説明

空力加熱に対する熱防護処理方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ロケットのノーズコーン外面等を空力加熱から保護するための熱防護処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ロケットのノーズコーン外表面の熱防護処理方法としてはコルクを断熱材として使用したものが知られている。これは、例えば図3に示すように、ノーズコーン31に塗装処理を施す前に、ノーズコーン31の表面に予め所定の大きさに裁断したコルクシート32を二液エポキシ系接着剤33等を用いて互いに継ぎ合わせるように貼り付ける一方、前記コルク層34の粗面性状を補うとともにコルクシート32の継ぎ目を埋めるべくコルク層34の上にパテ剤35を塗布して平滑化した上で、所定の塗装(塗膜を符号36で示す)を施すようにしている(類似技術が特公昭53−14839号公報に開示されている)。
【0003】なお、前記コルク層34は、空力加熱による炭化アブレーション作用によって基材側への加熱量を減らして熱防御(熱防護)の効果を発揮することは既に一般に知られているところである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような従来の熱防護処理方法では、液状接着剤33を使ってのコルクシート32の接着作業では均一な接着品質が得られず、コルクシート32の一部が剥がれるおそれがあるばかりでなく、塗装の下地処理のためのパテ剤35の重量を無視することができないためにロケットの本質的な飛しょう性能に悪影響を与える結果となって好ましくない。
【0005】また、上記のように液状の接着剤33を使った接着作業やパテ剤35による下地処理の作業性が悪く、作業効率の向上が望めない。
【0006】本発明は以上のような課題に着目してなされたもので、本来の熱防護性能に支障をきたすことなく、工数の削減と作業性の改善を図った熱防護処理方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、空力加熱を受ける構造体の表面に変性エポキシ系のフィルム状接着剤を貼り付ける工程と、前記フィルム状接着剤の上に、所定大きさのコルクシートを互いに継ぎ合わせるように貼り付けてコルク層を形成する工程と、前記コルク層の上にさらに変性エポキシ系のフィルム状接着剤を貼り付ける工程と、前記構造体とフィルム状接着剤層およびコルク層を、加熱条件下での真空バッグ加圧成形法により相互に圧着させる工程とを含んでいることを特徴としている。
【0008】
【作用】この方法によると、フィルム状接着剤を使用しているために、コルクシートの接着品質が均一化し、またコルクシートの表面側に貼り付けたフィルム状接着剤によってコルク層の表面が平滑化される。しかも、そのコルクシートの表面側のフィルム状接着剤の一部がコルクシート同士の継ぎ目に溶け込むことでその継ぎ目を埋めることができる。したがって、特別な下地処理を施すことなく直ちに塗装処理を施すことができるようになる。
【0009】
【実施例】図1および図2は本発明の一実施例を示す図で、図2の(A)に示すように、ノーズコーン1を展開した形状に合わせて、そのノーズコーン1の各部位ごとに分割した複数の扇形状のコルクシート2,2…を予めカットして用意しておく。
【0010】その一方、同図(B)に示すように、前記ノーズコーン1の外周面の全面にフィルム状接着剤3を螺旋状に巻き付け、そのフィルム状接着剤3の上に予め用意しておいたコルクシート2を互いに継ぎ合わせるようにして順次全面に貼り付けてコルク層4を形成する(同図(C))。
【0011】ここで使用するフィルム状接着剤は変性エポキシ系のもので、例えば「Scotch Weld,Structural Adhesive Film AF−163−2K(3M社製)」として市販されているものである。そして、その長所として、(a)金属とコルクとの接着力が十分であり、耐熱性にすぐれている、(b)表面に塗装が施された場合にも塗膜との密着性にすぐれている、(c)粘度コントロールがされていて、コルク内部への浸透を防ぎ、コルク表面に均一な被膜を形成できる、(d)フィルム状であるために取り扱いが容易である、(e)未硬化状態で適度な粘着性を有している、等を有している。
【0012】上記のように前記ノーズコーン1の表面に均等にコルクシート2が貼り付けられたならば、同図(D)に示すようにそのコルク層4の上に再度上記と同じフィルム状接着剤5を螺旋状に巻き付けて、図1にも示すようにコルク層4の表裏両面をフィルム状接着剤層3,5で覆う。
【0013】こうして、ノーズコーン1の表面にコルク層4とフィルム状接着剤層3,5が形成されたならば、図1の(A)に示すようにノーズコーン1全体をその表裏両面から耐熱ナイロンフィルムバッグ6で包み込んで密閉し、図示外の真空引き装置によりバッグ6内の空間Rを真空引きしながら加熱して、ノーズコーン1そのものの基材とフィルム状接着剤層3,5およびコルク層4とを相互に加熱圧着させ、同時にフィルム状接着剤層3,5を硬化させる。この時の条件は、真空度635mmHg以上、温度100℃、処理時間2時間である。
【0014】なお、前記ノーズコーン1全体を耐熱ナイロンフィルムバッグ6で包む前に、ノーズコーン1には予め耐熱性のある図示外の多孔質のナイロンフィルム(例えば、リッチモンド社製のピールプライ(商品名))を貼り付けておく。
【0015】その結果、フィルム状接着剤層3,5がノーズコーン1の基材およびコルク層4によくなじみ、ノーズコーン1の基材とコルク層4とが完全に接着されて一体化され、同時にコルク層4を形成しているコルクシート2,2同士の継ぎ目Qにはフィルム状接着剤3,5の一部が溶け込んでその継ぎ目Qを埋めるとともに、コルク層4の表面もフィルム状接着剤層5によって平滑に仕上げられる。
【0016】この後、ノーズコーン1から耐熱ナイロンフィルムバッグ6を多孔質のナイロンフィルムとともに剥がした上、必要に応じて表面に例えばハイウレタン塗料等を用いて塗装を施す。この場合、前記コルク層4の表面はフィルム状接着剤層5で覆われて平滑に仕上げられており、しかもそのコルク層4を形成しているコルクシート2,2同士の継ぎ目Qもフィルム状接着剤3,5の溶け込みで埋められていることから、下地処理や前処理を施すことなしに直ちに塗装を実施できる。
【0017】なお、前記実施例においてはロケットのノーズコーンの空力加熱に対する熱防護処理を例にとって説明したが、本願発明はノーズコーン以外にも飛しょう体用の各種の構造物の熱防護に適用できる。
【0018】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、空力加熱を受けるべき構造体の表面に変性エポキシ系のフィルム状接着剤を介してコルクシートを貼り合わせてコルク層を形成し、そのコルク層の上に再度フィルム状接着剤を貼り付けた上で加熱真空バッグ成形法により圧着させるようにしたことにより、従来よりも接着強度が高いばかりでなく、コルク層の表面もフィルム状接着剤層で覆われ、しかもコルクシートの継ぎ目も接着剤で埋められているのでコルクシートが剥がれることがなく、耐久性が向上する。
【0019】また、フィルム状接着剤の採用により、従来のようにパテを使用しないので重量増加をもたらすことがなく、構造体の飛しょう性能への影響を回避できるほか、フィルム状接着剤層によりコルク層の表面の平滑化とコルクシートの継ぎ目解消とが同時に達成されるので、構造体に塗装を施す場合でもその前処理もしくは下地処理が一切不要で、上記のフィルム状接着剤の採用と、パテ塗り作業の廃止とも相俟って、加工工数の削減と作業効率の向上を併せて達成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す図で、(A)は真空バッグ加圧成形法によるノーズコーンとコルク層の圧着時の説明図、(B)は同図(A)のa部拡大断面図。
【図2】本発明の一実施例を示す図で、コルクシートの裁断から貼り付けおよび接着剤貼り付けまでの工程説明図。
【図3】従来の空力加熱に対する防護処理構造を示す要部拡大断面図。
【符号の説明】
1…ノーズコーン(構造体)
2…コルクシート
3,5…フィルム状接着剤
4…コルク層
6…耐熱ナイロンフィルムバッグ
Q…継ぎ目

【特許請求の範囲】
【請求項1】 空力加熱を受ける構造体の表面に変性エポキシ系のフィルム状接着剤を貼り付ける工程と、前記フィルム状接着剤の上に、所定大きさのコルクシートを互いに継ぎ合わせるように貼り付けてコルク層を形成する工程と、前記コルク層の上にさらに変性エポキシ系のフィルム状接着剤を貼り付ける工程と、前記構造体とフィルム状接着剤層およびコルク層を、加熱条件下での真空バッグ加圧成形法により相互に圧着させる工程、とを含むことを特徴とする空力加熱に対する熱防護処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】特許第3052644号(P3052644)
【登録日】平成12年4月7日(2000.4.7)
【発行日】平成12年6月19日(2000.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−48482
【出願日】平成5年3月10日(1993.3.10)
【公開番号】特開平6−255599
【公開日】平成6年9月13日(1994.9.13)
【審査請求日】平成9年11月11日(1997.11.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【参考文献】
【文献】特開 昭49−21900(JP,A)