説明

空気二次電池

【課題】電解質中に存在するカチオンの電解質中の移動及び各電極における反応を抑えることで、サイクル特性に優れた空気電池を実現する。
【解決手段】電解質中に、負極と正極間のカチオンの移動を妨げるアニオン交換機能を付加し、カチオンの電解質中の移動及び各電極における反応を抑える。電解質は酸素原子を含有するアニオンを輸送し、カチオンの移動を阻害するアニオン交換機能をもつ高分子材料を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電可能な空気電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛空気電池、リチウム空気電池、アルミニウム空気電池、マグネシウム空気電池等を含む空気電池は、高エネルギー密度電池として注目を集めている。一般的な電池では正極活物質が正極内に組み込まれているのに対し、空気電池は空気中の酸素を正極活物質として利用する。正極活物質が電池の構成物から取り除かれ、また空気中から酸素がほぼ無限に供給されるために、空気電池は他の電池と比較して高いエネルギー密度を実現し得る。例えば、600Wh/kgのエネルギー密度を有するリチウム空気電池が既に存在するが、この値は従来のリチウムイオン電池の約3倍に相当する。従って空気電池は他の電池と比較して稼働時間を著しく向上し、さらに電池の大きさを大幅に縮小できる可能性がある。
【0003】
このような空気電池は、例えば、導電性材料、触媒および結着材を有する正極触媒層、および集電を行う正極集電体とを有する正極と、負極活物質、および集電を行う負極集電体とを有する負極と、正極と負極の間でイオンを輸送する電解質とを有する。
【0004】
発明者は過去に、電解質中における寄生反応(従来の空気電池で起こる、負極活物質と電解質中の水から、放電を行うことなく金属水酸化物または金属酸化物が生成される反応)の抑制、湿度を含む周囲環境に依存しない電池特性の実現、充電過程における化合物の不均一な析出の抑制、広い稼働温度領域の実現といった課題を解決する新規な空気電池として、酸素イオンO2−が電解質中を移動することで充電および放電が行われる空気電池を提案した(特許文献1)。また、同様の課題を解決する新規な電池として、O、O2−、O、HO等の活性酸素種が電解質中を移動することで充電および放電が行われる空気電池を提案した(特許文献2)。
【0005】
この電池内では、アニオンである酸素イオンまたは活性酸素種とは別に、電解質中に存在するカチオンが活性酸素種と逆向きに電解質中を移動し、負極または正極において酸化還元されることで電流の発生に寄与する場合がある。このようなカチオンの反応は可逆であるとは限らないため、サイクル特性に優れた空気電池を実現するためにはカチオンの反応は無いことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010ー152078号公報
【特許文献2】特開2010ー205001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような状況を鑑みてなされたものであり、カチオンの電解質中の移動および各電極における反応を抑えることができる空気電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく検討した結果、本発明者は電解質に負極から正極へのカチオンの移動を妨げるアニオン交換機能を付加することで、カチオンの電解質中の移動および電極における反応を抑制できることを発見し、発明を完成させた。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明においては、酸素分子を活物質とする正極と、負極活物質を含む負極と、酸素原子を含有するアニオンを輸送し、カチオンの移動を阻害する、アニオン交換機能を有する高分子材料を有する電解質とを有することを特徴とする、空気電池を提供する(請求項1)。
【0010】
本発明においては、高分子材料が、O2−、O、O2−、O、HOのいずれかのアニオンの交換機能を有することが好ましい(請求項2)。
【0011】
本発明においては、正極、および負極の一方もしくは両方が、繰り返し酸化還元反応を行えることが好ましい(請求項3)。
【0012】
本発明においては、正極と負極との接触を防止し、イオンの伝導が可能なセパレーター層を有することが好ましい(請求項4)。
【0013】
本発明においては、電解質が、酸素原子を含有するアニオンを輸送する分子であるキャリアを有することが好ましい(請求項5)。
【0014】
本発明においては、キャリアが、O2−、O、O2−、O、HOのいずれかのアニオンを輸送することが好ましい(請求項6)。
【0015】
本発明においては、電解質の一部もしくは全体が、疎水性物質を有することが好ましい(請求項7)。
【0016】
本発明においては、負極、および電解質のうち少なくともいずれか一方が、負極活物質の酸化もしくは還元反応を促進する触媒を有することが好ましい(請求項8)。
【0017】
本発明においては、正極、および電解質のうち少なくともいずれか一方が、酸素分子の酸化もしくは還元反応を促進する触媒を有することが好ましい(請求項9)。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電解質がアニオン交換機能を有するために、カチオンの電解質中の移動、およびカチオンの負極および正極における酸化還元反応を抑制することができる。また、電解質の一部または全体を疎水性とすることで、正極側に少量の水分が存在する場合でも、負極活物質と水との反応が抑制され、自己放電を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態の構成の断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態の構成の断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態の構成の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態を説明する。本発明は、以下の実施形態により限定されない。
【0021】
(第1実施形態)本発明の第1実施形態の構成を図1に示す。なお、図1は本発明の第1実施形態の構成の断面を示す図であり、各部は紙面と垂直方向に奥行きを持つ。本発明の第1実施形態は、負極活物質0101と負極集電体0102とを備える負極と、正極触媒0106と正極集電体0107とを備える正極と、非水系溶媒0103、キャリア0104、およびアニオン交換膜0105とを備える電解質とを有する。正極、負極、および電解質は、ケース0108に格納されているが、正極側のみ外部の酸素を取り込むために外部に露出している。キャリア0104は、酸素イオンO2−、または活性酸素種O、O2−、O、HOのいずれかの輸送を行う分子であり、非水系溶媒0103に溶解している。アニオン交換膜0105は電解質を負極側と正極側に分断するように存在する。
【0022】
以下、放電過程での反応について説明する。まず正極触媒0106に酸素が供給される。電解質中のキャリア0104は正極内に一部浸透しており、正極内において、酸素分子、電子および正極触媒0106の境界面が形成される。この境界面において、酸素分子が正極集電体0107から来る電子によって還元され、酸素イオンまたは活性酸素種が生成される。生成された酸素イオンまたは活性酸素種はキャリア0104と会合し、キャリア0104とともに電解質中を負極側へ移動し、アニオン交換膜0105に到達する。アニオン交換膜0105において、酸素イオンまたは活性酸素種はキャリア0104から離れ、アニオン交換膜0105内を負極側へ移動し、アニオン交換膜0105の負極側の界面において、再びキャリア0104と会合し、キャリア0104とともに負極へ移動する。電解質中のキャリア0104は負極内へ浸透し、負極内において、酸素イオンまたは活性酸素種、電子および負極活物質0101の境界面が形成される。酸素イオンまたは活性酸素種はキャリア0104から離れ、負極活物質0101と反応して酸化物が生成され、電子が放出される。放出された電子は負極集電体0102に移動し、外部回路を経由して正極集電体0107に移動する。充電過程ではこれと逆の反応が起こる。酸素イオンまたは活性酸素種の移動は、特定のキャリア0104に会合して移動するほか、キャリア0104から別のキャリア0104へと移動することによっても起こる場合がある。
【0023】
アニオン交換膜0105が無い場合、放電過程においては、負極活物質0101が酸化されて生成されたカチオンが、正極から負極へ移動し、正極において、酸素イオンまたは活性酸素種と反応し、負極活物質0101の酸化物が生成される場合がある。また充電過程においては、これと逆の反応が起こる場合がある。このようなカチオンの反応は可逆であるとは限らず、これを抑制することで、サイクル特性を向上させることができる。本発明においてはアニオン交換膜0105の存在により、カチオンの移動が阻害されるために、このような反応は起こらず、酸素イオンまたは活性酸素種のみが電解質中を移動するため、サイクル特性に優れた電池となる。
【0024】
アニオン交換膜0105はポリマーである。その構造例としては、ベンゼン環の水素の一部がアニオン交換基で置換された構造を持つポリスチレンもしくはその架橋体、もしくは、アニオン交換機で置換された構造を持つポリビニルピリジニウム塩もしくはその架橋体がある。アニオン交換基の例としては、強塩基性の第四級アンモニウム塩基、弱塩基性の第一、第二、第三級アミン等がある。
【0025】
非水系溶媒0103として疎水性を示すものを用いることで、正極側に少量の水分が存在する場合でも、負極活物質0101と水との反応が抑制され、自己放電を抑えることができる。特に、空気中の水分が正極を経由して電解質中に侵入し、負極活物質0101と反応することを防止できるために有用である。疎水性を示す非水系溶媒0103は、負極とアニオン交換膜0105の間にのみ用いても、負極活物質0101と水との反応を抑制することができる。疎水性を示す非水系溶媒0103の例としては、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼン、1,4−ジクロロベンゼン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン、1,1,1,2−テトラクロロ−2,2−ジフルオロエタン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパンがある。また、他にも、N,N,N−トリス(1,1,2,2,3,3,4,4,4−ノナフルオロブチル)アミン、および、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,5−ウンデカフルオロ−N,N−ビス(1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,5−ウンデカフルオロペンチル)−1−ペンタンアミン等の、パーフルオロアルキルアミン類も疎水性を示す非水系溶媒0103の例として挙げられる。パーフルオロアルキルアミン類は、スリーエム社より、Fluorinert Electroniv Liquidという名称で販売されており、これも非水系溶媒0103の例として挙げられる。親水性を示す非水系溶媒0103の例としては、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトン等がある。
【0026】
アニオン交換膜0105は、セパレーターに担持されていてもよい。
【0027】
本発明におけるキャリア0104の具体例としては、アルコール類、硫酸塩類、チオ硫酸塩類、アルカリジチオン酸塩類、アルカリ亜ジチオン酸塩類、ポリチオン酸類、チオエーテル類、チオール類、チオレート類、スルホキシド類、スルホン類、アミン類、ウレアーゼ類、アリルアゾ化合物類、複素環化合物類、大環状化合物類、大環状化合物の金属錯体、および、これら化合物の水素原子がハロゲノ基群、ニトロ基群、スルホニル基群に置換された化合物等がある。
【0028】
本発明におけるキャリア0104のさらに具体的な例としては、アミニウム、トリエチルアミン、ジエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチルアミン、アニリン、ニトロアニリン、アミノエタノール、ヒドラジン、アゾベンゼン、ジエチルジアゼン、アジリジン、硫黄アレーン、アゼチジン、チエタン、ジアゼチジン、ジオキセタン、ジチエタン、アゾリジン、チオラン、フォスフォラン、シロラン、アルソラン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、オキサゾリジン、イソキサゾリジン、チアゾリジン、イソチアゾリジン、ジオキサラン、オキサチオラン、ジチオラン、ピペリジン、テトラヒドロフラン、チアン、ピペラジン、モルホリン、ジチアン、ジオキサン、トリオキサン、アゼパン、オキサパン、チエパン、アゾカン、オキセカン、チオカン、2,2,6,6ーテトラメチルピペリジン、アジリン、チイレン、ジアジリン、アゼテ、オキセテ、チエテ、ジオキセテ、ジチエテ、ピロール、フラン、チオフェン、フォスフォール、シロレ、アルソール、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピラゾリン、オキサゾール、オキサゾリン、イソキサゾール、イソキサゾリン、チアゾール、チアゾリン、イソチアゾール、イソチアゾリン、トリアゾール、ジチアゾール、フラザン、オキサジアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、ピリジン、ピラン、チオピラン、ジアジン、オキサジン、チアジン、ダイオキシン、トリアジン、テトラジン、アゼピン、オキセピン、チエピン、ジアゼピン、チアゼピン、アゾシン、フタロシアニン、ポルフィリン、テトラベンゾポルフィリン、テトラアゾポルフィリン、および、これら化合物の金属錯体、および、これら化合物の水素原子がハロゲノ基群、ニトロ基群、スルホニル基群に置換された化合物のいずれか等がある。
【0029】
本発明におけるキャリア0104の別の具体例としては、(NRmnで表されるアンモニウム塩がある。ここでmおよびnは自然数であり、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、炭素数5以上のアルキル基、炭素数5以上ののアルケニル基、フェニル基、ベンジル基、炭素数7以上のアリル基、および、これらの基の少なくとも一つの水素原子がハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基、スルホ基のいずれかで置換されたもののいずれか、またはこれらの組み合わせで表される。Xは、F、Cl、Br、I、OH、Cr、IO、CHCOO、HCOO、N、CCOO、(CFSON、CFSO、CHSO、HSO、FSO、HS、CHSO、CHSO、NHSO、BH、B(CHCHCHCH、BF、B(C、CN、SCN、CS、HNO、HNO、PF、SbF、P、ClO、IO、ReOのいずれかで表される。
【0030】
本発明におけるキャリア0104のさらに別の具体例としては、Aで表される物質がある。ここでmおよびnは自然数であり、Aは1−アルキル−3−メチルイミダゾリウム、1−アルキルピリジニウム、N−メチル−N−アルキルピロリジニウム、ピロリジニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属のいずれかであり、Xは、F、Cl、Br、I、OH、Cr、IO、CHCOO、HCOO、N、CCOO、(CFSON、CFSO、CHSO、HSO、FSO、HS、CHSO、CHSO、NHSO、BH、B(CHCHCHCH、BF、B(C、CN、SCN、CS、HNO、HNO、PF、SbF、P、ClO、IO、ReOのいずれかで表される。
【0031】
以下に、第1実施形態の具体的な実施例とその試験結果を示す。
【0032】
(正極)正極触媒、および集電体として、白金薄膜(約1cm)を用いた。(負極)集電体となるニッケル網に、負極活物質として金属マグネシウム粉末を、プレス機を用いて平板状にプレス成形した。(電解質)溶媒として非水系のジメチルスルホキシドを用い、これにキャリアとしてアンモニウム塩であるテトラブチルアンモニウム・ヘキサフルオロフォスファートを溶解した。キャリア濃度は0.1Mとした。アニオン交換膜には、AMI−7001(Membrane International Inc.(USA))を用いた。
【0033】
ポリプロピレン円筒容器内にキャリアを溶解した溶媒10mlを添加し、正極と負極を浸漬した。正極と負極との間にアニオン交換膜を設置し、正極、負極間のカチオンの移動を阻害した。正極には乾燥空気(HO<5ppm)を0.05立方フィート/時にてポリテトラフルオロエチレンチューブにより供給した。負極には乾燥窒素を0.05立方フィート/時にてポリテトラフルオロエチレンチューブにより供給した。
【0034】
製作した電池の開放電圧を測定したところ、測定開始時は1.8Vであった電圧が、測定から30分程度で2.2V程度まで上昇した。この状態で30μAの放電を行ったところ、放電開始から約30分は1.2V程度の電圧を維持したが、その後、徐々に電圧が低下し、約50分後には0.8V程度となった。その後、放電電流を10 μAとして放電を継続したところ、約0.7Vの電圧を48時間以上維持した。
【0035】
放電終了後、負極の表面には黒い斑点が多数観察された。エネルギー分散型X線分光法にて、負極表面に存在する元素の特定を行ったところ、マグネシウムの他に、元素比で25%程度の酸素の存在が確認された。実験に使用していない金属マグネシウムでは、酸素の存在は元素比3%程度であった。過去の研究により、ジメチルスルホキシドとテトラブチルアンモニウム・ヘキサフルオロフォスファートとの混合液においては、OとOとの酸化還元反応が可逆的に進行することが知られている(C.O.Laoire et al.J.Phys.Chem.C(114),9178−9186,2010)。電解質中のアニオンには、Oの他にP、F、およびアニオン交換膜のカウンターアニオンClがアニオン中の元素として存在するが、負極におけるこれらの元素比は、それぞれ1.7%(P)、2.1%(F)、0.2%(Cl)であった。これらの結果より、本電池では正極において発生したOが正極に移動し、正極においてマグネシウムと反応して酸化マグネシウムが生成されたものと考えられる。また、放電開始直後に見られた1.2V程度の比較的高い電圧は、電解質中に微量溶解していた空気中の水分が反応したものであり、この反応が終了した後、OからOへの還元反応が正極において起こったものと考えられる。
【0036】
これらの反応をまとめると、各電極では以下のような反応が起こったことが予想される。ただし、実際の反応は複雑であり、これ以外にも様々な反応が起こった可能性がある。右向きの反応が放電時のもの、左向きの反応が充電時のものである。
<放電直後>
(化1)
正極 O2(g) +2H2O + 4e ←→ 4OH-(aq)
負極 Mg(s) ←→ Mg2+ + 2e
全反応 2Mg(s) + O2(g) + 2H2O ←→2Mg(OH)2
<一定時間経過後>
(化2)
正極 O2(g) +e ←→ O2-
負極 Mg(s) ←→ Mg2+ + 2e
全反応 Mg(s) + 1/2O2(g) ←→ MgO
このように、本発明においては、電解質中を移動するアニオンは、酸素イオンまたは活性酸素種であるが、電解質中が少量の水分を含んでいる場合、OHが電解質中を移動することもあり得る。
【0037】
(第2実施形態)本発明の第2実施形態の構成を図2に示す。なお、図2は本発明の第2実施形態の構成の断面を示す図であり、各部は紙面と垂直方向に奥行きを持つ。本発明の第2実施形態は、負極活物質0101と負極集電体0102とを備える負極と、正極触媒0106触媒と正極集電体0107とを備える正極と、非水系溶媒0103と高分子材料0201とから構成されるアニオン交換ゲル0202とを有する電解質とを備える。正極、負極、および電解質は、ケース0108に格納されているが、正極側のみ外部の酸素を取り込むために外部に露出している。高分子材料0201は、酸素イオンO2−、または活性酸素種O、O2−、O、HOのいずれかの輸送を行う機能を有する。高分子材料0201には、キャリア0104のカチオン部が、主鎖または側鎖に固定されたものである。
【0038】
以下、放電過程での反応について説明する。まず正極触媒0106に酸素が供給される。正極と電解質との界面において、酸素分子、電子および正極触媒0106の境界面が形成される。この境界面において、酸素分子が正極集電体0107から来る電子によって還元され、酸素イオンまたは活性酸素種が生成される。生成された酸素イオンまたは活性酸素種は、高分子材料0201の主鎖または側鎖に固定されたキャリア0104のカチオン部を経由して電解質中を負極側へ移動し、負極へ到達する。負極と電解質との界面において、酸素イオンまたは活性酸素種、電子および負極活物質0101の境界面が形成される。この境界面において、酸素イオンまたは活性酸素種は負極活物質0101と反応して酸化物が生成され、電子が放出される。放出された電子は負極集電体0102に移動し、外部回路を経由して正極集電体0107の集電体に移動する。充電過程ではこれと逆の反応が起こる。
【0039】
アニオン交換ゲル0202が無い場合、放電過程においては、負極活物質0101が酸化されて生成されたカチオンが、正極から負極へ移動し、正極において、酸素イオンまたは活性酸素種と反応し、負極活物質0101の酸化物が生成される場合がある。また充電過程においては、これと逆の反応が起こる場合がある。このようなカチオンの反応は可逆であるとは限らず、これを抑制することで、サイクル特性を向上させることができる。本発明においてはアニオン交換ゲル0202の存在により、カチオンの移動が阻害されるために、このような反応は起こらず、酸素イオンまたは活性酸素種のみが電解質中を移動するため、サイクル特性に優れた電池となる。
【0040】
なお、電解質に含まれるアニオン交換ゲル0202は、非水系溶媒0103を含まず、高分子材料0201のみから構成されるものであってもよい。すなわち、電解質は、固体電解質であってもよい。
【0041】
非水系溶媒0103として疎水性を示すものを用いることで、正極側に少量の水分が存在する場合でも、負極活物質0101と水との反応が抑制され、自己放電を抑えることができる。特に、空気中の水分が正極を通って電解質中に侵入し、負極活物質0101と反応することを防止できるために有用である。例えば、アニオン交換ゲル0202に含まれる非水系溶媒0103に、疎水性を示す溶媒を用いることで、負極活物質0101の水との反応が抑制され、自己放電を抑えることができる。
【0042】
(第3実施形態)本発明の第3実施形態の構成を図3に示す。なお、図3は本発明の第3実施形態の構成の断面を示す図であり、各部は紙面と垂直方向に奥行きを持つ。本発明の第3実施形態は、負極活物質0101と負極集電体0102とを備える負極と、正極触媒0106と正極集電体0107とを備える正極と、非水系溶媒0103、キャリア0104、および、非水系溶媒0103と高分子材料0201とから構成されるアニオン交換ゲル0202とを有する電解質とを備える。正極、負極、および電解質は、ケース0108に格納されているが、正極側のみ外部の酸素を取り込むために外部に露出している。高分子材料0201は、酸素イオンO2−、または活性酸素種O、O2−、O、HOのいずれかの輸送を行う機能を有する。アニオン交換ゲル0202は、負極の電解質側を覆うように存在する。
【0043】
以下、放電過程での反応について説明する。まず正極触媒0106に酸素が供給される。電解質中のキャリア0104は正極内に一部浸透しており、正極内において、酸素分子、電子および正極触媒0106の境界面が形成される。この境界面において、酸素分子が正極集電体0107から来る電子によって還元され、酸素イオンまたは活性酸素種が生成される。生成された酸素イオンまたは活性酸素種はキャリア0104と会合し、キャリア0104とともに電解質中を負極側へ移動し、アニオン交換ゲル0202に到達する。アニオン交換ゲル0202において、酸素イオンまたは活性酸素種はキャリア0104から離れ、アニオン交換ゲル0202内を負極側へ移動し、負極へ到達する。負極とアニオン交換ゲル0202との界面において、酸素イオンまたは活性酸素種、電子および負極活物質0101の境界面が形成される。この境界面において、酸素イオンまたは活性酸素種は負極活物質0101と反応して酸化物が生成され、電子が放出される。放出された電子は負極集電体0102に移動し、外部回路を経由して正極集電体0107の集電体に移動する。充電過程ではこれと逆の反応が起こる。キャリア0104を含む非水系溶媒0103における酸素イオンまたは活性酸素種の移動は、特定のキャリア0104に会合して移動するほか、キャリア0104から別のキャリア0104へと移動することによっても起こる。
【0044】
アニオン交換ゲル0202が無い場合、放電過程においては、負極活物質0101が酸化されて生成されたカチオンが、正極から負極へ移動し、正極において、酸素イオンまたは活性酸素種と反応し、負極活物質0101の酸化物が生成される場合がある。また充電過程においては、これと逆の反応が起こる場合がある。このようなカチオンの反応は可逆であるとは限らず、これを抑制することで、サイクル特性を向上させることができる。本発明においてはアニオン交換ゲル0202の存在により、カチオンの移動が阻害されるために、このような反応は起こらず、酸素イオンまたは活性酸素種のみが電解質中を移動するため、サイクル特性に優れた電池となる。
【0045】
アニオン交換ゲル0202に疎水性物質を混合することで、正極側に少量の水分が存在する場合でも、負極活物質0101と水との反応が抑制され、自己放電を抑えることができる。特に、空気中の水分が正極を通って電解質中に侵入し、負極活物質0101と反応することを防止できるために有用である。例えば、アニオン交換ゲル0202に含まれる非水系溶媒0103に、疎水性を示す溶媒を用いることで、負極活物質0101の水との反応が抑制され、自己放電を抑えることができる。
【0046】
第3実施形態においては、電解質は、キャリア0104が溶解した非水系溶媒0103、および、非水系溶媒0103と高分子材料0201とから構成されるアニオン交換ゲル0202の2種類から構成される。本発明ではこのように、異なる材料、溶媒、構成を有する電解質が多層になっていてもよく、また、異なる材料、溶媒、構成を有する電解質が混合したものであってもよい。この場合、少なくとも一種の電解質がアニオン交換機能を有している。
【0047】
なお、第3実施形態においては、負極の電解質側は、アニオン交換ゲル0202により覆われているが、この部分は、非水系溶媒0103を含まず、高分子材料0201のみから構成されるものであってもよい。すなわち、負極の電解質側が、固体電解質で覆われていてもよい。
【0048】
負極活物質0101には、酸化物の還元を促進する材料を混合することで、充電時の還元反応が促進され、サイクル特性に優れた電池となる。負極活物質0101にマグネシウムを用いる場合、マグネシウム中に安定なラジカル骨格を有する化合物を混合すると、酸化マグネシウムからマグネシウムと酸素とへの分離が促進され、充電効率が促進される。安定なラジカル骨格としては、例えば、ニトロキシルラジカルを有する骨格、オキシラジカルを有する骨格、窒素ラジカルを有する骨格、硫黄ラジカルを有する骨格、炭素ラジカルを有す る骨格及びホウ素ラジカルを有する骨格からなる群より選ばれたものが好ましい。負極活物質0101にリチウムを用いる場合、C、Mn、MnO、Pt、Au、PtAu1−x、La0.8Sr0.2MnO、Fe、NiO、Fe、Co、CuO、CoFe等の触媒を負極に混合することで、リチウム酸化物の還元が促進され、充電効率が促進される。
【0049】
正極における活物質は酸素分子であるが、酸素分子の酸化還元反応を促進する触媒を用いることで、サイクル特性に優れた高い電池となる。特に、酸素分子と活性酸素種Oとの酸化還元反応を促進する正極触媒0106の例としては、白金、グラッシーカーボン等がある。
【符号の説明】
【0050】
0101 負極活物質
0102 負極集電体
0103 非水系溶媒
0104 キャリア
0105 アニオン交換膜
0106 正極触媒
0107 正極集電体
0108 ケース
0201 高分子材料
0202 アニオン交換ゲル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素分子を活物質とする正極と、
負極活物質を含む負極と、
酸素原子を含有するアニオンを輸送し、カチオンの移動を阻害する、アニオン交換機能を有する高分子材料を有する電解質と
を有することを特徴とする、空気電池。
【請求項2】
前記高分子材料が、O2−、O、O2−、O、HOのいずれかのアニオンの交換機能を有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の空気電池。
【請求項3】
前記正極、および前記負極の一方もしくは両方が、繰り返し酸化還元反応を行えることを特徴とする、請求項1または2に記載の空気電池。
【請求項4】
前記正極と前記負極との接触を防止し、イオンの伝導が可能なセパレーター層を有することを特徴とする、請求項1から3に記載の空気電池。
【請求項5】
前記電解質が、酸素原子を含有するアニオンを輸送する分子であるキャリアを有することを特徴とする、請求項1から4に記載の空気電池。
【請求項6】
前記キャリアが、O2−、O、O2−、O、HOのいずれかのアニオンを輸送することを特徴とする、請求項5に記載の空気電池。
【請求項7】
前記電解質の一部もしくは全体が、疎水性物質を有することを特徴とする、請求項1から6に記載の空気電池。
【請求項8】
前記負極、および前記電解質のうち少なくともいずれか一方が、前記負極活物質の酸化もしくは還元反応を促進する触媒を有することを特徴とする、請求項1から7に記載の空気電池。
【請求項9】
前記正極、および前記電解質のうち少なくともいずれか一方が、酸素分子の酸化もしくは還元反応を促進する触媒を有することを特徴とする、請求項1から8に記載の空気電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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