説明

積層型圧電素子およびその製造方法

【課題】インジェクタ装置に用いる高変位機能を有した積層型圧電素子を提供する。
【解決手段】駆動時に発生する応力が内部電極非形成部に作用し、圧電セラミックの耐荷重を越えた場合には圧電セラミックの破壊が起こり、結果として素子の絶縁の低下や、端子間のショートとという不具合を駆動時に内部応力が集中しやすい圧電セラミック部に、ブレードやレーザー光線等による堀り込み加工により堀込み加工溝6を形成することで、積層型圧電素子の割れ防止を行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アクチュエータ用の積層型圧電素子およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車の内燃機関等のインジェクタとして、例えば特許文献1に示されるように、積層型圧電素子を使用する試みがなされている。このインジェクタ用素子として、電子部品としては30〜40mmの素子高さで約150Vの駆動電圧にて、約40μmの変位を160℃程度の高温環境において長時間にわたり駆動することが要求されており、圧電素子としては高変位で長寿命な素子を実現しなければならない。
【0003】
さて、積層型圧電素子の構造としては、内部電極非形成部での内部電極と外部電極の間の距離をある程度確保する必要があり、距離が短ければ、積層型素子の絶縁抵抗、耐電圧、寿命などを劣化させてしまうことになる。また、仮に外部からの影響で内部電極非形成部にクラックが導入された場合にも空中放電が生じない様に内部電極と外部電極の間の距離を確保しておく必要がある。
【0004】
しかし、内部電極非形成部はアクチュエータとしては拘束部となるため、内部電極と外部電極の間の距離を大きくすると、素子の変位性能が発揮しにくくなるので、ある程度小さくする必要がある。
【0005】
さらに、素子を変位させた時に発生する応力が内部電極非形成部に作用し、セラミックの耐荷重を越えた場合にはセラミックの破壊が起こり、結果として素子の絶縁を下げたり、端子間をショートさせてしまうこととなる。従って、高変位を要求される素子では、内部電極非形成部での内部電極と外部電極の間の距離を狭くしながら、クラックの入りにくい構造を実現せねばならない。
【0006】
内部電極非形成部の構造に関しては、溝加工を施す先行技術として、特許文献2がある。この文献には内部電極非形成部の作製、つまり内部電極と外部電極の間に絶縁層を設ける為に、素子側面に露出した内部電極部分を加工することが記載されている。
【0007】
さらに応力緩和層を施す先行技術として、特許文献3がある。この文献には、図4に示すように、グリーンシートにチタン酸鉛を印刷しそれを任意の層で積層することで焼成時にチタン酸鉛の微粉末で満たされた応力緩和層9を形成することが記載されている。
【0008】
【特許文献1】
特開平11−229993号公報
【特許文献2】
特開2002−285937号公報
【特許文献3】
特開2001−267646号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献2は、内部電極非形成部による絶縁部として、内部電極部を削除するために溝を形成し、そこに絶縁物を埋め込むものであるが、外部電極の剥離を防止することを目的としており、内部電極の全てに対して、溝の形成と絶縁物の埋め込みが必要であり、加工に手間がかかる。
【0010】
特許文献3の場合は、チタン酸鉛は確かに難焼結性であり、焼成中の降温過程の500℃付近で微細に破壊され、応力緩和層となることは期待可能と思われる。しかし、これはチタン酸鉛が単体で存在する場合であり、一般のPZTをベースにした圧電セラミックのグリーンシート上に印刷しそれをプレス加工で強く押し付けた場合には、そのプレス体を焼成する際の昇温過程で圧電セラミックと相互拡散が生じ、上述したようなチタン酸鉛単体での挙動が期待しきれない。また、圧電セラミックの組成によっては圧電セラミックの組成変動を起こすことも懸念される。
【0011】
また、チタン酸鉛がプレス成形時に圧電セラミック部に強く押し付けられ、さらに焼成中の降温過程で微粉末になるという現象により圧電セラミックとチタン酸鉛の界面では、大小の凹凸が形成されてしまう。この凹凸部は圧電セラミックからすれば、切り欠き状態となってしまう。昇温過程では圧電セラミックとチタン酸鉛という焼結温度の違う材料の収縮差により生じる応力、降温過程でのチタン酸鉛の破壊に伴う応力、さらに素子駆動時に内部電極非形成部に発生する応力が、上述の切り欠きの存在で容易にクラックに移行することが予想される。これらの凹凸はランダムに生じており、時には内部電極に向かってクラックを走らせるきっかけになってしまい、内部電極材のマイグレーション等により長期使用中に絶縁破壊を引き起こすことも懸念される。
【0012】
さらに、チタン酸鉛の微粉末により溝部を埋めた構造にすることで耐湿性の向上が測られているが、一般に焼成後の素子は何らかの外形加工を必要とすることが多い。一般にはセラミックのダメージや露出する内部電極中の導電成分の除去の為にも切削液を用いながらの切削加工が行われる。その際、降温中に微細に破壊されたチタン酸鉛の微粉末間の隙間に毛細管現象が生じ、この微粉末部分に液体が吸い込まれ、微粉中に留まってしまう。この液体が、上述したような凹凸部を起点とする内部電極に向かうクラック部に作用すると絶縁破壊に至る危険性がさらに高まることは容易に想像できる。仮に、降温過程で微細に破壊されたチタン酸鉛の微粉末間が毛細管現象が生じないくらい緻密になっているのであれば、応力を緩和するという本来の効果が期待できないこととなる。
【0013】
よって、本発明の解決しようとする課題は、内部電極非形成部でのクラックの入りにくい構造を実現し、結果として素子の絶縁低下、端子間のショートを起こしにくい、高変位の積層型圧電素子とその比較的容易な製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明では、駆動時に内部応力が集中しやすい圧電セラミック部にあらかじめ堀込み等による溝加工を行い、応力による素子の割れ防止を行う。
【0015】
この溝加工を行う方法として、グリーン積層体にブレード等を用いた切削による堀り込み、または、焼結した積層体にレーザ光線等による融解蒸発による堀り込みを行う。
【0016】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を図を用いて説明する。図1は、本発明におけるインジェクタ装置用積層型圧電素子の実施の形態を示す斜視図であり、図2は、図1のA−B線断面図である。図3は、レーザー光線による堀込み加工例を示す図である。
【0017】
図1、図2に示すように、本発明の積層型圧電素子は、圧電セラミック1と内部電極2とを交互に積層してなるアクチュエータ素子である。例えば、ジルコン酸チタン酸鉛Pb(Zr,Ti)Oを主成分として含む圧電セラミックのグリーンシート上にAgとPdの混合粉、セルロースおよび溶剤などから構成された電極用ペーストで内部電極を印刷し、そのグリーンシートを積層し、もしくは、圧電セラミックのペーストと前記電極用ペーストを交互印刷するなどして積層し、できたグリーン積層体を焼成して製造する。その際に印刷パターンの設定等により積層体のすくなくとも2つの側面において、内部電極2の端部を対向電極となるように内部電極と外部電極との距離を設ける。この部分が内部電極非形成部である。
【0018】
積層体には、内部電極非形成部の一部に堀込み加工溝6が形成されている。さらに、露出している内部電極2の端部はAg粉ペーストなどを焼付けて形成した外部電極3と接続されており、アクチュエータ本体の上下に、複数の圧電セラミックからなる不活性層4と、外部との電気的接続を行うためのリード線5、そして外装樹脂8から構成されている。この積層型圧電素子はリード線5を通じて圧電セラミックの分極方向に電界をかけると図2に示す変位方向7に変位が生じる。
【0019】
図2において溝を施す場所は、インジェクション用の素子を例にすると、高さ方向では2mm間隔程度が好ましく、30mm素子高さの場合には素子高さの1/15〜14/15部の14カ所に設けることが望ましい。これは圧電セラミック層の厚さを85μmと一定にし、溝の間隔のみを変えた積層型圧電素子を作製して、150Vの電圧での駆動試験を行ったところ、2mm間隔以上ではクラックが入りやすく、2mm間隔以下の場合はクラックが入りにくいという結果が得られており、溝の間隔が狭い方が、応力緩和ができるが、狭くなるほど加工に手間がかかるためである。
【0020】
但し、駆動電圧が下がれば変位量および内部応力も下がるため、素子の駆動条件により溝の間隔の最適値は変化する。素子全体の変位とその時に生じる応力が、圧電セラミック数層に集中して加わろうとする状態が生じた場合に、その数層のセラミックの抗張力が応力に耐えられるか否かということで溝の間隔が決められると考えており、FEMなどの応力解析の精度を上げれば、製品の仕様に応じた溝の位置や深さなどもシュミレーションでより効果的に決められる。
【0021】
また、上記と同様な溝の深さのみを変えて試作した積層型圧電素子での実験により、溝の深さは内部電極と外部電極の距離の60〜90%程度とするのが好ましい。
【0022】
このような溝を形成するには、ブレード刃による切削加工が適している。実施にあたっては、株式会社ディスコ製のダイシングソーおよびグリーンセラミック切断用のブレードを用いて行った。グリーン積層体のブレードによる加工では、仮に切削中に脱粒等によりセラミック表面に凹凸やマイクロクラックが発生しても、その後の焼結で固体拡散により解消されることが期待できる。また、切削加工では、溝の先端部はU字状になる場合が多く、素子の駆動中に発生した応力で仮にクラックが発生しても、U字状の底部を起点に圧電セラミック中をほぼ真っ直ぐ進み単にセラミックのみが割れることとなるが、この場合には内部電極が外部に露出させられないので、耐湿性は確保されている。
【0023】
さらに、焼結した積層体に本発明に係る溝を形成する場合はレーザー光線による掘り込み加工の方が望ましい。図3に示す堀込み加工例は、発振波長1.06μmのランプ励起YAGレーザーを用い、溝形成した結果である。図3は加工精度の確認を含め、内部電極間の中央部を各層毎に溝形成したものである。レーザー加工は、まず素子を治具にセットし、その治具の端部を基準に用いながら治具をレール上に流し、その流れる過程でレーザー光線を素子上の設計位置に当てて溝加工を施した。このような加工の場合、レーザー光線を照射する加工時間は僅かであり、次工程への移動中に行うことができる。さらにその後、この治具のまま端面加工等を行うことも可能であるため、従来の製造工程と比較して、治具へのセットに要する加工工数を増やさずに済む。
【0024】
焼結した積層体に溝を形成する場合には、レーザーによる加工では加工表面のほんの僅かの厚みではあるが焼成されており、焼結後のブレード等による切削加工に較べマイクロクラックの残留が少なく、加工時間が短くできる利点がある。また、レーザー光線のフォーカス調整により溝の形状を変えることができる。例えば、V字状にすることもでき、素子の駆動中に発生した応力で仮にクラックが発生しても、V字状の底部を起点に圧電セラミック中をほぼ真っ直ぐ進み単にセラミックのみが割れることとなる。この場合には内部電極が外部に露出させられないので、耐湿性は確保されている。
【0025】
また、本発明の溝加工を施した場合には溝加工の無い積層型圧電素子と比較し変位が大きくなり、さらに変位動作の繰り返しに伴う変位の変動が抑制された。これは、変位の拘束が溝加工で一部解放されたことと、駆動中に導入されるクラックが抑制されたために拘束がぼぼ一定となり、結果的に変位の変動が抑制されたものと思われる。
【0026】
切削加工以外により、溝を形成する方法としては各種考えられるが、グリーンシートの一部を予め打ち抜き加工したものを積層して溝を形成する方法では、プレスの段階でシートの一部が流動してしまい希望する溝形状にするのは困難である。
【0027】
また、グリーンシートにカーボン等を印刷し、脱バインダーおよび焼成の過程で空隙を形成しその部分を溝にする方法では、カーボンペースト専用の印刷工程が必要であり、その乾燥時にグリーンシートに膜アタックや乾燥しすぎと言ったダメージを与えてしまう可能性があり、シートの厚み単位のピッチでしか溝が形成できず、応力が最も集中する場所への溝加工ができないことが懸念される。本発明の場合では、素子形状がある程度できあがった段階で、素子の形状をチェックし加工することができるため、応力が最も集中する場所への加工が可能である。
【0028】
【発明の効果】
よって、本発明により、内部電極非形成部でのクラックの入りにくい構造を実現し、結果として素子の絶縁低下、端子間のショートを起こしにくい、高変位の積層型圧電素子を比較的容易に提供することができる。また、本発明の溝加工により変位量の増加と駆動時の変位量の変動をも抑制することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の積層型圧電素子を示す斜視図。
【図2】図1のA−B線断面図。
【図3】レーザー光線による堀込み加工例を示す図。
【図4】従来の積層型圧電素子を示す斜視図。
【符号の説明】
1 圧電セラミック
2 内部電極
3 外部電極
4 不活性層
5 リード線
6 堀込み加工溝
7 変位方向
8 外装樹脂
9 応力緩和層(チタン酸鉛の微粉で充填)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電セラミック層と内部電極層が交互に積層した積層体で、該積層体の側面に前記内部電極が1層または複数層おきに対向電極となるように前記内部電極と交互に接続された外部電極を有する積層型圧電素子において、隣接する前記内部電極層間の前記圧電セラミック層に溝加工を行ったことを特徴とする積層型圧電素子。
【請求項2】
前記溝加工を行う方法として、グリーン積層体にブレードによる切削加工を行うことを特徴とする請求項1記載の積層型圧電素子の製造方法。
【請求項3】
前記溝加工を行う方法として、焼結した積層体にレーザ光線による堀り込み加工を行うことを特徴とする請求項1記載の積層型圧電素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2004−288794(P2004−288794A)
【公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−77507(P2003−77507)
【出願日】平成15年3月20日(2003.3.20)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)