説明

空気中でも安定なキラルジルコニウム触媒、その製造方法および使用

【課題】長期保存においても高い触媒能を維持でき、安定で、反応後の回収、再使用も可能な実用性の高いキラルジルコニウム触媒を提供する。
【解決手段】式(II)(R2は置換基を有していてもよい炭化水素基)で表されるジルコニウムアルコキシドと、式(III)(X1およびX2は、同一または別異に水素原子、ハロゲン原子またはフッ素化炭化水素基で、X1およびX2のいずれか一方はハロゲン原子またはフッ素化炭化水素基)で表される(R)−BINOLと、次式(IV)(R1はアルキル基またはベンジル基)で表される、N−アルキルイミダゾールまたはN−ベンジルイミダゾールとを良溶媒中で混合し、次いで貧溶媒を加えて析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中でも安定で、長期保存の可能なキラルジルコニウム触媒、およびその製造方法、さらに詳しくは、不斉マンニッヒ反応などに好適に用いられる、長期保存後も高い触媒能を維持できる空気中でも安定で実用的キラルジルコニウム触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
天然物質やその類似体の有機合成においては、各種の不斉合成反応が有効である。これらの不斉合成反応に用いられる不斉触媒の中には、高活性で、目的の反応を高選択的に進行させるものも存在するが、多くは、酸素、水、光、あるいは熱などの外部刺激により分解や不活性化を起こしやすく、不安定である。そのため、ほとんどの不斉触媒は、安定な前駆体から使用直前に調製する必要があり、安定で、長期保存が可能であり、反応後に回収、再利用できるような不斉触媒は極めて稀であるのが実情である。
【0003】
本発明者らは、これまで、例えば、特許文献1や特許文献2に示されるように、不斉マンニッヒ型反応等において有用なキラルジルコニウム触媒を開発し報告している。
【特許文献1】特開平11−033407号公報
【特許文献2】Ishitani,H.,Ueno,M.,Kobayashi,S.J.Am.Chem.2000,122,8180)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のキラルジルコニウム触媒は、空気中や水存在下では不安定であり、長期保存して使用したり、反応後に回収、再使用したりすることはほとんど不可能であった。そのため、キラルジルコニウム触媒は、ほとんどの反応系において、反応毎にin situで調製し、使用していたのが実情である。
【0005】
キラルジルコニウム触媒を予め調製し、長期保存することができれば、合成反応時の工程数が削減でき、例えば、不斉マンニッヒ反応では、操作をより簡略化することが可能となる。また、キラルジルコニウム触媒を回収、再使用できれば、合成反応のコスト削減につながるだけでなく、含金属廃液の量も大幅に削減でき、環境の面からも有用となることが期待される。
【0006】
したがって、本発明は、上記の問題点を解決し、長期保存においても高い触媒能を維持でき、安定で、反応後の回収、再使用も可能な実用性の高いキラルジルコニウム触媒、その製造方法、およびその使用を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、キラルジルコニウム触媒について、種々の研究を進めたところ、特定構造を有するジルコニウムアルコキシドと、特定構造を有する(R)−BINOLと、N−アルキルイミダゾールと、を良溶媒中で混合し、次いで、貧溶媒を加えて固体として析出させて得られるキラルジルコニウム触媒は、空気や湿気に対して不活性化であり、安定性が高く、長期保存においても高い触媒能を維持でき、また、反応後の回収、再使用も可能な長期保存が可能となることを見出した。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、下記〔1〕〜〔6〕の要旨を有する。
〔1〕次式(II)
【0009】
【化1】

(ただし、R2は置換基を有していてもよい炭化水素基である)で表されるジルコニウムアルコキシドと、次式(III)
【0010】
【化2】

(ただし、X1およびX2は、同一または別異に水素原子、ハロゲン原子またはフッ素化炭化水素基であり、X1およびX2のいずれか一方はハロゲン原子またはフッ素化炭化水素基である)で表される(R)−BINOLと、次式(IV)
【0011】
【化3】

(ただし、R1はアルキル基または置換されていてもよいベンジル基である)で表される、N−アルキルイミダゾールまたはN−ベンジルイミダゾールとを良溶媒中で混合し、次いで貧溶媒を加えて析出させることを特徴とするキラルジルコニウム触媒の製造方法。
〔2〕良溶媒がジクロロメタンであり、貧溶媒がヘキサンである、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕次式(I)
【0012】
【化4】

(ただし、X1およびX2は、同一または別異に水素原子、ハロゲン原子またはフッ素化炭化水素基で、X1およびX2のいずれか一方はハロゲン原子またはフッ素化炭化水素基であり、R1はメチル、エチル、プロピル、ベンジルをはじめとする置換基を有していてもよい炭化水素基ある)で表されるキラルジルコニウム触媒。
〔4〕フッ素化炭化水素基がパーフルオロアルキル基である〔3〕に記載のキラルジルコニウム触媒。
〔5〕フッ素化炭化水素基が炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である〔4〕に記載のキラルジルコニウム触媒

〔6〕イミンとケイ素エノールエーテルとを、〔3〕〜〔5〕のいずれかに記載のキラルジルコニウム触媒の存在下に反応させることを特徴とする不斉マンニッヒ反応方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、安定性が高く、長期保存においても高い触媒能を維持でき、また、反応後の回収、再使用も可能な長期保存が可能となるキラルジルコニウム触媒、その製造方法、および、例えば、イミンとケイ素エノールエーテルとを反応させる不斉マンニッヒ反応などのキラルジルコニウム触媒の使用法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書において、置換されていてもよいアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル記、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、ヘプチル基、シクロヘプチル基、オクチル基、シクロオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、アダマンチル基等が具体例として挙げられる。
【0015】
本明細書において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられる。
本明細書において、フッ化炭化水素基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基トリフルオロメチル基、2-フルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、2-フルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基等が具体例として挙げられる。
本明細書にいて、置換されていてもよいベンジル基としては、アルキル基、ハロゲン原子、アルキルオキシ基等で置換されていてもよいベンジル基が挙げられる。
【0016】
本発明のキラルジルコニウム触媒は、次のようにして製造される。
すなわち、次式(II)
【0017】
【化5】

(ただし、Rは置換基を有していてもよい炭化水素基である)
で表されるジルコニウムアルコキシドと、次式(III)
【0018】
【化6】

(ただし、X1およびX2は、同一または別異に水素原子、ハロゲン原子またはフッ素化炭化水素基であり、X1およびX2のいずれか一方はハロゲン原子またはフッ素化炭化水素基である)で表される(R)−BINOLと、さらに次式(IV)
【0019】
【化7】

(ただし、R1はアルキル基または置換されていてもよいベンジル基である)で表される配位子であるN−アルキルイミダゾールまたはN−ベンジルイミダゾール(以下、両者を総称してイミダゾールともいう)を良溶媒中で混合すればよい。上記ジルコニウムアルコキシドは、使用にあたり、不活性雰囲気下で減圧下に加熱乾燥させるのが好ましい。得られる混合物に対して、貧溶媒を添加することにより、キラルジルコニウム触媒は固体として析出する。これを好ましくは、ろ過、乾燥することにより、本発明のキラルジルコニウム触媒が得られる。
【0020】
本発明において、上記ジルコニウムアルコキシドと、(R)−BINOLと、イミダゾールとを混合する場合の比率は、上記ジルコニウムアルコキシドの100重量部に対して、(R)−BINOLが好ましくは150〜300重量部、特に好ましくは200〜220 重量部と、イミダゾールが好ましくは100〜400重量部、特に好ましくは120〜220重量部であるのが適切である。
【0021】
上記良溶媒としては、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル、プロピオン酸エチル等のカルボン酸エステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素非プロトン性極性溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄非プロトン性極性溶媒;またはこれらの混合溶媒が挙げられる。なかでも、ジクロロメタンなどの炭素数が好ましくは1〜7のハロゲン系炭化水素類が好ましい。
これらの良溶媒は、上記ジルコニウムアルコキシド、(R)−BINOL、およびイミダゾールのいずれをも溶解し、それらの溶液を形成するような量が使用される。
【0022】
上記貧溶媒としては、例えば、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ドデカン等の炭素数が好ましくは5〜12の脂肪族炭化水素類、エーテル類、芳香族炭化水素類が挙げられる。なかでも、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン等の炭素数が好ましくは5〜7の脂肪族炭化水素類が好ましい。これらの貧溶媒は、上記ジルコニウムアルコキシド、(R)−BINOL、およびイミダゾールを溶解する溶液に対して、キラルジルコニウム触媒が固体として析出するように徐々に添加されるのが好ましい。
【0023】
上記で得られたキラルジルコニウム触媒は、空気(湿気)中、室温下での保存が可能であり、長期に渡り触媒活性がほとんど変化しない。さらに、乾燥させた触媒をアルゴンや窒素等の不活性雰囲気下で保存すれば、触媒の調製から数ヶ月経過後も高い触媒能を維持できる。
【0024】
本発明のキラルジルコニウム触媒は、そのまま反応系中に添加、使用できるものである。すなわち、このキラルジルコニウム触媒は、特に前処理を行うことなく、各種の有機合成反応における不斉触媒として作用する。また、このようなキラルジルコニウム触媒は、反応終了後、再び貧溶媒を添加して析出させることにより、ろ過や溶媒除去等の一般的で簡便な操作により回収できる。回収されたキラルジルコニウム触媒は、再び長期保存してもよいし、次の反応に用いてもよい。この場合も、本発明のキラルジルコニウム触媒能は後述の実施例からも明らかなように、当初の状態とほとんど変わらず、再使用触媒を用いても高い収率および立体選択性での反応が進行する。
【0025】
したがって、本発明のキラルジルコニウム触媒を用いることにより、触媒そのものの使用量だけでなく、触媒除去のための精製操作に使用される溶媒量をも削減でき、また、含金属廃液の量が大幅に減少することから、コスト面だけでなく、環境の面からも有用性が高い。また、従来、キラルジルコニウム触媒を用いる不斉マンニッヒ反応等の反応操作においては、まず、触媒を反応系内で調製する必要があったが、本発明のキラルジルコニウム触媒を用いれば、そのような工程を省略でき、反応が簡略化される。
以下に実施例を示して本発明についてさらに詳細に説明する。もちろん、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるものではないことは言うまでもない。
【実施例】
【0026】
<実施例1>キラルジルコニウム触媒の調製
アルゴン雰囲気中、ジルコニウムテトラ−tert−ブトキシド(以下Zr(OBu):0.50mmol)、および(R)−6,6’−XBINOL(1.00mmol)のジクロロメタン溶液(3.0ml)に対して、N−メチルイミダゾール(以下NMI;1.00mmol)を室温下で加え、そのまま1時間撹拌し、キラルジルコニウム錯体ジクロロメタン溶液を調製した。そこへ、ヘキサン(100ml)を添加し、一晩撹拌した後に、ろ過、乾燥することで、キラルジルコニウム触媒を良好な収率で得た。各収率と蛍光X線解析から求めた触媒中のZrの含有量を表1に示した。
【0027】
【表1】

以下、キラルジルコニウム触媒の乾燥後の取り扱いは空気中で行い、また、保存は特に記載されない限り容器にアルゴンを満たして行った。
【0028】
<実施例2>キラルジルコニウム触媒を用いたマンニッヒ反応((R)−Methyl 2,2’−dimethyl−(2−hydroxyphenyl)amino−3−phenylpropionate(3a)の合成)
【0029】
【化8】

ベンズアルデヒドと2−アミノフェノールより合成したイミン(1a)と、イソ酪酸メチル由来のケテンシリルアセタール(2a)と使用し、エナンチオ選択的なマンニッヒ反応を行った。(A)
【0030】
実施例1で得られたキラルジルコニウム触媒(0.04mmol)を反応容器に入れ、アルゴン雰囲気に置換した後、ジクロロメタン(1.0ml)を加えた。これに、−45℃でベンズアルデヒドと2−アミノフェノールより合成したイミン(1a)(0.4mmol)とイソ酪酸メチル由来のケテンシリルアセタール(2a)(0.48mmol)の塩化メチレン溶液(0.75ml)を加え、18時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、反応を停止した後、塩化メチレンで抽出した。減圧下に溶媒を留去し、残渣にTHF:1N塩酸水溶液=10:1混合溶媒8mlを0℃で1.0時間作用させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲル薄層クロマトグラフィーで精製した。このようにして、対応する(R)−Methyl 2,2’−dimethyl−(2−hydroxyphenyl)amino−3−phenylpropionateを得た(91%)。
光学純度は、光学異性体分離カラム(ダイセル化学工業、CHIRALCEL)を用いたHPLCにより決定した(83%ee)。
【0031】
<実施例3>キラルジルコニウム触媒の貯蔵安定性
実施例1で得られたキラルジルコニウム触媒を、室温下空気中で1日〜6ヶ月間貯蔵し、実施例2と同様の反応を行った。貯蔵時間と反応収率(yield)および光学純度(Ee)を表2に示した。
【0032】
【表2】

表2より、キラルジルコニウム触媒は、空気および湿気に対して高い安定性を示し、6ヶ月間貯蔵後も触媒活性が保たれることが確認された。
【0033】
Zr(OBu)、(R)−6,6’−(CBINOLおよびNMIを用いて得られた従来のジルコニウム触媒を溶液状態で、室温下に空気中で1日貯蔵した後、同様の反応に用いたところ、調製直後と比較して収率および光学純度に著しい低下が見られた。これより、このような高い貯蔵安定性は、本発明のキラルジルコニウム触媒の特徴であることが示された。
【0034】
<実施例4>キラルジルコニウム触媒の繰り返し利用
実施例1で得られた触媒(0.04mmol)を反応容器に入れ、アルゴン雰囲気に置換した後、ジクロロメタン(1.0ml)を加えた。これに−45℃でナフトアルデヒドと2−アミノフェノールより合成したイミン(1b)(0.4mmol)とイソ酪酸メチル由来のケテンシリルアセタール(2a)(0.48mmol)の塩化メチレン溶液(0.75ml)を加え、18時間撹拌した。ヘキサン(10.0ml)を加えて反応を停止した後、反応液をさらに50mLのヘキサン中へで注ぎ、触媒を十分に析出させた。触媒をろ過によって除いた後、さらにヘキサン(30mL)で触媒をよく洗い、ろ液と洗液をあわせて濃縮し、実施例2と同様の方法で、後処理を行い、収率と光学純度を求めた。ろ別した触媒は、真空ポンプで乾燥させた後、そのまま次の反応に用いた。各収率(yield)と光学純度(Ee)を表3に示した。
【0035】
【表3】

【0036】
<実施例5>キラルジルコニウム 触媒を用いた不斉マンニッヒ反応
次の反応式(B)に従い、マンニッヒ反応を行った。得られた生成物の収率(Yield)、syn/anti選択性、および光学純度(Ee)を表4に示した。
また、各々の反応をZr(OBu)、(R)−6,6’−(CBINOLおよびNMIをジクロロメタン中で混合してin situで調製したキラルジルコニウム触媒を用いて行い、表4の()内に示した。
【0037】
【表4】

【0038】
芳香族やヘテロ環状アルデヒド由来のイミンだけでなく、脂肪族アルデヒド由来のイミンでも本発明のキラルジルコニウム触媒の存在下で高い収率およびエナンチオ選択性でマンニッヒ反応が進行することが確認された。α−TBSOエノレートを用いた場合にはsyn体が選択的に得られたものの、α−BnOエノレートを用いた場合にはanti体がジアステレオおよびエナンチオ選択性高く得られた。
これらの結果は、in situで調製される従来のキラルジルコニウム触媒と同等であった。
【0039】
<実施例6>キラルジルコニウム触媒の調製
N−メチルイミダゾールの代わりに、各種N−ベンジルイミダゾールを用いて、上記と同様に触媒を調製した。
【0040】
【化9】

さらに、調製した触媒を用いて、実施例2と同様にマンニッヒ反応を実施し、次のような結果を得た。
【0041】
【化10】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のキラルジルコニウム触媒を用いることにより、触媒そのものだけでなく、触媒除去のための精製用溶媒や含金属廃液を大幅に削減でき、経済性だけでなく、環境や人体への安全性の面からも有用性が高い。さらに、これまでキラルジルコニウム触媒を用いるほとんどの不斉マンニッヒ反応等の反応操作においては、in situで触媒調製をする必要があったが、本発明のキラルジルコニウム触媒を用いれば、担体等を一切用いることなく、そのような工程を省略でき、操作も簡略化される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(II)
【化1】

(ただし、R2は置換基を有していてもよい炭化水素基である)で表されるジルコニウムアルコキシドと、次式(III)
【化2】

(ただし、X1およびX2は、同一または別異に水素原子、ハロゲン原子またはフッ素化炭化水素基であり、X1およびX2のいずれか一方はハロゲン原子またはフッ素化炭化水素基である)で表される(R)−BINOLと、次式(IV)
【化3】

(ただし、R1はアルキル基または置換されていてもよいベンジル基である)で表される、N−アルキルイミダゾールまたはN−ベンジルイミダゾールと、を良溶媒中で混合し、次いで貧溶媒を加えて析出させることを特徴とするキラルジルコニウム触媒の製造方法。
【請求項2】
良溶媒がジクロロメタンであり、貧溶媒がヘキサンである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
次式(I)
【化4】

(ただし、X1およびX2は、同一または別異に水素原子、ハロゲン原子またはフッ素化炭化水素基であり、X1およびX2のいずれか一方はハロゲン原子またはフッ素化炭化水素基であり、R1は置換基を有していてもよい炭化水素基ある。)で表されるキラルジルコニウム触媒。
【請求項4】
フッ素化炭化水素基がパーフルオロアルキル基である、請求項3に記載のキラルジルコニウム触媒。
【請求項5】
フッ素化炭化水素基が炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である、請求項4記載のキラルジルコニウム触媒

【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載のキラルジルコニウム触媒の存在下に、イミンとケイ素エノールエーテルとを反応させることを特徴とする不斉マンニッヒ反応方法。

【公開番号】特開2008−68168(P2008−68168A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247247(P2006−247247)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月13日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第86春季年会−講演予稿集2」に発表
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】