説明

積層体の製造方法

【課題】高い光学異方性を有する積層体を簡易な操作で安定して製造できる製造方法を提供しようとする。
【解決手段】水溶性液晶化合物と水とを含む水溶液を基材の面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を70以上、100%RH未満の雰囲気に置くことにより乾燥して該塗膜中の溶媒の10重量%以上を除去し、この乾燥工程において、水溶性液晶化合物に規制力を作用させて水溶性液晶化合物を配向させ、基材の面上に光学異方膜を形成する積層体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜や位相差膜のような光学異方性、を有する積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LCD(液晶表示ディスプレイ)では、表示における旋光性や複屈折性を制御するために直線偏光板や円偏光板が用いられている。OLED(有機ELディスプレイ)においても、外光の反射防止のために円偏光板が使用されている。
【0003】
従来、これらの偏光板(偏光素子)には、ヨウ素や二色性を有する有機色素を、ポリビニルアルコール等の高分子材料に溶解または吸着させ、その膜を一方向にフィルム状に延伸して、色素等を配向させることにより得られる偏光素子が広く使用されてきた。しかしながら、このようにして製造される従来の偏光素子は、用いる色素や高分子材料によっては耐熱性や耐光性が十分でないことが問題となっていた。また、液晶装置製造時における膜の貼り合わせの歩留りが悪いことも問題となっていた。さらに、表示パネルの大型化にともない、広幅のフィルムの延伸が必要となり、極端に大掛りな製膜装置が必要となるという製造上の問題も現実のものとなっている。
【0004】
そのため、ガラス板や透明フィルムなどの基材上に、二色性色素を含む溶液を塗布して二色性色素を含む膜を形成し、下地の規制力(例えば、特許文献1、2参照。)や、塗布時のずり応力(例えば、特許文献2参照)などを利用して二色性色素を配向させることにより偏光膜を製造する方法が検討されている。
【0005】
しかし、これら公知の塗布方式による偏光膜は性能や製造の安定性や操作の簡易性のうえで必ずしも充分とはいえないのが現状である。
【0006】
例えば、塗布時のずり応力により配向構造を実現させる方法は充分な配向を安定して実現させる塗布機構の確立がむつかしく、下地の規制力により配向構造を実現させる従来の方式においては、塗布後の溶液の乾燥時に配向が乱れるおそれがあり、製造の安定性に問題がある。
【特許文献1】特開2007−61555号公報
【特許文献2】米国特許第2400877号公報
【特許文献3】特表平8−511109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高い光学異方性を有する積層体を簡易な操作で安定して製造できる製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨とするところは、
水溶性液晶化合物と水とを含む水溶液と、基材とを準備する工程、
前記水溶液を前記基材の面に塗布して塗膜を形成する塗布工程、
前記塗膜を乾燥する乾燥工程
を含む積層体の製造方法であって、
前記乾燥工程の少なくとも一部が乾燥前の前記塗膜を70%RH以上、100%RH未満の雰囲気に置くことにより乾燥して該塗膜中の溶媒の10重量%以上を除去する高湿下乾燥工程からなり、
前記高湿下乾燥工程において、前記水溶性液晶化合物に該水溶性液晶化合物を配向させる規制力を作用させて該水溶性液晶化合物を配向させ、前記基材の面上に光学異方層を形成する積層体の製造方法であることにある。
【0009】
前記高湿下乾燥工程においては、前記高湿下乾燥工程の全乾燥時間が300秒以上になるように前記雰囲気の湿度が調整され得る。
【0010】
前記水溶液は、前記塗布工程では液晶性を示さず前記高湿下乾燥工程において液晶性を示すものとなる溶液であり得る。
【0011】
前記水溶液中の前記水溶性液晶化合物の濃度は0.1〜50重量%であり得る。
【0012】
前記光学異方層は、波長550nmにおいて吸収二色性を示し得る。
【0013】
前記基材の表面は、前記水溶性液晶化合物を配向させる異方性を有し得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、高い光学異方性を有する積層体を簡易な操作で安定して製造できる製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の積層体の製造方法は、
水溶性液晶化合物と水とを含む水溶液と、基材とを準備する工程、
前記水溶液を前記基材の面に塗布して塗膜を形成する塗布工程、
前記塗膜を乾燥する乾燥工程
を含む積層体の製造方法であって、
前記乾燥工程の少なくとも一部が乾燥前の前記塗膜を70%RH以上、100%RH未満の雰囲気に置くことにより乾燥して該塗膜中の溶媒の10重量%以上を除去する高湿下乾燥工程からなり、
前記高湿下乾燥工程において該水溶性液晶化合物を配向させ、前記基材の面上に光学異方層を形成する積層体の製造方法である。
【0016】
水溶性液晶化合物の配向は、水溶性液晶化合物に、この水溶性液晶化合物を配向させる規制力を作用させて行う。この規制力は、例えば、配向膜、磁場、せん断力等によりもたらされるものである。
【0017】
本発明における光学異方層とは、層内の直交する2方向で吸収、屈折などの光学的性質に異方性を有する膜であり、なかでも直線偏光膜、円偏光膜、位相差膜としての機能を有するものなどが挙げられる。本発明の積層体は、偏光膜に用いられることが最も好ましい。
【0018】
[水溶液]
本発明に用いられる水溶液においては、水溶性液晶化合物が水に溶解されている。この水溶性液晶化合物はまたリオトロピック液晶性化合物である。
【0019】
リオトロピック液晶性とは、温度や、色素の変化により、等方相、液晶相の相転移を起す性質をいう。また、本発明で言うリオトロピック液晶性化合物とは、特定の溶媒に、特定の濃度範囲で溶解した場合に液晶性を示す化合物である(丸善株式会社、液晶便覧等を参照)。リオトロピック液晶性化合物は、液晶状態で、配向膜、磁場、せん断等の手段で、分子が特定の方向に配向することが知られている。
【0020】
本発明に用いられる水溶性液晶化合物としては、通常水溶性の二色性色素が用いられる。また、この色素は配向制御のための液晶相を有する色素である。本発明における液晶相を有する色素は溶剤中でリオトロピック液晶性を示す色素であり、室温状態でネマチック液晶相を示すものが、配向性に優れ好ましい。
【0021】
この液晶相はネマチック液晶相のほかにスメクチック液晶相やコレステリック液晶相などが挙げられる。液晶相は偏光顕微鏡で観察される光学模様により確認、識別される。
【0022】
また、本発明に用いられるこの二色性色素は400〜780nmの波長域においていずれかの波長の光を吸収する有機化合物である。また、この二色性色素の配向により得られる光学異方層は、波長550nmにおいて吸収二色性を示すことが好ましい。
【0023】
本発明に用いられる水溶性液晶化合物の具体例としては、アゾ系色素、アントラキノン系色素、ペリレン系色素、インダンスロン系色素、イミダゾール系色素、インジゴイド系色素、オキサジン系色素、フタロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、ピラゾロン系色素、スチルベン系色素、ジフェニルメタン系色素、ナフトキノン系色素、メトシアニン系色素、キノフタロン系色素、キサンテン系色素、アリザリン系色素、アクリジン系色素、キノンイミン系色素、チアゾール系色素、メチン系色素、ニトロ系色素、ニトロソ系色素、などが挙げられる。これらのなかで好ましくは、アゾ系色素、アントラキノン系色素、ペリレン系色素、インダンスロン系色素およびイミダゾール系色素である。これらの二色性色素は単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。黒色の偏光膜を得るためには、異なる吸収スペクトルを有する複数種が混用されることが好ましい。
【0024】
また、これらの二色性色素は、好ましくは、スルホン酸基(−SOH)や、カルボキシル基(−COOH)や、それらの塩、窒素系置換基(−NH、−NHR、−NR、−NR(R、R、Rは1価の有機基))を含む有機化合物、特に好ましくはスルホン酸基を含む有機化合物またはその塩である。二色性色素へのスルホン酸基の導入は水への溶解性を向上させるうえで有効である。二色性色素へ導入されるスルホン酸基の数が多いほど水への溶解度は向上する。このスルホン酸基の数は水への溶解度と光学異方層の耐水性との両立を考慮して適宜選択される。
【0025】
さらに、本発明において用いられる二色性色素の具体例としては一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0026】
一般式(1)・・・(クロモゲン)(SOM)
(nは1以上の整数、Mはカチオンを示す。)
【0027】
一般式(1)のMとしては、水素イオン、Li、Na、K、Csのような第一族金属のイオン、アンモニウムイオンなどが好ましい。また、クロモゲン部位としては、アゾ誘導体単位、アントラキノン誘導体単位、ペリレン誘導体単位、イミダゾール誘導体単位、および/またはインダンスロン誘導体を含むものが好ましい。
【0028】
上記一般式(1)で表される二色性色素(A)は、溶液中に於いてアゾ化合物や多環式化合物構造などのクロモゲンが疎水性部位となり、且つスルホン酸及びその塩が親水性部位となり、両者のバランスによって疎水性部位同士及び親水性部位同士が集まり、全体としてリオトロピック液晶を発現するものである。
【0029】
一般式(1)で表される有機色素の具体例としては、下記一般式(2)〜(8)で表される化合物などが例示される。
【0030】
【化1】

【0031】
式(2)中、Rは水素又は塩素であり、Rは水素、アルキル基、ArNH又はArCONHである。このアルキル基としては炭素数が1〜4のアルキル基が好ましく、中でもメチル基やエチル基がより好ましい。アリール基(Ar)としては置換又は無置換のフェニル基が好ましく、中でも無置換又は4位を塩素で置換したフェニル基がより好ましい。また、Mは上記一般式(1)と同様である。
【0032】
【化2】

【0033】
式(3)〜(5)において、Aは、式(a)又は(b)で表されるものであり、nは2又は3である。AのRは水素、アルキル基、ハロゲン又はアルコキシ基、Arは置換又は無置換のアリール基を示す。アルキル基としては炭素数が1〜4のアルキル基が好ましく、中でもメチル基やエチル基がより好ましい。ハロゲンは臭素又は塩素が好ましい。また、アルコキシ基は炭素数が1又は2個のアルコキシ基が好ましく、中でもメトキシ基がより好ましい。アリール基としては置換又は無置換のフェニル基が好ましく、中でも無置換あるいは4位をメトキシ基、エトキシ基、塩素若しくはブチル基で、又は3位をメチル基で置換したフェニル基が好ましい。Mは、上記一般式(1)と同様である。
【0034】
【化3】

【0035】
式(6)において、nは3〜5であり、Mは上記一般式(1)と同様である。
【0036】
【化4】

【0037】
式(7)において、Mは上記一般式(1)と同様である。
【0038】
【化5】

【0039】
式(8)において、Mは上記一般式(1)と同様である。
【0040】
上記化合物における有機化合物へのスルホン酸基の導入(スルホン化)は、例えば、有機化合物に、硫酸、クロロスルホン酸、または発煙硫酸を作用させて、核の水素をスルホン基に置換する方法が挙げられる。上記化合物における塩は、酸の解離でできる水素原子が、例えば、リチウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオンなどの1価のイオンで置換されたものである。
【0041】
本発明に用いられる水溶性液晶化合物の他の具体例としては、特開2006−047966号公報、特開2005‐255846号公報、特開2005−154746号公報、特開2002−090526号公報、特表平8−511109号公報、特表平2004−528603号公報に記載の色素が挙げられる。
【0042】
本発明に用いられる水溶性液晶化合物としては、市販の二色性色素を用いることができる。この例としては、C.I. DirectB67、DSCG(INTAL)、RU31.156、Metyl orange、AH6556、Sirius Supra Blown RLL、Benzopurpurin、Copper−tetoracarboxyphthalocyanine、Acid Red 266、Cyanine Dye、Violet 20、Perylenebiscarboximides、Benzopurpurin 4B、Methyleneblue(Basic Blue 9)、Brilliant Yellow、Acid red 18、Acid red 27などが挙げられる。
【0043】
本発明に用いられる水溶性液晶化合物の水溶液(以下単に水溶液とも称する)の溶媒としての水の電気伝導度は好ましくは20μS/cm以下であり、より好ましくは0.0001〜5μS/cmである。水の電気伝導度をこれらの範囲にすることによって高い二色比を有する偏光膜が得られ得る。
【0044】
水溶液には溶媒として水のほかにアルコール類、エーテル類、セロソルブ類、ジメチルスルホオキサイド、ジメチルホルムアミドなどの水溶性の溶剤が添加されていてもよい。また、グリセリン、エチレングリコールなどの水溶性の化合物が添加されていてもよい。これらの添加物は水溶性液晶化合物の易溶性や水溶液の乾燥速度を調整するために用いることができる。これらの溶剤の添加量は水溶液中の水100重量部に対して100重量部以下であることが好ましい。
【0045】
水溶液の濃度(溶媒に対する水溶性液晶化合物の重量%)は、高湿下乾燥工程において液晶性を示す濃度範囲が得られるように適宜調整し得るが、好ましくは0.1〜50重量%であり、さらに好ましくは1〜40重量%であり、とくに好ましくは1〜30重量%である。水溶液の濃度をこのような範囲にすることにより高湿下乾燥工程において塗膜が安定した液晶状態を示すことができる。
【0046】
水溶液のPHは4〜10であることが好ましい。さらに好ましくは6〜8である。
【0047】
また、水溶液は必要に応じてバインダー樹脂、モノマー、硬化剤、可塑剤、界面活性剤、熱安定剤、滑剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、相溶化剤、増粘剤、レベリング剤、カップリング剤等から選択される添加物を含んでもよい。添加物の添加量は水溶液全体量の10重量%以下であることが望ましい。
【0048】
水溶液に界面活性剤が添加されると、二色性色素の基材表面へのぬれ性、塗工性を向上させ得る。この界面活性剤としては、非イオン界面活性剤が好ましい。界面活性剤の添加量は水溶液全体量の5重量%以下であることが好ましい。
【0049】
[基材]
本発明に用いられる基材としてはガラス板や樹脂フィルムが用いられ得る。基材の表面は、水溶性液晶化合物を配向させる異方性を有することが好ましい。このため、この表面にはラビングによる配向処理がなされた配向膜が形成されていることが好ましい。このような基材としては、例えば、ガラス板にポリイミド膜がコーティングされた基材が挙げられる。このポリイミド膜は公知の方法、例えば、一定方向へのラビングなどにより配向性が付与されて配向膜となっている。水溶性液晶化合物(色素)の配向方向を制御するための基材の配向処理については「液晶便覧」(丸善株式会社、平成12年10月30日発行)226頁〜239頁などに記載の公知の方法によることができる。
【0050】
基材として樹脂フィルムが用いられる場合は基材が可撓性を有し得るので、可撓性を要求される用途に好適である。樹脂フィルムの表面がラビングなどにより配向処理されていてもよい。あるいは樹脂フィルムの表面に他の素材からなる配向膜が形成されていてもよい。
【0051】
基材に用いる樹脂フィルムの素材としては、フィルム形成性を有する透明樹脂であればとくに限定されないが、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、トリアセチルセルロース、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が例示される。
【0052】
基材の厚さは用途により定められ得るほかは特に限定されないが、一般的には1〜1000μmの範囲である。
【0053】
[塗布工程]
塗布工程において、基材の面に水溶液が塗布されて塗膜、すなわち、水溶液が基材の面に薄く展開した層が形成される。塗布の方法は塗膜を均一に塗布するものであればとくに限定されず、ロッドコート、ロールコーター塗布、フレキソ印刷、スクリーン印刷、カーテンコーター塗布、スプレイコーター塗布、スピンコート塗布等の公知の方法が適宜用いられ得る。
【0054】
塗膜の厚さは0.01〜10μmであることが好ましい。
【0055】
[乾燥工程]
乾燥工程では塗膜を乾燥して該塗膜中の溶媒の約95重量%以上を除去する。この乾燥工程は、乾燥前の前記塗膜を70%RH以上、100%RH未満の雰囲気に置くことにより乾燥して該塗膜中の溶媒の10重量%以上を除去する高湿下乾燥工程を含む。
この高湿下乾燥工程においては、乾燥前の塗膜を70%RH以上、100%RH未満の雰囲気に置いて徐々に溶媒を揮発により除去する。実際には、塗膜が塗布された基材をこの雰囲気に置くことによりなされる。塗膜表面を70%RH以上、100%RH未満の雰囲気に露出することによりなされてもよい。この雰囲気は、塗膜の表面から、その表面の上方少なくとも10mmの位置にわたる、空間部分の雰囲気であり、湿度は塗膜表面から10mmの位置で測定された湿度である。すなわち、この雰囲気は塗膜と空気との界面近傍における揮発により生ずる湿度勾配の部分を意味するものではない。
【0056】
この高湿の雰囲気は、例えば、乾燥対象物である塗膜を基材ごと内部の湿度調節が可能な処理室あるいはチャンバー内に静置することにより作ることができる。あるいは、塗膜の上部の空間に高湿の空気を送り込むことにより実現できる。
【0057】
塗膜の乾燥は外部から積極的に塗膜を加熱せずに自然乾燥状態で行うことができる。あるいは積極的に塗膜を加熱あるいは冷却しつつ乾燥してもよい。
【0058】
本発明においては、高湿下乾燥工程中に塗膜中の水溶性液晶化合物に規制力を作用させて配向させるが、この規制力は、例えば、基材の面に形成されている配向膜によりもたらされ、配向膜の配向方向と平行あるいは直交方向に水溶性液晶化合物が配向される。あるいは、例えば、特開平5−297218号公報に記載されているような方法に準じた方法で塗膜に一定方向の電界による規制力を作用させて水溶性液晶化合物を配向させてもよい。
【0059】
塗膜を高湿下乾燥工程において70%RH以上、100%RH未満の雰囲気に置くことにより、塗膜からの溶媒の揮発が抑制され塗膜の急激な粘度上昇が防止されるので、高湿下乾燥の過程で塗膜を液晶状態に長時間保つことができて、この規制力による水溶性液晶化合物の配向を所定の時間をかけて充分に行わせることができ、水溶性液晶化合物の均一かつ度合いの高い配向が得られる。また、この雰囲気中の空気は流動状態であってもよいが、ほぼ静止状態であることが乾燥速度を遅延させて安定した配向を行わせるうえで好ましい。高湿下乾燥工程における湿度が100%RHであると塗膜中の溶媒の揮発がほとんど生ぜず、全体の乾燥時間が長くなり過ぎ工業的実施に支障をきたす。また、結露にともなうトラブルが生じやすい。
【0060】
他方、高湿下乾燥工程により除去される塗膜中の溶媒の全量が、塗布直後の塗膜中の溶媒の10重量%に満たない状態で、例えば、塗膜を高湿下乾燥工程から低湿環境に移した場合は、塗膜を液晶状態に長時間保つことができないため、塗膜中での水溶性液晶化合物の充分な配向が得られない。
【0061】
水溶液中の水溶性液晶化合物の濃度は、濃度相転移を起す濃度を下回っていることがさらに好ましい。この場合は、水溶液の塗布直後には液晶相が形成されておらず、乾燥により水溶液の濃度が上昇して濃度相転移を起す濃度以上に達してから規制力による配向が開始される。本発明においては、高湿下乾燥の過程で塗膜を液晶状態に長時間保つことができ、きわめて安定した水溶性液晶化合物の配向化が行なわれる。また配向度を高くすることができる。
【0062】
高湿下乾燥工程における塗膜中の溶媒の濃度の経時変化を図1のグラフに模式的に示す。図1における横軸は高湿下乾燥工程を開始する時点を0とする経過時間であり、縦軸は塗膜中の溶媒の濃度である。Cは等方相の濃度域、CLCは液晶相の濃度域、Cは結晶相の濃度域である。Cは等方相から液晶相に転移する濃度、Cは液晶相から結晶相に変化する濃度である。直線W1、W2は、塗膜を70%RH以上、100%RH未満の範囲のある一定の雰囲気に置いた場合の塗膜中の溶媒の濃度の経時変化であり、直線W1は、水溶液中の濃度CがCより小の場合、直線W2は水溶液中の濃度CがCより大でCより小の場合である。直線D1、D2は塗膜を70%RH未満のある一定の雰囲気に置いた場合の塗膜中の溶媒の濃度の経時変化であり、直線D1は、水溶液中の濃度がCより小の場合、直線D2は水溶液中の濃度がCより大でCより小の場合である。
【0063】
W1は直線W1において、塗膜が液晶相の濃度域にある時間帯、tW2は直線W2において、塗膜が液晶相の濃度域にある時間帯、tD1は直線D1において、塗膜が液晶相の濃度域にある時間帯、tD2は直線D2において、塗膜が液晶相の濃度域にある時間帯である。図1から判るように、tW1>tD1、tW2>tD2でありまたCがCに近い値でなければtW1>tW2>tD1>tD2であり、実際には、直線W1、W2における雰囲気湿度を70%RH、直線D1、D2における雰囲気湿度を60%RHとした場合、CがCに近い値でなければtW1>tW2≫tD1>tD2となる。
【0064】
このように、塗膜を70%RH以上、100%RH未満の範囲のある定められた雰囲気に置くことにより、塗膜が液晶相の濃度域にある時間帯を長くすることができて、水溶性液晶化合物の均一かつ高い配向が得られる。
【0065】
また、本発明においては、高湿下乾燥工程の全乾燥時間が300秒以上であることが安定した水溶性液晶化合物の配向化のために好ましい。この全乾燥時間が600〜1800秒であることが安定した水溶性液晶化合物の配向化のためにさらに好ましい。雰囲気の湿度を70%RH以上、100%RH未満の範囲の値に調整し、乾燥速度が速くならないような高湿に設定することによりこの全乾燥時間を300秒以上にすることができる。これに加えて、雰囲気あるいは塗膜の温度を乾燥速度が速くならないような低温に設定することによりこの全乾燥時間を300秒以上あるいは600〜1800秒にすることができる。高湿下乾燥工程の全乾燥時間は、塗膜を70%RH以上、100%RH未満の雰囲気に置いてから、高湿下乾燥工程で溶媒の80重量%以上が揮発により除去されるか、または、70%RHよりも低湿の環境に塗膜を出すまでの時間をいう。
【0066】
[第二の乾燥工程]
本発明においては、乾燥工程のなかで、高湿下乾燥工程に次いで第二の乾燥工程を設けることができる。この第二の乾燥工程は高湿下乾燥工程で乾燥された塗膜中に不要の残余の溶媒がある場合にのみ設けられる。例えば、塗工時に塗膜に含まれている溶媒のうち50重量%が高湿下乾燥工程で乾燥除去された場合、残りの溶媒の全部または大部分が第二の乾燥工程で除去される。高湿下乾燥工程で溶媒の全部または大部分が乾燥除去された場合、例えば、塗工時に塗膜に含まれている溶媒のうち95重量%以上が高湿下乾燥工程で乾燥除去された場合は第二の乾燥工程はなくともよい。ある。また、第二の乾燥工程は通常高湿下乾燥工程と連続的に行なわれる。第二の乾燥工程における雰囲気の湿度等の条件はとくに限定されないが、工程時間の短縮のためには高温低湿であることが好ましい。第二の乾燥工程においては塗工完了の直後に塗膜に含まれている溶媒のうち95重量%以上が乾燥除去されることが好ましい。すなわち、第二の乾燥工程は、高湿下乾燥工程で乾燥された塗膜中に、塗布直後の塗膜中の溶媒量の5重量%を超える溶媒が残留している場合に行なわれることが好ましい。
【0067】
本発明により得られる積層体は、基本的には基材と、基材の面上に配された配向した水溶性液晶化合物の層からなるものであるが、積層体にはさらにその他の層が積層されてもよい。例えば、水溶性液晶化合物の層の表面に樹脂からなる保護層が設けられてもよい。あるいは、基材の表面や裏面にあらかじめ平滑層や離型層や易接着層などを設けることもできる。
【0068】
本発明により得られる積層体は、光学異方性を活かして各種の光学素子に用いられるが、とくには、偏光子として好適に用いることができる。この場合は、配向した塗膜の二色比が波長550nmにおいて20以上であることが好ましい。30以上であることがさらに好ましい。この二色比は、分光光度計を用いて測定光として直線偏光光を試料(塗膜)に入射させ、塗膜(光学異方層)の配向方向に対し、測定光の偏光の電界ベクトルが平行および直交状態になったときのそれぞれの光の透過率から算出される。
【0069】
また、本発明により得られる積層体は、基材ごと用いてもよいが、基材から塗膜を剥がして配向膜として好ましくは他の支持体や光学素子に積層して用いてもよい。
【0070】
本発明により得られる積層体は各種の液晶表示装置に適用される。例えば、パソコンモニター、ノートパソコン、コピー機などのOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報末端(PDA)、携帯ゲーム機器等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジなどの家庭用機器、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオなどの車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニターなどの展示機器、監視用モニターなどの警備機器、介護用モニター、医療用モニター等の液晶表示装置に適用される。
【0071】
[実施例]
SOH基を有する水溶性のペリレン系液晶化合物(オプティバ社製:商品名「NO−15」)の水溶液を調整した。水溶液全体に対するこのペリレン系液晶化合物の濃度は5重量%である。溶媒の水としては蒸留水を用いた。この水溶液は、23℃において等方相から液晶相に転移する濃度(C)が7重量%であり、5重量%では液晶性を示さない。この水溶液をスライド式コーターにて、ポリイミド配向膜を備えたガラス板基材に塗布し、このポリイミド配向膜の表面をラビング処理した後、その配向膜上に厚み5μmの水溶液の塗布層(塗膜)を形成した。次いで直ちにこの塗膜が形成されたガラス板基材を温度24℃、湿度80%RHの加湿キャビネット(トーリ・ハン製:製品名「WET−CABI」)の中に入れた。塗膜中の水分は20分間(1200秒)かけて80重量%揮発した。このとき、塗膜が液晶相の濃度域にある時間帯(tW1)は540秒であった。その後、加湿キャビネットの中の湿度を徐々に低下させ、塗膜を完全に乾燥させた。このようにして得られた積層体の、波長550nmにおける二色比は28であった。
【0072】
[比較例]
実施例1と同様にして得られた塗膜が形成されたガラス板基材を湿度55%RHの加湿キャビネットの中に入れた。塗膜中の水分は3分間で95重量%揮発し、積層体を得た。この積層体の、波長550nmにおける二色比は10であった。このとき、塗膜が液晶相の濃度域にある時間帯(tD1)は57秒であった。
【0073】
実施例、比較例における測定方法
【0074】
二色性
日本分光社製:製品名「V−7100」を用いて、試料のペリレン系液晶化合物の配向方向に対し、測定光の電界ベクトルが平行および直交するように波長550nmの直線偏光の(平行方向の入射光および直交方向の入射光)測定光をそれぞれ入射させ、それぞれについて光の透過率を測定し、計算式:
二色比=(Log(1/直交方向の入射光の透過率))/(Log(1/平行方向の入射光の透過率))
により算出した。
【0075】
湿度
温度計(ANEMOMASTER6011)を用いて、塗布層の表面から10mm上方の位置で測定した。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】高湿下乾燥工程における水溶液の濃度の乾燥経過時間による変化を模式的に説明するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性液晶化合物と水とを含む水溶液と、基材とを準備する工程、
前記水溶液を前記基材の面に塗布して塗膜を形成する塗布工程、
前記塗膜を乾燥する乾燥工程
を含む積層体の製造方法であって、
前記乾燥工程の少なくとも一部が乾燥前の前記塗膜を70%RH以上、100%RH未満の雰囲気に置くことにより乾燥して該塗膜中の溶媒の10重量%以上を除去する高湿下乾燥工程からなり、
前記高湿下乾燥工程において該水溶性液晶化合物を配向させ、前記基材の面上に光学異方層を形成する積層体の製造方法。
【請求項2】
前記高湿下乾燥工程の全乾燥時間が300秒以上になるように前記雰囲気の湿度が調整される請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液が、前記塗布工程では液晶性を示さず前記高湿下乾燥工程において液晶性を示すものとなる溶液である、請求項1または2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記水溶液中の前記水溶性液晶化合物の濃度が0.1〜50重量%である請求項1から3のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記光学異方層が、波長550nmにおいて吸収二色性を示す請求項1から4のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記基材の表面が前記水溶性液晶化合物を配向させる異方性を有する請求項1から5のいずれかに記載の積層体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−25520(P2009−25520A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188110(P2007−188110)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】