説明

積層型バリスタの製造方法

【目的】 焼結体にガラス膜をコーティング処理する際の酸素の離脱を防止して漏れ電流を低減できる積層型バリスタの製造方法を提供する。
【構成】 半導体セラミックス層2と内部電極3とを交互に積層した後一体焼結して焼結体4を形成する。次に焼結体4をガラス粉末とともに容器内に収容し、該容器を回転させつつ上記ガラスの軟化点以上の温度で加熱処理することによって上記焼結体4の外表面部分にガラス膜6を形成して積層型バリスタ1を製造する。この場合、上記容器内の酸素分圧を20%以上に保持する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電圧非直線抵抗体として機能する積層型バリスタの製造方法に関し、特に焼結体にガラス膜をコーティングする際の酸素の離脱を防止でき、ひいては漏れ電流を低減できるようにした製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、印加電圧に応じて抵抗値が非直線的に変化する電圧非直線抵抗体(以下、バリスタと称す)は、サージ吸収素子,電圧安定化素子として広く使用されている。このようなバリスタの電気的特性は、I/i=(V/Vi a で表される。上記Iは素子に流れる電流,Vは印加電圧,Vi は素子にiAの電流が流れたときの端子間電圧で、通常1mAの値をとりバリスタ電圧V1mA と称されている。また、上記aは電圧非直線係数であり、バリスタを電気回路に組み込んだ際に電圧がいかに制御されるかを示すもので、このa値が大きいほど電圧制御に優れている。また近年、通信機器等の電子機器の分野においては、小型化,電子部品のIC化,集積化が進んでおり、これに伴ってバリスタにおいても実装密度の向上を図るための超小型化,あるいは低電圧化の要求が強くなっている。このような要求に対応するものとして、従来、ディスク型に代わる積層型バリスタが提案されている(例えば、特公昭58-23921号公報参照) 。この積層型バリスタによれば、半導体セラミックス層の結晶粒子を巨大に成長させることなく内部電極間の粒界数を小さくすることが可能であることから、動作電圧の低電圧化が実現でき、小型化にも対応できる。ところで、上記積層型バリスタは、酸化亜鉛を主成分とする半導体セラミックスを高温焼成してなる焼結体から構成されていることから、半田付け時のフラックスや還元性雰囲気等により上記焼結体の表面が還元され易く、その結果表面電流が流れ易くなって漏れ電流が増大するという問題がある。このような漏れ電流を低減するために、従来、上記焼結体の外表面にガラス膜をコーティングすることが提案されている(例えば、特願平1-313904 号参照) 。これは、焼結体とガラス粉末とを耐熱性容器内に収容し、この容器を回転させながら上記ガラス粉末の軟化点以上の温度に加熱処理することによって、このガラス粉末を焼結体の表面部分に浸透拡散させる方法である。このガラス膜により湿度等に対する耐環境特性を向上でき、半田付け時のフラックスや還元性雰囲気等による漏れ電流を抑制でき、さらにはサージ耐量を向上できる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記従来の製造方法による積層型バリスタでは、ガラス膜をコーティングしても漏れ電流が生じるという問題がある。
【0004】本発明は上記従来の状況に鑑みてなされたもので、焼結体にガラスコーティング処理を施す際の、酸素の離脱を防止して漏れ電流を低減できる積層型バリスタの製造方法を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】本件発明者らは、上記漏れ電流の原因として、上記耐熱容器内の酸素分圧に着目した。即ち、従来上記耐熱性容器には収容物が溢れ出ない程度の小さな孔が形成されているものの、この孔から進入する空気だけでは容器内の酸素分圧が熱処理中に低下し、これにより焼結体の結晶粒界に吸着していた酸素が離脱し、その結果上記漏れ電流が生じるものと考えれる。そこでガラスコーティング処理中における容器内の酸素分圧を測定し、この酸素分圧の変化と熱処理後の試料の漏れ電流との関係を調べたところ、上記容器内の酸素分圧が20%を下回った場合の試料は、漏れ電流が急激に増大していることが判明した。一方、上記酸素分圧が20%を越えた場合の試料はいずれも漏れ電流がほとんど生じていないことが判明した。このことから容器内の酸素分圧を規定することによって焼結体の酸素の離脱を防止できることに想到し、本発明を成したものである。そこで本発明は、半導体セラミックス層と内部電極とを交互に積層した後一体焼結して焼結体を形成し、該焼結体をガラス粉末とともに容器内に収容し、該容器を回転させつつ上記ガラスの軟化点以上の温度で加熱処理することにより、上記焼結体の外表面部分にガラス膜を形成するようにした積層型バリスタの製造方法において、上記容器内の酸素分圧を20%以上に保持したことを特徴としている。ここで、容器内の酸素分圧の設定は、焼成炉の炉心管から供給される酸素と窒素との混合ガスの供給量を調整することにより実現できる。
【0006】
【作用】本発明に係る積層型バリスタの製造方法によれば、ガラスコーティング熱処理中における容器内の酸素分圧を20%以上に保持したので、焼結体の結晶粒界に吸着していた酸素の離脱を防止でき、その結果漏れ電流を低減できる。
【0007】
【実施例】以下、本発明の実施例を図について説明する。図1及び図2は本発明の一実施例による積層型バリスタの製造方法及び該方法による積層型バリスタを説明するための図である。
【0008】まず、本実施例方法によって得られた積層型バリスタ1の構造について説明する。図1において、積層型バリスタ1は直方体状のもので、半導体セラミックス層2と内部電極3とを交互に積層し、該積層体を一体焼結して焼結体4を形成して構成されている。また、上記各内部電極3の一端面3aは焼結体4の左, 右端面4a,4bに交互に露出されており、他の端面はセラミックス層2の内側に位置して焼結体4内に封入されている。
【0009】さらに、上記焼結体4の左, 右端面4a,4bには外部電極5が形成されており、該外部電極5は上記各内部電極3の一端面3aに電気的に接続されている。また、上記焼結体4の外表面部分には膜厚2μm以下のガラス膜6がコーティングされており、かつ焼結体4の結晶粒界に酸素が吸着している。
【0010】次に本実施例方法を説明する。まず、ZnO,Bi2 3 ,Co2 3 ,MnO,Sb2 3 ,及びCr2 3 をそれぞれ97.9mol %,0.5mol %,0.5mol %,0.5mol %0.3 mol %, 及び0.3mol %の比率となるよう秤量し、これにイオン交換水を加えてボールミルで24時間混合する。次に、これをろ過, 乾燥して800 ℃で2 時間仮焼成した後、再度粉砕して原料粉を作成する。さらにこの原料粉に有機バインダーを混合し、ドクターブレード法により厚さ50μm のセラミックスグリーンシートを形成し、このグリーンシートを矩形状に打ち抜いて多数の半導体セラミックス層2,及びダミー用セラミックス層7を形成する。
【0011】次に、Ptからなる金属粉末に有機ビヒクルを混合して電極ペーストを作成し、図2に示すように、上記ペーストを上記セラミックス層2の上面に印刷して内部電極3を形成する。この場合、この内部電極3の一端面3aのみがセラミックス層2の端縁まで延び、残りの端面はセラミックス層2の内側に位置するように形成する。
【0012】次に、上記セラミックス層2と内部電極3とが交互に重なり、かつ各内部電極3の一端面3aがセラミックス層2の両外縁に交互に位置するよう積層し、さらにこれの上面,下面にダミー用セラミックス層7を重ねる。次いで、これの積層方向に2ton/cm2 の圧力を加えて圧着して積層体を形成し、この積層体を所定の寸法に切断する。そして、この積層体を空気中にて1200℃で2時間焼成して焼結体4を得る。
【0013】次に、外径50mmφ, 内径40mmφ, 深さ40mmのアルミナ磁器ポット内に上記焼結体4を収容するとともに、ホウケイ酸亜鉛ガラス粉末を添加する。この場合、上記焼結体50g に対してガラス粉末1gを添加するのが望ましい。次いで、上記アルミナ磁器ポットを電気焼成炉内に配置し、該磁器ポットを20rpm で回転させながら、上記ガラス粉末の軟化点以上の700 ℃に加熱し、10分間加熱処理する。そして、この場合、上記電気焼成炉の炉心管から酸素と窒素との混合ガスを供給し、上記磁器ポット内の酸素分圧が20%以上となるよう保持する。ここで、磁器ポット内の酸素分圧は、該ポット内に配設したジルコニアセンサで検出し、この検出値が上記20%以上となるよう混合ガスの供給量を調整する。
【0014】この加熱処理によって、上記ガラス粉末が焼結体4の表面部分に浸透拡散して付着し、これにより膜厚2μm程度のガラス膜6が形成されるとともに、上記アルミナ磁器ポットに形成された数箇所の小さな孔から酸素が供給されて焼結体の結晶粒界に酸素が吸着することとなる。
【0015】最後に、Agからなる電極ペーストを作成し、このペーストを上記焼結体4の左, 右端面4a,4bに塗布し、この後700 ℃で焼き付けて外部電極5を形成する。これにより本実施例の積層型バリスタ1が製造される。
【0016】このように本実施例の製造方法によれば、アルミナ磁器ポット内の酸素分圧を20%以上に保持したので、焼結体4の結晶粒界に吸着していた酸素の離脱を防止でき、漏れ電流を低減できる。また、本実施例では、焼結体4の表面部分をガラス膜6で覆ったので、湿度等に対する耐環境性を向上でき、半田付け時のフラックスや還元性雰囲気等による焼結体4の還元を防止でき、この点からも漏れ電流を低減できるとともに、サージ耐量を向上できる。
【0017】
【表1】


【0018】表1は、上記実施例の積層型バリスタの効果を確認するために行った試験結果を示す。この試験は、上述した製造方法により積層型バリスタを作成する際の酸素分圧を16〜100 %の範囲で変化させた場合の、バリスタ電圧V1mA , 制限電圧比V2A/ V1mA , サージ耐量A,絶縁抵抗値MΩ,及び静電容量pFを測定した。なお、上記絶縁抵抗値はバリスタ電圧の50%の電圧を30秒間印加したときの素子の抵抗値である。表1からも明らかなように、アルミナ磁器ポット内の酸素分圧を16,18 %とした場合は、V1mA , V2A/ V1mA , サージ耐量A,静電容量pFでは満足できる値が得られているものの、絶縁抵抗値では2,9MΩと漏れ電流が増大している。これに対して酸素分圧を20〜100 %とした場合は、いずれも絶縁抵抗値が58〜61MΩと高くなっており、漏れ電流が改善されていることがわかる。
【0019】
【発明の効果】以上のように本発明に係る積層型バリスタの製造方法によれば、焼結体にガラスコーティングする際の容器内の酸素分圧を20%以上に保持したので、焼結体の結晶粒界に吸着していた酸素の離脱を防止でき、漏れ電流を低減できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例方法による積層型バリスタを説明するための断面図である。
【図2】上記実施例方法を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
1 積層型バリスタ
2 半導体セラミックス層
3 内部電極
4 焼結体
6 ガラス膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 半導体セラミックス層と内部電極とを交互に積層した後一体焼結して焼結体を形成し、該焼結体をガラス粉末とともに容器内に収容し、該容器を回転させつつ上記ガラスの軟化点以上の温度で加熱処理することにより、上記焼結体の外表面部分にガラス膜を形成するようにした積層型バリスタの製造方法において、上記容器内の酸素分圧を20%以上に保持したことを特徴とする積層型バリスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平5−47513
【公開日】平成5年(1993)2月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−224848
【出願日】平成3年(1991)8月8日
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)