外気ガス成分を用いて発泡させることにより得られる発泡体と、穀類分解物含有発泡性飲料とを混合したところ、穀類分解物含有発泡性飲料の泡持ちが顕著に向上するとの知見を得た。本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0008】
したがって、本発明は、穀類分解物含有発泡性飲料の泡持ち向上方法の提供をその目的としている。
【0009】
本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)穀類分解物含有発泡性飲料を、その凍結温度よりも高い温度で、外気ガス成分を用いて発泡させることにより得られる発泡体と、穀類分解物含有発泡性飲料とを混合することを含んでなる、穀類分解物含有発泡性飲料の泡持ち向上方法。
(2)発泡前の穀類分解物含有発泡性飲料と比較した、発泡後の穀類分解物含有発泡性飲料の体積膨張率が1超過3.5以下である、(1)に記載の方法。
(3)発泡が、穀類分解物含有発泡性飲料を外気ガス成分の雰囲気下で撹拌することにより行われる、(1)または(2)に記載の方法。
(4)撹拌速度が10,000rpm以上である、(2)または(3)に記載の方法。
(5)発泡温度が40℃以下である、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)外気ガス成分の窒素含有割合が1〜100%である、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)発泡が大気圧またはそれ以上の圧力下で行われる、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)前記発泡および混合中または後に、穀類分解物含有発泡性飲料に起泡剤を添加しない、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)穀類分解物含有発泡性飲料がビール系飲料である、(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)混合が、発泡体を穀類分解物含有発泡性飲料に添加することにより行われる、(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
【0010】
本発明によれば、簡便かつ、安価な手段により顕著に穀類分解物含有発泡性飲料の泡持ちを向上できる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明では、まず、穀類分解物含有発泡性飲料をその凍結温度よりも高い温度で外気ガス成分を用いて発泡させることにより、泡持ちの顕著に向上した発泡体を得ることができる。したがって、本発明の一つの態様によれば、穀類分解物含有発泡性飲料をその凍結温度よりも高い温度で外気ガス成分を用いて発泡させることを含んでなる、穀類分解物含有発泡性飲料の発泡体の製造方法が提供される。
【0012】
また、上記発泡工程前の穀類分解物含有発泡性飲料と比較した、発泡工程後の穀類分解物含有発泡性飲料の体積膨張率は、好ましくは1超過3.5以下であり、より好ましくは、2以上3.5以下であり、さらに好ましくは2以上2.5以下である。このような体積膨張率を指標として得られた発泡体が、顕著な安定性を有することは意外な事実である。
なおここで、体積膨張率は、発泡後に得られた穀類分解物含有発泡性飲料および発泡体の体積の総和を、発泡前の穀類分解物含有発泡性飲料の体積で除することにより得られる値を意味する。
【0013】
本発明の穀類分解物含有発泡性飲料は、穀類の分解物を含む炭酸飲料であればどのような態様の飲料であっても含まれるが、麦芽の分解物を含む飲料であることが好ましい。本発明において、穀類とは、本発明の効果を奏する穀物であれば特に限定されないが、大麦、小麦、大豆、エンドウ豆またはトウモロコシであることが好ましく、より好ましくは大麦である。穀類の分解物の具体的な態様としては、特に限定されないが、大麦、小麦、大豆、エンドウ豆またはトウモロコシの分解物であり、例えば大豆タンパク、エンドウタンパク、コーンタンパク分解物が挙げられる。
【0014】
また、本発明の泡持ち向上剤に含まれる穀類分解物含有発泡性飲料は、泡持ち向上成分を含んでなることが好ましい。泡持ち向上成分は、泡持ちを向上できる成分であれば特に限定されないが、好ましくはタンパク質、糖タンパク質、大豆タンパク質、ホップ由来苦味物質、遷移金属イオン、低分子ポリフェノール、α−グルカン、β−グルカン、およびベントーザンからなる群から選択されるものである。
【0015】
本発明の穀類分解物含有発泡性飲料は、好ましくは麦芽分解物含有炭酸飲料であり、より好ましくはビール系飲料である。ビール系飲料とは、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを有する飲料をいい、例えば、ビール、発泡酒、リキュール等の発酵麦芽飲料や、その他の醸造酒、もしくは完全無アルコール麦芽飲料等の非発酵麦芽飲料が挙げられる。また、ビール系飲料である限り、麦芽飲料に限定されるものではなく、麦や麦芽を使用しない非麦飲料の形態であってもよい。本発明において「非麦飲料」は炭酸ガス等により清涼感が付与された清涼飲料も含まれるものとする。非麦飲料としては、アルコール含量が0重量% である完全無アルコール飲料のような非発酵飲料や、アルコールを含有するアルコール含有飲料が挙げられるが、アルコールを含む態様が好ましい。このアルコール含有非麦飲料としては、発酵して得られた発酵飲料とアルコールが添加された飲料が挙げられる。非麦飲料としては、また、発酵して得られた発酵飲料からアルコール、その他の低沸点成分や低分子成分を除去して得られた非アルコール発酵飲料が挙げられる。ビール系飲料の好ましい態様としては、ビール、発泡酒、完全無アルコール麦芽飲料、非麦飲料が挙げられ、中でもビールが特に好ましい。本発明の穀類分解物含有発泡性飲料は市販の飲料を用いてもよい。
【0016】
また、本発明の方法によれば、穀類分解物含有発泡性飲料に起泡剤を添加しなくても、穀類分解物含有発泡性飲料の泡持ちを向上させることができる。したがって、本発明によれば、発泡および混合中または後に、穀類分解物含有発泡性飲料に起泡剤を添加しないで泡持ちを向上させることができる。
【0017】
起泡剤としては、特に限定されないが、好ましくは穀類分解物含有発泡性飲料自体に由来しない成分であり、例えば、卵白ペプタイド、ゼラチン、カゼインナトリウム等の動植物起源のタンパク質、またはそれらの加水分解物、乳化剤等が挙げられる。
【0018】
また、本発明の穀類分解物含有発泡性飲料の発泡は、外気ガス成分の雰囲気下で、好適に行われる。外気ガス成分としては、窒素含有割合が1〜100%の気体、好ましくは70〜100%の気体であることが好ましい。窒素含有割合が70〜100%の気体中で行う好ましい態様としては、例えば、大気と同一組成(窒素が約78%、酸素が約21%、その他アルゴン、二酸化炭素など)中で行うこともでき、より好ましくは大気および/または窒素により0.01〜0.5MPa、さらに好ましくは0.01〜0.1MPa、中でも0.02〜0.07MPaで加圧して行うことが好ましい。
【0019】
また、本発明の発泡は、好ましくは大気圧下またはそれ以上で行われる。
【0020】
また、本発明の発泡は、穀類分解物含有発泡飲料を外気ガス成分の雰囲気下で撹拌することにより行うことが好ましい。
本発明の撹拌に用いられる装置は、特に限定されず、振動装置、気体注入装置、または撹拌装置等の公知装置を用いてよいが、撹拌羽根を有する撹拌装置を用いて行うことが好ましい。
【0021】
撹拌装置における撹拌羽根の長さは、特に限定されないが、好ましくは穀類分解物含有発泡性飲料の収容容器の半径の1/2〜6/7であり、より好ましくは5/7〜6/7である。ここで、撹拌羽根の長さは、撹拌羽根の回転中心から羽根先までの長さである。また、収容容器の形状は、撹拌羽根の回転を妨げない限り特に限定されないが、収容容器の水平断面は好ましくは円状である。また、収容容器の直径は、例えば、撹拌羽根の回転中心から収容容器の縁までの距離の平均値によって決定することができる。
【0022】
穀類分解物含有発泡性飲料の撹拌速度は、例えば、10,000rpm以上であり、好ましくは18,000〜22,000rpmである。かかる撹拌速度は、外気ガス成分を効率的に泡内に取り込む上で有利である。
【0023】
また、穀類分解物含有発泡性飲料の発泡温度は、好ましくは凍結温度超過40℃以下であり、より好ましくは凍結温度超過10℃以下である。
【0024】
穀類分解物含有発泡性飲料の撹拌時間は、特に限定されないが、好ましくは1秒以上であり、より好ましくは4〜10秒である。
【0025】
また、本発明の方法では、発泡工程により得られた発泡体と、穀類分解物含有発泡性飲料とを混合して、泡持ちの向上した穀類分解物含有発泡性飲料を得ることができる。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、穀類分解物含有発泡性飲料をその凍結温度よりも高い温度で外気ガス成分を用いて発泡させることにより得られる発泡体と、穀類分解物含有発泡性飲料とを混合することを含んでなる、泡持ちの向上した穀類分解物含有発泡性飲料の製造方法が提供される。
【0026】
本発明の発泡体の混合方法は、特に限定されず、発泡体を穀類分解物含有発泡性飲料に添加してもよく、穀類分解物含有発泡性飲料を発泡体に添加してもよいが、発泡体を穀類分解物含有発泡性飲料上に添加することが好ましい。かかる添加は、例えば、発泡体を、ビールジョッキ等の容器に収容された穀類分解物含有発泡性飲料上を注ぐことにより行うことができる。
【0027】
発泡体と混合される穀類分解物含有発泡性飲料は、発泡体の製造原料である穀類分解物含有発泡性飲料と同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0028】
なお、本発明の方法によって得られる穀類分解物含有発泡性飲料において、泡持ち状態が継続しているか否かの判断は、例えば、ジョッキに穀類分解物含有発泡性飲料を注いで、ジョッキ中の液面全面が泡によって覆われた状態が継続しているか否かによって判断する。より具体的には、ジョッキ中の液面全体が泡によって覆われた状態が継続していれば、泡持ち状態は継続していると判断し、ジョッキ中の液面のうち一部でも泡が消失していれば、泡持ち状態は終了したものと判断する。また、上記判断方法のさらなる詳細は、本願明細書の試験例1の方法に準じるものとする。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0030】
試験例1:撹拌時間および外気成分の穀類分解物含有発泡性飲料の泡持ちに対する影響の検討
4℃の生ビール(商品名:一番搾り、キリンビール社)200mLをミキサー(SM−M8型、サンヨー製;サイズ−撹拌羽根の長さ/ビール収容容器(直径)=5/7〜 6/7、撹拌速度:18,000rpm)を用いて、外気ガス成分として大気を用い、大気圧下で1または5秒間攪拌し、発泡体を得た。
撹拌後、生ビールの体積膨張率をミキサー容器の容量メモリに基づき測定した。
次に、350mLのグラス(高さ14cm、ビール300mLを注いだ際の液面面積176.6cm)に300mLの生ビールを注ぎ、その上に発泡体を添加し、室温にて放置し、泡持ちの持続時間を目視により測定した。
また、外気ガス成分としてNを用い、撹拌時間を5秒のみとする以外上記と同様の手法により、泡持ちの持続時間および体積膨張率を測定した。
また、コントロール(Cont)では、生ビールにビールサーバーを使用して得られた発泡体をそのまま添加する以外、上記と同様の手法により、泡持ちの持続時間を測定した。
【0031】
結果は、表1に示される通りであった。
大気中の場合、撹拌後の生ビールの体積膨張率は、撹拌時間1秒の場合にはコントロールの2倍以上であり、撹拌時間5秒の場合にはコントロールの2.5倍以上であった。
また、大気中の場合、泡持ち時間は、撹拌時間1秒の場合にはコントロールの4倍以上であり、撹拌時間5秒の場合にはコントロールの22倍以上であった。
中の場合、撹拌後の生ビールの体積膨張率は、撹拌時間5秒の場合にはコントロールの2.0倍以上であった。
また、N中の場合、泡持ち時間は、撹拌時間5秒の場合にはコントロールの16倍以上であった。
【0032】
【表1】

【0033】
試験例2:官能試験
試験例1の方法に準じて、撹拌時間3秒、大気開放にて本発明の発泡体を生成し、生ビールに添加し、室温で放置した。
次に、放置後30分の時点で試飲することにより酸化臭強度の官能検査を行った(パネラー8名)。
コントロール(Cont)では、生ビールにビールサーバーを使用して得られた発泡体をそのまま添加する以外、上記と同様の手法により官能試験を行った。
【0034】
その結果、本発明の発泡体を用いた場合、酸化臭を全く感じないパネラーは7名であり、酸化臭を僅かに感じるパネラーは、1名であった。
一方、コントロール(Cont)では、酸化臭を全く感じないパネラーは6名であり、酸化臭を僅かに感じるパネラーは、2名であった。
酸素の存在する大気中にて発泡体を生成した場合でも、コントロール(Cont)と比較しても、酸化劣化による香味低下は確認されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀類分解物含有発泡性飲料を、その凍結温度よりも高い温度で、外気ガス成分を用いて発泡させることにより得られる発泡体と、穀類分解物含有発泡性飲料とを混合することを含んでなる、穀類分解物含有発泡性飲料の泡持ち向上方法。
【請求項2】
前記発泡前の穀類分解物含有発泡性飲料と比較した、前記発泡後の穀類分解物含有発泡性飲料の体積膨張率が1超過3.5以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発泡が、前記穀類分解物含有発泡性飲料を外気ガス成分の雰囲気下で撹拌することにより行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記撹拌速度が10,000rpm以上である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記発泡温度が40℃以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記外気ガス成分の窒素含有割合が1〜100%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記発泡が大気圧またはそれ以上の圧力下で行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記発泡および混合中または後に、穀類分解物含有発泡性飲料に起泡剤を添加しない、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記穀類分解物含有発泡性飲料がビール系飲料である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記混合が、前記発泡体を穀類分解物含有発泡性飲料に添加することにより行われる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−254027(P2012−254027A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127783(P2011−127783)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】