説明

積層型圧電アクチュエータの製造方法

【課題】 積層型圧電アクチュエータの熱プレス工程において、加圧する積層体を弾性体にて挟持する場合に、内部に欠陥が生じることのない製造方法を提供する。
【解決手段】 積層型圧電アクチュエータに用いられる積層体11の製造方法において、内部電極層13に圧電セラミック層12と同組成のセラミック粉末を添加する。それとともに、熱プレス工程では積層用金型の端部板15と積層体11の積層方向の端面との間にゴム板である弾性体14を配置して、その際の弾性体14の硬度をHs40〜70に規定する。この製造方法によれば、積層体11の内部に発生する層間剥離、クラック、気孔の3種類の欠陥の全てについて発生の防止が可能であり、これによって積層体の内部に欠陥を含まない焼結体を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電セラミック層と内部電極層とを交互に積層してなる積層型圧電アクチュエータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電セラミック層の全面に内部電極を形成してなる圧電セラミックシートを複数層積層し、一体とした構造の積層体を裁断して得られた積層素子を用いる積層型圧電アクチュエータが知られている。このような積層型圧電アクチュエータでは、電歪効果に伴う圧電セラミック層の伸縮によって発生する伸縮量がその伸縮方向に垂直な面内で均一となる特徴を持つ。このため内部電極層の一部に絶縁部を設けた構造の場合に比べて、積層体の内部に歪みが生じてクラックを発生させる危険性が小さい。この構造を有する積層型圧電アクチュエータでは、その積層素子の側面に露出している内部電極層の端面が一層おきにガラス絶縁層により被覆されており、ガラス絶縁層の外側には、さらに銀もしくは銀パラジウムの外部電極が印刷や焼き付けによって形成されている。
【0003】
以上の構成の積層型圧電アクチュエータでは、各内部電極層が積層素子の内部の全面に形成されている。圧電セラミック層の内部において、駆動時に同層に垂直な向きに発生する伸縮量がその均一性に優れているのはこれが理由であり、この構成は圧電セラミック層と内部電極層との間に発生する層間剥離を抑制する上でも好適である。
【0004】
しかしこのような構成の積層素子であっても、焼結後の裁断前の積層体では必ずしもその全面に内部電極層が形成されているわけではない。圧電セラミックシートのハンドリングを容易にするためや、高価な内部電極層がその形成時に圧電セラミックシートの側面からはみ出して無駄になることを防ぐなどの理由により、積層体の作製においては圧電セラミック層の全面に対して内部電極層を設けずに、周辺領域の一部などに内部電極層が設けられていない、非印刷領域を残して作製されることが多い。この非印刷領域は焼結工程の後に実施される積層体の裁断の際に最終的に除去されるが、その裁断の前の各工程では、内部電極層の非印刷領域にて互いにじかに接している2つの圧電セラミック層の間などにクラックが発生する場合がある。
【0005】
積層型圧電アクチュエータの製造においては、まず前記の圧電セラミックシートを複数層積層した後に、圧電セラミック層と内部電極層とを密着させるための加熱加圧(熱プレス)を行って一体化した積層体を形成し、その後にバインダの除去(脱バインダ)および焼結を行う。焼結工程の後に積層体を裁断して積層素子を得て、その側面にガラス絶縁層や外部電極を設けて製品化される。なお圧電セラミック層と内部電極層との繰り返しによる積層素子内の積層数は、積層型圧電アクチュエータの高性能化に伴って増加する傾向にある。
【0006】
このような積層型圧電アクチュエータを作製する際には、積層体の各層を密着させて一体化するための熱プレス工程や脱バインダ工程、焼結工程などによって発生する欠陥をいかにして防止するかが従来からの課題となっている。
【0007】
図2に従来の一般的な積層型圧電アクチュエータの裁断前の積層体の縦断面図を示す。図2において、積層体21は圧電セラミック層22および内部電極層23から形成されていて、内部電極層23の一部には非印刷領域24が設けられている。積層体21の内部には、圧電セラミック層22と内部電極層23の間に生じる層間剥離25、内部電極層23の非印刷領域24において2つの圧電セラミック層22の間に生じるクラック26、圧電セラミック層22の内部に生じる気孔27の3種類の欠陥が生じることが知られており、これらの欠陥の発生を防ぐ手段として以下に記す特許文献1および特許文献2に記載の方法が知られている。なおクラック26が発生する非印刷領域24は積層体21の裁断によって最終的に除去されるが、このクラック26が成長して非印刷領域24以外の領域の圧電セラミック層22にまで及んだり、クラック26が原因となって層間剥離25が生じたりする可能性があることから、他の欠陥と同様にやはり発生を防ぐ必要がある。
【0008】
特許文献1には、このうち積層体を構成する圧電セラミック層と内部電極層の間の層間剥離を主に防止する方法が開示されている。圧電セラミック層と内部電極層は主に異種材料どうしによるアンカー効果によって接合しているが、特許文献1においては、両者の密着力を高める目的で内部電極層の電極厚さを1〜5μmに規定するとともに、内部電極層内にセラミック粒子を5〜20重量%の割合で含有させる。このセラミック粒子は積層する圧電セラミック層と基本的に同じ組成とする。この方法により、従来の異種材料どうしのアンカー効果だけではなく、内部電極層が含有しているセラミック粒子と圧電セラミック層を構成するセラミック粒子との、同種の材料どうしのアンカー効果も得られることになる。これにより両者の密着性が高まることによって層間剥離の発生を抑制し、信頼性や耐久性に優れた積層型圧電アクチュエータを提供することができるとしている。
【0009】
また特許文献2では、熱プレスによって複数層の圧電セラミックシートを押圧して積層体の各層を一体化させる工程において、積層体の積層方向の両端面と加圧装置の端部板との間にそれぞれ弾性板を設ける技術が開示されている。この弾性板は自らが変形することで各端面が有する凹凸を吸収する効果があり、内部電極層が設けられていない非印刷領域が部分的に存在する場合であっても、各端面の全域に渡って均一な圧力を加えることができる。そのため、積層体のうちでもとくに非印刷領域に生じるクラックを防止するために効果的である。
【0010】
この弾性板はそれによって挟持される積層体よりも弾性率が大きい(柔らかい)材質からなるものであることが好ましく、その材質としては、各種ゴム板、ウレタン、シリコーンゴムを用いることができる。また積層体の押圧の際には加圧と同時に加熱もなされるために、前記弾性板は耐熱性を備えている必要がある。以上のように積層体の熱プレス工程において、積層体の積層方向の両端面に弾性板を配置することにより、積層型圧電アクチュエータのクラックの発生を抑止することができるとしている。また各端面の全域に渡って均一な圧力を加えることは、圧電セラミック層の内部に発生する気孔の抑制においても有効であると考えられる。
【0011】
以上の通り、特許文献1に記載の積層型圧電アクチュエータの構成は、内部電極層が各素子の全面に形成されている場合に、圧電セラミック層と内部電極層との間の層間剥離の発生を抑制する目的に適ったものである。一方、特許文献2に記載の積層型圧電アクチュエータにおいては、積層体内部の内部電極層の非印刷領域においても2つの圧電セラミック層の間でのクラックの発生防止を図ることができる。従って、前記特許文献1および特許文献2にそれぞれ開示されている従来の技術を組み合わせることによって、積層型圧電アクチュエータを構成する積層体内に生じる欠陥の発生を、相当程度防止することが可能と考えられる。
【0012】
【特許文献1】特開2003−258328号公報
【特許文献2】特開2003−179280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上記した特許文献1および特許文献2にそれぞれ開示された方法によって、積層型圧電アクチュエータの作製時に圧電セラミック層と内部電極層の間で生じる層間剥離や、内部電極層の非印刷領域にて2つの圧電セラミック層の間に生じるクラックについては、その発生をかなり防止することが可能である。しかし特許文献2においては、積層体の積層方向の両端面と加圧装置の端部板との間に設ける弾性板の材質については具体的な記述があるものの、その硬さ(もしくは弾性率)については1〜100MPa(メガパスカル)と非常に広い範囲に渡る記述がなされているのみであり、また積層体の熱プレス時にこの積層体を押圧する圧力の範囲についても記述がない。
【0014】
もし弾性板が硬すぎる場合には、熱プレスの際に各端面に加えられる圧力が不均一なものとなり、内部電極層の積層数が増加するほどこの不均一は拡大する。また逆に柔らかすぎる場合には積層体に十分な圧力を加えることができなくなり、この場合には熱プレスの際の脱バインダの進行に伴って、圧電セラミック層の内部に気孔やクラックなどの欠陥が高頻度で発生することとなる。この問題は、積層型圧電アクチュエータの製品歩留まりや品質の低下をもたらすものである。
【0015】
従って、本発明の課題は、内部電極層にセラミック粒子を含有させて圧電セラミック層と内部電極層の間の密着力を高めた積層型圧電アクチュエータの積層体において、積層体の積層方向の片端面もしくは両端面に弾性体を当接させて熱プレスする際の、弾性板の硬度および加圧の好適な範囲を規定することである。この好適な各条件の範囲では、積層数の多い積層体の場合であっても圧電セラミック層と内部電極層との間の密着性が高くなり、両者の間の層間剥離や圧電セラミック層内部のクラック、気孔などが積層体の内部に生じないことが条件である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明では、積層型圧電アクチュエータの積層体における圧電セラミック層と内部電極層の間の層間剥離を防止するために、セラミック粉末を混合させた内部電極ペーストを用いて内部電極層を形成することで、内部電極層の中にセラミック粉末を分散させる。このセラミック粉末は、圧電セラミック層を構成するセラミックと同一組成とすることが好ましい。また熱プレス工程においては、積層体の積層方向の片端面もしくは両端面に弾性体を当接させて、弾性体を介して積層体に圧力を加えるようにする。
【0017】
内部電極層に添加されたセラミック粒子は、内部電極層の中に分散して存在することとなる。これにより圧電セラミック層と内部電極層の双方にセラミック粉末による粒子が存在することとなるため、焼結の際にはこれら同種の粒子どうしの結合によるアンカー効果がもたらされて層間剥離の発生を抑えることができる。なお、このセラミック粉末の添加量は、内部電極層を構成する電極材料100重量部に対して3〜30重量部とすることが好ましい。このセラミック粉末の割合が3重量部未満の場合には得られるアンカー効果が不十分であり、一方、30重量部を超える場合には焼結後の内部電極層に破断が生じる確率が増加して、積層型圧電アクチュエータの特性のばらつきが大きくなる傾向があるためである。
【0018】
また、内部電極層に添加されるセラミック粉末の粒子は、平均の粒子径が1μm以下であることが好ましい。セラミック粉末の平均の粒子径を1μm以下とすることによって、積層型圧電アクチュエータの内部電極層の厚さを3μm以下に形成可能となるため、熱プレスの際に積層体をより均一な厚さに形成することが可能になる。なお、前記セラミック粉末の粒子径の平均値の測定はレーザー回折法により実施するものであり、また平均の粒子径とはセラミック粉末の体積基準で累計50%相当となる径(VMD:Volume Median Diameter)である。
【0019】
一方、上記の内部電極層へのセラミック粉末の分散混合の他に、本発明では、積層体の内部電極層の非印刷領域において2つの圧電セラミック層の間でクラックが発生することを防止するために、熱プレス工程において、積層体の積層方向の少なくとも一方の端面に弾性体を当接し、この弾性体を介して積層体を押圧することとする。これにより積層体の両端面に存在する凹凸をこの弾性体によって吸収する効果が得られるために、積層体の中で内部電極層が設けられていない領域と設けられた領域との境界部において急峻な密度の違いが生じることを防ぎ、焼結工程における収縮歪みの発生を緩和して、圧電セラミック層と内部電極層との間の層間剥離や圧電セラミック層内部でのクラックや気孔の発生を抑えることができる。
【0020】
従来の積層体の熱プレス工程においては、積層体の積層方向の両端面は厚さ0.1mm以下の薄いプラスチックフィルムを介して金属板に当接した状態で治具に固定され、各端面はこの金属板により押圧されて熱プレスが行われていた。本発明では、この金属板の内側に弾性体からなる厚い弾性板を設け、この弾性板を介して熱プレスを行うことによって、積層体の加圧方向に垂直な面内での密度分布をより均一化することができる。
【0021】
この弾性板としてはゴム板が適しており、また熱プレスの際の加熱に対して耐久性を有する必要があるため、耐熱ゴムであるシリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等が好適である。また弾性板の硬度は、日本工業規格(JIS)K6253に準拠したタイプAのデュロメータにより測定した硬度Hsにおいて、Hs40〜70の範囲であることが条件である。硬度Hsが40未満、もしくは70を越える場合には、いずれも積層体の加圧方向に垂直な面内での密度分布の均一化の効果が小さく、層間剥離やクラックの発生を防ぐ効果が不十分である。また硬度Hsが40未満の場合には気孔が発生し易くなることも判明している。さらにこの弾性板が薄い場合には効果は不十分であり、十分な効果を生じるためには10mm以上の厚さが必要である。
【0022】
またこの弾性板を用いた積層体の熱プレス工程では、加える圧力を10〜20MPaとしたときに好適な結果が得られる。さらに圧電セラミック層や内部電極層にバインダとして加える添加剤がポリビニルブチラール(PVB)である場合には、熱プレス工程での加熱温度が100〜120℃であることが好ましく、加熱温度を110℃とした場合はより好適である。これは加熱温度が120℃を越える場合は熱プレス工程においても脱バインダが開始されてしまい、バインダによる積層体の固着力が低下する問題があることと、100℃未満の場合には各層の間の密着が不完全となって、その後の脱バインダ工程や焼結工程において、積層体が変形する場合があるためである。また熱プレス工程における加圧時間は、十分な効果を得るためには30分以上実施することが必要である。
【0023】
即ち、本発明は、圧電セラミック層と内部電極層とを互いに積層することにより積層体となし、前記積層体の積層方向の片端面または両端面に弾性体を当接させ、前記弾性体を介して前記積層体を押圧したまま加熱加圧することにより成型体を作製してなる積層型圧電アクチュエータの製造方法において、前記内部電極層に対して、セラミック粉末を前記内部電極層100重量部に対して3〜30重量部の割合で添加してなり、前記加熱加圧において用いる前記弾性体が耐熱ゴムであって、日本工業規格(JIS)K6253に準拠したタイプAのデュロメータにより測定した前記耐熱ゴムの硬度Hsが、Hs40〜70であることを特徴とする、積層型圧電アクチュエータの製造方法である。
【0024】
また、本発明は、前記セラミック粉末が、前記圧電セラミック層を構成するセラミックと同一組成であることを特徴とする、積層型圧電アクチュエータの製造方法である。
【0025】
さらに、本発明は、前記内部電極層の電極厚さを3μm以下とすることを特徴とする、積層型圧電アクチュエータの製造方法である。
【0026】
さらに、本発明は、前記弾性体がシリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴムから選択されてなる耐熱ゴムであることを特徴とする、積層型圧電アクチュエータの製造方法である。
【0027】
さらに、本発明は、前記加熱加圧において、前記弾性体の加圧方向の厚さが10mm以上であることを特徴とする、積層型圧電アクチュエータの製造方法である。
【0028】
さらに、本発明は、前記加熱加圧において、前記積層体を押圧する際の圧力が10〜20MPaであることを特徴とする、積層型圧電アクチュエータの製造方法である。
【0029】
さらに、本発明は、前記圧電セラミック層および/または前記内部電極層を形成する際に添加されるバインダが、ポリビニルブチラール(PVB)を含有しており、前記加熱加圧において、前記積層体を押圧する際の温度が100〜120℃であることを特徴とする、積層型圧電アクチュエータの製造方法である。
【0030】
さらに、本発明は、前記加熱加圧において、前記積層体を押圧する際の温度が略110℃であることを特徴とする、積層型圧電アクチュエータの製造方法である。
【0031】
さらに、本発明は、前記加熱加圧において、前記積層体を押圧する際の加圧時間が30分以上であることを特徴とする、積層型圧電アクチュエータの製造方法である。
【0032】
さらに、本発明は、前記記載の各製造方法によって製造されたことを特徴とする、積層型圧電アクチュエータである。
【発明の効果】
【0033】
本発明における積層型圧電アクチュエータの製造方法によれば、内部電極層にセラミック粉末を添加するとともに、積層型圧電アクチュエータの熱プレス工程において、積層体の積層方向の端面にゴム板である弾性体を当接させて加熱加圧を行い、この際の弾性体の硬度HsをHs40〜70に規定する。この製造方法によって、積層体の内部に発生する層間剥離、クラック、気孔の3種類の欠陥の全ての発生の防止が可能であり、これによって積層体の内部に欠陥を含まない焼結体を作製することができる。従って、積層型圧電アクチュエータの製造歩留まりを向上させるとともに、安定した品質の製品を提供することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の実施の形態による積層型圧電アクチュエータの製造方法について、図1に基づいて説明する。
【0035】
図1は、本発明における積層型圧電アクチュエータの積層体に熱プレスを行う場合の、積層体近傍の縦断面図である。図1において、積層体11は圧電セラミック層12および内部電極層13から構成されており、積層体11の図の上下方向の両端にはその端面に当接して弾性板14がそれぞれ配置されている。弾性板14の外側にはそれぞれ積層用金型の端部板15が配置されていて、積層体11は弾性板14を介して積層用金型の端部板15によって図2の上下方向に挟持されている。積層用金型の端部板15は一般には金属プレートであり、熱プレス工程では、積層体11はこの加圧装置によって図2の上下方向に加熱されつつ圧力を加えられる。弾性板14は耐熱ゴムであって、日本工業規格(JIS)K6253に準拠したタイプAのデュロメータにより測定した硬度Hsが、Hs40〜70の範囲となるゴム板であり、また内部電極層13には電極材料100重量部に対して3〜30重量部の割合のセラミック粉末が添加されている。
【実施例】
【0036】
図1に記載した本発明における積層型圧電アクチュエータの積層体の熱プレス工程を、以下の方法にて実施した。まずニッケルニオブ酸鉛(Pb(Ni1/3Nb2/3)O)を主成分とする圧電セラミック粉末を溶媒中に分散した後に、ポリビニルブチラール(PVB)によるバインダを加えて泥漿を作り、これをキャリアテープ上に成膜して厚さ30〜140μmのグリーンシートとした。次いで前記圧電セラミック粉末と同一組成であって、レーザー回折法により測定した平均の粒子径がVMDで1μmであるセラミック粉末を用意し、銀パラジウム内部電極用粒子に15重量部の割合で混合して100重量部とした。これを溶媒中に分散させてペースト状にした後に、前記グリーンシート上にその厚さが2〜3μmとなるように印刷した。
【0037】
このグリーンシートを乾燥させた後で、加熱加圧工程にて用いる積層用金型のサイズに合わせて打ち抜いて圧電セラミックシートとし、この圧電セラミックシートを積層した後に積層用金型の内部に配置した。このとき積層用金型の2枚の端部板に接触させて、厚さ10mm、硬度がHs60である2枚のシリコーンゴムを弾性板として配置し、積層した圧電セラミックシートは2枚のシリコーンゴムによって挟持されるよう配置した。この積層用金型を用いて110℃にて30分間、10MPaの圧力を加えて熱プレスを行った。得られた積層体の脱バインダを行った後で、1050〜1120℃の温度範囲にて焼結を行った。こうして得られた積層体を裁断して積層素子となし、顕微鏡にて目視観察を実施したところ層間剥離やクラック、空孔などの欠陥は観察されず、積層型圧電アクチュエータ用の積層素子として良好なものであった。また加熱加圧工程にて加える圧力を戦記の10MPaから20MPaまで順次増加させて積層体を作製して同様に積層素子の観察を行ったが、いずれの場合にも欠陥は見出されなかった。
【0038】
同様に、シリコーンゴムの弾性板の硬度をHs30〜80の範囲で順次変化させて熱プレスを行い、得られた積層体に脱バインダを施した後に焼結を行った。作製した各々の積層体を裁断して積層素子を得て、硬度の条件ごとに100個ずつ試料を用意し、顕微鏡にて目視観察を行った。その結果、表1に示すように、硬度がHs40〜70の間の積層素子においては欠陥の発生が観察されず、弾性板の硬度がこの範囲の場合には良好な焼結体が得られることが確認された。
【0039】
【表1】

【0040】
以上示したように、本発明の積層型圧電アクチュエータの製造方法によって、積層型圧電アクチュエータを構成する積層体の内部に発生する層間剥離、クラック、気孔の3種類の欠陥の全てについて発生の防止が可能であり、これによって積層体の内部に欠陥を含まない焼結体を作製することが可能である。なお、上記実施例の説明は、本発明の実施形態に係る場合の効果について説明するためのものであって、これによって特許請求の範囲に記載の発明を限定し、あるいは請求の範囲を減縮するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の積層型圧電アクチュエータの積層体に熱プレスを行う場合の、積層体傍の縦断面図。
【図2】従来の一般的な積層型圧電アクチュエータの裁断前の積層体の縦断面図。
【符号の説明】
【0042】
11、21 積層体
12、22 圧電セラミック層
13、23 内部電極層
14 弾性板
15 積層用金型の端部板
24 非印刷領域
25 層間剥離
26 クラック
27 気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電セラミック層と内部電極層とを互いに積層することにより積層体となし、
前記積層体の積層方向の片端面または両端面に弾性体を当接させ、前記弾性体を介して前記積層体を押圧したまま加熱加圧することにより成型体を作製してなる積層型圧電アクチュエータの製造方法において、
前記内部電極層に対して、セラミック粉末を前記内部電極層100重量部に対して3〜30重量部の割合で添加してなり、
前記加熱加圧において用いる前記弾性体が耐熱ゴムであって、日本工業規格(JIS)K6253に準拠したタイプAのデュロメータにより測定した前記耐熱ゴムの硬度Hsが、Hs40〜70であることを特徴とする、積層型圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項2】
前記セラミック粉末が、前記圧電セラミック層を構成するセラミックと同一組成であることを特徴とする、請求項1に記載の積層型圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項3】
前記内部電極層の電極厚さを3μm以下とすることを特徴とする、請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の積層型圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項4】
前記弾性体がシリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴムから選択されてなる耐熱ゴムであることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の積層型圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項5】
前記加熱加圧において、前記弾性体の加圧方向の厚さが10mm以上であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の積層型圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項6】
前記加熱加圧において、前記積層体を押圧する際の圧力が10〜20MPaであることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の積層型圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項7】
前記圧電セラミック層および/または前記内部電極層を形成する際に添加されるバインダが、ポリビニルブチラール(PVB)を含有しており、
前記加熱加圧において、前記積層体を押圧する際の温度が100〜120℃であることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の積層型圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項8】
前記加熱加圧において、前記積層体を押圧する際の温度が略110℃であることを特徴とする、請求項7に記載の積層型圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項9】
前記加熱加圧において、前記積層体を押圧する際の加圧時間が30分以上であることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の積層型圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項10】
前記請求項1ないし9のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする、積層型圧電アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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