説明

積層型圧電アクチュエータ素子

【課題】 積層型圧電アクチュエータ素子の内部に引張り応力が生じても内部電極層とセラミックス層とが剥離しにくい積層型圧電アクチュエータ素子を提供することを課題とする。
【解決手段】 積層型圧電アクチュエータ素子20において、内部電極層22には孔部28を設け、重なり合う圧電セラミックス層21同士がこの孔部28を介して一体焼成される構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電セラミックス材料からなる積層型圧電アクチュエータ素子に関し、特に各種電子装置、電子機器、電子部品等に好適な積層型圧電アクチュエータ素子の電極構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、ジルコン酸チタン酸鉛やニッケル・ニオブ酸鉛系などの、いわゆる圧電セラミックス材料からなり、電気−機械変換素子あるいは機械−電気変換素子として幅広い分野で利用されている。圧電素子には、圧電セラミックス材料の原料粉末をプレス成形して、焼成プロセスを経て焼結体にしたものを加工することで得られる一般的な圧電素子と、同じ圧電セラミックス材料の原料粉末から泥しょうをつくり、成膜プロセスにより薄膜化し、さらに印刷、積層、焼成プロセス等を経て得られる積層型の圧電素子とがある。
【0003】
特に、後者の積層型の圧電素子は、積層型圧電アクチュエータ素子と呼ばれ、小型であっても大きい変位量と、高い発生力が得られるため、アクチュエータとして広く利用されている。
【0004】
積層型圧電アクチュエータ素子は、概ね、以下の製造方法により得られる。まず、圧電セラミックス材料の原料粉末に有機バインダーや有機溶剤などを混合し分散させた泥しょう作る。次に、成膜プロセスにより、この泥しょうを薄膜化することで得られるシートと、このシートに銀とパラジウムを主成分とする電極ペーストを印刷して得られる電極シートとを交互に積み重ねて、熱プレスし、積層体を作る。さらに、この積層体を脱バインダー処理し、焼成して焼結体にする。さらに、その焼結体を所定の大きさに切断加工し、焼結体の表面に絶縁処理や外部電極を設け、分極処理を施すことで積層型圧電アクチュエータ素子が得られる。
【0005】
前記シートと前記電極シートは、焼成されることにより、圧電セラミックス層と内部電極層を形成する。内部電極層は、前記電極ペーストがシートに印刷された部分である。通常、内部電極層は、焼結体となったとき、あるいは切断加工されたときに、表面に露出するように、前記電極ペーストがシートに印刷される。
【0006】
図3は、従来の積層型圧電アクチュエータ素子の側面図である。図3には、四角柱状の積層型圧電アクチュエータ素子の1つの側面を図示している。従来の積層型圧電アクチュエータ素子10は、圧電セラミックス層11と内部電極層12とが交互に高さ方向に積層された構造となっている。内部電極層12は、積層型圧電アクチュエータ素子10の対向する2つの側面(図3では紙面の左右)に露出している。前記の対抗する2つの側面において、前記内部電極層12の露出した部分には、交互に絶縁層13が設けられている。
【0007】
内部電極層12が露出した対向する2面には、それぞれ外部電極14と外部電極15とが設けられている。外部電極14と外部電極15により、絶縁層13が設けられていない内部電極層12と電気的に接続される。この外部電極14と外部電極15には、それぞれリード線16とリード線17が接続されて、電気信号の入力部となっている。
【0008】
通常、積層型圧電アクチュエータ素子10の上面部18や底面部19には、内部電極層の無い不活性部が適当な範囲に設けられている。この不活性部は、積層型圧電アクチュエータ素子の固定や、積層型圧電アクチュエータ素子によって駆動される被駆動体との接合に使用される。リード線16とリード線17に電界を印加することにより、対向する内部電極層12に挟まれた圧電セラミックス層11には積層方向に歪みが生じ、各圧電セラミックス層11の歪の総和が全体の変位量として得られる。
【0009】
積層型圧電アクチュエータ素子は、従来からその用途や目的に応じて、さまざまな検討がなされているが、前述したような積層型圧電アクチュエータ素子は、特許文献1に開示されている。また、近年、電子機器や装置の小型化にともない、アクチュエータ装置にも小型化の要求が一層強くなっている。例えば、デジタルカメラや携帯電話機に搭載されるカメラレンズモジュールには、レンズを移動させるためのアクチュエータ装置が使用されている。
【0010】
従来、この種のアクチュエータ装置には、電磁モータが利用されていたが、デジタルカメラや携帯電話機への搭載に際し、電磁モータをさらに小型化するのには限界があるため、電気エネルギーを駆動力に変換でき、変換効率が高く、小型軽量でありながら発生力が大きい積層型圧電アクチュエータ素子を利用する検討がなされている。積層型圧電アクチュエータ素子を利用するカメラレンズモジュールに関しては、特許文献2に開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開2005−322691号公報
【特許文献2】特開2005−284169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記カメラレンズモジュールの駆動に利用される積層型圧電アクチュエータ素子は、従来の積層型圧電アクチュエータ素子よりもさらに小型で大きい変位を発生する積層型圧電アクチュエータ素子が望まれている。
【0013】
さらに、変位量を効率よく得るために積層圧電アクチュエータ素子を共振周波数で駆動する駆動方法も採られている。しかしながら、いずれの場合も、大きな変位量が得られる一方、積層圧電アクチュエータ素子の内部に生じる内部応力も増加し、特に引張り応力により、内部電極層とセラミックス層とが剥離するという問題点がある。
【0014】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、具体的には積層型圧電アクチュエータ素子の内部に引張り応力が生じても内部電極層とセラミックス層とが剥離しにくい積層圧電アクチュエータ素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記課題を解決するために、以下の手段を採用した。即ち、本発明は、積層圧電アクチュエータ素子において内部電極層に複数の孔部を設けることを、その要旨とする。
【0016】
本発明によれば、圧電セラミックス材料よりなる複数の圧電セラミックス層と導電性を有する複数の内部電極層とを交互に積層してなる積層体と、この積層体の側面に前記内部電極層が一層おきに交互に接続された一対の外部電極を備えた積層型圧電アクチュエータ素子において、前記内部電極層が、複数の孔部を有することを特徴とする積層型圧電アクチュエータ素子が得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、積層型圧電アクチュエータ素子の内部に引っ張り応力が生じても内部電極層とセラミックス層とが剥離しにくい積層圧電アクチュエータ素子の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明による積層型圧電アクチュエータ素子は、複数の圧電セラミックス層と複数の内部電極層とを交互に積層し、柱体の積層型圧電アクチュエータ素子とし、前記の内部電極層に複数の孔部を設ける。
【0019】
本発明による積層型圧電アクチュエータ素子は、ジルコン酸チタン酸鉛系やニッケル・ニオブ酸鉛などの圧電セラミックス材料の原料粉末に有機バインダーや有機溶剤などを混合し分散させた泥しょうを作り、成膜プロセスにより該泥しょうを薄膜化することで得られるシートと、該シートに銀とパラジウムを主成分とする電極ペーストを印刷して得られる電極シートとを交互に複数積み重ねて、熱プレスし、積層体を作り、さらに、この積層体を脱バインダー処理し、焼成して焼結体にしたものを所定の大きさに切断加工し、焼結体の表面に絶縁処理や外部電極を設けて分極処理を施すことで得られる。本発明による積層型圧電アクチュエータ素子は、柱体に加工し、前記シートと電極シートを積み重ねた方向が柱体の高さをなす構造にする。
【0020】
前記シートと前記電極シートは、焼成されることにより、圧電セラミックス層と内部電極層を形成する。内部電極層は、前記電極ペーストが前記シートに印刷された部分であり、内部電極層は、焼結体となったとき、あるいは切断加工されたときに、表面に露出するように、前記電極ペーストを前記シートに印刷する。本発明では、前記内部電極層に複数の貫通する孔部を設けることにより、焼成過程において、前記内部電極層を貫通する圧電セラミックス層が前記孔部に形成される。このため、重なり合う圧電セラミックス層が前記貫通する圧電セラミックス層により一体化するので、圧電セラミックス層と内部電極層との接合面の接合力が向上する。
【実施例】
【0021】
以下、具体的な例を挙げ、本発明の積層圧電アクチュエータ素子について図面を参照しながら、さらに詳しく説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施例による積層型圧電アクチュエータ素子の側面図である。本実施例による積層型圧電アクチュエータ素子20は、複数の圧電セラミックス層21と複数の内部電極層22とを交互に、高さ方向に積層する構造とした。
【0023】
内部電極層22には孔部28を設け、重なり合う圧電セラミックス層21同士がこの孔部28を介して一体焼成される構造とした。内部電極層22が表面に露出した部分には左右交互にガラスを主成分とする絶縁層23を設け、絶縁層23の上から、内部電極層22の露出した部分を電気的に接続する外部電極24,25をそれぞれの面に設けた。
【0024】
以下、本実施例による積層型圧電アクチュエータ素子20の製造方法について説明する。ニッケルニオブ酸鉛を主成分とする圧電セラミックス粉末を溶媒中に分散した後、バインダーを加えて泥しょうを作り、これを成膜プロセスによりキャリアテープ上に成膜して厚さ40〜100μmのシートにする。このシートに銀とパラジウムを主成分とする電極ペーストをスクリーン印刷して、電極シートを作製する。この電極シートは孔部の位置が異なる2種類の電極シートを作製する。
【0025】
前記電極シートと前記シートを所定の形状に打ち抜き、電極シートとシートを交互に所定の枚数を積み重ねて、加熱しながらプレスして、積層体にする。この積層体を脱バインダー処理し、焼成プロセスにて1000〜1200℃の温度で焼成して、焼結体にする。この焼結体を四角柱に加工する。前記電極シートに印刷された電極ペーストは、焼成プロセスにおいて、内部電極層となる。
【0026】
図2は、本発明の一実施例による積層型圧電アクチュエータ素子の内部電極層の部分透視斜視図である。内部電極層22は、内部電極層22a,22bとからなる。また、内部電極層22a,22bには複数の孔部28を設けてある。この孔部28は前記電極シート製作時に、スクリーンでのパターン印刷により形成した。また、内部電極層22aと内部電極層22bに設けた孔部28は、重なり合わないようにするのが好ましい。圧電セラミックス層と内部電極層との接合面への応力の集中を緩和し、接合強度が向上するからである。
【0027】
図1において、内部電極層22の露出部分には絶縁層を設けた。絶縁層は、ガラス粉末を分散した浴槽内に加工した焼結体を浸漬して、電圧を印加して露出している内部電極層とその近傍の圧電セラミックス層の表面のみにガラスを付着させた後、550〜750℃、15〜30分間の焼き付け処理を行い、絶縁層を固着させた。
【0028】
さらに、図1に示すように、表面に外部電極24,25を設け、絶縁層23がない内部電極層22の露出した部分を電気的に接続し、さらに外部電極24,25にリード線26,27を半田付けして、積層型圧電アクチュエータ素子20とした。本実施例による積層型圧電アクチュエータ素子20の外形寸法は、2mm×2mm×10mm(高さ)とした。
【0029】
本実施例による積層型圧電アクチュエータ素子は、内部電極層に複数の孔部を設けることにより、孔部を介して重なり合う圧電セラミックス層が一体となるので、積層型圧電アクチュエータ素子内部に生じる引っ張りの応力に対して強度が強い積層型圧電アクチュエータ素子の提供が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明による積層型圧電アクチュエータ素子は、各種電子装置、電子機器、電子部品等の電気−機械変換素子あるいは機械−電気変換素子として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例による積層型圧電アクチュエータ素子の側面図。
【図2】本発明の一実施例による積層型圧電アクチュエータ素子の内部電極層に関わる部分透視斜視図。
【図3】従来の積層型圧電アクチュエータ素子の側面図。
【符号の説明】
【0032】
10,20 積層型圧電アクチュエータ素子
11,21 圧電セラミックス層
12,22,22a,22b 内部電極層
13,23 絶縁層
14,15,24,25 外部電極
16,17,26,27 リード線
18 上面部
19 底面部
28 孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電セラミックス材料よりなる複数の圧電セラミックス層と導電性を有する複数の内部電極層とを交互に積層してなる積層体と、該積層体の側面に前記内部電極層が一層おきに交互に接続された一対の外部電極を備えた積層型圧電アクチュエータ素子において、前記内部電極層が、複数の孔部を有することを特徴とする積層型圧電アクチュエータ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−41991(P2008−41991A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215604(P2006−215604)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)