説明

積層エレクトロクロミック素子

【課題】一つの着色エレクトロクロミックポリマーを含む有用な積層エレクトロクロミック素子を提供すること。
【解決手段】積層エレクトロクロミック素子であって
(a)透明電極層と、
(b)ポリマー層であって、ポリマー層は第一の状態と第二の状態の間で切替可能であり、ポリマー層は第一の状態で第一の色を示し、一方、第二の状態でポリマー層は第二の異なる色の少なくとも一つであり且つ一般的に透明であり、以下の(i)または(ii)のいずれか含むポリマー層と、
(i)積層エレクトロクロミック素子中に陽極着色エレクトロクロミックポリマーを含まずに、還元状態で着色されている陰極着色エレクトロクロミックポリマー;
(ii)積層エレクトロクロミック素子中に陰極着色エレクトロクロミックポリマーを含まずに、酸化状態で着色されている陽極着色エレクトロクロミックポリマー;
(c)固体電解質を含む電解質層と、
(d)対電極層と
を含むことを特徴とする積層エレクトロクロミック素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、印加した電圧の関数として異なる色を呈するエレクトロクロミック(EC)材料に関し、より具体的には、特定の有機ポリマーに基づくEC材料を利用した装置、およびこの特定の有機ポリマーに基づくEC材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2001年6月25日出願の米国特許仮出願第300,675号明細書、2001年9月21日出願の米国特許仮出願第324,205号明細書、および2002年3月14日出願の米国特許仮出願第364,418号明細書を含めて、3つの同時係属中の仮出願に基づくものであり、米国特許法第119条(e)項に基づいて、これらの出願日の利益を本明細書によって請求する。
【0003】
エレクトロクロミック(EC)材料は、フォトクロミック材料およびサーモクロミック材料を含めたクロモジェニック材料群の一部である。これらは、光(フォトクロミック)、熱(サーモクロミック)、または電気(エレクトロクロミック)に暴露されると、その着色レベルや透明性が変化する材料である。クロモジェニック材料は、光の伝達に関する応用分野で広い関心を集めている。
【0004】
クロモジェニック材料の初期の用途は、太陽に暴露されると暗くなるサングラスまたは処方眼鏡であった。こうしたフォトクロミック材料は、1960年代後半に最初にCorningによって開発された。このとき以来、クロモジェニック材料を使用して、透過する光の量を変えることができるウィンドウを製造できる可能性が分かっている。しかし、明らかに、こうした材料の使用法はそのような期待が持てる用途に限定されるものではない。実際、EC技術は既にデジタルウオッチの表示に使用されている。
【0005】
ウィンドウに関しては、着色レベルや透明性を変えるために電力をあまり必要としないので、EC材料に関心が寄せられている。ECウィンドウは、建物および乗物のウィンドウを通る昼光量および太陽熱ゲインの制御に使用することが提案されている。初期の研究は、ECウィンドウ技術が建物におけるエネルギー量をかなり節減することができ、ゆくゆくはECガラスが色ガラス、反射フィルム、および遮光素子(例えば、日よけ)などの伝統的な太陽光制御技術に置き換わるかもしれないことを示唆している。光のレベルおよび太陽熱ゲインを制御する能力のために、ECウィンドウは、年間の米国エネルギー消費量を、数クワデリリオン(1015)BTUまたはクワド(1.055×1015kJ)も低減させる可能性がある。これは、現在の消費速度に対して大きな減少である。
【0006】
さまざまな異なるタイプのEC材料が知られている。主な3つのタイプは、無機薄膜、有機ポリマー膜、および有機溶液である。多くの用途について、液体材料の使用は不便であり、その結果、無機薄膜および有機ポリマー膜が、より商業的に適用可能であると思われる。
【0007】
電圧に応答して異なる不透明性を示すEC素子を作るには、多層の組立品が必要である。一般に、この組立品の2つの外層は、透明な電子伝導体である。この外層内には、対電極層およびEC層があり、この間にイオン導体層が配置されている。外部導体間に低い電圧を印加すると、対電極からEC層へ移動するイオンが、この組立品の色の変化を引き起こす。電圧を逆にするとイオンはEC層から対電極層へ反対に移動し、この素子を元の状態に戻す。もちろん、すべての層が可視光線に対して透明であることが好ましい。無機および有機イオン導電層はいずれも公知である。
【0008】
ウィンドウ用途、またはディプレイ用途で有用であるためには、EC材料は、長期安定性、急速なレドックススイッチング、および状態変化と共に大きな不透明度の変化を示さなければならない。無機薄膜に基づくEC素子では、EC層は通常酸化タングステン(WO3)である。酸化タングステンEC層に基づく無機薄膜EC素子が開示されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。酸化モリブデンなど、その他の無機EC材料も公知である。多くの無機材料がEC材料として使用されているが、多くの無機EC材料に伴う加工の難しさおよび応答時間の遅さのために、異なるタイプのEC材料の必要性が生じている。
【0009】
共役レドックス活性ポリマーは、EC材料の1種である。これらのポリマー(陰極または陽極ポリマー)は、本質的にエレクトロクロミックであり、異なる色状態の間を電気化学的または化学的に切り換えることができる。レドックス活性共重合体群が開示されている(例えば、特許文献4を参照)。別の、窒素をベースとした複素環有機EC材料群が開示されている(例えば、特許文献5を参照)。ECウィンドウに有用なEC材料の特定および開発を求めて、有機膜EC材料のさらに別のタイプの研究が続けられている。
【0010】
ECウィンドウはスマートウィンドウと呼ばれることもあり、これはEC技術の大きな商業的応用分野であることが期待される。しかし、ECのもう1つの可能な使用法は、スマートディスプレイ、またはデジタルウィンドウ(DW)と呼ばれることもある、ディスプレイの製造である。DWシステムの1つの期待される用途は、デオキシリボ核酸(DNA)チップの読み取りに関するものである。DNAチップの読み取り/書込み技術をより効率的にするには、DNAアレイ製造において、オリゴヌクレオチドの光合成における高価な特注のフォトマスクを置き換えることが望ましい。オリゴヌクレオチドチップ製造にこの技術を使用する際に適用できる新しい方法の開発が望ましい理由がいくつかある。具体的には、より多くの生物のゲノムの配列が決定されるようになり、オリゴヌクレオチドチップがますます重要になってきた。したがって、低コストの、使いやすい、高密度DNAアレンジャ、および表面プラズモン共鳴に基づいた、現行のシステムより高い横解像度を有する、未知DNA読み取りシステムを開発する必要性がある。
【0011】
こうした用途のための適当なシステムは、電位極性(陽極ECポリマー側は、それぞれ、負の極性と正の極性を有する)を変えることによって、透明から不透明へ(例えば、暗青色へ)容易に変化する切換え可能なウィンドウを使用することが望ましい。これらの切換え可能ウィンドウ積層材料は、通常大きさがほぼサブミクロンからほぼ50ミクロンの範囲のデジタル(画素)アレイに変換できることが望ましく、それぞれのアレイ単位は、透明状態から不透明状態へそれぞれ独立に制御されることが望ましい。この機能性を、DNA配列および未知分子の特性決定、ならびにin vivoおよびin vitroの細胞−細胞相互作用を含めて、未知分子のリアルタイムアナライザとしての役割を果たす表面プラズモン共鳴(SPR)システムと組み合わせると、こうした高解像度SPRシステムは、分子群を次から次に走査することによって、すなわち対応するデジタルウィンドウ(DW)単位を開くことによって、現在可能な速度よりも高速で、リアルタイムベースで未知分子およびDNA配列を分析するのに有用となるはずである。こうしたシステムを使うことによって、未知の分子(およびDNAおよびRNAの配列)を分析できる速度は、従来技術と比べて大幅に高速化されるであろう。
【0012】
EC技術のさらに面白い応用分野は、デジタルウオッチに現在使用されている単色ディスプレイのやや限定された用途以外のディスプレイ技術へEC素子を使用することに関する。3つ以上の色状態の間を制御されて遷移できるEC素子は、上記のデジタル画素アレイを用いたフラットパネル多色ディスプレイの可能性を提供する。
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,598,293号明細書
【特許文献2】米国特許第6,005,705号明細書
【特許文献3】米国特許第6,136,161号明細書
【特許文献4】米国特許第5,883,220号明細書
【特許文献5】米国特許第6,197,923号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の第1の態様は、ECポリマー素子で有利に使うことができる特性を有するECポリマーおよび対電極の合成方法を対象とする。本発明の第2の態様は、ECポリマーに基づく素子の具体的な構造を対象とし、一方、第3の態様はECポリマー素子の具体的な用途を対象とする。ECポリマーおよび対電極の合成に関しては、ECポリマーを合成する方法の2つの実施形態が開示され、かつEC素子で使用される対電極を製造する2つの実施形態が開示される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の合成方法は、PProDOT−Me2としても知られている、ポリ[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン]の製造を対象とする。好ましくは、等モル量の3,4−ジメトキシチオフェンと2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールとをトルエンに溶解し、(3,4−ジメトキシチオフェンの1.5モル%の濃度の)p−トルエンスルホン酸一水和物の存在下で加熱し、温度110℃で10〜20時間にわたって放置する。当分野の技術者であれば、この特定温度がトルエンの沸点であることを理解するであろう。このトルエンを加熱し沸騰させ、トルエン蒸気を集めて凝縮させ、次いで元の溶液(すなわち、3,4−ジメトキシチオフェン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、トルエンおよびp−トルエンスルホン酸一水和物の溶液)へ戻す。このプロセスは、化学技術で還流と呼ばれる。
【0016】
この合成の間にメタノール副生成物が生成するが、このメタノール副生成物は反応速度を著しく低下させる。この合成法は、このメタノール副生成物を塩化カルシウムで吸収させて除去する工程を含むことが好ましい。これは、凝縮したトルエン蒸気を元の沸騰溶液へ戻す前に塩化カルシウムで処理することによって実現することができる。そのようにして、凝縮トルエン蒸気からメタノール副生成物が除去される。当分野の技術者であれば理解できるように、望ましくない反応物を除去するために、有機合成ではこうした「塩析」プロセスを使用することがある。
【0017】
EC素子で有用であることが期待される第2の有機ポリマーは、PBEDOT−NMeCzとしても知られている、ポリ[3,6−ビス(2−(3,4エチレンジオキシチオフェン))−N−メチルカルバゾールである。この合成はやや複雑であり、容易に入手できる試薬から2つの中間化合物を形成することが必要である。次いで、この中間化合物を触媒の存在下で反応させて所望の生成物を得る。第1の中間化合物を得るには、テトラヒドロフラン(THF)の溶液中で、−78℃で1時間にわたって、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)をn−ブチルリチウムで処理する。次いで、得られた中間化合物、すなわちグリニャール試薬を臭化マグネシウムジエチルエーテラートで処理する。この臭素化中間生成物は、THF溶媒中に一時的に貯蔵する。
【0018】
次の中間化合物は、ジブロモカルバゾール(C126Br2NH)をジメチルホルムアミド(DMF)中で水素化リチウム(LiH)と混合し、10℃未満に1時間にわたって保持することによって得られる。この中間生成物を(好ましくはヨウ化メチル、MeIまたはCH3Iを使って)メチル化し、2時間かけて温度を50℃に上昇すると、メチル化ジブロモカルバゾール(C126Br2NCH3)中間生成物が生成する。この中間生成物を、水とエーテルで洗浄して精製し硫酸ナトリウムで乾燥することが好ましい。
【0019】
この2つの中間生成物をニッケル触媒の存在下で混合すると、EDOT環がジブロモカルバゾール誘導体に付加する。この反応はこの2つの中間生成物の混合物を50℃で12時間にわたって保持することによって促進され、BEDOT−NMeCzが生成する。
【0020】
EC素子に有用な対電極の第1の実施形態は、金の薄層をガラス基板上に配置することによって製造することができる。好ましくは、基板の厚みは0.7mm程度であり、金の層はそれよりも厚くなく、好ましくは、それよりも実質的に薄い。チタン−タングステン(TiW)の層をガラス基板に付加して、基板への金の結合力を高めることができる。基板の表面の25パーセント未満を金層で覆うことが好ましく、この金層は、対電極の表面積の大部分にわたる導電性を高めるパターンで堆積させる。このパターンは、格子パターンで得られるような連続のラインを含むことが好ましい。
【0021】
EC素子に有用な対電極の第2の実施形態は、金の薄層を黒鉛などの高導電性炭素の薄層で置き換えることによって製造することができる。このときTiWの層は必要ない。ガラスと黒鉛の間にインジウムスズ酸化物の層を含むことが好ましい。
【0022】
少なくとも1種のECポリマーからなる積層EC素子に関しては、一実施形態は、陰極ECポリマー層と陽極ECポリマー層の両方を含む。別の実施形態は、陰極ECポリマー層と対電極層を利用している。2つのECポリマー層を利用した実施形態は、最上層と最下層の両方に透明電極を含む。インジウムスズ酸化物を塗布したガラスは、好ましい透明電極である。最上部の透明電極の下には、陰極ECポリマー層を配置する。好ましい陰極ポリマーはPProDOT−Me2である。この陰極ポリマー層に隣接して固体電解質層を配置する。好ましい固体電解質は、ポリマーマトリックス、溶媒担体、およびイオン供給源を有するゲル電解質を含む。過塩素酸リチウム(LiClO4)は好ましいイオン供給源である。1つの好ましいゲル電極はポリ塩化ビニル(PVC)をベースとしており、別の好ましい電解質はポリメチルメタクリレート(PMMA)をベースとしている。両者ともLiClO4を含有している。この素子の次の層は陽極ポリマー層を含み、好ましくはPBEDOT−NMeCzを含む。最後の層は、上記の透明電極を含む。電圧を印加しない(または正の電圧を印加する)酸化状態では、両ポリマー層は実質的に透明であり透過度が高い。ただし、PBEDOT−NMeCzでは、完全に無色の状態が実現されることはないことに留意されたい。負の電圧を印加すると、それぞれのポリマー層は還元されてほぼ透明から暗青色に変化する。PProDOT−Me2層はより暗い色調に達するので、より不透明になる。この素子の色変化は非常に速く(約0.5〜1秒)、再現性がある(10,000回以上)。
【0023】
1つのECポリマー層しか持っていないEC素子の実施形態も、最上層として透明電極を含む。ここでも、インジウムスズ酸化物塗布ガラスが好ましい透明電極である。透明電極の例としては、ガラスまたはプラスチックなどの透明基板上に堆積されたITOおよびドーピングした酸化亜鉛膜が挙げられる。透明電極層の次に陰極ECポリマー層、好ましくはPProDOT−Me2があり、次に上記のタイプの固体電解質層がある。固体電解質層に隣接して次に対電極層がある。好ましい対電極層は、(ガラスまたはプラスチックなどの)透明基板に塗布した導電性コーティングを含む。この導電性コーティングは、対電極層の透過度を25パーセント以上低下させないことが好ましい。好ましい導電性コーティングは、基板を実質的に覆うパターン状に堆積された金および黒鉛である。好ましいパターンは、格子などの連続ラインを含む。負の電圧を印加しない(または正の電圧を印加する)酸化状態では、PProDOT−Me2ポリマー層は実質的に透明であり、色調もほとんど無い。負の電圧を印加すると、対電極は、PProDOT−Me2ポリマー層が還元を受けてほぼ透明から暗青色に色が変わる速度を高める。この素子の色変化は非常に速く(約0.5〜1秒)、再現性がある(10,000回以上)。
【0024】
第1の好ましい用途の具体的な実施形態は、電圧を印加しない(または正の電圧を印加する)場合の実質的透明から、負の電圧を印加した場合の実質的不透明へ状態を変化させることができるスマートウィンドウを含む。スマートウィンドウの第1の実施形態は、デュアル(dual)ポリマーEC素子に基づくものであり、このデュアルポリマーEC素子は、上記のように、PProDOT−Me2陰極ポリマー層、固体電解質層、およびPBEDOT−NMeCz陽極ポリマー層を含む。スマートウィンドウの第2の実施形態は、これも実質的に上記のように、PProDOT−Me2陰極ポリマー層、固体電極層、および対電極層を利用した、シングルポリマーEC素子に基づくものである。
【0025】
さらに別の用途の具体的な実施形態は、高横解像度を有するSPR画像法に基づくDNAチップおよび未知分子読み取り技術用のDWを対象とする。現在、DNAチップ読み取り/書込み技術は、DNAアレイ製造において、オリゴヌクレオチドの光合成に使用される高価な特注のフォトマスクを必要としている。本発明のこの実施形態では、従来のフォトマスクの代わりに、格子状フォーマットに配列された複数の個別アドレス指定可能な画素を含むDWが使用される。各画素に個別に電圧を印加することができ、選択的なマスキングを実現することが可能である。
【0026】
本発明の上記の態様および付随的な利益の多くは、以下の詳細な説明を添付の図面と組み合わせて参照することによって本発明がよりよく理解されるにつれて、その正当な評価が容易になるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、ECポリマー素子で有利に使用できる特性を有するECポリマーの合成法、ECポリマーに基づく素子の具体的な構造、およびECポリマー素子の具体的な応用分野を対象とする。初めにECポリマーの合成を述べ、次いでEC素子用の具体的な構造を説明し、最後にEC素子の具体的な応用分野を説明する。EC素子の動作原理をよく知らない方のために、この説明の最後に概要を記載した。
【0028】
(ECポリマーの合成)
EC素子で有用であることが期待されている第1の有機ポリマーは、ジメチル置換ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、またはPProDOT−Me2としても知られている、ポリ[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン]である。図1Aは、ProDOT−Me2を調製するための好ましいトランスエステル化反応10を示す。3,4−ジメトキシチオフェンと2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールとをトルエンに溶解し、(3,4−ジメトキシチオフェンの1.5モル%の濃度の)p−トルエンスルホン酸一水和物の存在下で、温度110℃で10〜20時間にわたって加熱する。このプロセスは化学技術で還流と呼ばれ、110℃の温度でトルエンが沸騰して還流する。還流プロセスでは、溶液の一留分(3,4−ジメトキシチオフェン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、およびp−トルエンスルホン酸一水和物の留分はそれぞれ沸点がトルエンよりも高いので、この場合はトルエン留分)が蒸気として溶液から追い出されるまで溶液を沸騰させ、次いでこの蒸気を凝縮させて元の溶液に戻す。
【0029】
本発明で還流を使う目的は、3,4−ジメトキシチオフェンと2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールとが結合して所望の生成物を形成するとき、望ましくない副生成物としてメタノールが生成するからである。一部の3,4−ジメトキシチオフェンと2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールが結合して所望の生成物を形成すると、メタノール副生成物の存在が、その後の3,4−ジメトキシチオフェンと2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールとの反応を事実上阻害してしまう。したがって、生成できる所望の生成物の量を増やすには、メタノール副生成物が生成したら、これを除去することが好ましい。還流することでメタノール副生成物を連続的に除去することが可能になる。メタノールとトルエンはいずれも沸点が他の留分、すなわち、3,4−ジメトキシチオフェン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、p−トルエンスルホン酸一水和物および所望の生成物の沸点よりも低い。トルエンが沸騰するまで加熱することによって、メタノールとトルエンとの両方を溶液から除去する。除去したトルエンとメタノールを凝縮し、別の容器に集める。この別の容器に塩化カルシウムを加えると、塩化カルシウムがメタノールと反応して、トルエンからのメタノールの除去が可能になる。次いで、凝縮したトルエンを、元の溶液(沸騰している3,4−ジメトキシチオフェン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、p−トルエンスルホン酸一水和物、トルエン、および所望の生成物)に戻す。したがって、この合成における好ましい工程は、塩化カルシウムを使ってメタノールを除去することである。当分野の技術者であれば理解できるように、望ましくない反応物を除去するために、有機合成でこうした「塩析」プロセスを使うことがある。一実施形態では、凝縮したメタノールと凝縮したトルエンとを、固形塩化カルシウムを通してろ過する。得られたモノマー、ProDOT−Me2は、PProDOT−Me2に容易に重合することができる。
【0030】
図1Bは、上記の合成を行うために使用する装置11を示す概略図である。反応物(3,4−ジメトキシチオフェン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、およびp−トルエンスルホン酸一水和物)を容器13内でトルエンに溶解する。容器内の溶液が穏やかに沸騰するのに十分な熱を容器13に加える(上記のようにトルエンの沸点は110℃であり、トルエンに加える反応物がある程度溶液の沸点に影響するが、溶液の沸点は実質的に110℃のままである)。トルエン蒸気(およびメタノール副生成物)は、容器13から沸騰管15へ追い出される。蒸気は凝縮器17内へ上昇し、ここで蒸気は冷却されて、充填された塩化カルシウム19内へ落下する。蒸気の動きを破線で示し、凝縮した蒸気の動きを実線で示してある。メタノールは塩化カルシウムによって吸収され、凝縮したトルエンはレベル21まで上昇する。このレベルで、凝縮したトルエンは沸騰管15を通って容器13へ戻る。使用するトルエンの量および装置11の内容積は、トルエンの一部が常に容器13内に残っており(すなわち、溶液が沸騰して完全になくなることはない)、凝縮したトルエンが充填された塩化カルシウムを通ってレベル21まで上昇でき、凝縮したトルエンの一部が容器13へ戻るようなものであることが好ましい。雰囲気酸素が望ましくない副生成物や相互反応を引き起こすことがないように、窒素ブランケットを装置11内に導入することが好ましい。
【0031】
EC素子で有用であることが期待される第2の有機ポリマーは、PBEDOT−NMeCzとしても知られている、ポリ[3,6−ビス(2−(3,4エチレンジオキシチオフェン))−N−メチルカルバゾールである。好ましい合成手法30を図2に示す。初めに、テトラヒドロフラン(THF)の溶液中で、−78℃で1時間にわたって、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)をn−ブチルリチウムで処理する。当分野の技術者なら、この工程はグリニャール試薬の調製に使われるものであることが分かるであろう。次いで得られるグリニャール試薬を臭化マグネシウムジエチルエーテラートで処理する。生成物(すなわち、試薬B)はTHF溶媒中に残ったままである。
【0032】
次いで、ジブロモカルバゾール誘導体をジメチルホルムアミド(DMF)中で水素化リチウムと混合し、10℃未満で1時間にわたって保持する。メチル基を1:1の比でゆっくり加え、温度を2時間かけて50℃まで上昇させると、メチル化ジブロモカルバゾール誘導体生成物(すなわち、試薬C)が生成する。これを、水とエーテルで洗浄することによって精製し、硫酸ナトリウムで乾燥する。ヨウ化メチル(MeI)をメチル化剤として使うことが好ましい。試薬BとCを混合すると、EDOT環がジブロモカルバゾール誘導体に付加する。BEDOT−NMeCzを生成するには、BとCの反応は、ニッケル触媒で促進し、これらの試薬を50℃に12時間にわたって一緒に保持することが必要である。次いで、このBEDOT−NMeCzモノマーを重合して、EC素子の陽極層として使用されるPBEDOT−NMeCzポリマーを得ることができる。
【0033】
(EC素子の構造)
本発明の他の態様は、ECポリマーを使ったEC素子の具体的な構造を対象とする。本明細書で開示するそれぞれの構造は、少なくとも1種のECポリマー、固体または液体電解質、ならびに透明電極の上層および下層を含む積層系に基づくものである。
【0034】
EC素子の第1の構造は、図3Aに透明状態40a、図3Bに着色状態40bの両方の概略図を示してある。EC素子は透明状態でも着色状態でも、構造には違いがないことに留意されたい。EC素子に電圧を印加すると、陰極層と陽極層のECポリマーは色が変化する。したがって、第1の構造は、図3Aと3Bに一括して示したように、陰極(PProDOT−Me2)ECポリマー層と陽極(PBEDOT−NMeCz)ECポリマー層を含む。印加する電圧の極性が重要であることを留意されたい。正の電圧を印加した場合は、本発明のECポリマーは、(正の電圧を印加する直前に負の電圧が印加されていないとすれば)脱色状態にあるか、または(正の電圧を印加する直前に負の電圧を印加したとすれば)不透明状態から脱色状態への遷移中である。負の電圧を印加した場合は、本発明のECポリマーは、(追加の負の電圧を印加する直前に既に負の電圧が印加されていたとすれば)不透明状態にあるか、または(負の電圧を印加する直前に正の電圧を印加したか、または負の電圧を印加する直前に電圧が印加されていないとすれば)脱色状態から不透明状態への遷移中である。
【0035】
最上層は透明電極42であり、好ましくはインジウムスズ酸化物(ITO)を塗布した透明基板から形成される。透明基板上のITO膜は好ましい透明電極であるが、透明基板の上の酸化タングステン膜またはドーピングした酸化亜鉛膜などの他の材料も透明電極として有利に使用できることを理解されたい。ガラスは、確かに好ましい透明基板であるが、プラスチックおよびポリマーなどの他の透明材料も透明基板として有利に使用できることも理解されたい。したがって、ガラス基板という用語の使用は、本発明の範囲を限定するものではなく、一例とみなすべきである。次の層は陰極(PProDOT−Me2)ECポリマー層であり、これは、図3Aでは透明層44aとして示され、図3Bでは着色層44bとして示されている。電圧を印加しない(または正の電圧を印加する)場合は、PProDOT−Me2ECポリマー層は完全には無色にならないことを理解するべきである。その代わり、淡青色調が認められる(それゆえ、図3Aの透明層44aにシェーディングを施してある)。負の電圧を印加すると、PProDOT−Me2ECポリマー層は徐々に不透明になり飽和に達する(図3Bの着色層44bのシェーディングで図示したように、暗青色調である)。
【0036】
陰極ECポリマー層の次は固体/ゲル電解質層46である。この固体/ゲル電解質層の次に、陽極(PBEDOT−NMeCz)ECポリマー層48があり、これも、図3Aでは透明層48aとして示され、図3Bでは着色層48bとして示されている。電圧を印加しない(または正の電圧を印加した)場合でも、PBEDOT−NMeCzは無色ではなく、明確な黄色調がはっきり見える(それゆえ、図3Aの透明層48aにシェーディングしてある)。この場合も、負の電圧を印加すると、PBEDOT−NMeCzECポリマー層は徐々に不透明になり飽和に達する(図3Bの着色層44bのシェーディングで図示したように、中程度の青色調である)。PBEDOT−NMeCzECポリマー層の次に最下層がある。これは、もう1つの透明電極42であり、これもインジウムスズ酸化物(ITO)塗布ガラスから形成されることが好ましい。
【0037】
第1の構造(図3Aおよび3B)は、デュアルECポリマー素子を形成しており、2種のECポリマーを使うことによって着色状態の濃さ(または不透明度)が上昇する。しかし、陽極ポリマーが透明(または脱色)状態で顕著な色調を有することが主な理由で、脱色状態の透過度は低い。陽極ECポリマー(例えば、PBEDOT−NMeCz)を生成するために使われるモノマー(例えば、BEDOT−NMeCz)は、合成するのがやや難しいが、本発明はその合成法を包括する。
【0038】
ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)誘導体(PProDOT−Me2)をベースとした陰極層は、脱色状態と非脱色状態との間で78パーセントという優れた光線透過率の変化を示す。PProDOT−Me2は、急速なスイッチング、低い酸化電位、ならびに周囲温度および高温での優れた安定性を示す。
【0039】
EC素子では、電解質層はイオン導電性だが電気絶縁性でなければならない。過塩素酸リチウム(LiClO4)を含有するポリ(塩化ビニル)(PVC)ベースおよびポリメチルメタクリレート(PMMA)ベースのゲル電解質はいずれも固体電解質層46として使用することができる。好ましくは、固体電解質層46は、PVC(またはPMMA)、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびLiClO4から製造される。このPVC(またはPMMA)電解質混合物は、テトラヒドロフラン(THF)に溶解する。PVCまたはPMMAベースのゲル電解質は、室温で高い導電率(2mS/cm)をもたらす。
【0040】
こうしたゲル電解質では、PVCおよびPMMAの固体ポリマーマトリックスが電解質に寸法安定性を与え、溶媒ECおよびPCの高い誘電率がリチウム塩の広範な解離を可能にする。ECとPCの低い粘度が、高いイオン移動度を助長するイオン環境を提供する。
【0041】
もう1つの有用なゲル電解質は、LiClO43%、PMMA7%、PC20%、およびアセトニトリル(ACN)70%(重量%)から調製することができる。こうしたゲルの簡単な合成は、初めにPMMAとLiClO4をACNに溶解することによって実現される。PCは、4オングストロームの分子篩で乾燥し、次いで他の成分と混合した。この全成分の混合物を室温で10〜14時間にわたって攪拌した。高い導電率(2mS/cm)、高い粘度および透明なゲル電解質が形成された。上記のように、PMMAの固体ポリマーマトリックスが電解質に寸法安定性を与え、一方溶媒PCとACNの高い誘電率がリチウム塩の広範な解離を可能にする。PCの低い粘度が、高いイオン移動度を助長するイオン環境を提供する。
【0042】
固体素子の製造を容易にする(溶媒液はポリマーマトリックス内に閉じ込められる)のでゲル電解質が好ましいが、液体電解質もEC素子で使用することができる。ACN中の0.1M過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP)を使って、1つのこうした液体電解質を実現することができる。PVCやPMMA以外の材料を使ってゲル電解質のポリマーマトリックスを形成することができ、また、TBAPやLiClO4以外の材料をイオン供給源として使用できることが考えられる。
【0043】
EC素子の第2の好ましい構造は、同様に、図4Aに透明状態50a、図4Bに着色状態50bの両方の概略図を示した。この場合も、構造的な見地からは、透明状態でも着色状態でもEC素子に差異はない。第2の構造は、図4Aと4Bに一括して示したように、陰極PProDOT−Me2ECポリマー層と対電極層とを含むが、陽極PBEDOT−NMeCzECポリマー層を含まない。前と同じように、こうした素子がいかに応答するかを決めるには、印加する電圧の極性が重要である。
【0044】
この場合も、最上層は透明電極42であり、この場合もITOが好ましい。次の層は陰極PProDOT−Me2ECポリマー層であり、図4Aには透明層44aとして示され、図4Bには着色層44bとして示されている。陰極ECポリマー層の次には固体/ゲル電解質層46が来る。この固体電解質層の次に対電極層52が来る。透明電極最下層は必要ない。
【0045】
対電極層52は、金ベース、白金ベース、または高導電性炭素ベースであることが好ましく、この層が上記の第1の構造で利用された陽極ECポリマーと最下部ITO電極を置き換える。好ましい高導電性炭素は黒鉛である。黒鉛は確かに好ましい高導電性炭素であるが、他の高導電性炭素材料を導電膜として有利に使用して、透明基板上に塗布して対電極を生成することもできることを理解されたい。多くのタイプの導電性炭素が、日本国、東京の東海カーボン(株);米国、ミシシッピ州、HattiesburgのLORESCO INTERNATIONALなどさまざまな製造業者から入手できる。したがって、本明細書における黒鉛という用語の使用は一例であるとみなすべきであり、本発明の範囲を限定するものではない。さらに、ニッケルを透明基板上の導電膜として有利に使って対電極を製造することができることも考えられる。対電極の使用は、状態間の色変化の速度を改良することができると同時に、2つの状態間のコントラスト比を高くすることができる。対電極材料は、化学的に安定であり、高い電気伝導率を提供し、パターン化基板を容易に作ることができることが望ましい。金、高導電性炭素、および白金は、対電極を作るために有利に使用できる電気伝導性材料であることが認められている。低コストであるため黒鉛が非常に有用であることが考えられる。また、金ははるかに高価であるが、非常に薄い層で使うことによって金ベースの対電極のコストを最小にすることができる。白金は電気伝導性であるが、非常に高価なのでその使用は考えない。さらに、他の導電性材料を使用して対電極を製造することも考えられる。
【0046】
金ベースの対電極を下記のように製造した。これを図5A〜5Cに示す。厚み0.7mmの研磨したフロートガラス(Delta Technologies、Limited製)を基板として使用した。このガラスを直径4インチのガラスウェーハ56に切り出した。リソグラフィとスパッタリング技術を使ってガラスウェーハ上に金パターン58を形成した。任意選択で、金のコーティングを施す前に、まずチタン−タングステン(TiW)の層60をガラス基板上にスパッタリングした。TiW層は、バリア層およびキャッピング層として半導体製造で頻繁に使用されている。このTiW層は、金層をガラス基板にしっかり結合させるのに役立つ。パターンのデザイン、またはパターン形状はEC素子に根本的に影響を与える。対電極上の導電性材料の線がより広く、パターンの開口面積がより大きいと、より高い導電率が得られることが期待される。すなわち、ECポリマーの色変化の速度は高速になるが、電圧を印加しない(または正の電圧を印加した)場合の対電極の透過率は低下してしまう。用途によっては、特にウィンドウでは、EC素子の透過率は非常に重要であることに留意されたい。EC素子の(または、対電極などの、素子の任意の部分の)最高透過率が許容しえないレベルに低下した場合は、この素子はウィンドウなどの用途に使用するには適当でない。図5Aおよび5Bに示した碁盤目のパターンは、十分に小さければ実質的に透明なパターンを形成する。金層の正方形の孔の代替として、それぞれ図6Aおよび6Bに示したような、円形の孔またはダイヤモンド形の孔も同様に有用であると思われる。高い透過率を保持するには、ガラス基板の25パーセント未満が金で覆われていることが好ましい。金(または黒鉛)の層の総面積が最小である場合に透過率は最高になり、一方、金(または黒鉛)の層の面積が最大になる場合に導電率は最大になることに留意すべきである。EC素子は、透過率が優れていなければならないが、ある程度遅い応答時間が許容される場合は、金または黒鉛に当てられる対電極表面積の比率を下げることができる。それに対して応答時間が透過率よりも重要な場合は、金または黒鉛に当てられる対電極表面積の比率を上げることができる。ガラス基板の25パーセント未満を導電性材料で覆うことが、速い応答時間と許容しうる透明性の両方を示すEC素子を得るための優れた妥協点であることが経験的に求められている。
【0047】
上記のように、高導電性炭素(黒鉛など)ベースの対電極も使うことができる。高導電性炭素ベースの対電極の第1の実施形態を、図7Aおよび7Bに示す。この場合も、好ましい基板は、厚みが約0.7mmの研磨したフロートガラスキュベット板である。ITOコーティング64を、研磨したフロートガラスキュベット板の片側に施し、次いでこのITOコーティングの上に炭素コーティング62を施す。好ましくは、高導電性炭素材料は黒鉛(HITASOL GA.66M)である。この高導電性炭素材料の電気伝導度は、10-2S/cm以上であることが知られている。高い透過率を保持するには、ガラス基板の25パーセント未満が炭素で覆われていることが好ましい。上記のように、ガラス基板上への金パターン化にはリソグラフィおよびスパッタリングを用いたが、高導電性炭素ベースの対電極については、ガラス基板上に黒鉛パターンを形成するためにスクリーン印刷を用いた。スクリーン印刷技術は、リソグラフィやスパッタリング技術よりも安価な装置しか必要としないので、高導電性炭素ベースの対電極の大量生産は金ベースの対電極の大量生産より安価にできることが予想される。
【0048】
この黒鉛ベースの対電極の実施形態では、ガラス基板は、片側にインジウムスズ酸化物を塗布して対電極用の透明絶縁基板を形成していることに留意されたい。金の電気伝導度は、黒鉛よりもはるかに高いので、金は、ITOガラスなしにガラス基板に直接堆積させることができるが、黒鉛のパターンは、ITO層の上に堆積させることが好ましい。あまり好ましくはないが、図7Bに示したITO層なしに、許容しうる黒鉛ベースの対電極を作製できることに留意されたい。
【0049】
好ましくは、これらの積層素子内の各ポリマー層は厚みが150ナノメートル程度であり、各固体電解質層は厚みが約30ミクロンであり、対電極上の金パターン層は厚みが50〜100ナノメートル程度である。対電極の黒鉛層の厚みの好ましい範囲も50〜100ナノメートルであり、より好ましくは100ナノメートルである。ITO膜の好ましい厚みは、約10ナノメートルから約200ナノメートルであり、厚みを大きくすることによって、より高い電気伝導度が得られる。したがって、EC素子内の電気伝導度は、ITO層、特に対電極に使用されたITO層の厚みを調節することによって操作することができる。透明電極(または対電極)で利用される透明基板(ガラスまたはプラスチックなど)の好ましい厚みは約0.5〜1.0ミリメートルであり、特に好ましくは0.7ミリメートルである。
【0050】
白金のワイヤが、一般に図4Aおよび4Bに示した第2の構造に相当するEC素子で対電極としてうまく使われている。ある構造(すなわち、陰極ECポリマー、固体電解質層、および非ECポリマー対電極)を有するEC素子は陰極層としてPProDOT−Me2を使うことが好ましいが、他のEC陰極ポリマーも有利に使用できることを理解されたい。対電極と陰極ECポリマーとは反対に、対電極と陽極ECポリマーを用いてシングルポリマーのEC素子を作製できることを理解されたい。対電極と陽極ECポリマーを用いて作製されたシングルポリマーのEC素子は、電圧を印加しない(または正の電圧を印加する)と透明性が低い(すなわち、陽極ECポリマー層は濃い状態にある)が、こうしたEC素子に負の電圧を印加すると、陽極ECポリマー層はより透明な状態に遷移する。これは、電圧を印加しない(または正の電圧を印加する)とより透明な、対電極と陰極ECポリマーを用いて作製したシングルポリマーEC素子とは反対であり、負の電圧を印加するとより不透明になる。
【0051】
上記のシングルポリマー/対電極EC素子をベースにした素子のサンプルを、ほぼ7mm×50mmの矩形の層を用いて作製した。透明電極にはITOを塗布した7mm×50mmのガラススライドを調製し、このITO塗布面にPProDOT−Me2の層を堆積した。金の格子パターンを堆積させたガラスウェーハを7mm×50mmのプレートに切り出した。格子パターンに黒鉛を堆積させた7mm×50mmの同様のプレートも調製した。PMMA/LiClO4ゲル電解質を、ITOスライド上に堆積された陰極ECポリマーと対電極との間に均一に配置して層状の素子を形成した。1つは金の対電極、1つは黒鉛の対電極を有する2つの素子を調製した。黒鉛ベースの対電極は、黒鉛を堆積させる前にまずITOの層をガラス基板上に設けた点で、金ベースの対電極とは異なる。一方、金ベースの対電極ではこうした層は使わなかった。ゴムのシーラントを使い、組み立てた素子を約20時間にわたって硬化した。硬化時間の延長が有利である可能性もあり、20〜30時間が硬化時間の好ましい範囲であると思われる。使用したシーラントはパラフィルムであった。これは、容易に入手でき、半透明であり、柔軟な熱可塑性シーラントである。これらの実施モデルの略図を図8Aおよび8Bに示した。これらの実施モデルは、図4Aおよび4Bに関して上述した第2の実施形態に対応することに留意されたい。上記のように、この略図のモデルは、酸化状態(電圧の印加がないか、正の電圧を印加)と還元状態(負の電圧を印加)の両方を示してある。
【0052】
図8Aは、酸化状態(電圧の印加なし、または正の電圧を印加)の実施モデルの横断面図と上面図を示す概略図である。横断面図は、最上層が透明電極42であることをはっきり示している。この層はガラススライドにITOを塗布して調製した。透明電極42にすぐ隣接して透明層44aがあり、陰極PProDOT−Me2ECポリマーの薄膜が透明電極42上に塗布されている。次の層は、概ね円形の固体/ゲル電解質層46を含み、これは電解質が漏れないようにシーラント53で囲まれている。上記のように、固体電解質層(およびシーラント)の次に対電極52が来る。固体電解質層の形が、色が変わるECポリマー層の区域を画定していることに留意されたい。電解質層と接触していないECポリマー層の部分は色の変化を受けない。本実施例では、ECポリマー層は概ね正方形の透明基板全体に塗布され、シーラントは概ね円形のマスクとして塗布され(すなわち、シーラントは、シーラントを塗布しない概ね円形の部分を除いて、ECポリマー層の表面全体にわたって塗布され)、固体電解質層はシーラントマスクで画定された概ね円形の部分内に堆積された。シーラントにすぐ隣接しているECポリマー層の部分(すなわち、固体電解質層にすぐ隣接していない部分。こうした部分は、負の電圧の印加で薄い状態から濃い状態へ遷移しない)と、固体電解質層にすぐ隣接しているECポリマー部分(こうした部分は、負の電圧の印加で薄い状態から濃い状態へ遷移する)の間に極めて鮮明な境界が得られた。シーラントと固体電解質層間の界面での滲み出しが非常に少ないので、はっきり画定されたウィンドウ(すなわち、負の電圧の印加で薄い状態から濃い状態へ遷移したECポリマー層の部分)を得ることができた。もちろん、シーラントマスクと電解質区域は、ここで使用した概ね円形以外の形で結合させることもできる。シーラントが取れる形ならどんな形を使っても、この反対の形(すなわち、すき間)に電解質を充填することによって、この形の反対の形に相当するウィンドウを画定することができる。最下部の透明電極層が必要であることに留意されたい。図8Bは、負の電圧が印加された後の実施モデルを示し、電解質と接触しているECポリマー層の部分は色が変化しているが、それ以外のECポリマー層(すなわち、シーラントと接触している部分)は色が変化していない。図8Aおよび8Bに関しては、上記のように、印加される電圧の極性が、こうした素子がいかに応答するかを決める。
【0053】
(実験結果)
図4Aおよび4Bに示した第2の構造に相当する実施サンプルについて電気化学的実験検討を行った。陰極ECポリマーとしてPProDOT−Me2を使い、対電極として白金ワイヤを使った。この検討は、参照電極として銀(Ag/Ag+)、作用電極としてITOが塗布された単一ガラススライド、および対電極として白金(Pt)ワイヤを有する、CH Instumentsのポテンシオスタット/ガルバノスタット電気化学分析装置CH1605Aを用いて行った。使用した電解質(この場合は、液体電解質)は0.1NのTBAP/ACNであった。Varian Corp.UV−Vis−NIR分光光度計で分光電気化学分析を行った。図9Aおよび9Bは、上記のEC素子それぞれの速く再現性のある動作を示すグラフである。具体的には、図9Aは、PProDOT−Me2陰極層、電解質層、および対電極層を有するEC素子のスイッチングデータを提供する。一方、図9Bは、PProDOT−Me2陰極層、電解質層、およびPBEDOT−NMeCz陽極層を有するEC素子のスイッチングデータを提供する。
【0054】
光スイッチングを検討するために、PProDOT−Me2陰極層、電解質層、および金の対電極層をベースとした素子、ならびに、PProDOT−Me2陰極層、電解質層、および黒鉛の対電極層をベースとした素子を用いた。ここでも、UV−vis分光光度計で分光電気化学分析を行った。図10Aにグラフを示したように、金ベースの対電極素子の場合に、可視領域に高いコントラスト比が観察された。この高いコントラスト比は、Auベースの対電極と陰極ECポリマーの、酸化状態における高い透過率によるものである。
【0055】
図10Bに示した黒鉛ベースの対電極の着色状態は、金ベースの対電極素子よりもやや濃かったが、黒鉛ベースの対電極層の透過率が低いために、黒鉛ベースの対電極素子の脱色状態も金ベースよりも濃かった。
【0056】
光スイッチングはEC素子の重要な特徴であり、金および黒鉛電極をベースとしたそれぞれの素子のスイッチングを試験した。図11Aは、金ベースの対電極素子についての結果を示すグラフであり、一方、図11Bは、黒鉛ベースの対電極素子についての結果を示すグラフである。これらは、波長580nmおよび印加電圧2.0Vでの吸光度に基づくものである。それぞれの素子は優れた再現性および吸光度の速い変化を示した。黒鉛ベースの対電極の脱色状態における透過率は金ベースの対電極素子と比べて低かったが、電位に対する吸光度の応答は黒鉛ベースの対電極素子の方が速い。この結果は、黒鉛はその電気伝導度が金よりも低いが、総括導電率を高めるためにITO上にパターン化されていることによると思われる。
【0057】
金ベースの対電極素子に関して図12にグラフを示したように、異なる印加電位でも、それぞれの素子についてほとんど同じ時間(1秒未満)内に色は平衡状態に到達した。色の飽和度(すなわち、不透明度)は、金ベースの対電極素子に関して図13にグラフを示したように、印加する電位の大きさに左右されることに留意されたい。図12および13は、金ベースの対電極素子のみについて言及しているが、黒鉛ベースの対電極素子も同様に動作した。
【0058】
レドックス反応はECポリマー膜の表面上のみに生じており、ドーピング反応には非常に少量のイオンしか必要ないと考えられる。EC素子のこの特性を、CH Instumentsのポテンシオスタット/ガルバノスタット電気化学分析装置CH1605Aを用いて検討した。対電極として金(または黒鉛)パターン化ガラススライドを有する上記の分析装置に対電極と参照電極を接続することによって、作用電極としてのECポリマー堆積ITOガラススライドの電気化学データを測定した。図14Aは、一定電位(すなわち、2.0ボルト)の極性を変えた際の、金ベース対電極素子の酸化還元反応中の性能の再現性を示すグラフである。一方、図14Bは、黒鉛ベースの対電極素子についての同じ結果を示す。それぞれの素子は、1秒以内の速い応答時間の非常に安定した再現性を示した。同じ電位で、黒鉛ベースの対電極の電流の大きさは金ベースの対電極の2倍であった。この結果は、黒鉛ベースの対電極の高い電気伝導度によるものであり、金ベースの対電極よりも短い色変化応答時間が得られた。この事実は図11Bで明らかであり、この図では、黒鉛ベースの対電極素子の吸光度対時間曲線が非常に急勾配である。
【0059】
EC材料の色変化性能の温度依存性も、EC素子を設計する際の重要な要素である。一定の電圧が印加されている時のEC素子の電流の大きさは、この素子の色変化特性を表す。素子(金および黒鉛ベースの対電極)を、Temperature & Humidity Chamber(PDL−3K、ESPEC)で分析した。ポテンシオスタット/ガルバノスタット電気化学分析装置で、さまざまなチャンバ温度において一定の電圧2.0Vで電流時間曲線を測定した。図15は、温度の関数として各EC素子の最高電流のプロットを示すグラフである。金ベースの対電極素子の電流は、−40から10℃の温度範囲内で非常にわずかに上昇したが、10〜80℃の高温範囲では安定した。一方、黒鉛ベースの対電極素子は全体の範囲にわたって、より安定であった。どちらの素子の最高電流変化も、−40から100℃で2×10-3mA未満であった。
【0060】
金ベースの対電極素子および黒鉛ベースの対電極素子の両方で、透明状態と着色状態との間のスイッチング速度は速く、約0.3〜1.0秒の範囲である。対電極にITOを使った黒鉛ベースの対電極素子は、2Vの印加電位で0.3〜0.8秒の応答時間を実現することができ、これには再現性がある(10,000回)。この性能は、(対電極にITOを使っていない)金ベースの対電極素子で得られるものよりも速い。金ベースの対電極素子は、透明状態と不透明状態の間で透過率のより大きな変化が得られた。これらの素子の消費電力は少なめであり、2〜2.5ボルト×10〜20mAである。スイッチングが安定な温度範囲は比較的広く、−40℃〜100℃である。さらに、これらの素子の重量は極めて小さい。金ベースの対電極素子および黒鉛ベースの対電極素子は、認識されるコントラストが優れており、必要なスイッチング電圧が低く、したがって、色可変ウィンドウ(dialed−tint windows)、大面積ディスプレイ、自動車の防眩バックミラー、および制御可能な色の切換えが有用な他の応用分野での使用に特に関心をもたれている。
【0061】
(具体的な用途)
本発明のさらに他の態様は、EC素子の具体的な応用分野に関するものである。第1の実施形態では、PBEDOT−NMeCz陽極層を含むEC素子がディスプレイとして使用される。PBEDOT−NMeCzは酸化状態で黄色調を示し、還元状態で青色調であるから、多色ディスプレイを実現することができる。こうしたEC素子は複数の画素を含むことが好ましく、それぞれの画素は、PBEDOT−NMeCz陽極層を含むデュアルポリマーEC素子の個別アドレス指定可能な格子によって画定されている。それぞれの画素に個別に電圧を印加することができるので、それぞれの画素の色を別々に制御するフラットパネルディスプレイを実現することが可能である。
【0062】
さらに別の用途の具体的な実施形態は、高い横解像度を有するSPR画像法に基づくDNAチップ読み取り技術用のDWを対象とする。SPR画像法は認められた技術である。現在ここには高価な特注のフォトマスクが利用されている。本実施形態では、従来のフォトマスクの代わりに、格子状フォーマットに配列された個別アドレス指定可能な複数の画素を使用する。このDWは複数の個別の画素を含み、それら各々は、上記のデュアルポリマー素子やシングルポリマー素子などの積層ECである。ぞれぞれの画素に個別に電圧を印加することができるので、画素ごとに選択的にマスキングすることが可能になる。したがって、DWは、電位の極性を変化させることで透明から不透明(暗青色)へ切換え可能なウィンドウを形成する。上記の積層EC素子はデジタル(画素)アレイに組み立てられ、その大きさは一般に差し渡しで0.5〜50ミクロンである。
【0063】
上記のDW技術にはさまざまな効果が期待できるが、DNAアレイチップ技術、特にSPRを使用して(in vitroまたはin vivoの)未知のDNAおよび未知の分子を読み取る技術に直ちに移転させることが可能である。本発明によるDWの好ましい実施形態を使った一例を図16に示す。図16では、DW/SPR画像システム100は、DW102が挿入された従来のSPR画像システムを含む。DW/SPR画像システム100の従来の要素は、フローセル104、パターン化分析層106、金または銀層108、第1の光路112に沿って分析層へ向けて光を送るレーザ光源110、第1の光路112に配置される(光源110からの光を偏光させる)第1の光学素子114、第1の光路112に沿って伝わる光がプリズムの中を通過するように、第1の光路112に分析層に隣接して配置されるプリズム116を含む。第2の光学素子118が第2の光路120に沿って配置されている。また、電荷結合素子(CCD)検出器122が第2の光路120に沿って配置され、第2の光学素子118が焦点を合わせた光を受け取る。ぞれぞれの画素に電圧を個別に印加できるようにDWのそれぞれの画素に接続されている複数の導体、ならびにこの導体およびレーザ光源に電気的に接続されている電源は別個に示していない。
【0064】
DWを、DNAおよびRNAを含めた未知分子のリアルタイム分析装置として使用されてきた従来のSPR画像システムと組み合わせることによって、高い空間解像度を有する新しいSPRシステムが実現される。この高解像度DW/SPRシステムは、デジタルウィンドウ内の対応するいくつかの画素を開くことにより、1つの分子群から次の群へと走査することによって、従来のSPR画像システムによって達成できるよりもさらに高速で、リアルタイムベースに未知の分子およびDNAを分析することが期待される。DWは、その位置を変えることなく、異なる画素を励起させることによって再構成することができる。これに対して、フォトマスクは、異なるマスキングパターンを実現するには、これを取り除いて別のマスクと取替えなければならない。
【0065】
本発明のさらに別の態様は、自動車、航空機、および建築物などの構造および建築用途で使用できるスマートウィンドウである。こうしたスマートウィンドウは、電圧を印加していない(または正の電圧を印加した)第1の状態での実質的に透明な状態から、負の電圧を印加した第2の状態での実質的に不透明な状態へと、状態を変化させることが可能である。図17は、通常の二重ガラス窓130に組み込まれた、上述したようなシングルまたはデュアルポリマーEC素子を示す図である。図17は、正面図、側面図、および拡大部分図を含むものであり、それぞれ適切に表示されていることに注目されたい。スマートウィンドウは、普通ガラスの外部ガラス窓134と内部ガラス窓136との間に層をなすEC素子が、スマートウィンドウから延在するワイヤ(別個に図示せず)を制御可能な電圧源に接続して、スマートウィンドウを概ね透明な状態から著しく不透明な状態へと遷移させることができる点が、通常のウィンドウと異なる。ボイドまたはギャップ140が普通ガラスの窓ガラスを分離している場合は、EC素子を、内部ガラス窓136ではなく外部ガラス窓134に接続することが好ましい。スマートウィンドウの第1の実施形態は、上記のように、ProDOT−Me2陰極ポリマー層、固体電解質層、およびPBEDOT−NMeCz陽極ポリマー層を使ったデュアルポリマーEC素子に基づいている。スマートウィンドウの第2の実施形態は、実質的に上記のように、PProDOT−Me2陰極ポリマー層、固体電解質層、および対電極層を使ったシングルポリマーEC素子に基づいている。
【0066】
上記の二元およびシングルポリマーEC素子は、認識されるコントラストが優れており、必要なスイッチング電圧が低いので、大面積ディスプレイ、自動ミラー、および印加電圧に応答した色変化が望ましい用途などの他の応用分野でも、特に関心を集めることが予想される。
【0067】
(一対のPProDOT−Me2および対電極の機能性の概略)
PProDOT−Me2は、陰極着色ポリマーとして使うことができる。PProDOT−Me2は、完全に還元された形では暗青色であり、完全に酸化された形では非常に透過性の淡青色である。この陰極着色ポリマーは、p−ドーピング形の電荷を中和(すなわち、還元)すると淡色から濃色状態へ変化する。このπ−π*遷移は、可視領域外の遷移を使って減少する。したがって、この色の主波長は、ドーピングプロセス中は同一である。PProDOT−Me2陰極層、過塩素酸リチウム(LiClO4)を含有するゲル電解質、および金ベースの対電極を利用したEC素子のECプロセスを図18に示す。この図では、金の層が、以下に説明する一対の層のプロセスに必要な第2層の役割を果たしている。
【0068】
ECプロセスは、一対の層を必要とする。PProDOT−Me2層はこの一対の層の第1層としての役割を果たし、金ベースの対電極は一対の層の第2層としての役割を果たしている。図18の左側では、負の電圧が印加され、PProDOT−Me2ポリマーは還元されて濃い青色の状態にある。金ベースの対電極層は、負に荷電した過塩素酸(ClO4)イオンを引き付けている。図18の右側では、電圧が印加されていない(または正の電圧が印加されている)。そして、PProDOT−Me2ポリマーは酸化されたp−ドーピング形の淡色状態にある。金ベースの対電極層は、正に荷電したリチウム(Li)イオンを引き付けている。
【0069】
PProDOT−Me2ポリマー層と金ベースの対電極層を分離しているゲル電解質は、イオン伝導性であるが電気絶縁性であり、したがって、リチウムイオンおよび過塩素酸イオンは移動可能であり、これらは印加電位の極性の変化でPProDOT−Me2ポリマー側と金ベースの対電極側との間を自由に移動する。
【0070】
黒鉛ベースの対電極は同じメカニズムで作用する。この電気二重層は化学反応を伴わず、対電極層(金または黒鉛)に構造変化を引き起こすことがない。電気二重層は負の電荷と正の電荷の両方を蓄えることができる。
【0071】
本発明を実施する好ましい形態と関連させて本発明を説明したが、当分野の技術者であれば、特許請求の範囲に記載の範囲内で本発明に多数の変更を加えることができることを理解するであろう。したがって、本発明の範囲は、上記の説明によって何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲によって決定されるべきものである。
本発明の実施態様を以下に示す。
(1) 積層エレクトロクロミック素子内の陰極層としての使用に適したエレクトロクロミックポリマーの合成方法であって、
(a)第1量の3,4−ジメトキシチオフェンおよび第2量の2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールを準備する工程と、
(b)上記第1量および第2量を十分量のトルエンに溶解させ、実質的にすべての上記第1量および第2量が上記トルエンに溶解した溶液を形成する工程と、
(c)上記溶液を少なくとも8時間にわたって還流させる工程であって、
(i)上記溶液が沸騰し、
(ii)上記トルエンが蒸発し、凝縮して上記溶液に戻り、
(iii)上記第1量および第2量が反応し、[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン]を形成する、工程と
を含むことを特徴とする方法。
(2) 上記溶液を加熱する工程が、約110℃の温度まで上記溶液を加熱する工程を含むことを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(3) 上記第1量の3,4−ジメトキシチオフェンと第2量の2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールとを準備する工程が、実質的に等モル量の3,4−ジメトキシチオフェンと2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールとを準備する工程を含むことを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(4) 上記溶液を還流する工程の前に、上記溶液に触媒を添加する工程をさらに含むことを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(5) 触媒を添加する工程が、上記溶液にp−トルエンスルホン酸を添加する工程を含むことを特徴とする上記(4)に記載の方法。
(6) 上記溶液にp−トルエンスルホン酸を添加する工程が、上記トルエンに溶解している第1量の3,4−ジメトキシチオフェンのモル当量の10パーセント未満となるp−トルエンスルホン酸の量を添加する工程を含むことを特徴とする上記(5)に記載の方法。
(7) 上記溶液に添加するp−トルエンスルホン酸の上記量が、上記トルエンに溶解している第1量の3,4−ジメトキシチオフェンのモル当量の実質的に1.5パーセントであることを特徴とする上記(5)に記載の方法。
(8) 上記凝縮トルエンからメタノール副生成物を除去するために、上記凝縮トルエンを上記溶液に戻す前に、上記凝縮トルエンに塩化カルシウムを加える工程をさらに含むことを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(9) 積層エレクトロクロミック素子内の陽極層としての使用に適したエレクトロクロミックポリマーの合成方法であって、
(a)第1の中間試薬を製造する工程であって、
(i)第1量の3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)、第2量のn−ブチルリチウム、および上記第1量と第2量とを実質的に溶解するのに十分な第3量の冷却したテトラヒドロフラン(THF)を準備すること、
(ii)上記第1量と第2量とを上記冷却したTHFに導入して第1の溶液を形成すること、
(iii)上記第1量と第2量とを上記冷却したTHF中にグリニャール試薬を生成するのに十分な時間にわたって保持すること、および
(iv)上記グリニャール試薬を、上記第1の中間試薬を含む臭素化合物を生成するのに十分な量の臭化マグネシウムジエチルエーテラートで処理すること
によって第1の中間試薬を製造する工程と、
(b)第2の中間試薬を製造する工程であって、
(i)第4量のジブロモカルバゾール、第5量の水素化リチウム、および上記第4量と第5量とを実質的に溶解するのに十分な第6量のジメチルホルムアミド(DMF)を準備すること、
(ii)上記第4量と第5量とをDMFに導入して第2の溶液を形成すること、
(iii)上記第2の溶液を室温未満に冷却すること、および
(iv)上記ジブロモカルバゾールをメチル化して、上記第2の中間試薬を含むメチル化ジブロモカルバゾール中間生成物を生成すること
によって第2の中間試薬を製造する工程と、
(c)触媒の存在下で上記第1の中間試薬と第2の中間試薬とを混合し、[3,6−ビス(2−(3,4−エチレンジオキシチオフェン))−N−メチルカルバゾール]を生成する工程とを含むことを特徴とする方法。
(10) 上記ジブロモカルバゾールをメチル化する工程が、上記第2の溶液にヨウ化メチルを加える工程を含むことを特徴とする上記(9)に記載の方法。
(11) 第3量の冷却したテトラヒドロフラン(THF)を準備する工程が、温度0℃未満の上記第3量を準備する工程を含むことを特徴とする上記(9)に記載の方法。
(12) 上記第1量と第2量とを上記冷却したTHF中にグリニャール試薬を生成するのに十分な時間にわたって保持する工程が、上記第1量と第2量とを上記冷却したTHF中に約1時間にわたって保持する工程を含むことを特徴とする上記(9)に記載の方法。
(13) 上記第2の溶液をメチル化する工程が、上記第2の溶液の温度を実質的に2時間かけてゆっくり上昇させる工程を含むことを特徴とする上記(9)に記載の方法。
(14) 上記第1の中間試薬と第2の中間試薬とを混合する前に、上記第2の中間試薬を精製する工程をさらに含むことを特徴とする上記(9)に記載の方法。
(15) 上記第2の中間試薬を精製する工程が、上記第2の中間試薬を水で洗浄する工程と、上記第2の中間試薬をエーテルで洗浄する工程と、上記第2の中間試薬を硫酸ナトリウムで乾燥する工程とを含むことを特徴とする上記(14)に記載の方法。
(16) 上記第1の中間試薬と第2の中間試薬とを混合する工程が、上記第2の中間試薬を、上記第1の中間試薬とTHFを含有する上記第1の溶液に加えて第3の溶液を形成する工程と、上記第3の溶液に触媒を加える工程と、上記第3の溶液を温度約50℃で約12時間にわたって保持する工程と、を含むことを特徴とする上記(9)に記載の方法。
(17) 上記触媒が、ニッケルを含むことを特徴とする上記(9)に記載の方法。
(18) 陰極ポリマー層を含むエレクトロクロミック素子で有用な対電極の作製方法であって、
(a)実質的に透明な非導電性基板と導電性材料とを準備する工程と、
(b)上記導電性材料のパターン化層を上記非導電性基板上に堆積させる工程であって、上記パターン化層は、約25パーセントを超えて上記透明非導電性基板の透過率を低下させない工程と
を含むことを特徴とする方法。
(19) 上記導電性材料が金を含み、金の上記パターン化層を堆積させる前に、上記実質的に透明な非導電性基板上にチタン−タングステン(TiW)を含む層を堆積させる工程をさらに含むことを特徴とする上記(18)に記載の方法。
(20) 上記導電性材料が高導電性炭素を含み、高導電性炭素の上記パターン化層を堆積させる前に、上記実質的に透明な非導電性基板上に実質的に透明な電極を含む層を堆積させる工程をさらに含むことを特徴とする上記(18)に記載の方法。
(21) 上記実質的に透明な電極がインジウムスズ酸化物の層を含むことを特徴とする上記(20)に記載の方法。
(22) 上記パターン化層が格子を含むことを特徴とする上記(18)に記載の方法。
(23) 上記パターン化層は、上記実質的に透明な非導電性基板の表面の25パーセント未満を覆うことを特徴とする上記(18)に記載の方法。
(24) マスキング技術とスパッタリング技術とを用いて上記パターン化層を堆積させることを特徴とする上記(18)に記載の方法。
(25) 陰極ポリマー層を含むエレクトロクロミック素子で有用な対電極であって、
(a)実質的に透明で実質的に非導電性の基板と、
(b)上記基板上にパターン化層状に堆積される導電性材料であって、上記パターン化層は、透過率の低下が約25パーセントを超えないように上記透明非導電性基板の透過率を低下させる導電性材料とを含むことを特徴とする対電極。
(26) 上記導電性材料が金を含み、上記基板と上記金との間に配置されるチタン−タングステン(TiW)を含む層をさらに含むことを特徴とする上記(25)に記載の対電極。
(27) 上記導電性材料が高導電性炭素を含み、上記基板と上記高導電性炭素との間に配置された透明電極を含む層をさらに含むことを特徴とする上記(25)に記載の対電極。
(28) 上記透明電極がインジウムスズ酸化物を含むことを特徴とする上記(27)に記載の対電極。
(29) 上記パターン化層が格子を含むことを特徴とする上記(25)に記載の対電極。
(30) 上記パターン化層が上記基板の表面の25パーセント未満を覆っていることを特徴とする上記(25)に記載の対電極。
(31) 積層エレクトロクロミック素子であって、
(a)透明電極を含む第1の層と、
(b)ポリ[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン]を含む陰極ポリマー層と、
(c)固体電解質を含む電解質層と、
(d)ポリ[3,6−ビス(2−(3,4エチレンジオキシチオフェン))−N−メチルカルバゾール]を含む陽極ポリマー層と、
(e)透明電極を含む別の電極層と
を含むことを特徴とする積層エレクトロクロミック素子。
(32) 各透明電極がインジウムスズ酸化物を塗布したガラス基板を含むことを特徴とする上記(31)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(33) 上記固体電解質がゲル電解質を含み、上記ゲル電解質は、
(a)ポリマーマトリックスと、
(b)溶媒担体と、
(c)イオン供給源と
を含むことを特徴とする上記(31)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(34) イオン供給源がリチウム塩であることを特徴とする上記(33)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(35) 上記イオン供給源が過塩素酸テトラブチルアンモニウムを含むことを特徴とする上記(33)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(36) 上記ポリマーマトリックスがポリ塩化ビニルを含むことを特徴とする上記(33)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(37) 上記ポリマーマトリックスがポリメチルメタクリレートを含むことを特徴とする上記(33)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(38) 上記溶媒がアセトニトリルを含むことを特徴とする上記(33)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(39) 上記溶媒がエチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートの少なくとも1種を含むことを特徴とする上記(33)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(40) 積層エレクトロクロミック素子であって
(a)透明電極層と、
(b)ポリ[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキセピン]を含むエレクトロクロミック陰極ポリマー層と、
(c)固体電解質を含む電解質層と、
(d)対電極層と
を含むことを特徴とする積層エレクトロクロミック素子。
(41) 上記透明電極層が、インジウムスズ酸化物を塗布したガラス基板を含むことを特徴とする上記(40)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(42) 上記固体電解質がゲル電解質を含み、上記ゲル電解質は、
(a)ポリマーマトリックスと、
(b)溶媒担体と、
(c)イオン供給源と
を含むことを特徴とする上記(40)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(43) 上記イオン供給源が、リチウム塩および過塩素酸テトラブチルアンモニウムの少なくとも1種を含むことを特徴とする上記(42)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(44) 上記ポリマーマトリックスが、ポリ塩化ビニルおよびポリメチルメタクリレートの少なくとも1種を含むことを特徴とする上記(42)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(45) 上記溶媒が、アセトニトリル、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートの少なくとも1種を含むことを特徴とする上記(42)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(46) 上記対電極が、
(a)透明な非導電性基板と、
(b)上記非導電性基板上にパターン化層状に堆積される導電性材料であって、上記パターン化層は、約25パーセントを超えて上記透明電極層の透過率を低下させない導電性材料と
を含むことを特徴とする上記(40)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(47) 上記導電性材料が金を含み、上記透明電極層と上記金との間に配置されるチタン−タングステン(TiW)層をさらに含むことを特徴とする上記(46)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(48) 上記導電性材料が高導電性炭素を含むことを特徴とする上記(46)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(49) 上記透明電極層がインジウムスズ酸化物を含むことを特徴とする上記(46)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(50) 上記パターン化層が格子を含むことを特徴とする上記(46)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(51) 上記パターン化層は、透明電極層の表面の約25パーセント未満を覆うことを特徴とする上記(46)に記載の積層エレクトロクロミック素子。
(52) 建築および構造用途に適したデュアルポリマーエレクトロクロミックウィンドウであって、
(a)構造ガラスパネルを含む第1の層と、
(b)透明電極を含む第2の層と、
(c)ポリ[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン]の陰極ポリマー層を含む第3の層と、
(d)透明固体電解質を含む第4の層と、
(e)ポリ[3,6−ビス(2−(3,4−エチレンジオキシチオフェン))−N−メチルカルバゾール]の陽極ポリマー層を含む第5の層と、
(f)透明電極を含む第6の層と、
(g)構造ガラスパネルを含む第7の層と、
(h)上記第2の層に接続した第1の電気リード線と、
(i)上記第6の層に接続した第2の電気リード線と、を含み、
上記第1の電気リード線および第2の電気リード線は、電圧源に接続された場合に上記第2の層から第6の層へ電圧を印加し、上記電圧は第3の層と第5の層に色の変化を引き起こすことを特徴とするデュアルポリマーエレクトロクロミックウィンドウ。
(53) 上記第6の層と第7の層との間に配置される、不活性ガスを充填したギャップをさらに含むことを特徴とする上記(52)に記載のデュアルポリマーエレクトロクロミックウィンドウ。
(54) 建築および構造用途に適したシングルポリマーエレクトロクロミックウィンドウであって、
(a)構造ガラスパネルを含む第1の層と、
(b)透明電極を含む第2の層と、
(c)ポリ[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン]の陰極ポリマーを含む第3の層と、
(d)透明固体電解質を含む第4の層と、
(e)対電極を含む第5の層と、
(f)構造ガラスパネルを含む第6の層と、
(h)上記第2の層に接続した第1の電気リード線と、
(i)上記第5の層に接続した第2の電気リード線と、を含み、
上記第1の電気リード線および第2の電気リード線は、電圧源に接続された場合に上記第2の層から第5の層へ電圧を印加し、上記電圧は第3の層に色の変化を引き起こすことを特徴とするシングルポリマーエレクトロクロミックウィンドウ。
(55) 上記陰極ポリマー層が、ポリ[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン]を含むことを特徴とする上記(54)に記載のシングルポリマーエレクトロクロミックウィンドウ。
(56) 上記第5の層と第6の層との間に配置される、不活性ガスを充填したギャップをさらに含むことを特徴とする上記(54)に記載のシングルポリマーエレクトロクロミックウィンドウ。
(57) 上記対電極が、
(a)透明な非導電性基板と、
(b)上記非導電性基板上にパターン化層状に堆積される導電性材料であって、上記パターン化層は、約25パーセントを超えて上記透明非導電性基板の透過率を低下させない導電性材料と
を含むことを特徴とする上記(54)に記載のシングルポリマーエレクトロクロミックウィンドウ。
(58) 上記導電性材料が金を含み、上記透明非導電性基板と上記金との間に配置されるチタン−タングステン(TiW)層を含む層をさらに含むことを特徴とする上記(57)に記載のシングルポリマーエレクトロクロミックウィンドウ。
(59) 上記導電性材料が高導電性炭素を含むことを特徴とする上記(57)に記載のシングルポリマーエレクトロクロミックウィンドウ。
(60) 上記パターン化層が格子を含むことを特徴とする上記(57)に記載のシングルポリマーエレクトロクロミックウィンドウ。
(61) 画素化アドレス方式での使用に適したデジタルウィンドウであって、
(a)格子状フォーマットに配列された複数個の個別アドレス指定可能な画素を含むデジタルウィンドウであって、各画素は電圧を選択的に印加することによって透明状態と不透明状態との間で切換可能であり、各画素が陰極エレクトロクロミックポリマー層を有する積層エレクトロクロミック構造を含むデジタルウィンドウと、
(b)各画素に個別に電圧を印加できるように各画素に接続された複数の導体と
を含むことを特徴とするデジタルウィンドウ。
(62) 各画素は大きさが約50ミクロン未満であることを特徴とする上記(61)に記載のデジタルウィンドウ。
(63) 各積層エレクトロクロミック構造が、
(a)透明電極と、
(b)陰極ポリマー層と、
(c)固体電解質を含む電解質層と、
(d)陽極ポリマー層と、
(e)別の透明電極と
を含むことを特徴とする上記(61)に記載のデジタルウィンドウ。
(64) 陰極ポリマー層が、ポリ[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン]を含むことを特徴とする上記(63)に記載のデジタルウィンドウ。
(65) 陽極ポリマー層が、ポリ[3,6−ビス(2−(3,4−エチレンジオキシチオフェン))−N−メチルカルバゾール]を含むことを特徴とする上記(63)に記載のデジタルウィンドウ。
(66) 各積層エレクトロクロミック構造が、
(a)透明電極を含む第1の層と、
(b)陰極ポリマー層を含む第2の層と、
(c)固体電解質を含む第3の層と、
(d)対電極を含む第4の層と
を含むことを特徴とする上記(61)に記載のデジタルウィンドウ。
(67) 陰極ポリマー層が、ポリ[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン]を含むことを特徴とする上記(66)に記載のデジタルウィンドウ。
(68) 上記対電極が、
(a)透明な非導電性基板と、
(b)上記非導電性基板上にパターン化層状に堆積される導電性材料であって、上記パターン化層は、約25パーセントを超えて上記透明非導電性基板の透過率を低下させない導電性材料と
を含むことを特徴とする上記(66)に記載のデジタルウィンドウ。
(69) 上記導電性材料が金を含み、上記透明非導電性基板と上記金との間に配置されるチタン−タングステン(TiW)層を含む層をさらに含むことを特徴とする上記(68)に記載のデジタルウィンドウ。
(70) 上記導電性材料が高導電性炭素を含むことを特徴とする上記(68)に記載のデジタルウィンドウ。
(71) 上記パターン化層が格子を含むことを特徴とする上記(68)に記載のデジタルウィンドウ。
(72) 表面プラズモン共鳴画像システムであって、
(a)フローセルと、
(b)パターン化分析層と、
(c)第1の光路に沿って上記分析層へ向けて光を送る光源と、
(d)上記第1の光路内の、上記光を偏光させる第1の光学素子と、
(e)上記第1の光路に配置されるデジタルウィンドウであって、上記デジタルウィンドウは格子状フォーマットに配列した複数個の個別アドレス指定可能な画素を含み、各画素は電圧を印加することによって透明状態と不透明状態との間で切換可能であり、各画素は陰極エレクトロクロミックポリマー層を有する積層エレクトロクロミック構造を含むことにより、上記デジタルウィンドウは、上記第1の光路に沿って伝わる上記光源からの光を、上記分析層に到達させるかどうかを選択的に制御することができるデジタルウィンドウと、
(f)各画素に個別に選択的に電圧を印加できるように各画素に接続された複数の導体と、
(g)上記導体と上記光源に電気的に接続された電源と、
(h)上記第1の光路に沿って伝わる光がプリズムの中を通過するように、上記光路に上記分析層に隣接して配置されるプリズムと、
(i)第2の光路に沿って配置される第2の光学素子であって、上記光学素子は、上記分析表面から伝わる光の焦点を合わせ、上記プリズムを通って焦点を合わせた上記光を通過させる光学素子と、
(j)上記第2の光路に配置され、上記第2の光学素子が焦点を合わせた光を受け取る検出器と
を含むことを特徴とする、表面プラズモン共鳴画像システム。
(73) 上記デジタルウィンドウの各画素は、大きさが約50ミクロン未満であることを特徴とする上記(72)に記載の表面プラズモン共鳴画像システム。
(74) 上記デジタルウィンドウの各積層エレクトロクロミック構造が、
(a)透明電極を含む第1の層と、
(b)ポリ[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン]の陰極ポリマーを含む第2の層と、
(c)固体電解質を含む第3の層と、
(d)ポリ[3,6−ビス(2−(3,4−エチレンジオキシチオフェン))−N−メチルカルバゾール]の陽極ポリマーを含む第4の層と、
(e)透明電極を含む第5の層と
を含むことを特徴とする上記(72)に記載の表面プラズモン共鳴画像システム。
(75) 上記デジタルウィンドウの各積層エレクトロクロミック構造が、
(a)透明電極を含む第1の層と、
(b)ポリ[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン]の陰極ポリマーを含む第2の層と、
(c)固体電解質を含む第3の層と、
(d)対電極を含む第4の層と
を含むことを特徴とする上記(72)に記載の表面プラズモン共鳴画像システム。
(76) 上記対電極が、
(a)透明な非導電性基板と、
(b)上記非導電性基板上にパターン状に堆積される導電性材料であって、上記パターン化層は、約25パーセントを超えて上記透明非導電性基板の透過率を低下させない導電性材料と
を含むことを特徴とする上記(75)に記載の表面プラズモン共鳴画像システム。
(77) 上記導電性材料が金および高導電性炭素の1種を含むことを特徴とする上記(75)に記載の表面プラズモン共鳴画像システム。
(78) 多色ディスプレイであって、
(a)格子状フォーマットに配列された複数個の個別アドレス指定可能な画素であって、各画素は電圧を印加することによって透明状態と不透明状態との間で切換可能であり、各画素は陰極エレクトロクロミックポリマー層を含む積層エレクトロクロミック構造を含み、上記画素の少なくとも一部は、2つの異なる色の間で切換可能な陽極ポリマー層をさらに含む画素と、
(b)各画素に選択的に個別に電圧を印加できるように各画素に接続された複数の導体と
を含むことを特徴とする多色ディスプレイ。
(79) 上記陽極ポリマー層が、ポリ[3,6−ビス(2−(3,4−エチレンジオキシチオフェン))−N−メチルカルバゾール]を含むことを特徴とする上記(78)に記載の多色ディスプレイ。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1A】重合して陰極ECポリマーとして有利に使用できる、モノマーProDOT−Me2の合成の概略図である。
【図1B】図1Aの合成に使用される装置の概略図である。
【図2】重合すると陽極ECポリマーとして有利に使用できる、モノマーBEDOT−NMeCzの合成を示す概略図である。
【図3】陰極(PProDOT−Me2)ECポリマー膜、陽極(PBEDOT−NMeCz)ECポリマー膜、および固体電極層を含むEC素子の側面概略図であって、図3Aは透明状態を示す図であり、図3Bは着色状態を示す図である。
【図4】陰極ECポリマー膜、固体電解質層および対電極を含むEC素子の側面概略図であって、図4Aは透明状態を示す図であり、図4Bは着色状態を示す図である。
【図5A】ガラスウェーハから作製される金ベースの対電極の平面図である。
【図5B】金ベースの対電極の平面図である。
【図5C】金ベースの対電極の側面図である。
【図6A】対電極上に導電性層を形成するのに使用できる代替パターンを示す図である。
【図6B】対電極上に導電性層を形成するのに使用できる代替パターンを示す図である。
【図7A】黒鉛ベースの対電極の平面図である。
【図7B】黒鉛ベースの対電極の側面図である。
【図8A】電圧が印加されていないかまたは正の電圧を印加して、スマートウィンドウが酸化すなわち透明状態にある、PProDOT−Me2陰極ポリマー膜層および対電極層を含むスマートウィンドウの実施モデルを示す概略図である。
【図8B】負の電圧を印加して、スマートウィンドウが還元すなわち不透明状態にある、図8Aの実施モデルを示す概略図である。
【図9A】印加電圧の変化に応答して、PProDOT−Me2陰極ポリマー膜と対電極とを含むEC素子の色変化の再現性を示すグラフである。
【図9B】印加電圧の変化に応答して、PProDOT−Me2陰極ポリマー膜とPBEDOT−NMeCzECポリマー膜とを含むEC素子の色変化の再現性を示すグラフである。
【図10A】PProDOT−Me2陰極ポリマー膜と金ベースの対電極とを含むEC素子の、UV−可視スペクトルにおける透過率を示すグラフである。
【図10B】PProDOT−Me2陰極ポリマー膜と黒鉛ベースの対電極とを含むEC素子の、UV−可視スペクトルにおける透過率を示すグラフである。
【図11A】吸光度対時間に基づいて、PProDOT−Me2陰極ポリマー膜と金ベースの対電極とを含むEC素子の光スイッチング能を示すグラフである。
【図11B】吸光度対時間に基づいて、PProDOT−Me2陰極ポリマー膜と黒鉛ベースの対電極とを含むEC素子の光スイッチング能を示すグラフである。
【図12】PProDOT−Me2陰極ポリマー膜と金ベースの対電極とを含むEC素子の時間応答が、異なる電位でも実質的に同一であることを示すグラフである。
【図13】PProDOT−Me2陰極ポリマー膜と金ベースの対電極とを含むEC素子の不透明性が、印加電位の関数であることを示すグラフである。
【図14A】PProDOT−Me2陰極ポリマー膜と金ベースの対電極とを含むEC素子について、電流対時間の関係の安定した再現性を示すグラフである。
【図14B】PProDOT−Me2陰極ポリマー膜と黒鉛ベースの対電極とを含むEC素子について、電流対時間の関係の安定した再現性を示すグラフである。
【図15】PProDOT−Me2陰極ポリマー膜と金ベースの対電極とを含むEC素子、およびPProDOT−Me2陰極ポリマー膜と黒鉛ベースの対電極を含むEC素子の温度依存性を示す図である。温度の変化は、こうした素子内の電流に著しい影響を与えないことを示している。
【図16】高い横解像度デジタルウィンドウを有するSPR画像法に基づくDNAチップ読み取り技術へのDWの使用を示す図である。
【図17】通常の建物用二重ガラス窓として一体化された、本発明のEC素子の概略図である。
【図18】対電極層と対を成す陰極ポリマーEC層の作用を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層エレクトロクロミック素子であって
(a)透明電極層と、
(b)ポリ[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキセピン]を含むエレクトロクロミック陰極ポリマー層と、
(c)固体電解質を含む電解質層と、
(d)対電極層と
を含むことを特徴とする積層エレクトロクロミック素子。
【請求項2】
建築および構造用途に適したシングルポリマーエレクトロクロミックウィンドウであって、
(a)構造ガラスパネルを含む第1の層と、
(b)透明電極を含む第2の層と、
(c)ポリ[3,3−ジメチル−3,4−ジヒドロ−2H−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキセピン]の陰極ポリマーを含む第3の層と、
(d)透明固体電解質を含む第4の層と、
(e)対電極を含む第5の層と、
(f)構造ガラスパネルを含む第6の層と、
(h)前記第2の層に接続した第1の電気リード線と、
(i)前記第5の層に接続した第2の電気リード線と、を含み、
前記第1の電気リード線および第2の電気リード線は、電圧源に接続された場合に前記第2の層から第5の層へ電圧を印加し、前記電圧は第3の層に色の変化を引き起こすことを特徴とするシングルポリマーエレクトロクロミックウィンドウ。
【請求項3】
画素化アドレス方式での使用に適したデジタルウィンドウであって、
(a)格子状フォーマットに配列された複数個の個別アドレス指定可能な画素を含むデジタルウィンドウであって、各画素は電圧を選択的に印加することによって透明状態と不透明状態との間で切換可能であり、各画素が陰極エレクトロクロミックポリマー層を有する積層エレクトロクロミック構造を含むデジタルウィンドウと、
(b)各画素に個別に電圧を印加できるように各画素に接続された複数の導体と
を含むことを特徴とするデジタルウィンドウ。
【請求項4】
多色ディスプレイであって、
(a)格子状フォーマットに配列された複数個の個別アドレス指定可能な画素であって、各画素は電圧を印加することによって透明状態と不透明状態との間で切換可能であり、各画素は陰極エレクトロクロミックポリマー層を含む積層エレクトロクロミック構造を含み、前記画素の少なくとも一部は、2つの異なる色の間で切換可能な陽極ポリマー層をさらに含む画素と、
(b)各画素に選択的に個別に電圧を印加できるように各画素に接続された複数の導体と
を含むことを特徴とする多色ディスプレイ。
【請求項5】
表面プラズモン共鳴画像システムであって、
(a)フローセルと、
(b)パターン化分析層と、
(c)第1の光路に沿って前記分析層へ向けて光を送る光源と、
(d)前記第1の光路内の、前記光を偏光させる第1の光学素子と、
(e)前記第1の光路に配置されるデジタルウィンドウであって、前記デジタルウィンドウは格子状フォーマットに配列した複数個の個別アドレス指定可能な画素を含み、各画素は電圧を印加することによって透明状態と不透明状態との間で切換可能であり、各画素は陰極エレクトロクロミックポリマー層を有する積層エレクトロクロミック構造を含むことにより、前記デジタルウィンドウは、前記第1の光路に沿って伝わる前記光源からの光を、前記分析層に到達させるかどうかを選択的に制御することができるデジタルウィンドウと、
(f)各画素に個別に選択的に電圧を印加できるように各画素に接続された複数の導体と、
(g)前記導体と前記光源に電気的に接続された電源と、
(h)前記第1の光路に沿って伝わる光がプリズムの中を通過するように、前記光路に前記分析層に隣接して配置されるプリズムと、
(i)第2の光路に沿って配置される第2の光学素子であって、前記光学素子は、前記分析表面から伝わる光の焦点を合わせ、前記プリズムを通って焦点を合わせた前記光を通過させる光学素子と、
(j)前記第2の光路に配置され、前記第2の光学素子が焦点を合わせた光を受け取る検出器と
を含むことを特徴とする、表面プラズモン共鳴画像システム。
【請求項6】
積層エレクトロクロミック素子内の陽極層としての使用に適したエレクトロクロミックポリマーの合成方法であって、
(a)第1の中間試薬を製造する工程であって、
(i)第1量の3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)、第2量のn−ブチルリチウム、および前記第1量と第2量とを実質的に溶解するのに十分な第3量の冷却したテトラヒドロフラン(THF)を準備すること、
(ii)前記第1量と第2量とを前記冷却したTHFに導入して第1の溶液を形成すること、
(iii)前記第1量と第2量とを前記冷却したTHF中にグリニャール試薬を生成するのに十分な時間にわたって保持すること、および
(iv)前記グリニャール試薬を、前記第1の中間試薬を含む臭素化合物を生成するのに十分な量の臭化マグネシウムジエチルエーテラートで処理すること
によって第1の中間試薬を製造する工程と、
(b)第2の中間試薬を製造する工程であって、
(i)第4量のジブロモカルバゾール、第5量の水素化リチウム、および前記第4量と第5量とを実質的に溶解するのに十分な第6量のジメチルホルムアミド(DMF)を準備すること、
(ii)前記第4量と第5量とをDMFに導入して第2の溶液を形成すること、
(iii)前記第2の溶液を室温未満に冷却すること、および
(iv)前記ジブロモカルバゾールをメチル化して、前記第2の中間試薬を含むメチル化ジブロモカルバゾール中間生成物を生成すること
によって第2の中間試薬を製造する工程と、
(c)触媒の存在下で前記第1の中間試薬と第2の中間試薬とを混合し、[3,6−ビス(2−(3,4−エチレンジオキシチオフェン))−N−メチルカルバゾール]を生成する工程と
を含むことを特徴とする方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−197679(P2008−197679A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120497(P2008−120497)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【分割の表示】特願2003−507626(P2003−507626)の分割
【原出願日】平成14年6月25日(2002.6.25)
【出願人】(502457803)ユニヴァーシティ オブ ワシントン (93)
【Fターム(参考)】