説明

積層防護服

【課題】キャリヤー染色によって多様な色相に染色することができ、かつ、染色時における耐光剤の脱落を抑制できる、耐光性を有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を、構成布帛とする積層防護服を提供すること。
【解決手段】疎水性の高い紫外線吸収剤を用い、かつ、特定の物性を有するようなメタ型全芳香族ポリアミド繊維を形成し、当該メタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いた布帛を、積層防護服を構成する少なくとも1層とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層布帛からなる防護服に関する。より詳しくは、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を、少なくとも1層として含む積層防護服に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維等のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、分子骨格のほとんどが芳香族環から構成されているため、優れた耐熱性と寸法安定性を発現する。これらの特性を活かして、メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、消防士が消火作業中に着用する耐熱防護服を構成する繊維として使用されている。
【0003】
ここで、近年、耐熱性防護服に関する遮熱性の評価方法の標準化がなされ、輻射熱はもとより、伝導熱にも注目した評価方法が確立された(試験法番号:ISO9151)。この評価方法による基準をクリアするに当たっては、熱伝導を遅延させる目的で、防護服内に大量の空気層を作ることが効果的である。そこで、表地層・透湿防水性を有する中間層・遮熱性を有する裏地層からなる3層構造や、表地層と裏地層のそれぞれに充分な量の空気を含有させることで中間層を簡略化した2層構造等が提案されており、2層または3層を重ねて縫製して最終的な耐熱性防護服が作成されている(特許文献1参照)。
【0004】
ところで、衣料用途等に用いられる着色した繊維を得る方法としては、一般的に、染色による方法、染顔料を使用しての原着染めによる方法がある。そして、全芳香族ポリアミド繊維を着色する方法としては、例えば、塩基性染料とベンジルアルコール、アセトフェノン等の染色助剤(キャリヤー)を用いて染色する方法が一般的に知られている。
【0005】
しかしながら、全芳香族ポリアミド繊維は、脂肪族ポリアミド繊維の染色に用いられるような塩基性染料によって染色すると、得られる着色繊維の耐光性が極めて悪くなり、光による褪色が著しいという問題があった。
【0006】
そこで、着色した全芳香族ポリアミド繊維の耐光性を向上させる目的で、特開昭49−75824号公報(特許文献2)では、芳香族ポリアミド溶液を乾式または湿式紡糸し、得られた繊維を洗浄した後乾燥する前に、繊維に紫外線遮蔽物質の水性分散液を含浸させる方法が提案されている。しかしながら、該方法では、キャリヤー染色時にキャリヤーの影響によって紫外線遮蔽物質の脱落が起こりやすいという問題があった。
【0007】
また、耐光性を有するノンキャリヤー染色が可能な全芳香族ポリアミド繊維として、特開2003−239136号公報(特許文献3)には、染色助剤のアルキルベンゼンスルフォン酸オニウム塩とヒンダードアミン系耐光剤とを含有させてなるメタ型全芳香族ポリアミド繊維が開示されている。該繊維は、ノンキャリヤー染色が可能となるため染色時に耐光剤の脱落は起こりにくいものの、当該オニウム塩の添加により繊維の製造コストが高くなり、また、得られる繊維の難燃性が低下するため、難燃剤等をさらに添加する必要があった。
【0008】
さらに、光により褪色しない特定の顔料が配合された耐光性を有する着色メタ型全芳香族ポリアミド繊維が提案されている(特開昭50−59522号公報、特許文献4)。しかしながら、当該方法においては繊維の製造工程で顔料を含有させるため、製造時のロスが多くなったり、小ロットによる対応が困難であったり、要求される各種色相の繊維を得ることが難しい等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−016709号公報
【特許文献2】特開昭49−75824号公報
【特許文献3】特開2003−239136号公報
【特許文献4】特開昭50−59522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、キャリヤー染色によって多様な色相に染色することができ、かつ、染色時における耐光剤の脱落を抑制できる、耐光性を有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を、構成布帛とする積層防護服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、疎水性の高い紫外線吸収剤を用い、かつ、特定の物性を有するようなメタ型全芳香族ポリアミド繊維を形成し、当該メタ型全芳香族ポリアミド繊維を用いた布帛を、積層防護服を構成する少なくとも1層とすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、積層布帛からなる防護服であって、前記積層布帛は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を少なくとも1層として含むものであり、前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、水への溶解度が0.04mg/L未満である紫外線吸収剤を含み、染色繊維の染着率が90%以上であり、キャリヤー染色前後における耐光性保持率が80%以上である積層防護服である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層防護服は、キャリヤー染色によって多様な色相に染色することができ、かつ、染色時における耐光剤の脱落を抑制できる、耐光性メタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛を構成布帛とする。したがって、本発明の積層防護服は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維が本来有する、優れた耐熱性、耐炎性、防炎性を発現するとともに、優れた耐光性を兼ね備える。このため、これらの特性が必要とされる分野における工業的価値は極めて大きく、特に、消防士が消火作業中に着用する耐熱防護服として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維>
本発明の積層防護服の少なくとも1層となる、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、以下の特定の物性を備える。本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性、構成、および、製造方法等について以下に説明する。
【0016】
〔染色繊維の染着率〕
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、染色繊維の染着率が90%以上であり、92%以上であることが好ましい。染色繊維の染着率が90%未満の場合には、衣料分野において求められる審美性の点で好ましなく、所望の色相に染色することができない。
【0017】
なお、「染着率」を求めるための「染色」は、以下の染色方法による染色とする。
(染色方法)
カチオン染料(日本化薬社製、商品名:Kayacryl Blue GSL−ED(B−54))6%owf、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意する。
引き続き、繊維と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施する。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色繊維を得る。
【0018】
なお、本発明における「染着率」とは、以下の方法によって得られる値をいう。
(染着率)
原繊維を染色した染色残液に、この染色残液と同容積のジクロロメタンを加え、残染料を抽出する。引き続き、抽出液について、波長670nm、540nm、530nmの吸光度をそれぞれ測定し、あらかじめ染料濃度が既知のジクロロメタン溶液から作成した上記3波長の検量線から抽出液の染料濃度をそれぞれ求め、上記3波長における濃度の平均値を抽出液の染料濃度(C)とする。染色前の染料濃度(Co)を用いて、以下の式にて得られる値を染着率(U)とする。
染着率(U)=[(Co−C)/Co]×100
【0019】
本発明に用いられる繊維において、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の染色繊維の染着率は、後記する製造方法における凝固工程において、スキンコアを有しない凝固形態となるよう凝固浴の条件を調節し、かつ、乾熱処理工程において特定温度で乾熱処理することにより、繊維の結晶化度を適正化することにより制御することができる。染色繊維の染着率を90%以上とするためには、凝固液をNMP濃度45〜60質量%の水溶液とし、浴液の温度10〜35℃とし、乾熱処理温度を繊維のガラス転移温度(Tg)以上となる260〜330℃の範囲とすればよい。
【0020】
〔キャリヤー染色前後における耐光性保持率〕
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、キャリヤー染色前後の耐光性保持率が80%以上である。85%以上であることが好ましく、90%以上であることが特に好ましい。キャリヤー染色前後の耐光性保持率が低いことは、キャリヤー染色の際に耐光剤の脱落が多いことを意味する。染色前後の耐候性保持率が80%未満の場合には、染色後の製品の耐光性効果が十分に発現しないため、好ましくない。
【0021】
なお、本発明における「耐光性保持率」とは、以下の方法で得られる値をいう。
(耐光性保持率の求め方)
耐光性保持率を得るために、未照射綿、およびカーボンアークフェードメーターにて63℃24時間照射した光照射綿を用いて、耐光変褪色度(ΔE*)を得る。耐光変褪色度(ΔE*)は、先ず、光源D65を用いて−10度視野での拡散反射率を測定し、通常の演算処理により、明度指数L*値、クロマティクネス指数a*、b*値を算出し、得られた値を用いてJIS Z−8730に準拠して次式により求める。
[式1]
ΔE*=((ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2
「耐光性保持率」は、染色前後の綿についてそれぞれ、上記耐光変褪色度(ΔE*)を求め、次式により算出される値とする。
[式2]
耐光性保持率(%)=100−(染色後ΔE*−染色前ΔE*)/染色前ΔE*x100
【0022】
なお、「耐光性保持率」の評価における「染色」とは、以下の方法による、染料を用いない染色とする。
(染色方法)
染料を用いず、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意する。
引き続き、繊維と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施する。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色繊維を得る。
【0023】
〔残存溶媒量〕
メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、通常、ポリマーをアミド系溶媒に溶解した紡糸原液から製造されるため、必然的に該繊維に溶媒が残存する。しかしながら、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維中に残存する溶媒の量が、繊維質量に対して0.1質量%以下であることが好ましい。0.1質量%以下であることが好ましく、0.08質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
繊維質量に対して0.1質量%を超えて溶媒が繊維中に残存している場合には、200℃を超えるような高温雰囲気下での加工や使用の際に、残存溶媒が揮発するために環境安全性に劣る。また、分子構造が破壊されることにより、著しく強度が低下するため好ましくない。
【0025】
本発明に用いられる繊維の製造において、原繊維の残存溶媒量を0.1質量%以下とするためには、スキンコアを有しない凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を調節し、かつ、特定倍率で可塑延伸を実施する。
【0026】
なお、本発明における「原繊維の残存溶媒量」とは、以下の方法で得られる値をいう。
(残存溶媒量の測定方法)
原繊維を約8.0g採取し、105℃で120分間乾燥させた後にデシケーター内で放冷し、繊維質量(M1)を秤量する。続いて、この繊維について、メタノール中で1.5時間、ソックスレー抽出器を用いて還流抽出を行い、繊維中に含まれるアミド系溶媒の抽出を行う。抽出を終えた繊維を取り出して、150℃で60分間真空乾燥させた後にデシケーター内で放冷し、繊維質量(M2)を秤量する。繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、得られるM1およびM2を用いて、下記式により算出する。
N(%)=[(M1−M2)/M1]×100
【0027】
〔染色繊維の強度保持率〕
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、50℃の20質量%硫酸水溶液に150時間浸漬した後の染色繊維の強度保持率が65%以上であることが好ましい。強度保持率は、65%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、75%以上であることが最も好ましい。
染色繊維の強度保持率は、耐酸性の指標となり、強度保持率が65%を下回る場合には、布帛として用いた場合の耐酸性が不十分となり、安全性が低下するため好ましくない。
【0028】
本発明に用いられる繊維において、染色繊維の強度保持率を65%以上とするためには、繊維の製造工程において、スキンコアを有しない凝固形態となるよう凝固浴の成分あるいは条件を調節し、かつ、洗浄工程を経た後に特定温度で乾熱処理を実施する。
なお、「強度保持率」の評価に用いる染色繊維は、上記した「染着率」を求めるための染色方法と同一の方法で染色した繊維とし、また、本発明における「強度保持率」とは、以下の方法で得られる値をいう。
【0029】
(強度保持率(耐酸性テスト)の求め方)
セパラブルフラスコへ20質量%の硫酸水溶液を入れ、染色された繊維51mmを浸漬する。続いて、セパラブルフラスコを恒温水槽中に浸漬し、温度50℃に維持し、150時間浸漬する。浸漬前後の繊維につき、それぞれ、破断強度の測定を実施し、浸漬後の繊維の強度保持率を求める。
【0030】
なお、本発明における「破断強度」とは、JIS L 1015に基づき、インストロン社製、型番5565を用いて、以下の条件で測定して得られる値をいう。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0031】
〔原繊維の破断強度、破断伸度〕
本発明の積層防護服を構成する布帛に用いられる原繊維(染色前の繊維)の破断強度は、2.5cN/dtex以上であることが好ましい。2.7cN/dtex以上であることがさらに好ましく、3.0cN/dtex以上であることが特に好ましい。破断強度が2.5cN/dtex未満である場合には、紡績等の後加工工程において繊維が破断し、通過性が悪化するため好ましくない。
【0032】
また、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の原繊維(染色前の繊維)の破断伸度は、30%以上であることが好ましい。35%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることが特に好ましい。破断伸度が30%未満である場合には、紡績等の後加工工程における通過性が悪化するため好ましくない。
なお、ここでいう「破断強度」および「破断伸度」とは、JIS L 1015に基づき、上記した「破断強度」の測定条件で測定して得られる値をいう。
【0033】
本発明に用いられる繊維において、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の「破断強度」は、後記する製造方法における可塑延伸浴延伸工程における延伸倍率、および、乾熱処理工程における熱処理温度を適正化することにより制御することができる。破断強度を2.5cN/dtex以上とするためには、延伸倍率を3.5〜5.0倍とし、さらに、乾熱処理温度を260〜330℃の範囲とすればよい。
【0034】
本発明に用いられる繊維において、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の「破断伸度」は、後記する製造方法における凝固工程において、凝固浴条件を適正化することにより制御することができる。30%以上とするためには、凝固液をNMP濃度45〜60質量%の水溶液とし、浴液の温度10〜35℃とすればよい。
【0035】
[メタ型全芳香族ポリアミドの構成]
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を構成するメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、パラ型等の他の共重合成分が共重合されていてもよい。
【0036】
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性、難燃性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。
メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モルである。
【0037】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの原料〕
(メタ型芳香族ジアミン成分)
メタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン等、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば、2,4−トルイレンジアミン、2,6−トルイレンジアミン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、2,6−ジアミノクロロベンゼン等を例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
【0038】
(メタ型芳香族ジカルボン酸成分)
メタ型全芳香族ポリアミドを構成するメタ型芳香族ジカルボン酸成分の原料としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3−クロロイソフタル酸クロライド等を例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドそのもの、または、イソフタル酸クロライドを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
【0039】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法〕
メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸クロライド成分とを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。
【0040】
なお、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミドの分子量は、繊維を形成し得る程度であれば特に限定されるものではない。一般に、十分な物性の繊維を得るには、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100mL硫酸で30℃において測定した固有粘度(I.V.)が、1.0〜3.0の範囲のポリマーが適当であり、1.2〜2.0の範囲のポリマーが特に好ましい。
【0041】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、上記の製造方法によって得られたメタ型全芳香族ポリアミドを用いて、例えば、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、可塑延伸浴延伸工程、洗浄工程、弛緩処理工程、熱処理工程を経て製造される。
【0042】
[紡糸液調製工程]
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解し、紫外線吸収剤を添加して、紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を調整する。本発明に用いられる繊維の製造においては、紡糸液調製工程において、紡糸液中に特定の紫外線吸収剤を含ませることが重要である。特定の紫外線吸収剤を含む紡糸液から繊維を形成することにより、キャリヤー染色時における紫外線吸収剤の溶出を抑制することができる。
【0043】
紡糸液の調整にあたっては、通常、アミド系溶媒を用い、使用されるアミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取り扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は10〜30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0044】
(紫外線吸収剤)
本発明に用いられる紫外線吸収剤は、疎水性の高いものであって、水への溶解度が0.04mg/L未満であることが必要である。0.04mg/L以上であると、キャリヤー染色時に紫外吸収剤が溶出してしまい、染色後の耐光性が低下するため好ましくない。
また、本発明に用いられる紫外線吸収剤は、メタ全芳香族ポリアミドの光劣化特性波長である360nm近辺の光を効率よく遮蔽し、可視部での吸収が殆ど有していない化合物であることが好ましい。
【0045】
したがって、本発明に用いられる紫外線吸収剤としては、特定の置換ベンゾトリアゾールが好ましく、具体的には、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ペンチルフェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール等が挙げられる。これらの中では、疎水性が高く、可視部での吸収量が小さいことから、2−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールが特に好ましい。
【0046】
かかる紫外線吸収剤のメタ型全芳香族ポリアミド繊維に対する含有量は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維質量全体に対して3.0質量%以上6.5質量%以下の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは4.5質量%以上6.5質量%以下の範囲である。3.0質量%未満の場合には、耐光性効果が十分に発現しないため好ましくなく、6.5質量%より多く配合した場合には、得られる原綿の物性が低下し好ましくない。
【0047】
メタ型全芳香族ポリアミドと紫外線吸収剤との混合方法は、溶媒中に紫外線吸収剤を混合、溶解し、それにメタ型全芳香族ポリアミド溶液を加える方法、あるいは紫外線吸収剤をメタ型全芳香族ポリアミド溶液に溶解させる方法等、特に限定されるものではない。このようにして得られた紡糸液は、下記工程を経て、繊維に成形される。
【0048】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させる。
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が500〜30000個、紡糸孔径が0.05〜0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、10〜90℃の範囲が適当である。
【0049】
本発明に用いられる繊維を得るために用いる凝固浴としては、無機塩を含まないNMP濃度45〜60質量%の水溶液を、浴液の温度10〜35℃の範囲で用いる。NMP濃度45質量%未満ではスキンが厚い構造となってしまい、洗浄工程における洗浄効率が低下し、原繊維の残存溶媒量を0.1質量%以下とすることが困難となる。またNMP濃度60質量%を超える場合には、繊維内部に至るまで均一な凝固を行うことができず、このため、原繊維の残存溶媒量を0.1質量%以下とすることが困難となり、また、耐酸性も不十分となる。なお、凝固浴中への繊維の浸漬時間は、0.1〜30秒の範囲が適当である。
【0050】
本発明に用いられる繊維を得る際には、凝固浴の成分あるいは条件を上記の通りに設定することにより、繊維表面に形成されるスキンを薄くし、繊維内部まで均一な構造にすることができ、その結果、染色性をより向上させ、さらに、得られる繊維の破断伸度を向上させることができる。
【0051】
[可塑延伸浴延伸工程]
可塑延伸浴延伸工程においては、凝固浴にて凝固して得られた繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸処理する。
可塑延伸浴液としては特に限定されるものではなく、従来公知の浴液を採用することができる。
【0052】
本発明に用いられる繊維を得るためには、可塑延伸浴中の延伸倍率を、3.5〜5.0倍の範囲とする必要があり、さらに好ましくは3.7〜4.5倍の範囲とする。本発明に用いられる繊維の製造においては、可塑延伸浴中にて特定倍率の範囲で可塑延伸することにより、凝固糸中からの脱溶剤を促進することができ、原繊維の残存溶媒量0.1質量%以下とすることができる。
【0053】
可塑延伸浴中での延伸倍率が3.5倍未満である場合には、凝固糸中からの脱溶剤が不十分となり、原繊維の残存溶媒量を0.1質量%以下とすることが困難となる。また、破断強度が不十分となり、紡績工程等の加工工程における取り扱いが困難となる。一方で、延伸倍率が5.0倍を超える場合には、単糸切れが発生するため、生産安定性が悪くなる。
可塑延伸浴の温度は、10〜90℃の範囲が好ましい。好ましくは温度20〜90℃の範囲にあると、工程調子がよい。
【0054】
[洗浄工程]
洗浄工程においては、可塑延伸浴にて延伸された繊維を、十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段で行うことが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段とし、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。
【0055】
温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件については、最終的に得られる繊維の品質を満足できるものであれば特に限定されるものではないが、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こるため、繊維中に巨大なボイドが生成し、品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。
【0056】
繊維中に溶媒が残っている場合には、当該繊維を用いた製品の加工、および当該繊維を用いて形成された製品の使用における環境安全性が好ましくない。このため、本発明に用いられる繊維に含まれる溶媒量は、0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.08質量%以下である。
【0057】
[乾熱処理工程]
乾熱処理工程においては、洗浄工程を経た繊維を、乾燥・熱処理する。乾熱処理の方法としては特に限定されるものではないが、例えば、熱ローラー、熱板等を用いる方法を挙げることができる。乾熱処理を経ることにより、最終的に、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
【0058】
本発明に用いられる繊維を得るためには、乾熱処理工程における熱処理温度を、260〜330℃の範囲とする必要があり、270〜310℃の範囲とすることがさらに好ましい。熱処理温度が260℃未満の場合には、繊維の結晶化が不十分となり、繊維の収縮性が高くなり、染色工程での取り扱いが困難となる。一方で、330℃を越える場合には、繊維の結晶化が大きくなりすぎるため、染色性が大きく低下してしまう。また、乾熱処理温度を260〜330℃の範囲とすることは、得られる繊維の破断強度の向上に寄与する。
【0059】
[捲縮工程等]
乾熱処理が施されたメタ型全芳香族ポリアミド繊維には、必要に応じて、さらに捲縮加工を施してもよい。さらに、捲縮加工後は、適当な繊維長に切断し、次工程に提供してもよい。また、場合によっては、マルチフィラメントヤーンとして巻き取ってもよい。
【0060】
<染色処理>
本発明の積層防護服に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維またはメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛を染色処理する際には、既存の染色設備を用いることが出来る。また、染色処理に用いる染料としては、緻密な構造に浸透しやすく、染着率の高いカチオン染料が好ましい。
【0061】
また、本発明の積層防護服に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維またはメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛を染色するためには、染色助剤であるキャリヤーを用いる必要がある。キャリヤーを使用しない場合には、繊維の緻密な構造に染料が十分に浸透できず、染着率が低下するため好ましくない。
【0062】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛>
本発明の積層防護服に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛は、上記したメタ型全芳香族ポリアミド繊維を主成分として含むものである。布帛におけるメタ型全芳香族ポリアミド繊維の含有量は、50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100%である。
【0063】
なお、本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛において、メタ型全芳香族ポリアミド繊維以外に含まれる成分としては、特に限定されるものではない。例えば、繊維状、パルプ状成分等を挙げることができる。繊維としては、例えば、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ノボロイド繊維、難燃アクリル繊維、ポリクラール繊維、難燃ポリエステル繊維、難燃綿繊維、難燃ウール繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維等が例示できる。これらの中では特に、繊維の強度や耐熱性の観点から、パラ型全芳香族ポリアミド繊維を混合することが好ましい。
繊維の混合形態としては、特に限定されるものではないが、混紡して紡績糸の形態で使用することが好ましい。紡績糸の形態とした後に、該紡績糸を用いて布帛を形成することができる。
【0064】
[布帛の形態]
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛の形態は、特に限定されるものではない。本発明においては、織物、編物、不織布等、いずれの形態であってもよい。
布帛の目付は、150〜350g/mの範囲にあることが好ましい。目付が150g/m未満の場合には、充分な耐熱性能が得られない恐れがあり、目付けが350g/mを超える場合には、防護服にした際に重くなるため着用感が阻害されて好ましくない。
【0065】
[布帛の物性]
〔染色布帛の染着率〕
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛は、下記の染色方法で染色した布帛の染着率が90%以上であることが好ましい。染色布帛の染着率は、90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましい。染色布帛の染着率が90%未満の場合には、染色工程における染料のロス量が増えることから、染色工程でのコストが増加するため好ましくない。
【0066】
なお、「染着率」を求めるための「染色」は、以下の染色方法による染色とする。
(染色方法)
カチオン染料(日本化薬社製、商品名:Kayacryl Blue GSL−ED(B−54))6%owf、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意する。
引き続き、布帛と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施する。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色布帛を得る。
【0067】
なお、本発明における「染着率」とは、以下の方法によって得られる値をいう。
(染着率)
布帛を染色した染色残液に、この染色残液と同容積のジクロロメタンを加え、残染料を抽出する。引き続き、抽出液について、波長670nm、540nm、530nmの吸光度をそれぞれ測定し、あらかじめ染料濃度が既知のジクロロメタン溶液から作成した上記3波長の検量線から抽出液の染料濃度をそれぞれ求め、上記3波長における濃度の平均値を抽出液の染料濃度(C)とする。染色前の染料濃度(Co)を用いて、以下の式にて得られる値を染着率(U)とする。
染着率(U)=[(Co−C)/Co]×100
【0068】
〔キャリヤー染色前後における耐光性保持率〕
本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛は、キャリヤー染色前後の耐光性保持率が80%以上であることが好ましい。85%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが特に好ましい。キャリヤー染色前後の耐光性保持率が低いことは、キャリヤー染色の際に耐光剤の脱落が多いことを意味する。染色前後の耐候性保持率が80%未満の場合には、染色後の製品の耐光性効果が十分に発現しないため、好ましくない。
【0069】
なお、本発明における「耐光性保持率」とは、以下の方法で得られる値をいう。
(耐光性保持率の求め方)
耐光性保持率を得るために、未照射布帛、およびカーボンアークフェードメーターにて63℃24時間照射した光照射布帛を用いて、耐光変褪色度(ΔE*)を得る。耐光変褪色度(ΔE*)は、先ず、光源D65を用いて−10度視野での拡散反射率を測定し、通常の演算処理により、明度指数L*値、クロマティクネス指数a*、b*値を算出し、得られた値を用いてJIS Z−8730に準拠して次式により求める。
[式1]
ΔE*=((ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2
「耐光性保持率」は、染色前後の布帛についてそれぞれ、上記耐光変褪色度(ΔE*)を求め、次式により算出される値とする。
[式2]
耐光性保持率(%)=100−(染色後ΔE*−染色前ΔE*)/染色前ΔE*x100
【0070】
なお、「耐光性保持率」の評価における「染色」とは、以下の方法による、染料を用いない染色とする。
(染色方法)
染料を用いず、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意する。
引き続き、布帛と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施する。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色布帛を得る。
【0071】
<積層防護服>
本発明の積層防護服は、上記したメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を少なくとも1層として含むものである。上記のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛が少なくとも1層として用いられていれば、積層防護服の構成は特に限定されるものではないが、好ましくは、表地層と内層とをこの順に重ね合わせた構造からなり、これらの層のいずれも、全芳香族ポリアミド繊維を主成分とする繊維布帛とする構成である。本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛は、耐光性を有することから、表地層に好適に用いることができる。
【0072】
なお、本発明の積層防護服は、好ましくは、表地層と内層とから構成される複合構造を有するが、各層は相互に接合されている必要はなく、重ね合わせて縫合したものであってもよい。また、内層は、ファスナー等を使用して表地層から取り外し可能な形態とし、容易に洗濯が可能な構造とすることもできる。
【0073】
(表地層)
好ましくは本発明に用いられるメタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛を用いる、積層防護服の表地層(積層防護服の表側面)には、撥水性加工を施して耐水性の高い布帛とすることが好ましい。撥水加工は、表地層の両面に施してもよいが、少なくとも、防護服表地の表側面に施されていることがより好ましい。
該撥水加工は、フッ素系の撥水性樹脂を用い、公知の方法に従って、コーティング法、スプレー法、あるいは浸漬法等の加工方法により加工を行うことができる。このような撥水性加工を施した耐水性布帛を用いた防護服においては、消火作業の際に空隙部に水が浸入してくるのを防止することができ、防護服の着用性能を向上させることができる。
【0074】
(内層)
積層防護服の内層は、透湿防水性を有するものとすることが好ましい。具体的には透湿防水性を有する薄膜フィルムの両面に、全芳香族ポリアミド繊維からなる織編布を貼り合わせた複合体が挙げられる。ここで用いる薄膜フィルムとしては、透湿防水性を有するものであれば特に限定されるものではないが、耐薬品性を兼ね備えたポリテトラフルオロエチレン製の薄膜フィルムを用いることが特に好ましい。フィルムに全芳香族ポリアミド繊維からなる織編布を貼り合わせる方法としては、例えば、ラミネート加工したものが例示される。
【実施例】
【0075】
以下、実施例等をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例等によって何等限定されるものではない。
【0076】
<測定方法>
実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定した。
【0077】
[繊度]
JIS L 1015に基づき、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛繊度にて表記した。
【0078】
[破断強度、破断伸度]
JIS L 1015に基づき、インストロン社製、型番5565を用いて、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0079】
[染着率]
原綿または布帛を染色した染色残液に、この染色残液と同容積のジクロロメタンを加え、残染料を抽出した。引き続き、抽出液について、波長670nm、540nm、530nmの吸光度をそれぞれ測定し、あらかじめ染料濃度が既知のジクロロメタン溶液から作成した上記3波長の検量線から抽出液の染料濃度をそれぞれ求め、上記3波長における濃度の平均値を抽出液の染料濃度(C)とした。染色前の染料濃度(Co)を用いて、以下の式にて得られる値を染着率(U)とした。
染着率(U)=[(Co−C)/Co]×100
【0080】
なお、「染着率」を求めるための「染色」としては、以下の染色方法を実施した。
(原綿または布帛の染色方法)
カチオン染料(日本化薬社製、商品名:Kayacryl Blue GSL−ED(B−54))6%owf、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意した。
引き続き、原綿または布帛と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施した。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色原綿または染色布帛を得た。
【0081】
[強度保持率(耐酸性テスト)]
セパラブルフラスコへ20質量%の硫酸水溶液を入れ、上記した「染着率」を求めるための染色方法と同一の方法で染色した原綿を浸漬した。続いて、セパラブルフラスコを恒温水槽中に浸漬し、温度50℃に維持し、150時間浸漬した。浸漬前後の原綿につき、それぞれ、上記の測定方法によって破断強度の測定を実施し、浸漬後の原綿の強度保持率を求めた。
【0082】
[原繊維の残存溶媒量]
原繊維を約8.0g採取し、105℃で120分間乾燥させた後にデシケーター内で放冷し、繊維質量(M1)を秤量した。続いて、この原繊維について、メタノール中で1.5時間、ソックスレー抽出器を用いて還流抽出を行い、繊維中に含まれるアミド系溶媒の抽出を行った。抽出を終えた繊維を取り出して、150℃で60分間真空乾燥させた後にデシケーター内で放冷し、繊維質量(M2)を秤量した。繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)N(%)は、得られたM1およびM2を用いて、下記式により算出した。
N(%)=[(M1−M2)/M1]×100
【0083】
[固有粘度(IV)]
重合体溶液から芳香族ポリアミドポリマーを単離して乾燥した後、濃硫酸中、ポリマー濃度100mg/100mL硫酸で30℃において測定した。
【0084】
[耐光性保持率]
原綿または布帛の耐光性保持率を得るために、未照射綿(未照射布帛)、およびカーボンアークフェードメーターにて63℃24時間照射した光照射綿(光照射布帛)を用いて、耐光変褪色度(ΔE*)を得た。耐光変褪色度(ΔE*)は、先ず、光源D65を用いて−10度視野での拡散反射率を測定し、通常の演算処理により、明度指数L*値、クロマティクネス指数a*、b*値を算出し、得られた値を用いてJIS Z−8730に準拠して、次式により求めた。
[式1]
ΔE*=((ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2
「耐光性保持率」は、染色前後の原綿または布帛についてそれぞれ、上記耐光変褪色度(ΔE*)を求め、次式により算出した。
[式2]
耐光性保持率(%)=100−(染色後ΔE*−染色前ΔE*)/染色前ΔE*x100
【0085】
なお、耐光性保持率評価における「染色」は、以下の方法による、染料を用いない染色とした。
(染色方法)
染料を用いず、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意した。
引き続き、原綿または布帛と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施した。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色原綿を得た。
【0086】
[炎に対する遮熱性]
ISO 9151に準拠した方法により、24℃温度上昇試験を行った。具体的には、試験用積層防護服を規定の火炎に暴露し、該積層防護服内の温度上昇が24℃に達するまでの時間を測定し、炎に対する遮熱性の評価とした。
【0087】
[放射熱に対する遮熱性]
ISO 6942;1992に準拠した方法により、測定を実施した。具体的には、試験用積層防護服を規定の火炎に暴露し、該積層防護服内の温度上昇が二度火傷に達するまでの時間を測定し、放射熱に対する遮熱性の評価とした。
【0088】
<実施例1>
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造]
〔紡糸液調整工程〕
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した、固有粘度(I.V.)が1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末20.0質量部を、−10℃に冷却したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)80.0質量部中に懸濁させ、スラリー状にした。引き続き、懸濁液を60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。
該ポリマー溶液に、ポリマー対比3.0質量%の2−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール粉末(水への溶解度:0.01mg/L)を混合溶解させ、減圧脱法して紡糸液(紡糸ドープ)とした。
【0089】
〔紡糸・凝固工程〕
上記紡糸ドープを、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/NMP=45/55(質量部)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
【0090】
〔可塑延伸浴延伸工程〕
引き続き、温度40℃の水/NMP=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
【0091】
〔洗浄工程〕
延伸後、20℃の水/NMP=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
【0092】
〔乾熱処理工程〕
洗浄後の繊維について、表面温度280℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。
【0093】
〔原繊維の物性〕
得られた原繊維の物性は、繊度1.7dtex、破断強度2.7cN/dtex、破断伸度50.0%、残存溶媒量0.08質量%であり、良好な力学特性を示した。得られた原繊維の物性を表1に示す。
【0094】
〔捲縮、カット工程〕
クリンパーを通して得られた繊維に捲縮を付与した後、カッターでカットして51mmの短繊維とすることにより、原綿を得た。
【0095】
[染色工程1]
カチオン染料(日本化薬社製、商品名:Kayacryl Blue GSL−ED(B−54))6%owf、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意した。
得られた原綿につき、原綿と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施した。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色綿を得た。
【0096】
[染色綿等の物性]
染色綿の染着率は92.4%であり、良好な染色性を示した。また、染色綿の破断強度は2.7cN/dtex、耐酸性テストを実施した後の染色綿の破断強度は2.3cN/dtexであり、強度保持率は85%と良好な耐酸性を示した。結果を表1に示す。
【0097】
[染色工程2]
染料を用いず、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリヤー剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意した。
得られた原綿につき、原綿と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施した。染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色綿を得た。
【0098】
[耐光性保持率]
得られた原綿の耐光性保持率は、89%であった。結果を表1に示す。
【0099】
[織物の作製]
51mmにカットした原綿を、通常の紡績工程を通して紡績糸(番手:30/2)とし、当該紡績糸から2/1の綾織に織成した織物(目付:239g/m、厚み:0.8mm)を作製した。公知の方法で精練処理し、布帛表面にある糊剤、油剤を除去した。
【0100】
[織物の染色工程]
前述の原綿と同様に、染色工程1および染色工程2の条件で、得られた織物を染色処理した。
【0101】
[織物の物性]
染色前後の布帛および染色液を用いて、上記測定方法により、染着率および耐光性保持率を評価した。布帛の染着率は92.5%、耐光性保持率は90%といずれも良好であった。結果を表1に示す。
【0102】
[積層防護服の作製]
(表地層)
表地層としては、上記で得られた織物を用いた。
【0103】
(内層)
透湿防水性のポリテトラフルオロエチレン製フィルム(ジャパンゴアテックス(株)製、目付:35g/m)の片面に、上記得られたメタ型全芳香族ポリアミド繊維から作成した織布(目付:75g/m)を貼り合わせた。続いて、フィルムのもう一方の面に、遮熱性を持たせるために、上記得られたメタ型全芳香族ポリアミド繊維から作成した紡績糸を用いた丸編物(目付:180g/m、ハニカムメッシュ構造)を貼り合せて複合体を得た。内層としては、得られた複合体を用いた。
【0104】
(積層工程)
上記の表地層、および内層の2層を重ねて縫合することにより、本発明の積層防護服を得た。
【0105】
[積層防護服の遮熱性]
得られた積層防護服の遮熱性評価を実施した。結果を表1に示す。
【0106】
<実施例2>
[原繊維の製造]
2−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(水への溶解度:0.01mg/L)の添加量をポリマー対比6.5質量%とした以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0107】
[原繊維の物性]
得られた繊維の物性は、繊度1.7dtex、破断強度2.5cN/dtex、破断伸度44.3%、残存溶媒量0.08質量%であった。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0108】
[捲縮、カット工程]
得られた繊維に対し、実施例1と同様に捲縮、カットを実施した。
【0109】
[染色工程1]
得られた原綿に対し、実施例1と同様に染色工程1を実施した。
【0110】
[染色綿等の物性]
染着率は91.5%であり、良好な染色性を示した。また、染色綿の破断強度は2.5cN/dtex、耐酸性テストを実施した後の染色綿の破断強度は1.8cN/dtexであり、強度保持率72%と良好な耐酸性を示した。結果を表1に示す。
【0111】
[染色工程2]
得られた原綿に対し、実施例1と同様に染色工程2を実施した。
【0112】
[耐光性保持率]
得られた原綿の耐光性保持率は、93%であった。結果を表1に示す。
【0113】
[織物の作製・評価]
得られた繊維を用いて、実施例1と同様にして織物を得た。得られた織物の評価結果を、表1に示す。
【0114】
[積層防護服の作製]
実施例1と同様に、積層防護服を作製した。得られた耐熱性防護服の評価結果を、表1に示す。
【0115】
<比較例1>
[原繊維の製造]
紫外線吸収剤として、親水性の高いメチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(水への溶解度:0.05mg/L)を用いた以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0116】
[原繊維の物性]
得られた繊維の物性は、繊度1.7dtex、破断強度2.9cN/dtex、破断伸度49.8%、残存溶媒量0.10質量%であった。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0117】
[捲縮、カット工程]
得られた繊維に対し、実施例1と同様に捲縮、カットを実施した。
【0118】
[染色工程1]
得られた原綿に対し、実施例1と同様に染色工程1を実施した。
【0119】
[染色繊維等の物性]
染着率は91.2%であり、良好な染色性を示した。また、染色綿の破断強度は2.9cN/dtex、耐酸性テストを実施した後の染色綿の破断強度は2.2cN/dtexであり、強度保持率76%と良好な耐酸性を示した。結果を表1に示す。
【0120】
[染色工程2]
得られた原綿に対し、実施例1と同様に染色工程2を実施した。
【0121】
[耐光性保持率]
得られた原綿の耐光性保持率は52%であり、紫外線吸収剤の親水性が高いために、染色中に紫外線吸収剤の溶出が起こっていた。結果を表1に示す。
【0122】
[織物の作製・評価]
得られた繊維を用いて、実施例1と同様にして織物を得た。得られた織物の評価結果を、表1に示す。
【0123】
[積層防護服の作製]
実施例1と同様に、積層防護服を作製した。得られた耐熱性防護服の評価結果を、表1に示す。
【0124】
<比較例2>
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造]
〔紡糸液調整工程〕
2−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール粉末を添加しなかった以外は、実施例1と同様に紡糸液を調整した。
【0125】
〔紡糸・凝固工程、可塑延伸浴延伸工程、洗浄工程、乾熱処理工程〕
実施例1と同様の方法で、紡糸・凝固、可塑延伸浴延伸、洗浄を行い、洗浄工程直後の未乾燥の湿ったメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。
【0126】
〔紫外線遮蔽剤の含浸工程〕
(紫外線吸収剤分散液の調整)
10mLの塩化メチレン中に、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(水への溶解度:0.05mg/L)を7質量%溶解し、該溶液を0.3gの乳化剤「EMCOL P10−59」を溶解した100mLの水溶液中に攪拌しながら注ぎいれた。塩化メチレンが全量蒸発するまで攪拌し、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(水への溶解度:0.05mg/L)の水性分散液を作成した。
【0127】
(紫外線吸収剤の含浸)
上記で得られた未乾燥のメタ型全芳香族ポリアミド繊維を、上記で調整した水性分散液20g中に入れ、攪拌しながら室温で1時間保持した。続いて、100mLの水によって希釈し、沸点まで加熱し、その温度でさらに1時間保持した。メタ型全芳香族ポリアミド繊維を取り出して、水で洗浄し、310℃の熱ローラーで乾熱処理を施した。
【0128】
[原繊維の物性]
得られた原繊維の物性は、繊度1.7dtex、破断強度2.6cN/dtex、破断伸度47.8%、残存溶媒量0.03質量%であった。得られた原繊維の物性を表1に示す。
【0129】
[捲縮、カット工程]
得られた繊維に対し、実施例1と同様に捲縮、カットを実施した。
[染色工程1]
得られた原綿に対し、実施例1と同様に染色工程を実施した。
【0130】
[染色繊維等の物性]
染着率は91.5%であった。染色綿の破断強度は2.6cN/dtex、耐酸性テストを実施した後の染色綿の破断強度は1.9cN/dtexであり、強度保持率73%であった。結果を表1に示す。
【0131】
[染色工程2]
得られた原綿に対し、実施例1と同様に染色工程2を実施した。
【0132】
[耐光性保持率]
得られた原綿の耐光性保持率は64%であり、紫外線吸収剤が多量に溶出していた。結果を表1に示す。
【0133】
[織物の作製・評価]
得られた繊維を用いて、実施例1と同様にして織物を得た。得られた織物の評価結果を、表1に示す。
【0134】
[積層防護服の作製]
実施例1と同様に、積層防護服を作製した。得られた耐熱性防護服の評価結果を、表1に示す。
【0135】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の積層防護服は、キャリヤー染色によって多様な色相に染色することができ、かつ、染色時における耐光剤の脱落を抑制できる、耐光性メタ型全芳香族ポリアミド繊維布帛を構成布帛とする。したがって、本発明の積層防護服は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維が本来有する、優れた耐熱性、耐炎性、防炎性を発現するとともに、優れた耐光性を兼ね備える。このため、これらの特性が必要とされる分野における工業的価値は極めて大きく、特に、消防士が消火作業中に着用する耐熱防護服として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層布帛からなる防護服であって、
前記積層布帛は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を少なくとも1層として含むものであり、
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、水への溶解度が0.04mg/L未満である紫外線吸収剤を含み、染色繊維の染着率が90%以上であり、キャリヤー染色前後における耐光性保持率が80%以上である積層防護服。
【請求項2】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維が、原繊維の残存溶媒量が0.1質量%以下であり、50℃の20質量%硫酸水溶液に150時間浸漬した後の染色繊維の強度保持率が65%以上である請求項1記載の積層防護服。
【請求項3】
前記紫外線吸収剤の配合量が、繊維質量全体に対して3.0質量部以上6.5質量部以下である請求項1または2記載の積層防護服。
【請求項4】
前記紫外線吸収剤が、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1から3いずれか記載の積層防護服。
【請求項5】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛は、表地層である請求項1から4いずれか記載の積層防護服。

【公開番号】特開2012−152451(P2012−152451A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15313(P2011−15313)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】