説明

積層型固体電解コンデンサおよびその製造方法

【課題】陽極部の溶接の際に生じる溶融金属の漏れ出しを防ぐことができる積層型固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】平板状陽極素子の一方側に陽極部6、他方側に誘電体膜2、固体電解質層3および陰極引出層4、5からなる陰極部が形成されたコンデンサ素子(C1、C2、C3)を積層して積層体8を構成し、陽極部6同士を重ね合わせてリード端子9上に溶接した積層型固体電解コンデンサであって、陽極部6から陰極部にいたる方向に直交する方向を幅方向としたとき、重ね合わされた陽極部6のうち、上下に隣接して重ね合わされた2つ陽極部6は互いに幅方向中央部において溶接され、上側の陽極部6は幅方向両端部において下側の陽極部6から浮き上がって収容空間を形成し、溶接する際に上記2つの陽極部6から生じた溶融金属13が収容空間に収容されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型固体電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、固体電解コンデンサにおけるコンデンサ素子は、アルミニウム、タンタル等の弁作用金属からなる陽極素子の一方側を陽極部とし、他方側の表面に形成した酸化皮膜層を誘電体膜とし、さらに、誘電体膜の表面に固体電解質層、カーボン層、銀層を順次形成して陰極部としたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、固体電解質層としては一般的に二酸化マンガン、TCNQ錯体、導電性高分子等が用いられる。
【0003】
また、近年では、固体電解コンデンサの大容量化を実現するために、平板状のコンデンサ素子を所定の容量となるように複数個積層した積層型固体電解コンデンサが実用化されている(例えば、特許文献2参照)。この積層型固体電解コンデンサでは、コンデンサ素子の陽極部およびリード端子を抵抗溶接用の上部回転電極および下部回転電極で挟みこみ、陽極部およびリード端子に電流を流してコンデンサ素子の陽極部同士およびコンデンサ素子の陽極部とリード端子とを溶接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2969692号公報
【特許文献2】特開2000−68158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般に上記のような積層型固体電解コンデンサでは、陽極部同士および陽極部とリード端子とが陽極部の幅方向全体にわたって溶接され、各陽極部同士が互いに隙間なく密着していた。このため、従来の積層型固体電解コンデンサでは、溶接の際に陽極部から生じた溶融金属が、陽極部の周辺に漏れ出してコンデンサ素子やリード端子の溶接部分以外の所に付着してしまい、外装樹脂形成時にモールド金型の損傷を引き起こすことがあった。また、それに起因して完成品の外観不良を引き起こすこともあった。そして、これを防ぐためには、漏れ出した溶融金属を除去するための特別な工程を抵抗溶接後に設ける必要があり、製造コスト増加の要因となっていた。
【0006】
上記の問題に鑑みて、本発明は、陽極部の溶接の際に生じる溶融金属の漏れ出しを防ぐことができる積層型固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る積層型固体電解コンデンサは、弁作用金属からなる平板状陽極素子の一方側に陽極部、他方側に誘電体膜、固体電解質層および陰極引出層からなる陰極部が形成されたコンデンサ素子をm個(ただし、mは2以上の整数)積層して積層体を構成し、積層体の陽極部同士を重ね合わせてリード端子上に溶接した積層型固体電解コンデンサであって、陽極部から陰極部にわたる方向を長手方向とし、該長手方向に直交する方向を幅方向としたとき、重ね合わされたn個(ただし、nは2以上、かつm以下の整数)の陽極部のうち、上下に隣接して重ね合わされた2つの陽極部は互いに幅方向中央部において溶接され、上側の陽極部は幅方向両端部において下側の陽極部から浮き上がって収容空間を形成し、上記2つの陽極部を溶接する際に該2つの陽極部から生じた溶融金属が収容空間に収容されていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、上側の陽極部がその幅方向両端部において下側の陽極部から浮き上がることによって下側の陽極部との間に収容空間が形成されるため、溶接の際に生じる溶融金属を陽極部の周辺に漏れ出させることなく該収容空間に留めておくことができる。また、この構成によれば、上側の陽極部と下側の陽極部との間の収容空間が溶融金属で埋められているため、高い溶接強度を得ることもできる。
【0009】
また、上記積層型固体電解コンデンサは、n個の陽極部に含まれるすべての陽極部の間に、上記の収容空間が形成されていることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、すべての陽極部の間に形成された収容空間に、溶接の際に生じる溶融金属を留めておくことができるため、確実に溶融金属の漏れ出しを防ぐことができる。
【0011】
また、上記積層型固体電解コンデンサにおいて、n個は5個以下であり、上記2つの陽極部が溶接された幅方向中心と下側の陽極部の幅方向端を通る平面と、該幅方向中心と上側の陽極部の幅方向端を通る平面とがなす角は、5°以上、かつ40−{(n−2)×10}°(ただし、n≦5)以下であることが好ましく、さらに、上側の陽極部の幅方向における断面形状は、例えば、幅方向中央部から幅方向両端部に向かうにつれて下側の陽極部から離れるように屈曲したU字形状またはV字形状とすることができる。
【0012】
この構成によれば、すべての陽極部の間に一定の範囲の大きさをもった収容空間を形成することができる。これにより、収容空間の大きさにばらつきが生じたとしても、2つの陽極部が溶接された幅方向中心と下側の陽極部の幅方向端を通る平面と、該幅方向中心と上側の陽極部の幅方向端を通る平面とのなす角が上記の範囲に含まれていれば、溶融金属を確実に収容空間に留めておくことができる。さらに、上側の陽極部の断面形状をU字形状またはV字形状にすることで、収容空間に留めておくことができる溶融金属の量を増やすことができる。
【0013】
また、本発明に係る積層型固体電解コンデンサの製造方法は、弁作用金属からなる平板状陽極素子の一方側に陽極部、他方側に誘電体膜、固体電解質層および陰極引出層からなる陰極部が形成されたコンデンサ素子をm個(ただし、mは2以上の整数)積層して積層体を構成し、該積層体の陽極部同士を重ね合わせてリード端子上に溶接する積層型固体電解コンデンサの製造方法であって、陽極部から陰極部にわたる方向を長手方向とし、該長手方向に直交する方向を幅方向としたとき、重ね合わされたn個(ただし、nは2以上、かつm以下の整数)の陽極部のうち上下に隣接して重ね合わされた2つの陽極部を幅方向中央部において溶接することで、上側の陽極部を幅方向両端部において下側の陽極部から浮き上がらせて収容空間を形成し、上記2つの陽極部から生じる溶融金属を収容空間に収容させるようにしたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、上側の陽極部を浮き上がらせることによって下側の陽極部との間に形成した収容空間に、溶接の際に生じた溶融金属を留めておくことができるため、溶融金属が陽極部の周辺に漏れ出してコンデンサ素子やリード端子の溶接部分以外の所に付着するのを防ぐことができる。これにより、溶融金属を除去するための特別な工程を設けることなく、溶融金属の付着に起因する外装樹脂形成時のモールド金型の損傷や完成品の外観不良を防ぐことができる。
【0015】
また、上記製造方法における溶接は、下部電極と、該下部電極に対向配置された円盤状の上部電極との間にn個の陽極部およびリード端子を挟み込んでリード端子上にn個の陽極部を溶接する方法であって、リード端子上にn個の陽極部を配置し、n個の陽極部のうち最上側に位置する陽極部の幅方向中央部に前記上部電極の外周曲面を接触させ、かつリード端子に下部電極を接触させた状態で、n個の陽極部およびリード端子に所定の圧力をかけるとともに電流を流すことで、リード端子上にn個の陽極部を溶接することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、陽極部間に収容空間を形成するための特別な工程をわざわざ設けることなく、抵抗溶接の工程と同時に収容空間を形成することができる。また、この構成によれば、円盤状の上部電極の外周曲面と最上側の陽極部との接触幅を短くすることで、陽極部を幅方向中央部においてのみ溶接することができる。
【0017】
なお、本明細書における用語「幅方向中央部」は、幅方向両端部を除いた部分を意味しており、厳密な意味での「幅方向中心」からずれた位置も含むものとする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、陽極部の溶接の際に生じる溶融金属の漏れ出しを防ぐことができる積層型固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態におけるコンデンサ素子であって、(a)は上面図、(b)は長手方向断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る積層型固体電解コンデンサの斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態における陽極部の幅方向断面図である。
【図4】本発明の一実施形態における積層体をリード端子上に配置した状態を示す側面図である。
【図5】本発明の一実施形態における陽極部とリード端子との溶接直前の状態を示す図であって、(a)は側面図、(b)は陽極部の幅方向断面図である。
【図6】本発明の一実施形態における陽極部とリード端子との溶接直後の状態を示す、陽極部の幅方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の好ましい実施形態の一例について、図面を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明では、コンデンサ素子の陽極部から陰極部にいたる方向を長手方向とし、該長手方向に直交する方向を幅方向とする。
【0021】
図1(a)は本実施形態に係る積層型固体電解コンデンサで使用するコンデンサ素子の上面図、(b)は長手方向断面図である。同図に示すように、本実施形態におけるコンデンサ素子Cは、陽極素子1、誘電体膜2、固体電解質層3、カーボン層4、銀層5、および這い上がり防止材7から構成されている。
【0022】
陽極素子1は、弁作用金属であるアルミニウムを主成分とする幅(w)3mmの平板状の薄板であり、その一方側は陽極部6を構成している。誘電体膜2は、陽極素子1の他方側の表面に形成された酸化皮膜層である。固体電解質層3は、誘電体膜2の表面に形成された層であり、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)等の導電性高分子を含む電解質の化学重合、電解重合、または電解質の含浸によって形成された層である。カーボン層4および銀層5は、固体電解質層3の表面に順次形成された陰極引出層であり、固体電解質層3と併せて陰極部を構成している。這い上がり防止材7は、陽極部6と固体電解質層3との間に設けられ、陽極部6と陰極部とを絶縁隔離するリング状の膜である。
【0023】
図2は本実施形態に係る積層型固体電解コンデンサの斜視図である。同図に示すように、本実施形態に係る積層型固体電解コンデンサは、m個(本実施形態においてはm=3)のコンデンサ素子を積層した積層体8と、陽極端子9および陰極端子10からなるリード端子と、外装樹脂11とから構成されている。
【0024】
積層体8は、各陽極部6が互いに重なり合うように、3個のコンデンサ素子C1、C2、C3を同一の向きに積層したものである。コンデンサ素子C1、C2、C3の陰極部同士およびコンデンサ素子C1の陰極部と陰極端子10とは、銀ペースト等の導電性ペースト12により接続されている。
【0025】
また、コンデンサ素子C1、C2、C3の陽極部6同士、および最下側にあるコンデンサ素子C1の陽極部6と陽極端子9とは幅方向中央部においてのみ溶接され、コンデンサ素子C2(C3)の陽極部6は、幅方向両端部においてコンデンサ素子C1(C2)の陽極部6から浮き上がっている。
【0026】
具体的には、図3に示すように、コンデンサ素子C2(C3)の陽極部6は、幅方向中央部から幅方向両端部に向かうにつれてコンデンサ素子C1(C2)の陽極部6から離れるように屈曲するU字状の断面形状を有する。したがって、コンデンサ素子C2の陽極部6とコンデンサ素子C1との陽極部6の間には、コンデンサ素子C2の陽極部6が浮き上がることにより形成された収容空間がある。そして、この収容空間は、溶接の際にコンデンサ素子C2、C1の陽極部6から溶け出した溶融金属13によって埋められている。同様に、コンデンサ素子C3の陽極部6とコンデンサ素子C2の陽極部6との間にも収容空間が形成され、この収容空間は、溶接の際にコンデンサ素子C3、C2の陽極部6から溶け出した溶融金属13によって埋められている。
【0027】
ここで、図3に示すように、コンデンサ素子C3(C2)の陽極部6の幅方向中心および幅方向一端部の先端を通る平面と、コンデンサ素子C2(C1)の陽極部6の幅方向中心および幅方向端を通る平面とのなす角をθとし、溶接された陽極部6の数をn(本実施形態においてはn=3)とすると、θは5°以上、かつ40−{(n−2)×10}°以下であることが好ましい。θが上記の範囲に含まれていれば、コンデンサ素子C1、C2、C3の陽極部6の間に形成された収容空間の大きさにばらつきが生じたとしても、溶融金属13を収容空間に確実に留めておくことができる。
【0028】
次に、本実施形態に係る積層型固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
【0029】
まず、表面を電気化学的に粗面化したアルミニウムの薄板からなる陽極素子1を、アジピン酸アンモニウム水溶液中で所定の電圧を印加して陽極酸化を行い、表面に酸化皮膜層である誘電体膜2を形成する。次いで、誘電体膜2が形成された陽極素子1を平板状に裁断した後、適切な位置に絶縁性樹脂を周方向に巻きつけるように塗布して這い上がり防止材7を形成し、陽極部6になる領域と陰極部になる領域とに区分する。次いで、該裁断によって陽極素子1が露出した端面部を、再度アジピン酸アンモニウム水溶液中で所定の電圧を印加して陽極酸化処理を行い、裁断面にも誘電体膜2を形成する。その後、誘電体膜2の表面に固体電解質層3、カーボン層4、銀層5を順次形成して陰極部を構成することでコンデンサ素子C1、C2、C3は完成する。
【0030】
続いて、図4に示すように、上記方法により作製したコンデンサ素子C1、C2、C3の陰極部同士を導電性ペースト12により接続するとともに、各陽極部6が重なり合うようにコンデンサ素子C1、C2、C3を積層して積層体8を作製する。そして、作製した積層体8を陽極端子9および陰極端子10上に配置する。
【0031】
その後、コンデンサ素子C1、C2、C3の陽極部6同士およびコンデンサ素子C1の陽極部6と陽極端子9とを抵抗溶接するために、コンデンサ素子C1、C2、C3の各陽極部6および陽極端子9を抵抗溶接用の円盤状の上部回転電極14および円盤状の下部回転電極15で挟みこみ、図5に示すようにコンデンサ素子C1、C2、C3の各陽極部6と陽極端子9とを互いに密着させる。このとき、上部回転電極14の外周曲面は最上側のコンデンサ素子C3の陽極部6の幅方向中央部にのみ接触している(図5(b)参照)。なお、上部回転電極14とコンデンサ素子C3の陽極部6との接触幅(w2)は、上部回転電極14の径が小さいほど短くなる。
【0032】
続いて、図5に示す状態で、コンデンサ素子C1、C2、C3の各陽極部6および陽極端子9に所定の圧力をかけるとともに電流を流す。これにより、図6に示すようにコンデンサ素子C1、C2、C3の各陽極部6の幅方向中央部が軟化して、押し潰される。一方、コンデンサ素子C2(C3)の陽極部6の幅方向両端部は、同図に示すようにコンデンサ素子C1(C2)の陽極部6から浮き上がる。このため、コンデンサ素子C2の陽極部6とコンデンサ素子C1の陽極部6との間、およびコンデンサ素子C3の陽極部6とコンデンサ素子C2の陽極部6との間には収容空間が形成される。さらに電流を流し続けると、コンデンサ素子C1、C2、C3の各陽極部6の幅方向中央部は溶けはじめる。この溶けた金属を凝固させることでコンデンサ素子C1、C2、C3の陽極部6同士およびコンデンサ素子C1の陽極部6と陽極端子9とが接合される。なお、接合に直接寄与していない溶けた金属(溶融金属13)は収容空間に留まるため、陽極部6の周辺に漏れ出してコンデンサ素子C1、C2、C3や陽極端子9の溶接部分以外の所に付着することはない。
【0033】
最終的に、陽極端子9および陰極端子10の下面(外部回路との接続面)を除いて積層体8を外装樹脂11により封止することで、図2に示すような積層型固体電解コンデンサが完成する。
【0034】
表1は、上記方法により作製した本実施形態に係る積層型固体電解コンデンサ(実施例1〜32)、および径の大きな上部回転電極を利用することにより各陽極部6の間に収容空間が形成されないようにした従来の積層型固体電解コンデンサ(従来例)の不良品数を比較評価した表である。該評価においては、各実施例および従来例に係る積層型固体電解コンデンサをそれぞれ1000個作製し、溶接後の外観検査においてそれぞれの積層型固体電解コンデンサの不良品数を測定した。なお、不良品数とは、溶融金属13が陽極部6の周辺に漏れ出してコンデンサ素子や陽極端子9の溶接部分以外の所に付着した積層型固体電解コンデンサの数である。
【0035】
表1において、「径」は上部回転電極14の径であり、「接触幅」は上部回転電極14と最上側の陽極部6とが接触している幅(図5(b)のw2)である。また、表1の「θ」は、最上側の陽極部6の幅方向中心および幅方向一端部の先端を通る平面と、陽極端子9と平行な平面とのなす角である。そして、表1の「重ね合わせ数」は、溶接された陽極部の数nである。各実施例および従来例では、コンデンサ素子を同一の向きに積層しているため、溶接された陽極部の数nはコンデンサ素子の積層数mと同じである。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から明らかなように、実施例1〜32では不良品が発生していないことが分かる。これは、上部回転電極14の径を小さくして上部回転電極14と最上側の陽極部6との接触幅(w2)を短くし、陽極部6を幅方向中央部においてのみ溶接したことにより、各陽極部6の間に収容空間が形成され、そこに溶接の際に生じた溶融金属13が留まったためと考えられる。すなわち、θが、5°以上、かつ70°以下の範囲に含まれていれば、溶融金属13が陽極部6の周辺に漏れ出してコンデンサ素子や陽極端子9の溶接部分以外の所に付着するのを確実に防ぐことができる。一方、従来例では、陽極部6の間に収容空間が形成されていないため、行き場のない溶融金属13が陽極部6の周辺に漏れ出してコンデンサ素子や陽極端子9の溶接部分以外の所に付着したと考えられる。
【0038】
なお、隣接して重ね合わされた2つの陽極部6のうち、上側の陽極部6の幅方向中心と幅方向端を通る平面と、下側の陽極部6の幅方向中心および幅方向端の先端を通る平面とのなす角θは、各陽極部6の間で必ずしも等しくする必要はないが、一定の範囲内に含まれていることが好ましい。すなわち、重ね合わせ数nが5以下の場合、θは、5°以上、かつ40−{(n−2)×10}°以下であることが好ましい。θが上記の範囲に含まれていれば、収容空間の大きさにばらつきが生じたとしても、溶融金属13を収容空間に留めておくことができる。よって、θは、重ね合わせ数nが2の場合は5°≦θ≦40°、重ね合わせ数nが3の場合は5°≦θ≦30°、重ね合わせ数nが4の場合は5°≦θ≦20°、重ね合わせ数nが5の場合は5°≦θ≦10°であることが好ましい。
【0039】
以上、本発明に係る積層型固体電解コンデンサおよびその製造方法の好ましい実施形態の一例ついて説明してきたが、本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
【0040】
例えば、上記実施形態では、コンデンサ素子を同一の向きに積層しているが、陽極部6の突出方向が交互に反対になるようにコンデンサ素子を積層してもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、抵抗溶接により陽極部6同士および陽極部6と陽極端子9とを溶接しているが、レーザ溶接、超音波溶接等の抵抗溶接以外の溶接方法により溶接してもよい。
【0042】
また、上記実施形態では、下部電極に円盤状の回転電極を用いたが、平板状の電極を用いてもよい。
【0043】
さらに、上記実施形態では、陽極部6同士および陽極部6と陽極端子9とを溶接する際に、溶融金属13を留めておくことができる収容空間を形成しているが、例えば、最初から陽極部6が図3に示すようなU字状またはV字状等の断面形状を有するコンデンサ素子を用いることで、溶接する前に収容空間を形成しておいてもよい。
【符号の説明】
【0044】
C、C1〜3 コンデンサ素子
1 陽極素子
2 誘電体膜
3 固体電解質層
4 カーボン層
5 銀層
6 陽極部
7 這い上がり防止材
8 積層体
9 陽極端子
10 陰極端子
11 外装樹脂
12 導電性ペースト
13 溶融金属
14 上部回転電極
15 下部回転電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属からなる平板状陽極素子の一方側に陽極部、他方側に誘電体膜、固体電解質層および陰極引出層からなる陰極部が形成されたコンデンサ素子をm個(ただし、mは2以上の整数)積層して積層体を構成し、前記積層体の陽極部同士を重ね合わせてリード端子上に溶接した積層型固体電解コンデンサであって、
前記陽極部から前記陰極部にいたる方向を長手方向とし、該長手方向に直交する方向を幅方向としたとき、重ね合わされたn個(ただし、nは2以上、かつm以下の整数)の陽極部のうち、上下に隣接して重ね合わされた2つの陽極部は互いに前記幅方向中央部において溶接され、上側の陽極部は前記幅方向両端部において下側の陽極部から浮き上がって収容空間を形成し、
前記2つの陽極部を溶接する際に前記2つの陽極部から生じた溶融金属が前記収容空間に収容されていることを特徴とする積層型固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記n個の陽極部に含まれるすべての陽極部の間に、前記収容空間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層型固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記n個は5個以下であり、
前記2つの陽極部が溶接された前記幅方向中心と前記下側の陽極部の前記幅方向端を通る平面と、該幅方向中心と前記上側の陽極部の前記幅方向端を通る平面とがなす角は、5°以上、かつ40−{(n−2)×10}°(ただし、n≦5)以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層型固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記上側の陽極部の前記幅方向における断面形状は、前記幅方向中央部から前記幅方向両端部に向かうにつれて前記下側の陽極部から離れるように屈曲したU字形状またはV字形状であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の積層型固体電解コンデンサ。
【請求項5】
弁作用金属からなる平板状陽極素子の一方側に陽極部、他方側に誘電体膜、固体電解質層および陰極引出層からなる陰極部が形成されたコンデンサ素子をm個(ただし、mは2以上の整数)積層して積層体を構成し、前記積層体の陽極部同士を重ね合わせてリード端子上に溶接する積層型固体電解コンデンサの製造方法であって、
前記陽極部から前記陰極部にいたる方向を長手方向とし、該長手方向に直交する方向を幅方向としたとき、重ね合わされたn個(ただし、nは2以上、かつm以下の整数)の陽極部のうち上下に隣接して重ね合わされた2つの陽極部を前記幅方向中央部において溶接することで、
上側の陽極部を前記幅方向両端部において下側の陽極部から浮き上がらせて収容空間を形成し、前記2つの陽極部から生じる溶融金属を前記収容空間に収容させることを特徴とする積層型固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
下部電極と、該下部電極に対向配置された円盤状の上部電極との間に前記n個の陽極部および前記リード端子を挟み込んで前記リード端子上に前記n個の陽極部を溶接する請求項5に記載の積層型固体電解コンデンサの製造方法であって、
前記リード端子上に前記n個の陽極部を配置し、前記n個の陽極部のうち最上側に位置する陽極部の前記幅方向中央部に前記上部電極の外周曲面を接触させ、かつ前記リード端子に前記下部電極を接触させた状態で、前記n個の陽極部および前記リード端子に所定の圧力をかけるとともに電流を流すことで、前記リード端子上に前記n個の陽極部を溶接することを特徴とする積層型固体電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−198907(P2011−198907A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62314(P2010−62314)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)