説明

積層造形装置

【課題】全ての造形材質及び形状に於いて、造形物表面への模様の形成、或は所望の表面形状の作製を簡易な作業で実施できる積層造形装置を提供する。
【解決手段】樹脂3を硬化させ、硬化した樹脂層を積層して積層造形物13を造形する積層造形装置1であって、樹脂を硬化させる樹脂硬化手段9,11と、該樹脂硬化手段を制御する制御装置14を具備し、該制御装置は前記積層造形物の基となる断面データと、前記積層造形物の表面に追加される模様の基となる表面形状パターンとを有し、該表面形状パターンを選択することで前記積層造形物に表面形状を追加した状態で造形する為の断面データを作成し、その断面データを基に前記樹脂硬化手段を制御して前記積層造形物を造形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体又は粉末材料にレーザ光線を照射し硬化させ、或は溶融した材料を積層させ、或はプリンタ技術の要領で粉末材料に硬化液を配置しつつ硬化させて積層させることで立体造形物を造形する積層造形装置、特に造形物の目的に合わせて造形物の表面の性状、形状を変えることのできる積層造形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層造形装置は、3次元CADデータから立体造形物を造形する際に用いられる。又、前記積層造形装置は、3次元CADデータに基づき、ソリッドモデルの表面を三角形のパッチで覆尽して立体を表現したデータであるSTL(Standard Triangulated Language)データを作成し、STLデータを水平方向に輪切りにすることで等高線データ(断面データ)を作成し、断面データに従って、硬化された材料を繰返し積層させることで短時間で立体造形物の造形が可能となっている。
【0003】
又、前記積層造形装置には、光造形、粉末造形の様に、液体又は粉末材料に紫外線等のレーザ光線を照射し、硬化させて積層させるものや、FDM(Fused Deposition Modeling:熱溶解積層法)の様に溶融した材料を積層させるもの、若しくは3Dプリンタの様にプリンタ技術の応用で粉末材料に硬化液を配置しつつ硬化させて積層させるもの等がある。
【0004】
又、短時間で試作品を製作するRP(Rapid Prototyping:迅速試作品造形)の為に開発された積層造形装置は、近年の材料性能改善に伴い、試作品ではなく直接製品を造形するRM(Rapid Manufacturing:迅速製品造形)化が進められている。
【0005】
一般的な製品の表面は、意匠性、機能性向上の為、所定の性状(表面の状態)、パターン化された凹凸等の表面形状(以下、性状、表面形状を表面形状と略称する)が施されており、例えば図6の様なシボ加工が施されている。現在の積層造形装置を用いてシボ加工の様な表面形状を得る為には、CAD上で3次元モデルデータ表面に手動で表面形状を作成してから造形する。又は、造形物表面に化学的処理を行う、若しくは造形物にサンドブラストを行う等の物理的処理を行う必要があった。
【0006】
然し乍ら、CAD上で表面形状を付加していく方法は、3次元モデルデータの形状をディスプレイ等によって確認しながら手動で表面性状を変更する作業が必要な為、作業者への負担が大きく、化学処理の場合には、薬品を使用する為造形物の材質の制限が多く、又物理的処理の場合は、砂などの粒を造形物に吹付ける為、繊細な構造部分を破損する可能性が高いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−254241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は斯かる実情に鑑み、全ての造形材質及び形状に於いて、造形物表面への模様の形成、或は所望の表面形状の作製を簡易な作業で実施できる積層造形装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、樹脂を硬化させ、硬化した樹脂層を積層して積層造形物を造形する積層造形装置であって、樹脂を硬化させる樹脂硬化手段と、該樹脂硬化手段を制御する制御装置を具備し、該制御装置は前記積層造形物の基となる断面データと、前記積層造形物の表面に追加される模様の基となる表面形状パターンとを有し、該表面形状パターンを選択することで、前記積層造形物が選択された表面形状を持つ様に新たな断面データを作成し、その断面データを用いて前記積層造形物を造形する積層造形装置に係るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂を硬化させ、硬化した樹脂層を積層して積層造形物を造形する積層造形装置であって、樹脂を硬化させる樹脂硬化手段と、該樹脂硬化手段を制御する制御装置を具備し、該制御装置は前記積層造形物の基となる断面データと、前記積層造形物の表面に追加される模様の基となる表面形状パターンとを有し、該表面形状パターンを選択することで、前記積層造形物が選択された表面形状を持つ様に新たな断面データを作成し、その断面データを基に前記樹脂硬化手段を制御して前記積層造形物を造形するので、造形後の該積層造形物に対して化学的、物理的処理を用いて模様を形成する必要がなく、該積層造形物の材質や模様の形状を自在に選択することができ、又断面データの作成も容易に行うことができ、作業者に掛る負担を大幅に軽減できるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に於ける積層造形装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明に於ける断面データ作成の手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明に於ける模様形成前の積層造形物の断面データ(A)と、斜視図(B)を示している。
【図4】3次元モデルデータの模様形成に於ける設定画面の一例である。
【図5】本発明に於ける模様形成後の前記積層造形物の断面データ(A)〜(C)と、斜視図(D)を示している。
【図6】従来の構造モデル表面の模様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0013】
先ず、図1に於いて、本発明の積層造形装置1の概略構成について説明する。
【0014】
図中、2は液状光硬化性樹脂3を貯留するタンク、4は前記液状光硬化性樹脂3中に没下した昇降テーブルを示している。
【0015】
該昇降テーブル4は、支持アーム5を介してテーブルエレベータ6により水平に支持されると共に昇降される様になっている。
【0016】
前記タンク2の壁面には、水平に延びるガイド7が設けられ、該ガイド7は前記液状光硬化性樹脂3の液面よりも上方に配置されている。
【0017】
前記ガイド7には、掃引板8が摺動自在に設けられ、該掃引板8は図示しないリコータ装置によって、前記ガイド7に沿って前記液状光硬化性樹脂3の液面上を水平方向に駆動される様になっている。
【0018】
前記タンク2の上方にはレーザ光線射出装置9及び偏向光学部材であるスキャナミラー11が設けられている。前記レーザ光線射出装置9は、前記液状光硬化性樹脂3を硬化させる充分な光強度を有する紫外線等のレーザ光線12を発振射出可能であり、又前記スキャナミラー11は回動可能となっており、前記レーザ光線射出装置9から射出されたレーザ光線12の方向を、該スキャナミラー11の回動により制御し、該レーザ光線12が前記液状光硬化性樹脂3の液面を照射すると共に、等高線データ(断面データ)に基づいて所定のパターンで走査することが可能となる。尚、前記レーザ光線射出装置9、前記スキャナミラー11等は、樹脂硬化手段を構成している。
【0019】
又、図中、13は前記積層造形装置1によって造形された造形物を示している。
【0020】
前記テーブルエレベータ6、図示しないリコータ装置、前記レーザ光線射出装置9、前記スキャナミラー11は制御装置14と電気的に接続され、該制御装置14によって制御される様になっている。
【0021】
該制御装置14は主制御部15、記憶部16、モデル形状認識部17、断面データ作成部18を具備し、モニタ等の表示部19及びマウスやキーボード等の操作部21と接続されている。
【0022】
前記記憶部16には積層造形の各工程を実行する為のシーケンスプログラム、後述する断面データ等に基づき前記造形物13の形状、表面形状を認識する形状認識プログラム、断面データ作成工程を実行する為の断面データ作成プログラム、及び前記造形物13を造形する際に必要な断面データが格納されると共に、該造形物13に形成する各種表面形状パターンのデータ等の各種データが格納されている。
【0023】
又、前記モデル形状認識部17は前記記憶部16に格納された形状認識プログラムに従って、断面データから前記造形物13の形状を確認し、前記造形物13の表面がどの様な形状で、どの程度の面積を有するかを認識する機能を有している。
【0024】
又、前記断面データ作成部18は前記記憶部16に格納された断面データ作成プログラムに従って、前記モデル形状認識部17によって認識された積層造形物の形状に関する情報と、新たに指定した表面形状パターンから、表面形状が変更された積層造形物を作る為の断面データを作成する機能を有している。
【0025】
次に、前記造形物13を造形する場合について説明する。
【0026】
該造形物13を造形する際には、該造形物13の断面データを前記記憶部16に格納する。
【0027】
上記に加えて前記造形物13の表面に模様を形成したい場合には、断面データから前記造形物13の形状を認識し、前記記憶部16に予め格納されている表面形状パターンから前記造形物13に形成する模様の断面形状を選択することで、前記断面データ作成部18を用いて、新たな表面形状を持った造形物13を作製する為の断面データを作成することができる。
【0028】
次に、図2に示されるフローチャートを用い、断面データ作成の手順について説明する。尚、以下では、X×Yで表される断面データの面積を、X×Xで表される正方形としている。
【0029】
STEP:01 前記造形物13を造形するにあたって、前記造形物13の断面データを前記記憶部16に格納する。
【0030】
STEP:02 次に、前記造形物13の表面に模様を追加するかどうかを決める。前記造形物13の表面に模様を追加しない場合には、STEP:01で格納した断面データを基に、前記造形物13を造形する。
【0031】
STEP:03 前記造形物13の表面に模様を追加する場合には、先ず前記モデル形状認識部17が、前記記憶部16に格納された形状認識プログラムを実行することで、断面データから前記造形物13の形状を認識する。
【0032】
STEP:04 更に、所望する表面形状パターンが前記記憶部16に格納されているか判断する。
【0033】
STEP:05 図4は本発明に於ける設定画面の一例を示している。所望する表面形状パターンを選択し、更に模様の寸法X、深さZを入力する。尚、図示はされていないが、前記設定画面で、模様の大きさ、模様を追加する位置、模様を形成する数等の設定も可能となっている。
【0034】
STEP:06 所望する表面形状パターンが前記記憶部16に格納されていない場合、所望の表面形状パターンを前記記憶部16へ送る。該表面形状パターンは、JPEG等の画像データや、又はCAD等の3次元データでもよい。寸法Xや深さZ等の設定はSTEP:05と同様に行われる。
【0035】
STEP:07 STEP:05,STEP:06に基づき、新しい断面データを作成する。例えば、図3(A)の断面データを0〜50mm積層することで作製する。図3(B)の50mm角立方体形状の積層造形物の表面に、10mm×10mm×5mmのシボ22を1面につき等間隔で4つ形成すると入力した場合、前記モデル形状認識部17による演算結果、及び入力された設定に従って、前記断面データ作成部18が前記記憶部16に格納された断面データ作成プログラムを実行する。
【0036】
その結果、図5(A)に示される0〜5mm及び55〜60mm迄の断面データ、即ち積層造形物の上面及び下面に形成された4つの前記シボ22の断面データと、図5(B)に示される5〜15mm及び25〜35mm及び45〜55mm迄の断面データ、即ち積層造形物の前記シボ22が形成されていない箇所の断面データと、図5(C)に示される15〜25mm及び35〜45mm迄の断面データ、即ち積層造形物の正面、背面及び両側面に前記シボ22が形成された箇所の断面データという3種類の断面データが作成される。最後に、作成された断面データを前記記憶部16に格納することで、前記造形物13の基となる断面データの作成が終了する。
【0037】
前記記憶部16に格納された断面データを基に、前記制御装置14によって造形処理が開始される。
【0038】
先ず、該制御装置14の命令により、前記テーブルエレベータ6が前記昇降テーブル4を、前記液状光硬化性樹脂3の液面から積層ピッチdだけ降下させる。次に、図示しないリコータ装置が前記掃引板8を前記タンク2の端から端迄摺動させ、前記液状光硬化性樹脂3の液面を掃引することで、該液面が静定され、又該液面に浮遊する気泡が除去される。
【0039】
その後、前記制御装置14により、前記レーザ光線射出装置9が駆動され、該レーザ光線射出装置9がレーザ光線12を射出し、又断面データに基づき前記スキャナミラー11を駆動制御し、前記液状光硬化性樹脂3の液面のレーザ光線照射領域に前記レーザ光線12を照射し、前記液状光硬化性樹脂3を硬化させる。
【0040】
次に、更に高さdだけ前記昇降テーブル4を降下させ、前記掃引板8を前記タンク2の端から端へ、先程とは逆方向に摺動させ、前記液状光硬化性樹脂3の液面の静定と気泡の除去を行う。
【0041】
又、前記レーザ光線射出装置9が駆動され、前記スキャナミラー11によってレーザ光線12が断面データに従って偏向され、前記液状光硬化性樹脂3の液面のレーザ照射領域に照射されることで、該液状光硬化性樹脂3を硬化させる。
【0042】
以下、上記工程が繰返されることで、図5(D)に示される様に、表面に模様が形成された前記造形物13が造形される。
【0043】
上述の様に、所望の表面形状パターンを有した積層造形物が得られる様、新しい断面データを作成し、その断面データに従って前記造形物13を造形するので、模様が形成された状態で該造形物13が完成し、造形後の該造形物13に対して薬品、或はサンドブラスト等の処理によって該造形物13の表面に模様を形成する必要がない。従って、該造形物13の材質が制限されることがなく、又微細な模様であっても破損することがない。
【0044】
又、設定画面を基に、簡単な設定をするだけで、自動的に模様が形成された積層造形物の断面データが作成されるので、表面の模様全てを手動で変更する必要がなく、作業者に掛る負担を大幅に軽減できる。
【0045】
尚、本実施例では、前記レーザ光線12で液状光硬化性樹脂3を硬化させ、堆積させて前記造形物13を造形する光造形の場合について説明したが、粉末材料に前記レーザ光線12で融解させ、積層させる粉末造形、或はプリンタ技術の要領で、粉末材料に硬化液を配置しつつ硬化させて積層させることで前記造形物13を造形する場合であっても適用可能であることは言う迄もない。
【0046】
又、前記造形物13の造形に使用される材料は、樹脂に限らず、光硬化型の金属系材料や金属粉、或は砂等であっても適用可能であり、又造形材料に照射される前記レーザ光線12は、紫外線レーザ光線、例えば高エネルギの赤色レーザ光線であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 積層造形装置
13 造形物
14 制御装置
16 記憶部
17 モデル形状認識部
18 断面データ作成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を硬化させ、硬化した樹脂層を積層して積層造形物を造形する積層造形装置であって、樹脂を硬化させる樹脂硬化手段と、該樹脂硬化手段を制御する制御装置を具備し、該制御装置は前記積層造形物の基となる断面データと、前記積層造形物の表面に追加される模様の基となる表面形状パターンとを有し、該表面形状パターンを選択することで前記積層造形物に表面形状を追加した状態で造形する為の断面データを作成し、その断面データを基に前記樹脂硬化手段を制御して前記積層造形物を造形することを特徴とする積層造形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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