説明

積層体およびその製造方法

【課題】メチルペンテン重合物と紙状物を積層した積層体において、薄型化・軽量化、ガス透過性および製造加工コストを改善すること、さらに、紙状物層の片面にメチルペンテン重合物層を直接積層した場合に、両層間が剥がれにくく、実用に十分耐えうる層間強度を有する積層体を供することを目的とする。
【解決手段】積層体が、透気度80秒以下の紙状物2の少なくとも片面に、メチルペンテン重合物1を直接積層して成ることを特徴とする。積層体の製造方法が、透気度80秒以下の紙状物2の少なくとも片面に、メチルペンテン重合物1を押し出しラミネート法により積層することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離性、防汚性、耐薬品性、透明性、耐熱性、ガス透過性等に優れるメチルペンテン重合物と紙状物との積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルペンテン重合物は、高い離型性を有するため、例えば粘着材の粘着面の保護部材である剥離シートとして利用されている。実際には、高価なメチルペンテン重合物の使用量を少なくしたいため、例えば紙やプラスチック等からなるシート状の基材層の片面にメチルペンテン重合物層を積層した積層体とすることが、低コスト及び実用強度を確保するのに有効である。しかし、このような積層体は、前記の通りメチルペンテン重合物が高い離型性を有するがゆえに、シート状の基材層とメチルペンテン重合物層との間が剥離しないように十分な層間強度を得る工夫が必要である。
【0003】
このため特許文献1では、接着性を付与した樹脂組成物層を介して、シート状の基材層とメチルペンテン重合物層とを積層することにより、層間強度を得る方法を開示している。しかし、このような接着性を付与した樹脂組成物層が必要となることは、積層体の厚さを薄くしたい場合や、軽量化したい場合などの障害となること、メチルペンテン重合物の優れたガス透過性を阻害すること、および積層体の製造において該樹脂組成物層の製造加工工程を付加する必要があるので経済的に不利であることが問題である。
【0004】
そこで、特許文献2では、紙、他樹脂フィルム、シート等の基材上にメチルペンテン系重合体組成物(樹脂組成物)をラミネーション、共押し出しする等により積層体とすることを開示している。特に実施例ではクラフト紙基材面に上記樹脂組成物を押出し積層した試料を開示している。しかしながら、この積層体における、紙状物層と樹脂組成物層との間の層間強度については言及されていない。前記の通りメチルペンテン重合物が高い離型性を有するがゆえに、紙、他樹脂フィルム、シート等の基材層とメチルペンテン重合物層との間が剥離やすいという問題があり、実用上において該層間強度の不足が問題となっていたため、紙状物層にメチルペンテン重合物層を直接積層した積層体は市販化には至っていなかった。加えて、前記基材層の選択について、メチルペンテン重合物の優れたガス透過性を阻害しないようにすることについて考慮されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−60921号公報
【特許文献2】特開2007−297573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
メチルペンテン重合物と紙状物を積層した積層体において、従来の接着性を付与した樹脂組成物を使用した場合、該積層体の薄型化・軽量化の障害となること、メチルペンテン重合物の優れたガス透過性を阻害すること、および積層体の製造における材料費および製造加工工程の付加によるコストがかかることを解消することを課題とする。
さらに、メチルペンテン重合物と紙状物を積層した積層体において、紙状物層の片面にメチルペンテン重合物層を直接積層した場合、紙状物層とメチルペンテン重合物層との間の層間強度が不十分で層間が剥がれやすいという問題を解決し、実用に十分耐えうる該層間強度を有する積層体を供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の技術的構成により、前記課題を解決できたものである。
(1) 透気度80秒以下の紙状物の少なくとも片面に、メチルペンテン重合物を直接積層して成ることを特徴とする積層体。
(2) 透気度80秒以下の紙状物の少なくとも片面に、メチルペンテン重合物を押し出しラミネート法により積層することを特徴とする積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、メチルペンテン重合物と紙状物を積層した積層体において、前記接着性を付与した樹脂組成物を使用しないために、該積層体の薄型化・軽量化が容易で、メチルペンテン重合物の優れたガス透過性を有効に活かすことができるとともに積層体の製造コストを削減できるという効果を得ることができる。
さらに、メチルペンテン重合物と紙状物を積層した積層体において、紙状物層の片面にメチルペンテン重合物層を直接積層した場合の紙状物層とメチルペンテン重合物層との層間が剥がれにくく、実用に十分耐えうる層間強度を有する積層体を供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による積層体の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による積層体の形態は、その断面図を図1のように示すことができ、メチルペンテン重合物1と、日本工業規格番号JIS P8117「紙及び板紙−透気度試験法−」で示される透気度80秒以下の紙状物2とを直接積層している。これにより、十分な層間強度を有する積層体を得ることができる。以下、詳細に説明する。
【0011】
本発明で用いられるメチルペンテン重合物は、3−メチルー1ペンテン、4−メチルー1ペンテン等のメチルペンテン類、あるいはメチルペンテン類を主成分とする単量体を重合して得られた重合物であり、メチルペンテン類単独の重合物もしくはメチルペンテン類と共重合可能な他の重合性単量体との共重合物が挙げられる。
【0012】
メチルペンテン類と共重合可能な重合性単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−テトラデセン、1−オクタデセン等の炭素数2〜20のアルファオレフィン類が挙げられる。これら重合成単量体は、1種あるいは2種以上を用いることが出来る。メチルペンテン重合物中、メチルペンテンの含有量は、特に制限は無いが、80モル%以上、好ましくは、85モル%以上である。
【0013】
本発明で用いられる紙状物は、原材料として、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ、サルファイトパルプ等の化学パルプ、ストーングラインドパルプ、サーモメカニカルパルプ、リファイナーグラインドパルプ等の機械パルプ、及び、新聞、コート紙、上質紙等から得られる再生パルプ、ケナフ、ミツマタ、ガンピ、コウゾ、麻、竹、マニラ麻等の非木材系パルプ、アセテート等の半合成繊維、レーヨン等の再生繊維等を単独又は、二種以上組み合わせることができる。また、前記セルロース系の繊維に加え、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の合成繊維類、ガラス、ロックウール、セラミック等の無機繊維等を単独であるいは2種類以上組み合わせて原材料とすることができる。
【0014】
紙状物の成形は、乾式不織布等を製造する乾式法、紙を抄紙する湿式法等を区別無く用いることが出来る。特に、紙状物の原料分散性、厚さ、透気度などの性状を均一に製造加工しやすい点において、湿式法が好ましい。
【0015】
前記紙状物は、メチルペンテン重合物との層間強度を発現するために、日本工業規格番号JIS P8117「紙及び板紙−透気度試験法−」で示される透気度が80秒以下、好ましくは、50秒以下、更に好ましくは、40秒以下であることが必要である。透気度が80秒を越えた場合では、十分な層間強度が得られず、使用に際し、メチルペンテン重合物と紙状物の界面で剥離する不具合が生じる。
【0016】
本発明の積層方法としては、押し出しラミネート法が好ましい。例えば、ダイ付き押し出し機と冷却ロール、ニップロールを備え、紙状物に重合物を積層するのに一般的なダイ付き押し出し機を用いて、紙状物をニップロールと冷却ロールの間に繰り出し、冷却レールに沿わせて通紙する。そして、溶融混練されたメチルペンテン重合物をTダイ内部へ押圧流下し、マニホールでダイの全巾に広げた後、溶融膜をTダイ外部へ押し出し、成膜された溶融膜を紙状物へ圧着し冷却することで積層体を得ることが出来る。
【0017】
また、別の方法として、メチルペンテン重合物のフィルムを熱カレンダー等の熱プレス装置を用いて、紙状物と熱圧着させて積層することも出来る。
【0018】
以下に実施例で本発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0019】
(紙状物の作製)
広葉樹クラフトパルプ10質量部と針葉樹クラフトパルプ90質量部を混合した3重量%のパルプサスペンジョンをリファイナーで叩解し、ろ水度(日本工業規格番号JIS P8121ショッパーろ水度試験方法)が表1(実施例1〜5および比較例1、2)にそれぞれ示した値である各種のパルプサスペンジョンを調整した。これらのパルプサスペンジョンをそれぞれ長網多筒式ドライヤ抄紙機で抄紙し、更に、同長網抄紙機のマシンカレンダー処理を行って、それぞれ坪量50g/mの紙状物を抄紙した。これらそれぞれの紙状物における前記JIS P8117による透気度は、それぞれ表1(実施例1〜5および比較例1、2)の通りであった。
【0020】
(積層体の作製)
押し出しラミネーター(口径40mm、ダイ:450mm巾、冷却ロール径350mm、ニップロール径200mm)を使用して、米国試験材料規格番号ASTM-D1238に基づくメルトフローレート(MFR)が100g/10minのメチルペンテン重合物(三井化学社社製、商品名:TPX DX231)を45m/minで厚さ10μmの押し出し量で成膜し、表1の紙状物に積層し、本発明の積層体および比較用の積層体を得た。
【0021】
(層間強度の評価方法と結果)
積層体における紙状物層とメチルペンテン重合物層との間の層間強度(以下、単に層間強度と記す。)は、水平面上に固定した紙状物層からメチルペンテン重合物層を鉛直方向に角度90°を保ちながら引き剥がした時の剥離の状況を目視で観察、評価し、表1記載の結果を得た。表中の層間強度欄の「1」、「2」、「3」の数字は、紙状物層で凝集破壊が起こり、紙状物層の残渣がメチルペンテン重合物層の剥離した表面に残留する程度を示し、その程度は「3」が多く、「1」が少なく、「2」はその中間の程度である事を示す。残渣が多いほど層間強度が強い事を示している。前記残渣が確認されなかった場合は「×」を記している。「×」の場合はメチルペンテン重合物層と紙状物層との界面で剥離し、層間強度が弱く十分ではない事を示している。
【0022】
表1から、紙状物の透気度が80秒以下の場合、紙状物層で凝集破壊を生じ、実用上十分な層間強度を有した。また、メチルペンテン重合物層の剥離した表面に紙状物層の残渣が残留し、その残留の程度は、透気度 15秒(実施例1)、30秒(実施例2)、40秒(実施例3)のどれ紙状物からなる積層体がほぼ同程度に多く、次いで50秒(実施例4)>80秒(実施例5)の紙状物を使用した積層体の順に多かった。一方、透気度 100秒(比較例1)、200秒(比較例2)の紙状物の場合は、メチルペンテン重合物層と紙状物層との界面で剥離し、層間強度が十分ではなかった。
【0023】
【表1】

【0024】
以上のように、本発明によれば、透気度80秒以下の紙状物の少なくとも片面にメチルペンテン重合物を直接積層したことにより、該積層体の薄型化・軽量化が容易で、メチルペンテン重合物の優れたガス透過性を有効に活かすことができるとともに積層体の製造コストを削減できるという効果を得ることができ、表1に示した結果のように、透気度80秒以下の紙状物と直接積層することにより、十分な層間強度を有する積層体を得ることができた。
【符号の説明】
【0025】
1 メチルペンテン重合物
2 紙状物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透気度80秒以下の紙状物の少なくとも片面に、メチルペンテン重合物を直接積層して成ることを特徴とする積層体。
【請求項2】
透気度80秒以下の紙状物の少なくとも片面に、メチルペンテン重合物を押し出しラミネート法により積層することを特徴とする積層体の製造方法。

【図1】
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